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2012年10月30日

[パラレル]アンフリー・フォトグラフィ

  • 2012/10/30 01:22
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[鼓動は本物]で書いた芸能人レオンの、高校生の頃の話。読者モデルやってました。
長くなったので4つ+aに分割しました。

アンフリー・フォトグラフィ 1
高校生(読者モデル)時代のレオンと、7歳の子スコ

家族旅行計画中
↑の合間の話。レオンと子スコとジェクト

[レオン&子スコ&ジェクト]家族旅行計画中

  • 2012/10/30 01:07
  • Posted by

[アンフリー・フォトグラフィ]の中に書いたのですが、本編と関係なかったのでこっちに分割。

レオンとジェクトの絡みがなんか好き。
あとお兄ちゃんの真似をして、無意味な行動も一所懸命なちびっ子も好き。




兄に手を引かれて、知らない道を歩くスコールは、きょろきょろと忙しなく辺りを見回してばかりいる。
あまり活発な子供ではないスコールは、行動範囲も限られているから、ちょっと遠出をするだけで見知らぬ風景に出逢う事になる。

今日はバスを乗り付いで、都会の真ん中にある大きなビルに入った。
其処には沢山の人が忙しなく出入りをしていて、レオンを見かけると手を振ってくる大人が沢山いて、レオンはその一人一人に頭を下げて挨拶していた。
中には近付いて声をかけて来る人もいて、スコールを見付けると「ああ、この子が例の。へえ、可愛い子だね」と言った。
人見知りが激しいスコールは、直ぐにレオンの後ろに隠れてしまっていたけれど、レオンは大人達の言葉にとても嬉しそうにしていたのが判った。

レオンは広いロビーの受付に向かうと、カウンター向こうの女性と何言か遣り取りをしてから、紐のついたカードを受け取った。


「スコール、これを首にかけるんだ。入って良いですよって証拠だから、落としたら駄目だぞ」
「うん」


柔らかな紐が首の後ろに引っ掛かった。
スコールがカードを見てみると、スコールの名前と、『身元保証人』の欄にレオンの名前が書いてあり、それらの上に大きく『入場許可』と書いてあったのだが、まだ小学一年生で難しい漢字を習っていないスコールには読めなかった。
しかし、なくしてはいけないもの、と言う事は判ったから、紐をぎゅっと握って落とさないようにしっかりと持つ。

レオンは再びスコールの手を引いて、改札口のような入口───入場ゲート───に向かった。
鞄から許可証を取り出して、警備員に翳して見せた後、ゲートに読み込ませる。


「スコール、警備員さんにさっきのカードを見せて」
「はい。どうぞ」


首にかけていた紐を取って、警備員に見せる。
取らなくてもカードはきちんと警備員の目に届くのだが、幼い子供の可愛らしいその様子に、警備員は小さく笑ってくれた。
どうぞ、と促されたスコールは、レオンの真似をして、カードをゲートの読み込みに当てる。
それも必要のない行為なのだけれど、幼い子供のする事だ、見ている者は和むしかない。

近くのエレベーターに乗り込むと、小さな空間の壁に沢山のポスターが貼られていた。
其処に知っている姿を見付けて、スコールはあっと声を上げる。


「お兄ちゃん、オーちゃんがいる。ランちゃんもいる」


それは、スコールが毎日見ている子供向け番組のキャラクター達だった。
二足歩行の犬や猫、ウサギやカバが、手を振ったり跳ねたりしている姿がポスターに散りばめられている。
そのポスターには大きく番組タイトルと一緒に『オーちゃんたちに会いに行こう!』とルビつきで書かれていた。


「そう言えば、もう直、この番組のステージがこの辺りに来るんだったな」
「オーちゃん来るの?会えるの?」


レオンの言葉に、スコールはきらきらと目を輝かせる。
いつもテレビで見ているキャラクター達に、生で、本物に逢えると思ってか、蒼の瞳は期待で一杯だ。


「そうみたいだな。逢いたいか?」
「うん。……だめ?」


お兄ちゃん、おしごと、いそがしい?
ことんと首を傾げたスコールの瞳が、先程とは正反対の寂しそうな色を宿す。
レオンはポスターに載っている日付と、頭の中のスケジュール帳を確認して、


