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2014年02月

[レオスコ]甘い吐息を分け合って

  • 2014/02/15 03:01
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バレンタインで現パロレオスコ!






バレインタインデーだからと、浮足立って用意しようと思った訳ではない。
自分がその手の年中行事に極端に疎い事も、彼───レオンがこうした行事に拘る人ではない事も判っている。
自分に至っては、寧ろこうした行事に浮かれ、騒ぐ人々を、白い目で見ているタイプだ。
それでも、彼とは一応“恋人同士”と言われる関係だから、全く何もしない訳にも行かないのではないか、と思ったのだ。

もう一つ理由を挙げるなら、普段、何かと“して貰う側”でいる自分でも、こう言ったタイミングなら、何かを“する側”になれるのではないか、と思ったのだ。
彼は何もかもを持っているから、今更何かをして貰う事もないだろうけれど、それでも、いつも自分が彼に何かを“して貰う側”である事に、後ろめたさとプライドが疼かないと言ったら、嘘になる。
何気なく、さり気無く、スコールの為に手を回してくれたり、欲しがっていたものをプレゼントしてくれる彼に、お返しがしたい、と思う事は少なくないのだから。

学校帰り、甘い匂いが漂う、可愛らしい洋菓子店に立ち寄って、きゃっきゃと商品を選ぶ女性達の中に混じるのは、非常に抵抗があったが、何とかやり遂げた。
選んだのはビターチョコレートを使った、ワイン入りのチョコレートトリュフだ。
リボン付のラッピングが施されたそれは、三個セットになっていて、甘い物が余り得意ではない彼でも、無理なく食べられるのではないかと思えた。
これで準備は万端、後は帰って来た彼に渡せば良い────筈だったのだが、それが簡単には行かなかった。

仕事を追え、家に帰って来た彼の手には、会社の女性社員達から贈られたのであろう、沢山のチョコレートがあった。
同僚としての義理よりも、明らかに本気を意識した、市販の高級品から手作りまで、様々なチョコが紙袋一杯に詰め込まれていたのである。
それを見て口を噤んだスコールを見て、レオンは眉尻を下げて「断る訳にも行かなくてな…」と言った。
確かに、渡されたチョコレートの本気度云々は置いておくとしても、基本的にそれらは好意の上で贈られたものであるから、無碍に突き返す訳にも行くまい。
かく言うスコールも、学校の下駄箱やら、自分の席やら、ロッカーやらと、至る所にチョコレートやクッキー等が置かれていた為、レオンも同様───それ以上───の出来事に見舞われているであろう事は、容易に想像が出来た。
本音を言えば、内心複雑な気持ちを禁じ得ないのだが、それを口にして不満を吐露出来る程、スコールは独占欲をあからさまにする事は出来なかった。

しかし、独占欲以上に、スコールは別の気まずさで閉口せざるを得なかった。

スコールが決死の想いで買って来たチョコレートは、学校帰りに学生が立ち寄っては買い食いをして帰る様な店のもの。
レオンが会社で貰って来たような高級品や、ラッピングまで手の込んだチョコレートに比べると、なんともチープであった。
こう言うものは気持ちの問題であって、幾ら金を使ったとか、時間を費やしたとかは別問題なのだが、包装紙まで判り易く手の込んでいる代物が詰め込まれているのを見ると、気持ち負けした気がしてならない。

そんな訳で、スコールは完全に委縮してしまっていた。


(……もう、渡さない方が良いかも知れない)


冷蔵庫を占拠したチョコレートの山───三分の二がレオンが貰った分、残りの三分の一がスコールが学校で貰って来たものだ───を見る度、どうしようか、と眉尻を下げるレオンを見る度、スコールはそんな思考に行き着く。
元々、甘い物がそれ程得意と言う訳ではないのだから、これ以上食べなければならないものを増やすのも良くない。

……それに、自分が渡したチョコレートが、あのチョコの山の中に紛れてしまうのが、何だか嫌だった。


(……でも……)


あれは、レオンの為に買ったチョコレートだ。
いつも自分を愛してくれる彼に、何か返したいと思った、その形。
あんなもの一つで、今まで彼から貰ったものの対価になるとは思っていないけれど、素直に口に出来ない“ありがとう”の代わりに渡したい。

いっその事、彼の部屋のデスクの上に置いておこうか。
学校で、机やロッカーに一方的にチョコレートを置いて行く女子生徒の気持ちが、今は少し判るような気がする。

ちら、とスコールが視線だけでレオンの姿を探すと、彼はキッチンに立っていた。
遅い夕飯を終えて、食器の片付けをしているのだ。


(……今、レオンの部屋に置きに行けば…寝る前には、見る、よな?)


