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2017年12月

[絆]メリークリスマス!

  • 2017/12/25 21:32
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メリークリスマス!
と言う事で絆シリーズで久しぶりにクリスマスを。

[サンタクロースはやってくる?]
[フロム・ディア・サンタクロース 1]
[フロム・ディア・サンタクロース 2]


ラグナの影響もあって、レオンとエルオーネは年中行事を結構楽しく過ごしています。
そんな兄と姉と一緒にいるので、スコールとティーダも、プレゼントやお菓子が貰えるお祭りはとても楽しみにしてる。
サプライズを計画するのは大変だけど、ちびっ子達の喜ぶ顔を見ると、良かったなって思えるお兄ちゃんお姉ちゃんです。

だから時々不意打ちされてビックリする。
そして弟達の成長を実感するんです。

[絆]フロム・ディア・サンタクロース 2

  • 2017/12/25 21:14
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部屋の電気を消して、レオンは一階へと下り、ふう、と息を吐く。

それから食卓テーブルの椅子に置いていた鞄を開けていると、後を追う形でエルオーネも二階から降りてきた。


「レオン、今年もお疲れ様」
「ああ、お疲れ様、エルオーネ」


今年も秘密のミッションを無事に終え、エルオーネはすっきりとした表情だ。
そんな彼女の前に、レオンは鞄から取り出した小さな袋を差し出す。


「エル。メリークリスマス」
「えっ。あっ」


兄の言葉にエルオーネは目を丸くして、その手に握られているものを見た。
レオンの気持ち大きな掌に収まるサイズの小さな紙袋には、確りと『Merry Xmas』の文字。
マスキングテープのデコレーションに、『エルオーネへ』と綴られているのを見て、エルオーネはほんのりと顔を赤らめた。


「あ、ありがとう……もう、そんな年じゃないのに」
「良いだろう、クリスマスなんだから。家の事も、スコール達の事も、いつも見てくれるエルオーネに、サンタクロースからのプレゼントだと思えば良い」
「サンタが来くるのは、小さい子だけだよ。私、もうそんなに子供じゃないのに」
「じゃあ、それは要らない?」
「それとこれとは別!」


受け取った紙袋を、エルオーネはしっかり確保して言った。
そうしてくれると嬉しいよ、とレオンが笑えば、エルオーネはもう、と言って眉尻を下げた。


「開けても良い?」
「ああ。……そんなに大したものじゃないけど、似合うと思うんだ」


レオンのその言葉を聞きながら、エルオーネが小袋を開ける。
中身を取り出してみると、水色の花を携えたヘアピンが入っていた。
シンプルながらも可愛らしいチョイスに、レオンがエルオーネの好みを考えて選んでくれた事がよく判る。

エルオーネは早速ピンを取り出して、前髪を軽く横に流し、ピンで止める。
鏡がないので自分では判らなかったので、見守るレオンに正面から見せてみた。


「どうかな」
「ああ。よく似合ってる」
「ふふ、ありがとう」


良かった、と笑うレオンの反応に、私も良かった、とエルオーネは思う。
似合わなかったりしたら、折角選んでくれたレオンに悪い、と思うからだ。

それからエルオーネは、背に隠すように手に持っていたものを差し出す。


「じゃあ、これ。レオンにクリスマスプレゼント」
「俺に?」


小さな正方形のプレゼントボックスを差し出し、思いも寄らなかった妹の言葉に、レオンは目を丸くした。
どうして、と言う表情で見詰める兄に、エルオーネはくすくすと笑いながら言った。


「スコールとティーダがね、レオンは多分、もうずっとクリスマスプレゼントを貰ってないって言ったら、そんなの可笑しいって。だから自分達で用意して、サンタクロースにお願いして、お兄ちゃんにプレゼント贈るんだって言ってたの」


サンタクロースは一年間を良い子で過ごした子供の下に来るのに、レオンやエルオーネの所に来ないのは可笑しい。
スコールとティーダは真剣にそう考えつつも、サンタクロースは世界中を飛び回る為に、どうしても配り切れない子供も出てしまうのだと考えていた。
嘗てティーダの所にも訪れなかった事もあり、世界中の子供達の数が、彼等の想像をはるかに上回る数である事も手伝って、それは仕方のない事だとも思った。
それなら、サンタクロースが準備出来ない分は自分達が用意して、サンタクロースにお願いし、兄にプレゼントを贈りたいと考えたのである。

エルオーネの言葉を聞いて、レオンの脳裏に、眠り落ちる寸前の弟と妹の会話が浮かぶ。
エルオーネが言った、「お願いを伝えておくから」と言うのは、この事か。

彼等は幼いなりに、一所懸命に考え、準備を頑張った。
プレゼントを選び、今まで貯めたお小遣いを使って必要なものを買い、自分達でラッピングした。
自分達だけで、と言うのは流石に無理があったので、エルオーネも手伝っている。
それでも、殆どの作業を弟達が主導で行った事は間違いなく事実であった。


「だから、受け取らないなんて言わないでね」


そう言って、はい、とエルオーネは改めてプレゼントボックスを差し出す。
よくよく見れば、そのボックスの包装紙には所々に不自然な折り目がついていて、リボンも歪になっている。
名入りのメッセージカードは手書きだし、それがティーダの癖字とスコールの几帳面な字である事を、レオンは直ぐに悟った。

見れば見る程、目頭が熱くなるような気がして、レオンはどんな顔をして良いか判らない。
ただ唇が緩むは堪えられなくて、なんとも顔の締まりがなくなっている気がして、堪らず口元を手で隠した。
しかし、しっかり者の妹にはやはりバレていたようで、ふふ、と楽しそうに笑う声が聞こえる。


「…この年で、サンタクロースに逢えるなんてな」
「凄く可愛いサンタさんでしょ?」
「ああ。全くだ」


こんなに可愛いサンタクロースは、世界中の何処を探しても、他にはいない。
レオンはそう思いながら、プレゼントボックスを受け取った。


「開けても良いか?」
「うん」


弟達が何を贈ってくれたのかが気になって、レオンは我慢が出来なかった。
ソファに座り、きっと頑張って結んだのであろうリボンを解くと、テープ留めの粘着が弱かったのか、箱を包む包装紙がばらっと開いた。
あらら、と苦笑するエルオーネに、レオンも微笑ましさを感じてくすくすと笑う。

