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2015年08月

[ラグスコ]君は此処にいる

  • 2015/08/08 21:23
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SeeD服のジャケットを脱ぎ、彼にしては珍しくタンクトップ一枚と言う格好で戻って来たスコールを見て、ラグナは飛び跳ねるようにソファを立った。
駆け寄るラグナの泣き出しそうな表情に、スコールの眉間に谷が出来る。
どうしてあんたがそんな顔────と言外に問うスコールであったが、ラグナがそれに気付く余裕はなく、彼は駆け寄ってくるなりスコールをぎゅうっと抱き締めた。


「ちょ……おい!」
「良かった……」


人目がないとは言え、こんな所で何を、と言おうとしたスコールだったが、言葉は鼓膜に届いた呟きに掻き消された。
目を丸くして、しがみ付くように抱き締める男を見遣れば、ラグナはスコールの左肩に顔を埋めて、小さくはない体を震わせている。
そんなラグナにスコールは困惑した表情を浮かべ、傍観しているキロス達に眼を向ける。
と、その視線をどう受け取ったのか、彼等は如何にも心得ましたと言う表情で、部屋を出て行ってしまった。

抱き締められたスコールの右肩には、真新しい包帯が巻かれていた。
その下には、深い切り傷があり、ほんの数十分前に負ったものである。
傷を負わせたのは、今回のガルバディアとの首脳会談に乱入して来たテロリストで、スコールはラグナを庇って凶刃を受けた。
それは“エスタ大統領警護”と言う任務を請けたスコールにとって、当然の行動であり、自身の仕事を全うしたに過ぎない。
しかし、それでもラグナにしてみれば、大切な一人息子であり、何物にも代えられない恋人が、自分の代わりに傷付いたと言う事になる。
テロリストが要人殺害に使用する武器には、単純な殺傷能力の他、毒や薬が仕込まれている事も珍しくない。
だからラグナは、傷の手当に行ったスコールが戻って来るまで、生きた心地がしなかった。

ラグナは一頻りスコールを抱き締めた後、ぺたぺたと細身の体をあちこち触り始めた。
包帯の捲かれた肩には触らず、代わりに腕や掌、指先まで触る。
指と指の付け根をくすぐられて、ピクッ、とスコールの手が逃げるように震えるのを見て、感覚が其処に生きているのだと知って安堵した。


「……ラグナ」
「ん?」
「…もう良いだろ。離せ」


眉間にこれでもかと言わんばかりの深い皺を刻んで、スコールは言った。
魔女戦争後、少しずつ人嫌いを克服しつつあるスコールだが、接触嫌悪も同然だった触れ合いについては、まだまだ不慣れだ。
そんな彼にしてみれば、無事を確かめる為とは言え、体中を触られるのは堪えられない。

悪い、と言ってラグナはスコールから離れた。
スコールはラグナの髪の感触が残る左肩に触れて、むず痒そうに指先で擦る。


「毎回毎回、大袈裟だ。これ位、大した傷じゃない」
「そうは言ってもさぁ。無理だよ、心配するなってのは」
「俺はそんなに弱くない」
「……うん。そうだな」


不機嫌なスコールの言葉に、ラグナは苦く笑った。

自分の人生の半分も未だ数えない少年が、英雄と呼ばれるに相応しい実力の持ち主である事を、ラグナはよく知っている。
嘗て自分達が果たさねばならなかった尻拭いを、彼等に任せてしまった事も、忘れていない。
全ての目的を果たして戻って来た少年少女達の中に、彼の姿がなかった時の絶望と後悔は、きっと一生かかっても忘れる事は出来ないだろう。
遠い日に知らず自分が犯した罪を、償う事も、謝る事も、何も出来ないままで別たれてしまったと思った。
結局、彼は仲間の想いによって無事に戻って来る事が出来たけれど、あの時の不安と焦燥は、明るいラグナの中にはっきりと暗い影を残した。

傭兵『SeeD』と言う職業、雇われた者と雇った者の立場、依頼により確立されたそれぞれの役割───何に置いても、スコールがラグナの代わりに傷を負うのは、致し方のない事だった。
それでも、やはり大切な存在を傷付けたくない、これ以上失いたくないと言う想いから、ラグナは彼を心配するのを止められない。


