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2021年11月08日

[プリスコ]真っ直ぐに、眩しくて

  • 2021/11/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


あの人形どもはつくづく厄介だ────痛む傷に啼く体を、理性と意地で抑えつけるように、歯を食いしばりながらスコールは苦く舌打ちする。

混沌の軍勢が操る、イミテーションと呼ばれる虚無の人形群。
それによって、圧倒的な物量差で押されようとしている秩序の陣営にとって、それらへの対抗戦力の確保、或いはその物量増加を抑える方法と言うものは、急ぎ探らなければならない問題点だった。
しかし、新たな戦力の確保と言うのは可惜に期待できるものではなかったし、戦況の悪化に伴い、秩序の女神の加護の力も落ちてきている。
いつ得られるか判らないものを期待して待つより、まだ堅実そうな道を探るべきだとスコールは思った。
それがイミテーションが何処からどうやって生み出されているのかを調べることだったのだが、此方も容易に進むものではなかった。
何せイミテーションは、各地に点在する歪から現れるだけでなく、どうやら混沌の大陸側────即ち、混沌の軍勢の心臓部と呼べる奥地で増殖しているようで、その場所に行き付くだけでも秩序の戦士達には簡単な話ではない。
それでも一片の情報だけでも手に入れなければ、現状を引っ繰り返すことは出来ないと、スコールは度々、潜入偵察と言う格好で一人混沌の大陸に足を運んでいた。

その最中に、魔女アルティミシアは現れた。
スコールの宿敵である魔女は、自身の仇敵であるスコールを見付けると、哂いながら人形たちを差し向けた。
意思のない人形たちは、どうやら混沌の戦士達の手駒として操る事が出来るようで、彼等は命令されるがままに秩序の戦士に襲い掛かる。
そのしつこさたるや、己の命を鑑みない人形に相応しいもので、停止命令が出ない限り、何処までもいつまでも追って来るのだ。
生物には限界がある筈の体力や気力と言う概念もないらしく、完全に振り切らない限り、あれらは諦めようとしない。

アルティミシアが人形たちを差し向けた時点で、スコールは転身、逃げに徹した。
アルティミシア本人が戦闘をしかけて来るのならともかく、数としつこさで延々と付き纏う人形の相手を真正直にするのは得策ではない。
碌な情報もなく逃げ帰るのは業腹ではあるが、此方は一つしかない命である。
それを喪う訳にはいかないと、スコールは直ぐ様行動の優先順位を切り替えて、混沌の大陸から離脱すべく走り出した。

案の定、人形はしつこく追いすがり、更にアルティミシアが他の人形を集めて命令を出したか、時間を追うごとに数が増えた。
それらの全てがスコールの足に追いつける訳ではなかったが、流れ弾のように撃ち放たれる魔法のいくつかを喰らう羽目になる。
特にシャントットを模した人形が放った風魔法が痛かった。
踏み込みの軸となる右足を切り裂かれ、否応なく走る速度が落ちてしまい、其処からは追い付かれては斬り捨て、また逃げ、追いつかれては斬る。
その繰り返しを続ける内に、体力は更に削られ、足元は出血で感覚が麻痺して行く。

それでも、諦めに足を止めずに走り続けたことで、スコールはようやくテレポストーンの下へと辿り着く。
転移の力を使って、混沌の大陸から一気に離れたスコールは、疲労と痛みのピークを越えた体をその場で地に下ろした。
倒れ転がることまではしなかったものの、右足は碌に動かなかったし、走り続けた所為で喉も乾いている。
此処から更に聖域までの帰還の道程を考えると、少し休まないと、動く気になれなかった。

テレポストーンを覆うように茂る木々の下で、スコールは束の間の休息を採る。
足の傷は既に痛みを通り越し、熱を持っており、スコールの額からは脂汗が滲んでいた。
これ位なら影響はないだろうと、ケアルを少しだけ消費して治癒行為を行うが、この世界ではスコールの魔力と言うものは余り強くはなく、攻撃魔法でも回復魔法でも、余りその効果の期待は出来ない。
だが、雀の涙でも、応急処置としては使えなくもないから、スコールは魔法の残数を忘れないように確かめながら、僅かばかりに治療を施していた。

────と、そんなスコールの耳に、ガサガサと茂みを掻き分けて来る音が聞こえる。


(……誰だ?)


