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2017年07月08日

[クラレオ]雨の翳にて

  • 2017/07/08 22:10
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玄関のドアをノックする音が聞こえて、レオンは横たえていた体を起こした。
そろそろ眠ろうかと言う、間の悪いノック音に眉間の皺が寄ったが、この家を訪れる者は限られている。
シドかユフィか、いずれにしても緊急事態の可能性は否めず、確認しない訳にもいかないだろう。

そんな気持ちで玄関のドアを開けたレオンは、其処に立っていた人物を見て、眉間の皺を増やした。
金色の髪がすっかり濡れて萎れているのを見て、序に溜息も吐いてやる。


「……泊めてくれ」
「……タオルを持って来るから、少し待て」


申し出の是非には答えず、レオンはそう言って踵を返した。
濡れ鼠で現れたクラウドは、それだけでほっとしたように息を吐く。

今日のレディアントガーデンは、朝から大雨に見舞われていた。
復興作業なんてとても出来たものではなく、それよりも治水が駄目にならないかと冷や冷やした一日となり、レオンはシドと共に、街の水路や橋、川周辺の防波堤の見回りが中心となった。
城周辺の谷底では濁流が起きていたが、幸い、街の方までその影響が及ぶ事はなく、どこそこの川が氾濫したと言う報告もない。
雨雲も夜には通り過ぎると言うので、一先ず安心して家に帰ったのが、今から二時間ほど前の事。
簡素に作った夕飯を終え、雨の中で冷えた体を風呂で温め、疲労を残さない為にも早い就寝に入ろうとした所で、クラウドがやって来た───と言うのが、レオンの今日一日の流れであった。

洗面所からバスタオルを取り出して、レオンは玄関へ向かう。
先と変わらないスタイルで立ち尽くしていたクラウドにタオルを差し出せば、「悪いな」と言って、クラウドはタオルを受け取った。


「他のワールドから戻ったらいきなり降られた。散々だ」
「仕方ないだろう、今日はずっと降っているんだ」
「この辺り一帯か?」
「恐らくな。朝までには止むそうだが、さて……」


クラウドの向こうに見える景色は、まだ雨は止みそうにない。
降らなければ水不足になるが、こうまでしつこく降られると、中々に面倒である。

幸いなのは、これ程の激しい雨になると、ハートレスの活動が著しく鈍くなると言う事だろうか。
あれらが濡れる事を忌避するとは思えないが、しかし外を出歩く人もいない───つまりはあれらが標的とする“心”もないので、街がやや平和である事は強ち間違いではなかった。
その分、雨上がりには治水の問題と並んで、ハートレスの被害が増える事もあるので、明日のパトロールは強化する必要があるだろう。

クラウドがタオルで大方の水気を拭いたのを見て、レオンは家の中へと戻った。
直ぐに後を追ってクラウドが入る。


「風呂の栓はもう抜いたから、シャワーしかないぞ」
「十分だ。借りるぞ」
「服は洗濯機に入れておけ。まとめて洗って、明日乾かす」
「ああ。……着替え、貸して貰って良いか」
「……持ってきておく」


勝手知ったるとクラウドはさっさと風呂場へと向かい、レオンは下着とシャツ、ズボンがあれば十分だろうと、それだけを脱衣所へ持って行き、また寝室へと戻った。

風呂場からシャワーの音が聞こえていたのは、五分にもならなかった。
風邪を引いたらどうする、とは言わない。
小さな子供ではないのだし、十分だと思ったからクラウドもそれで終わりにしたのだろう。
万が一、明日になって彼が風邪を引いても、面倒は見ない、とレオンは決めている。

散った眠気が再来するのを待つ為、本を読んでいたレオンだったが、その視界に陰が落ちた。
影の持ち主を見るまでもなく察して、見辛い、とレオンは影から逃げるように背を向ける。
と、その背中に、のしっ、と重みが乗った。


「おい、邪魔だ」
「連れないな」
「お前と違って暇じゃないからな」
「本を読んでいるだけだろう。あんたのそれは、暇潰しじゃないか」


構えとばかりにまとわりついてくる男に、レオンは溜息を吐いて見せる。
言外に、面倒な、と告げている態度であったが、クラウドは構わずに、レオンの項に鼻先を寄せる。
匂いを嗅ぐクラウドの鼻息が微妙にくすぐったかったが、レオンは好きにさせていた。


「……そう言えば、珍しく窓から入って来なかったな」
「ずぶ濡れになったからな。蹴り出されると思って」
「まあ、間違いなくそうするだろうな。と言うか、そもそも窓から入って来るな」
「楽なんだ」


