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[14+16/ひろクラ]海都にて

FF14で行われた、FF16コラボイベントのストーリーを元にしています
エオルゼアに迷い込んだクライヴを、ひろしが案内している一幕……のような話

※『ひろし』とは:FF14の公式トレーラーなどで、プレイヤーキャラのイメージ格として登場する男性の日本版の愛称名




全く知らない光景だ、と道行く風景を見て、クライヴは思う。

雲一つなく遠く晴れ渡る澄んだ青空、その色を溶かし込みながら深く深くまで沁み込んだ海の蒼。
その只中に存在する、白亜色の石を幾重にも積み重ねて築き上げられた建造物は、まるで要塞のようでもあり、巨大な船のようでもあり。
其処に鉄と木材を使って、足場を広げたり、橋にしたり、必要に応じて増改築を重ねて行ったような、聊かの無秩序振りもありつつも、それがまた絡まり合いながら奔放に伸びている様子は、一種の解放感も作り出していた。
その道を右へ左へ行く人々は、統一された色やジャケットで揃えている者もいるかと思えば、全く異なった装いの者もいる。
なんとも不思議な景色であった。

見知らぬ地で目覚め、其処で出会った男に連れられ、クライヴはこの海上都市へとやって来た。
リムサ・ロミンサと言う名で呼ばれるこの地は、全域を海に囲われた島国であるそうだが、地域としては、クライヴが目覚めた場所と同じ、エオルゼアと呼ばれる地域に属しているらしい。
と、此処まで聞いてはいるものの、クライヴには全く耳に初めての話としか思えなかった。
記憶がどうにも不明瞭で、かの地で目覚めるまでに自分が何をしていたのか、何を目的として動いていたのか分からない。
そこで、一先ずはエオルゼアの地を巡り、自分の記憶にまつわるものを探しに来たのだが、どうもこの風景にはまったくもって馴染みを感じられずにいた。

全く知らない地で、何処にどう行けば良いのかも判らない訳だから、案内人は必要だった。
それについては、クライヴが倒れているのを見付けた男が引き受けてくれた。
しがない冒険者と名乗った男は、現在、黒渦団と言う名の組織の下へと赴いている。
クライヴは、終わるまでちょっと此処で待っててくれ、と言われたので、アフトカースルと言う名の大きな広場の一角で、道行く人々を眺めていた。


(……随分と大柄な者もいるが、逆に子供のような体の者もいる。俺と同じくらいの者もいる。……猫のような耳や、角や、尻尾が生えているのは……動物のような体をした者もいるな。あれは、人でいいんだろうか?)


アフトカースルと呼ばれる広場を行き来する人々の姿は、見るだに様々に違っている。
クライヴとそう変わらない体格や顔立ちの者もいるが、特徴はそれと似ていても、体格がまるで三倍も違うような大男もあった。
かと思えば、クライヴの足の長さが精々と言う小柄な身長の者がいたり(子供かと思ったが、髭を生やしている者もいるので、そうとも限らないようだ)。
体格的には標準的だが、頭の上に猫や兎のような耳が生えていたり、顔に鱗や角が生えていたり、様々な形の尻尾があったり。
それらに驚いていたら、まるで獣と変わらない頭部を持ち、ふさふさとした体毛が生えている者もいる。
多種多様な姿かたちをしたものが、縦横無尽に行きかうものだから、クライヴの混乱は収まる所か益々深まっていた。

だが、クライヴが何よりも気になるのは、道行くそれら人々が、誰もクライヴのことを深く気に留めないことだ。
時折、此方を覗く視線があるのは感じるが、誰もが深くは留まらず、それぞれの用事に追われて移動していく。
黄色いジャケットを着た大男が近くに立ち尽くし、見張りのように目を配らせているが、それも一度か二度、クライヴを見ただけで、何も言わなかった。
クライヴの頬に刻まれた刻印を、まるで見ていないかのように、まるで何も気にする必要などないかのように、意識に止めない。

