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2013年03月

[絆]お返しの日です

  • 2013/03/15 01:15
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一時間遅刻しましたが、[絆]でホワイトデー!
[約束が運んだ未来]と繋がっています。


[ないしょのやくそく]

[ないしょのひ 1]
[ないしょのひ 2]

お姉ちゃん大好きな子スコと子ティーダが頑張ります。
ちっちゃい子が一所懸命に何かをしようとするのって、可愛い。

[絆]ないしょのやくそく

  • 2013/03/15 00:53
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一ヶ月前の今日、スコールとティーダは、大好きな姉の作った、ハートや星の形をした可愛いお菓子を貰って、おおいに喜んだ。
口の中でとろりと溶けて行く生チョコに、二人とも口の周りをすっかり茶色にしながら、美味しい美味しいと言って平らげた。
エルオーネが一人で菓子作りをしたのは、殆どこれが初めてだったのだが、弟達を喜ばせるには十分な出来栄えであった。
また、兄のレオンも、エルオーネの作ったチョコレートを貰い、ありがとう、と妹の頭を撫でてやった。

それから一ヶ月が経ち、テレビや街の店先で『White day』の文字が躍るようになって、先月のお返しを用意しないといけないな、とレオンが考えていた所、


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「レオン、レオン」


アルバイトに向かう前に、キッチンで夕飯を作っていたレオンの下に、スコールとティーダがやって来た。

レオンは野菜を刻んでいた手を止めて、小さな弟達を見下ろす。


「なんだ?晩ご飯なら、もうちょっとかかるぞ」
「んーん。ご飯じゃないの」


レオンの言葉に、スコールがふるふると首を横に振る。
その隣で、ティーダがちらちらとリビングを気にしていた。

リビングにはエルオーネが残っており、窓辺のテーブルに座って、宿題のノートを開いている。
悩んでいる様子はないので、順調にこなしているのだろう。

くいくい、とシャツの裾を引っ張られて、レオンは其処にいる弟達に視線を戻した。
手招きの仕草をするティーダに、レオンは首を傾げつつ、膝を追って二人と目線を合わせる。
すると、スコールが小さな小さな声で「あのね、」と言った。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんに、バレンタインのお返し、あげるの?」


ひそひそと、内緒話をするような声で、スコールは尋ねた。
レオンも弟に合わせて、声を潜める事にする。


「ああ。そのつもりだよ」
「お菓子、買うの?」
「いや、作ろうかな。エルも作ってくれたんだから」


買うのが一番手っ取り早いし、失敗する事もないのだが、折角エルオーネが頑張って作ってくれたのだ。
やはり、お返しとなれば、特別に彼女が好きなものを作ってあげたい。
彼女のように、女の子が喜ぶようなデコレーションが出来るか自信はないが、それも頑張ってみよう。

と、レオンが考えていると、


「あのね、あのね、お兄ちゃん」
「ん?」
「エル姉ちゃんのお返し、オレとスコールも作りたい。一緒に作ってもいい?」


二人の小さな手が、レオンのシャツの端をきゅっと握る。
それは、弟達の『おねがい』のサインだった。

スコールもティーダも、お菓子作りどころか、料理自体、殆どした事がない。
兄と姉の手伝いとして、皿を出したり、サラダの盛り付けを手伝ったりはするけれど、何かを切ったり焼いたりと言う経験は一度もなかった。
二人とも8歳になって、初等部の二年生になり、家庭科の授業も加わるようになったけれど、調理実習はまだ始まっていない。