良いだろう、と言うクラウドに、良くない、とレオンは肩口から覗く男の顔を睨む。
しかし、クラウドは意に介した様子もなく、レオンの眦に唇を寄せる。

覆い被さっているクラウドの手が、レオンの体を撫でるように滑っている。
匂わせる行為の気配に、レオンは腕でクラウドの体を押し退けた。


「おい、レオン」
「明日も忙しいんだ。疲れる事はしない」
「一回だけ」
「お前のその手の台詞は信用できない」


雨の中を巡回パトロールした今日一日だけでも、レオンは相当疲れていた。
先の眠気で微睡んでいた時も、目を閉じれば五分となく眠ってしまえそうな程だったのだ。
男の生理的な欲求については、レオンも溜まっていない訳ではなかったが、抜かなければ眠れない程の興奮がある訳でもなかったし、明日の為にも余計な消耗は避けたい。
そんな事をしている暇があるなら、さっさと眠り、十分な睡眠時間が欲しかった。

それでもしつこく絡み付いて来るクラウドを、レオンは遂にベッドから蹴り出した。
転がり落ちた男が恨めし気な目を向けてきたが、構わずに布団を手繰り寄せて包まる。


「あまりしつこいと、本当に追い出すぞ」
「……それは勘弁だ」


窓の外は、激しさの増した雨が降っている。
気温の低下は今の所は感じられないが、土砂降りの外界に放り出されるのは、気分の良いものではあるまい。
どうせ過ごすのならば、雨は屋根に、風は壁に遮られている室内が良いに決まっている。

クラウドは渋々と言った様子で、自分の寝床になるソファへと移動した。
布団の代わりにクッションを腹の上に乗せて、体が冷えないように試みる。

ふあ、とレオンの口から欠伸が漏れた。
そろそろ眠れそうか、とレオンは開いていた本を閉じ、寝室の電気を消そうと思ったが、その前にふと思い出し、


「クラウド。お前、明日は此処にいるのか」
「一応、そのつもりだ」
「それなら、明日はハートレス退治を手伝え。雨でセキュリティシステムが何処か不具合を起こしているかも知れないから、人手がいる」


セキュリティシステムの多くは、建物の外に設置されている為、防水対策は施してある。
とは言え、ハートレスの悪戯でセキュリティシステムが破損する事は珍しくなく、破損個所から塵や雨水が入って内部破損まで至る事も多かった。
特にハートレスの数が増え易い場所のシステムは頻繁に不具合が起こり、修復が済むまでは、人の手でハートレスを処理しなければならない。
だが、同じ場所だけの感けていられる事も出来ない為、必然的に人手が欲しくなる。
このタイミングでクラウドが帰って来たのは、レオンにとって幸いであった。

クラウドはソファに寝転がったまま、別に構わないが、と前置きし、


「労働に対する報酬はあるのか?」
「………」


いつもなら口にしない、対価を求める言葉に、レオンは目を細めた。

レイディアントガーデンは、レオンやシドにとっては勿論、クラウドにとっても故郷である。
故郷なのだから復興の為に無償で奉仕しろ、とはレオンも言わない。
復興委員会の主要メンバーは、設立に至るまでの経緯も含め、自主的に街の復興を望んで行動しているが、それでも全てがボランティア精神で片付くものではない事は判っている。
人と言うものは、ある程度の見返りや利益がないと、労働に対する意欲も失われて行くものであった。

今のクラウドが、対価として求めているもの。
考えるまでもなく、先の遣り取りを覚えてみれば、容易に思い至るものがある。
その裏付けのように、碧眼には雄の気配が滲んでいた。

────はあ、とレオンは露骨に大きな溜息を吐く。


「明日の夜なら良い」
「判った」
「晩飯の後にしろよ」
「あんたが作るのか」
「他に誰がいる?それとも、シドに作って貰うか?」


嘗て故郷を失ってから、レオンやエアリスが成人するまで男手一つで子供達を育てただけあって、シドはそこそこ料理が出来る。
彼の作った豪快な鍋の味は、クラウドも覚えていた。
意外と美味いんだよな、と記憶を辿りつつ、


「いや、あんたの作った飯が良い」


その方が邪魔も入らない、と言うクラウド。
隠さない欲求を読み取って、レオンはもう一度溜息を吐いて、部屋の電気を消した。

閉め切ったカーテンの向こうでは、まだ雨の音が続いている。
このまま雨が止まず、明日も一日振り続けた場合、この約束は持ち越しとなるのだろうか。
そんな事を考えながら、レオンは手招きする睡魔に身を任せて、目を閉じた。





