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2016年07月02日

[獣人レオン&獣人スコール]けものびと

  • 2016/07/02 23:00
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[けものびと]の続きです。
獣人レオンと獣人スコールと、保護者のラグナのパラレル。
前の話は此方→[けものびと]

犬の獣人のザックスとクラウドも出てきます。保護者はセフィロスです。


[まもるためのきまりごと]
[きらい、きらい、きらい]
[どうしたらいいんだろう]
[ここにいるためのきまりごと]
[いっしょにいたい]
[ずっとずっと、ここがいい] 


決まりごととか首輪とかに関する話。ようやく書けました。
レオンもスコールも、故郷の事は忘れていないけど、ラグナと一緒が好きなのです。
今は皆で一緒にいられるのが幸せ。

ずっとずっと、ここがいい

  • 2016/07/02 00:07
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兄が首輪をつけるようになった。

首輪は、今までラグナが着けようと調達して来たものと、随分と形が変わっていた。
布で出来た脆いものでもなく、ザックスやクラウドが着けている黒い革の首輪とも違う。
硬くてきらきらと光る銀色の首輪で、首にぴったりとまとわりついている事もなく、首に引っ掛けているだけのもの。

ほんの少し前まで、兄は首輪を着ける事を酷く嫌がっていた。
ラグナはきつい首輪を着けようとはしなかったけれど、それを首に捲かれるだけで、酷く息苦しくなる気がしたのだと言う。
スコールも同様で、必要な事だからと言われても、息苦しさが我慢できなくて外していた。
こんな物があるから、と何回噛み千切った事だろう。
その度にラグナに叱られ、レオンに宥められたけれど、スコールはどうしても受け入れられなかったのだ。

首に触られるのは、あまり好きではない。
レオンに舐めて貰うのと、ラグナにくすぐられるのは、嫌いではないけれど、他の者には触らせたくなかった。
首輪なんて正しくスコールの嫌う所だったのだ。
だから嫌だと何度も訴えていたのに、ラグナはそれでも首輪を嵌めようとする。
レオンにも我慢するようにと言われたけれど、そんなレオンも首輪が嫌で、いつも爪を立てていた。
脆い布の首輪は、爪で引っ掻くと直ぐに破れて、レオンの爪は自分の首を掻いてしまう。
そうして傷の出来た兄の首を、何度も舐めて慰めていた。

それなのに、新しい首輪を着けられたレオンは、ちっとも嫌そうな顔をしない。
スコールは、なんだか兄に裏切られたような、置いてけぼりにされたような気分になっていた。

──────が。

ラグナが食料を調達に出掛けて、兄弟が一緒に昼寝をしていた時の事。
ふと目が覚めたスコールは、しばらくの間、ぼんやりと兄の隣で過ごしていた。

ラグナがいない家の中は、とても静かだ。
今日はセフィロスがザックス達を連れて来る予定もないようで、良い昼寝日和だったのに、こんな時に目が覚めてしまうなんて勿体ない。
窓から差し込む陽光は、ぽかぽかと暖かく、もう一回寝よう、と思ったのだが、何故か睡魔は訪れない。

段々と、睡魔を待つよりも、じっとしている事に飽きて、スコールは体を起こした。
隣で丸まっているレオンの背中に、ぐりぐりと頭を押し付けてみる。
が、兄はすやすやと眠っていて、今日は起きてくれそうにない。
スコールは今度はレオンの首の後ろに顔を近付けて、レオンの毛繕いを始めた。
日向で眠るレオンからは、ぽかぽかと暖かな匂いがして、彼が今、とても幸せである事が判る。

此処に来る前に暮らしていた場所では、兄は腹を空かせながら食料を取りに行って、僅かな肉を自分に分け与えていた。
あの頃のレオンは、毎日泥や土埃に塗れて、時には血を流しながら帰って来た。
痛い思いをしながら、なけなしの食糧で空腹を誤魔化し、次の日にはまたふらふらとした足取りで食糧を探しに行く。
自分は、そんな兄がいなければ生きていけない程、弱かった。
自分の存在が、兄の足枷になっている事を理解しているから、辛かった。
自分がいなければ、自分さえいなければ、兄はきっとこんなに辛い思いをしなくて良いのに────そう思ったのは、一度や二度ではない。

レオンが毎日のように日向の匂いをまとわせて、すやすやと眠れるようになったのは、此処に来てからだ。
此処は極端に熱い日も、寒い日もなく、雨が降っても濡れなくて済む。
食糧が尽きる事もないし、綺麗で美味しい水も飲めるし、猛禽類や大きな猛獣に襲われる心配もない。
時々大きな水溜りに入れられるのは辟易するが、その後、ラグナに毛繕いをされるのは、気持ちが良くて好きだ。

此処にいたい、とスコールは思う。
兄が辛い思いをする事もないし、ラグナも優しい。
此処にいたい─────けれど、その為には、あの大嫌いな首輪をつけなくてはいけないらしい。

眠るレオンの毛繕いをしていたスコールの鼻に、兄とは違う匂いが感じられた。
スコールは、よくよく鼻を近付けて、くんくんと繰り返し匂いを嗅ぐ。
太陽の匂いとは違う、石に似た硬い匂いは、最近になってついた匂いだ。
匂いの元は判っている。
数日前からレオンが首にかけるようになった、きらきら光る銀色の首輪だ。

スコールの鼻に、ぎゅうっと皺が寄せられる。
兄の首から体を離して、スコールはぷいっとそっぽを向いた。
鼻頭に皺を寄せたまま、スコールはその場を離れ、寝室のドアを開け、リビングへ移動する。

リビングは無人になっており、ラグナはまだ帰って来ていないらしい。
しんと静かな部屋の景色に、スコールは無性に詰まらなさを感じて、尻尾でぱしんと床を叩いた。
無人の部屋で暇潰しが出来るものを探してみるが、これと言って心惹かれる物は見当たらない。
そもそも、遊びたいのかと言われると、そう言う訳でもなかった。
目が覚めて、眠くならないし、レオンも起きる様子がないので、取り敢えず此方に来て見たと言うだけの事。
ラグナが帰って来ていれば、何かと構い付けて来ただろうが、玄関から扉が開く音は聞こえない。

