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2016年07月

きらい、きらい、きらい

  • 2016/07/02 00:01
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ラグナがメールを送信して間もなく、バッツからの折り返しのメールが届いた。
首輪はやはり今後を思えば必要である事、バッツ達との訓練でも課題として行く旨が綴られている他、気に入った首輪があればそれを持って来て欲しいとも書かれていた。

ラグナは早速、首輪を探して歩き回った。
レオンとスコールは、留守番ならば二人だけで熟せるようになったので、食事の時間等に気を付ければ、ラグナ一人の外出は難しくはなくなっている。
とは言え、やはり彼等を残して出掛けるのはラグナの気持ちが落ち着かない為、ラグナが日々出掛けるのは、ほんの二、三時間程度だ。
セフィロスから獣人用に揃える道具を売っている店を幾つか教えて貰い、車で梯子して、ようやく似合いそうな色の首輪を見付ける事が出来た。

ラグナが買って来た首輪は、彼等の瞳の色に似た、深い紺色の首輪。
上等な革製のものに少々惹かれたが、それなりに重さがあった事や、将来的に成長すれば更に大きな首輪を用意する必要がある為、先ずは安価な合成繊維で編まれた布製から始めてみる事にした。
太さも各種あったが、まだ幼い事、首輪そのものに慣れていない事を鑑みて、圧迫感の少なそうな細いものに決めた。
身に付ける習慣が着くまでは、着脱が簡単なワンタッチのものにして、苦しそうにしていたら直ぐに外せるようにする。

────が、このチョイスが悪かったのか、そもそも彼等に首輪の習慣がない為か。
ラグナが兄弟の揃いで買って来た首輪は、当人達には頗る不評であった。


「あ~……また……」


床に落ちていた千切れた布の切れ端を見て、ラグナは溜息を吐く。
屈んで拾うと、直ぐ傍にあったソファの後ろから、ガタッと音が鳴る。
顔を上げれば、ソファの陰から飛び出した四足の陰が、寝室のドア向こうへと滑り込んで行った。


「今のは、スコールかな……」


呟いて手元の布きれに視線を落とすと、布の端にワンタッチ式の留め具と、『Squall』と文字の入ったタグがついている。
やっぱり今のはスコールだな、とラグナは確信した。

セフィロスの注意と助言に従い、獣人の兄弟に首輪を付けさせるよう努めているラグナだったが、中々これが捗らない。
元より、首は生き物の急所に当たる上、食事や呼吸に重要な場所で、此処に何か身に付けるとなると、多少圧迫される感覚は避けられない。
つい最近まで野生の世界で生きていたレオンとスコールも、首が自身にとって守らなければならない場所である事は判っているのだろう。
其処に食い付かれれば自分は死ぬ、と言う事を身を以て知っている為か、其処を支配される事への恐怖が強いようで、何度試しても直ぐに千切り破ってしまうのだ。
バッツに因れば、野生から保護された獣人にはよく見られる傾向であるらしく、とにかく着けては外しを繰り返す反復訓練をするのが一番だと言う。
根気との勝負なのだ、とバッツに言われ、ラグナも辛抱強く向き合うつもりでいる。

しかし、理屈で判ってはいても、目に見えて状況が進まないのは、苦いものがある。
特にスコールの首輪への嫌がり振りは顕著で、最近はラグナが首輪を持って来るだけで威嚇する程だった。
なんとか着けさせても、ワンタッチのものは自力で外せる事を覚えた為、ラグナが見ていないと直ぐに外してしまう。
おまけに、外したそれを仇の如く噛むので、“ライオン”モデルの発達した犬歯に齧られた布製の首輪は、あっと言う間にボロ切れと化してしまうのであった。

ラグナはボロボロになった首輪をゴミ箱に捨てた。
三つ四つに千切られていては、もう修復は不可能だ。
安価なので懐には痛くないのだが、既に何度も買い直している事を考えると、多寡が首輪とは言えない金額になりつつある。