「大丈夫、空いてるよ。オーちゃん達に会いに行こう」
「ほんと?」
「ああ。エルの風邪が治ったら、エルとエルのお母さん達も誘ってみよう。父さんは……難しいかも知れないけど、ひょっとしたら、お休み取ってくれるかも知れないな。帰って来たら教えてあげよう」
「うん!」


レオンとスコールと、父と、エルオーネと、エルオーネの両親と。
皆が揃ってお出かけ出来る日は滅多にない。
スコールの希望をまるごと叶えてあげられるかは判らないが、とにかく、一度頼んでみよう、とレオンは思った。
そして、大人達が無理でも、自分が可愛い弟と妹を楽しませてやろう、と。

エレベーターを降りると、其処は沢山の大人が右へ左へ、バタバタと忙しなく走り回っていた。
かと思うと、のんびり休憩スペースで缶コーヒーを傾けている大人もいる。

休憩していた大人の一人とレオンの目が合った。
よう、と手を上げたその人に、レオンが頭を下げて挨拶すると、大人は缶コーヒーを片手に腰を上げて、此方へと歩み寄って来る。
その人は、不精髭を生やした大柄な体躯で、まるで巨大な熊のよう。


「スコール?」


スコールは、こそこそと兄の背中に隠れた。
ぎゅっとスラックスの端を握って体を寄せて来るスコールに、レオンは宥めるように柔らかい髪を梳いてやる。

兄の目の前まで来た大人は、やはり、大きかった。
筋肉が盛り上がり、腕はまるで丸太のように太く、着ているタンクトップが悲鳴を上げているかのようにパンパンに伸びている。


「おはようございます、ジェクトさん」
「おはよーさん。その呼び方な、止めろっつったろ?ジェクトで良いって」
「そういう訳にも……」
「なぁんか違和感あるんだよな、さん付けってよ」
「努力はしてみますけど……急には、無理ですよ」
「頼むわ。なーんか首のあたりが痒くってよぉ。……で、そっちのチビが例の?」


大人はぐっと体を縮めて、スコールに顔を近付けた。
間近で見た無精髭と赤い瞳が怖くて、スコールはびくっと竦み上がる。
ぎゅう、と兄の腰に顔を押し付けた。


「こら、スコール。ちゃんと挨拶しろ」
「……!」


兄の言葉に、ぶんぶんとスコールは首を横に振って、レオンにしがみ付く。
すっかり怯えていると判る弟の仕草に、レオンは眉尻を下げて大人に詫びた。


「すみません。人見知りが激しくて……」
「ああ、いいって事よ。うちのガキもそんなもんだ。大体、俺のツラはガキ向けじゃねえらしいしな」


大人の言葉に、レオンは苦笑いを浮かべる。
目の前の男の顔付は、確かに彼の言う通り、幼い子供には強面に見えてしまうものだったからだ。
鍛え抜かれた大きな体も、レオンから見ても迫力があるから、小さな子供からすればもっと大きく感じてしまうものだろう。

レオンは、助けを求めるようにしがみ付いて来るスコールの頭を撫でて宥めながら、


「ジェクト…さん…は、これから撮影ですか?」
「ああ。ボディビルダー系の雑誌でプロ選手の特集やるってんでな、俺にお声がかかった訳よ。インタビューもあるってんで、ブリッツの事もしっかり宣伝させて貰うつもりだ」
「確か、一昨日も同じような撮影があったんじゃ…」
「あった、あった。ファッション雑誌の方な。お陰でこちとら休む暇がねぇや」
「大変ですね、オフシーズンなのに。家族サービスとか、あまり出来ていないんじゃないですか?」
「そうなんだよ。お陰でうちのガキ、拗ねっ放しでよ」
「テレビや雑誌の出演も良いですけど、たまにはゆっくり休みを取ったら良いんじゃないですか。今度、子供向け番組の舞台がありますから、連れて行ってやるとか」
「あー……ま、その内な」