兄を見詰める蒼と青は、真っ直ぐで、真剣な目をしている。
いつの間にこんな貌をするようになったのかな、と思いつつ、レオンは小さく笑みを浮かべて頷いた。


「ああ、良いぞ」
「ホント?」
「ああ。ただし、作っている最中に悪ふざけはしない事。判ったな?」
「はーい!」
「判ったー!」


先程までの潜めた声を忘れたように、スコールとティーダは元気よく返事をした。


「そんでね、レオン、これエル姉ちゃんには」
「あっ、ダメ!ティーダ、声大きい!」


嬉しさの余りか、弾んだ声で言い始めたティーダを、スコールが慌てて止める。
そのスコールの声もまた大きくて、リビングの方でそれを聞いたエルオーネが首を傾げていた。

スコールとティーダは、弾んだ声を消そうとするかのように、それぞれ口を手で覆って押し黙る。
レオンはくすくすと笑って、声を潜めて言った。


「エルオーネには内緒、だな?」
「そう」
「びっくりさせてあげるの」
「だからレオン、エル姉に言ったらダメだよ」
「ぜったい、ぜったい、ダメだからね」


念を押すように、繰り返す弟達の言葉に、レオンは頷く。
絶対だよ、と言う二人の方が、よっぽどうっかりしてしまいそうな事は、決して言うまい。


「詳しい事はまた後で話そうな。エルに聞こえないように」
「うん」
「ん!」
「よし。ほら、夕飯が出来るまでもうちょっとだ。向こうで良い子にしていろよ」
「「はーい」」


ぽんぽんと二人の頭を撫でてやると、スコールとティーダは良い返事をして、とてとてとキッチンから出て行った。

リビングにいたエルオーネが、戻って来た弟達を見る。
二人で手を繋いで戻って来たスコールとティーダは、隠しきれない程に嬉しそうな顔をしていた。


「なーに?二人とも、凄く楽しそうだけど」
「えへへー」
「ないしょー」
「あ、ずるい。レオン、何話してたの?」


弟達と密談をしていたレオンに、教えてよ、と問い掛ける妹。
しかし兄は、くすりと小さく笑みを浮かべて、調理台へと向き直り、


「悪いな。内緒だ」
「えー?」
「ないしょー」
「ないしょー」
「なあに?私だけ仲間外れなの?」
「違うのー!」
「違うけどないしょー!」


傷付いた顔をして見せる姉に、スコールがそうじゃないと一所懸命に言って、ティーダもそうじゃないけど内緒なんだと繰り返す。
両手をばたばたと羽のように羽ばたかせ、違う違うと必死になる弟達を前に、エルオーネは本当かなあと疑う表情を浮かべる。
しかし、よくよく見ればその表情は、悪戯を思い付いた子供のものとよく似ている。

きちんと内緒に出来るだろうか。
姉を傷付けたくない思いで、早くも揺れ始めている弟達の心を察して、レオンはくつくつと笑った。




≫[ないしょのひ]

隠し事が出来ないちびっ子たち。
適当な所で、お姉ちゃんが「信じるね」って弟達を宥めて終わりです。

[絆]ないしょのひ 1

  • 2013/03/15 00:47
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バラムガーデンの春休みは、他国の就学機関に比べると、早く始まるらしい。
レオンは生まれ故郷にいた時でさえ、学校と言うものに入った事がないので、現在のクラスメイトから聞いた話だ。
代わりに春休みの終了も早く設定されているのだが、経営しているクレイマー夫妻曰く、この辺りはまだ調整中の段階らしい。
設立してからまだ五年も経っていない事と、増える生徒達の郷里事情等々を考慮したいと言う気持ちで、今は年毎に細々とした日程が変更されている。

今年の春休みも、例年通り早目に始まり、バラムの街では平日に遊びに出掛ける若者が増えた。
エルオーネもその一人で、ガーデンで仲の良いクラスメイト達とウィンドーショッピングに行っている。
────その時間が一番のチャンスだと、レオンは考えていた。

昼食を食べた後、友達と遊びに行ってくる、と言って出掛けたエルオーネを見送った後、レオンは弟達と一緒に今日分の春休みの課題を片付けた。
うんうん唸るティーダが、きちんと自分で答えを見つけられるまで根気強く教えていたので、終了するまでに少々時間がかかったが、それでも時計は午後3時前。
エルオーネが帰って来るのは夕方なので、これ位なら問題ないだろう、とレオンは判断した。

そして、この日の為にと弟達に買ってやったエプロンを身に付けさせ、自分も手本になるようにと、ガーデンの裁縫の授業で作った自前のエプロンを結び、


「よし。準備は出来たな?」
「はーい!」
「おーっ!」


レオンの確認に、スコールとティーダは元気良く返事をする。

レオンは窓辺のテーブルの上に大きなビニールを広げ、その上に溶かしておいたバター、小麦粉やココアパウダー等の材料の他、ボウルやホイッパーを並べる。
作るのはプレーンとココアの型抜きクッキーで、焼き上がったらチョコペンやアイシングでデコレーションをするのだ。


