[セフィレオ+16/シドクラ]秘密主義の会合
セフィロス×レオンと、シド×クライヴで現代パロです。
シド×クライヴは薄めの気配になっています。
どうにも彼は、ひっそりと過ごすことを望める、隠れ家的な店を探すのが上手い。
見易い看板を掲げている訳でもなく、インターネットで探しても、ホームページの類も用意されてはおらず、口コミの類も見当たらない店。
恐らくは、そう言った類の店を好む人であったり、同様のコンセプトの下に経営されている店の客だとか、オーナーだとか、人伝を辿って知るのだろう。
だからその手の店だと知っている人、判っている人しか来ないし、知る事もないのだ。
レオンもセフィロスから紹介されなければ、裏通りの路地を抜けた先からしか入れないような店なんて、知る筈もない。
待ち合わせは此処で、と言われた時、判りにくい場所だからと詳しく道順を教えては貰ったが、実際に行く時になって、本当にこんな所に店があるのか、と疑いながら歩いたものだった。
そうして行き付くのは、年季の入った雑居ビルの裏口である事もあれば、猫の額のような敷地に設けられた小さなテナントハウスであったりもして、本当に其処だけが都会の雑踏から切り離されたような場所ばかり。
入って見れば、またそれぞれの店のコンセプトに合わせ、少ない席数と、一人のマスターや主人の下で回されている、静かで落ち着く空間が其処にあった。
此処ならゆっくりできるだろう、と言ったセフィロスが、何処となく自慢げに見えたのは、きっと気の所為ではない。
その言葉に、そうだな、悪くない、とレオンが返すと、彼は碧眼を細く窄めて笑ったのだった。
セフィロスはその日その日で、待ち合わせの店を指定する。
オーナーか店主とも個人的に仲が良いのか、良い酒が入ったとか、肴が仕入れられたとか、それを理由に誘ってくれるのだ。
が、実の所、そう言った理由はただの後付けであるらしい。
無論、良いものを仕入れてくれた店に感謝と今後の期待も兼ねて行くのも確かだが、ああ言った静かな場所ならば、レオンと二人で静かに話が出来ることが良いのだとか。
彼との一時の歓談は、レオンにとっても心地の良いものだから、仕事のスケジュールが余程に詰まっている状態でなければ、応じる事にしている。
今日は洋酒を多く取り扱っているバーで過ごす事になった。
仕事が長引いてしまったので、遅れる旨を連絡してから半刻、ようやくレオンは店の前へと到着する。
今着いた、と言うメールを送って、案内板も真っ白なままになっているビルの階段を上がり、三階にある洒落たデザインのアンティークドアを開けた。
からん、と控えめのベルの音が鳴る。
照度を落とした其処に広がっているのは、アンバーカラーを基調にしたクラシックなバーだ。
カウンター席が四つ、その奥にテーブル席が一つ、それから今時は先ず見る事のないであろう、古びたジュークボックスが置かれている。
このジュークボックスは、この店のオーナーの趣味で置かれているもので、何十年も前に現役を退いたアナログレコード仕様のものらしい。
壊れた所を直せばまだ使えるかも、と言うことだが、その部品の調達が困難なので、当面、店の雰囲気作りの飾り物が役目と言う状態だ。
そのジュークボックスの前に、長い銀糸の男───セフィロスが立っている。
大抵、カウンターに座ってレオンが来るのを待っているものだったが、珍しいなと思っていると、
(……人と話をしてるな。マスターじゃないから……客か?)