曖昧な返事をして、じゃあな、と大人は背を向けた。
廊下の向こうで彼を呼ぶ声があったのだ。
恐らく、収録が始まるのか、或いは打ち合わせの時間になったのだろう。

スコールがそっとレオンの陰から顔を出すと、大人はもう遠くになっていた。
ほっと安心した吐息を吐くと、じっと視線を感じて頭を上げる。
見詰める蒼が、しようがないな、と苦笑しているのが見えた。


「今の人、見覚えなかったか?」
「……?」
「そうか。じゃあ、仕方がないな」


スコールは、今の大人を見たことがあった。
彼は最近流行っているブリッツボールと言うスポーツのプロプレイヤーで、所属チームを何度となく優勝に導いている“キング”だった。
そんな彼は、夕方放送の教育番組で、先日、子供達に解説していた。
簡単なパス練習や泳ぎの練習、シュートの蹴り方等を教えていて、スコールもその番組を見ていたのだ。
豪快で気風が良く、手本として見せる泳ぎやシュートを決める姿は、あまりスポーツに興味がないスコールにも格好良く見えた。

しかし、その時見たテレビの向こうの人物と、目の前にいた男が同一人物であるとは、まだ幼いスコールにはピンと来なかったようだ。
ことん、と不思議そう首を傾げる弟に、レオンはくすくすと笑ったのだった。




頑張ってお兄ちゃんの真似をする子スコが書きたかった。

ジェクトもこっそり家族計画を考えてはいるのです。でも踏ん切りつかないし、あまり遠出も出来そうにないしで悩んでた所。
後日、レオン一家とエルオーネ一家と、イベント会場でばったり会うんだと思います。

[レオン&子スコ]アンフリー・フォトグラフィ 1

  • 2012/10/30 01:06
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芸能人レオンの高校生時代。読者モデルやってました。
スコールは7歳で小学一年生。お兄ちゃんお姉ちゃん大好き。




「はい……すみません。ありがとうございます」


電話相手が、仕方なさそうに、けれども了承してくれた事に感謝しつつ、レオンは携帯電話の通話を切った。
ほっと一息吐いて、携帯電話を制服の内ポケットに仕舞うと、じっと隣でレオンの顔を見上げていた小さな子供に視線を落とす。
何処か不安げに見える、大きな丸い蒼色に、レオンは口元を緩めて笑いかけてやった。


「おうちでお留守番はなし。今日は俺と一緒だ」
「ほんと?」


ぱっと明るい表情になった子供は、レオンの弟のスコールだ。

今年で小学一年生になったスコールは、いつもならこの時間───レオンの高校の授業が終わる午後四時半頃───は家に帰って留守番をしている。
ただし、一人で、ではない。
隣家に住んでいる4歳年上のエルオーネと言う女の子が、一人ぼっちを嫌がるスコールと一緒に、レオンの帰りを待っているのだ。

レオンの家は、母はスコールが生まれて間もなく逝去し、父は多忙で殆ど家に帰らない為、レオンとスコールの二人で毎日を暮らしている。
隣家には小学5年生の女の子が住んでおり、彼女はレオンにとっては妹、スコールにとっては姉的存在だった。
そのエルオーネが、今日は風邪を引いてしまったらしく、小学校も早退して帰ったらしい。
彼女の母からその旨をメールで教えて貰ったレオンは、自分の授業を終え、いつもならば仕事先に向かう所だった足を、一端、一人ぼっちの弟が待つ家へと向け────今に至る。

高校生であるレオンの仕事とは、ファッション雑誌のモデルだった。
街角でスカウトされ、父に相談して渡された名刺が怪しくないか確認した後、「社会学習って事でいいんじゃないか」と了承を貰った。
レオンがモデルの仕事などと言うものを引き受けようと思った理由は、モデル料も少ないながら出ると言うし、家計の足しに出来るのではないかと思ったからだ。

