[スコール&クライヴ]煙硝と炎心
クライヴ in DFF(013)
水膜の張った大地を蹴る。
散る水飛沫が足を取ることはなく、それはどこまでも清廉だった。
文字通り、汚れなどないその水を蹴散らすように踏みながら、走る。
出方を待つほど、こちらは悠長ではなかった。
読みは戦いながら見れば良い。
一歩でも、一手でも、先を取った方が、命の凌ぎ合いにおいて、優位を得る権利を掴み取る。
無論、それも確率論のことであって、絶対的な方程式など戦場にありはしない。
こちらが踏み込むと同時に、あちらも走り出していた。
真正面から挑んでくるか、或いはどこかで軌道を反らすか。
警戒したが、海に似た蒼の瞳は、真っ直ぐにクライヴを睨んでいる。
引き結んだ唇が、自分と同じことを考えているのが判った。
ならば、より早く、より鋭く、最初の一手を掴む。
手にした剣を両手持ちに掴めば、相手もその重みを読み取って、肩に担いだ風変りな剣を握った。
やや下段から振り上げた剣を、上段から打ち下ろした剣が噛む。
分厚く重い金属がぶつかり合う音が響いた。
「ぬぅ……っ!」
「……!」
クライヴが唇を噛めば、相手も苦々しい顔で睨んだ。
刃越しに見る顔は若い。
濃茶色の髪、蒼灰の瞳、眉間に走る刀傷。
その手に握られた剣は、クライヴには全く初めてみる形をしている。
それがどんな武器なのか、仔細は一切伝えられておらず、他の者曰く「戦ってみるのが一番よく判るだろ」とのこと。
実際その通りで、理屈説明を並べられるよりも、こうして直に交えてみる方が判り易い。
噛み合う銀刃は、一見すると薄くて容易く折れそうだが、クライヴの剛剣でもびくともしない。
ただの鋼じゃない、と知るにはそれで十分だった。
(それなら!)
クライヴの右腕に力とエーテルが流れ込む。
柄を握る手を媒介にして、炎の力が剣の切っ先まで一気に走った。
炎の剣を縦横無尽に振り薙いで、銀の刃を奥へと押していく。
蒼灰色の瞳が苦いものを浮かばせて、ち、と舌打ちが聞こえた。
ばちり、と稲光が至近距離で光る。
咄嗟に体を後ろへ飛ばせば、落雷がその軌道を追った。
(そうだ、この世界は───魔法は隠すものじゃない)
この奇妙な世界で目を覚ましてから、驚いたことのひとつ。
誰も魔法を奇妙な目で見ないし、奇跡のように扱わないし、それを使うことを隠さない。
戦術のひとつとして隠し玉にすることはあっても、手段として惜しむことはない。
稲妻の隙を縫って、若者は再びクライヴへと肉薄する。
クライヴは下がる足を止めた。
迎撃に構えるクライヴを、若者も理解して、強く地を蹴る。
「おおぉっ!」
「ぬぅんっ!」
横腹目掛けて振り抜く銀刃を、クライヴの剣が十字に受け止める。
ぎち、と鍔迫り合いが始まった。
体格はクライヴの方が上だ。
身長も、それ程大きく離れている訳ではないが、クライヴに分がある。
単純な力勝負であるならば、細身のシルエットをした若者に負けるつもりはなかった。
力と体重を乗せて、噛み合う剣を押し退けようと試みる。
────が、若者の瞳の奥で鋭い光が閃いた瞬間、ガアン!!と強烈な衝撃がクライヴの剣を弾き上げた。
「!?」
手許で爆発が起きた。
そう思う程に、襲った衝撃は凄まじかったのだ。
剣を握っていた両手が痺れている。
その隙を逃すほど、敵は甘くない。
クライヴの剣を跳ね上げるに振るった銀が、刃を返す瞬間、鋭く光った。
考えるよりも先に、クライヴの躰が動く。
突き出した左手が暴風を作り出し、若者の体を正面から撃ち据えた。
細身の体が吹き飛ばされ────若者は中空でぐるりと猫のように回転すると、難なく地面に着地する。
「はっ…、はっ……!」
「は……はぁ……っ!」
打ち合いは数合、それでも二人が息を切らせるには十分だった。
互いに相手の手を知らずに相対したのだから当然だ。
一手先に何が飛び出すか、全神経を集中させながら己の有効打を探していたのだから。
乱れた呼吸を整えた方から、或いはそれを待たずに飲み込んだ方から、次が始まる。
───と、どちらも思ったが、それもこの場にいる者が二人であればの話。
「よーし、そこまで!」
「これ以上は怪我しそうだからなー」
響いた快活な声と、やれやれとした声と。
それを受けた蒼灰色が、幾分か不満そうな様子を見せながらも、銀の刃は下ろされた。
クライヴも同じく、握り直していた剣を見て、それを背中へと納める。