本当は直接手渡せたらと思っていたのだが、既にスコールの心は折れている。

今の内に、こっそり部屋に置いて行けば、今晩、遅くても、明日出掛ける前に必要なものを集めている時、デスクの上にあるものに気付いてくれる筈。
そうしよう、それが良い────そう思って、スコールは座っていたソファから腰を浮かせた時だった。


「スコール」


名を呼ばれてスコールが顔を上げると、キッチン前に立っているレオンが振り返っていた。
こっちへ、と手招きされて、スコールは首を傾げつつ、レオンの下へ向かう。

上背のあるレオンを見上げて、スコールは「なんだ?」と問う。
するとレオンは、口元に小さな笑みを浮かべて、「ちょっとな」と言った。
何処か悪戯好きな子供を思わせる笑顔を浮かべている男に、スコールが眉根を寄せていると、


「スコール、口を開けてみろ」
「……?」


レオンの言葉に、スコールの眉間に深い皺が刻まれる。
何故、と無言で理由を問うスコールに、レオンは笑顔のまま動かない。
仕方なくスコールが薄く口を開かせると、「もっと」とレオンは言った。

怖々と口を開けて行きながら、自分が随分間抜けな顔を晒しているような気がして、スコールはもう口を閉じようか、と思った。
そのタイミングを狙ったかのように、レオンが動き、スコールの口の中に何かが放り込まれる。


「……!?」


反射的に閉じた口の中で、とろりと甘いものが蕩けて行くのが判る。
甘い中にほんのりとしたカカオの苦味を伴ったそれは、柔らかい口どけの、生チョコレート。

あまり馴染みのない口の中の甘さに目を丸くしていると、顎を捉えられて、上向かされる。
其処に柔らかい唇が押し当てられて、驚いて開いた口の中にレオンの舌が滑り込む。
侵入者は、スコールの咥内で舌を捉え、その上に乗っていたチョコレートごと、ねっとりと舐って行く。


「ん、んっ…!ふぅっ……、んっ…」


レオンの舌が、スコールの口の中で蕩けたチョコレートを舐め取るように、ゆったりと舌の表面を撫でる。
スコールは背中を奔るぞくぞくとした感覚から逃げようとしたが、顎を捕えられ、腰に腕を回され、目の前の男から離れる事も出来ない。

あやすように赤らんだ頬を擽られて、スコールは観念したように目を閉じた。
ちゅ、ちゅぷ、ちゅぱ、と舌を舐めるそれに、同じように自分の舌を絡めて応えれば、腰に回された腕に力が篭る。


「んぅ…ふ……あむっ、んん……」
「は、ふっ……ん……」


口の中も、零れる吐息までもが甘い気がする。

スコールは、甘い物は苦手だ。
食べられないと言う程ではないが、好んで手を付ける事もないし、匂いも長く嗅いでいると胃もたれに似た感覚を覚える。
────それなのに、今だけは、もっと味わっていたい、と思う。

けれども、チョコレートがすっかり溶けた頃に、スコールの舌に触れていた甘味はするりと逃げてしまった。


「……あ……」


思わず、心許ない声が漏れた事に気付いて、スコールは顔が熱くなるのを感じた。
それを間近で見詰める蒼灰色の瞳が、悪戯が成功したように楽しげに輝き、


「来月は、お前の方から貰えると、嬉しいな」


期待してる、と付け加えて囁かれ、スコールは耳まで赤くなっていた。



鞄の中にあるチョコレートは、結局、直接手渡す事は出来ないまま。
デスクの上に置いて行く事は出来たし、それにも「ありがとう」と言われた。

けれどそれ以上に、また貰った分が大きくて、来月の“お返し”こそはと密かに心に決めるのであった。





いちゃいちゃしてるだけヾ(*´∀`*)ノ
来月は来月で、またレオンもお返し考えてると思います。そんな感じで堂々巡り。

[フリスコ]花、一輪

  • 2014/02/08 22:24
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2月8日なので、フリスコで現パロ!




