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2018年06月

[ウォルスコ]君が見ている世界の中で

  • 2018/06/30 15:17
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カシ、カシ、カシ、と。
小さな物が擦れるような、小さな小さなその音が、静寂の中ではっきりと聞こえた。
それを耳にした事を切っ掛けに、意識が眠りの淵から浮上すると、閉じた瞼の裏側に眩しい光が通って来る。
ああ、もう朝なのか、と思うと同時に、またカシ、カシ、カシ、と言う音がした。

まだ幾分か重い感触の瞼をゆっくりと持ち上げると、腕に抱いていた筈の恋人の姿が其処になかった。
どうりで何かが物足りない筈だ、と思いながら目だけを動かすと、恋人は直ぐに見つかった。
恋人である年下の少年は、ベッドに横になっているウォーリアの隣に膝を曲げて背中を丸めて座っている。
下肢をシーツに包まりながら、曲げた足と体の間にはスケッチブックが広げられ、鉛筆を持った手がその上を忙しなく動いていた。

恋人────スコールは、ウォーリアが目を覚ました事にも気付かない様子で、鉛筆を動かす作業に没頭している。
その真剣な横顔はウォーリアには見慣れたもので、邪魔をしてはいけない、と覚らせるものだった。


(何を描いているのだろうか)


ウォーリアは身動ぎ一つせず、視線だけを向けてスコールを見詰めていた。
彼が何を描いているのか見てみたい、と言う衝動を抑えるのは難しいものがあったが、あの横顔をしている間は、彼の気を逸らすような事は御法度だ。
スコール自身が作業に納得して顔を上げるまで、ウォーリアは物音を立ててはならないと己を律した。

スコールは若干17歳にして、アートの世界で名を馳せる芸術家であった。
彼は幼い頃から芸術の才能を発揮し、中学生の頃から業界内でその名は知らない者はいない程となり、年若い事もあって今後の成長も期待が高く、現在注目の若手芸術家と呼ばれていた。
最も、彼自身は未だ学生である事もあり、己を“芸術家”と名乗る事はなく、良く言っても“駆け出しの絵描き”であると言っている。
スコールとしては、まだ絵画の世界で生きていくか否かも決め兼ねており、幼い頃より続けてきた自分のアイデンティティとも言える“絵を描く”事について、自分自身の可能性を探る意味もあって、プロの世界に踏み込んだ、と言う心中があった。

決して広くはなかったスコールの世界を、本格的に絵画の世界へと向けたのは、ウォーリアである。
ウォーリアは美術商を仕事としており、自身の持つスペースを利用して、芸術家の作品の展示・販売を行うギャラリストだ。
ギャラリストは作品の売買を行うだけではなく、自前のスペースを作家のアトリエとして提供し、作家の育成・プロモーションを行う事もあり、ウォーリアはその為にスコールに声をかけ、その後契約を交わした。
───これによりスコールは学業が長期休暇の時期に入ると、ウォーリアの持つアトリエを借りて、作品の制作作業を行っている。
必然的に短くはない時間を共に過ごす事となった二人は、紆余曲折の末、互いを心から信じ預け合う関係へと発展したのである。

スコールは、幼い頃から絵を描く事が好きで、それだけがずっと続けていられた事だったと言う。
だから彼にとって、絵を描く事は何よりも重要なファクターとなっていた。
スコールは繊細な性格で、彼の筆にはその性格とその時の情緒が顕著に表れる為、作業に集中している時は外部からの余計な刺激を極端に嫌う。
日々を共に過ごす中で、ウォーリアはそれをよく知っているから、スコールが絵を描いている際には───意図的に休息を促す等の目的でなければ───彼の集中力を途絶させないように努めている。

だが、中断はさせないが、スコールが何を描いているのかは気になった。
特に今日のように、朝早くからスコールが描いている時は、その時の絵を彼が絶対に見せてくれない事もあって、一層気になって仕方がない。