「ケアルで処置も済ませたから、もう殆ど傷もない」
「でも包帯巻いてるだろ?」
「念の為だ」


けろりとした顔で言うスコールに、ラグナは眉尻を下げて「そっか」と笑った。

スコールはジャケットに袖を通さず、肩に乗せて羽織るに留めた。
任務中は殆どSeeD服を崩さずに着ているスコールだが、傷を治したばかりの今は、流石に窮屈なのだろう。
インナーを晒して、ラフな格好で過ごすスコールに、ラグナは珍しいものを見た気分だった。


「……」
「……なんだ」


いつもタイトな黒衣か、かっちりとしたSeed服に身を包んでいるスコール。
鍛えられた傭兵と言うには、些か筋肉の盛り上がりが足りない事を、彼はコンプレックスに思っているらしく、肌身を晒す事は滅多にない。
ジャケットとタンクトップの隙間から覘く僅かな肌色に、ラグナは知らず息を詰めた。

じっと見詰める碧眼に、スコールは眉根を寄せる。
羽織ったジャケットの端を掴んで、体を隠すように半身で後ずさりするスコールは、逸らされない碧の中に滲むものを、無意識に感じ取っているようだった。


「いや。なんか、新鮮だなあと思って。そのカッコ」
「……別に可笑しいものじゃないだろ」
「SeeD服もちゃんと着てないし」
「……」


ラグナの言葉に、スコールは羽織っていたジャケットに袖を通そうとした。
しかし、その前にラグナに左肩を掴まれて、ぐっと抱き寄せられる。


「ラグ……っ」
「そのままでいろよ」
「警護任務が、」
「今日の予定はもうパーだから、気にしなくて良いの」


先の襲撃の規模や、その後の会談会場周辺の慌ただしさを鑑みて、予定していたスケジュールの大半はキャンセルされた。
今頃はキロスとウォードが、ガルバディア側と話し合って調整をしている頃だろう。
会談会場の変更、それに伴う警備配置、ホテルの確保等を考えるに、今日のラグナはもう仕事にならない。
スコールの警護任務は、ラグナのスケジュールとは関係なく継続されるものだが、ラグナは其処を深くは考えなかった。

逃げを打つスコールの背中を捕まえて、横抱きに持ち上げる。
突然の浮遊感に、反射的にラグナに捕まりながら、ちょっと待て、とスコールが叫ぶ。


「あ、あんた、まさか、」
「暴れるなよ、傷に響くだろ?」
「だったら離せ!変な事するな!」
「変な事って酷いな~」


身を捩ってラグナを振り解こうとするスコールだが、姫抱きと言うスタイルは、逃がさない為に丁度良い抱え方なのだ。
次いで、逃げようとしつつも、傷のある右肩を庇ってか、スコールはラグナを殴ってまで止めようとはしていない。
その甘さが、甘えなのか天然なのか、ラグナには判りかねるが、何れにしろ彼が本気で拒絶していない証と言えた。

じたばたと諦め悪く暴れるスコールをベッドに下ろすと、直ぐに足が飛んできた。
ラグナの肩を蹴る足を捉まえて、横に開いてやれば、スコールは真っ赤になってラグナを睨む。
そのままベッドに押し倒すと、羽織っていただけのSeeD服が無造作に広がる。
いつもは脱がしてからベッドに入るのだが、半端に脱げた服装や、散らばるように広がった衣装と言う光景は、中々に雄を煽るのだと初めて知った。


「やめ…やめろ、バカラグナ!」
「肩には触らないから。な?」
「そう言う問題じゃな─────」


尚も抗議しようとするスコールの唇を、ラグナは自分のそれで塞いだ。

鼻を抜けるくぐもった声が、しばらく続く。
もがく細い躯を抱き締めると、ビクッ、とスコールは一瞬強張ったが、次第にそれも解けて行った。
少しだけ唇を離せば、酸素を求めて小さく喘ぐ音が漏れる。
無防備になった舌を絡め取って、もう一度口付けてやると、もう抵抗はなかった。


「ん…んぅ……っ」


舌の表面をゆっくりと撫でられて、ふるりとスコールの躯が震える。
ラグナの視界の端で、包帯の白と、いつもよりも僅かに赤らんだ肌が見えた。
包帯に触れないように気を付けて、左手でスコールの頬を撫でて顎を上向かせ、角度を変えて深いキスを贈る。

スコールの閉じていた瞼が薄らと開いて、濡れた蒼灰色が覗く。
頃合いと見て唇を解放すると、スコールは熱の篭った吐息を零しながら、離れて行くラグナの顔を見上げていた。
茫洋としているスコールの頬を、猫をあやすようにそっと撫でて、ラグナは囁く。