7月8日と言う事で、クラウド×レオン。
クラウドに対して遠慮をしないけど、妙な所で甘いレオンとか。好きです。

[クラスコ]雨音の夢

  • 2017/07/08 22:01
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毎週の土日は、恋人であるスコールの家に行くのが、クラウドの習慣だった。
スコールは高校生であり、クラウドはアルバイトをしながらの大学生生活で、平日は中々会う暇がない。
メールや電話の遣り取りは───基本的に寡黙な性質である二人の事を鑑みれば───頻繁に行ってはいるものの、やはり好いた相手の顔を見て話したいと思う事は多々ある。
だからこそクラウドは、本来なら給金も大きくなる土日にアルバイトを入れず、意識して逢瀬の時間を作るように努めていた。

金曜日の夜、クラウドは必ずスコールにメールを送る。
『明日行っても良いか』と問うメールに対し、スコールは『良い』とシンプルな返答。
文面だけを見れば酷く素っ気無いと言う者もいるが、彼がその二文字を打つ時、真っ赤になっているのは想像に難くなかった。

そして土曜日の朝、天気は生憎の雨であったが、クラウドは気にせずにアパートを出た。
幸い、雨脚はそれ程強くはなく、あまり速度を出さずに走れば、雨合羽で凌げる程度だ。
とは言え、今の時期の天候は崩れ易いものだから、雨粒が大きくならない内にと、いつもは通らない裏道を通って近道し、スコールの住むマンション前へと到着する。
バイクを止め、メールで『着いたぞ』と送ってみるも、返信はなし。
クラウドは特に気にせず、マンションの中へと入り、エレベーターへと乗り込んだ。

7階で止まったエレベーターを降り、少し通路を進んだ先に、目当ての扉がある。
インターフォンを鳴らすと、少しの間を置いた後、携帯電話のメールが着信音を鳴らした。


『開いてる』


それだけの内容を見て、クラウドは無防備な、と呆れた。
同時に、背中で降り頻る雨が少し激しさを増したのを見て、無理もないか、と思い直す。

ドアノブを捻ると、抵抗なく扉は開いた。
お邪魔しますと形式の挨拶を述べて、後ろ手で閉めたドアの鍵をかける。
家主の出迎えはなく、少しそれが寂しかったが、止むを得ない事も判っていた。
靴を脱いでリビングを通り過ぎ、奥にある扉をノックをしてから開ける。


「邪魔するぞ、スコール。大丈夫か?」


扉を開けながら声をかけるも、やはり返事はない。
物が少ない寝室の中、一角を占拠するベッドを見れば、其処に寝転んでいる恋人の姿があった。

肩にかけていた鞄を下ろして、クラウドはベッドへ近付く。
気配と音、声を聞いて、スコールは閉じていた目をゆっくりと開けた。
ぼんやりとした蒼灰色の瞳がクラウドを見付け、少し安堵したように眦が柔らかく綻ぶ。


「……クラウド……」
「頭痛か?」
「………ん」


ベッドの傍に膝をつき、顔を近付けて確かめるクラウドに、スコールは小さく頷いた。

スコールは昔から気圧の変化に弱い。
気圧が低い時は、頭痛や腹痛、目眩に見舞われる事が多く、酷い時には吐き気もあって、動く事も億劫になるのだと言う。
これが平日であれば、学校を休む訳には行かないと、薬の助けを借りながら登校するのだが、今日は土曜日だ。
クラウドが来ると判っているのだから、薬を飲んで誤魔化す手もあったが、恐らく、対策を取る前に頭痛に見舞われたのだろう。
そして完全に動けなくなる前に、玄関の施錠だけを外して、ベッドに沈んだに違いない。

眉間に皺を寄せ、うんざりとした様子のスコール。
クラウドはそんなスコールの頬にかかった髪を避け、常より僅かに青白く見える頬を撫でた。


「薬、持って来ようか」
「……う……でも、飯、食ってない……」
「ああ、何か食べてからの方が良いんだったか。何かあるか?ないなら買ってくるぞ」
「………」


クラウドの質問に、スコールは冷蔵庫の中身を思い出そうとするが、思うように思考が回らない。
うう、と唸る声を零すスコールに、クラウドは濃茶色の髪をぽんぽんと撫でて、腰を上げた。

