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[ロクスコ]夏雫の誘惑

  • 2024/08/08 21:35
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



プールに行こう、と言ったのは、勿論ティーダである。
それに、良いな、と乗ったのがヴァン。
そして、いつ行く?と言う話になった時点で、当然スコールもその計画には組み込まれていたのだった。

スコールの本音としては、こんなに暑いのに外で遊ぶなんて冗談じゃない、と言うものだった。
増してや夏休みのプールともなれば、イモ洗い宜しくファミリー客でごった返しているものだし、人混み嫌いのスコールにとっては、先ず行きたいとは思わない。
しかし、うだる暑さが続く日々の中、水と言うのは非常に魅力的な響きを持っていた。
どうして夏休みにそんなにプールが混むのかと言えば、やはり、其処にしか存在しない素材───大量の水が待っているからではないか。
気温30度越えなど生温いと言わんばかりの酷暑が続くならば、涼しい、冷たい、そして楽しめると言ったプールは、持って来いのレジャーなのだ。

と言う訳で、スコールはプールへとやって来た。
誘ったティーダと、其処に同席していたヴァンも勿論一緒で、三人揃ってこの夏初めてのプール遊びだ。
水球部として毎日のように学校のプールに親しんでいるティーダであるが、やはり、遊泳施設として純粋に水を楽しむというのは、気持ちも一入違うらしい。
家から服の下に水着を着てくると言う万全振りで、彼はいの一番にプールへと駆けて行った。
ヴァンもそれを追って、家から持ってきた浮袋を片手に、水の中へ。
スコールは忙しない友人たちに呆れつつ、しっかり準備運動をして、足から順に浸して、安全に入水している。

まあ来たのなら、入ったのなら折角だから泳ぐかと水を掻き分けていたら、ティーダから思い切り水をかけられた。
けらけら笑うのがスコールの負けず嫌いに火をつけて、水の掛け合いが始まる。
横で浮袋に捕まってのんびりとしていたヴァンにも当然それはかかり、男子高校生三人は無邪気に水と親しんでいた。

遊泳施設のプールにしかないものと言ったら、ウォータースライダーだろう。
地上十メートル以上の高さから、ぐねぐねと不規則に曲がるコースを滑り落ちるのは、爽快感が癖になる。
こればかりは学校のプールで味わえるものではないと、ティーダが行こうと言い出した。
スコールは階段で上まで行くのが面倒だったのだが、「一回くらい皆で滑って、一緒の思い出作るっスよ!」と爛漫の顔で言われてしまうと弱かった。
なんだかんだと渋い顔はしても、やれやれと付き合ってくれるスコールに、ティーダとヴァンも満足するのであった。

そして、三人揃ってウォータースライダーの出発点に来て、


「じゃあ一番は俺!」
「次俺」
「……」


ティーダが名乗りを上げ、ノリ良くヴァンが言い、スコールは溜息を一つ。
順番は決まったと、ティーダが早速出発点に腰を下ろして、スタートの合図となるカウントダウンを待つ。
スタート地点にいるプールスタッフが、ゴール位置の様子を確認してから、


「3、2、1……ゴー!」
「やっほーーーー!」


ティーダは嬉々として出発した。
スライダーを流れる水の導きに乗り、あっと言う間に彼の姿は、曲がるコースの壁で見えなくなる。
段々と遠くなっていく友人の声は、高く楽しそうに青空に響いて行った。


「じゃあ次、俺な。スコール、下で待ってるからな」
「……判った判った」


ちゃんと滑って来いよ、と釘を差すヴァンに、スコールは溜息混じりに返す。

普段、それ程高い声を上げることがないヴァンだが、水に触れるとやはり楽しいのだろう。
スタートの合図と共に、ヴァンはティーダを真似るように、無邪気な声を上げながら滑って行った。

それから多少の時間を置いてから、安全を確認したスタッフに促され、スコールもスタート地点に座る。
ウォータースライダーなんて、子供の頃に父と一緒に乗って、怖くて泣いてしまった思い出しかない。
流石にあの頃のように怖がりではないし、安全の設計が成されているのも判っている。
なんとなく思い出した子供の頃の風景を頭の隅に残しながら、スコールも合図と共に出走した。

色鮮やかなカラーチューブで作られた、流水の滑り台。
水による浮力と、それの流れに乗って滑る其処は、中々普段の生活で体感できるスピード感ではなかった。
時折視界を覆われつつ、トンネルを抜けた瞬間の青空の眩しさに目を窄めながら、体に顔に飛び散る水の冷たさに遊ばれる。
そうして長い筈のコースでも、あっという間にゴールが来て、スコールは着水スペースに滑り込んだのであった。