(……一度、見せて欲しいものだが、やはり駄目だと言われるのだろうな)


横になったままのウォーリアからは、彼の体で陰になって見えないスケッチブック。
その中身を見せて欲しい、と何度か頼んだ事があるのだが、スコールは頑なに拒否していた。
きちんと描いた奴じゃない、ラフしかないから見せられるものじゃない、と言うので本人の気持ちを汲んでウォーリアも可惜と頼む事はしなくなったが、かと言って諦めるのも難しい。
何せウォーリアは、誰よりもスコールの描いた絵に惹かれてやまないのだから。

カシ、カシ、カシ、と止まない黒鉛が紙面を擦る音。
しばらく良いテンポで続いていた音が次第に緩やかになり、止まる。
終わったのだろうか、とウォーリアの視線はスケッチブックから恋人の横顔へと動く。
スコールは軽く寝癖のついた横髪を手櫛で梳きながら、じっとスケッチブックの絵を見詰めていた。
悩んでいるような、考えているような表情を浮かべていたが、その瞳がちらりと此方を向いた瞬間、蒼灰色と薄藍色が交わって、スコールがはっとした顔になる。


「あんた、起きて────」
「…ああ」


気付かれたのならと、ウォーリアは起き上がった。
目覚めてから動かないようにと努めていた所為か、下敷きにしていた左肩が少し軋んだが、血が流れれば直ぐに治まった。

起き上がったウォーリアを見て、スコールは膝に乗せていたスケッチブックをぱたりと閉じる。
描き終わったと言う訳ではないようだが、作業は終わりと言う事だ。
隠すようにウォーリアから遠ざけてスケッチブックをベッドに置くスコールに、そんなに見られたくないと示されるのも寂しいものだが、仕方がない。
気を取り直して、ウォーリアはスコールの細い腰を抱き寄せ、前髪の隙間から覗く額にキスをする。


「おはよう、スコール」
「……おはよう」
「朝食は食べられるか?」
「……腹は減ってる」


スコールの返事に、良い事だ、とウォーリアの頬が緩む。

ウォーリアは裸身のスコールの体をシーツで包んで抱き上げた。
寝室を抜け、広いリビングダイニングに移動したウォーリアは、スコールをダイニングテーブルの一脚に降ろした。
体を重ねるようになって間もない頃、ウォーリアのこうした甲斐甲斐しい行動をスコールは随分と嫌がっていたが、次第に慣れてくれた────スコールにしてみると諦めた、と言うのが正しいが。

スコールは朝のじんわりとした冷えが滲む室内から隠れるように、緩んだシーツを手繰り寄せて、椅子の上に膝を乗せて丸くなる。
ウォーリアはそんなスコールの頬を撫でてから、ダイニング横のキッチンに移動した。

パンを入れたトースターにスイッチを入れ、昨晩スコールが作ったコーンスープの残りを鍋で温める。
急沸騰しないように弱火でとろとろと温めながら、冷蔵庫からラップで綴じたサラダボウルを取り出した。
これもスコールが昨晩の夕飯に作ったもので、ウォーリアが朝食を作る時は、必ずこれから朝食のサラダを用意する。
はっきりと家事が得意ではないウォーリアが、スコールと共に暮らす時間を得てから持つようになった習慣であった。

食事の用意を整えてウォーリアがダイニングに移動すると、スコールが椅子に座って舟を漕いでいる。
ことん、ことん、と首を揺らすスコールに、いつから起きていたのだろう、とスケッチブックに向かっていた横顔を思い出して、ウォーリアは目尻を下げた。


「…スコール」
「………あ……」


声をかけると、スコールは緩慢な仕草で顔を上げた。
ウォーリアが食事をテーブルに並べると、目を擦りながらスプーンを握った。

ゆっくりと食事を始めるスコールに続いて、ウォーリアも向かい合って椅子に座り、朝食を採る。
食事を進めている内に、腹が膨れるに従って、スコールの睡魔は少しずつ抜けていった。
それでも余り朝は強くない事、昨夜の熱で疲れも抜けきっていないスコールは、気怠い様子で朝を過ごす。