この仕事は終わる時間が不定期なので、何時に帰るよ、と言って弟を安心させてやる事は出来ない。
だから、エルオーネにスコールの世話を頼んでいたのだが、今日はそれが出来ない。
一人ぼっちで、広い家でぽつんと待っているのは、寂しがり屋のスコールには酷く辛いことなのだ。
かと言って、仕事は休ませて貰えそうにないし、と思案した結果、レオンはスコールを仕事場に連れて行けないかと考えた。
先の電話はこの確認を取っていた所だったのだ。

スタジオで先に待っているマネージャーからは、スコールが大人しいこと、騒いだりする子供ではない事を伝え、昨今の物騒な世の中、6歳の子供が一人で家にいるのは危険だと言う事もあって、連れて来ても良いと言って貰えた。
これにレオンは安心し、スコールも「一人ぼっちで我慢しなくていい」と聞いて、ようやっと不安から解放されたのある。

にこにこと嬉しそうに笑っていたスコールが、きゅっとレオンの制服の裾を握った。


「お兄ちゃん、これからおしごと?」
「ああ」
「僕、ついていっていいの?」


確かめるように尋ねるスコールに、レオンは大きく頷いた。
途端、ぱああ、とスコールの表情が喜びの色で一杯になる。


「お兄ちゃんのおしごと、見てもいいの?」
「ああ。ただし、大きな声を出したりしたら駄目だぞ。きちんと静かに、良い子にしている事。出来るな?」
「うん。僕、良い子にしてる」


きらきらと輝く蒼の瞳と、ぎゅっと意志の強さを暗示するかのように握り締められた小さな拳。
よし、とくしゃくしゃと頭を撫でてやれば、スコールはくすぐったそうに笑った。

それからレオンは、手早くスコールに余所行きの服を着せ、自分は制服のままで家を出る。
スコールは、兄と一緒にいられるのが余程嬉しいのか、足取りがぴょんぴょんと弾んでいた。


アンフリー・フォトグラフィ 2

[レオン&子スコ]アンフリー・フォトグラフィ 2

  • 2012/10/30 01:04
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「失礼します」


挨拶をしながら、撮影スタジオのドアを開ける。
其処は30坪程の広さで、カーテンやパーテーション等で空間を仕切りつつ、小さいながらも様々なセットが用意されていた。
撮影用のセットの周りには大人達がいて、傍のテーブルに並べた服を見ながらああでもないこうでもないと話し合っている。

此処がレオンの仕事場である、ファッション雑誌の撮影スタジオだ。
一般人の小さな子供には中々縁がないであろう空間に、スコールが緊張したようにレオンの腰に抱き着いた。
見たこともない大きな機械───撮影機材だ───が並び、知らない大人が沢山いて、彼らが皆一様に真剣な顔つきで話し合っているのを見て、空間の緊張感が伝染してしまったようだ。

レオンはスコールの手を引いて、話し合いをしている大人達の元に合流した。
ついて来る弟の足が、少し重そうに感じられるのは、気の所為ではあるまい。


「おはようございます。遅くなってすみません」
「ああ、おはよう。大丈夫、いつも通り、ちょっと早いくらいだよ」


挨拶をしたレオンに、黒縁眼鏡の男性がにこやかな笑みを浮かべて言った。
続いて、他の大人達もレオンに「おはよう」と挨拶をする。

その声を聞きながら、スコールは変だなあ、と思った。
今は朝じゃないし、夕方だし、寝て起きたばかりでもないのに「おはよう」なんて。
「こんにちは」じゃないのかな、と思って兄と大人達の様子を見詰めていると、一人の女性とスコールの目が合った。