「っぷ……は、ふぅ……」
「おっ、来た来た」
「良いスライディングっス!」


ざばあっと水飛沫と共に到着したスコールを、ティーダとヴァンが迎える。

次の人が直に到着するだろうと、スコールは直ぐにその場から移動した。
着水池から上がるスコールの下へ、友人たちも合流し、


「どうする?もっかい行く?」
「俺は行きたい」
「……パス」
「おっけ、じゃあ俺とヴァンで行ってくる!」


アクティブなティーダが、こんなアクティビティを一回で終わらせる訳がない。
付き合ってくれる人いたら嬉しい、と言う表情のティーダにヴァンが乗ってくれたので、スコールは遠慮なく辞退させて貰った。
スコールのそんな反応は友人たちには慣れたもので、行ってきまーす、と手を振った。

一人になったスコールは、濡れた髪を掻き揚げながら、さてどうするかと考えていると、


「スコール」
「……あ」


名前を呼ぶ声に振り返ると、見知った顔────ロック・コールが立っていた。

こんな所で逢うなんてな、と歯を見せて笑う彼は、スコールにとって少々特別な人である。
“少々”と言うのはスコールが未だにこの関係に不慣れであるから、そう言ったクッションを置いて考えないと、どう向き合って良いかも判らなくなるからだ。
それ位に、二人は特別な関係ではあるのだが、それは周囲には秘密にしている。
密やかな間柄でも戸惑いが拭えないのに、他人に何と説明すれば良いのかなんて判らないからだ。
ロックの方は、スコールがそう考えている事を慮ってか、今は彼の友人たちにも、秘密にしてくれているらしい。

そんな男と、こんな所で逢うと思っていなかったから、スコールの心音は判り易く跳ねた。
それを隠すように視線を彷徨わせている間に、ロックはスコールの前にやって来て、


「偶然だな。お前がプールに遊びに来るタイプだったとはなぁ」
「……ティーダ達に誘われたんだ」
「はは、成程。友達付き合いは大事だもんな。でも一人みたいだけど、逸れたか?」


ロックの言葉に、スコールは頭上に聳えるウォータースライダーを指差した。
あっち、と無言で示すスコールに、ロックも成程と理解する。


「お前は良いのか?」
「さっき行った。だから良い」
「満喫してるな。羨ましいね」


くすくすと笑うロックに、スコールは揶揄われたか子供扱いされた気分で唇を尖らせる。


「……あんたは、なんで此処に」
「俺?見ての通り。此処でアルバイトだよ」


そう言って両手を開いて見せる仕草をするロックの二の腕には、『係員』の腕章があった。
つまり、プールの監視員だとか、安全の為の見回りの為、仕事に来ていると言う事だ。


「意外とルール守らない奴っているからな。スコールはそんな事しないと思うけど、客の中には迷惑行為してくる奴はいるから、気をつけろよ」
「……ん」
「じゃあ、ゆっくり楽しんで行けよ。次は俺とも一緒に遊びに来ような」
「……それは、気が向いたらな」
「ああ」


その返事だけで十分と、存外と大人な対応に慣れたロックは、満足げに頷いた。
これが口約束だけの内に夏が終わっても、彼は特に怒ったりはしないのだろう。
そう言う所に、スコールが時折、自分と彼の年齢差を感じて、じんわりと悔しい気持ちを抱いたりする事は、きっと彼には知られていない。

ひらひらと手を振ってパトロールに戻るロックを見送り、再び一人になったスコールは、時刻が昼を迎えている事に気付いた。
ウォータースライダーは順番待ちの行列が出来ており、ティーダ達はその真ん中あたりにいる。
当分降りて来る事はないだろうし、今のうちに昼食の調達でもしておけば、ゆっくり腰を落ち着ける時間も取れるだろう。

スコールは一度ロッカールームに戻り、財布を取ってプールサイドへと戻った。
売店や出店が並ぶ一角へ向かうと、胃袋を刺激する匂いが漂ってくる。


(ティーダの奴はがっつりしたもので……ヴァンも結構食べるんだよな)


自分は適当で良いとして、と売店をぐるりと巡って軽く品定めをしてみる。
無難に焼きそば大盛でも良いだろうか、と幟に気を取られながら歩いていると、どん、と何かにぶつかった。
気を散漫にしていた事は確かで、前方不注意もあったしと、スコールは直ぐに「すみません」と言ったのだが、


