[サイスコ]たった一人の君から欲しい
サイファー×スコールでハッピーバレンタイン!
最近、サイスコのツンデレスコールが美味いです。
何が楽しくて、恋人に贈られたプレゼントの仕分けをしなければならないのか───と、サイファーは眉間に恋人に勝らずとも劣らない深い皺を刻む。
そんな彼の前には、文字通り山と積まれた、可愛らしくラッピングされたプレゼントボックスがある。
密封された沢山のプレゼントボックスであるが、その中身については考えるべくもなく判る。
サイファーは、これからこの山の全ての封を解き、中身を確認すると言う作業を行わなければならない。
はっきり言って非常に七面倒臭いのだが、同じ指揮官補佐でありつつ、スコール不在時のサイファーの保護監督を務めるキスティスは、決して逃がしてはくれなかった。
2月14日と言う今日、バレンタインデーとあって、バラムガーデンの中も、このプレゼントボックスの山と同じく、其処此処で浮かれた気配があった。
特に女子の浮かれようはよく目に付いており、逆に男子は悲喜交々に混沌としている。
中には喜びに満ちている者を、まるで親の形の如く睨む者もいて、色々な意味で今日と言う日が沢山の禍根を残すであろう事は、想像に難くない。
一年前はサイファーも(目に見えて浮かれたり、他者を妬んだりと言う事はなかったが)そんな面々の一員であったのだが、今年は違う。
好意を寄せてくれる者に対し、決して悪い気はしないものの、不特定多数の誰かから渡されたそれに然したる意味はなく───それとは全く別のものとして、風神から貰ったものは嬉しかったし、何を勘違いしているのか、雷神からのものも有難く貰ったが───、欲しているのは唯一人からのそれのみ。
だが、それを望むのは無理であろう事は予測出来ていたので、其方についてはとっくに諦めている。
しかし、望みは捨てているとは言え、その望む相手とあわよくばお近づきに、と画策している者共の手助けを、何故しなくてはならないのか。
不機嫌を隠しもしない仏頂面で、サイファーは黙々と仕分け作業を続けている。
お陰で、指揮官不在の指揮官室は、彼の重圧オーラで非常に息苦しい状態になっており、報告の為に入室したSeeD達は皆そそくさと退室していた。
この状況で平然としていられるのは、彼をこの指揮官室に圧し留めているキスティス一人だけである。
「くそったれ、なんで俺が……」
何度目になるか判らない愚痴に、キスティスは眉一つ動かさない。
彼は指揮官代行の業務として、彼の代わりにてきぱきと書類を捌いていた。
朝から延々とこの作業を続けているので、山は既に半分まで減っている。
が、元々の量が多かったので、半分でもかなりの数がまだ残っていた。
こうした地味な作業は元々好きではないので、サイファーのストレス負荷は非常に高いのだが、それ以上に、開けては目にするプレゼントボックスの中身が、サイファーの機嫌を益々下降させている。
ゴン、ゴン、とノックにしてはやや重い音がドアから聞こえた。
キスティスが紙面から視線を逸らさず「どうぞ」と言うと、一拍の間を置いて、「よっこらせ」と背中でドアを開けて男が入室する。
両手に溢れんばかりに紙袋を抱えた、ゼル・ディンであった。
その姿を横目に見たサイファーの蟀谷に、ぴきっと青筋が浮かぶ。
「よーっす、お疲れ」
「お疲れ様」
「これ、追加な」
「………」
がさっ、とまとめて机に置かれた紙袋に、サイファーの眉間の皺が深くなる。
ぎろりと凶悪な眼がゼルを睨んだが、幼い頃は“泣き虫ゼル”と呼ばれた彼も、今はすっかり度胸が据わった。
睨むサイファーをものを気に留めず、ゼルはキスティスの下へ向かう。
「さっきスコールとアーヴァインが帰ったぜ」
「予定より遅かったわね。何かあった?」
「スコールがちょっと怪我してた。処置はしたから問題ないけど、念の為に保健室行き。カドワキ先生の診断が終わったら、部屋に戻って休むってさ。アーヴァインは付き添いで、終わったら一緒に寮に戻る。報告書は明日中に出すってよ」
「了解」
仕分けの作業を続けつつ、サイファーの意識はゼルの報告へと向いていた。