恋人関係となってから、スコールの家には何度も来ている。
勝手知ったる恋人の家と、クラウドはキッチンに向かい、冷蔵庫の蓋を開けた。
食に関心の薄いスコールの家の冷蔵庫は、その大きさに反してあまり物が入っていないのだが、幸い、今日はゼリーがあった。
普段は滅多にそんなものを食べないのに、冷蔵庫の一角を占拠するように敷き詰められていたので、恐らく昨日の天気予報を見て、動けなくなった時の為にと学校帰りに買い貯めしていたのだろう。

シンクの水切りラックにデザートスプーンがあったので、それとゼリーを並べて置いておく。
薬は何処だったか、と食器棚を探ると、薬置き場があった。
風邪薬やら胃腸薬やらと、色々と詰め込まれているのを見て、どれだ、とクラウドは眉根を寄せる。
生憎、薬に世話になる事は少ないので、処方箋も市販薬も詳しくないので、何がどの症状を緩和させるものなのか、全く判らない。
仕方なくクラウドは、薬入れになっている箱ごと持って行く事にした。

寝室に戻ると、スコールが起き上がっていた。


「起きて大丈夫か?」
「…あんまり……でも、食わないと……」
「ゼリーを持ってきた。薬は、どれか判らないから全部持ってきてしまったが…」
「ん……助かる……」
「ああ、水がいるな」


ゼリーとスプーンをスコールに渡し、薬はベッドの端に置いて、クラウドはもう一度キッチンへ向かう。
グラスに水を入れてまた戻ると、スコールはゼリーの蓋を開けてちびちびと食べていた。
食事をする以前に、きっと起き上がっているのも辛いのだろう。
体質で仕方がないとは言え、辛いよな、とゆっくりと食事を進める恋人を眺めながら思う。

なんとかゼリーを食べ切って、スコールは薬を飲んだ。
本来なら対策として、症状が出る前に飲むのが推奨されているものであるから、直ぐに効果が出るような即効性はなく、気怠そうな表情は変わらない。
ベッド端に座り、痛む頭を誤魔化すように蟀谷を摩るスコール。
クラウドはその隣に座って、スコールの体を抱き寄せた。
ぽすん、とスコールの頭がクラウドの肩に乗せられると、いつもは真っ赤になって恥ずかしがる事も忘れ、蒼は視界の端で揺れる金色を見付けると、ほっとしたように体の力を抜く。


「今日はゆっくりするか」
「……あんた、行きたい所があるって言ってた……」
「あるにはあるが、どうせ雨だ。逃げるものじゃないし、今度にしよう」


体調不良の恋人を連れ回す等、クラウドには出来ない。
それよりも今日は、スコールをゆっくり休ませる事が先決だ。

クラウドの言葉に、スコールは少し申し訳ない顔をした。
折角の逢瀬の日なのに、と思っているのだろうが、クラウドはこんな日も悪くはないと思っている。
スコールには辛いだろうが、こんな時のスコールは、いつもの恥ずかしがり屋が形を潜め、生来の甘えん坊が顔を出すので、とても素直で愛らしい。
こう言う時でもなければ、甘やかさせて貰えないので、クラウドは偶の雨の日は嫌いではなかった。


「横になった方が良いか?」
「……ん」


頷くスコールを、クラウドはゆっくりと横たえた。
スコールももぞもぞと身動ぎして、ベッドの中央に身を沈める。

クラウドはスコールの体にタオルケットをかけてやると、食事の跡を片付けようとベッドを離れる────が、くん、とシャツの端を引っ張られた。
振り返れば、ベッドに寝転んだまま、細い腕だけを伸ばしてクラウドを引き留めているスコールがいる。
服に引っ掛かった指先には大した力は入っていなかったが、それだけに、その指先に込められた言葉にない気持ちが伝わる気がした。

クラウドは服に引っ掛かれた腕を取って、ベッドへと下ろしてやる。
僅かに寂しそうな表情を浮かべるスコールの頭を撫でて、ベッドに上がり、スコールの隣へと寝転がる。


「……クラウド……」


ほっとしたように、スコールの頬が緩む。
その頬をそっと撫でながら、唇を重ねると、蒼の瞳が柔らかく細められた。

降り続く雨は、今日は止む事はないだろう。
スコールを苛むそれに、若干の恨みはありつつも、こうして彼が身を委ねてくれるから、嫌いにはなれない。
とは言え、長く降り続くのも望まないので、今夜には上がってくれる事を願いつつ、クラウドは愛しい恋人を腕の檻へと閉じ込めた。





7月8日と言う事で、クラスコの日。
体調不良のスコールを甘やかすクラウドが浮かんだので、そのまま書いてみた。

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