金髪の少年が尻尾を揺らしながら若者の下へ駆け寄る。
気楽な様子で話しかける少年に、若者は言葉少なに応じていた。
そしてクライヴの下へは、快活とした声の主───バッツが近付いて来る。
「お疲れ。すごかったな、クライヴ」
「ありがとう。しかし、どうにも体が今一つ動きが鈍いな……」
「召喚されたばっかりの奴は、大体そうなんだ。しばらくしたら馴染んでくるよ、多分だけど」
保証はないけど、と付け足しつつ、経験則を語るバッツに、そうか、とクライヴは頷いた。
水膜を踏む音が近付いてきて、そちらを見れば、若者と少年がいる。
少年───ジタンは興味津々な様子で、クライヴの顔を見上げてきた。
「剣に魔法に。こりゃ嬉しい戦力だな」
「役に立てるなら良いのだが」
「立つ立つ。うちは結構ジリ貧な状態なんでね。あんたみたいな奴が増えてくれるのは嬉しいよ。な、スコール」
「……そうだな」
ジタンに話を振られて、若者───スコールが短く返す。
その手には、未だ風変りな形の剣が握られていた。
クライヴもスコールも、共に怪我らしい怪我はない筈だが、バッツが「念の為な」と言ってケアルを唱えた。
無手から生み出される魔法の力と言うのは、クライヴにはまだ見慣れない。
それでも効果は確かなもので、薄く残っていた右手の痺れた感触が消えていく。
「すまない。ありがとう」
「お安い御用ってね。さ、運動もしたんだし、中に入って何か摘まもうぜ」
「今日のデザートは桃だ。昨日、良い塩梅のが持って帰れたからな」
バッツとジタンに促され、クライヴは彼らについて行く形で、佇む館に足を踏み入れる。
そこが、この闘争の世界に召喚された、秩序の戦士たちが構える拠点であった。
屋敷にはこれまで十人の戦士たちが生活を共にしており、クライヴは最近そこに加わった新参である。
部屋はいつの間にかぽつりと一部屋増えていて、そこがクライヴのものとして宛がわれた。
生活については、まだまだクライヴには見慣れないものが多く、落ち着かないことも多い。
しかし、秩序の戦士たちの人柄や空気感もあって、取り敢えずは寝起きにストレスはなく済んでいる。
リビングダイニングに入ると、ジタンとバッツはそのまま部屋奥のキッチンへ入って行った。
「すぐ準備するから待ってろよー」と言われたので、取り敢えずどこに座ろうかと室内を見渡していて、ふと、ソファへと向かう若者が目に留まる。
「スコール。少し良いか?」
「……なんだ」
声をかけると、スコールは訝し気に顔を上げた。
「さっきの特訓の時のことなんだが、気になることがあって。随分、変わった形の武器を使っているんだな」
「……まあ、そうだな」
「一度、かなり強い衝撃を食らった気がしたんだが、あれはどうやってやったんだ?エーテルの匂いもしなかったから、魔法ではないようだが……」
鍔迫り合いの最中に襲った、あの凄まじい衝撃。
それなりにショックの類には強い方だと自覚しているクライヴだが、その手を痺れさせる程のものだった。
あれが至近距離で打った魔法───例えば爆発系の魔法ならば、直前直後にクライヴはエーテルの匂いを感じている筈だ。
それが一切なかったから、恐らくあれは魔法ではない、とは思うのだが、あとは全く判らない。
クライヴの問いに、スコールは口元に指を当てて、考える仕草を取る。
じっと見つめる蒼灰色は、クライヴの方を注意深く観察していた。
「……トリガーを引いた」
「トリガー?」
「俺の武器は、構造が特殊で、柄と刃の中間の所に、弾薬を仕込むことが出来る。その火薬を爆発させた」
「火薬を爆発?それは、随分危ない手段なんじゃないか?」
火薬と言ったら、固い地盤を掘削する際に使われる、爆弾の材料だ。
そんなものが武器に、それも手許に近い場所にあるとは、クライヴには信じがたい構造である。
スコールはまた少し考える時間を取った後、
「あんたの世界に、銃はあるか?」
「銃……と、言うと……む……」
クライヴは腕を組んで考え込んだ。
どうもこの世界から目覚めてから、色々な記憶が曖昧で、自分がいた世界のことを具体的に思い出すことが難しい。
なんとなく“こうだった”“こうではなかった”と言う感覚を読むのが精一杯である。
クライヴの反応が鈍いことから、凡そのところを感じ取ったか、スコールが続ける。
「大砲は?」
「それは、判る」
「それをずっと小さくして、携帯できる大きさにしたもの。弾を込めて、火薬の爆発力をエネルギーにして、発射させるところは同じ。威力と役割は違うが……そんな所か」