箱を開けると、中に入っていたのは、小さな袋が二つと、折り畳まれた画用紙が一枚。
画用紙を開いてみると、『お兄ちゃん レオン へ。メリークリスマス』と言う文字と共に、レオンの似顔絵が入っていた。
恐らく、文字を書いたのはティーダで、絵を描いたのはスコールだろう────いや、所々の塗り方が違う所を見ると、それぞれ分担作業にしたのかも知れない。

その隣に並べられた小さな袋を手に取ると、中に入っていたのは赤いビーズのヘアゴムだった。


「あ、それ。皆で一緒に作った奴なんだ」


レオンが何某かの作業や仕事をしている時、長い髪をよく束ねているのを、スコールは幼い時から見ていた。
その時に使っているヘアゴムは、何処でも安価に売られているシンプルなものばかりだ。
特に執着している訳でもなく、必要であるから使っていただけで、千切ればそれきりのものだったのだが、スコール、ティーダ、エルオーネが揃って手作りしてくれた物なら、無碍には出来ない。

大事に使わなくちゃな、と思いつつ、もう一つの袋を手に取ると、少し感触は違うが、此方もビーズらしき小さな凹凸が感じられる。


「二つも作ったのか」
「え?時間もあまりなかったから、一つだけだったと思うけど……?」
「……?」


エルオーネの反応に、おや、とレオンは首を傾げる。
袋を開けて中身を取り出したレオンは、黄緑色の小さな輪───ビーズの指輪と一緒に出てきた小さなメッセージカードを見て、ああ、と納得した。


「エル。お前宛てだ」
「えっ?」


今度はエルオーネが目を丸くする番だった。
どう言う事、と訊ねて来る妹に、さあ、どう言う事だろう、と推し量るしか出来ない兄はそれだけを言って、淡い緑を基調にしたビーズを手渡した。




皆それぞれサプライズ。
エルオーネが最後まで自分の欲しいものを弟達に言わなかったので、弟達はこっそり頑張りました。

[絆]フロム・ディア・サンタクロース 1

  • 2017/12/25 20:57
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今日のアルバイトは、夜の料理に使う仕込みを終えた所で、終了になった。
シドと旧知の仲と言うマスターから、良いクリスマス・イヴを、と言う挨拶をされ、レオンも頭を下げて店を出る。
常であればもう二時間はレオンの勤務なのだが、この時期に恋人、家族と共に過ごしたいと願う者がいると同じく、この時期に諸々の資金を貯めたいと言う者も少なくない。
普段は少ない人数で回している落ち着いた雰囲気のカフェバーだが、この時期の客は更に多くなる為、スタッフも増やして対応している。
これにより、アルバイトと言う立場ではあるが、殆ど常勤スタッフとなっているレオンは、逆に休みを貰う事が出来ていた。
クリスマスは家族とゆっくり過ごしなさい、と言うマスターの言葉に甘え、明日もレオンは一日休みとなっている。

明日は店に顔を出さないので、今日の内に渡して置くよと、揚げたチキンを土産に貰った。
先日、マスターの手作りジャムを貰ったばかりとレオンは恐縮したのだが、にこにこと人の好い笑顔に推されて受け取った。
骨にリボンをラッピングし、しっかりクリスマス仕様を施されたチキンは、きっとティーダが喜ぶだろう。
ティーダは基本的に揚げ物や味の濃いものが好きなのだ。
スコールはそれ程でもないのだが、美味そうにティーダが食べている所を見ると、少なからず食欲が刺激されるようで、僕も食べたい、とよく便乗する。
エルオーネは最近カロリーが気になるようだが、美味しいものは我慢したくないタイプだから、マスター手製のチキンと聞けば喜ぶに違いない。

店を後にしたレオンは、寒空に家路を急ぎたい気持ちを一旦抑え、バラムの駅へと向かった。
クレイマー夫妻の下を離れ、バラムで兄姉弟だけで暮らすようになって間もなく、折々に訪れるようなったケーキ屋は、今年も盛況していた。
レオンはしっかり前日の内に予約して置いたクリスマスケーキを受け取り、すっかり暗くなった夜道を家へと向かう。
北から海風が吹き付ける海岸の堤防沿いを歩くと、玄関の明かりがとても暖かく感じられる。
玄関扉を開け、「ただいま」と言って、「お帰り!」と声が帰って来るだけで、幸せだと思えた。

玄関で風で乱れた髪を手櫛で直すレオンに、食卓テーブルで課題を広げていたエルオーネが席を立って駆け寄る。


「お疲れ様、レオン。外、寒かった?」
「ああ。今日は風が強いな。明日の朝も冷えそうだ」
「洗濯物、外に出さない方が良いかなあ」
「それが良い。飛んで行ってしまいそうだし。───ほら、ケーキ、買って来たぞ」


手に持っていたケーキボックスを差し出すと、わあ、とくりくりとした丸い瞳が輝いた。


「ありがとう、レオン。スコール、ティーダ、ケーキだよ」
「ケーキ!」
「ケーキー!」


ソファでテレビを見ていた二人が立ち上がってぴょんぴょんと跳ねる。
わーいわーい、と喜ぶ二人に、まだまだ幼い無邪気さを見て、レオンの頬が綻んだ。


「ケーキ食べたい!」
「はいはい。ちょっと待っててね。レオンは、ご飯だよね」
「ああ。残ってるか?」
「ちゃんとあるよ。ティーダ、レオンのご飯を先に用意するから、ケーキのお皿とか出して置いて」
「はーい!」
「スコールは、レオンのご飯に使うお皿ね」
「はい!」


姉の指示に、ティーダとスコールは元気よく返事をして、ぱたぱたとキッチンに駆けて行く。
食器を落としたりしないようにと注意が飛ぶと、揃って「はーい!」と言う声がした。


「よく手伝ってくれるようになったな」
「うん。色々起きたりもするけどね」
「だろうな。お疲れ様。ああ、これ、マスターから皆で食べなさいって」
「えっ、マスターから?今度何かお礼しなきゃ」


