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2023年10月08日

[ジェクレオ]秘密の祝杯

  • 2023/10/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



戦勝会の打ち上げともなれば、どの選手もめいめいに飲み明かすものであった。
酒好きの多いチームメンバーである事もさながら、大きなトーナメント戦で優勝を制した暁ともなれば、誰もが弾けると言うもの。
チーム関係者の誰しもがほっと胸を撫で下ろし、試合期間はコンディションの為に抑えていた酒量を、これまでの分まで取り戻すように、酒瓶が空いて行く。

ここ一番の打ち上げでは、選手は選手で、スタッフはスタッフで飲みに行くのがお決まりだった。
選手だけでも相当な大所帯であるから、それを支えるチームスタッフは倍近くの人数になる。
それが一つの店に押し寄せる訳にもいかないし、仮にそれをするなら、何日も前に大広間を課し切るような予約をしなくてはいけない。
チームの大スター選手であるジェクトがいる事から、このチームが負けるなんて有り得ない、と豪語する者も多いが、とは言え勝負とは時の運である。
何がリズムを狂わせるか判らないもので、冷静な者は最後の最後まで気を抜かなかった。
それがより一層選手たちを研ぎ澄ませ、試合終了の音が鳴るまで、彼等は力強く水を掻き続けた。
優勝カップは、その甲斐あってのものだ。
勝利の証を肴に酒を飲みたい者は、選手スタッフ問わずに多かったが、まずはやはり試合で最も体を張ってきた選手たちへの労いにと、彼等と共に打ち上げ会場へと運ばれる。
そして、全員そろっての祝賀会は改めてのものとし、まずは選手と各スタッフとそれぞれに分かれての打ち上げが始まったのであった。

気の抜けない試合が続く中、コンディションを保つ為、ジェクトは当分の間、飲酒を控えていた。
偶には休息に飲むことはあったが、それも寝る前に一杯程度。
それだけにしておけと、マネージャーであり恋人であるレオンに釘を刺されていたから、大人しくそれに従った。
酒一杯程度でどうにかなるもんか、とジェクトの本音としてはあるのだが、若い時分にそうして失敗をして、翌朝の試合で酷い動きをしていた事を引き出されては、ぐうの音も出ない。
お陰で今回の試合は、ほとんど完璧な仕事が出来たから、やはり何事にも抑制は必要なのだと思い知らされる。

しかし、今日に至ってようやくその我慢も解禁だ。
別口で飲みに行くと言うレオンからは、「だからって羽目を外しすぎるなよ」と言われたが、そう言う彼も、その注意に大した効果があるとは思っていまい。
精々、財布の紐まで緩めて、この飲み会の代金を奢るなどと言い出さないでくれ、と言った所だろうか。

チームの大黒柱であり、守護神とも言えるジェクトの下へは、次から次へとチームメイトが声を交わしにやって来た。
ビールの入ったジョッキをぶつけ合い、何度も乾杯を唱えながら、酒瓶を開けていく。
大皿でやって来た摘まみは、解放感に胃袋まで再現をなくした選手たちの手で、どんどん平らげられていく。
この酒屋の食事は元々上手いと定評だが、やはり勝利と言う名のスパイスが一番の旨味だ。
今年一番の美味い飯だと、仲間達と共に飲む喜びは、長い選手生活の中で何度となく味わったものだが、やはり心地の良いものであった。

そうして食事を主とした打ち上げが終わると、クラブに行かないかと言う話が持ち上がった。
母国であれば二次会に行くようなものだ。
若い選手が声をかけ、偶には良いなとベテランまで加わる所で、ジェクトにもお呼びがかかった。
ジェクト自身もまだ飲めるし、胃に隙間はあるが、クラブとなるとジェクトはパスだ。
若い頃には参加する事もあったし、其処で多少なりと良い思いをした事がないとは言わないが、今はそう言う気にもならない。
適当な理由をつけて退散させて貰えば、まあいつもの事、と仲間達も気分良く帰宅組へと加わるジェクトを見送った。