ウォーリアが朝食の片づけをしている間に、スコールはシーツを引き摺りながら寝室へと戻っていった。
着替えて出てくるだろうかと思ったが、結局、ウォーリアのその姿を見る前にウォーリアの食器洗いが終わる。
また眠っているかも知れないな、と思いつつウォーリアが寝室へ入ると、其処にはベッドの上に座り、スケッチブックを開いているスコールの姿があった。


(描いて───いる訳では、ないようだな)


邪魔をしないかと一瞬考えて、スコールの手に鉛筆が握られていないのを確認する。
どうやら、自分が描いていたものをじっと観察しているだけらしい。

寝室に入って扉を閉めると、キイ、と言う蝶番の音がした。
それがスコールの鼓膜に届き、はっとした顔が此方へと向けられる。
ウォーリアが来たと判ると、スコールは見ていたページを隠すように、スケッチブックを腹に抱える。
判り易い隠し方に、ウォーリアはゆっくりと近付きながら言った。


「そのスケッチブックの中身は、やはり見せては貰えないのだな」
「見せれるようなものじゃない。ラフばかりだし」


ラフでもスコールの絵は素晴らしいものだとウォーリアは思っている。
しかし、本人が見せるに堪えられないと言うのなら、無理強いは良くないだろう。
ただ、彼の絵に誰よりも魅せられて止まない身としては、やはり気にならないと言うのも難しく、


「何を描いているのか、それだけでも教えては貰えないか?」
「………嫌だ」


ウォーリアの言葉に、スコールはスケッチブックを腹と足の間に隠して言った。
梃子でも見せない、言わない、と判る反応だ。

警戒する猫のように睨むスコールに構わず、ウォーリアはその隣に腰を下ろした。
未だ着替えもせずに過ごしているスコールの肩に腕を回すと、発展途上の体が一瞬緊張したように強張る。
そっと身を寄せて、柔らかな濃茶色の髪を指で梳くと、固かった彼の体から力が抜けるのが判った。

とす、とウォーリアの肩にスコールの頭が乗る。


「……あんた、今日の仕事は?」
「コスモスが休暇をくれた。君がいるのだから、偶にはゆっくりと傍について過ごすべきだと言われた」
「……」


変な入れ知恵を、とスコールは呟くが、その顔は微かに赤い。
肩に乗せた頭が逃げる様子もなく、スコールはウォーリアの体に体重を預けていた。

青灰色の瞳が、近い距離からウォーリアを映す。
目を合わせるのが極端に苦手なスコールであるが、時折、こうしてじっとウォーリアの目を見て離さない時もあった。
何かを捉えようと、捕まえようとしている時のその眼差しは、絵を描いている時のものと同じだ。
────その貌が、描く絵以上に、ウォーリアの心を捉えて止まない事を、スコールは知らない。



吸い込まれるように、薄藍色と蒼灰色が近付いていく。
それに気付いてスコールが目を瞠るが、その時には既に、二人の唇は重なり合っていた。





ギャラリストWoL×駆け出しの画家スコールと言う設定。
スケッチブックに描いているのは、ウォーリアの寝顔だったり、いつも見ている顔だったり。見られたらスコールは恥ずか死ぬ。

オフ本で書いたパラレル本の設定を引き摺りつつ、その後の二人がこう言う風になれたら良いなと言う妄想。
過程を大分すっ飛ばしていますが、書いたらまた長くなりそうで、書きたい部分だけ書いて満足しております。

[ジョン+スコ]不思議なパズル 1

  • 2018/06/08 22:00
  • Posted by
6月8日と言う事で、ジョン+スコール。敢えての“ジョン”で通します。
と言うよりは朗読劇組の四人です。少し朗読劇のネタバレもあり。