「ふむ……いまいちはっきりとは判らないが、君の世界にはそう言う道具があるんだな」
一先ず納得した形でクライヴが頷くと、「まあな」とスコールは言った。
「俺の武器は、剣と銃を融合させたようなものだ。でも砲身……弾を打ち出す構造はないから、点火しても弾は発射されない。弾倉で炸裂したエネルギーが、刀身を伝って、武器の威力を上げることに繋がる」
「それは……使い手の方にも、かなりの衝撃が来るんじゃないのか?」
爆発のエネルギーと言うのは、都合の良い方にだけ流れるものではない。
それとも、彼の世界には、そうした衝撃のエネルギーもコントロールする方法があるのだろうか。
訊ねてみると、スコールは自分の右手を見下ろして、
「まあ……衝撃は、それなりに来る。振動による摩擦も強いし」
「グローブはその為に?」
「そんな所だ。多分」
多分?と訊き返そうとして、クライヴは思い出す。
スコールも、自分程ではないにしろ、元の世界のことについては曖昧なところが多いのだと。
色々と気になることは他にもあるのだが、今これ以上を聞くのも鬱陶しいか。
ジタンやバッツ曰く、スコールはあまり人と話すのが得意ではないのだとか。
クライヴもあまり口が回る性質ではないし、ソファに座したスコールの表情は、聊か堅い。
あまり付きまとうのも良くないな、とクライヴが思った所で、丁度良く弾んだ声が聞こえてきた。
「お待たせ!よく冷えた桃だぞ」
「スコールもクライヴもこっち来いよ。皆で食おうぜ」
ガラスの器に瑞々しい桃を乗せて、ジタンとバッツがキッチンから出てきた。
来い来いとダイニングテーブルの方へ呼ぶ二人に、クライヴは頃合いとしてそちらへ向かう。
「桃か。久しぶりに食べる気がするな」
「お前の世界って、果物って多い?」
「どうだろう。あまり手に入らなかったような気はするが」
「じゃあいっぱい食えよ。おーい、スコール!スコールも来いって!」
二人が賑やかに名前を呼ぶからか、スコールは深々と溜息を吐く。
希望を叶えねば終わらないから、と言わんばかりの表情で、渋々に彼はソファを立った。
ジタンがスコールの前に皿を持って行き、食べろ食べろとじゃれている。
スコールは判り易くそれを鬱陶しがっていたが、差し出された桃は断らなかった。
眉間に皺を浮かべて、あれは美味いと思っているのだろうか、とクライヴが観察していると、
「なあ、クライヴ。スコールと何の話してたんだ?」
尋ねてきたのはバッツだ。
クライヴは、桃に楊枝を差しながら、
「何と言うこともないんだが……さっきの特訓で気になったことを、少しな」
「ふぅん。スコール、ちゃんと答えてくれた?」
「ああ。しかし、俺の方がどうも知識が足りないようで、少し困らせたかも知れない」
「ん~……ま、それは大丈夫だろ。この世界に召喚された奴らは、皆それぞれ常識も違うからさ。スコールもその辺は判ってるし、ちょっとやそっとじゃ気を悪くはしないさ」
「だと良いんだが」
「大丈夫、大丈夫。結構優しいから」
ひらひらと手を振って、気にするな、とバッツは笑う。
ならば今はその言葉を信じよう、とクライヴも頷いた。
クライヴがちらと視線を流せば、じゃれるジタンをあしらいながら、桃を食べているスコールがいる。
勢いよく食べていくジタンやバッツに比べると、その所作は大人しい。
賑やかな二人に挟まれて、溜息を吐いてあしらいながらも、突き放す所まで行かない様子が、クライヴにはなんとも微笑ましく見えるのだった。
『DFFもしくはDdFF(012)の世界観で、スコールとクライヴが話をしている様子』のリクエストを頂きました。
あんまりはっきりと本文中に書きませんでしたが、DFF=013の戦いとしています。
スコールとクライヴが戦ったらどうなるかなと思ったりして、想像するの楽しかったです。
クライヴは落ち着いてるので33歳だと思います。最年長の異説新人。
召喚・目覚めたての頃で、色々記憶がまだ曖昧。台所とか見たらびっくりしそう。うちのDFFでは、戦士たちは結構整った環境で生活できているので……
スコールの方は、新たな仲間と言うことで、人見知りが発動しています。兄さんはその辺りの空気を読んで、会話はするけど適当な距離を置いてくれそうと思っている。
スコールは自分のことを喋るのは苦手だけど、武器の話なら出来ると思っています。武器オタクな節もあるし。