「あら。その子ね、電話で言ってた子って」
「ホントだ。やだ、かわいい~!」
「!」


集まってくる女性達に、スコールはびくっと身を固くした。
ぎゅうっと力一杯兄にしがみついて、顔を隠す。


「あら」
「スコール」
「…ふぇ……」


兄が咎めるように名を呼んだけれど、スコールは挨拶どころではなかった。
じわじわと目の周りが熱くなってきて、喉が引き攣って、怖くて怖くて仕方がない。
ぶんぶんと頭を振って、怖い気持ちを訴えるように兄の制服に皺を作って抱き着く。


「…すみません。人見知りが激しくて」
「そうなの。何歳?」
「7歳です」
「二年生?」
「いえ、一年生です」
「いや~ん、かわいい~。抱っこしたいなぁ」
「おいでー、怖くないよー」


女性スタッフは膝を折って、にこにこと柔らかい笑顔でスコールに声をかけるが、スコールはレオンにしがみついたまま離れようとしない。

無心に弟に頼られるのは、兄として嬉しいことだ。
けれど、このままでは仕事にならない。


「スコール、大丈夫だ。怖い人は此処にはいないから、そんなに構えなくて良い」
「………」
「ほら、ちゃんと顔を見てごらん。怖い人、いるか?」


レオンに促されて、スコールは恐る恐る、周りを見回した。
自分達を囲む大人は、皆優しい笑顔を浮かべていて、兄の言う通り、怖い人じゃないんだと判った────が、


「おーい、早く始めようぜ。後が詰まってるんだから!」


撮影セットの前でカメラの調整をしていた男が振り返る。
男は無精髭に磁石式のサングラスをしていて、ミリタリー系のジャケットを着ている。
声は煙草の所為であろう、しわがれた声は余り通りが良いとは言えない為、広いスタジオでは必然的に大きな声を出さなければならない。
ついでにその口調は、お世辞にも品が良いとは言えず。

落ち付きかけていたスコールの目に、大粒の雫が浮かび上がる。
おーい、と男がもう一度声を出し、その声が殊の外スタジオ内に響いたのが決定打になった。


「うえぇぇええぇええん!」
「おい、スコール。大丈夫だ、大丈夫だから。な?」
「ひっ、ふぇ、えっ、おにーちゃ、おにいちゃあぁあん!」
「お兄さんの言う通りよ~、あのおじさん怖いのは見た目だけだから!」
「ほらほら、飴あげる!おいしいよ~」


泣き出したスコールをレオンが抱き上げ、ぽんぽんと背中を叩いてやる。
女性スタッフ達も、テーブルに置いていた飴やジュースを差し出して、小さな子供を慰めようと必死だ。
最早、仕事を始める所の話ではない。

期せずしてスコールを泣かせてしまった原因となってしまったカメラマンは、これにより暫く女性スタッフ総勢から睨まれる羽目となり、後日トレードマークだった髭を剃ってサングラスも外す事となった。



アンフリー・フォトグラフィ 3

[レオン&子スコ]アンフリー・フォトグラフィ 3

  • 2012/10/30 01:02
  • Posted by



カメラのシャッターを切る音と、同時に光る眩しいフラッシュ。
それらを沢山浴びながら、セットの前でリクエストに応じながらポーズを変える兄を、スコールはスタジオの隅からじっと見ていた。

不慣れな環境と、沢山の知らない人に囲まれて泣いていたスコールだったが、兄に慰められ宥められ、若いスタッフ達から飴やクッキー、ジュースなどのお菓子を貰って、なんとか落ち着いた。
泣き止んでしまえば、後は基本的に大人しいスコールである。
スタジオ済のテーブルを囲む椅子にちょこんと座り、ただただ、仕事に没頭する兄の姿を眺めている。

レオンのしている仕事がどういうものなのか、どんな影響力があるのか、スコールは知らない。
けれど、レオンの姿が雑誌に載せられる事は判っていた。
時々帰ってくる父が、兄の姿を掲載した雑誌を持って帰って、スコールやエルオーネに見せているからだ。