スコールの尻尾がぷらんと垂れて、詰まらなそうに目線が泳ぐ。
けれど、どれだけ部屋の中を見回しても、面白そうなものはない────と、思った時だ。


「……?」


ローテーブルの上に、何かが乗っている。

なんだろう、とスコールがソファに上って見ると、テーブルの上に、レオンの首輪が置いてあった。
きらきらと光る首輪は、ベルトではなく鎖で出来ており、“首飾り”と呼ぶのだとラグナが言っていた。
輪になった鎖の端には、変わった形のプレートがついている。
プレートは、見ていると何かを彷彿とさせる形をしていたが、幼いスコールにはそれが何であるのか、はっきりとは判らなかった。

最近の苛立ちの理由でもある物を見付けて、ぐぅ、とスコールの喉が鳴る。


「……がうっ!」


スコールはソファから飛び上がって、ローテーブルの上に四足で着地した。
前足がレオンの首輪の鎖に引っ掛かり、ちゃりん、と金属の音が鳴る。


「ぐうぅうう…!」


低い姿勢で首輪を睨み、噛み付こうとした時だった。
この首飾りをラグナに渡された時、嬉しそうにしていたレオンの貌が頭を過ぎる。

剥き出しにしていたスコールの牙が、ゆっくりと形を潜めた。
じっと見下ろす瞳には、まだ拗ねた色が滲んでいるものの、眦の険は消えている。
スコールはローテーブルの上に乗ったまま、丸い指先でつんつんと銀色を突いてみた。


「………」


これは、苦しくないのだろうか。
これは、兄を苦しめてはいないのだろうか。
それなら、これを付けたら、自分も苦しくはならないだろうか。

体を屈めて、じいっと近い距離から首飾りを見詰めてみる。
きらきらと光る銀色が、深い蒼の瞳の中で、ひらひらと眩しく反射していた。
スコールは光る色に眩む目を、ぱちぱちと瞬きさせて、プレートに鼻先を寄せる。
くんくんと匂いを嗅いでみると、金属特有の匂いの他に、嗅ぎ慣れた兄の匂いがした。
それからもう一つ、ほんの僅かではあるものの、ラグナの匂いも感じ取れる。

スコールの力なく垂れていた尻尾が、ぷらん、ぷらんと左右に揺れる。
つんつん、つんつん、と指先で突いてみる。
首飾りは何も言わずに突かれており、ただただ、きらきらと綺麗な光を反射させていた。
いつの間にか、その光に夢中になっていたスコールは、玄関のドアが開く音に気付かなかった。


「ただいま~……っと、あ!コラ、スコール」
「……ぐ?」
「テーブルに上るのは駄目って言っただろ?」


リビングに入って来たラグナに、スコールはぱちりと目を丸くして顔を上げる。
そのまま動こうとしないスコールに、仕方ないなあ、とラグナはスコールを抱き上げた。


「がうっ、がうっ。がうっ」
「おっととと、」


じたばたと暴れて、腕から逃げ出すスコール。
落としてしまうと慌ててもう一度捕まえようとするラグナだったが、遅かった。
スコールは身を捻ってラグナの手から逃げると、テーブルの横に四足で着地する。
それからすっくと二足になって、ローテーブルの上にあるものを覗き込んだ。

どうしたんだ、と言ったラグナであったが、直ぐにスコールが見ているものに気付いた。


「スコール、これが気になるのか?」


ラグナが首飾りを手に取ると、スコールの視線がそれを追う。
丸めた手が、揺れるプレートを捕まえようと彷徨った。

スコールは今まで、ラグナが用意した首輪を、幾つもボロボロに噛み千切って来た。
その経緯からか、ラグナはスコールの目線の高さまで首飾りを下ろすものの、それ以上は近付けようとしない。
金属なので噛み付かれても簡単には壊れないのだが、折角レオンが気に入って身に付けてくれるようになったのだ。
まだ真新しいのに傷を作ってしまっては、レオンは勿論、その原因になったスコールも可哀想と思っての事だった。

今まで首輪を目の仇のように攻撃していたスコールだったが、ラグナの予想に反して、スコールは大人しい。
兄と揃いの蒼灰色の円らな瞳が、上下左右に揺れる銀色をじっと追い駆けている。
そぉっと右手が持ち上がると、肉球のある手でプレートをぺちぺちと叩く位だった。


「スコールも、ちょっとだけ、つけてみるか?」
「……」


ラグナが訊ねてみるが、スコールからの返事はない。
だが、その場から逃げようともしなかった。

ラグナは首飾りの鎖の端を外すと、ゆっくりとスコールの胸元まで下ろした。
ふさふさとした動物の毛並に覆われた胸にプレートを当て、そっと持ち上げて行く。
スコールは、その動きをじいっと見詰めていた。
プレートが胸の少し上、首よりも下の位置に納まった所で、鎖を輪に戻す。
ラグナが手を離せば、しゃらん、と鎖の音が鳴って、スコールの胸の上で銀色がきらきらと光っていた。


「よいしょっと」


ラグナはスコールを抱き上げて、洗面所まで連れて行った。
其処には洗面台に取り付けられた鏡がある。

ラグナがスコールを鏡に向き合わせると、銀飾りを首からかけたスコールの姿が映る。


「おおっ、格好良いぞぅ、スコール」
「……がう?」
「んで、どうかな。苦しくないか?ヤじゃないか?」
「……?」


ことんと首を傾げるスコールに、大丈夫なのかな、とラグナはスコールを抱き直す。

ラグナの腕の中で、スコールは胸に当たる固い物を見下ろした。
きらきらと光る銀色を両手に挟んで、鼻先から見詰める。
変わった形をした銀色を見ていると、また何かが頭の中に浮かんできた。
なんだろう、としばらく考えていると、ふと兄の姿が浮かんで、レオンの鬣のような濃茶色の頭毛に似ているのだと気付く。

リビングに戻ったラグナは、スコールをソファに座らせて、首飾りを外した。
遠退く銀色に、スコールの手が伸びる。
銀色を捕まえようと、両手で挟んでやれば、ラグナが困ったように笑った。


