サイト更新には乗らない短いSS置き場

Entry

2022年01月03日

[8親子]今までも、どうかこれからも

  • 2022/01/03 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


一昔前、正月に開いている店なんて、殆どないのが普通だった。
それが様々な経済の流れや、流通網の発達、人々の生活形態の変化などがあって、24時間365日利用できる店が増えて行った。
そして今現在、便利な代わりに忙しくなった日々から脱却し、ゆとりを楽しむ一時を取り戻す為、改めて正月休みなんてものを取るべきであると、大手企業は考えるようになったとか。

お陰でラグナは、年末年始を家族と一緒に過ごすことが出来るようになった。
一応の重役なんて言うポストに就かせて貰っているお陰で、元々休みは取得し易い筈ではあったが、仕事の都合を色々と考えると、やはりそう易々とは休めない。
しかし、ラグナは家族を第一に考えていて、年間行事のあるシーズンとなれば、やはり家族と一緒に過ごしたいとも思う。
今のポストを貰うまでは、どうしても仕事を優先しなくてはならず、家庭のことは妻に頼り切りとなり、幼かった子供達にも随分と寂しい想いをさせていた。
その反動もあって、ラグナは正月は勿論のこと、夏休みには皆と一緒に海へ行ったり、ちょっとした行楽に誘ったりと、家族サービスと呼ばれるものに余念がなかった。
いつの間にかその空気は部署全体にも広がっており、正月に某か予定のある者はそこで優先して休みを貰い、代わりに正月出勤した者は、後でその分の休みを取りと、そこそこ上手く回るようになっている。
ラグナ自身もこれのお陰で自分の休みを調整する事が出来ているので、有り難い事だ。

クリスマスの華やかな一時を過ぎ、一転、年末の準備に速足で切り替わる、忙しない年末を終えて、ようやくのんびりと過ごす時間。
ラグナはリビングに出した炬燵に入って、蜜柑の皮を剥きながら、テレビ番組を眺めている。
そんな彼の後ろにあるキッチンでは、息子二人がいそいそとこの後の準備を始めていた。


「大きさ、これ位で」
「見た目としてはもう少し大きい方が良いんじゃないか?」
「晩飯前だし」
「まあ、それもそうだな」


ラグナは剥き終わった蜜柑を一房食べて、ちらと肩越しにキッチンを見る。
アイランドキッチンの天板には、まな板と包丁が並べられ、その横に箱があった。
箱から出したものをスコールがそうっとまな板に乗せると、包丁を取って、これくらい、この辺、と宛がって切り分けるサイズを確認している。


「余ったのはどうする」
「ラップして冷蔵庫に入れておこう。明日食べれば問題ないさ」
「上……真ん中の苺、これどうやって切れば」
「退かせるか?」
「それだと穴になるだろ。でも力任せは押し潰すし……」
「そうなると見た目も良くないしな。あまり揺らさないように気を付けながら引き切るしかないか」


ああしてこうして、ああでもない、こうすれば、と話し合う兄弟の声が、ラグナには微笑ましい。
弟がまだ幼い頃にも、レオンはああやって、彼と一緒にキッチンに立っていた。
それはレオン自身が幼い頃、母と共に過ごした年始の楽しみと言うものを、早くに逝ってしまった彼女に代わって弟に伝えたいと思ったからだ。
お陰でラグナは、この歳になっても、今日と言う日を喜びと共に過ごすことが出来る。

年が明けて間もなくして、今年もラグナの誕生日はやって来た。
一昔前は、こんな時に開いているケーキ屋なんてものは滅多になかったが、代わりに妻レインが手作りケーキを作ってくれた。
初めは二人きりの正月と誕生日だったから、彼女が営んでいたカフェバーでも出していたカップケーキが二つ。
レオンが生まれてからは、先ずは幼児でも食べられるケーキを母子が一緒に作って用意してくれた。
次第にレオンが母の諸々を手伝えるようになると、手作りケーキも段々と本格化して、レオンがデコレーションを担当したりと、凝って行く。
そしてスコールが生まれ、彼の物心がつく前に彼女は急逝してしまうが、レオンは毎年恒例になっていた父の誕生日を忘れなかった。
幼い弟の面倒を見ながら、いつか母にして貰ったように、スコールと一緒にケーキを用意し、ラグナに兄弟揃って「誕生日おめでとう」と言ってくれた。
しっかり者になってくれた兄と、まだ意味が判らなくても兄を真似て健やかに育つ弟と、そんな姿を妻に見せてやれない遣り切れなさで、ラグナは泣きながら笑っていた位に堪らない思い出になった。