雑誌に載っている兄の姿は、見慣れた兄の姿とは少し違っていた。
レオンはファッションに疎くもないが、流行に敏感な程にアンテナを立ててはおらず、外出するのにみすぼらしくない程度の服装で過ごす事が多い。
要するにTシャツにブルージーンズ等のデニムパンツと、ジャケットと言う服装で、殊更にファッションセンスをアピールするようなものは着ていない───と言うか、そもそも持っていない。
そんな兄が、雑誌に載る時は、色々なブランドの色々な服を着て、鞄やアクセサリー等も様々な形のものを身に付けている。
スコールは、いつもの兄も優しくて大好きだけれど、雑誌に載っている格好良い兄の姿も好きだと思った。

その格好良い兄が、今正に、目の前に。


「かっこいい」


ぽろりと零れた言葉は、無意識のもの。
けれど、間違いなく、スコールの素直な心の言葉。

それを聞いた女性スタッフが、テーブルの端に寄り掛かってスコールに笑いかける。


「そうだよねぇ。格好良いよね、お兄ちゃん」
「うん」
「スコールちゃん、格好良いお兄ちゃんは好き?」
「うん。好き!」


嬉しそうに、ほんのりと頬を赤らめて頷くスコールに、女性スタッフは思わずスコールを抱き締める。


「もう、可愛い~!連れて帰りたいっ」
「あ、ちょっとずるい。私も連れて帰りたい!」
「ふぇ、あぅ、あ、」


ぎゅうぎゅうと知らない人に抱き締められて、あちこちから手が伸びて来る。
それは決して悪意を持つ手ではないのだけれど、知らない人の手はやはりスコールには怖かった。

じわぁ、と蒼い瞳に一杯の涙が浮かぶのを見て、スタッフ達が慌てて手を引っ込める。


「あっ、ごめんごめん!怖がらせちゃった」
「びっくりさせたね、ごめんね~」
「はい、クッキーあげる。お詫び、ね?」
「………うゅ……」


差し出されたクッキーを受け取って、スコールはこくんと頷いた。
可愛いひよこの形をしたクッキーを、お尻から食べて行く。
さくさくとクッキーを齧って行く子供の頬が、リスのように丸く膨らむのが、また女性スタッフ達の心をくすぐっていた。


「レオン君たら、こんな可愛い子がいるなら、もっと早く連れて来てくれれば良かったのに」
「うちはキッズ雑誌もあるから、良いモデルになりそうよね」
「二人でコラボとかも良いんじゃない」
「いいね、それ。今度、企画会議に出してみようか」
「でも、年が離れてるのがねえ。高校生向けの雑誌にはあんまり企画的に合わなそうだし、キッズ雑誌にレオン君はちょっと年齢が上過ぎるし。育児って言うのもちょっと違うしなぁ」
「女性一般系とかどう?レオン君と並んで撮影とか、女性受けすると思うのよ」


あれやこれやと飛び交う空想企画の主役は、盛り上がる女性達を見てきょとんと首を傾げるだけ。
取り敢えずテーブルに置いていたジュースのストローに口を付けて、また仕事を続けている兄を見る。

レオンは、髪型を変えている所だった。
肩より少し下まで伸ばされた髪を、項の高さでゴムでまとめている。


「もうちょっと上に括れる?」
「多分。でもやった事がないので、あまり綺麗には」
「それじゃあこっちでやるよ。所で、この間渡した化粧水、どうだった?あれのレポをそろそろ載せようかと思ってるんだけど」
「あの化粧水ですか……どうにも、俺には合わないみたいで。何度か使ってはみたんですが、発疹が出来るんです」
「そうかぁ…そりゃ悪かったなあ。君が推してくれれば良い宣伝になると思ったんだが」
「髪型、こんな感じでどうですか?」
「おー、いいじゃない。これならイヤリングもちゃんと見えるな」
「本当はピアスにしたい所だけどねぇ」
「すみません…」
「いやいや。校則じゃしょうがないしね。学校側から訴えられたら、うちも色々痛いし。────よし、じゃこれで行こうか」