スコールが怪我、と言う言葉に、元々吊り上げられていた眉がまた上がる。
今回の任務は確か、と思い出してみると、彼が傷を負わなければならないような物ではなかった筈。
何かの事故か、想定外の事が起こったか────此処について、サイファーは深く考えなかった。
届け物をし、報告を終えて、する事がなくなったゼルは、また外へ向かう。
その途中で、ゼルは大量のプレゼントボックスの山に埋もれているサイファーを見遣り、
「大変だな、サイファー。それ、全部スコール宛てだろ?」
「ああ。お前が追加で寄越した奴もな。ったく、いい加減にしろってんだ」
「俺に当たるなよ」
サイファーの言葉は、ゼルに向けても全く意味のないものだ。
向けるのならば、この大量のプレゼントボックスの送り主達にするべきだろう。
しかし、こう言う行事毎で女子を可惜に刺激するのは、自殺行為に等しい。
プレゼントボックスの中身は、その殆どがチョコレートで占められている。
今日と言う日の為、女子生徒がそれぞれの想いを籠めて選び、作り、用意されたものだ。
指揮官と言う役職についてから、スコールのファンは急激に増え、憧れの目で見られる事も増えた。
そうでなくとも、元々見目や成績など、モテる要素には事欠かない彼である。
以前は取っ付き難い雰囲気や、彼自身がそうした事を好む性質ではない事から、行事に感けたプレゼントの類は、余程勇気を持つ者でなければ出来なかった。
しかし、魔女戦争後は本人の性格が幾らか丸くなった事もあり、また大量のファンからのプレゼントの中に紛れ込ませる事が出来ると言う事もあって、大量のプレゼントが届くようになったのだ。
それが全て、単純に“ファンから”贈られたものなら、サイファーもこうまで不機嫌にならなくて良かったのだが、明らかにその意味から食み出たものがいる。
誰がどう見ても“本気”を思わせるものが、一つや二つではない、其処此処に在るのが、サイファーには気に入らないのだ。
丁度手に取った、如何にもと言ったハート型のプレゼントボックスを睨むサイファーに、キスティスが呆れたように言った。
「そんなに腹が立つなら、言えば良いじゃないの。スコールは俺のものだって」
飾る言葉もなく、明け透けに言ったキスティスに、サイファーの眉間の皺が深くなる。
「……それが出来りゃ苦労しねえんだよ」
「なんだ?スコールの奴、まだ秘密にしろって?」
「………」
追い打ちの如く言ったゼルを、サイファーが睨む。
なんで俺ばっかり睨むんだよ、とゼルは愚痴が零れた。
ぎりぎりと歯を鳴らすサイファーに、キスティスは肩を竦め、
「仕方がないわね。スコールだもの。そう言うの、人一倍気にする子よ。知ってるでしょう?」
「ああ。よーく知ってるよ」
「それなぁ。俺、サイファーの事だから、そんなの無視して俺のモン宣言すると思ってたんだけど、意外と譲歩してるんだな」
「仕方ねえだろ。バラしたら即別れるって言いやがるんだ、あいつ」
忌々しげに言ったサイファーに、ゼルとキスティスは顔を見合わせた。
幼い頃からガキ大将で、何をするにも自分が中心でなければ我慢がならなかったのが、サイファーと言う少年だった。
しかし、そんな彼でもスコールが相手となると、色々と調子が変わってしまう。
ゼルとキスティスは長らく忘れていた上、サイファーがあからさまにスコールに対して絡むので思い出す事もなかったが、サイファーは本来、スコールに甘いのだ。
大抵は幼馴染達の目がない時の事だが、自己主張が出来ないスコールに、促すように彼の手を引っ張ってやったのは、いつもサイファーだった。
そして、極稀にスコールが自分の意見を述べた時は、サイファーがそれを受け止めて、スコールの望むように物事の方向を変えて行く。
記憶を忘れ、互いの命を削り合い、元鞘に収まるように恋人同士になってからも、彼等のそうしたパワーバランスは変わっていないらしい。
呆れるような、微笑ましいような気持ちで、幼馴染達はそんな彼等の様子を見守っている。
「あー、くそっ!」
誰に対してか───恐らく、誰に対してでもないだろう───悪態をついて、サイファーは席を立つ。
