サイト更新には乗らない短いSS置き場

Entry

[オニスコ]背を伸ばしても理想は遠く

  • 2024/03/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

オペラオムニア3部9章後





“あの人”の意思と力で、世界が新たに造られて、いつの間にか随分と経つ。
その間に、散り散りになっていた仲間も、多くは合流することが出来た。
だが、一部の仲間はまだ何処にいるのか判然とはせず、また一部は、合流できたにも関わらず、なんらかの理由によって袂を分かっている。

光の羅針盤を唯一の指標に、その光針が指し示す先を辿る旅。
元々そうではあったが、新たな世界と言うのはまた途方もなく広く、飛空艇を使っても、回り切れると思えない程だ。
走る空は何処か不安定で、気象を読むことに長けた者から見ると、理屈を無視した出来事も多いらしい。
舵を切る手は慎重に、風を読む目は三つ四つ先まで見越して、そう言った知識を持つ者達が日々綿密な話し合いをして、向かうべき方向を決めている。

オニオンナイトも、“リーダー”としてよくその場に同席する。
本来ならば、この役目は自分など重いと思っているが、皆の意識が自分を“リーダー”として認識しているのだから、引き受けねばならない。
それは重責でもあったが、旧世界が書き換えられる直前、確かに“あの人”から託されたのだと言うことを覚えている。
他の誰も覚えていない中、自分とプリッシュだけがその書き換えを免れているなら、だからこそやるべき役目がある筈だと思った。
可能な限り、仲間達の懸念や想いを聞いて、その中で「今回はどうするべきか」を考える。
それが今のオニオンナイトの役目だ。

────そうして、長らく離れていた仲間達をまた再び、飛空艇へと迎え入れる事に成功した。
スコールとノクティスをリーダー役として、ヤ・シュトラやサンクレッドたちが下支えとしてまとまっていたそのグループは、久しぶりの飛空艇の乗艇に随分と安堵していた。
大きな傷のある都市で、記憶と時間を操る魔女との戦いを繰り広げていた彼等は、ようやっと一息つける場所に戻れたのだ。
彼の街で再会に至ったと言うノクティスの婚約者ルナフレーナも共に迎え、次の目的地を目指し、束の間の休息となった。

新たな理の世界となってから、“意思の力”の影響はより強くなっているようで、様々なことに干渉が起こる。
戦う為の力となることは勿論のこと、生活におけるちょっとした出来事にも、それは現れた。
至極些細なことで言えば、飛空艇の内部がじわじわと拡張されているような所があって、仲間が戻る、或いは新たに加わる都度、彼等の過ごす部屋が増えるのだ。
気付けば外観以上に内部は広くなり、質量保存の法則を無視しているのが感じられるが、有り難い影響であるのは確か。
元は敵対していた間柄の者も此処にはいる訳で、そうでなくとも相性の悪い者であったり、あそこはセットにすると厄介が起きるから離して置いた方が無難だとか、色々な理由で寝床は別々にしておく必要もあるので、部屋は多いに越したことはないのだ。

そう言った物理法則を無視した出来事も、この世界で長く過ごしていれば、必然的に慣れるもの。
初めてこの世界の飛空艇に乗ることになったルナフレーナに、ノクティスを始めとした、同じ世界から来た面々が説明をしているのを横目に見ながら、オニオンナイトは飛空艇内にいつの間にか出来ていた書庫へと向かっていた。
その書庫もまた変わったもので、飛空艇に乗る人が増える都度に、その人々の世界に存在していたのであろう本の出現が確認できている。
各世界のあらましにも触れることが出来る機会は貴重で、学者肌の人物はよく其処に籠って、様々な本を読んでいた。
オニオンナイトも、その一人である。

大所帯で旅をしているから、飛空艇の各場所、何処に行っても人の気配は絶えない。
オニオンナイトが書庫に入ると、ポロムとユウナ、ストラゴス、シャントットがいた。
この辺りは、よく本の虫として見かける人々で、シャントットに至っては彼女の席の回りに山のように本が積まれている。
オニオンナイトは仲間達の邪魔をしないように、足元の音に気を配りながら、並ぶ書架をぐるりと眺めてみた。

────と、


「リーダー」


そうやって呼ばれる事に、未だに慣れはしないが、それが今の自分を指している言葉だとは身に馴染んだ。
聞こえた声に振り返ってみると、濃茶の髪に蒼灰色の瞳、眉間に走る斜め傷───スコールだ。