「もうちょっと頑丈な奴に……いや、そもそも着けるのに慣れるのが先決だもんなぁ。どうしたもんか……」


溜息を漏らしながら、ラグナは寝室の扉を開けた。

ラグナの寝室には、生活に必要な収納用品とローテーブルの他、大きなベッドが置かれている。
ベッドはラグナと兄弟が一緒に寝ても十分に広い大きさだ。
いつか三人で一緒の布団で眠れたら、と言う願いで買ったベッドは、最近ようやくその役目を担えるようになった。

そのベッドの上に、レオンが座っている。
隣にはスコールも丸くなっていたのだが、ラグナが入って来た事に気付くと、脱兎のように逃げ出して、窓辺のカーテンの奥に隠れてしまった。


(やっちゃいけない事をしたって自覚はあるんだなあ)


カーテンの向こうでもそもそと動いている影を目で追いつつ、ラグナはレオンの隣に腰を下ろした。
レオンはラグナが来た事には気付いているようだが、尻尾をぷんっと振っただけで、顔を上げる事はない。

レオンは、自分の首にあるものを頻りに気にしていた。
其処には、スコールが千切ったものと同じ、紺色の首輪がある。
レオンは丸い指先から爪を出して、カリカリ、カリカリと首輪を引っ掻いていた。


「こら、レオン。傷になっちゃうだろ」
「……ぐぅ……」


ラグナがやんわりとレオンの両手を捕まえると、レオンの鼻先に皺が寄った。
ぐるぐると喉を鳴らし、不満を隠さないレオンに、ラグナは弱ったもんだと頭を掻く。

首輪を見るのも嫌と言わんばかりのスコールに比べると、レオンは比較的大人しかった。
しかし、首輪を許容できている訳ではなく、鬱陶しそうにいつも爪を立てている。
爪切りをするようになって、レオンもスコールも爪で人を傷付ける事はなくなったが、それでも何度も何度も同じ場所を引っ掻いていれば、布は解れて千切れるし、皮膚も負けて傷になる。

ラグナはレオンの頬をくすぐりながら宥め、彼の首を覗き込んだ。
心配した通り、レオンの首には細かい引っ掻き傷が残っており、薄らと血を滲ませている。
首輪をつける度、レオンはこうなってしまうので、これならスコールのように外される方が良いかも知れない、とラグナは思う。


「……しょうがない、外すか……」
「ぐぅ……」


ラグナの言葉に、早く、と急かすようにレオンの喉が鳴る。
ワンタッチの留め具のボタンを押さえると、パチン、と音がして、布の輪が解けた。

と、思った瞬間、素早い影がラグナの手を掠めて通り過ぎる。
遅れてそれを目で追うと、スコールが床に押さえ付けた首輪紐を噛んでいた。


「こら、スコール!」
「ふーっ!ぎーっ!」
「駄目だって言ってるだろ~っ」


この首輪が兄を苦しめていた事を、スコールは理解していた。
伏せの姿勢で、爪を立てた両手で端と端を押さえ付け、解れていた布に歯を立ててぎりぎりと引っ張る。

ラグナが慌てて首輪紐を取り上げようと掴むと、スコールは全力で抵抗した。
顎に力を入れて歯を食いしばり、引っ張り奪おうとしている。
既に解れていた首輪には耐久力など残っておらず、ぶちぶちぶちっ、と裂け千切れた。


「あーっ!」
「ぎゃうううううう!」
「スコール!」
「!!」


ラグナが声を大きくして名を呼ぶと、ビクッ!とスコールの体が硬くなった。
開いた瞳孔で。眉尻を吊り上げているラグナを見たスコールは、千切り取った布を放って逃げ出す。
スコールは、フローリングの床でつるっつるっと足を滑らせながら、ベッドの上へ飛び乗ると、まだ首を気にして丸めた手を当てているレオンの陰へと身を隠した。

