[ソラレオ]どうやら婚約したようです
子供の日なので、昨日に引き続き、保育士なレオンです。
今日のヒカリ保育園は、子供達を連れて、近所の河川敷へと出掛けた。
職員は事務員と他数名を残して待機、その他は皆子供達の監督の為に一緒に河川敷へ。
今日はレオンも監督役で、園舎を出発する前から、道中に誰が手を繋ぐかで取り合いが始まった。
レオンは子供達のおやつの入ったバスケットを持っているので、手を繋ぐ権利を得られるのは一人だけだ。
希望者が集まって、公平にジャンケンをした結果、権利を勝ち取ったのはカイリであった。
これには、レオンが一番好きだと言って譲らないソラも、我儘を引っ込めるしかない。
保育園から河川敷までは、大人の足で歩いて三分、就学前の子供なら五、六分と言った所だろうか。
集団でゆっくりと歩くので、もう少し時間はかかるが、道中は至って穏やかなものであった。
平日の昼間とあって、人通りも車の通行量も多くはなく、子供達もきちんと列を作って、引率の職員の後をついて行く。
時々やんちゃな子供が列を食み出すが、各位置で見守る職員達が卒なく捉まえ、列へと戻した。
到着した河川敷は、そよそよと穏やかな風が吹き、草いきれの匂いがする。
天気が良いので、川面で太陽の光が反射してきらきらと輝いていた。
「はーい、着いたわよー」
「わーい!」
「あっ、コラ!一人で行っちゃダメだろー!」
エアリスの言葉に、待ち切れなかったのだろう、やんちゃな子供達が一目散に川に向かって駆け出す。
慌てて追うのはユフィで、そのまま川まで突進しそうな子供達を捕まえた。
「川には近付いちゃ駄目って言ったでしょ」
「えー」
「きもちよさそうなのにー」
「ダーメ!はい、戻って戻って」
ユフィに叱られ、子供達はつまらなそうに唇を尖らせる。
川で遊びたい子供達の気持ちは判らないでもないが、この川は子供が遊べるような深さではない。
ユフィは川に近付きたがる子供達の手を握り、集合している他の子供達の下へと連れ戻した。
全員が揃った所で、職員達でさり気無く誘導し、子供達を扇状に座らせると、子供たちの前にエアリスが立って言った。
「それじゃあ、今から自由時間です。でも、危ないから、川には行っちゃ駄目だよ」
「はぁーい」
「おやつの時間になったら、笛を吹きます。集まれない子のおやつは、なくなっちゃうかもね」
「えーっ!」
「やだぁー!」
「ふふ。だから、きちんと笛が聞こえるように、あんまり遠くには行かない事。えーっと……あの石と、あのベンチから向こうは駄目です。気を付けてね」
「はーい」
「おトイレに行きたくなったら、我慢しないで、早目に近くにいる先生に言いましょう」
「はーい」
「それじゃあ、今から自由時間です。皆、元気に遊びましょう!」
はーい、と子供達の声が重なり、元気な子供達は早速あちこちへ散って行く。
この河川敷には、子供向けの遊具が幾つか設置されている。
定番のシーソーやスプリング遊具の他、箱型ブランコや、回転式ジャングルジムもあった。
レオンはスプリング遊具で遊びたがる子供達の監督を務める事にし、ケンカや横入りが起きないように、順番待ちになるように誘導する。
中々にバランス感覚と筋力が鍛えられる遊具に、子供達が振り落とされないように、レオンは一人一人にきちんと持ち手を握るように促した。
子供達は言われた通り、小さな手でしっかりと持ち手を握り、びよんびよんと前後に跳ねるスプリング遊具の上で、きゃっきゃと笑っている。
子供達が一通りスプリング遊具で遊び、待機列もなくなった頃、一人の子供がレオンの下にやって来た。
「レオンせんせー!」
「ああ。ソラもこれで遊ぶか?」
駆け寄って来た子供は、レオンに特に懐いている、ソラと言う子供だ。
ソラは走る勢いそのままにレオンに抱き付いて、腰にぐりぐりと額を押し付ける。
抱き付いて来た時には、必ず行う甘え方だった。
ソラは一頻りレオンに甘え倒した後、埋めていた顔を上げた。
へへ、と嬉しそうに笑うソラに、レオンはくすぐったさを感じつつ、癖っ毛の髪を撫でる。
「レオンせんせー」
「ん?」
「……へへへ」
呼ぶ声に、頭を撫でながら答えてやると、ソラは顔を赤らめた。
見上げる顔はにこにこと上機嫌だが、何やら興奮気味にも見える。
何か面白いものでも見付けて、それを報告しに来たのかも知れない、とレオンが思っていると、