「気に入ってくれたんだなあ。良かった良かった。でも、これはレオンのなんだ」
「がうぅ」


スコールの不満そうな声に、ラグナはスコールの首をくすぐってあやす。

どれが誰のもので、と言うのは、スコールにはまだよく判らない。
しかし、プレートには裏側にレオンの名前とラグナの名前、そして住所が刻印されている。
だから、これをこのままスコールにあげてしまう訳にはいかないのだ。


「お前のも直ぐに用意するよ。違うのがいいかな?それとも、お揃い?」
「がぁう」
「お揃いか。そうだな。よしよし」


くしゃくしゃとラグナの大きな手が、スコールの頭を撫でる。

ラグナは首飾りをローテーブルに置いて、スコールを抱き、寝室へ向かう。
扉を開けると、レオンが窓の傍できょろきょろと辺りを見回していた。
蒼い瞳がスコールとラグナを見付けると、房のある尻尾が嬉しそうに揺れる。

ラグナがスコールを床に下ろしてやれば、スコールは一目散に兄の下へ駆け寄って、二人はすりすりと頬を寄せ合てじゃれ合い始めたのだった。




─────弟の首に、兄と同じ銀色が光るのは、数日後の事である。






二人でお揃いの首飾り。
これからも皆で一緒にいる為のもの。

ラグナがこれを選んだのは、レオンとスコールが“ライオン”モデルの獣人だから。
将来、二人がどんな風に成長しているのかは判らないけれど、格好良い子に育って欲しいと言う願いも込めて。

いっしょにいたい

  • 2016/07/02 00:06
  • Posted by


ある日の午後の事。
ラグナが食糧を調達しに行って、昼寝の最中に目を覚ましたレオンは、暇を持て余して家の中を歩き回っていた。
スコールは午前中に遊び疲れてまだ眠っており、起こすのは忍びなかったので、一人で暇潰しをしている。

何かないかと見回していた青灰色が留まったのは、リビングのテーブルの上に、ぽつんと置かれた二組の布切れ。
ついこの間、スコールが噛み千切った首輪の成れの果てだ。
それを見付けたレオンは、ボロボロになってしまったそれを取って、じいっと見詰めた。

これをつけておかないと、いつかラグナと一緒にいられなくなる。
一緒にいられなくなったら、何処に行かなければならないのかは、判らない。
けれど、ラグナと一緒にいるのが駄目なら、此処にもいられなくなるに違いない。
スコールも首輪を嫌がっているから、このままでは、兄弟揃って何処か別の場所に行かなければならない。
ひょっとしたら、バラバラにされる可能性もあるのかも知れない。

弟と一緒にいられなくなるのは嫌だ。
ラグナの傍にいられくなるのも嫌だ。
そう思ったら、我慢しないと────とレオンは思うのだが、その我慢が難しい。

ボロボロで輪の形にもならなくなった布きれを、首に当ててみる。
それだけなら、特に苦しさや気持ち悪さは感じなかった。
長めに残っていた切れ端があったので、首を一周させてみる。
むずむずとした違和感が首に生まれ、レオンはしばらく息を詰めて我慢していたが、一分もせずに離してしまう。


「ぐぅ……」


自分がこれを我慢する事が出来れば、スコールも我慢するように頑張ってくれる筈。
首輪を激しく嫌がっている弟に、我慢を強いるのは心苦しかったが、これが着けられないと今の生活は続けられないのだ。
兄である自分が手本を示し、恐いものではないのだとスコールも知る事が出来れば、きっと慣れてくれる。

そう思っても、考えたように出来ないのが悲しい。
此処にいたいのに、と思うと、眼の周りがじわじわと熱くなる。

なんとか我慢できる方法はないか、レオンは色々と試し始めた。
首にぴったりと密着すると息苦しくなるから、余裕を作ってみたり、後ろ首に引っ掛けて垂らしてみたり。
首の後ろだけなら、布が当たっても平気だった。
前だけはどうだろう、と試してみるも、此方は気持ち悪い気がする上に、手を離すとぽろっと落ちてしまう。
前に当たると嫌な感じがする、と当てた感覚が残る首を、カリカリと引っ掻いた。

これなら、とレオンは布を首の後ろに引っ掛けて垂らしてみた。
首の後ろの違和感はあるものの、息苦しさは感じないので、その内慣れる事が出来るかも───と思ったのだが、


「……がう?」


布を首の後ろに引っ掛けて歩いていると、段々とずれてきて、いつの間にか落としてしまう。
布には首輪として留める為のワンタッチの留め具が縫い付けられているが、プラスチック製のそれに大した重さはない。
押さえるものがないと、レオンの歩調で揺れた布が滑り落ちてしまうのだ。

レオンが何度試してみても、布は床に落ちてしまう。
思うようにならない事に段々と腹が立って来て、レオンは布に噛み付いた。
ただでさえボロボロになっていた布は、レオンの牙で直ぐに穴が空き、ビリビリと破れてしまう。


「ぐるぅ……」


もっとボロボロにしてしまった布を見て、レオンの尻尾がしょんぼりと萎える。
折角、我慢できる方法が見付かりそうだったのに、このやり方では駄目らしい。

レオンは短くなった布を、もう一度首の後ろにかけた。
布の端と端を引っ張りながら視線を落とすと、ぎりぎり視界に入る長さが残っている。
レオンは両脚を投げ出して、ぺたりとフローリングの床に座り、布の端を擦り合わせたり交差したりと、首輪状になるように試し始めた。
端と端を結べば輪にする事は出来るのだが、レオンにはまだ判らない。
ラグナが紐を結んで輪を作っているのを見て覚えてはいるのだが、“結ぶ”と言う所まで理解していないのだ。

布の端を擦り合わせては、手を離し、ぷらんと解けてしまう布に、レオンの鼻に皺が寄る。


「うぅ~っ!!」


子供が駄々を捏ねるような声で、レオンは唸った。
普段、レオンがこうした声を上げる事は珍しい。
警戒心が強く、神経質なスコールに比べ、レオンは心持ち穏やかな気質だからだ。
しかし、兄とは言えレオンも幼い事に変わりはなく、思い通りにならない事には、ストレスを溜める事もある。

うーうーと唸りながら、また布の端をぐりぐりと擦り合わせていた時だった。
玄関の扉が開く音がして、「ただいま~」と言う声が聞こえる。
いつもなら、その声に反応し、玄関まで走るレオンであったが、今日はそんな気分になれなかった。