机の上には未だ大量のプレゼントボックスが詰まれており、ゼルが追加分を持って来てしまった為、捌き終わったのは半分以下となってしまった。
が、サイファーにはもう、この山と向かい合う気力はない。
「止めだ止めだ。俺は帰って寝る。おいチキン、続きやっとけ」
「は?俺!?」
「どうせ暇なんだろ。じゃーな、センセー」
「四時間後には戻って来なさいね。私も休むから」
サイファーの堪忍袋の限界時など、キスティスには予想出来ているのだろう。
叱る声はなく、お休み、と平静と変わらない挨拶が振られた。
ゼルの抗議については、サイファーは気にしていない。
エレベーターを降りて、一階の廊下を寮へと向かう間、周りには其処此処で甘い雰囲気が漂っていた。
授業が終わって放課後の時間となった事で、生徒達の枷は外れたのだろう。
いつもよりもカップルが多い中で、それらを羨むような昏い視線もある。
サイファーは、昏い目で過ごす生徒達と自分を同族とは考えなかったが、人目憚らずに手を繋ぎ合うカップルの姿に、些か妬みか羨みかと言うものが湧き上がるのも否めない。
────その感情の根源とも言える人物と、寮へと続く渡り廊下で遭遇した。
「あれ、サイファー」
並ぶ二つの長身痩躯、その内より高い方が先に振り返った。
続いて、低い方が振り返り、蒼い瞳がサイファーを見る。
サイファーはスコールの立ち姿を、頭の天辺から足下まで眺め、ジャケットの裾と黒手袋の隙間から覗く白に眉根を寄せた。
「何やってやがる、このドジ」
「………」
不機嫌なサイファーの言葉に、スコールの眉間に皺が寄る。
スコールはしばらくサイファーを睨んでいたが、ふい、とそれを筈すと、寮に向かって歩き出した。
「あ、スコール。ちょっと待ってよ────って、痛いっ!」
直ぐにスコールの後を追おうとしたアーヴァインだったが、長く伸びた髪を掴み引っ張られて悲鳴を上げた。
何、と痛む後頭部を押さえて振り返れば、射殺さんばかりに睨む碧眼。
僕が一体何をしたんだろう。
ひょっとして、スコールの怪我は僕の所為って思われてる?
────理不尽に睨まれたアーヴァインがそう思ったのも無理はない。
が、サイファーは蒼くなったアーヴァインから早々に興味を失うと、力任せにその肩を押し除けて、寮へ向かって歩き出す。
後ろから追う気配はなく、突き当りの角を曲がると、其処には自分とスコールしかいなくなった。
コツ、コツ、コツ、コツ、と二人分の足音だけが静かな廊下に反響する。
二人の歩く速度はぴったりと重なっており、距離は縮まる事も広がる事もなかった。
前を歩く少年は、つい先程まで、サイファーが大量の自分宛ての贈り物と向き合っていた事など、知りもしない。
少しばかり疲れた気配がする細身の背中は、今日はもう部屋に篭って外に出るつもりもないのだろう。
明日になって、あの大量の贈り物を見て、どうしろって言うんだ、と溜息を吐くに違いない。
それは別段、サイファーにはどうでも良い事だったのだが、
(……ねえよな、やっぱり)
今日と言う日、恋人と言う間柄。
目の前の恋人の性格は理解しているが、それでもこっそりと期待していた自分。
だが、前を歩く少年は、今日と言う日が何であるのかすら判っていなくても可笑しくはない。
黙々と歩いている内に、サイファーの部屋は直ぐ傍に来ていた。
ひっそりと落胆する心を隠し、無表情のまま、サイファーは自室の前で足を止める。
ドア横のパネルでロックを外し、プシュッ、と自動ドアの空気の音がなった────その時。
「おい」
「あん?」
呼ぶ名前もなかったが、サイファーは自分が呼ばれていると判った。
敷居を跨ごうとした足を戻し、視線だけでスコールのいる方を見遣る、と。
ぽこん、と小さなものが頭に当たって、跳ねて落ちて来たそれを反射的にキャッチする。
「てめ、何だよ!?」
「……別に」
掴んだそれを握ったまま、サイファーがスコールを見れば、彼は既に背を向けて歩き出していた。
ふらふらと、少し覚束ない足取りで進む背中に、サイファーは舌を打つ。
折角の今日だと言うのに、何て日だ。