「やあ。もう調子は大丈夫なの?」
「ああ」


オニオンナイトの言葉に、スコールは短く答えた。

スコールは先達ての魔女との戦いの後、飛空艇に乗り込んでから、しばらく念入りの休息を取っていた。
彼の仲間のは、この世界に召喚された者の殆どが、記憶に欠落がある状態で、尚且つ時代のズレもあったらしく、スコールは相当に気を回していたらしい。
同じ世界から来たリノアとアーヴァインは記憶を持っていたらしいが、アーヴァインは魔女との戦いが激化する直前、その記憶を奪われた。
それぞれの意思と思惑が複雑に交じり合う中、全ての記憶を持っていたスコールとリノアは、メンバーの支柱として奮闘していたと言う。
既に記憶を取り戻していたサンクレッド達が助言をしてくれてはいたものの、半ば追い詰められた心理状態でいた事も否めず、長らく緊張状態が続いていた反動か、飛空艇に乗ってから一気に疲れが出たらしい。
この為、昨日一日、スコールは限られた人以外とは会うことなく、自分に宛がわれた寝床に籠っていたそうだ。
それがこうして書庫にやって来たと言う事は、疲労も概ね落ち着いたと言う事だろう。

仲間が無事であったこと、そしてこうやってゆっくりと話が出来るようになったことは、オニオンナイトとしても喜ばしいものだ。
オニオンナイトは、スコールの手に小綺麗な本が一冊あることに気付き、


「スコールも読書?」
「……ああ。書庫があるって聞いたからな。俺の知っているものもあるかと思って、少し見に来たついでに」
「そう。読みたい本は見付かった?」
「一応。何度も読んだ奴だから、今更ではあるが」


そう言いながら、スコールは読書スペースへと移動する。
オニオンナイトはその背を眺めながら、スコールが何度も読むような本ってなんだろう、と思った。
彼はあまり自分のことについて、引いては自分の世界のことについても、必要最低限しか話すことはなかったから、彼の興味を引く事象と言うのはあまり他者に知られていない。
今度、スコールの世界にある本について聞いてみようか、と考えつつ、オニオンナイトは傍の棚から適当に目に付いた本を取る。
スコールと並んで座ると、彼はちらと此方を見遣ったが、それだけだった。

書庫は静かなもので、定期的にページを捲る複数の音と、本棚を行き来する足音の他は、パロムとユウナの密やかな話声が漏れ聞こえるくらい。
一枚扉の向こうでは、今日も賑やかな面々が行き来しているのだろうが、此処は隔離されたように穏やかだ。

そんな静寂の中で、ふ、とオニオンナイトは呟いた。


「……やっぱりスコールにとっても、僕がリーダーなんだね」


前後もない唐突な呟きだったが、思うとやはり零さずにはいられなかった。
もう何度も確かめた現実であるとは判っていても。

ページを捲ろうとしていたスコールの手が止まり、蒼灰色の瞳が伺うように此方を見る。
それから視線は本へと戻されたが、小さな唇が微かに引き絞られて、言葉を探しているようだった。
喋ることは決して得意ではない彼が、彼なりに何かを言おうとしている時の仕草なのだと、教えてくれたのはリノアだ。
だからそう言う顔を見付けた時は、じっくり待ってみて欲しい、とも。

スコールは読書の過程で丸めていた背中をゆっくりと伸ばして、椅子の背凭れに寄り掛かった。


「……“リーダー”に関する話については、ジタンとバッツから聞いた。本当は、あんた以外の“誰か”だったらしいことも」
「……うん」
「だが、悪いが幾ら考えても、その“誰か”の顔は出て来ない」
「うん。そうなんだろうって思ってた。この新しい世界に来てからは、皆そうだから」


致し方のない話だと、オニオンナイトも分かっている。
光の羅針盤が稀に映し出す光景に見える“彼”についても、それを知っていたのはプリッシュだけだった。
何人と話をしても、その記憶の齟齬を訴えても、デッシュでさえも───“彼”がいた場所には、今はオニオンナイトがいると言う。


「別に良いんだ、それについては。皆と再会して、何度も聞いた話でもあるし、光の羅針盤を辿って皆が集まることが出来れば、きっとまた“あの人”にも逢える。そうしたら、皆も思い出してくれる筈だって信じてるから」
「……」
「ただ、なんて言うか。僕は“あの人”みたいに皆を導いていける程、強くはないし。迷って悩んで、ぐるぐるしてばかりだから、“リーダー”なんて呼ばれる器でもないと言うか」


