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2022年05月08日

[バツスコ]熱の匂いを閉じ込めて

  • 2022/05/08 21:00
  • Posted by k_ryuto


蒸し暑さが増す夜だった。

真夏の気温に比べれば、遥かに快適な方だとは言っても、最近の日差しは中々にきつい。
外で過ごす人々からすれば、もう夏がやって来たのかと、春物ですら暑いと上着は一枚脱いでしまった方が楽になる。
家屋で過ごす者からしても、送風だけでは足りなくて、少し早いが冷房のスイッチを入れたと言う話も聞く。
都会はコンクリートジャングルのヒートアイランド現象も相俟って、ベランダのグリーンカーテンなんて気休め程度だ、と愚痴が出るとか出ないとか。

そんな中で、バッツの家には空調がない。
天涯孤独な男の、気儘な大学生の一人暮らし、家賃を出来るだけ抑えようと思えば、そんな選択肢もあるだろう。
加えて、バッツは普段、職種を問わないアルバイト生活をしており、一日の大半は大学での授業とアルバイトに費やされ、家に帰るのは寝る時位のもの。
休みの日位は家にいるだろう、と思う者もいるだろうが、バッツは生来から中々アクティブな気質をしている。
元々じっとしているのが苦手な位で、好奇心が旺盛な事も相俟って、大学でバイト先で気になる噂をキャッチすれば、その真偽を確かめるべく自転車を漕ぐ。
一日かけて隣県に行って帰ると言う事も少なくなく、要するに、休みであってもバッツが家で過ごす事は少ないと言う事だ。
そんな自分を判っているから、バッツは築半世紀以上は経っていると言う、それはもう古ぼけたアパートに住むのも抵抗がなかった。

────けれど、今ばかりは少し、それを後悔している。
咽かえるような熱気が籠る六畳一間の片隅で、これもまた安物の薄っぺらい煎餅布団に恋人を押し付けながら、熱に酔った頭で思う。
クーラーがあったら、もっとずっと快適に、恋人と体温を共有していられるだろうに、と。


「うぅ……んん……っ」
「くぅ……っ!」
「……っ!」


布団に顔を埋めている恋人───スコールが小さく呻く音を零した。
その直後に、バッツの納まっている場所がきゅうっと締め付けを増して、バッツは唇を噛んで果てを見る。
吐き出されたものを受け止めたスコールの躰が、ビクッ、ビクッ、と痙攣するように弾んだ。

それから幾何か、部屋の中には二人分の熱の籠った息遣いだけが繰り返される。
バッツの頬をゆっくりと汗の粒が伝い落ちて行き、顎から離れたそれが、スコールの項にぽとりと落ちた。
微かな冷たい感触に、ひくん、とスコールの頭が震える。
熱を奪う水滴から逃げたがるように、スコールが皺だらけのシーツに額を押し付けてむずがる声が聞こえた。


「バ…、ッツ……ん……っ」


縋るように呼ぶ声に、思わずバッツの熱がまた集まった。
が、じろりと睨む視線を感じて、バッツは眉尻を下げる。


「仕方ないだろ、スコールがエロいんだもん」
「……あんたが、底無しな、だけだろ……」


疲れ切った様子で、スコールはそう言った。
バッツにしてみれば、スコールが毎度煽ってくれなければもう少し早く終わると思うのだが、無自覚な彼にはそんな事は判るまい。

とは言え、雄の本能を度々刺激されていても、バッツも疲れていない訳ではない。
夢中になって酷使した腰は勿論、四つ這いの自重を支えた両腕と膝もそろそろ辛い。
はあ、と力を抜いたバッツは、どさ、とスコールの背中に落ちるように覆い被さった。


「おい、バッツ……!」
「ん、ごめんごめん」


重い、と抗議する恋人に、バッツは重い体を僅かに浮かす。
中が擦れる感触に、スコールはシーツを掴んでふるふると体を小さく震わせていた。
そうして耐える姿がまた愛しくて、いやらしくて、バッツに悪い誘惑がやって来るのだが、流石にこれ以上は怒られるだろう。
辛うじて働いた自制に感謝しつつ、バッツは自身をゆっくりと引き抜いて、スコールの横に転がった。