「あのね、せんせー。ちょっとしゃがんで」
「こうか?」
ソラのおねだりに応え、レオンは膝を折って、ソラと目線の高さを揃えた。
近くなったレオンの顔に、ソラはそう、と頷いて、ずっと手に握っていたものを差し出す。
「はい、これ。レオンせんせーにあげる!」
そう言ってソラが差し出したのは、シロツメクサの花で作った小さなリングだった。
小さな子供でも腕に通すには小さすぎるそれは、きっと指に嵌めるものだろう。
シロツメクサの白が、指輪の宝石のように眩しい。
「先生が貰って良いのか?」
「せんせーのために作ったんだもん」
「そうなのか。ありがとう、ソラ」
嬉しい事を言ってくれるソラに、レオンは笑って礼を言った。
早速花のリングを受け取ろうと右手を差し出すと、
「あ、まって」
「ん?」
「こっちの手。こうやって」
ソラはレオンの左手を指差して、甲を上にするように言った。
「こうか?」と左手を伏せて見せると、小さな手が、レオンの手を柔らかく掴んだ。
する、と薬指にくすぐったい感覚。
見れば、シロツメクサの宝石が、レオンの指の上で揺れていた。
「これは……」
「けっこんゆびわ!」
思いも寄らぬ言葉に、レオンは目を丸くした。
ソラはそんなレオンを見上げ、健康的に日焼けした頬をリンゴのように染めて笑う。
「すきなヒト同士はけっこんの約束をする時、ゆびわをあげるんでしょ」
ぽかんとした表情になっているレオンの前で、あれ?こんやくゆびわだっけ?とソラは一人で首を傾げる。
あれ?あれ?と首を右へ左へ倒した後で、どっちでもいいか!と笑った。
シロツメクサの指輪を嵌めたレオンの手を、ぎゅっと小さな両手が握る。
「はずしちゃダメだよ。おれとレオンせんせーのけっこんの約束なんだから」
「ソラ……」
ソラの表情は何処までも真剣で、本気でレオンと結婚しようと思っているらしい。
レオンの手を握る彼の手は、心なしか緊張したように固い。
じっと見詰める円らな瞳の傍ら、唇がきゅっと引き結ばれていた。
可愛いものだ、とレオンは思う。
飾る事を知らない子供の言葉は、いつも真っ直ぐにレオンの心を射抜く。
くすぐったさすら感じてしまう程の一途さで、レオンを捕まえようと一所懸命だ。
レオンは左手を握るソラの両手に、そっと右手を乗せた。
途端、真剣な顔をしていたソラの貌が、沸騰したヤカンのように真っ赤になる。
どうやら、相当な努力をして、真面目な顔付をしていたらしい。
ぽこぽこと湯気が出そうな程に赤い顔をして、今更のように挙動不審になるソラに、喉の奥で笑いを堪えながら、レオンは小さな両手を優しく握った。
「ありがとう、ソラ。大事にするよ」
「う、うんっ!」
「ほら、リクとカイリが呼んでるぞ。遊んでおいで」
「うん!」
受け取って貰えた事で、嬉しさを振り切ってしまったのだろう。
ソラは紅潮していた頬を益々赤らめ、瞳はきらきらと輝いて、レオンの言葉に頷いた。
行っておいで、とレオンが背中を押してやると、ソラは元気よく駆け出して行った。
幼馴染の輪に戻って来たソラに、リクとカイリが何かを言うと、ソラは胸を張って見せる。
良かったじゃないか、とリクが言い、カイリが祝福するように手を叩いていた。
レオンは左手の薬指に通された、小さな花のリングを見た。
川の向こうから吹いた風に、シロツメクサの花弁が揺れて、指が少しくすぐったい。
ソラはこの指輪を外さないでと言ったけれど、園舎に戻ったら、仕事の為にも外さなくてはならない。
そうでなくとも、一日二日もすれば、この可愛らしい花の指輪は、すっかり草臥れて、直に枯れてしまう。
(……勿体ないな)
ソラは決して手先が器用ではない。
折り紙は苦手だし、解けた靴紐もまだまだ結べないし、どんなに頑張っても縺れさせてしまうのがパターンだった。
そんな彼にしては、このシンプルな指輪は綺麗に結び作られていて、花も潰れていない。
きっと何度も練習したのだろう、大好きなレオン先生に結婚の約束をする為に。
小さな子供の抱く夢が、いつまでも変わらず続いて行くとは思っていない。
けれど、あの子が同じ夢を見ている間は、この花も変わらずに残っていれば良いのに、と思った。
子供の日なので、引き続き保育士レオン!
押せ押せソラにびっくりしつつ、悪い気はしない。可愛いなあと思ってる。
ソラは真剣だけど、やっぱりこの年齢差は大きいね。頑張れソラ!