それも初めは、刻印があるからこそ、気に留められないのかと思っていた。
ベアラーである以上、その存在は道具以下だから、大抵の人間はベアラーと言うものを深く気にしない。
だが、偶々目が合った猫耳を生やした女性が、にっこりと無邪気に笑いかけて来たものだから、驚いた。

『印持ち』にそんな風に無邪気に笑う人なんて、見た事がない。
少なくともクライヴはそう思った。


(……此処はやっぱり、俺の知っている場所じゃない────と言う事か)


記憶が不鮮明な部分が多い所為で、色々と確信を持てない所はある。
だが、それでも意識に根付いたように感じる、常識との剥離は幾つもあった。
クライヴの持つ感覚は、この海の街において、恐らくは異質なものであると言う事が感じられる。

目の前を小柄な人が通り過ぎて行き、その後ろに、きらきらと輝く水色の動物がいる。
生物にしては少々不思議な空気をまとわせている、あれは動物、生き物なんだろうかと、見た事のないものがまたひとつ通り過ぎていくのを目で追っていると、


「悪い悪い、待たせたな」


声がして振り返ると、クライヴをこの街へと連れて来た男が立っている。
日焼けしたような傷み気味の黒髪に、使い古した旅装束に身を包み、無精ひげを生やしてはいるが、笑うと随分と子供っぽい印象を持たせるその男。
その手には、此処を離れた時にはなかった筈の、簡素な紙袋がひとつ。


「腹が減ってないかと思って、飯を買って来たんだ。此処で評判のビスマルクって店で作ってるサンドイッチ」
「それは、わざわざ……すまない」
「良いさ、俺も腹が減っていたし。ほら、今の内に食っとくと良い」


そう言って男は、紙袋から取り出したサンドイッチをクライヴに差し出した。
瑞々しい野菜と一緒に、鮮やかな黄色の卵を、程よく焼き色のついたパンで挟んだもの。
贅沢だな、となんとなく思いながら眺めているクライヴの横で、男も同じものを頬張り始めた。
大口で豪快に食べるその様子に、クライヴは此処まで自覚していなかった空腹を感じて、隣の男を真似るように齧りついてみる。


「うん……美味いな」
「そうだろ?俺もよく世話になってる」


言いながら男は、三口、四口としている間に、サンドイッチを平らげた。
もごもごと森にいる齧歯類のように頬袋を膨らませているが、当人は苦も無く顎を動かしている。

男は、サンドイッチを食べるクライヴを見て、


「此処の景色は、どうだ。何か見覚えのあるものとか、気になるものとかあったか?」
「…気になるものと言うと、幾らでもあるにはあるが……見た事のないものばかりだ」
「ふぅん。じゃあ、海とはあまり縁がないのかもな」
「恐らく。海を知らない訳じゃないが、何か、空気そのものと言うか───違う気がするんだ、俺が知っているものとは」


問いに正直に答えると、男はふむふむと噛み砕くように頷きながらそれを聞いている。


「それに、俺のことを誰も気にしない。気にしてはいるんだが、その……気に仕方が、俺の考えるものと随分違うんだ」
「なんだ。変なのに絡まれでもしたか?ここらはイエロージャケットがいるし、GCの軍令部も近いから、治安は良い方だと思ったんだが」


悪漢にでも絡まれたかと言う男に、クライヴは首を横に振った。


「いや、そうじゃない。どちらかと言えば、逆……と言うか。偶に目を合わせる人がいるんだが、随分と屈託なく笑いかけて来るものだから、驚いた」


言いながらクライヴは、頬の刻印に手を当てる。
男はその仕草を見てはいたが、ふうん、と首を傾げるように言って、


「まあ、珍しい顔ではあるからな。此処は交易都市だし、冒険者も多いから、新顔が幾らいたって可笑しくはないけど」
「そうなのか」
「冒険者は色々金を落としてくれるのも多いし、愛想よくしとけば、マーケットあたりで何か買って行ってくれるかも知れない。ウルダハとはまた別に、此処も商売っ気は盛んだからな。海上がりも多くて気風が良いのも多いし、人懐こい人もいるさ」
「そう言うものか……」
「荒っぽい連中もいるから、トラブルもあるけどな。街中で起こす奴なら、イエロージャケットが飛んできてお縄だが」