「じゃあ、最初は材料を量る所から」
「オレ!オレやりたい!」
「あっ、ずるい!」


やる気満々の二人は、先を争ってやりたいやりたいと主張する。
レオンはスコールの頭をぽんぽんと撫でて宥めてやった。


「量るものは一つじゃないから、交代で順番にしよう。早かったから、ティーダが先だな」
「やった!」
「……むぅ」


ぷく、とスコールの頬が不満そうに膨らむ。

レオンは、量り台の上にボウルを置いて、重さで動いた針をゼロの位置へ戻すと、大きめの計量スプーンと一緒に砂糖の入った袋をティーダに渡した。
ティーダはスプーン一杯に砂糖を掬い、ボウルへと移していく。
繰り返していると、目標だった数値をオーバーしてしまったのを、スコールが見付けた。


「ティーダ、ストップ。お砂糖、多いって」
「えっ……えーっと、えっと…」
「うん、確かに多いな。ティーダ、少しずつ砂糖をこっちに戻して」


レオンに言われた通り、ティーダはボウルの中から袋へ、少しずつ砂糖を戻していく。
スコールは、ゆっくりと量り台の針が戻って行くのをじっと見詰め、


「ストップ!」


針がぴったり目標に達した所で、スコールは言った。
ティーダは思わず、砂糖を掬った姿勢でぴたりと固まる。
レオンはそんなティーダにくつくつと笑って、砂糖の袋に最後の一匙を戻すように促した。

次は別のボウルを使って、スコールが小麦粉の分量を量る。
ティーダと同じように計量スプーンを使って移すスコールだが、几帳面に、一匙入れる量る毎に重さを確かめている。
レオンはくすくすと笑って、退屈そうにしているティーダの頭を撫でながら、


「スコール、そんなに毎回、目盛を見なくても良いんだぞ」
「だって、丁度良いのが判んないんだもん」
「そんなに直ぐには丁度良くはならないさ。目盛を見るのはティーダに任せて、スコールは零さないように気を付けて、続ければいい」


レオンの言葉に、ティーダが「オレ?」ときょとんとした顔で見上げる。
スコールがティーダを見て、蒼と青が交じり合い、


「オレ、数字見る!」
「ちゃんとストップって言ってね」
「ん!」


役目を与えられた事が嬉しかったのだろう、弾んだ声で言うティーダに、スコールがお願いする。
しばらくすると、几帳面なスコールらしく、小麦粉は分量ぴったりで止まり、ティーダも其処でストップを言って、材料の量りは終わった。

小麦粉の入ったボウルは横に置いて、レオンは砂糖の中に溶かしたバターを入れる。
ホイッパーでカシャカシャと小気味の良い音を立てて掻き混ぜていると、半透明の黄色だったバターが色を変えて行き、左右それぞれからじっと熱い視線がそれを見詰めている。
こんもりと山を作っていた砂糖が、少しずつバターの中に溶けて行く。

うずうず、うずうず。
左右でそわそわとする気配を感じて、レオンはバターがとろりとして来たのを確認し、


「スコール、やってみるか?」
「うんっ」
「オレは?」
「ティーダは後で、な」


さっきはティーダからだったから、今度はスコールから。
先程とは逆に、スコールは嬉しそうにボウルとホイッパーを受け取り、ティーダは不満そうに頬を膨らませる。

かちゃかちゃ、かちゃかちゃとホイッパーとボウルがぶつかり合う音が響く。
スコールは、たどたどしい手付きで、一所懸命にバターを掻き混ぜていた。
頑張った甲斐あって、バターは更に色を変え、半透明の黄色だったそれは、程なく白っぽいものになった。


「上手いな、スコール」
「ほんと?」
「ああ」


兄に褒められて、スコールが嬉しそうに頬を赤らめる。

白っぽくなったバターに、レオンが卵を入れて、またスコールが混ぜる。
卵が入ると、クリームのように軽く柔らかかった生地が固まり始め、ホイッパーにまとわりつくようになった。
スコールは頑張って生地を混ぜ続けていたが、慣れない作業で腕に疲れが出始める。
それでも気合いで混ぜ続け、何処に力を入れているのか、スコールは顔を真っ赤にしながら、もたもたと腕を動かしていた。