今日のヒカリ保育園は、子供達を連れて、近所の河川敷へと出掛けた。
職員は事務員と他数名を残して待機、その他は皆子供達の監督の為に一緒に河川敷へ。
今日はレオンも監督役で、園舎を出発する前から、道中に誰が手を繋ぐかで取り合いが始まった。
レオンは子供達のおやつの入ったバスケットを持っているので、手を繋ぐ権利を得られるのは一人だけだ。
希望者が集まって、公平にジャンケンをした結果、権利を勝ち取ったのはカイリであった。
これには、レオンが一番好きだと言って譲らないソラも、我儘を引っ込めるしかない。
保育園から河川敷までは、大人の足で歩いて三分、就学前の子供なら五、六分と言った所だろうか。
集団でゆっくりと歩くので、もう少し時間はかかるが、道中は至って穏やかなものであった。
平日の昼間とあって、人通りも車の通行量も多くはなく、子供達もきちんと列を作って、引率の職員の後をついて行く。
時々やんちゃな子供が列を食み出すが、各位置で見守る職員達が卒なく捉まえ、列へと戻した。
到着した河川敷は、そよそよと穏やかな風が吹き、草いきれの匂いがする。
天気が良いので、川面で太陽の光が反射してきらきらと輝いていた。
「はーい、着いたわよー」
「わーい!」
「あっ、コラ!一人で行っちゃダメだろー!」
エアリスの言葉に、待ち切れなかったのだろう、やんちゃな子供達が一目散に川に向かって駆け出す。
慌てて追うのはユフィで、そのまま川まで突進しそうな子供達を捕まえた。
「川には近付いちゃ駄目って言ったでしょ」
「えー」
「きもちよさそうなのにー」
「ダーメ!はい、戻って戻って」
ユフィに叱られ、子供達はつまらなそうに唇を尖らせる。
川で遊びたい子供達の気持ちは判らないでもないが、この川は子供が遊べるような深さではない。
ユフィは川に近付きたがる子供達の手を握り、集合している他の子供達の下へと連れ戻した。
全員が揃った所で、職員達でさり気無く誘導し、子供達を扇状に座らせると、子供たちの前にエアリスが立って言った。
「それじゃあ、今から自由時間です。でも、危ないから、川には行っちゃ駄目だよ」
「はぁーい」
「おやつの時間になったら、笛を吹きます。集まれない子のおやつは、なくなっちゃうかもね」
「えーっ!」
「やだぁー!」
「ふふ。だから、きちんと笛が聞こえるように、あんまり遠くには行かない事。えーっと……あの石と、あのベンチから向こうは駄目です。気を付けてね」
「はーい」
「おトイレに行きたくなったら、我慢しないで、早目に近くにいる先生に言いましょう」
「はーい」
「それじゃあ、今から自由時間です。皆、元気に遊びましょう!」
はーい、と子供達の声が重なり、元気な子供達は早速あちこちへ散って行く。
この河川敷には、子供向けの遊具が幾つか設置されている。
定番のシーソーやスプリング遊具の他、箱型ブランコや、回転式ジャングルジムもあった。
レオンはスプリング遊具で遊びたがる子供達の監督を務める事にし、ケンカや横入りが起きないように、順番待ちになるように誘導する。
中々にバランス感覚と筋力が鍛えられる遊具に、子供達が振り落とされないように、レオンは一人一人にきちんと持ち手を握るように促した。
子供達は言われた通り、小さな手でしっかりと持ち手を握り、びよんびよんと前後に跳ねるスプリング遊具の上で、きゃっきゃと笑っている。
子供達が一通りスプリング遊具で遊び、待機列もなくなった頃、一人の子供がレオンの下にやって来た。
「レオンせんせー!」
「ああ。ソラもこれで遊ぶか?」
駆け寄って来た子供は、レオンに特に懐いている、ソラと言う子供だ。
ソラは走る勢いそのままにレオンに抱き付いて、腰にぐりぐりと額を押し付ける。
抱き付いて来た時には、必ず行う甘え方だった。
ソラは一頻りレオンに甘え倒した後、埋めていた顔を上げた。
へへ、と嬉しそうに笑うソラに、レオンはくすぐったさを感じつつ、癖っ毛の髪を撫でる。
「レオンせんせー」
「ん?」
「……へへへ」
呼ぶ声に、頭を撫でながら答えてやると、ソラは顔を赤らめた。
見上げる顔はにこにこと上機嫌だが、何やら興奮気味にも見える。
何か面白いものでも見付けて、それを報告しに来たのかも知れない、とレオンが思っていると、
「あのね、せんせー。ちょっとしゃがんで」