お陰で平和に過ごせる、と男は言う。
確かに、時折荒っぽい声が聞こえる事はあるが、かと言って大騒動が起きているかと言えば、そうでもない。
声のもとを探してみると、海の方に停泊している船の上でどんちゃん騒ぎをしている集団だったり、精々が睨み合いをしている程度で、黄色いジャケットの者が其処に割り入れば、お開きになるものだった。
きちんと統制とルールが守られている、と言うのが判る光景だ。

クライヴがサンドイッチを食べきると、さて、と男は腕を組む仕草をし、


「黒渦団の方に確かめたが、此処らで異変みたいなものはなかったから、やっぱり空振りだったかな。次はグリダニアって所に行こうと思うんだけど────飛空艇がさっき出たばかりなんだ。ちょっと待って貰っても大丈夫か?」
「あんたに任せよう。俺は何も判らないし……」
「じゃあ、次の飛空艇が出る時間まで、ぶらつくか。少し歩くが、国際街商通りの方に行ってみないか?色々あるから、知ってるものが見つかるかも知れない」
「ああ。案内をよろしく頼む」


クライヴの言葉に、任された、と男は胸を叩く。

男に案内されて行ったのは、人通りの絶えない市場の通りであった。
街の喧騒のまさに中心部とも言える其処は、長く伸びた道なりに色々な店が構えられている。
トンネルのような道を少し歩いてみれば、成程、様々なものが此処には集められていた。

大柄な男が豪快な声で客を呼び込む傍ら、気風の良い長身の女性がまた威勢の良い声をかけている。
物々しい武器を持った若者が店の間を行ったり来たりと繰り返したり、小柄で髭を生やした男性が、店の主人を相手に値切り交渉を粘っていた。
どう見ても人間とは違う姿形をした者は此処にもいて、魚の入った魚籠を片手に売り歩きをしている。
かと思えば小さな子供が無邪気な声をあげながら駆けて行き、ぶつかりそうになった大人から、「危ないぞ」と叱られていた。

何処を見ても、沢山の人々が忙しなく行き来している。
そのシルエットが大きいものから小さいものまで様々にあるのを見て、クライヴはやはり、不思議な光景だと思った。


「……良い景色だな。色んな人が、こうも混ざり合って、暮らしていると言うのは。違う所があっても、それを認め合って、自然に並んで過ごせると言うのは……とても、良いことだ」
「そうだな。俺もこの景色は結構好きだよ」


クライヴの言葉に、男が歯を見せて嬉しそうに笑う。
────でも、と言葉が続いた。


「でも、こうなるまでには、色々あったんだ」
「……色々?」
「俺が知ってるのは、俺が冒険者になってからのことだから、古い歴史は話の内でしか知らないけどな。でも、種族だとか部族だとか、俺が知ってるだけでも多かったよ」


そう言った男の目が、これまでの朗らかなものと変わり、何処か痛ましそうに細められる。
往来の邪魔にならないよう、店の隙間の壁際に立って、男は道行く人々を眺めながら言った。


「俺が知ってるのはほんの一握りだろうけど、自分が譲れないものとか、守りたいものとかの為に、何処かで争いが起きていた。姿形が違うとか、思い描いてる理想が違うとか、誤解とか、偏見とか────色々理由はあったな。今でもそれは根付いて離れないものもある筈だ。俺もどうしても譲れなかったから、戦った事は何度もある」
「……この街も、そうだったのか?」
「その筈さ。元々此処は海賊が集まって出来たものだから、時代の変化で海賊が海賊らしくいられなくなって、軋轢が起きた事もあったし。蛮族たちと話が出来るようになったのも、最近だしなぁ……あっちもまだまだ、種族内で揉めてる所はあるんだろうし」
「あんたは、随分とその揉め事の類に詳しいようだな」
「うーん、どうだろうな。ほっとけなくて勝手に首突っ込んでたら、いつの間にか知り合いは増えてたけど」