うーうー唸りながら格闘するスコールに、レオンはそろそろ限界か、と眉尻を下げる。
素直に放してくれると良いんだが、と思いつつ、レオンはボウルに手を添えた。


「スコール、変わろう」
「んぅ…」
「疲れただろう?」
「……はぁい」


もうちょっとやりたい、と大きな丸いブルーグレイは言っていたが、疲れていたのも事実。
スコールは眉をハの字にして、ボウルとホイッパーをレオンに渡した。

それを見たティーダが、待ってましたとばかりにレオンに飛び付く。


「レオン、次!次オレがやる!」
「ああ。ほら、落とさないように気を付けろよ」


レオンからボウルとホイッパーを譲られ、ティーダの目がきらきらと輝く。
よし、と気合を入れるようにティーダはボウルと向き合い、


「うりゃあああああああああ!」


ガッシャガッシャガッシャガッシャ、ガッシャガッシャガッシャガッシャ。

やる気を漲らせたティーダのホイッパー捌きは、凄まじかった。
スコールは、なるべく周りにバターを飛び散らせないようにと遠慮勝ちに混ぜていたのに対し、ティーダは遠慮も何もなく、只管腕を上下に振るっている。
長かった退屈の鬱憤を晴らすかのように、ティーダは勢いよく、実に豪快に、ボウルの中の生地を掻き混ぜた。

卵が生地の繋ぎになるので、バターと砂糖だけの時に比べ、もったりと重くなっている。
それを振り払うように、力を入れてホイッパーを操るのは良いのだが、


「やあー!」
「うりゃうりゃうりゃ!」
「ティーダ、ちょっと待て、飛び散ってるから!」
「ティーダ、ストップー!」


白やら黄色やら、どろりとした液体のような固体のようなものが、テーブルのあちこちに飛び散る。
レオンやスコールの顔にも服にも、勿論ティーダの顔も髪もエプロンも、生地でびちゃびちゃだ。

レオンとスコールの声に、ティーダはぴたりと掻き混ぜるのを止める。
きょとんとした表情でレオンを見上げるティーダは、自分のやり方の何が悪かったのか、理解していないようだ。
そんなティーダに、スコールはむぅと眉を吊り上げた。


「ティーダ、遊んじゃダメ!」
「遊んでないよ」
「悪ふざけしちゃダメって、お兄ちゃん言ってたのに」
「悪ふざけなんてしてないよ」
「してた!」
「してない!」


悪ふざけをした、していない、と言い合う二人に、レオンは溜息を一つ。

ティーダは至って真面目であった。
悪気があって生地を撒き散らしていた訳ではなく、ただ勢いが良過ぎて、それが空回りしているだけ。
しかし、スコールにはティーダがふざけて遊んでいたようにしか見えなかった。

レオンは濡らしたタオルをキッチンから持ち出し、ティーダと言い合いをしているスコールの顔を拭いてやった。
それから、やはり言い合いをしているティーダの顔や髪についた生地を綺麗に拭き取った後、


「ティーダがガサツだから」
「スコールがしんけーしつなんだよ!」
「スコール、ティーダ。ケンカをするなら、もう手伝わせないぞ」


滅多に聞かない、怒気を含んだレオンの低い声に、スコールとティーダがぴたっと固まる。
それから、恐る恐る、蒼と青が兄を見上げ、仁王立ちを見下ろすレオンを見て、また固まった。


「ケンカしてたら、美味しいお菓子が作れないぞ」
「……う……」
「エルオーネに、お返しをするんだろ?」
「……ん……」


レオンの言葉に、スコールとティーダが小さく頷き、


「…ご…ごめんなさい…」


消え入るような小さな声で、スコールとティーダは言った。
二人はエプロンの端を握り締めて、泣き出しそうな顔をしていた。

レオンは二人の言葉を聞いても、しばらくの間、眉尻を吊り上げた厳しい目をしていたが、すっかり縮こまった二人の姿に、ようやく頬を綻ばせ、


「皆で一緒に、仲良く作ろう。その方が、エルオーネも喜んでくれるぞ。良いな?」
「はいっ!」
「うん!」


レオンの言葉に、二人の弾んだ声が返る。
良い返事だ、と濃茶色と金色の頭を撫でてやれば、二人は嬉しそうに頬を赤らめた。



≫[ないしょのひ 2]