働かざる者食うべからず───母のこの精神は、息子であるスコールに対しても変わらず発揮される。
学生と言う身分なのだから、まだ就労の義務はないが、家の手伝い位はやって然るべき、と言う一家の長である母に、養われる身である息子が逆らえる筈もない。

家の手伝いと言っても、スコールが請け負っているのは、家事一般の事ではない。
花屋を経営しているレインの手伝いとして、重い鉢植えを運んだり、レインが少し店を開けている間に店番したり、と言うものだ。
殆ど毎日のように駆り出されるので、正直面倒臭い、と思いつつも、習慣付くには然程時間はかからなかった。
テスト期間中は、一応配慮されており、無理に呼びつけられる事もないので、やはり学生の本分は勉強、と言うラインは越えるつもりはないらしい。

レインの花屋にやって来るのは、大体、決まった客である。
スコールが物心ついて間もない頃から足を運ぶ客も多いので、最近は見知った人間ばかりが店にやって来る。
人見知りが激しく、愛想笑いなど浮かべられないスコールにとって、これは幸いであった。
母のようににこやかな対応が出来ないので、一見の客には総じて悪印象になるであろう自分でも、見知った客ならスコールの性格をよく知っているから、仏頂面で相手をしても問題はない(接客業として如何かとは自分でも思うが)。
だから、店番中にレジの横で勉強していても、やって来る客はいつもの事と気にする事はない。

その日も、スコールは一人で店のレジを預かっていた。
レインは父を借り出して、大きなコンサートホールに飾る為の花を届けに行っている。
そのまま幾つかの配達先を回る予定なので、父母が家に帰って来るまで、短く見積もっても二時間以上はあるだろうと言う事で、その間、スコールが店番に宛がわれたのだ。

テストが開けたばかりなので、勉強をする気にはならなかった為、スコールはレジ横の椅子に座って小説を読んでいた。
彼がレジを預かってから既に30分程度の時間が流れたが、まだ客が来る様子はない。
このまま誰も来なければ、面倒な仕事が増えなくて良い───と思っていると、ぴんぽーん、と店の出入口のドアが開く音がして、スコールは顔を上げた。


「……いらっしゃいませ」


母から「これだけはちゃんと言いなさい」と教わった言葉を、全くの棒読みで口にすると、それを受けた銀髪の青年は、ぎこちなく「ど、どうも」と言った。

やって来たのは、此処数ヵ月で常連になった人物だった。
少し傷み勝ちで、尻尾のように長く伸びた銀色の髪と、燃えるような赤い瞳、野性味のある尖った眦。
体の肉付きも良く、しかし余分な脂肪分はなく、腕は無駄のない筋肉で覆われており、上背もあるので中々に迫力がある。
その割に、彼はいつも何処かオドオドとして挙動不審で、赤い瞳も人好きのする色を宿している為か、風貌の割には随分と大人しそうな印象を受けた。


(……よく来るな、こいつ)


店に来た客に対して、口にしないとは言え、“こいつ”呼ばわりした事が母に知られたら、きっと叱られるのだろうが、此処には今自分と彼しかいない。
何も言わなければボロが出る事もないと、スコールは特に気にしていなかった。

青年の名前を、スコールは知らない。
知っている事は、彼が自身の見た目の大きさに反して、小さな可愛らしい花を好む事と、何故かいつも微かに赤らんだ貌をしていると言う事。
それから、スコールが通っている学校に在籍していて、弓道部の部員であると言う事、そしてスコールの一学年上だと言う事だ。
学校と学年、部活については、部活動後の遅い時間に、道具を背負って制服のままでやって来た事があり、学校では学年事に配布されたバッヂを身に付ける事が校則で義務付けられている為、これで知る事が出来たのだ。

青年は、今日は土曜日とあって私服だった。
その事に気付いて、珍しいな、とスコールは思う。


(私服なんか初めて見た。……そう言えば、土曜日に来たのも初めてだな)


彼はいつも、平日の夕方から夜にかけて、店を訪れる。
制服の時は部活動の後(たまに部活がない時に来る事もある)、私服の時は一端家に帰った後、彼はアルバイト先で飾られる花を買いに来ているようだった。
…この辺りの情報は、彼が常連になった頃、レインとラグナが話しかけた時に交わされた会話を、偶々手伝いをしていたスコールが聞いた所に因る。