「こうか?」
ソラのおねだりに応え、レオンは膝を折って、ソラと目線の高さを揃えた。
近くなったレオンの顔に、ソラはそう、と頷いて、ずっと手に握っていたものを差し出す。
「はい、これ。レオンせんせーにあげる!」
そう言ってソラが差し出したのは、シロツメクサの花で作った小さなリングだった。
小さな子供でも腕に通すには小さすぎるそれは、きっと指に嵌めるものだろう。
シロツメクサの白が、指輪の宝石のように眩しい。
「先生が貰って良いのか?」
「せんせーのために作ったんだもん」
「そうなのか。ありがとう、ソラ」
嬉しい事を言ってくれるソラに、レオンは笑って礼を言った。
早速花のリングを受け取ろうと右手を差し出すと、
「あ、まって」
「ん?」
「こっちの手。こうやって」
ソラはレオンの左手を指差して、甲を上にするように言った。
「こうか?」と左手を伏せて見せると、小さな手が、レオンの手を柔らかく掴んだ。
する、と薬指にくすぐったい感覚。
見れば、シロツメクサの宝石が、レオンの指の上で揺れていた。
「これは……」
「けっこんゆびわ!」
思いも寄らぬ言葉に、レオンは目を丸くした。
ソラはそんなレオンを見上げ、健康的に日焼けした頬をリンゴのように染めて笑う。
「すきなヒト同士はけっこんの約束をする時、ゆびわをあげるんでしょ」
ぽかんとした表情になっているレオンの前で、あれ?こんやくゆびわだっけ?とソラは一人で首を傾げる。
あれ?あれ?と首を右へ左へ倒した後で、どっちでもいいか!と笑った。
シロツメクサの指輪を嵌めたレオンの手を、ぎゅっと小さな両手が握る。
「はずしちゃダメだよ。おれとレオンせんせーのけっこんの約束なんだから」
「ソラ……」
ソラの表情は何処までも真剣で、本気でレオンと結婚しようと思っているらしい。
レオンの手を握る彼の手は、心なしか緊張したように固い。
じっと見詰める円らな瞳の傍ら、唇がきゅっと引き結ばれていた。
可愛いものだ、とレオンは思う。
飾る事を知らない子供の言葉は、いつも真っ直ぐにレオンの心を射抜く。
くすぐったさすら感じてしまう程の一途さで、レオンを捕まえようと一所懸命だ。
レオンは左手を握るソラの両手に、そっと右手を乗せた。
途端、真剣な顔をしていたソラの貌が、沸騰したヤカンのように真っ赤になる。
どうやら、相当な努力をして、真面目な顔付をしていたらしい。
ぽこぽこと湯気が出そうな程に赤い顔をして、今更のように挙動不審になるソラに、喉の奥で笑いを堪えながら、レオンは小さな両手を優しく握った。
「ありがとう、ソラ。大事にするよ」
「う、うんっ!」
「ほら、リクとカイリが呼んでるぞ。遊んでおいで」
「うん!」
受け取って貰えた事で、嬉しさを振り切ってしまったのだろう。
ソラは紅潮していた頬を益々赤らめ、瞳はきらきらと輝いて、レオンの言葉に頷いた。
行っておいで、とレオンが背中を押してやると、ソラは元気よく駆け出して行った。
幼馴染の輪に戻って来たソラに、リクとカイリが何かを言うと、ソラは胸を張って見せる。
良かったじゃないか、とリクが言い、カイリが祝福するように手を叩いていた。
レオンは左手の薬指に通された、小さな花のリングを見た。
川の向こうから吹いた風に、シロツメクサの花弁が揺れて、指が少しくすぐったい。
ソラはこの指輪を外さないでと言ったけれど、園舎に戻ったら、仕事の為にも外さなくてはならない。
そうでなくとも、一日二日もすれば、この可愛らしい花の指輪は、すっかり草臥れて、直に枯れてしまう。
(……勿体ないな)
ソラは決して手先が器用ではない。
折り紙は苦手だし、解けた靴紐もまだまだ結べないし、どんなに頑張っても縺れさせてしまうのがパターンだった。
そんな彼にしては、このシンプルな指輪は綺麗に結び作られていて、花も潰れていない。
きっと何度も練習したのだろう、大好きなレオン先生に結婚の約束をする為に。
小さな子供の抱く夢が、いつまでも変わらず続いて行くとは思っていない。
けれど、あの子が同じ夢を見ている間は、この花も変わらずに残っていれば良いのに、と思った。
子供の日なので、引き続き保育士レオン!
押せ押せソラにびっくりしつつ、悪い気はしない。可愛いなあと思ってる。
ソラは真剣だけど、やっぱりこの年齢差は大きいね。頑張れソラ!