ティーダならやりそうだなって……勿論悪気はありません。真剣です。
スコールなんかは恐る恐る始めて、もっと思い切りやっていいぞって言われるタイプだと思う。

[絆]ないしょのひ 2

  • 2013/03/15 00:42
  • Posted by

一時の険悪なムードを取り払った後は、順調だった。

卵を混ぜ込んだ生地に、バニラエッセンスを振ると、バターの匂い程度しかしなかった生地から、甘くて美味しそうな匂いがする。
涎を垂らすティーダを諌めつつ、レオンは手早くエッセンスを混ぜ込んだ。
小麦粉を少しずつ入れて、三人で交代しながら混ぜていると、カスタードクリームのようにとろとろとしていた生地が、生地らしく塊になって行く。

まとまった生地を冷蔵庫でしばらく寝かせ、その間に少し休憩していると、スコールとティーダは眠ってしまった。
お菓子作りなんて初めてで、幼いなりに頑張ったのだ。
レオンは予定よりも長めに生地を休ませる事にし、自分も30分程度の仮眠を取った。

目を覚ましたら、冷蔵庫から生地を出し、テーブルの上のビニールに打粉をする。


「お兄ちゃん、これ何?」
「小麦粉だ」
「なんでテーブルにまくの?」
「こうして置くと、生地がテーブルにくっつかなくて、伸ばし易いんだよ」


冷たく固くなっていた生地をテーブルに置くと、ティーダが恐る恐る、それに触れた。


「レオン、これ固いよ」
「冷えたからな」
「ここから型抜きするの?」
「伸ばしてからだよ」


ティーダの問いに答えながら、レオンは綿棒と自分の手にも打粉をまぶす。

白くなった手で生地を揉む。
最初は手の中で固い感触があったが、少しずつそれは柔らかくなって行った。
適当に柔らかくなった所で、レオンは綿棒で生地を円形に平たく伸ばしていく。


「ピザみたい」
「ピザはこうじゃないよ。指でこーやって回すの」
「あ、そっか」


塊だった生地は、どんどん大きくなって行く。
綿棒の端から端が届かなくなるまで伸ばした所で、レオンはじっと見守る弟達を見回し、


「さあ、型を抜くぞ」
「わーい!」
「やった!」


待ってましたとばかりに、スコールとティーダが嬉しそうに跳ねる。

テーブルに並べられた型は、ハートや星、ツリー、犬、猫、うさぎ、等々。
元々はイデア・クレイマーが孤児院を経営していた頃に使っていたもので、ガーデン設立時、レオンが妹弟と共にバラムに残った時、家と一緒に譲って貰ったものだ。
可愛らしい型でお菓子を作ると、妹弟達がとても喜ぶので、重宝している。

スコールとティーダは、あれもこれも、こっちも、と楽しそうに型を抜いて行く。
型抜きした生地は、クッキングシートを強いたオーブン用のプレートの上に並べられた。


「お兄ちゃん、型が取れる所、なくなっちゃった」
「もう終わり?」


つまんない、と言う表情で見上げる弟達に、レオンは大丈夫、と言って、細切れになっている生地を集めた。
もう一度塊にして伸ばせば、先程よりは小さいが、また生地が復活する。

型を抜き、切れ端を集めて練り直して伸ばし、また型を抜く。
何度も何度も繰り返していると、プレートの上には沢山の型抜き生地が並べられていた。


「これだけあれば、もう十分かな」
「おしまい?」
「うー…」


もっとやりたい、と言う二人の貌。
しかし、こればっかりは、レオンにも無理だ。
残った生地は、捏ねて指先で潰せる程度しか余っていない。

余った生地を平たく潰してプレートに乗せ、予熱を済ませて置いたオーブンに入れる。
タイマーをセットしてスイッチを入れると、ブゥン、とオーブンが動き始める音がした。


「どれくらいで焼けるの?」
「20分ぐらいだな」
「美味しくできる?」
「ああ、大丈夫だ」


ライトの点いたオーブンの中を、じっと食い入るように見つめる弟達。
レオンは、オーブンの前にぴったりとくっついて離れない様子の二人にくすりと笑みを漏らす。

二人がオーブンに夢中になっている間に、デコレーションの用意をしておく事にする。
ポットの湯でチョコペンを溶かし、色つきの粉糖に水を加えて、アイシングの準備を整えておく。