隕石の衝突のような現象の後、神々の闘争を代行する戦士達の前に現れた、記憶喪失の青年───ジョン。

記憶喪失であるが為に、自分自身がどう言う人間なのかも判らないまま、訳の判らない世界で過ごす事になった彼は、最初に彼を見付けたと言う縁も重ねてか、クラウド、スコール、ティーダの三人が当面の面倒を任された。
彼にこの世界のあらましを説明する傍ら、記憶喪失と言う本人の言も含めて怪しむスコールと、彼と援けたいと思うティーダの間で少なからず衝突が繰り返されたが、何度かの衝突の後のジョンの行動から、スコールの疑心も解けた。
その後、ジョンを狙うセフィロスの乱入により、一行が危機に陥る場面もあったものの、ジョンが所持していた召喚獣の力を使い、その場もなんとか納められた形となった。
直後にティーダは、ジョンが元の世界に戻る為、何やら急がねばならないと言ったのだが、どうやらそれ程急がなければならない、と言う事もなかったらしい。
本人曰く、ジョンは「死にかけていたが召喚獣のお陰で助かった」状態らしく、ティーダが言う“魔列車”と言うメ冥府行の急行列車に乗る必要はないそうだ。
それを聞いたスコールが、まさか本当に“John Doe”≠身元不明の死体になりかけていたとは、とひっそりと自分がつけた名前が強ち外れていなかった事に複雑な顔をしていた事は、誰も知らない。

ともかく、そのお陰でジョンは魔列車とやらに急ぐ必要もなく、元の世界に戻る為の安定した別の手段が見つかるまで、もう暫し一行の厄介になる事となったのである。

闘争の世界で過ごす内、マーテリアの陣営に与する者の中で、ジョンの事を知らない者はいない。
成行き的に参戦する事になった経緯や、彼が持っていた召喚獣フェニックス等、判明した事が増える度にクラウド達はジョンを連れて本陣へと帰還し、報告を行っている為、その度にマーテリア陣営の戦士と顔を合わせているのだ。
元々マーテリアに召喚された訳ではないジョンは、他の面々よりも一足先に帰る事が半ば確定されているようなもので、それを羨ましがる者の姿もいるのだが、それはそれとして、マーテリア陣営の戦士は概ねジョンに対して好意的だ。
以前のスコール同様、怪しんで警戒する者もいない訳ではなかったが、セフィロスとの衝突の経緯を説明すれば、少なくともジョンがセフィロスと同じ側───スピリタス陣営に与している訳ではない事は確かと言えた。
そんな面々に対しても、ジョンは「事故みたいな形で此処にいるんだから、怪しまれるのは仕方がない」と存外と大人な反応をしている。
元々、スコールが警戒を剥き出しにし、厳しい当たりをしていた時でも、そう言った反応をしていた人物である。
何処か飄々としながら、達観した物言いも垣間見える事、ジタンと並べる程の身軽さや気配を殺す実力等、相当な修羅場を潜ってきたであろう事は確かだ。
何より、先のセフィロスの戦闘の折、この世界に落ちてきた時に失われてしまった記憶も取り戻す事が出来たようで、自分自身の立ち位置やアイデンティティが確りと保てているのが、ジョンに余裕を齎しているのだろう。

記憶喪失の間は、自分がどうすれば良いのかも判らなかった為、基本的には受動であるようにと行動していたジョン。
クラウド達が彼の面倒を任されたのも、そう言った経緯があっての事だ。
ジョンの方も、刷り込みではないが、初めに自分を見付け、他の者よりも早く会話を交えた面々と一緒にいる方が、比較的気が楽と思っていた。
しかし、ジョンは案外と社交的な性格で、自分のテリトリーに踏み込まれる事にもそれ程強い抵抗を感じないようで、今ではクラウド達以外の戦士ともよく会話を交わしている。
が、現在に至るまでの経緯もあってか、散策に出かける時には、大抵クラウド、スコール、ティーダと言ったメンバーと一緒にいる事が多かった。