そう思いながら、苦々しく表情を変えて、手に握り締めていたものを思い出す。
頭を打ったそれを、投げ返してやろうかと手を開いた。
「……あ?」
其処に在ったものを見て、サイファーの目が丸くなる。
赤くきらきらと光る紙に包まれた、小さな小さな丸いもの。
紙には小さな文字が金色で印字されており、この小さなバラムでも知られている、デリングシティで名店と言われる店の名前があった。
其処はチョコレートが有名な店で、リノアが実家に帰省する度、仲間達にと土産に買って来たものだ。
内装は如何にも女性好みのもので、到底、男が───況してやスコールのように、人一倍人目を気にする人間が入るなど、ハードルが高いであろう事は想像に難くない。
サイファーはドアを閉めて、踵を返した。
ロックをかけるのを忘れたが、サイファーの部屋に無断で入るような度胸のある人間は、これから前を歩く人物くらいしかいない。
その人物の肩を抱いて、サイファーはその肩を押して進む。
「な、あ、サイファー!?」
突然襲いかかった重みと力に、慌てた声が上がったが、サイファーは気にせず歩を動かした。
「あんた、部屋あっちだろ!何処行くんだ、離せよ!」
「何処ってお前、」
じたばたと、サイファーの腕から逃れようとするスコールだが、サイファーは離れなかった。
睨む蒼を、にんまりと笑った緑が見下ろす。
「似合わねえ事を頑張ってくれた恋人に、ロマンティックな夜でも届けてやろうかと思ってよ」
手の中に握っていたものを翳して見せると、既に赤かったスコールの顔が、益々赤くなる。
サイファーはスコールを捕まえたまま、片手と口で包装紙を剥がすと、仄かにブランデーの匂いのするそれを口に入れる。
直ぐに下の上で溶け始めたそれを、無防備に開いた口に重ねてやった。
ロマンなんか要らない、と言う声を聞きながら、サイファーは恋人の部屋のドアを開けた。
死ぬ程恥ずかしいけど頑張ったスコールと、期待してなかった分、嬉しくて振り切ったサイファーでした。
スコール、一人で買いに行く勇気が無くて、アーヴァインに付き添って貰ってます。
後日、凄く真剣に選んでたよ~ってバラされる羽目になるw
最近、サイスコのツンデレスコールが美味いです。
何が楽しくて、恋人に贈られたプレゼントの仕分けをしなければならないのか───と、サイファーは眉間に恋人に勝らずとも劣らない深い皺を刻む。
そんな彼の前には、文字通り山と積まれた、可愛らしくラッピングされたプレゼントボックスがある。
密封された沢山のプレゼントボックスであるが、その中身については考えるべくもなく判る。
サイファーは、これからこの山の全ての封を解き、中身を確認すると言う作業を行わなければならない。
はっきり言って非常に七面倒臭いのだが、同じ指揮官補佐でありつつ、スコール不在時のサイファーの保護監督を務めるキスティスは、決して逃がしてはくれなかった。
2月14日と言う今日、バレンタインデーとあって、バラムガーデンの中も、このプレゼントボックスの山と同じく、其処此処で浮かれた気配があった。
特に女子の浮かれようはよく目に付いており、逆に男子は悲喜交々に混沌としている。
中には喜びに満ちている者を、まるで親の形の如く睨む者もいて、色々な意味で今日と言う日が沢山の禍根を残すであろう事は、想像に難くない。
一年前はサイファーも(目に見えて浮かれたり、他者を妬んだりと言う事はなかったが)そんな面々の一員であったのだが、今年は違う。
好意を寄せてくれる者に対し、決して悪い気はしないものの、不特定多数の誰かから渡されたそれに然したる意味はなく───それとは全く別のものとして、風神から貰ったものは嬉しかったし、何を勘違いしているのか、雷神からのものも有難く貰ったが───、欲しているのは唯一人からのそれのみ。
だが、それを望むのは無理であろう事は予測出来ていたので、其方についてはとっくに諦めている。
しかし、望みは捨てているとは言え、その望む相手とあわよくばお近づきに、と画策している者共の手助けを、何故しなくてはならないのか。
不機嫌を隠しもしない仏頂面で、サイファーは黙々と仕分け作業を続けている。