オーブンの中を見詰めていたスコールとティーダが、わあ、と楽しそうな声を上げるのが聞こえた。


「良い匂いしてきた!」
「お兄ちゃん、良い匂いする!」
「ああ」
「これ美味しい!絶対美味しい!」
「お姉ちゃん、喜んでくれるかな?」
「絶対美味しいもん、絶対喜んでくれるって!」


ぴょんぴょんと跳ねて言うティーダにつられるように、スコールもぴょんぴょんと跳ねている。


「僕ね、お姉ちゃんにね、ありがとうって書くの」
「オレも。オレも書く!」
「ピンク色で書くの」
「オレ、青にする」
「それとね、だいすきって書いて、それから…」
「あと、エル姉ちゃんの顔書いて、あと、えっとー」


指折りしながら、エルオーネへのメッセージを考えているスコールとティーダ。
楽しそうに計画する弟達の声を聞きながら、レオンはリビングの壁時計を見た。
時刻は4時半を回っており、エルオーネが帰って来る夕方には、まだまだ余裕がある。
この分なら、デコレーションを焦る事もなく、のんびりと考える事が出来るだろう。



────エルオーネが帰って来たら、夕飯よりも先に、出来上がったクッキーを見せよう。

弟達が頑張って作ったクッキーを、彼女はどんな顔をして受け取るのだろうか。
いつも自分の後ろをついて来るばかりだったスコールや、無邪気で甘えん坊なティーダが、いつの間にか、誰かの為にと一所懸命に何かを頑張るようになっていたなんて、彼女は知っていただろうか。
毎日見ている筈なのに、知らない所でいつの間にか成長している弟達を見て、彼女は何を思うだろう。

きっとそれは、一ヶ月前の今日、レオンが感じたものとよく似ているものに違いない。
あの日の朝、冷蔵庫を開けた時に入っていたものを見て、レオンがどんなに驚いたか、どんなに嬉しかったか、彼女がそれを知る事はないだろうけれど。


オーブンが焼き上がりの音を鳴らす。
早く早く、と急かす弟達を宥めながら、レオンはオーブンの蓋を開けた。





大好きなお姉ちゃんの為に、ちびっ子たちが頑張りました。

ちびっこがオーブンの前でじーっと中を覗き込んでるのって可愛いと思う。

通販の発送を完了しました

  • 2013/03/09 20:56
  • Posted by

2013年2月中にご注文を頂きました、通販の発送を完了致しました。
私事により、発送が大幅に遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

平時、発送宛の方には、発送完了のメールを送るようにしているのですが、現在、私が使用しているメールアドレスがトラブルにより使用不可な状態に陥っている為、発送完了のメール送信を省かせて頂いております。
現在、復旧を急ぎつつ、代理のメールアドレス取得の手続きをしております。
2月中に通販を申し込んで下さった方、本日(3月9日)より二週間が経ってもお手元に届かないようでしたら、郵便事故の可能性がありますので、お手数ですが、拍手にてお知らせ下さい。返信は日記ページ(PCスマホ対応・ガラケー対応両方)にて行います。

CGIから通販の申し込みをして下さった方には、携帯電話で迷惑メール防止対策などを設定していない限り、自動の返信メールが届いている事と思いますので、其方のメール内容に従って、必要なもの(定額小為替・宛名シール・送料分の切手)を記載の住所までお送り下さい。
フレーム未対応ページから申し込みをして下さった方は、申し訳ありませんが、受諾メールの返信までもう暫くお待ち下さい。復旧次第、メールを送信させて頂きます。

この度はご迷惑とご心配をおかけして、大変申し訳ありませんでした。

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