制服ではない青年を、スコールは珍しい動物を見付けた気持ちで見詰めていた。
じ、と見詰めているスコールを、青年は気付いていないのか、気にしていないのか、きょろきょろと店内を見回している。


(……今日は随分、時間がかかるな)


迷うように、あっちへこっちへと視線を彷徨わせ、顎に手を当てて考え込みながら店内を歩き回る青年。
いつもは何かのメモ───多分、アルバイト先で必要とされている花の種類に関するものだ───を見ながら、これとこれを、と幾つかの鉢植えや生花を買っていくのだが、今日はどうも違うらしい。
よくよく見れば、彼はメモを手にしていないし、真剣な貌で花を吟味している。


(……誰かに渡す花か?)


うんうんと唸りながら花を吟味しているその横顔に、スコールは今までに何度か見た事のある客の様子を思い出す。
例えば彼女への贈り物、家族への感謝の気持ち等、プライベートで贈られる花について、迷う人間は多い。
自分が伝えたい気持ちもありつつ、相手がどんな花を喜んでくれるかと言う悩みの迷路に嵌り込む人間は、よくいるものだった。

スコールは青年から目を逸らした。
うっかり目を合わせて、「店員さんが選んで下さい」等と言われたら、面倒臭い事この上ない。
此処にいるのがレインであれば、青年から贈る相手の特徴を聞いて、この花が良いんじゃないですか、と選ぶことも出来るのだが、生憎スコールにそんな器量の良さはない。
スコールが出来る事と言ったら、客が選んだ花をラッピングして(この技術は母から丁寧に教わった。父は手先が不器用なので、これに関しては戦力にならない為だ)、レジを通す事だけ。
それ以上は出来ないと自覚があるので、スコールは早く青年が目当ての花を決める事を祈った。

レジ台の影で文庫本を開いていたスコールの下に、人の気配が近付いて来る。


「あ…あの……これ、ラッピングして貰って良いですか?」


恐る恐ると言う様子がありありと判る声をかけられて、スコールは仕方なく顔を上げた。
すると予想通り、青年の赤らんだ貌があり、手には一本の小さな赤バラの蕾。
取り敢えず、「選んで下さい」と言われる事だけは回避できた事に、スコールは胸中でホッとした。


「…ラッピングですね」
「は、はい」
「メッセージカードを添える事が出来ますが、如何ですか」
「え、あ、えーと……お、お願いします」
「では、此方に」


レジ横に束ねていたメッセージカードから、一枚取り出し、6色セットのカラーペンと一緒に差し出す。
青年が真剣な顔でメッセージを綴り始めるのを横目に、スコールは白いバラのラッピング作業を始めた。

それにしても────珍しいな、とスコールはもう一度思う。
頼まれて買っていく花は別として、小さく素朴な花が好きだと言う青年が、やはり小振りで蕾とは言え、バラの花。


(バラの蕾……確か、花言葉は────)


花言葉の類は、ラッピングを教わると同時に、母から教えて貰った。
スコールは特に興味があった訳ではないのだが、客に「選んで」と言われた時、参考にしなさいと言われて教わったのだ。

赤いバラの花言葉は、『愛情』や『情熱』。
そして、バラの蕾の花言葉は、『愛の告白』。
青年が知っていてこれを選んだのかは判らないが、一世一代の大勝負のような貌をして、真面目にメッセージを考えて唸っている彼を見ていると、強ち外れてはいないのかも知れない。

青年がメッセージを考えるのに時間がかかりそうだったので、スコールはゆっくりとラッピング作業に従事した。
が、沢山の花を使う束や、凝った装丁をする程でもない、一輪バラである。
程無く作業は終わってしまい、青年のメッセージ待ちになって、スコールは少々の時間を持て余した。

結局、五分から十分はかかった所で、ようやく青年が顔を上げる。


「こ、これ、で、お願いしますっ…!」


一体何を其処まで緊張しているのか、と思う程、青年は挙動不審であった。
余程望みのない告白なのか、と野暮な事を頭の隅で思いつつ、スコールは青年が震える手で差しだしたメッセージカードを受け取り、ラッピングテープで蕾に添えようとして、手を止める。