買い物から戻って来たラグナは、リビングの床に座り込んでいるレオンを見付けて、目を丸くする。


「レオン、起きてたのか。そんな所でどうしたんだ?」
「がぁう」
「ん~?」


返事をするレオンだったが、ラグナからの反応は鈍い。


「がぁ。があう。あう」
「ちょっと待ってな~。直ぐ終わるから」
「がぅうう」
「なんだ、今日は随分甘えんぼだなあ」


鳴くのを止めないレオンに、ラグナが微笑ましそうに笑う。

ラグナは買い物袋の中身を冷蔵庫に詰めてから、レオンの下へ。
確りとした腕がレオンを抱き上げて、ラグナはソファに座り、膝上にレオンを下ろしてやった。


「スコールはまだ寝てる?」
「がう」
「そっかそっか。……ん?これは────」


レオンの首にかけられているものを見付けて、ラグナがそれを手に取る。
ボロボロの布切れの正体を、ラグナは直ぐに思い出した。

ぷらぷらと揺れる布きれを、レオンの手が追う。
ぱしっ、ぱしっ、と弾いて遊ばせるレオンに、ラグナは眉尻を下げて苦笑した。


「オモチャじゃないぞぅ~」
「がう、がっ。がうっ」
「ま、これだけボロボロになったら、オモチャでいいか」


猫じゃらしの代わりに、ゆらゆらと振ってやれば、レオンの目がきょろきょろとそれを追って動く。
むずむずとした様子で布きれを見詰めるレオンに、ラグナの頬も綻んだ。

しばらく布きれでレオンを遊ばせていたラグナだったが、ふと、


「レオン。これ、こうするのは嫌じゃないのか?」


こう、と言ってラグナは、レオンの首の後ろに布を引っ掛ける。
レオンは首の後ろを気にして頭を二、三度揺らしたものの、表情には特に嫌悪感は浮かんでいなかった。

ふむ、とラグナは思案し、布の端と端を緩く結ぶ。
首輪と言う程小さな輪にはならないように、十分に余裕を作ってやる。
ラグナが手を離すと、首輪代わりの布切れは、首飾りの要領でレオンの首下に残った。
それがつい先程、レオンが自力で作ろうと思っていた形だと、ラグナは知らない。

緩い瘤を作った布を、レオンが両手で挟んで遊ぶ。
ラグナはその表情をじっと見て、


「レオン。これ、平気か?」
「ぐぅ?」
「苦しくない?」
「がぁう」


布の瘤を口で噛んでいるレオンだが、引き千切ろうとはしない。
あぐあぐと顎を動かしているので、布にはまた穴が空いているが、もうボロボロだし、とラグナは気に止めなかった。

布切れで遊んでいるレオンを抱いて、ラグナは寝室へ向かう。
其処には、日当たりの良い窓辺ですやすやと眠っているスコールがいる。
ラグナがレオンを床に下ろしてやると、レオンはスコールの下へ。
クッションに顔を埋めて眠っているスコールに顔を近付け、ふくふくとその匂いを嗅いだ後、レオンは満足そうな顔で弟の隣で丸くなった。

日向で丸くなっているレオンとスコールは、まだまだ体が小さく幼い事も手伝って、“ライオン”と言うより“猫”に見える。
可愛いなあ、と双眸を細めつつ、ラグナはパソコンの電源を入れた。


(取り敢えず、先ずはレオンの分だな)


弟と一緒に丸くなったレオンの首には、布の首飾りがそのままになっている。
首輪の訓練をしていた時と違い、拒否反応も見られない。
恐らくレオンは、首と言うよりも、喉を圧迫されるのが嫌いなのだろう。
だから、喉を締め付ける事のない、ゆったりと余裕のある首飾りなら平気なのだ。

とは言え、レオンもスコールも、首下に触れるものについて、敏感である事は変わらない。
余りにも余裕を作ると、遊んでいる間に落として失くしてしまう可能性もある。
玩具にしてしまわないように、工夫もしなければ。
身分証明書としての役目も果たせなければいけないし、検討の必要がある事項は少なくない。

けれど、一先ず考えるべきは、彼等が嫌がらない事。
少しの間は慣れと我慢も必要とは思うが、其処さえクリアできれば、あとはきっと大丈夫だろう。




────数日後、小さなライオンの首に、銀色の獅子が誇らしげに光っていた。






一緒にいたくて、頑張るレオンでした。

ここにいるためのきまりごと

  • 2016/07/02 00:04
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生まれ育った地から離れ、いつの間にか見知らぬ場所にいて、どれ程の時間が流れたか。
此処はとても不思議な場所で、狩りをしなくても食べるものが手に入り、長い間歩き回らなくても水を飲む事も出来る。
目覚めた時には戸惑い、警戒したものだったが、次第にそれも慣れて行き、今の環境がとても良い事も理解した。
あの日、硬い牙に噛まれた足は、しばらくじゅくじゅくとした痛みに苛まれたけれど、時間が経つ内に消えて行き、それがいつもの傷よりもずっと早く治った事に気付いた時、此処は危険な場所ではないのだと判った。
何より、大切な弟と離れ離れにされる事もなく、彼が空腹で苦しむ事もない。

母と暮らした場所は、何処にあるのか判らず、戻る道も判らない。
二度と戻れないのかも知れないと思うと、酷く寂しくなったけれど、あのままあそこにいても、弟は腹が減るばかりだっただろう。
そして、いつかきっと、動けなくなって、冷たくなってしまったに違いない。
それを考えると、きっと此処にいる方が良いのだろう。

兄弟に食事を持って来てくれるのは、あの日、兄を助けた“人間”だった。
毎日を共に過ごす“人間”は、とても優しく、何かあると話しかけて来て、様々な事を教えようとする。
それを吸収し、真似をして見せると、“人間”はとても喜んだ。
喜ぶ“人間”の顔を見ると、兄は胸の奥がぽかぽかと暖かくなって、記憶に霞んだ母に褒められた時の事を思い出した。
ああ、きっとこの“人間”は恐くない。
弟はまだまだ恐がり癖が抜けないけれど、兄の自分が守れば良い───そう思った。