背中の重みと熱の塊が退いて、スコールもようやく安堵の息を漏らす。
その頬に、首筋に、珠のような汗が浮かんでいるのを見て、バッツは徐に手を伸ばした。
頬に張り付く髪の毛を、そっと指で払いながら、汗粒も救ってやると、くすぐったいのかスコールの長い睫毛がふるりと震える。

そのまましばらく、スコールの汗の滲む肌を撫でるように触っていたバッツだったが、


「……風呂……」
「入る?」
「……ん…」
「じゃあ、沸かしてくるからちょっと待っててな」


スコールの言葉少ない希望に、バッツは彼の頭をくしゃりと撫でてから起き上がった。

空調がない安い古びたアパートだから、風呂もその設備もかなりの年代物だ。
今時の建築物では先ずにお目にかかる事もないであろう、旧式のボイラーは、修理を繰り返して現在まで使えていると言うもの。
いつ本気で駄目になってしまうやら、とは住民の冗談交じりの割と真面目な心配ごとなのだが、これだからまた家賃が安い。
序に言えば、風呂とトイレがきちんと別スペースにされ、各部屋にきちんとは位置されているだけでも、格別ではないだろうか。
そもそも、都会のほぼ真ん中にあって、古くさえなければ一桁は家賃が違うであろう事を思うと、不便だ不便だと文句を言いつつも、それに感謝しながら日々使っているのであった。

適度に温まった湯がバスタブに溜まり始めたのを確認して、バッツは部屋に戻った。
其処には、裸のままで仰向けになり、灯りの乏しい天井を仰いでいるスコールがいる。


「スコール、風邪ひくぞー」


傍に近付きながらそう声をかけると、スコールは億劫そうに、ごろりと壁の方へと寝転がり、


「……ひく訳ないだろ。こんな暑苦しい部屋で」
「汗掻いたんだから、後で冷えるかも知れないだろ。ほら、ちゃんと布団被って」
「……いらない」


バッツが差し出したタオルケットを、スコールはちらりと見遣っただけで、すぐにそっぽを向いた。
少し機嫌が悪いなあ、とバッツは思ったが、原因はすぐに判った。
自分の体温がまだ下がっていない事も含めて、この部屋が暑いのが、環境に快適さを求めるスコールには不満なのだろう。

スコールの首筋に、また汗の粒が流れて行く。
その粒の傍らには、バッツが何度も吸って咲かせた蕾があった。
うずうずとした感覚に耐え切れず、バッツは徐に其処に顔を近付けて、肉厚の舌でぺろりと舐めてやる。


「ひっ……!何してるんだ、あんた!」
「美味そうなんだもん。もうちょっと頂戴」
「ばか、こら……っん……!」


枕で防御しようとするスコールの腕を掴んで、バッツは細身の躰をシーツに縫い付けた。
同じ場所にまた舌を這わせ、艶めかしいものが滑って行く感触に、スコールは口を噤む。
その喉奥で、官能の欠片を必死に堪えようとする音が聞こえるものだから、バッツは益々興奮してしまう。


「バッツ……!」
「なあ、もう一回」
「っしない!」
「むぐ」


スコールは枕を掴んでいた腕をもう一度振り回し、バッツの後頭部に当てた。
鼻先をスコールの肩に埋めたバッツを、スコールが体を起こして退かせる。
さっきは要らないと言ったタオルケットを掴んで包まり、威嚇する猫のように睨むスコールに、バッツは唇を尖らせた。

拗ねた顔をしながらも、一応は諦めて迫るのを辞めたバッツに、スコールは溜息を吐く。
重そうな体を揺らして、壁に背中を預けると、前髪の張り付く額を掻き上げた。


「ただでさえ暑いのに、ベタベタするな」
「そんなにつれない事言うなよ。確かに暑いけどさ」
「……あんた、毎年こんな所でよく寝ていられるな」
「いや、普段はこんなに暑くないよ。今日が特別暑いんだって」