今日も例に漏れず、ジョンはクラウド、スコール、ティーダの三名と共に散策に出かけた。
神々の闘争の世界は、日に日に世界が拡張されており、その副産物であるのか、地形の変化等も少なからず起きていた。
イミテーションの出現も各地に確認され、陣営同士の戦闘の際に乱入して来ると言った邪魔も起きる為、定期的に掃除が行われている。

出発してから二つ目の歪を開放し、移動ルートの安全を確保して、一行は歪を脱出する。
歪の出入口は、前日に確認した時よりも僅かに位置を変えていたが、ポイントで言えば誤差程度だ。
地形の変化と照らし合わせつつ、今後も使って行ける事を確かめて、次の歪の場所まで移動する。
散策の過程は、大体がこうしたものとなっていた。

次の目的地まで向かう道すがら、ジョンは前を歩くチョコレートと蜂蜜の色をじっと観察していた。
昨日の出来事、その前の出来事、今の目の前にある物の話と、蜂蜜色───ティーダの話は尽きない。
喋っていないと間が持たないと感じる性格の彼は、常に雑談を提供してくれる。
チョコレート色───スコールはそれを面倒臭そうな顔をしながら聞き流しており、時折、「どう思う?」等と食いついてくるティーダに、適当な返事を返していた。
その返事が見るからに適当なものだから、ティーダは剥れて「真面目に聞いてるんだってー!」と抗議するように言った。
それをスコールが、煩い、と言うように片手をひらひらと払って見せたりするから、ティーダは益々ムキになる。
もう何度見たか判らない二人のそんな遣り取りを、ジョンがじっと観察していると、隣を歩く男───クラウドに声をかけられた。


「随分熱心に見ているが、面白い話でもあったか?」
「ん?いやいや、そう言う訳じゃないんだけどな」


進む足を止めず動かしながら、ジョンはバンダナを巻いた頭をぽりぽりと掻いて、


「あれだけ素っ気なくされてるのに、よく話しかけられるもんだと思ってさ」
「ふむ。俺達はもう見慣れてしまったが、言われてみれば、そうかも知れないな」


ジョンの言葉に、クラウドは前を歩く二人を見て、認識を再確認するように呟いた。


「だが、あれでも丸くなった方なんだ。前の闘争の時は、もっとピリピリしていたし」
「そうなのか?……あれで丸くなってるのか……」


ジョンの前には、いよいよ本気でティーダを無視し始めたスコールの姿がある。
すたすたと歩く速度を上げ、ティーダを置いていく気の歩調だ。
ティーダはそんなスコールの背中に突進宜しく抱き着いて、なあなあなあ、とまるで遊んで貰いたがる大型犬のようである。
スコールはそんなティーダに、相手にしたら負けだと言わんばかりに、彼を腰に巻きつかせたまま、ずるずると引き摺って歩いていた。
歩き難くないんだろうか、とジョンは眺めつつ思う。


「なんて言うか、余り人と馴れ合わないって言うか……そう言う感じがするんだ。割と熱くもなるみたいだから、クールなばかりでもないって言う感じもするけど」
「まあ、初めて逢った人間には、あいつはかなり取っ付き難く見えるだろうな。だがそれはスコールから見ても同じなんだ。あんたも見た通り、かなり警戒心が強い性格だから」
「ああ……はは、確かにかなり疑われてたな。無理もないけど」


和解に至るまでの一連の経緯を改めて思い出し、ジョンは苦笑いする。
色々と刺さるような事を言われたが、しかしそれも言われて当然の事であったとは思う。
ティーダが自分を庇い、クラウドが間に立ってくれていなければ、ジョンの心が折れていた事も想像に難くない。
それ程、あの頃のスコールは警戒心を剥き出しにしていたのだ。