チキンの入った袋を差し出すと、エルオーネは弱りつつも嬉しそうな顔でそれを受け取った。
味が染み込んでて美味しいんだよね、と言う妹に、レオンも頷く。

キッチンから、弟達が姉を呼ぶ声がする。
ご飯の用意するね、と言ってキッチンに向かうエルオーネを見送って、レオンは食卓テーブルへ着いた。
傍の窓辺に、母を映す写真立ての傍ら、小さなクリスマスツリーがぴかぴかと光っているのを見付けて、レオンは目を細めた。



レオンが遅い夕食を食べる隣で、妹弟はケーキに舌鼓を売っている。
15cmのホールケーキで買ったクリスマス仕様のそれは、イチゴをふんだんに乗せ、カットオレンジやブルーベリーもあって、彩華やかだった。
美味しい、と言って嬉しそうにケーキを頬張る弟達に、買って良かった、とレオンはいつも思う。
あっと言う間にティーダが食べ終え、エルオーネも食べ終えて、最後にスコールが食べ切った。
レオンは、美味しかったぁ、と笑うスコールの頭をくしゃくしゃと撫でた。

レオンの夕食終わりを待つような形で、三人はテーブルで他愛もない話をしていた。
今日は何があった、こんな事があった、と方向のように繋がる話を、レオンは時折相槌を打ちながらじっと聞く。
そうしている内に時間は過ぎ、スコールとティーダが風呂に入って出た頃には、時計の針は午後10時を差そうとしていた。
湯冷めしない内に寝ちゃいなさい、と言うエルオーネに、二人は何かを言いたげな顔をしていたが、レオンとテエルオーネは何も聞かなかった。
今日と言う日の事を思えば、二人が遅い時間まで起きていたいと思っている事も感じられるが、レオン達にとっては、寝てくれないと困る。


「スコール、ティーダ。そこで寝ちゃったら風邪ひくよ」
「んぅ……」


急かすように言う姉に、スコールが拗ねた表情を浮かべる。
しょうがないなあ、とエルオーネがもう一度ベッドへ促そうと近付くと、小さな手が姉の手を握る。


「…お姉ちゃ……」
「ん?」
「……んぅ……」
「…うん。ちゃんとお願い、伝えておくから」
「……ぜったい」
「うん。絶対」


小声で交わされる姉弟の会話に、レオンは何の話だろう、と首を傾げる。
何か約束でもしていたのだろうか、とレオンがコーヒーを傾けている間に、スコールの瞼は閉じてしまった。
その傍らでは、ティーダがスコールに寄り掛かった態勢のまま、すうすうと寝息を立てている。


「……やれやれ」
「やっと寝てくれたみたいだな」
「うん。レオン、二人を運んでくれる?私、あれ出して来るから」
「ああ」


言われるまでもない、とレオンはコーヒーカップを置き、ソファへ向かった。
眠る二人を起こさないようにそっと離し、先ずはスコールを抱き上げる。
周りの子供達に比べると小柄で、それをスコールは随分と気にしているようだったが、それでも抱き上げると成長した重みが判る。
もう気軽にだっこは出来ないな、と思いつつ、レオンは二階の寝室へと階段を上った。

スコールをベッドに寝かせ、一階に下りて、今度はティーダを抱き上げる。
揺れが伝わってティーダは少しむずかったが、目を開けることはなかった。
小さく「……とうさ……」と呟いたのが聞こえて、今年は帰って来れなかった彼の父に、止むを得ないとは言え残念に思う。
次は年末年始に帰って来れるかどうか、それはまた彼に連絡してみないと判らなかった。

二人仲良くベッドに寝かせ、半分以上が埋まったベッドを見て、そろそろ三人で眠るのは辛そうだな、と思う。
エルオーネも年頃だし、部屋割りか、せめて彼女専用のベッドがあった方が良いかもしれない、と考えていると、ひょこり、と部屋のドアの隙間から妹が顔を出す。


(寝てる?)


ぱくぱくと口を動かして、エルオーネが音に出さずに確認する。
レオンが頷くと、エルオーネは足音を忍ばせて、部屋の中へと入った。

エルオーネの手には、赤と緑を基調にしたクリスマスカラーのラッピング袋が二つ。
それぞれ『スコールへ』『ティーダへ』とカードが添えられたそれは、今日の為に兄姉が探した弟達へのクリスマスプレゼントだ。
それをいつも通りの格好で持ってきたエルオーネを見て、レオンはくすりと笑う。


「今年はサンタの格好はしないんだな」
「だってもう着れるサイズじゃないんだもん。レオンだって、今年だけで凄く身長伸びてるじゃない。去年着てた服なんて、もう着れないよ」


拗ねた顔をして言ったエルオーネに、成程、とレオンは納得した。

嘗てのレオンの父がそうであったように、エルオーネはクリスマスプレゼントを弟達に贈る時、必ずと言って良いほど今日の為の扮装を用意していた。
枕元にプレゼントを置く時、意外と人の気配に聡い二人が目を覚ました際、夢を壊してしまわないようにと言う気持ちからだ。
しかし、これから二次性徴を迎える弟達は勿論の事、エルオーネも成長期真っ最中で、一ヵ月経っただけでも身長は伸び、一年ともなればその積み重ねは大きい。
レオンも一気に成長する年齢は追えた筈だが、まだ伸びしろがあるようで、服を頻繁に買い替えていた。
そんな訳だから、一年に一回しか着ない服を久しぶりに取り出してみた時、とても着れるサイズではなくなっている事も儘ある事だった。
レオンの頭には、前にジェクトが用意したものもあるじゃないか、と思ったのだが、LLサイズのあれを今のレオンが着ても、袖も裾も余ってなんとも不格好なサンタにしかならないだろう。

こういった理由で、今年のサンタクロースは、お決まりの赤い服はお休みにされた。
となれば、眠る弟達を尚更起こす訳にはいかない。


「じゃあ、こっち、スコールの。お願いね」
「ああ」


小声で会話を遣り取りして、レオンはエルオーネの手からラッピング袋を一つ受け取る。

スコールがサンタクロースに欲しがったのは、外出に使える肩掛けの鞄だった。
今までは幼い頃から持っていたリュックサックを使っていたのだが、長年の愛顧ですっかり草臥れてしまい、背中をカバーする布に穴が開いてしまった。
初めてのお使いにも使った愛着のある物だったので、スコールは乗り換えるのを随分と渋ったが、なんとか納得してくれた。
それからはガーデンに行く時に使う鞄を併用していたが、やはり出掛ける時にはそれ専用のものが欲しいようで、サンタクロースへの手紙に「お出かけ用のカバン」と書いたのである。