お陰で、指揮官不在の指揮官室は、彼の重圧オーラで非常に息苦しい状態になっており、報告の為に入室したSeeD達は皆そそくさと退室していた。
この状況で平然としていられるのは、彼をこの指揮官室に圧し留めているキスティス一人だけである。
「くそったれ、なんで俺が……」
何度目になるか判らない愚痴に、キスティスは眉一つ動かさない。
彼は指揮官代行の業務として、彼の代わりにてきぱきと書類を捌いていた。
朝から延々とこの作業を続けているので、山は既に半分まで減っている。
が、元々の量が多かったので、半分でもかなりの数がまだ残っていた。
こうした地味な作業は元々好きではないので、サイファーのストレス負荷は非常に高いのだが、それ以上に、開けては目にするプレゼントボックスの中身が、サイファーの機嫌を益々下降させている。
ゴン、ゴン、とノックにしてはやや重い音がドアから聞こえた。
キスティスが紙面から視線を逸らさず「どうぞ」と言うと、一拍の間を置いて、「よっこらせ」と背中でドアを開けて男が入室する。
両手に溢れんばかりに紙袋を抱えた、ゼル・ディンであった。
その姿を横目に見たサイファーの蟀谷に、ぴきっと青筋が浮かぶ。
「よーっす、お疲れ」
「お疲れ様」
「これ、追加な」
「………」
がさっ、とまとめて机に置かれた紙袋に、サイファーの眉間の皺が深くなる。
ぎろりと凶悪な眼がゼルを睨んだが、幼い頃は“泣き虫ゼル”と呼ばれた彼も、今はすっかり度胸が据わった。
睨むサイファーをものを気に留めず、ゼルはキスティスの下へ向かう。
「さっきスコールとアーヴァインが帰ったぜ」
「予定より遅かったわね。何かあった?」
「スコールがちょっと怪我してた。処置はしたから問題ないけど、念の為に保健室行き。カドワキ先生の診断が終わったら、部屋に戻って休むってさ。アーヴァインは付き添いで、終わったら一緒に寮に戻る。報告書は明日中に出すってよ」
「了解」
仕分けの作業を続けつつ、サイファーの意識はゼルの報告へと向いていた。
スコールが怪我、と言う言葉に、元々吊り上げられていた眉がまた上がる。
今回の任務は確か、と思い出してみると、彼が傷を負わなければならないような物ではなかった筈。
何かの事故か、想定外の事が起こったか────此処について、サイファーは深く考えなかった。
届け物をし、報告を終えて、する事がなくなったゼルは、また外へ向かう。
その途中で、ゼルは大量のプレゼントボックスの山に埋もれているサイファーを見遣り、
「大変だな、サイファー。それ、全部スコール宛てだろ?」
「ああ。お前が追加で寄越した奴もな。ったく、いい加減にしろってんだ」
「俺に当たるなよ」
サイファーの言葉は、ゼルに向けても全く意味のないものだ。
向けるのならば、この大量のプレゼントボックスの送り主達にするべきだろう。
しかし、こう言う行事毎で女子を可惜に刺激するのは、自殺行為に等しい。
プレゼントボックスの中身は、その殆どがチョコレートで占められている。
今日と言う日の為、女子生徒がそれぞれの想いを籠めて選び、作り、用意されたものだ。
指揮官と言う役職についてから、スコールのファンは急激に増え、憧れの目で見られる事も増えた。
そうでなくとも、元々見目や成績など、モテる要素には事欠かない彼である。
以前は取っ付き難い雰囲気や、彼自身がそうした事を好む性質ではない事から、行事に感けたプレゼントの類は、余程勇気を持つ者でなければ出来なかった。
しかし、魔女戦争後は本人の性格が幾らか丸くなった事もあり、また大量のファンからのプレゼントの中に紛れ込ませる事が出来ると言う事もあって、大量のプレゼントが届くようになったのだ。
それが全て、単純に“ファンから”贈られたものなら、サイファーもこうまで不機嫌にならなくて良かったのだが、明らかにその意味から食み出たものがいる。
誰がどう見ても“本気”を思わせるものが、一つや二つではない、其処此処に在るのが、サイファーには気に入らないのだ。
丁度手に取った、如何にもと言ったハート型のプレゼントボックスを睨むサイファーに、キスティスが呆れたように言った。