メッセージカードには、宛名と差出人の名前を書く所があるのだが、其処に書かれているのは差出人の名前だけ。
スコールは一瞬疑問に思ったが、そんな事の詳細を聞ける程に、スコールは相手のテリトリーに踏み込める性格ではない。
これが告白に使われるのなら、直接手渡しするだろうし、必要ないと思ったのかも知れない。
どの道、自分には関係のない事だと切り捨てて、メッセージカードを貼って固定した。


「350円になります」


ラッピング代と併せて請求すると、青年は焦るように財布を取り出した。
ぴったりの値段を支払い、スコールはそれを受け取って、レシートを渡す。
青年がレシートを財布に押し込んでから、スコールはレジ台に置いていた花を手に取って、青年に差し出した。

青年がおずおずとした所作で、バラの花を受け取る。


「ありがとうございました」


入店の挨拶と同じく、これはちゃんと言いなさいと言われているので、これもやはり棒読みで言った。
「ど、どうも…」と青年が言って、背中を向ける────かに思われたのだが、何故か青年は、その場に立ち尽くしたまま動かない。

用事は終わっただろうに、その場から動かない青年に、スコールは眉根を寄せた。
何か不都合でもあったか、思い出したか、何れにしろ何か用事があるのなら、早く済ませて欲しいと思う。
今は彼の他に客がいないので、特に忙しい訳でもないのだが、出来るだけ客の相手をしたくないスコールとしては、長居されるのは正直歓迎できる事ではなかった。


「……何か?」
「その……」
「……はい」
「………」
「………」


青年はふらふらと視線を彷徨わせ、赤らんだ頬を掻き、黙り込んでしまった。
なんだよ、と思いつつ、憮然とした表情のままで青年の反応を待つ。


「……これ、」
「……?」


青年は消え入りそうな声で呟くと、手に持っていたバラの花を差し出した。
何か気に入らない所があったか、とスコールが身構えていると、


「……受け、取って…くだ、さい」


そう言った青年の顔は、まるで差し出した赤バラの蕾のように真っ赤で。




「あなたの事が、好きです」

「嘘とか、からかってるとかじゃなくて」

「ずっと前から────好きでした」




赤い瞳が、真っ直ぐに、嘘のない目で見詰めながら言ったからだろうか。
其処に映り込んだ自分の貌が、馬鹿みたいに赤くなっているのを、スコールは見た。






フリスコの日!なのでフリオが頑張りました。
スコールはびっくりですが、フリオニールがどんな人間なのか、なんだかんだ観察してる時点で若干の脈アリ…かも知れない。

いっぱいの花束じゃなくて、一輪の花で告白とか好きです。
しかし、なんでこうフリスコって初々しいんだろうね。見てる方が恥ずかしいわ!

[狐八剣&狐ちび京一]まがみのお山に雪がふる

  • 2014/02/08 22:18
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随分寒くなったな、と思っていたら、雪が降っていた。

冬の真っ只中、まがみのお山では例年の事だ。
だから初めは特に気にしていなかった八剣だが、ふと、葉っぱの布団の中でまだ眠っている子狐の事を思い出し、ふむ、と首を捻る。


布団の中で包まっている小さな子狐が何処の山で生まれたのか、八剣は知らない。
だから雪そのものは、子狐にとっても、特に珍しいものではないのかも───だが、まだ身体の小さな子狐には、冷たい外気は大敵である。

八剣は眺めていた窓から視線を外して、布団へ戻ると、子狐の肩を出している布団をかけ直した。
子狐は眠っていても元気が良いから、どんなに丁寧に布団をかけ直した所で、結局は蹴り飛ばしてしまうのだが、やらないよりはマシだろう。
と、布団を丁寧にかけ直した傍から、ころんっ、と子狐が寝返りを打って、布団の端が捲れる。
八剣はくすくすと笑みを浮かべて、捲れた布団の端を戻した。