エルオーネが持っているティーダへのプレゼントは、これも軽くて上部な靴だ。
ティーダがこれからぐんぐん成長して行く事を踏まえ、少しでも長く使っていられるように、今使っている靴よりもワンサイズ大きいものにして、ある程度紐で調節できるもの。
バラムには余り置いていないものだったので、ジェクトに頼んでザナルカンドで見付けて送って貰った。
手間を取らせて、とエルオーネは言ったが、ジェクトは構わないと言った。
彼にしてみれば、今年は顔を見る為に戻る事も叶わなかった息子への罪滅ぼしの気持ちもあるのだろう。
夢を見させてやってくれ、と言うジェクトに、レオンもエルオーネも勿論と返した。


(それじゃあ)
(起こさないように)


互いに顔を見合わせ、静かに、と釘を差し合って、そっとベッドに近付く。
すうすうと眠る弟達の枕元に、音を立てないように静かに袋を置いた。
ころん、とティーダが寝返りを打っただけで、あとはどちらも深い眠りの中にいるのを見て、よし、と兄姉は安堵する。



≫[フロム・ディア・サンタクロース 2]

[絆]サンタクロースはやってくる?

  • 2017/12/25 20:50
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12月が後半に入った頃、幼い弟達がそわそわとし始める理由を、レオンとエルオーネは知っている。
間近に迫る25日、もっと言えばその前日の夜が彼等は待ち遠しくて仕方がないのだ。

兄と姉の二人も、幼い日は彼等と同じように、落ち着かない様子で過ごしていたものだった。
父はこうした行事ごとが好きだったから、何かにつけては細やかなサプライズをしてくれた。
利発な兄が父のそんな気配に気付くまで時間はかからず、やんちゃだった姉はそうとは知らずにイタズラをしてサプライズをしっちゃかめっちゃかにした事もある。
それらを全てひっくるめて、父があれこれと子供達を楽しませてくれようとしていた事を、彼等はサプライズをする側になって知った。

12月25日のクリスマス、その前夜に聖夜の御使いのサンタクロースはやって来る。
一年間を良い子で過ごした子供達のご褒美に、沢山のオモチャを大きな袋に詰め込んで、それらを眠る子供達の枕元に置いて行く。
目覚めた子供達が真っ先に枕元を確認すると、其処にはプレゼントボックスがあって、子供達はそれを抱いて、親御の下へ向かうのだ。
サンタクロースが来た、と言ってきらきらと輝く目の、なんと眩しい事だろう。

今年も弟達の笑顔を見たくて、サンタクロースがいると信じている彼等の夢を壊さない為、エルオーネは準備に取り掛かっていた。


(ケーキはレオンが買って来てくれるから、後はプレゼントだよね。今年は何が良いかなあ……)


昼食の準備をてきぱきとこなしつつ、エルオーネは思案していた。

今年で10歳になったスコールとティーダ。
共にまだまだ幼く、サンタクロースの神話を信じており───ティーダはいないと思っていた事がバラムに来てから覆った喜びもあって尚更───、「サンタさんにお願いごとはある?」と聞けば、素直に教えてくれるだろう。
それも悪くないのだが、折角なので少しサプライズもしたい。
弟達にとっては、サンタクロースが来てくれるかどうかと言う事も含めてサプライズなので、気にしなくても良いのかも知れないが、これは用意する側の楽しみと言うものだ。
何をあげれば弟達が喜んでくれるのか、素直に口にする願い事とは別に、思いも寄らないものを受け取った時の反応と言うものも見てみたい。

チン、とトースターのパンが焼き終わる音がした。
それにジャムを薄く塗って、パンを焼いている間に作ったサラダと一緒に皿に並べる。
温めたコーンスープをカップに注いで、三人分の昼食が揃った。
それらをトレイに乗せてリビングに行くと、食卓テーブルで冬休みの宿題と格闘している弟達がいる。


「スコール、ティーダ。お昼ご飯だよ」
「ご飯!」


ドリルをうーうーと唸りながら齧っていたティーダが、ぱっと顔を上げる。
待ってましたと言わんばかりのティーダに続いて、スコールもくぅう、と腹を鳴らして此方を見た。

判り易い子供達にくすくすと笑いつつ、エルオーネはテーブルの上を片付けるように言った。
ティーダはドリルも教科書もまとめて綴じ、スコールは途中のページの端を折り曲げて印をつけ、一冊ずつ綴じてテーブルの隅に置く。
開いた場所にそれぞれの食事を並べ、エルオーネも席に着いた。


「頂きます」
「いただきます」
「いただきまーす」


手を合わせて食事の挨拶をするエルオーネに倣い、スコールとティーダも続く。

レオンがアルバイトしているカフェバーで貰って来たジャムは、子供達にも美味しいと好評だ。
エルオーネも気に入っており、良かったら作り方を教われないかな、と思っている。

しかし、クリスマスが近付いて、カフェバーは昼も夜も大変忙しいらしい。
平時は夕方から夜にかけて勤務しているレオンが、昼から夜と言う長い時間の勤務帯になるのも、その影響だった。
勉強もあるだろうに、家族とも過ごしたいだろうにとマスターは気遣ってくれるのだが、レオンはクリスマスの前日まではこのままでお願いします、と言った。
その影には、クリスマスを楽しみにしている家族の為、少しでも多くの費用を稼いでおかなければ、と言う頭もある。
勿論、レオンとて家族と過ごす時間を大事に思わない訳がないので、遅くてもディナータイムのピークが終わる夜の20時には退勤している。
日によっては夕方勤務までで終わる事もあるので、家族と一緒に夕飯が食べられる事を、レオンも喜んでいた。

そんな訳で昼はレオンがいない中、エルオーネは弟達の面倒を見ているのだが、彼等もそれ程手が掛かる訳ではない。
共に兄姉に対して甘えん坊なのは変わらないが、兄姉の力になりたいと言う思いも強い。
身長が伸び、キッチン台や洗濯機、物干し竿に手が届くようになって来て、手伝える仕事も増えた。
料理はまだまだ危なっかしい所があるので、専らエルオーネが担当しているが、片付けや掃除洗濯は彼等が引き受けてくれるようになった。
弟達のそうした成長に、凄く助かる、とスコールとティーダに伝えると、二人は顔を赤くして嬉しそうに笑う。
また、話を聞いたレオンも、エルオーネに弟達の世話を頼みっぱなしにしている事を詫びつつも、妹を含めた年下の家族がすくすくと成長している事が嬉しかった。