タクシーを捕まえるなり、バスに乗るなりと、散らばって行く帰宅組の中、ジェクトは手近にあったコンビニで缶ビールを買っていた。
先の試合で優勝を飾ったスター選手の来訪は、コンビニ店員にもしっかり見られ、サインを強請られたので応えている。
そんな事をしていたら店の奥から店長と思しき男もやって来て、優勝祝いにと言って摘まみになるものを贈られた。
断るのも悪いものだと知っているから、今日は快く受け取り、さてこれで帰ってのんびり一人酒でもしようかと思っていた時。


「ジェクト?」


名を呼ぶ耳慣れた声に振り返ると、よく知る人物────レオンが立っていた。
どうして此処に、と言う顔をしたレオンと目を合わせて、ジェクトは「よう」と摘まみの入った袋を持った手をひらりと振って挨拶する。

此方に近付いて来るレオンの顔は、ほんの少し赤い。
レオンも今日は関係者同士、選手マネージャーを勤める仲間内で、所属するチームの優勝を祝う飲み会に参加していた。
それなりに酒も飲んでいるのだろう、眦は普段よりも緩んでおり、頬もほんのりと赤い。
しかし足元は危なげなく、しっかりとしているので、酒量を弁えてセーブはしていたようだ。


「あんた、飲み会はどうしたんだ?」
「十分食ったし飲んだよ。お開きして、次はクラブだってんで、俺は抜けてきた」
「行けば歓待されただろうに。優勝チームのスター選手が来た、ってな」
「そりゃ有り難ぇが、ああ言う場所は色々やらかす奴も多いからな。俺はもう懲りてるよ」
「懸命な判断だ」


過去の失敗の経験は、それなりに堪えているのだと言うジェクトに、レオンはくつくつと笑う。
これだけの事で上機嫌に笑う辺り、やはりアルコールは回っているようだと分かった。


「お前の方こそどうした?今日は祝いだからな、お前も二次会くらい誘われただろ」
「声はかけられたけど、大分飲んだからな。これ以上は危ないと思ったんだ」


頬の火照りを確かめるように、レオンは自身の頬に手を当てながら言う。
これ以上は人に迷惑をかける、と言うレオンに、こんな時でも真面目な奴だとジェクトは苦笑した。

レオンの視線が、ジェクトの右手に握られた缶ビールを見付ける。


「あんたはまだ飲むのか」
「良いだろ?まだ余裕だよ」
「摘まみまで買って」
「これは貰いモン。コンビニの店長から、優勝祝い」
「人気者だな」
「そりゃあな」


謙遜など不要と堂々と言ってやれば、レオンは肩を竦めて見せる。
普段なら、飲み会で飲んだならもう止めておけ、と言う所だが、今日ばかりは目を瞑ってくれるようだ。

お互いに飲み会が終わった者同士、足は帰る方向へと向かう。
ジェクトの日々の管理は、専らレオンが握っているもので、その仕事の延長の中で今ではレオンと同居している状態にある。
他人は知らぬ話ではあるが、故にこそ二人は、仕事の意味でも、プライベートな意味でも、“パートナー”と呼べる間柄になっている。
母国で暮らす互いの家族にも未だ秘密の仲ではあるが、誰にも踏み込まれる事のない、二人きりの生活と言うものを、二人は案外と気に入っていた。

そんな同棲と呼ぶに等しいジェクトとレオンであるが、二人で連れたって帰路を歩くのは珍しい事だ。
レオンはジェクトの専属マネージャーを仕事としている為、彼の生活管理を始めとし、移動手段の都合をつけたり、スケジュール管理もレオンの役目である。
だから家を出る時には二人揃って出発する事は多いのだが、帰りは大抵バラバラだ。
ジェクトは自分自身の調整を納得するまで続けたり、チームメイトの誘いで、自身が酒を飲む飲まないに関わらず、宴席に顔を出す事が多い。
レオンはジェクトの健康管理も仕事の内であるから、日々の食事作りもレオンが引き受けているが、それは必ずしも強制的なものでもない。
ジェクトに関する事務仕事が遅くまで続いたり、此方は此方で人との付き合いがあるもので、ジェクトに一報だけを入れて、其方を優先する事もあった。
それが普通の生活だからか、こうやって夜遅い街を二人で並んで歩く事もない。