「そんなに腹が立つなら、言えば良いじゃないの。スコールは俺のものだって」
飾る言葉もなく、明け透けに言ったキスティスに、サイファーの眉間の皺が深くなる。
「……それが出来りゃ苦労しねえんだよ」
「なんだ?スコールの奴、まだ秘密にしろって?」
「………」
追い打ちの如く言ったゼルを、サイファーが睨む。
なんで俺ばっかり睨むんだよ、とゼルは愚痴が零れた。
ぎりぎりと歯を鳴らすサイファーに、キスティスは肩を竦め、
「仕方がないわね。スコールだもの。そう言うの、人一倍気にする子よ。知ってるでしょう?」
「ああ。よーく知ってるよ」
「それなぁ。俺、サイファーの事だから、そんなの無視して俺のモン宣言すると思ってたんだけど、意外と譲歩してるんだな」
「仕方ねえだろ。バラしたら即別れるって言いやがるんだ、あいつ」
忌々しげに言ったサイファーに、ゼルとキスティスは顔を見合わせた。
幼い頃からガキ大将で、何をするにも自分が中心でなければ我慢がならなかったのが、サイファーと言う少年だった。
しかし、そんな彼でもスコールが相手となると、色々と調子が変わってしまう。
ゼルとキスティスは長らく忘れていた上、サイファーがあからさまにスコールに対して絡むので思い出す事もなかったが、サイファーは本来、スコールに甘いのだ。
大抵は幼馴染達の目がない時の事だが、自己主張が出来ないスコールに、促すように彼の手を引っ張ってやったのは、いつもサイファーだった。
そして、極稀にスコールが自分の意見を述べた時は、サイファーがそれを受け止めて、スコールの望むように物事の方向を変えて行く。
記憶を忘れ、互いの命を削り合い、元鞘に収まるように恋人同士になってからも、彼等のそうしたパワーバランスは変わっていないらしい。
呆れるような、微笑ましいような気持ちで、幼馴染達はそんな彼等の様子を見守っている。
「あー、くそっ!」
誰に対してか───恐らく、誰に対してでもないだろう───悪態をついて、サイファーは席を立つ。
机の上には未だ大量のプレゼントボックスが詰まれており、ゼルが追加分を持って来てしまった為、捌き終わったのは半分以下となってしまった。
が、サイファーにはもう、この山と向かい合う気力はない。
「止めだ止めだ。俺は帰って寝る。おいチキン、続きやっとけ」
「は?俺!?」
「どうせ暇なんだろ。じゃーな、センセー」
「四時間後には戻って来なさいね。私も休むから」
サイファーの堪忍袋の限界時など、キスティスには予想出来ているのだろう。
叱る声はなく、お休み、と平静と変わらない挨拶が振られた。
ゼルの抗議については、サイファーは気にしていない。
エレベーターを降りて、一階の廊下を寮へと向かう間、周りには其処此処で甘い雰囲気が漂っていた。
授業が終わって放課後の時間となった事で、生徒達の枷は外れたのだろう。
いつもよりもカップルが多い中で、それらを羨むような昏い視線もある。
サイファーは、昏い目で過ごす生徒達と自分を同族とは考えなかったが、人目憚らずに手を繋ぎ合うカップルの姿に、些か妬みか羨みかと言うものが湧き上がるのも否めない。
────その感情の根源とも言える人物と、寮へと続く渡り廊下で遭遇した。
「あれ、サイファー」
並ぶ二つの長身痩躯、その内より高い方が先に振り返った。
続いて、低い方が振り返り、蒼い瞳がサイファーを見る。
サイファーはスコールの立ち姿を、頭の天辺から足下まで眺め、ジャケットの裾と黒手袋の隙間から覗く白に眉根を寄せた。
「何やってやがる、このドジ」
「………」
不機嫌なサイファーの言葉に、スコールの眉間に皺が寄る。
スコールはしばらくサイファーを睨んでいたが、ふい、とそれを筈すと、寮に向かって歩き出した。
「あ、スコール。ちょっと待ってよ────って、痛いっ!」
直ぐにスコールの後を追おうとしたアーヴァインだったが、長く伸びた髪を掴み引っ張られて悲鳴を上げた。
何、と痛む後頭部を押さえて振り返れば、射殺さんばかりに睨む碧眼。
僕が一体何をしたんだろう。
ひょっとして、スコールの怪我は僕の所為って思われてる?