唯一、手が掛かる事と言えば、スコールが未だに一人で留守番をする事を怖がるのと、ティーダの勉強嫌いか。
どちらも言い聞かせれば我慢するので、きちんと出来た時には褒めるようにしている。
その甲斐あってか、時々起こる癇癪の爆発のような騒ぎ以外は、一家は至って平穏であった。


「ご飯が終わったら、お片付け、頼んで良い?洗濯物を取り込まなくちゃ」
「はーい」
「判ったー」


姉の頼みに、スコールとティーダが引き受けたと頷く。
ありがとね、と言うと、スコールが照れ臭そうに頬をほんのりと赤らめた。

野菜嫌いのティーダが、苦い表情をしながらサラダを見詰めている。
うー、とドリルを睨んでいた時と同じ顔になっているのは、間違いなくサラダに乗ったブロッコリーの所為だろう。
その正面では、スコールが黙々とサラダを平らげている。
最近、野菜の美味しさに目覚めたのか、スコールは野菜への好き嫌いを克服しつつあった。
そんなスコールを見詰め、ティーダはサラダの皿をスコールに差し出し、


「スコール、あげる」
「……いらない」


ティーダの言わんとしている事を察して、スコールはふるふると首を横に振った。
む、とティーダが拗ねた顔を浮かべたが、エルオーネは容赦しない。


「ティーダ。ちゃんとお野菜食べなさい」
「だってこれ嫌いだ」
「だぁめ。食べなきゃサンタさん来ないかも知れないよ」


今の時期にのみ使える脅し文句を使ってみれば、ティーダは弱かった。
ガーデンが冬休みに入る頃から、バラムの街はクリスマス色で溢れており、子供達も例に漏れずその日を楽しみにしている。
それなのに、一番楽しみにしている物が叶えられないと言われたら、どんなに嫌な事でも我慢するしかない。

ティーダは鼻を摘まんで口を大きく開け、ぱくん、とブロッコリーを口に入れた。
口の中に入れてしまえば、ティーダはもう吐き出したりはしないので、懸命に顎を動かす。
別に変な匂いのするものでもないのに、と眉尻を下げつつ、エルオーネは「よく出来ました」と褒めてやる。
その傍らで、スコールもサラダの皿を綺麗に空にした。


「スコール、全部食べたね。人参も食べた?」
「食べた!」
「スコールもよく出来ました」


褒めれば、スコールは「えへへ」と嬉しそうに笑う。
向かいの席では、ティーダが思い切って口の中のものを飲み込んだ。
口直しにコーンスープを飲むティーダに、お代わりあるからねと言えば、直ぐに空になったカップが差し出される。

キッチンのコンロに置いていた鍋の蓋を開け、コーンスープのお代わりをカップへ注ぐ。
リビングに戻ると、スコールがスープを飲んでいるのを見て、いるかな、と声を掛けようとした時だった。


「んく、んく……ね、お姉ちゃん」
「何?」


空になったカップをテーブルに置いて、スコールの方から声をかけられ、エルオーネは自分の席に戻った。
お代わりを入れたカップをティーダに渡し、エルオーネも残りのカップを飲む。
スコールは隣で姉を見上げながら続ける。


「サンタクロースさん、今年も来てくれるかな?」
「そうだね~……スコールとティーダが良い子にしてたら、きっと来てくれるよ」
「オレ、良い子にしてるよ!」
「僕も!」


定番と言えば定番の返しをするエルオーネに、ティーダがはいはいと手を上げて主張し、スコールも続く。
エルオーネは素直な弟達を微笑ましく思いながら、くすくすと笑い、


「うん、そうだね。二人とも、お野菜もちゃんと食べたし」
「うん!でね、それでね。あのね」


褒められた事に心を弾ませつつ、スコールが真剣な表情を浮かべて姉を見る。


「あのね。サンタさん、お姉ちゃんとお兄ちゃんの所には来てくれる?」
「え?」


スコールの言葉に、エルオーネはぱちりと瞬きを一つ。
えっと、と口籠るようにして視線を泳がせると、テーブルを挟んで、此方も真剣な表情をしているティーダとぶつかった。
じぃ、と見詰めるブルーグレイとマリンブルーに、エルオーネは不意を突かれた気持ちを隠しつつ、


「うーんと……去年は私の所には来てくれたけど…」


エルオーネは昨年、スコールとティーダへのクリスマスプレゼントを用意する傍ら、レオンから自分宛のプレゼントを受け取っている。
もうそんな年じゃないから良いのに、と言っても、レオンは必ず準備していた。


「……でも、今年はどうかなあ。忙しそうだし……」」
「なんで?お姉ちゃん、良い子にしてるのに。お兄ちゃんの所も、来ないの?なんで?」
「そうだよ。エル姉もレオンも優しいのに、なんで?」
「お兄ちゃんはサンタさんからプレゼント、貰った事ないの?」
「レオンも小さい頃は貰ってたと思うよ。でも、最近は……見てない、なあ」
「なんで?」


専ら準備する側にかかりきりのレオンを思い出し、エルオーネは言葉を濁す。
すかさずその理由を尋ねて来る弟に、エルオーネはええと、と考えて、


「大人の所にはサンタさんは来れないんだよ。サンタさんが行けるのは、スコールやティーダ位の年の子の所だけなの」
「……?」


レオンはともかく、自分が大人と言うにはまだ幼い事を自覚しつつ、エルオーネはそう答えた。
が、困り切った顔で答えたエルオーネに、スコールの首がことんと傾げられる。
納得の行っていない様子はティーダも同じで、ドリルや野菜と向き合っている時と負けず劣らずの皺が眉間に浮かぶ。