「……一回だけ。な?」


何を、と主語を抜いた言葉でも、スコールは直ぐに理解した。

警護が、任務が、と言う思考がスコールの頭を巡る。
けれども、頬を撫でていたラグナの手が、包帯を巻いた肩にそっと触れるのを感じて、言い訳の思考は棄てた。
職務放棄と言える自分の行動の理由を、目の前の男のキスの所為にして、身を委ねる。


「……包帯、あんたが巻き直せよ」


それが此処から先を受け入れた言葉と悟って、ラグナの顔が緩む。
だらしない顔だ、と思いながら、スコールは降って来た唇をもう一度受け止めた。





スコールを信頼してるけど、もう大事なものを失くしたくなくて不安になるラグナが浮かんだので。
あと、下敷きにした羽織りジャケットが広がってる光景ってエロいなって思ったので。

一回だけって言ってるけど、多分一回だけで終わらない。

[レオスコ]潮騒に隠した秘密

  • 2015/08/08 21:14
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スコールは、海が好きではなかった。
その理由は、大きく分けて二つある。

一つは、大の人込み嫌いであると言う事。
夏休みとあって、何処に行くにも人で溢れ返っている中、海は特に人が多い。
夏の風物詩とも言える海水浴客や、それを宛てにした屋台や海の家、催し物など、人が集まる理由には事欠かない。
ただでさえ人が多い所が嫌いなスコールが、自ら進んでそんな場所に飛び込む等、天地が引っ繰り返っても、先ず有り得ない事だ。

もう一つは、夏であるが故の強い日差しだ。
見渡す限りに抜けるような青空が広がり、何処までも続く水平線と言う光景は、決して悪いものではないが、燦々と降り注ぐ太陽光だけは駄目だ。
光と共に突き刺す熱射は、地面にも熱を生み、アスファルトを鉄板へと生まれ変わらせる。
コンクリートや石よりも、地面の方が比較的熱を溜め難いとは言うものの、それも体感温度で言えば大した差ではない。
風の恩恵が1ミリでもあれば……と思いきや、稀に吹く風は大気中の高温を引っ掻き回すだけの熱風となり、涼とは全く縁遠い。
加えて、スコールの肌は強い日差しに弱く、日焼けすると赤くなって炎症を起こしてしまう。
極端な熱さと、皮膚を焼く日光を恨むのは、無理もない。

とは言え、折角の夏休み。
何処にも行かずに家で本の虫になってばかりと言うのも如何なものか───と、思っていた所だった。
自分一人であれば、最終的に「面倒だからこのままで良い」と言う結論に行き着くのだが、今回は兄と父が一緒だった。
折良く揃って休みが取れた二人に、「海に行かないか」と誘われた。
ラグナだけでなく、滅多にこうした事を言わないレオンからも誘われて、流石に一も二もなく「嫌だ」とは言い辛く、スコールは少しの間考えた。
それから、面倒な事に、夏休み中の課題に『旅行記録、若しくは自由研究』と言うものがあった事を思い出し、課題消化のついでと言う理由で、海行きに頷いた。

休暇前の最後の仕事に向かった父は、明日現地で合流する事にして、スコールとレオンは一足先に海に向かった。
到着したのは、別荘付の完全なプライベートビーチだ。
静寂と海の音のみが響く海岸は、見様によっては寂しいかも知れないが、人込み嫌いのスコールには願ったり叶ったりである。
下世話な話であるが、大企業の社長である父と、国内の指揮を任されている兄に感謝した。

一週間と言う長期滞在を予定して、多くなった荷物を別荘に運んだ後、スコールは海岸に向かった。
別荘から出た目の前に海があると言うのは、中々に贅沢だ。
海に来たからと言って、はしゃぐような性格ではないスコールだが、街の喧騒から遠く、耳に届く音は漣だけと言うのは心地が良い。
寄せる白波に足元を浸し、車の長時間移動で固まった背中を伸ばしていると、後ろから声がかかる。


「気に入ったか?」
「……悪くない」


砂浜を踏んで、ゆっくりと近付いてきた兄に、スコールは振り返らずに言った。


「人もいないし、静かだ」
「父さんが来れば、静かではなくなりそうだけどな」


くすくすと笑う兄の言葉に、スコールの眉間に皺が寄る。
が、それは溜息と共に直ぐに解けた。
父のお陰で自分は此処に来ているのだし、賑やかさに辟易すれども、彼を嫌いになる理由にはならない。