「悪いが、あの時点では俺もあんたを全面信用はしていなかった。あんたが“どっち側”なのかも判らなかったからな」
「神様の闘争って奴か。俺はあまりその戦いってのにも参加させて貰ってないからまだよく判らないんだけど、そんなに癖の強い奴がいるのか?こっち側にはそんな感じの奴はいない気がするんだけど」
「ああ。今回こっち側にいるのは、良くも悪くも素直なのが多いな。だからスコールは余計に警戒したんだろう。誰かが疑わなければ、いざと言う時に甚大な被害が出る。それは避けるべき事だったから、スコールがその為に嫌われ役になった。……少し損な役回りをさせたな。あいつもそう言う役割が得意な訳じゃないのに」


悪い事をした、と呟くクラウドに、ジョンはそうだったのか、と一人ごちた。
同時に、セフィロスとの戦闘の際、意識を失っていた自分を背負っていた時に聞いた言葉を思い出す。


「……なあ。お前、“リノア”って知ってるか?」
「いや。初めて聞くが、人名か?」
「多分。スコールが前にその名前を言ってたのを聞いただけなんだけどさ」


それは、セフィロスとの戦闘の直前、ジョンが激しい頭痛を感じて気を失った後の事。
ティーダは何処かへと走り、セフィロスとの戦闘はクラウドに任せ、一先ずスコールがジョンを背負い戦線離脱していた時、スコールはその名を口にした。
あの時、ジョンの意識は現実に帰ってきており、独り言だったのであろうスコールの呟きを聞いてしまった。
抱き締めるように零れた言の葉の詳細を、ジョンは聞いていないが、それでも感じる事はあった。
きっとあの名前は、スコールにとって、酷く大切なものだったのだろう────と。

あの時にジョンがスコールに対して感じたのは、それ以前の頑なさや堅苦しさとは違う、青臭さだ。
目覚めていたのにそれを言わず、きっと誰にも聞かれたくなかったのだろう呟きを聞き留めて笑ったジョンに、スコールは顔を赤くして怒って見せた。
その時のスコールの表情は、それまでの刺々しい言動とは裏腹に、随分と幼く見えたものだ。

それを思い出して、ティーダを引き摺るスコールを眺めるジョンの双眸が細められる。


「なんて言うか……スコールって、見た目の割に少し子供っぽい所があるな」
「見た目の割には、か」


ジョンの呟きに、クラウドがくつくつと喉を震わせながら言った。




[ジョン+スコ]不思議なパズル 2

  • 2018/06/08 22:00
  • Posted by


「俺からすれば、スコールは年相応だ」
「そうなのか?」


目を丸くするジョンに、クラウドは前を歩く二人を見るように促した。

二人────スコールとティーダは、いつの間にかまた二人並んで歩いている。
いつまでもティーダをしがみつかせている事にスコールが疲れたのか、ティーダの方が観念したのか。
スコールが面倒臭そうな顔をしながらティーダの話に相槌を打っている所を見ると、前者だろうか。
あれだけ素っ気なくしていたのに、こうなるとスコールは付き合いが良く、ティーダの振る話題に少ない言で答えている。
そんなスコールに、ティーダがまた楽しそうに話をするので、後ろで見ていると随分と微笑ましい光景だ。

身振り手振りに話すティーダと、体は歩くことに終始しているスコールの背中を眺めながら、クラウドが言う。


「警戒心がやたらと強いのは、本人の性格もあるだろうが、育った過程も大きいだろうな。あいつは子供の頃から傭兵になる事を前提とした教育を受けてきたようだから」
「傭兵、か。あいつの世界も殺伐としてるもんだな」
「さて、其処までは。何れにしろ、曲りなりにも戦闘をする人間として育てられた訳だから、危機意識やそれに対する防御意識は強いだろう。何でも最初に疑うのは、その所為もあると思う。ただ、精神の方は未熟な所が多い。それこそティーダと変わらないさ」