一瞬、血の匂いに誘われた魔物かと身構えた。
が、近付いて来る音と共に、秩序の女神の加護の気配を感じ取り、少なくとも襲われるような相手ではないと悟る。

混沌の大陸の一端と繋がるテレポストーンは、秩序側の陣営領域と言える南側の大陸の中で、端の沿岸部にぽつんと存在していた。
本陣と言える秩序の聖域からは決して近くはなく、故に秩序の戦士達も気軽に足を運ぶような距離ではない為、彼等が此処に向かうのは、ほぼ必ず混沌の大陸に赴いての斥候が目的となっている。
と言う事は、近付いているのはウォーリア・オブ・ライト、セシル、カイン辺りだろうか。
セシルやカインならともかく、ウォーリアとこの状態で鉢合わせは面倒臭い、と何かと説教をくれる眩しい男の顔を思い出し、移動できないかと体を起こそうと試みた所で、


「あ。お前かぁ」


ひょこ、と茂みの向こうから顔を出したのは、スコールの予想になかった人物───プリッシュだった。

自由奔放に日々を過ごす少女は、スコールとは大した接点もない。
彼女はこの世界を探検する事を楽しんでいるようで、よく一人で冒険だと言って大陸の何処かを散歩混じりに駆け回っている。
バッツやジタン、時にはラグナと言った賑やかしの面々は、其処に一緒になっている事も多いようだが、スコールはその手合いとは距離を置いている(筈なのに、何故か彼方はスコールに構いつけて来るが)。
プリッシュとは秩序の聖域で顔を合わせる以外に過ごすことはなく、天真爛漫、天衣無縫な彼女の言動がスコールはどうにも苦手で、少々意図的に遭遇を避けている所もあった。

苦手と感じている少女と、こんな所で顔を合わせるとは。
スコールの表情に苦いものが滲んだが、プリッシュはそれを気にせず、きょろきょろと辺りを見回し、


「お前一人?」
「……そうだ」


スコールの周りに何故か集まりたがる、ジタンとバッツ、そしてラグナをよく見ているからだろう。
それらの影がない事を端的に訪ねるプリッシュに、スコールは溜息交じりに答えた。
これが相手がウォーリアなら、スコールの単独行動に小言の一つもあったのだろうが、プリッシュは「ふぅん」と大した興味もない反応で終わった。

プリッシュはすんすんと鼻を鳴らしながら、スコールの下まで歩み寄る。
目の前でしゃがんだプリッシュは、スコールの黒を基調にした服のあちこちに、違う色の黒が滲んでいる事に気付いた。


「怪我してんのか」
「……」
「ポーションとかは?」
「…使い切った」


斥候に赴くに辺り、準備して行った傷薬の類は、全て使い切った。
それでもいつまでも追って来た虚無の人形達を心底恨む。
あそこまでしつこくなければ、此処までの傷を負う事はなかったろうに、と。
だからこそ混沌の戦士達にとって、秩序の戦士達をじわじわと疲弊させていくのに最適な駒なのだろう。

苦々しい表情を浮かべているスコールを、プリッシュはじっと眺めた後、徐にその手をスコールの足に置いた。
ぽん、と触られた場所は傷口から遠くはあったのだが、ズボンに血が滲み、傍目には何処が傷のある場所なのか碌に判らない。
ぐっしょりと血の染みた布地の感触に、プリッシュはその傷の具合を想像したか、「うへぇ」と貌を顰めた。


「お前、早く帰ってセシルとかユウナとかに治して貰った方が良いぞ」
「……判ってる」


言われなくても、とスコールは唇を噛んだ。
此方もそのつもり、そうしたい気持ちは山々だが、如何せん疲れているのだ。
せめて歩く体力気力が回復するまでは、此処で休んで行かないと、魔物に襲われた時に抵抗も出来ない。


(とは言え、止血くらいはしたい。あまり血の匂いを振り撒いていたら、魔物が来るかも)


最早痛みらしい痛みも判らなくなり、熱だけを訴えるようになった足を見て、スコールは眉根を寄せる。
魔法で切り裂かれてからも、止める訳にはいかず走り続けて酷使した所為で、すっかり傷口が広がっている。
ジャケットを使って袖で縛れば少しは……と考えていた時だった。


「よっと」


ビリビリ、と言う音がして、スコールは顔を上げる。
其処には、左腕の服の袖を豪快に破り、更にそれを細く引き裂いているプリッシュがいた。
何をしているのかとスコールが目を丸くしている間に、プリッシュは割いた布でスコールの傷のある足を包み始める。


「何を」
「何って、手当だろ。血が止まってねえじゃん。これ位しとかないと、いつまで経っても歩けないって」
「だからって、あんたの服」
「別に良いよ。うん、こんなモンで良いかな」


存外と慣れた手付きで、プリッシュはスコールの足に簡易包帯を巻いた。
元々は丁寧な飾り付けもされていた布地であったことも忘れ、それはあっという間に赤く滲んで行くが、プリッシュは気にした様子はない。