ジェクトは飲み干した缶ビールを、道の端に設置されているトラッシュボックスに放った。
からんからんと音を立てるそれが鎮まる前に、ビニール袋から二個目の缶ビールを取り出す。


「本当によく飲むな」
「気分が良いもんでな」
「その辺で寝潰れないでくれよ」
「しねえよ、そんな事。お前も飲むか?」


ぷしゅっ、と缶ビールのタブを開けながら言うと、


「……そうだな。一口くらいは良いかも知れない」
「なんだ、珍しいな。いつもはいらねえって言うのに」


アルコールが嫌いな訳ではないが、強くはないと言う体質もあってか、自分から進んで酒を飲まないレオンである。
祝賀会の席で、どれ程かはジェクトもはっきりとは判らないが、とは言え火照る程度には飲んでいる筈だ。
それは宴の場所だから、と言う理由もあっての事で、其処から離れ、道端を歩いている時にまで飲む気になるなど滅多な事ではない。

レオンもそんな自分に自覚はあるようで、くすりと笑ってジェクトを見上げ、


「あんたじゃないが、今日は確かに気分が良い。もう少し位、飲んでも良いかと思ったんだ」


そう言った青年の顔は、頬の赤みと、蒼の宝玉を抱いた眦が仄かに緩み、随分と柔らかい。

規模の大きなトーナメント戦を熟す日々は、試合に出る選手は勿論の事、その身体の管理の一切を任されているレオンにとっても、それなりに気合と緊張が続くものだ。
一試合ごとに蓄積される選手の疲労も考えながら、次の試合へと向けた調整をし、選手のモチベーションにも気を配らなくてはならない。
レオンはジェクトの操縦方法と言うものをよくよく心得ているが、その傍ら、レオンは自分自身の管理も怠る訳にはいかなかった。
自分がミスをすれば、それはジェクトにも跳ね返ってしまうものだと判っているから、一層気を張る時間が続く。
どうにも適度に手を抜くと言うやり方が出来ないレオンにとって、最後の最後、優勝が決まるその瞬間まで、彼はジェクト以上に根を詰めていたのは間違いないだろう。
それでいて、ジェクトと過ごす日々にはそれを滅多に顔には出さず、ジェクトは試合に集中できるようにと努めていた。
今回の決勝戦の相手が、トーナメントを勝ち上がってきたライバルとも言える強豪チームであった事から、レオンの緊張が一入に高かった事は、ジェクトにも想像できる。

レオンはようやく、その緊張の日々が終わったのだ。
選手であるジェクト同様、長い戦いを終えたレオンの、久しぶりに見る穏やかな表情に、ジェクトも面映ゆさで口元が緩む。
その気持ちのままに、ジェクトはレオンの腰を抱き寄せると、いつもよりも三割増しに赤い頬に唇を押し付けた。


「おい、ジェクト……」
「なんだよ」
「酔っ払い。外だぞ」
「構わねえだろ。酔っ払いだからな」


二人が恋人同士である事は、誰にも秘密だ。
それがこんな路上で、通る人も多い場所でキスなんて、と叱るレオンであったが、その手は顔を寄せて来る男を拒まない。
やはり、お互いにそこそこの酔いが回っているのだろう。
それも心地の良いものであったから、こうして人目も憚らずに、戯れに興じているようなものだ。

しかし、戯れでことが済むなら可愛いものだが、生憎ジェクトはそうではない。
試合の為に我慢を続けていたのは、飲酒に関する事だけではないのだから。


「……ムラついていきたな」
「此処でする気はないぞ」
「判ってるよ。何処か行くか?」
「あんたとホテル?パパラッチが喜ぶネタだ」
「だよなぁ」


有名選手のジェクトであるから、今でも何処かで何かを期待している目はあるだろう。
今は気の知れたマネージャーと、酔いに感けたじゃれ合いに見えても、これ以上は流石に良くない。