ラグナはボロボロになった布切れを見て、何度目か判らない溜息を吐く。
ちらりと兄弟を見遣ると、怯えきって丸くなっているスコールを、レオンが舐めて宥めていた。
切れ長の眦に、大きな雫を浮かべているスコールに、ラグナの胸がずきずきと痛む。


(あ~、怒っちまった……でも、今のはなぁ……)


キロスやウォードに、兄弟に対して大甘だと言われるラグナだが、躾はするべきだと言う事は判っている。
人を噛んだ時や引っ掻いた時は勿論、故意ではなくとも物を壊してしまった時など、人間の子供に対する時と同じように叱っていた。

スコールが首輪紐を千切り壊してしまう度、ラグナは彼を叱った。
これは玩具ではない事も教え、バッツに借りた写真を見せて、身に付けるものだと言う事も教えている。
持って遊ぶ様子がないので、玩具ではない事は早い内に理解したのだろう。
それは良いが、身に付けると言う事が受け入れ難いスコールは、こんなものは要らないんだと全力の抵抗で訴えている。
しかし、彼等の今後の生活を思うと、その我儘を許す訳にも行かない。
だから根気強く教えよう、慣れて貰おうと思っているのだが、此処まで攻撃的に出られると、上から押さえ付ける行為にも出なくてはならなかった。

ラグナは床に座り、立てた片膝に額を押し付けた。
苛々してはいけない、と頭では思っているものの、中々進まない現状には、どうしてもささくれ立ってしまう。


「あー……」


ばたり、とラグナは仰向けに転がった。
電気のついていない電灯を見詰め、どうしたもんかなあ、と何度目かの呟きを零す。

ちらりとベッドを見ると、スコールが兄の首を仕切りに舐めていた。
レオンはくすぐったそうに目を細め、房のついた尻尾をゆらゆらと揺らしている。

────彼等の行動に、悪気と言うものはない。
スコールにしてみれば、つけたくもない首輪を無理やり付けさせられて、嫌だと主張しているだけ。
レオンは判り易く嫌がりはしないものの、つけていると窮屈に感じているのは間違いないだろう。
スコールがレオンの首輪紐まで噛み千切ったのは、そんな兄の気持ちを掬い、彼を助ける為だったに違いない。

それが判るだけに、ラグナは心苦しい。
彼等の嫌がる事はしたくない、けれども、と板挟みになる胸中に、どうするべきか、答えは未だ見えない。


(……明日はまた訓練所だな。幸いなのは、スコールもレオンも、あそこに行くのは嫌がってないって事か……)


首輪の訓練もあり、最近は頻繁にバッツ達の待つ訓練所に通っている。
其処で逢うバッツとジタンにスコールが懐いている為か、レオンも通う事を嫌がる事はなかった。
“猿”モデルであるジタンは、二人の言葉を正確に聞き取る事が出来るので、話し相手に逢えるのが嬉しいのだろうか。
バッツも彼等の運動量に負けない体力を持っているので、彼等は訓練をしていると言うより、遊び相手に会いに行っている、と言う意識の方が強いのかも知れない。

ラグナは、手の中に残っているボロ布を持ち上げた。
怒りに任せて引き千切られたそれが、レオンとスコールを苛んでいるのは確かだ。
彼等を守る為、必要なものとは言え、もっと何か別の方法はないだろうか、と思案していると、


「……がぁう」


控えめな声が聞こえたかと思うと、ラグナの視界に、ひょこり、とレオンが顔を出す。
首輪をしていた時、鼻に寄っていた皺はない。
じぃっと見詰める青灰色の瞳が、心なしか気まずそうに揺れていた。

ラグナが起き上がると、レオンの後ろにはスコールがいた。
兄の背中に隠れて、ちらちらと此方を覗いては、眉間に皺を寄せている。
しかしその表情は、不満と不安が入り交じって見え、また叱られるのを怖がっているのだと判った。