プリッシュはごそごそとポケットやら服の中やらを探る。
どうやらポーションの類を探しているようだが、いつでも手ぶらで駆けまわる癖のある少女に、そう言った荷物はなかったようだ。
うーん、とプリッシュは悩んだ末に、スコールに右手を翳した。
淡い光がその手から生み出され、小さな薄緑色の光を帯びた粒子がスコールの体を包み込む。
それは弱々しい光ではあったが、スコールの体のあちこちに散らばっている傷を僅かながら癒してくれた。


「───こんなモンかな。悪いな、あんまり得意じゃないんだ」
「……いや。助かった」


プリッシュが回復魔法を使えるとは、スコールには知らなかった事だ。
魔物や混沌の戦士、イミテーションを相手に拳で殴りに行く所しか見ていなかったので、少々驚いた位だ。

思いも寄らない事ではあったが、お陰で体の疲労感は軽減され、スコールはほっと息を吐いた。
これなら、ゆっくりではあるが、歩いて帰れる。
そう思って、心持ち出血も宥められた気のする足の傷を庇いながら、立ち上がろうとした時、横からすいっと二本の腕が伸びて来て、


「よっこらせっと!」
「!?」


勢い一つの声と共に、スコールの体がぐんっと強い力で持ち上げられた。

何事、と目を丸くするスコールの眼前には、溌剌とした少女の顔がある。
そして、スコールの背中と膝裏に、細いがしっかりとした腕が回されており、その体は腕に支えられながら浮遊感の中にあった。
詰まる所、スコールはプリッシュの腕に横抱きにして抱えられている訳で。


「───下ろせ!」
「なんで?」


反射的に声を大きくしたスコールの言葉に、プリッシュはきょとんとした顔で返した。
余りにも当然のように問い返してくるものだから、一瞬スコールは虚を突かれた気分で言葉を詰まらせるが、


「こん、な。一々しなくていい。自分で歩ける」
「それじゃ傷が開くじゃん」
「問題ない。あんたの手当てのお陰で、もう十分だから」
「そっか?でもこっちの方が早く着くと思うぞ。お前、足引き摺らないと無理だろ?」


プリッシュの言う通りであった。
スコールの足は彼女の手当てと魔法のお陰で、僅かに出血は治まってくれたが、傷口が熱を持っているのは変わらない。
普段通りに歩くなんて先ず無理だろうし、プリッシュの指摘通り、右足を引き摺りながら進んで行くしかないだろう。
此処から秩序の聖域は決して近い距離ではないし、道中に魔物は勿論イミテーションとの遭遇も有り得る。
今の状態のスコールにとって、それらとの戦闘は出来るだけ避けたいし、また傷が悪化する前に治療の手に肖りたいとも思う。

が、これはない────自分よりも遥かに小柄な少女の細腕に、軽々と抱えられていると言う、プライドも自尊心も砕かれるような状態でスコールは思う。
しかし、暴れようにも動けば傷が痛むし、さっさと歩きだした少女の軽やかな足の方が、自分の歩よりも遥かに早いのも判ってしまう。
だが、それならせめて背負ってくれないか、とスコールは思ったが、プリッシュは抱えた青年の顔を近い距離で捉えて言った。


「怪我してる奴を運ぶ時は、顔が見える方が良いんだってさ。痛いとか辛いとか、そう言うのが顔見て判るから」
「………」
「お前も痛かったら我慢するなよ。俺のケアルで良けりゃ、またかけてやるからさ」


にっかりと、裏も表もない、無邪気な笑みを浮かべるプリッシュ。
その顔にスコールは、どうにも毒気のようなものを抜かれるような気がした。

はあ、と漏れるのは諦念の溜息だ。
どうやってもプリッシュは下ろそうとはしないようだし、運ぶスタイルもこの状態から変えては貰えそうにない。
こうなったら、楽であるのも確かだし、拠点まで運んで貰おうと気持ちを切り替える。


「……聖域が見えたら、下ろしてくれ。其処からは歩く」
「別に最後まで運んでくぞ?お前、重くないし」
「…良いから下ろしてくれ」


この状態を諦めはしても、せめて人目に見られる事だけは避けたくて、スコールはそれだけは強く念を押したのだった。





11月8日と言う事で、プリッシュ×スコール。
意地っ張りスコールと、その意地を気にしないプリッシュでした。

小柄な女子に軽々と抱えられてしまうスコールは好きです。プリッシュならやってくれそうだなと。勿論彼女に揶揄う気も何もないので、スコールは何か言うのもバカバカしくなってされるがままになったら良いな。

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