「サンタクロースってケチなの?」
「あはは…どうかな……?」


直球なティーダの言葉に、エルオーネは眉尻を下げるしかない。
どうやって誤魔化そうかなあ、と考えていると、助け舟はスコールから来た。


「仕方ないよ、サンタさん、世界中に行かなくちゃいけないから忙しいんだよ」
「でもうちには来てくれるじゃん。……オレんち、前は来てくれなかったけど」
「んぅ……だ、だから、やっぱり全部の所は行けなかったりするんだよ。プレゼントも一杯準備して、全部持って行かなくちゃいけないし。だってサンタさん、一人で一杯の所に行くんだもん」
「んん~……」


スコールの言葉にも、ティーダは得心が行かないようだったが、しかし真実はサンタクロースのみぞ知る。
子供達にとっては、そうだと思えば他に考えようもなく、じゃあ仕方ないのか……とティーダは拗ねた顔を浮かべたまま、不満そうに呟く。
スコールも決して納得できた訳ではないものの、それしか考えられない、とも思っているらしい。
そんな弟達に、まだまだサンタクロースの夢は消えそうにないな、とエルオーネがこっそりと安心する。

と、胸を撫で下ろしている所に、ぐいぐい、と腕を引っ張られる。
甘えたがる時に弟が見せる仕草だと思いつつ、エルオーネはスコールに向き直った。


「何?スコール」
「んと……あの、あのね、」
「サンタクロースの代わりに、オレ達が二人のプレゼント用意するよ!」
「……!」


恥ずかしそうに言い淀むスコールに代わり、ティーダが大きな声で言った。
スコールは直ぐにそれに同調するようにコクコクと頷く。


「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、いつも良い子だもん。優しいもん。僕、知ってる」
「オレも知ってる!だからプレゼント貰えないんておかしいよ。大人だからってヘンだよ」


そう言った二人の表情は、真剣そのもの。
自分達が貰って嬉しいクリスマスプレゼントが、大人だからと言う事を理由に、兄と姉に分け与えられないなんて可笑しい。

───無知で純粋なその言葉に、エルオーネはなんだか無性に胸が熱い。
幼いからこそ、何も知らない夢を見ているからこそ、二人が告げてくれた言葉に、エルオーネはくすぐったくなった。
顔が赤いのは多分嬉しいからだ、と思いつつ、エルオーネは姉らしくしなくちゃ、と平静を装う。


「ありがとう、二人とも。じゃあ、そうだね───レオンにあげるプレゼント、一緒に探そうか」
「お姉ちゃんのプレゼントも!」
「私は良いよ。ひょっとしたら、まだ貰えるかも知れないし」
「でも貰えないかも知れないんでしょ?」
「んーと、まあ、微妙な所なのかなあ」


じゃあやっぱりお姉ちゃんのも探そうよ、と言う弟達に、エルオーネは曖昧に濁すのみ。
自分のプレゼントを自分で、それも弟達の前で選ぶと言うのは、なんだか無性に気恥ずかしい気がしたのだ。
まだ直接レオンにねだった方が良いかなあ、と思いつつ、それもやっぱり恥ずかしい、とエルオーネは思う。

レオンへ送るクリスマスプレゼントは何が良いのか、話し合いを始める二人。
それを眺めているのも良いのだが、生憎、日々の業務は残っている。


「さ、スコール、ティーダ。食器の片付け、お願いするね」
「はーい」
「エル姉、洗濯物?」
「うん」
「お皿洗うの終わったら、お手伝いする!」
「僕も!」
「ありがとう」


エルオーネは食器をまとめてトレイに乗せ、キッチンへと運んだ。
弟達がその後ろを雛のようについて来る。

今日はティーダが洗剤で皿を洗い、流し終わった皿をスコールがタオルで拭く役割分担らしい。
早速並んで片付けを始めた二人に後を頼み、エルオーネは上着を取って庭に出た。
冬の海風から逃げるように上着の前を合わせつつ、日向ではためいている洗濯物の下へ向かう。


(レオンに皆からのクリスマスプレゼント、か。これは───言わない方が良いね)


当日まで、これは兄には内緒にしよう。
環境もあってか、幼い頃から必然のように“準備する側”にいる兄の事、見えない所で弟達がこんな事を考えているなんて知らないだろう。
間に挟まれているエルオーネだからこそ、兄と弟達、どちらの気持ちも判るのだ。
思わぬ所からやってきた驚きが、どんなに嬉しくてこそばゆいものか、兄にも感じて貰わねばなるまい。

さて、そうなると問題は、何をプレゼントに選ぶかだ。
物欲のない兄の事、何が欲しいと聞いても首を傾げるのが目に見えている。



考え事が増えたなあ、と思ったが、それでもエルオーネは悪い気はしなかった。





≫[フロム・ディア・サンタクロース 1]

色々あってサンタクロースの正体を早い内に知っちゃったレオン。
弟が生まれて、成長の過程で感じ取って行ったエルオーネ。
まだまだサンタを信じてるスコールとティーダ。

そんな四人のクリスマス。

[ヴァンスコ]明日への願い、緩やかに

  • 2017/12/08 23:00
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日々の疲れが出たのか、其処に畳み掛けるように急激な冷え込みが襲い掛かった所為だろうか。
昨夜から熱っぽいと自覚したスコールは、出来る限り暖かくするように努めて眠ったのだが、免疫力の落ちた体は、簡単に元には戻ってくれなかった。
翌朝、スコールは足元がふらつく程の熱を出し、セシルやルーネスから「今日明日は大人しくしておく事」と言うお達しを食らう事になる。
多少の体調不良なら隠してしまうスコールも、まともに視界が保てない程の熱とあっては、大人しく甘受する他なく、行動を共にする予定だったジタンとバッツに断りを入れて、直ぐに自分の部屋へと戻った。
とにかく寝て養生するのが、回復への一番の近道である。

朝食は食べる気になれなかったのだが、何も食べないのは良くないとフリオニールに諭され、スープだけを貰った。
野菜の栄養が溶け込んだスープを、皿一杯分の半分だけ食べるのが精一杯だったが、そのお陰だろうか。
部屋に戻って眠ったスコールが目を覚ました時、身体の重みは随分と楽になっていた。


(……結構寝たみたいだな……)


首だけを動かし、ベッド横のサイドテーブルに置いた時計を見ると、短針が天辺を指している。
辺りは静かで、仲間達は各自の予定に出発しているのだろう、人の気配はしない。
身体を起こして窓のカーテンを持ち上げ、外を見ると、きんと冷えた空気に包まれた屋敷の外が見えた。