「……レオン」
「がう」
「スコール」
「……」


呼ぶ声に、スコールは返事をしなかったが、代わりに尻尾がぱたりと振られた。

ラグナは布切れを床に置いて、二人の頭を撫でる。
レオンは眩しそうに目を細め、スコールは俯いてされるがままになっていた。
そんなスコールにラグナはくすりと笑みを零し、


「スコール」
「……」
「首輪が嫌なのは判った。でも、これは噛んじゃ駄目なんだ」
「……」
「レオンも窮屈なんだよな」
「……くぅ……」
「ごめんな、二人とも。今日はもう良いから。明日は、ジタンとバッツのとこ行こうな」
「……がう」


ラグナの言葉に、スコールはこくんと頷いた後、すりすりとラグナの胸に頬を寄せる。
悪い事をした時、叱られた後に謝っている時の仕種だった。

ラグナはスコールの背中をぽんぽんと宥めながら、レオンの頬を撫で、


「レオン。首、もう一回見せてご覧」


ラグナに言われて、レオンは素直に上を向いて、首を晒す。
首の皮膚には、薄らと引っ掻き痕は残っているが、滲んでいた血は止まったようだ。


「今日はもうコレ付けないから、もう引っ掻かないような」
「がぁう」
「よしよし」


良い子だ、とラグナがレオンの耳の後ろをくすぐる。
レオンは気持ち良さそうに頭を差し出し、ぐりぐりとラグナの胸に頭を押し付けた。






言わないけど嫌なレオンと、全力抵抗のスコール。
でもラグナを困らせたい訳ではないのです。

まもるためのきまりごと

  • 2016/07/01 23:58
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マンション裏の小さな庭で遊んで以来、其処はレオンとスコールのお気に入りの場所になった。
まだまだ人馴れしているとは言えないので、遊ぶのは専ら平日の昼間、其処に誰もいない時に限られる為、頻繁に行ける訳ではないのだが、それでも週に一度は必ず其処で遊べるように、ラグナは努めていた。

ラグナが二人を引き取ってから、直に十ヶ月が経とうとしている。
動物であれば、一年も経てば子供から大人へと成長している所だが、獣人である彼等の成長速度は、人間のそれとほぼ同じだ。
引き取った頃に比べ、身長体重は増えつつあるものの、それこそ人間の子供の変化と違わない程度だ。
頭身もまだまだ三歳児か四歳児に相当しており、まだまだラグナが一人ずつ両腕で抱える事が出来る。

生活面での変化については、ラグナと二人のコミュニケーションが少しずつ増えている事が挙げられる。
人間に近い“猿”モデルの獣人として生まれたジタンは、早い内からヒトの中で暮らしていた為、尻尾さえ隠せば人間と変わらない程に喋れるが、“ライオン”モデルであり、野生に生まれてから数年は経っていると見られるレオンとスコールの声帯は、動物のものと同じような発達をしているらしく、彼等が人語を発するには至らない。
しかし知能の発達は著しい所があり、毎日ラグナが話しかけ、幼児向けの番組を見ていたお陰か、簡単な単語から始まり、幾つかの会話文なら、その意味を理解する事が出来るようになった。
食事の準備や後片付けから始まり、掃除や洗濯と言った家事も手伝うようになっている。
ラグナが頭を悩ませていた爪研ぎは、ジタンとバッツによる爪切り作業を訓練した後、定期的にラグナの手で施される事となった。
爪切りは初めは嫌がる傾向が強かったが、爪きりの後に外へ連れ出したり、良い子にしていたご褒美にとおやつを用意すると、段々とその習慣が身に着いたようで、大人しく身を任せるようになって来た。
兼ねてより課題ともされていたスコールの噛み癖も、大分加減が出来るようになり、ラグナの生傷も減りつつある。
まだまだ課題やトラブルはあるが、野生から保護された“ライオン”モデルの獣人の育成記録としては、順調なものだろう。