それから兄弟は、“名前”をつけられた。
兄の名前はレオンと言い、弟はスコールと呼ばれている。
今までは兄弟だけで暮らしていたから、呼ぶ名前など無くても困らなかったけれど、名を呼ばれると嬉しいのだと言う事を初めて知った。
兄が人間を真似て、弟の名前を呼んでみると、弟が振り返って首を傾げる。
弟も真似て兄を呼ぶと、呼ばれた兄が振り返るので、弟も嬉しくなった。

一緒に暮らしている“人間”は、“ラグナ”と言う名前らしい。
呼んでも直ぐには反応してくれなかったが、何度も呼ぶと振り返って、「どした?」と笑い掛けて来た。
腹が減った時には食事を、喉が乾いたら水を、催促してみると、ラグナはそれを準備してくれる。
時々、見当違いのものを出される事もあり、どうやら彼に自分達の言葉は通じていないようだと知った。
けれど、理解しようとしてくれているのは判ったから、伝わるまで何度でも彼の名前を呼ぼうと思った。

そんな生活が始まって、戸惑って、慣れて来て。
スコールの恐がり癖も少しずつ形を潜めて来た頃に、彼等に出逢った。

故郷で犬や狼は見た事があったけれど、自分達と同じ、後足だけで歩く事が出来る犬は初めて見た。
犬の名前はザックスとクラウドと言い、彼等はセフィロスと言う人間と一緒に暮らしている。
彼等は随分前から人間と共に過ごしており、今はセフィロスの下で色々な訓練をしていると言う。
訓練と言うのは、人間と一緒に生活する為のものだと思っていたら、二人はもっと難しい訓練を受けているようだった。
そんなに色々な事をしてどうするんだ、と訊ねると、ケイサツになるんだ、とザックスは言った。
ケイサツとは何だと訊ねると、悪い人間を捕まえたり、困っている人間を助けたりするんだ、と言う。
二人はその為に、一等難しい事が出来るように特訓しているのだと。

ザックス達の棲家で、スコールにじゃれつくクラウドをザックスが止め、逃げるスコールを宥めながら、そんな話を何度か交わしていた時だ。
ザックスがふと、不思議そうな顔をして言った。



お前ら、これ付けないのか?



そう言ったザックスが指差したのは、自分の首輪。
それを見た瞬間、自分の顔が歪むのが判った。

首の周りに沿って一周しているもの。
最近、似たようなものを、ラグナが自分達に付けさせようとしている事を、レオンは確りと覚えている。
ラグナが「大事なものだから」と言うので、何度か大人しくつけていたが、どうしても落ち着かなくて爪を立ててしまった。
スコールに至っては、全身で拒否し、自力で外した上に噛み千切ってしまう。
脆いもので作られているので、簡単にボロボロになってしまうそれを見付かる度に、スコールはラグナに叱られていた。
此処で生活していく上で、あれが必要なものだと言う事は、何度も何度も言われたので、判っているつもりだ。
けれど、身に付けていると、首の周りが締め付けられるような感覚に襲われて、酷く落ち着かない。
スコールも同じようで、大事なものだと判らない訳ではないようだけど、どうしても我慢できずに外してしまうようだった。

つけたくないんだ、と正直に言うと、ザックスはそりゃ駄目だ、と言った。



俺達がこれをつけてないと、セフィロスが困るんだってさ。
他の皆もつけてるぞ。
お前らもつけなくちゃいけないんじゃないのか?



そんな事を言われても、どうしても受け付けられないのだ。
ザックスの言葉を聞いたスコールも、鼻の頭に皺を寄せて、嫌だ、つけたくない、と言う。

顔を顰めるスコールの首の後ろに、クラウドが鼻を近付ける。
くんくんと匂いを嗅がれて、スコールが止めろ!と怒った。
レオンの後ろに隠れて威嚇するスコールに、物怖じしないクラウドは近付こうとするが、ザックスに留められる。

不服そうなクラウドを宥めながら、ザックスは続けた。



これがないと、俺達、セフィロスと一緒にいられないんだ。



その言葉を、自分達の立場と置き換えると、どう言う事になるのか。
少し考えただけで、レオンにも理解する事は出来た。

大事なものだと言っていたあれを首につけないと、ラグナと一緒にいられなくなる。
今までなくても一緒だった、とスコールが言うと、ザックスはあれ?と首を傾げた。
────だが、最近のラグナの行動を見ると、ザックスの言う事も間違いではないのだろう。
今まではいらなくても、これから必要だから、ラグナは二人の首に首輪をつけようとしているのだ。

レオンは自分の首に、爪を引っ込めた手を当てる。
首輪を嫌って何度も何度も引っ掻いていたら、いつの間にか其処には傷が出来ていた。
風呂に入れられる時に沁みるので、引っ掻かないようにとラグナに言われたが、首を締め付けられるような感覚を思い出すと、どうしても我慢できなくて引っ掻いてしまう。

レオンがカリカリと首を掻いていると、どんっと背中に何かが当たった。
振り返ってみれば、スコールがぐるぐると喉を鳴らしている。
スコールは引っ掻き痕が浮いたレオンの首を見ると、其処に顔を近付けて、赤くなったレオンの喉を舐めた。

首を舐める弟を好きにさせながら、レオンは話をしているラグナとセフィロスを見た。
最近、頻繁にお互いの棲家を行き来しては、二人は何かを話している。
何を話しているのか、レオンにはよく判らなかったが、こうして話をした後、ラグナが新しい首輪を持って来たり、色々と試そうとしているのは判った。
……このまま首輪をつけずにいたら、いつかラグナと一緒にいられなくなるのだろうか。
そう思うと、レオンはきゅううと体の中が痛くなった気がして、レオンは蹲った。
縮こまった兄を見て、スコールが心配そうに鼻を鳴らす。

すりすりと頬を寄せて来る弟。
その毛並はふわふわと柔らかく、気持ちが良い。
生まれた場所にいた時は、幾ら毛繕いをしても傷んで行くばかりだった毛並は、今ではラグナに毎日のように梳いて貰っているお陰で、すっきりと綺麗に保たれている。
レオンの毛並も同様で、ラグナの手で毛繕いが終わった後は、スコールが身を寄せて来ては気持ち良さそうに目を細めている。
こんな弟の姿が見る事が出来るようになったのは、ラグナに拾われてからだ。
以前は日に日に弱って行く姿ばかりを見ていたように思う。
弟も、自分も、毎日を元気に過ごす事が出来、空腹や寒さで辛い思いをしなくて済むのは、ラグナのお陰なのだと、レオンは理解している。

心配そうに覗き込んでくる弟を見て、レオンは頭を上げた。
じぃっと見詰めるスコールの顔を舐めると、弟は少し安心したように鳴く。
其処へ、ひょこりと顔を出したのはクラウドだ。



そんなに首輪をするのが嫌なのか?