「しゃあねえな、帰るまで我慢してやるよ」
「そうしてくれ」
「明日は気にしなくて良いんだよな」
「夜には優勝会見がある。それまではゆっくりしてて良い」
「そりゃあ良かった」


言いながらジェクトは、中身が半分ほど残っている缶ビールをレオンに差し出す。
レオンはそれを受け取って、こくりと一口。
濡れた唇がプルタブからゆっくりと離れ、赤い舌が唇の端を舐めるのを見て、ジェクトは久しぶりの欲が分かり易く膨らむのを自覚していた。



10月8日と言う事でジェクレオ。
相変わらず書いてる奴が楽しい、プロ水球選手×専属マネージャーなパロです。

二人揃って海外暮らしなので、秘密の関係ではあるけど、割と外でもこの程度にいちゃいちゃする事がある。なお酔っ払ってる時限定。
大事な試合が全部しっかり終わって、次の日は少しのんびり出来るとなれば、遠慮なくお楽しみするんだと思います。

[ティスコ]君が僕の力になる

  • 2023/10/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



くつくつと煮立った鍋の中身は、いつもの事を思えばかなり豪華だった。

別段、質素倹約をモットーとしているだとか、贅沢は敵だとか言うつもりはないが、しかしスコールが作る鍋と言うのは、基本的に野菜が多いものである。
そうしないと同居人が肉ばかりを食べるのだから、ちゃんとバランス良く食べさせるには、やはり食卓に出るものから調整をかけるのが一番確実だった。

けれど、今日ばかりはそれも忘れて良いだろう。
いつものスーパーで今日の夕飯を作る材料を吟味しながら、スコールは豚バラ肉の大きなパックを二つ買った。
普段は小パックを一つと、つみれ団子を選ぶ所だが、今日は豚のみ。
牛肉をたっぷり入れたすき焼きと言う手もあったが、それは流石に豪華の極みだと思うので、もっと別の機会が良い。
最高の手札を使うなら、彼だって最高の時が良いだろう。
それを確実に食べられる日がある事を自分は願っているし、彼もその為に日々を努力しているのだから。

夕方の走り込みに行ってくると言うティーダを見送って、スコールは直ぐに夕飯の準備に取り掛かった。
出汁を取っている間に白菜と葱を刻み、大根と人参をかつら剥きにして、椎茸は半分に切る。
大盤振る舞いするとは決めても、野菜はしっかり食べさせなくてはと思うので、まずはそれをたっぷりと入れて火が通るのを待った。
山盛りだった野菜がしんなりと柔らかくなって、先ずは豚肉一パックを全て投入。
野菜の上をすっかり埋め尽くす肉に、多かっただろうかと一瞬思ったが、どうせ杞憂に終わるだろうと推測する。

食卓に備えた卓上コンロに鍋を移動させた所で、玄関のドアが開く音が聞こえた。


「ただいまー!」
「お帰り」


元気の良い声を聞きながら、スコールは食器の準備を済ませて行く。
其処へ同居人────ティーダがやって来て、食卓に置かれた今日の夕飯に気付いた。


「やった、鍋!」
「寒くなって来たからな」
「助かる~。さっきも走りながら大分寒くなって来たなーって思ってたとこでさ。温まるのが良いよな、鍋は」


言いながらティーダは洗面所へ向かう。
その背中にスコールが「風呂は?」と聞くと、「飯食ってから!」と言う返事。
食い気があって何よりだと、スコールはティーダの茶碗に米を山盛りに装ってやった。

ティーダがそわそわとしながらリビングダイニングに戻って来て、いつもの位置へと座る。
スコールが鍋の蓋を開けると、たっぷり野菜の上にたっぷり並んだ肉を見て、おおおお、と人懐こい目がきらきらと輝いた。