────と、此処でまた一つ、ラグナに考えるべき壁にぶつかった。



ラグナ達が暮らしているマンションには、他にも獣人と同居している者がいる。
主はセフィロスと言う名の美丈夫で、彼は警察機構に所属しており、同居している獣人は二人、どちらも“犬”モデルであった。
将来的には、従来から採用されている警察犬とのコンビネーションを期待されているらしく、普通の獣人よりも遥かに難しい訓練を熟していると言う。
年齢で言えばレオンより年下、スコールよりは年上に当たるそうだ。

ラグナがセフィロスと“犬”の獣人に逢ったのは、つい最近の事だ。
レオンとスコールを庭で遊ばせている所を、訓練から帰って来たセフィロス達が見付け、声をかけられた。
身近に獣人と同居している人物がいたと知り、ラグナは諸手で喜んだ。
獣人保護機関に所属してはいるものの、子供を育てた経験もなければ、動物と過ごした事もなかったラグナである。
良ければ色々教えて欲しい、と言うラグナに、セフィロスは勿論だと頷いてくれた。

そして何度か交流を重ね、レオンとスコールも、セフィロスの下の獣人と顔馴染み程度になった頃、セフィロスはラグナの家を訪ねて、こう言った。


「あの二人、首輪はしていないのか?」


セフィロスの問いは、獣人との関わりのみならず、動物を飼っているものにとっても、当然のものだった。

獣人は人間と動物の特徴を持ち合わせ、特殊な“獣人”として扱われているが、やはり“ヒト”とは一線を隔すものがある。
動物に比べると、知能が高く、器用な獣人であるが、理性よりも本能が強い所、爪や牙と言った特徴は、人間よりも動物に近い。
こうした事がトラブルを呼ぶ事も少なくない為、区別の枠は簡単には外せない。
これはジタンのように、人間社会にほぼ溶け込んでいる獣人には色々と複雑なものがある(実際に、ジタンの兄は、尻尾を隠して人間と同じように振る舞っているらしい)ようだが、この枠によって、獣人が庇護されている所も少なくなかった。

この枠によって定められたルールの中に、“ヒト”と共存する獣人は、自分がヒトの下で暮らしている事を示す為、何某かのアクセサリを着ける事が義務付けられている。
アクセサリには、自分の保護者となる人物の名前、住所、そして本人の名前が記されたシール等を貼る。
飼い犬や飼い猫に首輪をつけるのと同じ事だ。

それらを簡潔に説明して、セフィロスは続けた。


「家の中にいる時は外していても構わないが、外出時は必須だ。公共空間では特に、な」
「そんなのがあったのか……俺、全然知らなかったな」


しみじみと呟きながら、ラグナはセフィロスの下で暮らしている獣人たちを思い出す。
外で彼等を見る時、確かに二人の首には、首輪のようなものが装着されていたように思う。

野生の獣人とは度々向き合ってきたラグナであったが、ヒトの社会で過ごす獣人と向き合う事になったのは、レオンとスコールが初めての事だった。
野生の社会に関与してはならない、と言う規則は判っていても、ヒトの社会でのルールについては、やや鈍い所がある。
勉強し直さないと、と遅蒔きに自分の無知を自覚する。


「でも、首輪かあ。なんだか無理矢理従わせてるみたいで嫌だなあ」
「飼われている犬猫に首輪を付けるのは、無理矢理従わせる事になるか?」
「うーん……違う、かな……」
「首輪やタグには、保護者や飼い主の情報も記載される。それを身に付けている事で、正式な手続きを踏んで此処にいる事、法的にも守られていると言う証になる。要は、身分証明書の代わりと思えば良い」


セフィロスの言葉に、そう言う事か、とラグナは考えを改める。


「俺、今まで危ない事してたんだな。何も考えずに外に連れて行ってたよ」
「まあな……トラブルがなかったのは、幸いだと言えるだろう。だが、今後もそうでいられるとは言えない」
「そうだな。じゃあ、急いで用意しなきゃいけないのか」