そう言ったクラウドに、お前は嫌じゃないのか、と聞くと、嫌じゃない、と彼は言った。
寧ろ気に入ってる、と言って、クラウドは頭を持ち上げて、首輪を見せて来る。

ザックスとクラウドの首輪は、黒い鞣し革製で、セフィロスが特別に揃えてくれたものらしい。
黒の傍らで、きらきらと銀色が光っている。
自慢げに見せて来るクラウドに、本当に気に入ってるんだな、とレオンは思った。
そんなレオンの隣では、スコールが興味深そうに、しげしげとクラウドの首輪を見詰めている。

スコールがクラウドの首輪に顔を近付け、ふんふんと鼻を鳴らす。
その鼻息がくすぐったいのか、クラウドの尻尾がぴくっ、ぴくっと跳ねるように動いた。
スコールの視線は、クラウドの首輪と言うよりも、きらきらと光る銀色に釘付けになっている。
首を右へ左へ傾けては、どんどん首に顔を近付けて鼻を鳴らすスコールに、好きにさせていたクラウドの体がふるふると震え、


「わぉうっ!」
「!!!」


大きな声を上げて飛び掛かって来たクラウドに、スコールが目を丸くして固まった。
どたっ、と音がしてスコールが床に倒れると、クラウドがその上に伸し掛かって来る。
スコールは目を白黒させながら、無我夢中で暴れ始めた。


「ふぎゃーっ!ふぎゃっ、ぎゃーっ!」


首に鼻を近付け、ばたばたと尻尾を回転させるように大きく振りながら伸し掛かって来る犬に、スコールは逃げようと必死になる。
遠目に見れば、犬のクラウドが、ライオンのスコールを食おうと襲い掛かっているようだった。
慌ててレオンが駆け寄り、スコールとクラウドの間に、自分の体を捻じ込ませる。


「ぎゃうう、ぎゃう、ぐぅーっ」
「わふっ!」
「ぐぅっ?」


弟を救出したかと思いきや、クラウドは今度はレオンに飛び付いて来た。
ばったばったと尻尾を振って顔を寄せて来るクラウド。
レオンが何が起きたのかと目を丸くしていると、今度は兄を助けるべく、スコールがクラウドに飛び掛かる。

スコールがクラウドの耳を噛んで、ぐいぐいと引っ張る。
以前なら加減を忘れて、クラウドの耳が千切れんばかりに噛んでいたのだろうが、ラグナやバッツ、ジタンのお陰で、スコールは力加減を守る事を覚えた。
が、この場合は、それで良いのか悪いのか。
甘噛み程度で堪えないクラウドに、スコールはぐるぐると喉を鳴らし、


「ふぎゃーっ!ぎゃーっ!ふぎゃうううう!」


全身の毛を逆立てて、レオンから離れろ!とスコールが叫んだ時だった。
部屋の向こうで話をしていたラグナとセフィロスの声がかかる。


「ありゃりゃ。クラウドくーん、もうちょっとお手柔らかに…」
「ザックス、クラウドを止めてやれ」


セフィロスに言われて、ザックスがクラウドを捕まえる。
ザックスがクラウドの首の後ろに歯を当てると、クラウドの動きがぴたっと止まった。
そのままザックスがクラウドを引き摺り、兄弟から離す。

ようやく解放されたレオンの下に、スコールが駆け寄った。
スコールはレオンの体を隅から隅まで臭いを嗅いで、怪我がない事を確認し、ほっと息を吐く。
それから、ザックスから興奮しちゃ駄目だって言われただろ、と叱られているクラウドに向かって、ぐるぐると警戒に喉を鳴らした。


「レオン、スコール。こっちおいで」
「ザックス、クラウド。お前達も来い」


それぞれ名前を呼ばれたのが聞こえて、レオンはスコールを促した。
両腕を広げているラグナの下へ行けば、いつものように片腕ずつで抱き上げられる。

ラグナは、警戒で興奮し切ったスコールを宥めながら、レオンの首をくすぐる。
首輪は嫌いなレオンだが、ラグナの指に其処をくすぐられるのは好きだ。
同じ場所に触られているのに、何故こんなにも違うのだろう。

セフィロスと会話を終えたラグナが、レオンとスコールを抱いて席を立つ。
ラグナの足が玄関へと向かっているので、どうやら今日はこれで帰るらしい。
ラグナの歩を追って来る匂いを感じ取ったレオンが、ラグナの腕の陰から彼の後ろを覗いてみると、ザックスとクラウドの姿があった。

玄関前で、ザックス達に気付いたラグナが、膝を曲げてしゃがむ。
レオンとスコール、ザックスとクラウドの距離が近くなって、レオンは二人が詰まらなそうな顔をしている事に気付いた。
もう帰るのか、と言いたげな二人に、レオンは手を伸ばした。
届く距離ではなかったのだが、それを見たラグナが床に下ろし、兄を追ってスコールもラグナの腕からすり抜け降りた。
レオンは、背中にくっついている弟と一緒に、クラウドの頬に自分の頬を摺り寄せる。


「……がぁう」


また来る。
そう言った兄の後ろで、また、とスコールも言った。

驚いたように丸く見開かれていた碧眼が、きらきらと輝いたのが、なんだかくすぐったかった。





レオンとスコールにとっても、ザックスとクラウドにとっても、お互いが初めての“友達”。
そしてレオンとスコールにとっては、人間社会の中で生きていく為の先輩でもあるのです。

どうしたらいいんだろう

  • 2016/07/02 00:03
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どうやら、レオンもスコールも、首に何かをつけられる事が、本能的に嫌らしい。
二人の訓練の様子を観察したバッツは、ラグナにそう伝えた。