「おっ。悪い悪い、見てなかったな」
「怪我してないか?お詫びいる?」


浅黒く日焼けした若い男が二人、スコールの前を塞ぐ格好で立っている。


(……なんか、見るからにって奴らだな)


見た目で人を判断してはいけない、と教えられて育っているが、しかし人間の第一印象と言うのは案外と馬鹿に出来ないものである。
遊び慣れた風と言うだけならまだしも、にやついた顔つきが二つ並んでいるのを見て、スコールはひそりと眉根を寄せた。
おまけに堂々と道を塞ぐ位置から退く気配がないとなれば、どう考えても迷惑者の類を考えるだろう。
こういう輩もいるから、人が多い場所と言うのは好きではないのだ。

適当にあしらって離れよう、とスコールは思ったのだが、がしっと太い手がスコールの腕を掴む。
ぎょっとして固まるスコールを、男二人は囲うように挟んでいた。


「お詫びするよ、お詫び。飯奢るから」
「は?いらない、離せ」
「おい、こいつ男だろ。もっとさぁ……」
「いやいや大丈夫だって。良い顔しそうだろ?」
「離せ!」


スコールの腕を掴んだまま、明らかに不穏なやり取りをしている男達。
これは投げ飛ばしても良いものか、と騒ぎを嫌う真面目さがスコールの決断の邪魔をしていると、


「はいはい、何かありました?トラブルでも?」


スコールと男達の間に、ずいっと体で割って入って来たのは、ロックだ。
獲物を持って行く邪魔をされた男達が、苛立たし気にじろりと睨む。
が、ロックの『係員』の腕章を見付けると、厄介なのが来た、と言わんばかりの顔で「いや、別に……」と言って掴んでいたスコールの手を離す。
露骨な舌打ちをしながら二人の男が売店エリアから離れるまで、ロックはスコールの前に立っていた。

男達の姿が見えなくなって、ふう、とロックは息を一つ。
後ろに庇っていたスコールの方を見て、「大丈夫か?」と声をかけた。


「腕掴まれてたな。怪我は?」
「それはない。……あんたのお陰で」
「そりゃ良かったよ。仕事してた甲斐があった」


ほっとした表情のロックに、スコールも小さく「……助かった」と言った。
小さいが聞き取るには十分だったその言葉に、ロックはにかりと笑って見せる。

それからロックは、スコールの様相をしげしげと眺める。
先ほど、ウォータースライダーで濡れた事もあって、スコールはいつも下ろしている前髪をかき上げていた。
そうすると、額の傷が露わになる傍ら、大人びた面立ちが案外と幼い表情を浮かべるのがよく見える。
若く瑞々しい体には水滴が滑り、聊かアンバランスな色と匂いを振り撒いているようだった。


「……一人にしない方が良いかなあ、これは」
「……?」


ロックの呟きは小さく、独り言で、スコールにははっきりとは聞き取れなかった。
首を傾げるスコールに、ロックは何でもない、とひらひらと手を振る。


「友達はまだウォータースライダーか?」
「行列になっていたから、多分。俺が見た時は時間がかかりそうだったから、その間に昼飯を買っておこうと思ったんだ」
「じゃあ俺が付き合おう。さっきみたいなのがまた来たら面倒だろ?」
「あんた、見回り中なんだろ。他の所は良いのか」
「今此処で迷惑客が出たんだ。戻って来ないように監視もいるし、またお前が絡まれるかも知れないし。これもちゃんとお仕事だよ」


そう言ってロックは、スコールの髪をくしゃりと撫でた。
上げられていた前髪を崩してやると、濃茶色のカーテンが目元を隠す。
しかしそうすると、蒼灰色の瞳に柔い影がかかり、また顔回りの雰囲気が変わる。

うーんと唸りながら、ロックはこれ以上は不自然と、スコールの頭から手を離して、


「なあ、スコール。今年、またプール来る予定あるか?」
「さあ……あいつらが行きたいって言ったら、来るかもな」


人混みは嫌いだが、水の冷たさは気持ちが良かった。
そう思うと、また友人たちに誘われた時に、行っても良いかと思う位はあるだろう。
そう言ったスコールに、ロックはそうかそうかと頷きつつ、売店巡りを促す。

友人の腹を満たせるラインナップを探すスコール。
傍らで、今夏一杯は此処のバイトを続けよう、とロックが思っている事を、彼は知らない。





『真夏のロック×スコール』のリクを頂きました。

夏と言えばプールと言う事で。
なんだかんだとプールを満喫してるスコールに、この色気は絡まれるなあ……とガード体制を取ったロックです。
でもスコールが楽しんでいるのを邪魔したくはないので、こっそり守る方向で。

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