[16/トルガル]ぜったい、幸せにする
お題配布サイト 【シュレディンガーの猫】
ずっとずっと、大好きなひとたちがいる。
ずっとずっと、離れ離れになっていた時間がある。
だから、また皆と逢えたことが、こんなにうれしい。
水の上に作られた新しい巣は、前よりも飛び抜けて風通しが良くて、時々寒い。
それでも日差しが届く場所は暖かいし、風の通り道がある場所は涼しくて、夜は小波の音が揺り籠のよう。
昼間は子供たちが元気に跳ねる足音が聞こえて、夜は焚き木を翳した人たちが静かに歩く音がする。
前の巣はめちゃくちゃになってしまって、乾いた黒い砂土に埋もれてしまって、とても悲しかった。
だから今度の巣は、大きくて広い水の中に作ったらしい。
外への出入りが少し不便だけれど、だから新しい巣は、皆にとって安心できる場所になったんだろう。
昼寝から目が覚めて、ご飯を食べて、少し散歩をする。
お気に入りの場所をゆっくりのんびり、変わった所はないか、子供たちが危ない所で遊んでいないか、パトロール。
顔を見付けると遊んで遊んでとじゃれついて来る子供がいて、背中に乗ってきたり、顔を触られたり。
時々、勢い余って毛を引っ張られることもあるけれど、皆きちんと良い子だ。
満足するまでたっぷり体を撫でさせてやってから、お返しにぺろりと丸い鼻を舐めてやると、きゃらきゃら笑う声がする。
皆、今日も良い子で元気に過ごしている。
剣を持った人たちが集まっている所を通りがかると、頭に布を巻いている人と目が合った。
背の高いテーブルの向こうから、「お、見回りか?」と声をかけられて、そうだよと応える。
此処にいる人たちはいつも忙しそうだから、邪魔にならないように周りをぐるっと歩いて、上に伸びている道へ進む。
道の途中にあるドアの向こうからは、ツンとした匂いが流れて来る。
此処は怪我をした人や、病気になった人が休むところだ。
外から帰ってきた人が怪我をしていると、皆ここに入って行って、手当てをして貰って出て来る。
大好きなひとも何度か此処に運び込まれた。
それから、次の日には部屋から出て来て、心配かけたな、と言って頭を撫でてくれる。
でも、時々、此処に運ばれて行った人が、それきり外に出て来なかったり、夜中に何人かの人が動かない人を抱えて、巣の外へと運んで行くのを見た事があった。
その時は泣いている人がいて、大好きなひとも苦しそうな顔をしていたから、きっと此処は、嬉しい事も、悲しい事も、同じ位に起きる場所なんだろう。
自分は、中に入らないようにと言われているから、どういう事をしているのか具体的なことは分からないけれど、タルヤやロドリグが朝から晩まで頑張っているのは知っている。
ああ、そうだ、此処で立ち止まっていてはいけない。
タルヤに見つかったら、また泡いっぱいの水に濡らされる。
ドアが開く気配がしたから、駆け足でその場を離れることにした。
ミドが作った穴の中を見て、沢山の草花が植えられている所を見て、勉強している子供たちの後ろを通る。
その向こうに伸びている道を通っていると、カンカン、カンカン、と甲高い音が聞こえて来た。
突き当たりを曲がって屋根の下に入れば、すぐ其処でブラックソーンが槌を振っている。
新しい巣を作った時、皆が苦心して作った炉は今日も火を焚いているから、此処はいつでも少し暑い。
ブラックソーンの後ろを通り過ぎた時、嗅ぎ慣れた匂いが風に乗ってきた。
傍の階段を上がった先にある扉が開いて、三人の大好きなひとたちが其処から出て来る。
「やっぱり、一度マーサの宿で詳しい情報を集めてからの方が良さそうね」
「そうだね。まずはストラスを飛ばして、それから……」
「俺たちも今から出よう、夕方には着ける筈だ。モルボル種は早い内に手を打たないと、被害が広がる」
階段を下りて来る三人の表情は、真剣そのもの。
その中で一番きれいな青い目が、此方を見た。
「行くぞ、トルガル。魔物退治だ」
どうやら、皆で外に出て、危ない魔物を退治にしに行くらしい。
勿論ついて行くに決まっている。
がらがらと音を立てる昇降機が上り下りをしている間に、上から下の足場に飛び降りた。
水面に一番近い其処では、大工の人たちがギィギィと鋸を引いて、沢山の木材を切っている。
その反対側、桟橋の袂には、小舟を橋に結び付けた渡し守のオボルスがぷかぷか煙草を吹かしていた。
昇降機を下りた皆が桟橋にやって来るのを見て、オボルスが重たそうに立ち上がる。
「どっち方面だい」
「ロザリアに」
あいよ、と言ってオボルスが手を出した。
ちゃりん、と金貨が其処に置かれて、オボルスは舟を動かす準備を始める。
その間に皆が小舟に乗って、自分も残った隙間に乗り込んだ。
今日の湖は強い風がないから、舟はオボルスの舵の通りに進んで行く。
穏やかに水面を走って行く舟の上で、皆は真剣な顔で話をしていた。
「被害報告は、今の所はモルボルだけだと言うが……モルボルは単体でも影響が大きいからな。後で周辺の環境調査も必要になるか」
「水源の近くにいると言う話だったね。水質に問題が起きていないと良いんだけど」
「あのあたりはエーテル溜まりも多いから心配ね。異常が起きてしまうと、簡単には元に戻せないし」
向かう先で何が必要になるのか、何処に援けを求めれば良いのか、皆はいつも一所懸命に考えている。
皆で顔を合わせる時、こうやって難しい顔をしている時は多い。
昔はもっと楽しそうに、明るく笑っていたことが多かったと思う。