レオンはスコールの隣に並ぶと、先の弟と同じように、腕を頭上に上げて背筋を伸ばした。
此処まで車を運転したのはレオンだから、スコール以上に彼は疲れている。


「…大丈夫か」
「問題ない。どうせしばらくは、のんびりするしかないんだしな」


背中を目いっぱい伸ばしきって、レオンは言った。

此処へ来る道すがら、途中にあったスーパーで今日明日の食糧は買い込んで来た。
日用雑貨や消耗品も、差し当たって必要と思い付くものは揃えたので、今日はもう車を出す予定はない。
会社で余程の事があれば呼び出しを喰らうが、そうでなければ、今日の午後は丸々寝倒しても良い位だった。

それで、とレオンが隣に立ち尽くす弟を見る。
蒼と蒼が交わって、レオンが柔らかく微笑むと、スコールは顔を赤らめて目を反らした。
そんな弟に、可愛いものだと笑みを押し殺しつつ、


「今から泳ぐか?」
「……いや。日焼けはしたくない」
「そうか」
「ラグナが来たら、どうせ泳ぐ羽目になるんだろうし」
「まあ、そうだな」


息子達よりもよっぽど子供のような父の事だ。
この海岸で、きっと息子達以上に遊び倒すに違いない。
海で泳ぎ、砂浜で城を作り、磯や岩場に隠れた生物を探し……と、出発前から彼は遊びの計画を立てていた。
勿論、その計画は息子達が参加する事が前提で、レオンは勿論喜んで、スコールは渋々顔でそれに付き合う事を決めている。


「さっき父さんから連絡があった。明日の午後にはこっちに着くそうだ」
「…迷わずに来れるのか?」
「キロスさんが送ってくれるそうだ」
「…じゃあ、大丈夫か」


兄弟で先に海に行くと決まった時、スコールがいの一番に不安になったのは、父の酷い方向音痴振りだ。
一人でちゃんと来れるのか、と言えば、カーナビがあるから大丈夫!と彼は言ったが、何故かカーナビを使っても彼は迷子になるのである。
そのカーナビも、一人で入力しようとすると、打ち間違いや変換ミスをして、全く違う場所に連れて行かれそうになったりする。
これでは、息子達が不安になるのも無理はない。
旧知の友人達は、そんなラグナをよくよく理解しているので、遠方へ出かける時には、彼等が足を買って出てくれている。

一通りの不安が消化されて、スコールは気持ち軽くなった踵を返した。
別荘へ戻るスコールの後を、レオンものんびりとついて歩く。


「海風は気持ち良いが、やっぱり日差しが強いな」
「曇れば良いのに……」
「生憎、向こう一週間は晴れだ。泳ぐなら昼より朝の方が良いかもな」
「朝はラグナが起きないだろ」
「どうかな。皆で旅行なんて久しぶりだから、早起きするかも知れないぞ」


レオンの言葉に、スコールは朝からハイテンションな父を思い浮かべて足を止める。
兄が追い付いてみると、弟は判り易く顔を顰めていた。

レオンはくすりと笑って、渋い顔の弟の頭を撫でる。


「早起きしたら、次の日はきっと起きれないだろうから、一日くらいは付き合ってやろう。な?」


家族水入らずで過ごせる日と言うのは少ない。
仕事であったり、学校や課題であったり、日常的な擦れ違いは珍しくなかった。
その事実は、致し方のない事とは言え、家族を愛して已まないラグナには、少々寂しい現実だ。
だから家族が揃って過ごせる時は、少しでも長く触れ合っていたいからだろう、朝から晩まで息子達を構い倒すのがお決まりだった。

思春期故に殺しきれない反発心や、父の言動に対する抵抗感は否めずとも、ラグナの気持ちはスコールもきちんと判っている。
「……一日だけな」と言って溜息を漏らすスコールに、レオンは笑って彼の髪をくしゃくしゃと撫でて、


「じゃあ、それまでは、俺がお前を一人占めだな」


独り言のように、けれどもはっきりと聞こえる声で呟いたレオンに、スコールは顔を上げた。
ぱちっ、とごく近い距離で蒼と蒼が交じり合う。

丸い目で見上げる弟に、レオンはゆぅるりと笑みを浮かべた。
その貌が、柔らかな褥の中で見るものだと気付いて、スコールの顔が真っ赤に染まる。
判り易いスコールの反応に、兄は満足そうに微笑んで、汗の滲む額に唇を押し当てた。





プライベートビーチでいちゃいちゃする二人が浮かんだので。
人目を気にしなくて良いっていいね!
それでも恥ずかしがる弟が、お兄ちゃんは可愛くて堪らないそうです。

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