感情のベクトルが違うだけで、とクラウドは付け足す。

ティーダは自分自身を奮い立たせる為に、可能な限り目の前にある物事を前向きに考えている。
それでもどうにもならない事や、自分が納得のいかない事には、落ち込んでしまう事も少なくなかった。
彼の場合は感情が正直に表に出易く、素直な性格なので、感情を発散させる事で落ち着きを図る事が出来る。

スコールの場合は、危険を回避する為に、事前に悪いパターンを幾つも考え、防衛策を考えるタイプだ。
この為、想定の範囲内の事ならば素早く対応できるが、突発的な出来事や、自分が考えていた以上の出来事が起こると、思考停止に陥り易い。
案外と感情的になり易い反面、強い理性と理屈で自縄自縛になり、自分の思考をまとめる所か、発散させる事も苦手な節がある。
本陣である秩序の塔にいる際、自分の部屋に閉じこもって出てこない時があるが、その時のスコールは、その日一日の納得できなかった事など、処理が追い付かなかった事を黙々と考えている事が多く、それが済むまでは人との接触を拒む傾向があった。

────二人を並べて語るクラウドの言葉に、確かに正反対だが似ている、とジョンは思う。
脳裏に、自分を挟んで何度となく口論していたスコールとティーダの姿が浮かんだ。
徹底して疑っていたスコールと、最初から信じる、と言って憚らなかったティーダ。
しかし根底にあるのは、どちらもジョンの事を“敵だと思いたくない”と言う気持ちであったから、ジョンが自ら別行動を進言した事により、スコールはようやく疑心を拭う事が出来、“仲間”としてジョンを迎えに行くに至ったのだろう。


「スコールは、理屈と感情で挟まれ易いんだ。優先すべき事は取捨選択できるのは良いんだが、自分の行動と感情が別々の方向を向いている時に、感情の処理が出来ない。引き摺り続けたまま、無理やり理屈に行動を合わせるから、息苦しくもなる」
「複雑な奴だな」
「仕方がないさ。幾ら普段は大人びて見せた振りをしても、中身は学生だからな」
「学生?」


クラウドから零れた思いもよらなかった単語に、ジョンの琴線が引っ掛かる。
目を丸くしているジョンを見て、クラウドはくつりと笑って続けた。


「あんたの世界ではどうかは判らないが、俺やあいつらの世界では、17歳はまだ学生だ。本来、大人から庇護されて然るべき立場なんだよ」
「あー、それで……へ?17?」


納得したと言う表情で頷いた後、ジョンはもう一度目を丸くした。
隣に立って歩く男を見て、また前を歩く二人を見る。
交互に自分と仲間に視線を移すジョンに、クラウドは予想していた通りと言わんばかりに口角を上げ、


「雰囲気に騙される奴は多いんだ」


暗にスコールの年齢を指しての台詞だろう。
同時に、「そうだと思えば判るだろう?」と言うニュアンスも滲んでいる。


(……なる、ほど。成程)


道理で────とジョンの中で、散らばっていたピースがぱちぱちと嵌っていく。
冷静沈着に、当たり前の事だと言わんばかりに、厳しい物言いでざくざくと切り込んでいくかと思えば、何かを堪えるように黙り込んでしまう事もあるスコール。
言葉数が少ないかと思えば、投げ当てられたボールは全力で打ち返さねば気が済まないと言わんばかりの熱し易さ。

17歳と言えば、ジョンの記憶の中でも、微妙な年齢だ。
既に自立した者もいれば、大人の庇護の中にいる者もいるし、環境や立場と言ったものも影響するが、何れにしろ、“大人”とはっきりと括れない事は確かである。
加えてその年齢は、良くも悪くも不安定になり勝ちで、それを無理やり自制しようとしている人物がいた事も、ジョンの記憶には浮かんでいる。