ジュークボックスを間に挟む格好で、見慣れない男が一人、セフィロスと話をしている。
マスターとも然程話をしない男が、益々珍しい事もあるものだ。
レオンは立ち話をしているセフィロスを見ながら、カウンター席の定位置に座った。
マスターがバックヤードと繋がるドアから静かに入ってきて、レオンを見る。
いつもの、と頼むレオンの声は、なんとなく潜められたものになっていた。
マスターが一杯を用意してくれている間、レオンは遠目に待ち合わせ人を見ていた。
(話が弾んでいるようだな。こっちに気付きそうにない)
やっぱり珍しい、とレオンは再三思った。
セフィロスは人付き合いを無難に熟すが、その実、他人に滅多に興味を示す事がない。
昔から容姿や能力に恵まれた資質があった事で、彼の周囲には人が絶えなかったそうだが、セフィロスが心を置く相手と言うのはごくごく限られていた。
大学時代の数少ない友人や後輩を除くと、レオン位のものだと言うのは、その友人、後輩が口を揃えて言う事だ。
それについてはレオンにはピンと来ない所だが、セフィロスが大抵の人に対して、無関心である事は知っている。
彼にとって人と言うのは、限られた身内を除いて、有象無象と言って良い存在なのである。
そんなセフィロスが、今日は随分と楽しそうに喋っている。
何を話しているのかは、レオンのいる場所まで届いては来なかったが、待ち人の来訪に気付いた様子がないことから見ても、彼は目の前の人物との歓談に夢中になっているらしい。
話相手の、初老と思しき顔立ちの男も、時折感心したような表情で顎に手を持って行きながら、尽きない話題に虜になっているようだ。
(……あまり見ない顔をしているな)
レオンも大概、表情を判り易く変えないタイプだが、セフィロスはもっと表情が出難い。
それはそもそもの感情の起伏がそれ程大きくないからで、彼の表情は基本的に凪である事が多かった。
それがレオンと向き合う時には、あの珍しい虹彩を宿した碧眼が、柔く細められたり、時折熱に浮かされたように情動性を表すのが好きだった。
今、セフィロスの目は、緩やかながら感情の波を映している。
あれは仕事をしている時の目だ、とレオンは感じ取っていた。
気に入りの店でビジネスの匂いのする話は好きではない筈だが、それ程に琴線を震わせる話題を、目の前の男が振っているのだろうか。
(……俺にはしない顔だ。仕事の時でも、普段でも)
レオンとセフィロスは、職場で顔を合わせれば、部下と上司の間柄になる。
だが、その時であっても、今セフィロスが浮かべている顔は、レオンに向けられる事はない。
それは取引がかかる時に見せる顔であるから、そう言ったやり取りが必要のないレオンに向けられなくても当然ではあるのだが、
(………)
自分が知らないセフィロスの顔を、引き出している男。
それも立ち話で長々と遣り取りが尽きないと言う事は、相当、話術に長けている。
でなければ、セフィロスも会話に飽きて、そこそこの所で切り上げている事だろう。
レオンは、マスターが置いて行ったグラスに手を遣って、その縁に指を滑らせながら、なんとなくもやもやとした感覚を抱いていた。
その正体の名前はなんとなく予想がついたが、こんな事でそんなものを、と自分への呆れが混じる。
────からん、と店のドアベルが鳴った。
余り自分たち以外の客が此処に出入りするのを見たことがなかったレオンは、今日は客が多い日なんだな、と頭の隅で思っていると、
「シド。やっと見つけたぞ」
呆れ混じりの声が、レオンの後ろを通りながら聞こえた。
育て親と同じ名前が出て来た事に驚いて、レオンは思わず声の主が向かう方へと目を向ける。
癖毛の黒髪の男が店の奥────セフィロスと、その会話相手をしていた男の下へと向かっている。
それを見た初老の男の方が、よう、と気安い様子で片手を上げた。
其処で弾んでいた会話が途切れたからだろう、セフィロスも振り返り、カウンターに座っている待ち人を見付け、
「連れが来ていた。此処までだな」
「ああ。中々面白い話が聞けたよ」
「此方もだ。業種の違う話と言うのは、案外と面白いものだな」
ひらりと手を振る男に、セフィロスも右手ひとつを上げて返事にする。
レオンのいるカウンター席へと近付いて来るセフィロスの向こうで、初老の男はテーブル席に置いていたらしい、自分の荷物をまとめている。
その横で、黒髪の男───無精髭はあるが、年齢はレオンとそう遠くは感じない気がする───が苦い表情を浮かべていた。
「あんたと連絡が取れないって、ガブから。メッセージも既読がつかないから、何処にいるのかと思えば……」
「そうか。で、どれ位探してくれたんだ?」