ラグナの視線は、リビング横の寝室へと繋がるドアへと向けられる。
その向こうで、ぱたぱたとじゃれ合っているのであろう物音が聞こえていた。

レオンもスコールも、マンション裏の庭で遊ぶのを楽しみにしている。
ラグナはそれ以外にも、色々な場所に連れて行って、沢山のものを見せてやりたいと考えていた。
となれば、多少彼等に窮屈な思いをさせるとしても、トラブルによって彼等を不幸にさせない為、ルールは守るべきである。


「普通の首輪で良いのかな?普通のペット用とかでも?」
「使うものに細かい指定はなかった筈だ。それより、今まで装備していなかったものなら、当分は嫌がる可能性があるから、それはどうにかしないとな」
「嫌がる事はあんまりしたくないんだけど……でも、外に出るなら必要なんだよなあ。これも訓練か…」
「獣人の生活訓練施設に所属している知人がいるそうだな。相談してみたらどうだ?俺よりももっと専門的に知っていると思うが」
「そうだなあ……うん、そうしてみるよ」


忘れない内に、とラグナは早速携帯電話を取り出し、メールを打ち込んで行く。
送信先は、スコールの生活訓練に協力してくれているバッツだ。
彼はすっかりスコールの事が気に入ったらしく、相棒として一緒に訓練に携わっているジタン共々、頻繁に連絡を取り合う仲になっている。
スコールも彼等に逢うのは吝かではないようで、警戒心の強いスコールが懐いている、数少ない人物であった。

ラグナがメールを打っている間に、セフィロスはコーヒーを傾ける。
少し冷めていたが、コーヒーの香りは損なわれてはいない。
何処の豆だったか、とセフィロスがぼんやりと考えていると、キィ、と蝶番の鳴る音がした。

そっと開かれたドアの隙間から、ひょこり、と蒼灰色が二対覗く。
トーテムポールのように上下に並んだそれは、此処で暮らしている二匹の獣人のものだ。
二対の蒼が銀色を見付けると、細い瞳孔がじいぃっとセフィロスを見詰める。
警戒と観察の視線にセフィロスに、セフィロスが微かに唇を持ち上げてやると、下の蒼がドアの陰へと引っ込んだ。


「相変わらず、警戒されているようだな」
「ん?ああ、スコールか。やっぱり人見知りみたいでなあ」


携帯電話から顔を上げ、養い子達に気付いたラグナは、眉尻を下げて言った。

陰に隠れてしまったスコールに比べると、レオンは余り物怖じしない。
警戒はしているものの、逃げる事はなく、じっとセフィロスの方を見詰めていた。
その瞳が、微かに何かを探すように動いているのを見て、セフィロスは苦笑する。


「すまないな。ザックスとクラウドは留守番だ」
「残念だったなー、レオン。また今度、一緒に遊んで貰おうな」
「……がう…?」


ザックスとクラウドとは、セフィロスの下にいる“犬”モデルの獣人だ。
恐らくレオン達は、セフィロスの匂いがしたので、彼等も来たのだと思って覗いていたのだろう。
しかり、彼等は今日の午前中、セフィロスと共に訓練を熟し、今は昼寝の時間だと言う。
レオン達に比べ、セフィロスに引き取られてから長く暮らしている彼等は、二人だけで過ごしていても特に問題は起こさない────らしい。
時折、落ち着きのないザックスが、遊んでいる時に物を落とす事がある程度だった。

レオンはしばらく此方を覗いていたが、遊び相手が来たのではない事を知って、ぱたりとドアを閉じた。
引っ込んでしまったスコールを構いに行ったか、宥めに行ったのだろう。

まだまだ気難しい子供達を、これからも守って行く為。
ラグナは、先ずは彼等に似合うものを探さなければと、改めて気合を入れた。





また一つ、越えなくてはならない壁。

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