今ではスコールは17歳の高校生に、レオンも25歳で立派な大人になっている。
しかし、今日と言う日の習慣は今も変わらず続いていて、二人は父の誕生日祝いをしっかり用意してくれていた。
そろそろ受験が見えて来るスコールと、社会人として忙しくしているレオンであるから、流石に手作りケーキは用意できず、代わりに駅前にある有名店が今日から開店しているとチェックをしていたようで、其処で小さなホールケーキを買って来た。
贅沢過ぎるほど贅沢だ、とラグナは想いながら、彼等の準備が終わるのを待っている。


「湯が沸いたな。コーヒーにミルクはいるか?」
「……いる」
「砂糖は」
「それは良い」
「父さんはどうする?」


カップの準備をしながら、レオンが父に訊ねた。
ラグナは、そうだなあ、と考える素振りを見せてから、


「俺もミルクだけ入れて貰おっかな」
「判った、ミルクだな」
「レオン、後で皿を出してくれ」
「ああ」


父と弟にそれぞれ返事をして、レオンはてきぱきとやる事を熟していく。
社会人になるまで、母に代わって家事の殆どを担当していたレオンは、本当に手際が良い。
スコールも、幼い頃からその手伝いをし、兄が成人した頃にはすっかり役割を引き継いだこともあって、キッチン回りの仕事は慣れたものであった。

コーヒーサーバーをセットし終えたレオンが、食器棚からデザート皿を出す。
三枚のそれをキッチンに置いた所で、スコールが「あ」と言った。


「これ……」


スコールが眉根を寄せながら兄に見せたのは、一枚のチョコレートプレート。
長方形の薄いミルク味のそれには、本来ならメッセージなり名前なりと書いてあるのだろうが、今はそれらしきものは綴られていない。
と言うことはまさか───と言う顔をするスコールに、レオンは頷いた。


「ああ。これを注文する時に、誕生日ケーキなんだと言ったら、店員が添えてくれたんだ」
「……で、なんで何も書いてないんだ」
「ご家族でどうぞ、ってな。ほら、チョコペンもある」


そう言ってレオンがケーキの箱の奥から取り出したのは、ホワイトチョコレートのペン。
残っていたポットの湯でレオンがそれを温めている間、スコールは露骨に貌を顰めていた。


「書いておいて貰えば良かったのに」
「まあ、それもありではあったがな。でも折角なんだから。半分ずつ書こうか」
「レオンが書けば良い」
「そう言うな」


俺はやらない、と突っぱねるスコールであったが、彼のそんな反応は兄には予想済みだ。
構わずレオンは、程好く溶けたチョコペンで、メッセージプレートに文字を綴っていく。
スコールが幼い頃は、よく手作りケーキを用意していた事もあって、綴る字体もやはり慣れたものであった。
綺麗な筆記体で『父さんへ』『Happy』とまで書いてから、レオンはチョコペンをスコールに差し出す。

其処まで書いたなら、全部書いてくれたら良いのに。
スコールの表情はありありとそれを語っていたが、差し出されたものは一向に引っ込まない。
結局、押しに敗けるような気持ちで、スコールはチョコペンを受け取った。

切り分けたケーキを皿に移し、その一つにメッセージプレートも乗せて、レオンはそれを炬燵へと運ぶ。
スコールは残ったケーキをまた別の皿に移動させて、ラップをして冷蔵庫へと入れた。
コーヒーも炬燵へと移した所で、スコールも兄を追ってキッチンを後にし、父子三人がリビングの炬燵の中へと納まる。


「さてと。じゃあ、お祝いだな。誕生日おめでとう、父さん」
「……おめでとう」


一心地としてから、レオンが父に今日の祝いを述べれば、スコールもそれに倣うように言った。
もうそれだけでラグナは感無量と言うものだ。


「ああ、ありがとな。毎年ケーキも用意してくれてさぁ。俺ってば幸せものだなぁ」
「……大袈裟だ」
「ふふ。ケーキはまだ残っているから、明日も食べよう。今日は夕飯前だから、このサイズで勘弁な」
「うんうん、判ってる」