「此処で三軒目だ」
「そりゃ優秀だな」
「あんたが前に連れ回してくれたお陰で」
「緊急の話か?」
「オットーが、あんたがいないと進まない話だと」
「って事はあいつ絡みかな。仕方ねえ、帰るか」
初老の男は、自身はコートを羽織り、他の荷物は連れ合いに押し付けるように渡した。
黒髪の男が苦い表情を浮かべつつ、はあ、と溜息ひとつを吐いて、荷を抱え直す。
セフィロスがレオンの隣に座り、その後ろを二人の男は足早に抜けて行った。
じゃあな、とかけられた声に、セフィロスはひらりと手を振るのみ。
その横で、なんとなくドアへと向かう男達を見ていたレオンの目と、黒髪の男の目が絡む。
何とはなしに、どちらも小さな会釈だけを交わして終わった。
カードで支払いを済ませた客が店を出て、からから、とドアベルが音を鳴らす。
それも小さくなって消えた後、ようやくレオンは隣に座った男と目を合わせた。
見慣れた碧眼が、見慣れた柔い窄まり方をして、レオンを見つめる。
「いつからいた?」
「……そこそこ前から」
セフィロスの問に、レオンは時計を見ていなかったからと、曖昧に答える。
知らず待ち人を待たせていた事を察したセフィロスは、詫びを示すようにレオンの頬に指を滑らせる。
「声をかければ良かったものを」
「……楽しい話をしているみたいだったからな。邪魔をしない方が良いと思って」
「ただのビジネスの話だ。情報収集のようなものだな」
「さっきの人は知り合いなのか?」
「それ程でも。だが、多少趣味は合うようだな。行き付けが偶に被ることがある」
話をしたことはなかったが、とセフィロスは言った。
顔は知れども、挨拶も碌にした事はない相手。
とは言え、セフィロスの方は多方面に名が知られているものだから、相手方から接触を臨まれる事は珍しくなかった。
ただ、それに対してセフィロスが真っ当に対応すると言うのは稀だ。
そうして相対するに適う相手であると、セフィロスが感じ取ったから、ああも話が弾んでいたのか。
恋人と言う間柄になってから、彼の数少ない“身内”の中でも、特別近い距離を許されたと思っている。
とは言え、付き合いの時間が長い訳ではないから、レオンにとって未だ知らないセフィロスがいるのも無理はない。
それは判り切っている事なのに、そのつもりで彼を知りたいとも願っているのに、いざにその場面を目の当たりにすると、なんとも言えない心地が浮かんで、
「……あんたがあんなに楽しそうに喋っているのは、初めて見たな」
自分では、絶対に見せてはくれない顔をしていた。
そんな気持ちで零れた呟きは、殆ど無意識のものであった。
言うつもりはなかったそれに、はっとなって口元を抑えるが、隣をちらと見遣ると、碧眼がいつもより少し丸くなって此方を見ている。
気まずさにレオンは視線を逸らし、手元のグラスを口元に持って行って、歪む唇を隠すが、それも既に遅かった。
くつ、と隣で喉が鳴る音が零れる。
「妬いているのか、レオン」
「……別に」
肯定するには聊かプライドがあって、否定するほど子供にはなれず、レオンは弟の口癖を真似た。
それを聞いたセフィロスが、益々喉を鳴らす。
「お前に俺がどう見えていたのかは判らんが───お前との貴重な時間に、仕事の話などしたくもないからな。さっきの男と同じ話は望まんさ。もっと有益な話が良い」
「無理を言わないでくれ。そんな話が出来る訳ないだろう」
「そんな事はない。お前がお前の事を話せばいい。俺にとっては何より有益だ」
セフィロスはそう言いながら、レオンの赤らんだ耳に指を擽らせる。
青のピアスをした耳朶を遊ぶ指に、レオンは払う仕草をしながら、
「じゃあ、例えば何を話せば良いんだ?」
「妬いたお前を宥める方法が知りたい」
初めての事だからな、と嘯いてくれる恋人に、「……それは自分で考えてくれ」とレオンは言った。
『セフィレオ+ちょっとシドクラの存在の匂い』のリクエストを頂きました。
セフィレオもシドクラも、どっちも上司&部下で恋人同士な間柄です。
色々世情を詳しくチェックしているシドと、大企業の有望株で各方面にアンテナ張ってるセフィロスで、情報交換の機会が出来た模様。
レオンは偶々そこに居合わせて、完全プライベートな気分で店に来た所だったから、ちょっと近付き難い空気を感じて遠目に見てました。
クライヴはガブとオットーから「急ぎ案件だからシド捕まえてきてくれ!」って言われて、前にシドに連れて行かれた、他の人は知らない行き付けの店を梯子して行き付いた所。
この日以降、時々シドを迎えに来るクライヴとレオンがばったりしたり、レオンの知ってるシドの話したりして、レオンとクライヴも話するようになったら楽しいな……私が。