そんな矢先に、もう一度子狐が寝返りを打ち、



「…んぅ、う…?」



もぞもぞと手足を身動がせたかと思うと、ぱちり、と瞼が持ち上がる。
まだぼんやりとした瞳を彷徨わせ、子狐は覚醒直後の眩しさを嫌うように、こしこしと右手で目を擦る。



「……んぁ……?」
「おはよう、京ちゃん」
「……はぅ……」



朝の挨拶をする八剣に、子狐───京一は欠伸で「おはよう」を返した。
それから少しの間、京一は眠気と覚醒の間で、ふらふらと頭を揺らしていたのだが、



「……ふ……ふぇっくしゅ!」



ぶるっ、と一つ大きく体を震わせて、京一は盛大にくしゃみをした。

八剣は京一と暮らすようになって以来、巣の中は出来るだけ適温を保つように努めている。
しかし、季節による外気温の上下の影響は、巣の中にも少なからず及んでくるものだ。
巣の中はいつもよりも冷えており、八剣には耐えられるものでも、まだまだ小さな京一には堪えるのだろう。


京一は寒さを嫌うようにうーうーと唸り、布団の中に頭まで潜り込む。
ふさふさとした尻尾が、布団の中でごそごそと動いて、やがて動かなくなった。



「京ちゃん、大丈夫かい?」



すっぽりと布団の中に隠れてしまった京一の様子を伺おうと、布団の端を捲って中を覗き込む。
すると、自分の尻尾を抱え込み、達磨宜しく真ん丸に蹲った京一がいた。

京一は、布団の中に滑り込んでくる冷気を感じたか、丸めた膝に埋めていた顔を上げ、



「寒ィ。捲んな、バカ」
「ああ、ごめんごめん」



三角形の耳を寝かせて睨んだ京一に、八剣は苦笑して、布団を元に戻してやる。
こんもりと山になった布団の上から、ぽんぽんと子狐の背中を叩いてあやしてやると、もぞ、と小さな体が身動ぎした。



「あーもー、なんだよ。なんでこんな寒ィんだよ」
「雪が降ってるからねェ」
「雪ィ?……面倒臭ェなあ……」
「確かにね。食糧も限られて来るし」
「っとに、最悪だぜ……」



布団の中で愚痴を零す京一に、八剣は眉尻を下げた。



「京ちゃん、寒いのは嫌い?」
「嫌い。良い事ねェし」
「雪は?」
「……冷てェ。寒い」
「嫌い?」
「……好きじゃねェ」



京一の小さな声に、八剣は漏れそうになる笑みをなんとか殺す。


京一は、嫌いなものは嫌いだとはっきり言う性格だ。
竹を割ったように判り易い正確ではないのだが、そう言った主張だけは明確である。
では好きなものに対しては如何かと言うと、此処だけは何故か天邪鬼が顔を出してしまうらしく、素直に「好き」と言う事が出来ない。
膨れ面で「好きじゃない」と「嫌いじゃない」を行ったり来たりするのが、パターンであった。

長いとも短いとも言えない同居生活であるが、八剣はそんな京一を理解していた。
天邪鬼と言えど、まだまだ子供らしく判り易いのが可愛らしい。


ぽんぽん、と布団の上から京一の頭を撫でると、あやされているのが判ったのか、京一は布団の中でふるふると頭を振った。
子供扱いをされるのが一等嫌いな京一には、今の八剣の手はお気に召さなかったようだ。

────と、ぴくっ、ぴくっ、と布団の山が小さく跳ねたかと思うと、



「へっ……くしっ!」


小山が一つ大きく跳ねて、響くくしゃみ。
その後、小山は不自然にぴたっと動きを止めてしまった。


八剣は、思わず吹き出しそうになるのを、寸での所で堪える。
先程、あれだけ寒がって布団の中に潜り込んだのだから、今更恥ずかしがる事もないだろうに。
それとも、布団の中に潜っているのに、まだ寒いのか、と思われるのが嫌なのだろうか。

冷えた部屋の空気は、布団が遮断している筈だが、冷気に負けてしまっているのかも知れない。
布団の中に入っていても、足元がどうにも冷たく感じると言うのは儘ある話なのだから。


大丈夫、と聞くつもりで頭を撫でようとして、八剣は触れる直前で手を止めた。

京一は、甘えるのも、甘やかされるのも好きではない。
だが、八剣は彼を甘やかすのが好きだった。
だから八剣は、あの手この手で京一を甘やかそうとするのだが、それも一筋縄ではいかない。