────理不尽に睨まれたアーヴァインがそう思ったのも無理はない。
が、サイファーは蒼くなったアーヴァインから早々に興味を失うと、力任せにその肩を押し除けて、寮へ向かって歩き出す。
後ろから追う気配はなく、突き当りの角を曲がると、其処には自分とスコールしかいなくなった。
コツ、コツ、コツ、コツ、と二人分の足音だけが静かな廊下に反響する。
二人の歩く速度はぴったりと重なっており、距離は縮まる事も広がる事もなかった。
前を歩く少年は、つい先程まで、サイファーが大量の自分宛ての贈り物と向き合っていた事など、知りもしない。
少しばかり疲れた気配がする細身の背中は、今日はもう部屋に篭って外に出るつもりもないのだろう。
明日になって、あの大量の贈り物を見て、どうしろって言うんだ、と溜息を吐くに違いない。
それは別段、サイファーにはどうでも良い事だったのだが、
(……ねえよな、やっぱり)
今日と言う日、恋人と言う間柄。
目の前の恋人の性格は理解しているが、それでもこっそりと期待していた自分。
だが、前を歩く少年は、今日と言う日が何であるのかすら判っていなくても可笑しくはない。
黙々と歩いている内に、サイファーの部屋は直ぐ傍に来ていた。
ひっそりと落胆する心を隠し、無表情のまま、サイファーは自室の前で足を止める。
ドア横のパネルでロックを外し、プシュッ、と自動ドアの空気の音がなった────その時。
「おい」
「あん?」
呼ぶ名前もなかったが、サイファーは自分が呼ばれていると判った。
敷居を跨ごうとした足を戻し、視線だけでスコールのいる方を見遣る、と。
ぽこん、と小さなものが頭に当たって、跳ねて落ちて来たそれを反射的にキャッチする。
「てめ、何だよ!?」
「……別に」
掴んだそれを握ったまま、サイファーがスコールを見れば、彼は既に背を向けて歩き出していた。
ふらふらと、少し覚束ない足取りで進む背中に、サイファーは舌を打つ。
折角の今日だと言うのに、何て日だ。
そう思いながら、苦々しく表情を変えて、手に握り締めていたものを思い出す。
頭を打ったそれを、投げ返してやろうかと手を開いた。
「……あ?」
其処に在ったものを見て、サイファーの目が丸くなる。
赤くきらきらと光る紙に包まれた、小さな小さな丸いもの。
紙には小さな文字が金色で印字されており、この小さなバラムでも知られている、デリングシティで名店と言われる店の名前があった。
其処はチョコレートが有名な店で、リノアが実家に帰省する度、仲間達にと土産に買って来たものだ。
内装は如何にも女性好みのもので、到底、男が───況してやスコールのように、人一倍人目を気にする人間が入るなど、ハードルが高いであろう事は想像に難くない。
サイファーはドアを閉めて、踵を返した。
ロックをかけるのを忘れたが、サイファーの部屋に無断で入るような度胸のある人間は、これから前を歩く人物くらいしかいない。
その人物の肩を抱いて、サイファーはその肩を押して進む。
「な、あ、サイファー!?」
突然襲いかかった重みと力に、慌てた声が上がったが、サイファーは気にせず歩を動かした。
「あんた、部屋あっちだろ!何処行くんだ、離せよ!」
「何処ってお前、」
じたばたと、サイファーの腕から逃れようとするスコールだが、サイファーは離れなかった。
睨む蒼を、にんまりと笑った緑が見下ろす。
「似合わねえ事を頑張ってくれた恋人に、ロマンティックな夜でも届けてやろうかと思ってよ」
手の中に握っていたものを翳して見せると、既に赤かったスコールの顔が、益々赤くなる。
サイファーはスコールを捕まえたまま、片手と口で包装紙を剥がすと、仄かにブランデーの匂いのするそれを口に入れる。
直ぐに下の上で溶け始めたそれを、無防備に開いた口に重ねてやった。
ロマンなんか要らない、と言う声を聞きながら、サイファーは恋人の部屋のドアを開けた。
死ぬ程恥ずかしいけど頑張ったスコールと、期待してなかった分、嬉しくて振り切ったサイファーでした。
スコール、一人で買いに行く勇気が無くて、アーヴァインに付き添って貰ってます。
後日、凄く真剣に選んでたよ~ってバラされる羽目になるw