あの頃に比べると、皆とても大きくなって───とくにジョシュアとか───、雰囲気も変わった。
けれど、おやつをくれる時の声や、毛を撫でてくれる時の優しい手付きは変わらない。
見た目がどんなに変わっても、巣の場所が変わっても、そう言う所が変わらないでいてくれることが嬉しい。
────ずっとずっと、もう逢えないと思っていた。
だって皆、何処に行ってしまったのか、何も分からなかったから。
ばらばらに崩れた沢山の瓦礫の中で、一所懸命に匂いを探して、その姿を探し回ったけれど、何処にもいなくて悲しかった。
巣に戻ったら待っていてくれる人がいた筈だと思って帰って見たら、其処は知らない匂いが沢山沢山渦巻いていて、待っていてくれた人もいなかった。
大好きなひとがいつも使っていたものを探して、集めて、いつ帰って来ても良いように、秘密の巣に運んで守っていたけれど、其処にも帰って来なかった。
その間に春が過ぎて、夏が過ぎて、秋が終わって、冬が来た。
寂しくて悲しくて堪らなかったけれど、腹が減るから食べるものを探さなくちゃいけなかった。
その内、生きていくことに一所懸命になっていくしか出来なくなって、大好きな匂いを探しに行く暇もなくなった。
ひとりで生きていくのは難しかった。
だから、ずっとずっと昔にそうしていたように、群れの中に入って生き延びた。
群れの仲間たちは、他所から来た自分を受け入れてくれたくらいだから、良い仲間だったんだろうと思う。
でも、大好きなひとたちを忘れることは出来なくて、もう逢えない寂しさがずっとずっと消えなかった。
あの人にあったのは、そんな時だっただろうか。
あまりよく覚えていないのは、あの頃はあの頃で、群れで生きることに一所懸命だったからかも知れない。
群れを離れて、あの人について行った。
知らない匂いのする巣の中で暮らすようになった。
それから、あの人と一緒に外に出て、獲物を狩ったり、何かを探したり。
ご飯をくれる人がいて、安心して眠れる寝床があって、その巣はとても居心地が良かった。
けれど、大好きなひとたちがいなかったことだけが、やっぱり寂しかった。
────だから今、大好きなひとたちと、また会えたことが嬉しい。
今は難しい顔を突き合わせているひとたちが、時々、ずっとずっと前みたいに笑っている所を見れるのが、嬉しい。
巣から離れた小舟が岸について、皆が船を下りて行くので、自分も岸に飛び移った。
オボルスは「戻ったら合図を寄越してくれ」と言って、舟を巣へと戻しに行く。
それを手を振って見送ってから、皆は歩き出した。
「着いたら、まずはマーサと、ブラッドアクス団から話を聞こう」
「退治に向かえるのは明日になりそうだね」
「イーストプールの人たちは大丈夫かしら」
「それも聞いておきたい所だな。ようやく生活が成り立つようになって来たんだ。混乱が起きていないと良いんだが」
起伏のある丘陵を進む皆の足取りに、迷いはない。
先頭を歩く相棒の横に並ぶと、青い目が此方を見た。
黒い手袋をした手が伸びて来て、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。
「頼りにしているぞ、トルガル」
嬉しい事を言ってくれる。
そんな風に思ってくれるのが嬉しい。
後ろを見れば、ついて来る足がふたつ。
目が合うと笑いかけてくれるのが嬉しい。
大好きなひとたちは、よく難しい顔をしていて、昔のように中々笑ってくれることはない。
けれどいつか、昔みたいに笑ってくれる日が来るように、それまでずっと守って行かなくちゃいけない。
バラバラになったら、誰か一人でも欠けてしまったら、きっと残った人は寂しくて悲しい顔をする。
ようやく会えた時だって、相棒はずっとそうだったんだ。
辛くて苦しくて、泣きたいのに泣けない顔をずっとしていたから心配だった。
またあんな顔をしなくて良いように、誰も離れ離れにならないように、相棒も一緒に皆守って行かなくちゃいけない。
誰かがいなくなると、皆が寂しい。
あの人が遠く遠くに行ってしまって、帰って来なかった時も、沢山の人が悲しんだ。
他にも、古い巣にいた人たちも、沢山沢山、いなくなって寂しくなった。
大好きなひとたちも、沢山沢山、泣いていた。
だから何処にだってついて行く。
誰かがもういなくならなくて良いように。
みんな一緒に、しあわせになる為に。
【一途に思い続けた先へ5つのお題】
5:ぜったい、幸せにする
FF16の癒し、トルガル。一度彼の視点で書いて見たかった。
アップデートで相関図に追加された、各人に対する気持ちの矢印、トルガルがずっと可愛い。
トルガルにとってクライヴは相棒、ジルとジョシュアは保護対象、シドは狩り仲間って言うのが良いですね。
群れの序列はクライヴ一番、自分が二番。仔トルガルの頃からジョシュアのことは「守らなきゃ」って思ってる所が良い。
トルガル、ロザリス城やフェニックスゲートからクライヴの剣や持ち物を探して、あの小島まで泳いで持って行ったんだなあ。
クライヴたちと一緒にいると賢い相棒ですが、傍から見ると犬としても大きすぎるし、野生の頃は人に追い払われたりもしてるんじゃないだろうか。廃構になってしまった砦はともかく、城にはザンブレク軍が常駐していただろうし、結構な無茶をして掻き集めてたんじゃないかなと思う。
それ位にクライヴのことが忘れられなかったんですね。