黒縁眼鏡の男性に促されて、レオンはカメラの前へ。
無精髭のカメラマンが角度や距離を測りながら、カシャカシャとカメラのシャッターを切る。
撮影スタッフは他にも沢山いて、照明の位置を直したり、大きな板(レフ版なのだがスコールにはその名前も、板の役目も判らない)を微妙に傾けさせている人がいたり。

そんな沢山の大人に囲まれて、レオンは黙々と仕事をこなしている。
物怖じせずに、堂々とした態度で仕事に臨む兄の姿は、スコールの胸を高鳴らせて止まない。

────ふ、とレオンの視線が動いた。
二対の蒼が重なり合って、スコールは一瞬ドキッとする。


(もうちょっと、な。良い子にしてろよ)


柔らかく微笑んだ兄の、そんな声が聞こえた気がした。
その時の兄は、凛として堂々として格好良くて、けれどやはり、スコールがよく知る優しい兄の顔をしていた。

スコールは、なんだか無性に嬉しくなった。
仕事をしていても、兄がきちんと自分のことを覚えていてくれたから、だろうか。
スコールは、膝の上に置いた両手をぎゅっと握りしめて、今直ぐレオンに抱き着きに行きたい衝動を一所懸命に堪えた。

幼い子供のそんな様子の、なんといじらしい事か。
撮影開始からそれなりに長い時間が経って、きっと退屈しているのだろうに、きっと甘えたくて仕方がないのだろうに。


「でも、本当に今日の撮影は長いわね」


年配の女性の言葉に、スタッフ達は揃って時計を見た。
いつもならそろそろ休憩時間を挟む頃合いだが、セット前ではまだ次の撮影準備が行われている。
レオンも着ていたジャケットを替え、照明合わせに応えていた。


「もうちょっと終わりそうにないわね~」
「スコールちゃん、退屈だねえ」
「……んーん」


気遣うように言ったスタッフに、スコールはジュースのストローに口を付けたまま、ふるふると首を横に振った。

しかし少しだけ、本当に少しだけ、退屈を感じているのは確かだ。
格好良い兄の姿を見るのもドキドキして楽しいけれど、何をするでもなく、じっと待っていると言うのが大変だ。
特に活発な性格ではないから、大人しくしている事自体は、それ程苦ではないのだけれど、


(お兄ちゃん、とおいなぁ)


レオンは、同じ空間にいる時は、必ずスコールの傍にいてくれる。
手を繋いだり、頭を撫でたり、抱っこしてくれたり。
その腕がないのが、少しだけ寂しい。


(でも、おしごと)


“お仕事”が大事だと言う事は、スコールも判っている。
父が“お仕事”をしているから、レオンもスコールも毎日温かいご飯が食べられるし、綺麗な服も着れる。
“お仕事”で家に帰れない父の代わりに、レオンが一所懸命、家事や買い物を頑張っている事も。

だから“お仕事”をしている人の邪魔をしていはいけない。
スコールはそう思っていた。

………でもやっぱり、ちょっとだけ退屈で、ちょっとだけ、寂しい。

ストローを食んだまま、小さく唇を尖らせるスコール。
兄との約束通り、良い子で待っていようと頑張る子供の本音が垣間見えて、女性スタッフ達は顔を見合わせて苦笑した。


「スコールちゃん、ちょっとお出かけしよっか」
「……お出かけ?」
「うん。このビルの中、色々なスタジオが入ってるから、見て回ったらきっと面白いよ」
「お兄ちゃん、もうちょっと忙しそうだけど、待ってばっかりで飽きちゃったでしょ」
「…んーん。だいじょうぶです」


ふるふるともう一度首を横に振るスコールに、スタッフの表情が緩む。


「良い子ね~。でも、流石にねえ……おもちゃでもあれば良いんだけど」
「何か暇潰しになるようなものってあったっけ?」


うーん、と考え込むスタッフ達に、スコールは自分が何か悩ませているのだろうか、と眉をハの字にする。
そんなスコールの傍らで、一人の女性スタッフが、スタジオの隅に置かれていた“ある物”を見付け、目を輝かせた。



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