窓ガラスから滑り込んでくる冷気に、ぶるっと背中が震えた。
スコールはカーテンを閉めると、椅子の背凭れに放っていた上着を取って羽織る。

腹が減ったな、と思った。
朝は食欲がなかったので胃に物を入れる気にならなかったが、僅かに熱が引いた体は、一転してエネルギーを求めている。
誰もいないのなら自分で用意するしかない、とスコールがベッドを降りようとすると、ガチャ、とドアが開く音がした。


「お。起きてた」


片手にトレイを持って入ってきたのは、ヴァンであった。
ヴァンはベッドで起き上がっているスコールを見付けると、嬉しそうに目を輝かせて部屋に入った。

ヴァンはサイドテーブルにトレイを置くと、スコールの額に手を当てた。
自分の額にも同じように手を当てて、両者の体温を測っている。
うーんと、と考えているヴァンを見上げて、スコールは言った。


「……ヴァン、あんた、残ってたのか」
「うん。誰かが世話しなきゃいけないだろ?だから俺が残った。……うん、ちょっとだけ熱下がったみたいだな」


検温を終えると、ヴァンはトレイを指差し、


「昼飯、作ったんだけど、食欲あるか?」
「……一応。朝よりは、食べれると思う」
「じゃあ良かった」


スコールの言葉にヴァンは安心したように笑って、ベッド横に置いていた小さな椅子に座ると、トレイに乗せていた小さな土鍋の蓋を開ける。
中身は蒸かした豆を加えた粥で、ついさっきまで温めていたのだろう、ほこほこと温かな湯気が上っている。

ヴァンはレンゲで粥を軽く混ぜると、一掬いして、ふーふーと息を吹きかける。
粥から程良く熱を逃がしてから、ヴァンはそれをスコールに差し出した。


「ほら、スコール」
「……待て」
「ん?」


当然のような流れで差し出されたレンゲを、スコールは胡乱な目で見ていた。
ヴァンはそんなスコールを見て、きょとんと首を傾げる。


「……自分で食べれる」
「そうか?でも、朝は凄くフラフラしてただろ。スープ飲んでる時も倒れそうだったし」
「…今朝はそうだったけど、今は其処までじゃない。起きていられるし、食事位自分で出来る」


そう言って、スコールはサイドテーブルからトレイを取り、ベッドヘッドに背中を預けて、トレイを膝の上に乗せた。
ヴァンが手に持ったままのレンゲを見て、寄越せ、と手を出すと、ヴァンはしばらく考えるように間を開けた後、スコールの手にレンゲを渡す。
スコールはレンゲに乗っている粥を口に入れ、ゆっくりと咀嚼した。

黙々と食べているスコールを、ヴァンは横でじっと見ている。
背の低い丸椅子に座り、足に頬杖をついて此方を観察してくる鶸色の瞳は、くりくりと丸っこい。
気になる事があると直ぐに観察に入る瞳に曝されているのは、スコールは少々―――かなり―――落ち着かなかったりするのだが、見るなと言っても「なんで?」と見てはいけない理由について説明を求められるので、其方の方が面倒だと、スコールは食事を食べる事にのみ終始していた。

粥に入った米は柔らかく、豆の味付けも兼ねているのか、少し塩が入っていて美味かった。
朝食が食べていないようなものだったので、スコールの胃袋は空っぽになっており、其処に流し入れても負担にはならない。
病人食として最適でありながらも、病気じゃなくても食べても良いかも知れない、とスコールは思う。

土鍋の中身は綺麗に空になり、スコールの腹も満たされた。
トレイをテーブルへ退けて、ふう、とベッドヘッドに寄りかかる。


「…ご馳走様」
「ん。一杯食ったなー。腹減ってた?」
「……まあ……」
「そっか。じゃあ良かった」


食べれる元気があるのは良い事だ、とヴァンは言った。
確かに、食べる元気もないのは、それ程に状態が悪いとも言えるから、食欲があるのは良い事だろう。


「そうだ、飯食えたんなら薬も飲まなきゃな。バッツが調合して行ったんだ」
「…バッツが……」


仲間達の専属薬師的なバッツ特性と聞いて、スコールの顔が微かに強張る。
彼の薬の知識はあらゆる場面で重宝されるのだが、使う材料や、飲む際の味等に非常に不安があるのだ。
良薬口に苦しとは言うものの、ある程度の飲み易さは考慮して欲しい、と言うのは、カプセルやタブレットの類に馴染んでいる者の切なる願いであった。

ヴァンがトレイの隅に置いていた、スコールが判っていつつ無視をしていた四つ折りの薬包を開く。
何種類かの薬草を混ぜて磨り潰したのだろう、薄緑色の粉が包まれていた。
その色を見て、まあまだ飲める色だ、とスコールはひっそりと安堵する。
以前ジタンが飲んでいた赤紫色の薬は、スコールから見ると危ない薬にしか見えなくて、躊躇なく飲んだジタンを称賛した程のきつい色をしていた。
それと比べれば、サプリメントのようなものと素直に受け入れる事も出来る。


「スコール、薬が苦手なんだろ。飲み易くしといたってバッツが言ってたぞ」
「……別に苦手な訳じゃ……」
「ほい、水」


苦手なのはバッツが調合した薬であって、薬全般は特に苦手としているつもりはない―――のだが、ヴァンは聞いていなかった。
マイペースに水を差し出すヴァンに、スコールは一つ溜息を吐いて、それを受け取る。

薬包から薬を零さない様に、挟んで飲み易く口を作っておいて、水を口に含む。
上を向いて開けた口に薬を流し込んで、スコールはそれが口内で溶けない内に飲み下した。
直後、舌に残る苦味と、喉の奥に残って上ってくるえぐみに顔を顰める。


「う……」
「水、まだ飲むか?」


スコールが頷くと、ヴァンはピッチャーの水をグラスに注いだ。
はい、と差し出されたそれを奪うように取って、口の中に残った嫌な味を消すように、水を飲み干していく。

一杯分の水を飲み切って、スコールはようやくほっと息を吐いた。


「は……やっぱり、不味い……」
「飲み易くしたって言ってたけど、やっぱり不味いのか?」
「…あいつの“飲み易い”は他人とは基準が違うんだ」


バッツの薬に関する仲間への配慮は、主に口の中に入れ易いように、飲み込み易いように、と言う方向にある。
スコールとしては、それも良いが、口の中に入れた瞬間に広がる、形容しがたい不味さをなんとかして欲しかった。
ジタンやジェクトが「不味い!」「飲めない!」と抗議した事があるので、一応、バッツなりに気を遣って調合してはいるようだが、効果を優先すると、どうしても不味さが一歩リードするようだ。