こんな事を言っては、自分を“リーダー”として標にしてくれる仲間達に、不安を与えてしまうと思う。
何度もそれを考えて、どうして自分なのだろうと零す度、沢山の人々に励まされて背を押された。
だからこそ自分なりに頑張ろう、と思う今に至るのだけれど、


「リノアやアーヴァインから聞いたんだ。スコールは元の世界で、指揮官だったって。そんなスコールにしてみたら、僕が“リーダー”なんて頼りないだろうな……って」
「………」
「……ごめん、こんな事言って」


オニオンナイトは緩く頭を振って、其処にかかる思考の靄を払おうと試みた。
既に自分の中でどうして行くかの心積もりは決まっているのに、過ぎる思考にどうしても心が囚われてしまう。
心に渦巻くそれは、堪えようとするほどに濃くなって行くから、時折吐き出さないと悪いものが溜まる。
とは言え、こんな所でそんな話をされても困るだろうと、今回その相手にしてしまったスコールに、オニオンナイトは詫びた。

読書の邪魔をしてしまったな、とこれ以上は喋るべきはないと思ったオニオンナイトだったが、


「……確かに、よく考えると、俺が覚えている“リーダー”の言動と、今のあんたを見ると食い違いはある、かも知れない」
「え?そうなの?」
「……かも知れないって話だ。俺も……元の世界の理があるから、記憶に関しては、色々と自信を持って言えない所がある」


そう言ってから、ただ、とスコールは言った。


「“リーダー”なんて言ったって、その形は色々ある。ぶれずに自分で決められる奴もいれば、色んな奴に気を配ってから決める奴もいるだろう。どっちが良いって言えるものでもない」
「でも、頼りないのは良くないでしょ。皆を不安にさせてしまう」
「……それならあんたは、どうすれば皆を不安にさせずに済むかを考えるだろう。“リーダー”だからって、仲間の誰にも頼っちゃいけない訳じゃない」


呟くスコールの表情には、微かに苦いものが滲んでいる。
それが、彼自身が自分のことを言っていると自覚する苦さの所為だと、オニオンナイトは知らなかった。


「誰かに頼ったり、相談したり。逆に、相談されることもあるだろう。その時、一緒に考えてくれるような“リーダー”も良い筈だ」
「……相談、かあ。そんな風に頼って貰えるかな、僕は」


スコールの言う事に頭で理解は出来ても、自分がそれに値するかと言われると、自信が持てなかった。
こと此処に及んで迷いを示すのは、良くないのだろうなと思いつつも、ぐるぐると巡る思考から抜け出すのは難しい。

そんなオニオンナイトを見て、スコールは言った。


「あんたは随分、話がし易い。だからあんたは、そのままで良いんだろう」
「……そうなのかな」
「少なくとも俺は、そう思っている」


蒼灰色の瞳が、彼にしては珍しく、真っ直ぐにオニオンナイトを映していた。
普段、あまり他者と目を合わせる事がない彼が、こうして真正面から捉えてくれると言う事は、その時口にする言葉が何よりも彼の本心だと言う事を示している。
澄んだ蒼の瞳が、彼の心の在処を、何よりも雄弁に語るから。

ややもしてから、スコールは「……喋り過ぎた」と小さく零して、視線を本へと戻した。
慣れない事を言った、と言う心境から、彼の頬は微かに赤らんでいるように見える。
オニオンナイトは、不器用な彼の、不器用な労わりを感じて、知らず強張っていた背中から力が抜けるのを感じた。



リーダー、と呼んでくれた隣の彼の声を頭の隅に思い出して、そこはかとなく面映ゆさが滲んだ。




3月8日と言う事で、オニスコ!
オニスコ?と思うような所ありますが、二人で話してればオニスコだと言い張る。

オペラオムニア終わっちゃったよ……の気持ちと入り交じり、うちでは珍しくルーネスではなく“オニオンナイト”で。
オペラオムニアが終わり、約十日間で3部後半から一気に駆け抜けたのですが、突然“リーダー”の立場に置かれた彼の奮闘ぶり。
そして元々ED後の記憶持ちで、本編中よりも少し素直になって、思ったことを言葉に出す努力をしているスコールの様子。
ゲームが大所帯であることもあり、作中でこの二人が絡んでる所って少なかったなぁ~と思いつつ、『突然リーダー役に祀り上げられた』者同士として、話をしてたら嬉しいなって言う願望でした。

Pagination

Utility

Calendar

11 2024.12 01
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

Entry Search

Archive

Feed