「豚肉いっぱい!今日は豪華っスね!」
「あんたが無事に予選を突破したからな」
「お祝い?やりぃ!」
「ポン酢とゴマだれ、どっちが良い」
「ゴマ!」


先日、ティーダの所属する水球部が、全国大会の予選を突破した。
トーナメント形式で争われた予選は、強豪校が犇めくグループへと配され、エースと名高いティーダを擁するチームでも、敗退の可能性が最後まで否めなかった。
その通りに危ういシーンはありつつも、ティーダが粘り強くボールに食らいつき、その姿を見たチームメイト達も奮起した。
その甲斐あって、チームは無事に予選大会を一位で通過し、全国大会への切符を手に入れたのである。
今日の夕飯は、スコールなりにそれを祝したものなのだ。

ティーダ希望のゴマだれドレッシングをテーブルに置いて、スコールはティーダと向かい合う席へ座る。
待ち侘びて堪らなかったティーダは、早速両手を合わせて「頂きまーす!」と弾んだ声で言った。
倣ってスコールも形ばかりに手を合わせて、先ずは白菜を取る。
ティーダはと言うと、スコールが予想していた通り、程好く火の通った肉をひょいひょいと浚っていた。


「野菜もちゃんと食べろよ」
「判ってる判ってる。これ食ったら次は食べる!」


スコールが日々の栄養管理の為、食事作りに気を遣っている事を、ティーダもよく知っている。
それでもついつい、いつもよりも沢山入った鍋の肉の誘惑に負けてしまう。
やれやれ、とスコールは一つ溜息を吐いたが、食事が体を作る為に大事である事も、その為に何を食べていくべきかと言う事も、ティーダは理解していた。
まだ口煩く言うタイミングじゃない、と始まったばかりの鍋パーティに説教は引っ込めて、自身も豚肉へと箸を伸ばした。

今日は午後に体育の授業があり、ティーダはその後、クラブチームに顔を出して練習をしている。
それから帰って休憩した後、日課の走り込みに行ったので、ティーダの胃袋は空っぽだ。
まるで吸い込まれるように消えていく肉に、自分で食べつつ、ティーダは段々とそれを惜しむ表情を浮かべていた。


「あー、肉がなくなっちゃう……」


寂しい、と眉をハの字にするティーダに、スコールは食事の手を続けながら、


「もう一パックある」
「マジっスか!」
「それで最後だからな。後はない」
「じゅーぶんっスよ!」
「出して来る。そのまま食べてろ」
「サンキュー!」


言いながらティーダは、豚肉と一緒に白菜を取っている。

スコールは冷蔵庫で待機させていた豚肉を取り出し、食べやすい大きさに切った。
適当に取り出した皿に、先ずは全体の半分を乗せて食卓へ戻り、鍋に入れる。
蓋をして少し待てば、直ぐに火が通って、ティーダが早速箸を伸ばした。


「こんな豪華な飯食えるんだから、本選も頑張らないとな」
「気合が入ったなら何よりだ」
「なあ、優勝したら今度は何作ってくれるんだ?」
「気が早すぎるだろ。まだ日程も出てないのに」
「日程なんか判らなくても、練習はするし。楽しみがあった方が燃えるし」


そう言って期待に満ちた目で見詰めるティーダに、どうせなら黙って準備してやりたかったんだけど、とスコールはこっそりと思いつつ、


「……すき焼きは考えてある」
「やった!」
「優勝したら、だからな。途中で落ちたら知らない」
「判ってるって。俺は絶対優勝するからな!」


そう言って拳を握るティーダは、目標を口にする事で、自分を奮い立たせているのだろう。
直向きなその様子に、スコールは眩しさに目を細めながら、傍目には「頑張ってくれ」と素っ気なく言った。

追加からの追加の肉が鍋に入る頃には、流石にティーダの胃袋も満たされてきて、食べるペースがゆっくりになる。
取り皿に移すものも野菜が中心になり、そろそろお開きと考えても良さそうだ。
鍋の中は粗方食べ尽くされていて、野菜を足した所で明日の夕飯には足るまいと、何かリメイクするか、汁物として明日のメニューに組み込むか、と考えていた時だった。


「予選は無事に抜けたし。練習も日々快調。へへ、スコールのお陰っスね」


そう言って笑いかけるティーダを見て、スコールは何とも言えない表情が浮かぶ。
ティーダの言葉は嬉しくない訳ではないのだが、予選も練習も、ティーダ自身が努力して実をつけたことだ。
彼と一緒に戦う訳でもないのに、自分のお陰と言われても、スコールは腑に落ちないものがあった。