皿に乗せられたケーキは、元々のサイズが4号と言う小さなサイズと言うこともあって、どう切り分けても店で売っているような程好いカットサイズは難しい。
かと言って切り易い四等分では聊か大きめになってしまうし、今から三時間もすれば夕飯だ。
幾らケーキとは言え、このタイミングで沢山食べるのはどうかと、スコールが気を遣ってケーキを切り分けてくれた事はラグナもよく判っている。

ケーキを一口食べてみると、ふんわりとした触感のスポンジに、甘い生クリームが絡んで溶ける。
スポンジの間に挟んだスライスされたフルーツの酸味が味わい深く、もう一口、もう一口と進んでフォークが伸びた。
流石有名店のケーキだな、と呟くレオンに、スコールも頷いていた。

ラグナも息子たち同様に舌鼓を打っていたが、ふと、


(────お)


後の楽しみにと残しているチョコレートプレートに目が行った。

こういったデコレーションを作ることに慣れている、綺麗な筆跡の綴りと、其処に並んで几帳面な字体。
その光景が、嘗て幼い次男と一緒にケーキを作っていた長男の、思い出の情景と重なった。
あの頃にも二人はこうしてメッセージプレートを用意して、チョコペンで一所懸命にお祝いのメッセージを書いてくれたものだった。
当時はチョコペンの使い方にも四苦八苦していて、綴りが途切れたり、線がくにゃくにゃとヘビのように踊っていたりと、それは微笑ましいものだった。

それが今では、こんなに綺麗な文字で書けるようになっている事に、子供達の成長を感じる。


(食べちまうの、勿体ねえなあ)


そう思うのは、いつもの事。
息子たちが幼い頃から、学校の課題もあって書いてくれた手紙などは、今でもラグナのデスクの引き出しに大事に仕舞われている。
彼等から貰ったものは、いつまでもいつまでも大事に取っておきたいラグナにとって、どうしても残してはおけないチョコレートのメッセージプレートは、勿体無くて仕方がないものだった。
けれども、これを食べないと言うのも、それはそれで非常に勿体無い話だ。

昔、スコールがまだ甘いものが大好きな位に幼かった頃。
父の為にと用意したケーキは、それに添えられたチョコレートのメッセージも含めて、父への贈りものだった。
けれども、父が独り占めにする形になるチョコレートが、スコールは羨ましくて仕方がなかったようで、よくじいっと見詰めていたものだ。
そんなスコールが可愛くて、ラグナはいつも、メッセージプレートを割っていた。
レオンも仲間外れにしちゃいけない、と彼の分も用意すると、レオンは判り易く遠慮をするのだが、三人で同じものをシェアするとスコールが大層喜ぶものだから、結局彼も受け取っていた。

あれから時が流れて、スコールも味覚の変化もあり、甘いものはそれ程得意ではなくなった。
けれど、こうして祝う時には必ず同じ場所にいてくれて、口では色々と呟きつつも、準備はせっせとこなしてくれる。
レオンは、思春期真っ盛りの弟が少し素直になれるように口添えしながら、父が毎年願っているように、家族皆で今日と言う日を迎えられるようにと努めてくれるのだ。



────だからこれは願掛けだと、ラグナはメッセージプレートを持つ指先に少し力を入れて、ぱきりとそれを三つに割った。
幼い頃とは違い、異なる大きさに割ったそれをシェアすると、スコールは仕方ないと言う顔で、レオンは嬉しそうにそれを受け取ってくれるのだった。





ラグナ誕生日おめでとう!と言うことで息子二人にお祝いして貰いました。

父の誕生日祝いを喜んで準備するレオンと、文句言ってるようでちゃんと準備するスコールです。
ラグナが嬉しそうだと二人とも嬉しいんだけど、レオンは素直にそれを認めれる、スコールはツンデレする。
スコールがツンツンするのは、喜ばれるのも全部恥ずかしくて照れ臭いからだけなので、兄の父もちゃんとそれを判っています。

Pagination

  • Newer
  • Older
  • Page
  • 1

Utility

Calendar

12 2022.01 02
S M T W T F S
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

Entry Search

Archive

Feed