―――と、思う事はあるものの、バッツの薬には非常に世話になっている。
作って貰う立場で文句ばかりは言えない、と、飲めない程の不味さにならない限りは、スコールは閉口して大人しく口に入れるようにしていた。
だが、味わう度に、もう次は世話になりたくない、とも思う。

水のお陰で口の中は少しすっきりしたが、喉奥の苦々しさは中々消えない。
戻ってきそうだ、と喉を摩っていると、ヴァンが言った。


「なあ、甘い物、食べるか?」
「……甘い物?」
「果物とか。リンゴが剥いてあるんだ。食べれそうなら持って来ようと思ってたんだけど、どうだ?」
「……欲しい」


スコールが求めると、ヴァンは「じゃあ取ってくる」と言って席を立った。
ヴァンはすぐに部屋から出ようとして、あっと声を上げて戻ると、サイドテーブルのトレイを取り、改めてドアを潜っていった。

ヴァンが戻ってきたのは一分の経たない内である。
手に持った皿には、櫛形に薄く切ったリンゴが綺麗に円を描くように並べられていた。


「皮付いたままなんだけど、良いか?リンゴの皮剥きってちょっと苦手でさ、省いたんだ」
「……あんたが切ったのか?」


差し出された皿を受け取って、スコールはリンゴを見詰めながら問う。
ヴァンはそれに「うん」とだけ答えて、椅子に座る。

リンゴは殆ど均一な厚みで切られており、食べ易く消化もし易いだろう。
それを見るに、料理に慣れたフリオニールやティファ、マメな性格のルーネスあたりが作って行ったと思っていたのだが、ヴァンが作ったとはスコールは思ってもみなかった。
どちらかと言えば大雑把な所があり、リンゴや梨と言った果実は丸齧りにしている印象の強いヴァンが、こんなに丁寧な櫛切りが出来るとは。

意外な事を見付けた気持ちで見ていると、ヴァンが皿のリンゴを一切れ取り、ぽいっと自分の口に入れ、


「美味いぞ、このリンゴ。別に腐ってないって」
「……いや。そう言うつもりで見てたんじゃなくて」
「?」


じゃあなんだ?とヴァンが首を傾げる。
スコールは、言っても良いものかと思いつつ、小さな声で言った。


「…あんたがこういう事が出来ると思ってなかったんだ。普段、食事当番でも、こんな事してないだろ」
「そうだっけ。そうだな。だって人数が多いからさ、つい面倒になるんだよ」
「……まあ、な」


10人越えのメンバー全員の食事を作るのは、中々の重労働だ。
となると、様々な手間と時間を省く為、幾つかの作業を簡単にして作業時間の短縮を図るのも判る。


「それはスコールの分だけ作れば良かったから、ちゃんとしようと思って。粥もちゃんとやったんだ」
「あれも?」


先程食べたばかりの粥の味を思い出して、スコールは目を丸くした。
食べ易い米の固さと、適度な塩気で食欲を促していた豆粥。
てっきり今朝の食事当番だったフリオニールが作って行ったと思っていただけに、スコールは驚いた。

目を丸くしているスコールに、ヴァンは言った。


「病人食を作るのは慣れてるんだ。ずっと作ってた事があったからさ」
「……そう、なのか」
「でも久しぶりに作ったから、上手く出来るかちょっと不安だったけど。全部食べれて良かったよ」


そう言って、ヴァンは嬉しそうに笑って、もう一つリンゴを口の中に入れた。
病人用に切ったのだろうに、自分でほいほい食べるなよ、と思いつつ、スコールもリンゴを食べる。
水分をたっぷり含んだ果肉がしゃりしゃりと音を立て、スコールの喉を甘味で潤していく。

持ってきたリンゴは、ヴァンと分け合う形で、綺麗に平らげた。
腹も膨れ、薬も飲んで、甘味も取ったお陰か、スコールの体から、今朝の重みは殆ど消えている。
とは言え、油断も無理も出来ない事には変わりなく、もう一度眠ろうと布団に潜っていると、


「また寝るのか?」
「…眠くはないけど、治ってもいないからな。寝て治す。世話になった」


スコールの言葉に、ヴァンは「うん」と返した。
返したまま、椅子に座ってじっと此方を見ている。


「…あんた、あまり此処にいると伝染るぞ」
「うん」
「……何かあったら呼ぶから」
「うん」


いつまでも此処にいなくて構わない、と言うつもりでスコールは言ったのだが、ヴァンは動かなかった。
スコールの遠回しな言葉の裏を読み取っていないのか、判っていながら気にしていないのか。
気にしていないとしても、いつまでも此処にいる必要はないだろう、とスコールは思うのだが、ヴァンはじっと此方を見ているだけであった。

ヴァンは基本的にマイペースで、自分のやりたいようにやる事が多い。
スコールにしてみると、空気の読めない奴、と言う印象で、出逢ったばかりの頃は自分の調子が崩されるので苦手だった。
しかし、悪意や敵意を持ってそれをしている訳ではなく、ただ彼自身は自分の気持ちに正直なだけなのだと思うと、邪見にする気にもなれない。

取り敢えずスコールは、寝返りを打ってヴァンに背を向けた。
もぞもぞと布団を手繰り寄せ、向けられている視線から隠れるように、枕に顔を埋める。
スコールが完全に寝る為の態勢に入ると、それを見ていたヴァンから、


「早く治るといいな」


な、スコール、と名前を呼ばれたが、スコールは返事をしない。
妙にくすぐったい気分を隠したまま、早く寝て、早く治そう、とスコールは目を閉じた。




12月8日なので、ヴァンスコの日!

何かとマイペースなうちのヴァンですが、面倒見は良い。
病人を看護する事について、ヴァンは色々と思う事がありそうだな、と思いつつ風邪っぴきスコールの世話をさせてみました。

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