しかし、そんな京一が唯一、意固地になって振り払わない甘やかし方がある。



「京ちゃん」
「………」
「俺も布団に入って良い?」
「………」



問い掛けに、京一からの返事はない。
嫌とも、好きにしろとも、彼は言わなかった。

きっと京一は、物足りない温もりが欲しくて、けれどそれを素直に口にする事が出来ないのだろう。


そんな天邪鬼で意地っ張りな子供を知っているから、八剣は小さく笑って、ふさふさとした尻尾を揺らし、布団の隙間に潜らせる。
毛の長い尻尾をもそっ、もそっ、と動かしながら布団の中を進ませて、子狐の小山へと近付かせていく。
毛先が何かに触れた感触があったので、八剣はそれを少しくすぐってやった。

しばらく尻尾を遊ばせていると、ぎゅっ、と小さな力が尻尾を捕まえた。
その力の正体を知っているから、八剣は、ぐいぐいと引っ張る力に逆らわず、好きにさせる。




────程無く、ぎゅう、とが尻尾全体が抱き締められたのが判った。






寒いの嫌い、甘えるのも甘やかされるのも嫌いだけど、ふかふかの尻尾は好き。

大阪インテ&東京オンリーお疲れ様でした!

  • 2014/02/07 02:31
  • Posted by

お久しぶりでございます。
日記はイベント後にしか書かない事が定着して来ました←


1月は大阪インテックス、お越し下さった方々、お疲れ様でした。大阪イベントは数年振り、FFジャンルは初だったのですが、声をかけて下さって本当にありがとうございました!
開場時間ギリギリに会場入りし、汗だくでスペース準備をしておりました……ばたばたばたばたしてしまって、本当に近隣の方々には申し訳ない。
イベント後、アフターに付き合って下さった方もありがとうございました。楽しかったです!

このイベントの時、初めてグッズと言うものを作りました。ポプルス印刷社様より、レオンとスコールのしおりを作って、当サークルで買い物して下さった方には漏れなく押し付けました← なんか分厚いものしか発行してないから……カバーがあると邪魔だなぁと思うのですが、ブックマーク出来るものはあった方が良いなーと思ったもので。
此方は通販での受け付けはしていないのですが、在庫がなくなるまでは通販注文して下さった方には、本と一緒に送付して押し付け……贈呈します。良ければ使ってやって下さいw


2月2日の東京FFオンリーも、お越し下さった方々、お疲れ様でした&ありがとうございました!差し入れ一杯頂いてヒャッホーしてました。リアルに帰りのバスの中の命綱でしたw美味しく頂いております。

去年の6月に発行した[絆~3rd junction]が完全に時間に続いた形で終わったので、早い内に出したいと思っていた[絆~4th junction]を無事に発行する事が出来ました。流石に四巻を数えた上に、各巻それぞれ厚みがあるので、本文の前に前巻までの粗筋とかを作ってみました。[絆]の各巻をかなり大雑把にまとめたものですが、大筋は大体書いたかな…と。多分。
今回、スペースに分厚いものばかりをスペースに並べていたのですが、絆四巻分+αなど一杯買って下さった方が沢山いて、びっくりしました。同時に凄く申し訳ない(重いから!)。お持ち帰りして下さった方々の肩が壊れていない事を祈っております……前科があるのでホントに心配。皆様、どうか無理はしないで下さいね(;^ω^)
今後はイベント現地での通販手続きを随時行う予定です。イベント会場での手続きでは、送料は頂きません。本の代金のみお支払して頂きまして、送料は当方で負担します。発送はイベント終了後になるので、利用者様には早くても3日~4日後のお届けになると思いますが、重量が心配な方はどうぞご利用ください。重いので。いやホント。

今回、スペースの場所が島の端っこだったのですが、私の本配置が悪くて、通り掛かる方々にしょっちゅう引っ掛かってしまい、申し訳ありませんでした。もっとちゃんと商品配置の場所・方法を勉強します。見易く、且つ人の邪魔にならないように、周りの方々に迷惑をかけないように頑張ります。


オフ本作業に入ると、完全にWEBを放ったらかしにしてしまうのをどうにかしたいなぁ……って前にも書いたような気がする。今の内から書いていれば、もっと余裕を持って入稿できるのかなぁ。同時進行作業が出来るようになりたいです。

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