バッツの言葉に、スコールは胡乱な目を向けた。
毎年毎年、記録的猛暑だの酷暑だのと言っているのに、今日だけが────なんて信じられる筈がない。

だが、バッツの言葉も強ち嘘ではないのだ。
真夏の蒸し暑い熱帯夜であっても、この地域の周辺は、高層ビルや大きな道路が少ない所為か、意外と夜は涼しくなる。
線路も遠いので騒音などは聞こえないし、精々、少し離れた飲み屋街から帰る途中の、酔っ払いの歌が聞こえて来る位だ。
だから窓を開けたり、扇風機の一つでも回していれば、快適とは言わないまでも、熱を凌いで夜を越すことが出来る。

しかし、今日はスコールが泊まりに来ているから、窓は締め切っていた。
まだ五月の始めとあって、扇風機も出していなかったし、そんな中でまぐわっていたものだから、空気がすっかり籠っている。
二人の体温の上昇と、蒸発した汗の匂いと、広くはない部屋をすっかり包む性の匂い。
それらが幾重にも交じり合っているものだから、普段以上に部屋の中は蒸し暑くなっていた。

スコールはうんざりした表情で、抱えた膝に頭を乗せる。


「……もうあんたの家でヤらない」
「えっ。なんで?」
「判るだろ。暑いんだ」


今はまだ初夏にもならない時期、それなのにこんなにも蒸し暑い。
毎回こんなにも暑いのなら御免だと言うスコールに、バッツは縋るように抱き着いた。


「そんな事言うなって。明日には扇風機出すから」
「こんなに暑いのに、扇風機くらいで解決する訳ないだろ」
「窓も開けるからさ。それだけで大分違うんだぜ」
「だったら尚更御免だ」
「なんで!?」
「判るだろ」


じろりと睨むスコールに、バッツは首を傾げる。
が、すぐにどうして今日窓を閉めたのかを思い出した。
元々は、セックスをするのなら窓を閉めろ、とスコールが言ったからだ。

安普請のアパートであるから、壁の厚みなんて大したものではないのだが、それでも窓が開いているか閉まっているかは大きな違いである。
スコールが感じ過ぎてしまうと声を抑え切れなくなってしまう事もあり、バッツもその方が良いと思って閉める事にした。
その時は、まだ部屋の中も今ほど熱気が籠っていなかったから、特に問題はなかったのだ。

遅蒔きながら、スコールが此処で過ごす事を嫌がる理由を理解したバッツだが、かと言ってスコールと過ごす夜を諦める事は出来ない。


「じゃあ、クーラー買ったら良いか?」
「……買えるのか?」
「小さい奴の中古とかなら。伝手もあるし」
「………」


見詰めるスコールの視線には、引っ越せば良いのに、と言いたげな色が含まれているが、彼はそれを口にはしなかった。
バッツが決して金銭的に余裕のある身ではない事も、自分の我儘でバッツに無理をさせるのも嫌なのだろう。
それを言えば空調の調達についても同じなのだが、バッツの家で今後も過ごすには、スコールとしてはやはりもう少し快適性が欲しい。
この部屋で二人きり、もっと熱の遣り取りをするのならば、尚更。


「……今日よりマシになるなら、それで良い」
「ほんと?じゃあまた来てくれる?」
「……マシになるならな」


スコールの言葉に、バッツはやったと諸手を挙げて喜んだ。
そのまま抱き着いて来るバッツに、スコールは暑苦しいと顔を顰めるが、判り易く嬉しそうな子供のような年上の恋人に、毒気を抜かれたように溜息を吐く。

裸のじゃれ合いは、長く続けると色々と支障が出て来るものだ。
それが初心な少年にばれてしまう前にと、バッツはスコールに風呂を促した。
腰を庇いながら立ち上がるスコールを支え、浴室へと送り出してから、バッツは一人、今後の生活を思い描いて楽しむのであった。





5月8日と言う事でバツスコ。
まだ5月なのに暑いですねと言う事で、暑い中でいちゃいちゃして貰った。

暑苦しいのが嫌なだけで、バッツと過ごすのは本音の所では嫌ではないスコールです。
スコールが独り暮らしでも、そうじゃなくても、そっちの方が絶対に快適なのは判っているけど、それでもバッツの家の方で過ごしたいバツスコです。
バッツ的には自分のテリトリーにスコールを入れている事に心地良さがあって、スコールの方はまだ色々葛藤とか自信の無さがあってか、自分の家に呼べる程ではないけど、自分がバッツの方に近付くのは良いと思ってる感じ。

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