バッツの仕事のパートナーである“猿”モデルの獣人であるジタンも、彼等と同じような反応を示す箇所があった。
ジタンが苦手としているのは手首で、何かが此処を擽るような感覚がするのが駄目なのだと言う。
リストバンドのように、ぴったりと隙間なく密着しているものなら平気なのだが、例えばポロシャツの長袖と言ったように、微妙に隙間があるものが受け付けられない。
手首を擦られるのが駄目なんだ、とジタンは言っていた。
理屈ではなく、感覚的に襲われる拒絶反応である為、我慢しようとすると反ってストレスとなって跳ね返る事が多いと言う。

首輪じゃなくて、別のものを探した方が良いかも知れない、とバッツは言った。
他のものでも良いのか、とラグナが訊ねると、獣人に詳しくない者が傍目に見た時、判り易く目に付き易いのが首輪である為、推奨されてるだけなのだ、との事。
実際にジタンが首に捲いているのはリボンで、裏地に名前、所属している機関と部署の正式名称が記されている。
獣人である事を隠しているジタンの兄に至っては、ブレスレットやネックレスにタグを付け、カリグラフィ的な刻印を施しており、身分証明書を掲示しなければならない時だけ、それを見せているらしい。
隠していても、身に付けていなければ保護を受けられなくなってしまう為、ジタンの兄曰く、“苦肉の策”だそうだ。

その話を聞いて、ラグナは少し気が楽になった。
どうしてもレオン達が嫌がるのなら、彼等が嫌がる事はしたくないが、ではきちんと彼等を守る為にはどうすれば良いのかと、悩み続けていたからだ。
とにかく“身に付けられるもの”である事が絶対条件であり、その形状が“首輪”に拘る必要がないのなら、色々と探してみれば良い。


「────って訳で、何か良い物知らないかな~と思って、聞きに来たんだけど」


どうかな、とラグナが訊ねているのは、セフィロスだった。

セフィロスは、ラグナと獣人の兄弟が暮らしているマンションの上層フロアに住んでいる。
長めの良い其処で、彼は自身が育てている“犬”モデルの獣人達と暮らしていた。
彼等はセフィロスに引き取られてから長いようで、ヒトとの暮らしにかなり慣れている。
レオンとスコールにとっては、ヒト社会の中で生きていく為の先輩とも言えるので、交流するのは彼等にとっても勉強になるだろうと、ラグナは時間が合えば二人を連れて此処に来ていた。
セフィロスも、訓練仲間とは別の仲間を持つのも悪くない、と言って、ラグナ達の来訪を暖かく迎え入れている。

レオンとスコールの首輪嫌いについては、セフィロスもラグナ本人から聞いていた。
自身が見ている獣人───ザックスとクラウドは、特に抵抗もなく首輪を受け入れたので、そうした話は初めてだった。
だが、クラウドが腹を触られるのを嫌がる癖がある為、あれに近いのだろうな、と想像する。
それなら、訓練スタッフが言った通り、首輪ではない他のものを探した方が良いだろう。


「ほら、ザックス君とクラウド君、格好良いのつけてるからさ。何か知らないかなって」
「ふむ……」


ちらりとセフィロスが視線を遣った先には、じゃれあう四人の獣人がいた。

“ライオン”モデルのレオンとスコール、“犬”モデルのザックスとクラウド。
ザックスは犬種で言えばラブラドールレトリバー、クラウドはシベリアンハスキーに当たる。
大型犬の特徴を生まれ持つ彼等は、成長すれば体格も育ちそうだったが、今はまだレオンやスコールと同じように、子供と変わらない姿をしている。
丸みのある頬をクラウドがスコールに摺り寄せており、スコールが猫手でクラウドの顔を叩いていた。
どうやらクラウドはスコールの事が気に入っているようで、逢うと必ず飛び付いて離れない。
スコールはそんなクラウドが苦手で、いつもレオンの傍に隠れようとしていた。
レオンとザックスはと言うと、激しいスキンシップは少なく、それぞれの弟分の面倒で忙しそうにしている。
団子のようにくっついたり離れたりを繰り返している彼等だが、遊び付かれると一ヵ所に固まって眠っているので、仲良くやっているのだろう。

今日もスコールに構い倒しているクラウドを横目に見ながら、セフィロスは彼等の“首輪”について話す。


「あの二人につけているものは、正式には首輪じゃない。チョーカーだ」
「チョーカー……ってなんだっけ」
「判り易く行ってしまえば、ファッション用の首輪だな」


今はすっきりとして身軽なザックスとクラウドの首には、外出時、黒のチョーカーが嵌められていた。
それは獣人用のものと言う訳ではなく、セフィロスが贔屓にしていたブランドで売られていたものだ。
このチョーカーにシルバーのタグを縫い留めて、首輪の代わりにしているのである。


「ブランド品かぁ……」
「最初は訓練も兼ねて、適当に買ったものにしていたんだが、どうせ義務なら、奴らの気に入りそうなものにしてやろうと思ってな」
「ザックス君とクラウド君、気に入ってる感じ?」
「あれに替えてから、嫌がった事はない。まあ、首輪自体、あいつらが拒否した事もないんだが……そっちの二人のように引っ掻いたり、噛み千切ったりした事もないから、気に入ってるんじゃないか」
「そっかぁ。やっぱり好みってものもあるのかも知れないな。レオンとスコールはどんなのが良いかな……」


首輪に限らなくて良いのなら、選択肢の幅は広がる。
慣れるまでに多少の時間を要しても、物が気に入ってくれれば、スコールが噛み千切ったり、レオンが爪を立てたりする事も減るかも知れない。

色々試してみよう、とラグナが心を躍らせていると、わおぉんっ、と大きな犬の鳴き声が聞こえた。
音の発信源を見ると、金色頭に三角形の耳を持った犬───クラウドが、スコールに抱き付いている。
押し倒されるように抱き付かれたスコールは、じたばたと暴れて、クラウドを振り解こうとしていた。