男はぼりぼりと頭を掻きながら言った。
不思議なもんだ、と呟く男に、クライヴはくつりと眉尻を下げて笑う。


「あんたはかなり、お人好しのようだ」
「さて、どうかな。本当のお人好しってのなら、もっと穏便な方法を探せる筈さ」


クライヴの呟きに、男は自嘲の混じった表情で言った。
その目が一瞬、男の腰に下げられた、立派な意匠が施された剣へと向けられる。


「俺は自分の必要に応じて、突っ走って来ただけだ。でもまあ、背を押してくれた人たちくらいは、護りたい気持ちはあったかな」


そう言って、男は剣の柄に手を遣りながら、目を閉じる。
彼の頭の中には、一体何が巡っているのだろうか。

そう言えば、この街に来た時から、方々で男は様々な人に声をかけられている。
その中に「英雄殿」と言う呼び名があって、随分と大層な呼び名を持っている、とクライヴが思っていると、男は眉尻を下げならそれに手を振っていた。
男は何か言いたげにしながらも、その目には、まあ良いか、と諦めのようなものが混じっていたのを、クライヴは思い出した。


「……あんたも、色々あるようだ」
「そうだな。うん。色々あったよ」


色々な、と反芻させる言葉の中に、男の人生のどれ程が込められているのか、クライヴには知るべくもない。
問うにはあまりに壮大な何かに手を入れるように思えたし、男もあまり、突かれたくはなさそうだった。

男が顔を上げ、目元にかかる髪を、潮風が撫でていく。


「でも、色々あったけど、その色々で逢った人たちの事は、大体は好きなんだ」
「大体は、か」


全てとは言わない所に、男の正直さがある気がした。
それから、男はまた子供のように笑って、


「だから冒険者なんてもんをやってるのさ。色んなものに逢えて、色んなものを知れるから」
「……成程。それは確かに、得難い経験になりそうだ」
「ああ。だからクライヴ、お前と逢えたのも、そう言う冒険がくれた、良い巡り合わせのひとつだと思ってるよ」


真っ直ぐに此方を見て言う男に、クライヴは少々面を喰らった気分だった。


「……記憶喪失で、何処から来たのかも判らないような、怪しい人間だぞ?俺は」
「もっと怪しくて危ない奴を、もっといっぱい知ってるからな。お前なんて可愛いもんだ」


そう言って男は、ぐりぐりとクライヴの頭を撫でる。
唐突なことに目を丸くするクライヴに構わず、男は満足すると、黒髪から手を離した。


「それじゃ、時間も良さそうだし、そろそろランディングに行くか。グリダニアで何か手掛かりがあると良いな」


行こう、と歩き出した男に、クライヴは髪の乱れに手を遣りながら後を追った。





『ひろクラのエオルゼアに倒れていたクライヴがひろしと出会って帰るまでの間』のリクエストを頂きました。
ひろし=冒険者は暁月6.1くらいのキービジュのつもりで書いていますが、それ程設定を詰めてはいないので、ふわっとした雰囲気でお送りしています。

FF14にて行われた、FF16コラボでクライヴがエオルゼアに漂着していた時の話です。
コラボストーリーではクライヴはウルダハとグリダニアを訪れたのみでしたが、折角だからリムサも見てってえええ!!(黒渦団所属プレイヤー)となってたので行って貰いました。
ヴァリスゼアの世界から見ると、エオルゼア=FF14の世界って、見た目も種族もバラバラな人たちが入り混じって過ごしているから、クライヴには大分新鮮な光景なんじゃないだろうか。
時間的には暁月6.0をクリア後の何処か、と言う感じです。なのでひろし、旅してきた想いは色々ありますわねえ……と言う気持ちで書いてます。

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