「試合も練習も、あんた自身の力だろう。俺は何もしてない」
「いつも応援してくれるじゃん」
「……それだけだろ。大体、試合だって俺は見ているだけだし」


ティーダが試合の時、スコールは出来るだけ現地に応援に行くようにしている。
そうしてくれと言われた訳ではなかったが、ティーダが頑張っているのなら、その姿を少しでも多く見ておきたかった。
子供の頃から一緒に過ごしてきた幼馴染であり、今は恋人と言う関係もあって、ティーダの努力は一つでも多く報われて欲しいと思う。
そんな願いに似た気持ちもあって、何も出来ないけどせめて────と、なんとか時間を作っては、ティーダの試合を見に行った。

それだけだ、とスコールは思う。
けれども、ティーダにしてみれば、“それだけ”の事がとても大きい。


「好きな人が見に来てんだもん。格好悪いとこ見せられないから、気合が入るよ」
「……大袈裟だ」


真っ直ぐに目を見て言われて、スコールは頬が熱くなる。
どうしてこうも臆面もなく、こんな台詞を言う事が出来るのか、幼馴染ながらにスコールは判らない。
その直向きな素直さが、ティーダの誰より良い所だと言う事は、深く知りながら。

赤らむ顔を見られたくなくて、スコールは「片付ける」と言って席を立った。
そそくさと逃げるその耳が、後ろから見ても判る程に赤くなっている事を、スコールは気付いていない。

スコールが洗い物をしている間に、ティーダが鍋の残りをガラス製のタッパーに移す。
大きめのタッパーではあるが、其処に納まる程度にしか残り物がないのなら、明日はこれを汁物にして出すのが手っ取り早いだろう。
ティーダは中身が零れないようにラップを挟んで蓋をして、冷蔵庫の中へと仕舞と、洗い物に無理やり意識を集中させているスコールの下へとやって来て、


「スコール」
「!」


ぎゅう、と後ろから抱き着かれて、スコールは危うく茶碗を取り落としそうになった。
後ろにその気配があるのは判っていたのに────いや、判っていたから、意識していたからそんな大仰な反応をしてしまったのだ。
等と言う事はやはり知られたくなくて、意識して眉間に皺を寄せながら、じろりと肩から覗き込んで来る恋人を睨む。


「危ないだろ」
「ごめん。へへ、鍋美味かったっス。ありがと、スコール」
「……別に」


いつもの夕食だと、わざわざ感謝される謂れもないと言うスコール。
しかしティーダは、ぎゅう、とスコールの腹を抱きながら、


「スコールがいるから頑張れるんだよ。本当に」
「………」


普段の快活とした声ではなく、染み込んで来るような静かな声に、スコールも口を噤む。
首筋に当たる呼吸の気配が、どうにもくすぐったくて堪らなかった。

洗い物が全て片付いても、ティーダは抱き着いたまま離れない。
鍋で温まった所為だと思うが、じんわりと躰の奥が火照っていて、スコールは落ち着かない気分だった。
頬を掠める髪の毛の感触もあって、そうっと其方に首を傾けてみれば、上目に此方を見ているマリンブルーに見付かった。
それがより近付いて来る気配に、仕様がない奴、と赦す格好を取りながら受け入れる。

キスは触れるだけの柔いものから始まって、段々と吸い付きながら深みを増していく。
明日は平日なのに────と思いながらも、スコールは触れる手を突き放す術を持っていないのだった。



10月8日と言う事で、現パロで幼馴染で同居で恋人なティスコ。

このスコールはティーダの大事な試合の前には、トンカツとかカツ丼とか作ってると思う。
出来る限り試合を見に来てくれるので、ティーダも気合が入る。ゴールしたらスコールに手を振ったりする。
同居しているのでティーダは家ではいっぱいいちゃいちゃしたいし、スコールはそれが恥ずかしいけど、結局のところ嫌ではないんだと思う。

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