「ふぎゃーっ!ふぎゃっ、ぎゃーっ!」
「ぎゃうう、ぎゃう、ぐぅーっ」


助けを求めて暴れるスコールを助けようと、レオンがスコールとクラウドの間に割り込もうとする。
と、クラウドは今度はレオンに抱き付いて、ぶんぶんと尻尾を振った。
突然の事に訳が分からず固まるレオンに、クラウドが鼻頭を寄せてくんくんと匂いを嗅いでいる。
兄が襲われているように見えたのだろう、スコールが全身の毛を総毛立たせて「ふぎゃーっ!!」と叫んだ。


「ありゃりゃ。クラウドくーん、もうちょっとお手柔らかに…」
「ザックス、クラウドを止めてやれ」


セフィロスに言われ、三人の遣り取りを眺めていたザックスが割り込む。
ザックスがクラウドの首の後ろを甘噛みすると、クラウドの動きがぴたっと止まった。
そのままレオンに抱き付いていたクラウドが引っ張り剥がされると、ぽかんとしているレオンにスコールが駆け寄る。
スコールがすりすりとレオンに擦り寄り、それを羨ましそうに見つめるクラウドを、ザックスが耳元を舐めて宥めた。

スコールがレオンを庇って、クラウドを睨んでぐるぐると喉を鳴らす。
飛び掛かりはしないものの、完全に警戒体勢になっているのを見て、ラグナは腰を上げた。


「レオン、スコール。こっちおいで」
「ザックス、クラウド。お前達も来い」


それぞれに呼ぶと、レオンは駆け足で、スコールは二人の犬を警戒しながらラグナの下へ。
避難よろしく保護者の下へ駆けて来た二人を、ラグナは両腕に抱き上げた。
ザックスとクラウドもセフィロスの下へ行き、彼が座っているソファに登って落ち着いた。


「ごめんなあ、折角遊んでくれてたのに」
「構わんさ。謝るなら此方だ、こっちの方が興奮してしまったんだろう。うちの訓練所には、他にも獣人はいるが、こうやって遊ぶ相手は初めてだからな。一緒にいて楽しいんだろう」



セフィロスの手がクラウドの頭を軽く押さえる。
クラウドはその手から逃げようと、首を右へ左へ捻った。
ザックスはソファの背凭れに登り、座っているセフィロスの後ろで落ち付きなく遊んでいる。

クラウドはレオンとスコールを痛く気に入っているのだが、二人はそんなクラウドを持て余し気味だった。
自分達以外の獣人と言ったら、訓練で世話になっているジタン以外に見た事がなかったのだろう二人は、初めて出逢った時から、ザックスとクラウドを気にしていた。
だが、興奮したクラウドの激しいスキンシップには戸惑い気味で、スコールは毎回逃げ回っている。
噛み付いたり引っ掻いたりと言う攻撃行動には出ないので、嫌っている訳ではないのだろう───とラグナは思っている。

ラグナはソファへ戻ると、レオンとスコールを膝に下ろした。
スコールはまだぐるぐると喉を鳴らしており、ローテーブルの向こうにいるクラウドを睨んでいる。
クラウドはそんなスコールを見詰め返して、長い毛に覆われた尻尾を振っていた。


「スコール~、そんなに怒るなよ」
「がうぅう……!」
「よーしよーし。落ち付いて落ち着いて。良い子だからなー」
「うぅー……」
「レオンもよしよし。ザックスもクラウドも、意地悪してる訳じゃないから。な?」
「ぐぅ……?」


宥めるラグナの言葉に、レオンがことりと首を傾げる。
その喉を指先で擽ってやると、レオンは眩しそうに目を細め、ごろごろと喉を鳴らした。

それを見ていたセフィロスが、ふむ、と顎に手を当て、


「首に触られるのが全て嫌、と言う訳ではないようだな」
「そうなんだ。だから、あんなに首輪を嫌がるとは思ってなかったんだよ」
「もっと余裕のあるものなら……まあ、首に固執する事もないか。先ずは他に嫌がる場所がないか、紐やベルトのようなもので確かめてみると良い」
「うん、そうするよ」


一通りの相談を終え、案を貰った所で、時刻は夕方になっていた。
そろそろ家に戻って夕飯の支度をしなければ、と腰を上げる。

ラグナがレオンとスコールを腕に抱いて、玄関へと向かうと、その後をついてくる足音があった。
靴を履いてラグナが向き直ると、ザックスとクラウドが立っている。
レオン達が帰るのが判っているのだろう、クラウドの耳と尻尾が垂れており、ザックスも詰まらなそうな顔をしているように見える。
そんな二人を、セフィロスがくしゃくしゃと頭を撫でた。


「今日は此処までだ」
「くぅー」
「……」
「また逢える。楽しみにしていれば良い」


不満そうに見上げる二人をセフィロスが宥めると、ザックスは頷いた。
しかし、クラウドはじぃっとレオンとスコールを見上げている。

ラグナは膝を折って、レオン達とクラウドの距離を縮めてやる。


「クラウド君、今日はごめんな。また今度、一緒に遊んでくれるかな」
「うぅ」


こくり、とクラウドが頷き、ありがとう、とラグナは言った。
その様子を見ていたレオンが、ラグナの腕に抱かれたまま、腕を伸ばす。
猫が手招きをするように手を揺らすレオンに、ラグナが床へと下ろしてやると、スコールも一緒に下りる。
レオンはクラウドに顔を近付け、その後ろにスコールがぴったりとくっついている。
レオンは鼻を鳴らしてクラウドの匂いを嗅いだ後、すり、と頬を寄せた。

クラウドが自分達を好いていてくれる事を、二人もきちんと判っているのだ。
ただ、激しいスキンシップに慣れていないから、どうしても驚いてしまうだけ。


「がぁう」
「……がぅ……」


また明日。
ラグナとセフィロスには、レオンとスコールがそう言ったように聞こえた。
クラウドとザックスも、寝かせていた耳がピンと立ち、きらきらと眸を輝かせる。

尻尾を振って飛び付いて来たクラウドに、二人のライオンが押し倒されるまで、あと二秒。





犬の獣人のザックスとクラウド。
ザックスの方が気持ち落ち着いていて兄貴分。
警察獣人になる為に特訓していて、他の獣人とも交流経験あり。ただし競争相手や仲間としてであり、“友達”はレオンとスコールが初めて。
そんな訳で、クラウドはレオンとスコールが大好きです。

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