はは、とジョンの喉から笑いが漏れた。
観察している内に、印象とは違う表情を見る事が多く、不思議に思っていた事が、一気に納得に向かう。
その様子を見たクラウドが、「驚いただろう」と何故か自慢げな顔をしているのが可笑しくて、ジョンは余計に笑いを堪えられなくなった。


「はは。あははは!あー、そっかそっか。成程な!」
「そういう事だ」


笑うジョンに、クラウドは肩を竦めて言った。

そのジョンの笑い声に、前を歩いていた二人が怪訝な顔で振り返る。
そうして、後続二人との距離がいつの間にか随分と離れていた事に気付いた。


「おーい!二人とも何やってるんスかー!?」
「置いていくぞ、あんた達」


手を振って早く早くと急かすティーダと、不機嫌そうに睨むスコール。
それを見ながら、ジョンは声を大きくして返した。


「悪い悪い!ちょっと話が盛り上がってさ!」
「話?」
「えー!?何々、何の話?」


眉根を寄せるスコールを置いて、ティーダが自分も混ぜてとばかりに駆け戻ってくる。
それを待たずに、ジョンは言った。


「スコールが意外と可愛い奴だなって話!」
「………はあ!?」


ジョンの言葉に、スコールが目を丸くして声を大きくする。
数瞬の空白の後、スコールの眉が一気に釣り上がり、ふざけているのか───と口が開きかけるが、


「そう、スコールは可愛い奴なんだ」
「なっ……あんたまで何言い出すんだ!?揶揄ってるのか」
「いや、本気で可愛いと思ってる」
「うんうん」


便乗するように言ったクラウドに、スコールの顔に益々血が上っていく。
揶揄なのかと言う言葉をクラウドは真っ直ぐに否定したが、スコールにしてみれば悪ふざけ以外の何物でもないだろう。
ヒクヒクと顔を引き攣らせるスコールを他所に、クラウドは間に挟まれた形できょろきょろと首を巡らせているティーダに声をかけた。


「ティーダもそう思わないか」
「へっ?俺?」
「ああ。スコールは可愛い奴だって。思った事はないか?」
「一杯あるっス!」
「な……」


話を振られて、悩む間もなく即答したティーダに、スコールはいよいよ言葉を失った。
よろりと足をふらつかせ、今にも倒れそうだが、流石に意識は現実に留まったらしく、よろめいただけで済んだ。
が、可愛い、可愛い、と何度も繰り返す三人の仲間に、スコールは状況への理解が追い付かなくなっていた。


「ば……馬鹿な事を言っていないで、足を動かせ!さっさと次の歪に行くぞ!」
「あー!置いてっちゃ嫌っスよ、スコール!」
「煩い!寄るな!近付くな!」
「顔が赤いな~、ひょっとして照れてるのか?」
「そう言う所も可愛いぞ、スコール」
「………!!!」


黙れ、とすら言うのも恥ずかしくなったのか、スコールは逃げるように走り出した。
直ぐにティーダが追い駆け、スタートダッシュ速度の違いであっという間に追いついて背中に飛び付く。
退け離せと怒るスコールだったが、真っ赤な顔で幾ら言った所で、ティーダに効果はない。

ジョンはクラウドと目を合わせ、可愛いよなあ、と言って笑った。



その日のその後、拗ねたスコールは、ジョンとクラウドとの会話を一切拒否した。
そうしてムキになってしまう所も可愛いよなあ、と彼等が和んでいた事は終ぞ知らない。





一回書きたかった朗読劇組の話。
と言うかジョンとスコールの話(会話してるのはほぼクラウドだけど)。
スコールの年齢ネタは何番煎じでパターンみたいなものと化してますが、やはりこう言う反応があると私が楽しい。
そんで帰る前にほんの少しだけこう言う時間があったらなーと。アケディアも参戦しましたし、後に再会したりとかしたら面白い。私が。

このメンバーで行くと、スコール・ティーダが17歳、クラウドが23歳、ジョンが25歳なんだよなーと思うと色々滾る。

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