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2024年08月

[スコリノ]守り抜く為に

  • 2024/08/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



不運と言うのか、事故と言うのか、とにかく不可抗力だと言う事だけは事実だ。
一人きりで隔離された空間で、リノアはそう考える。

自分の意思と関わらず、家屋の中に閉じ込められると言うのは、リノアに限っては少なくない経験があった。
実家では、ティンバーのレジスタンスの下に向かおうとするのを阻む為か、あの邸宅にはオートですべての開閉扉(窓含む)の鍵をかけられるようになっている。
元々は軍の要人の自宅である事と、父の相応の立場であることから、セキュリティの目的として誂えられたものだったと思うが、リノアの知る限り、あまりその用途で役に立った事はなく、専ら父子喧嘩の末、娘を軟禁する為のものとして作用していた。
とは言え、襲撃された際に脱出する為の経路も作られており、父の書斎には勿論、娘であるリノアの部屋にもそれはあったし、其処が使えなくてもリノアは自力で抜け出そうと奮闘したものである。
その他、ガルバディア軍の兵器の中だったり、結果として一時的なもので終わったが、魔女の封印装置の中にも入り、閉じ込められた経験を持つ。

と、意図せず稀有な経験をそこそこの頻度で経験しているリノアであったが、このパターンで閉じ込められるのは初めてだった。

今、リノアはガルバディアのとあるホテルの中にいる。
宿泊している訳ではなく、部屋の鍵がないと言う訳でもなく(内側から開けられる為だ)、そもそもリノアは宿泊を目的にこのホテルに来た訳ではない。
今夜は地下のピアノバーで、生前の母がピアニストの同業者として懇意にしていた人物が、活動の記念周年のリサイタルを開こうとしていた。
母の縁でカーウェイ邸にもその招待状が届き、父は相変わらず仕事に忙殺されて叶わなかったが、リノア一人ならば問題なかった。
それなりの地位を持つ父の下、こう言ったパーティの類の招待は珍しくはなく、昨今の情勢不安から、念の為、父が指定したセキュリティを連れることにはなったものの、リノアにとってはよくある行事ごとのひとつである。

リサイタルは時間通りに始まり、リノアもゆったりとした気持ちでピアノを聞いていたのだが、突然響き渡った銃声がそれを遮った。
テロリストの襲撃が起こったのだ。

魔女アルティミシアとの魔女戦争が終わった後、ガルバディアの内政は非常に不安定で、軍の動きが制限されている事に加えて、過去にビンザー・デリングやガルバディア軍に弾圧された団体が息を吹き返しつつある。
その上、デリングシティの街にも、魔女イデア───実際はアルティミシアであるが、一般人にそれ程の情報は公開されていない為、ガルバディアの一般人にとっては、魔女と言えばイデアなのだ───に心棒し、魔女崇拝に傾倒している者が少なくなかった。
もう一度魔女の庇護を、支配を求める人が団結し、集会などを開く他、中には過激な行動派も現れている。
正にその過激派が、リノアが招待されたピアノリサイタルに襲撃し、招待客とホテルの宿泊客諸共、人質にしてしまったのである。

ホテルの宿泊客はそれぞれの部屋に籠らざるを得なくなった。
そしてリサイタルに来ていた者のうち、女性は自分の荷物を全て奪われた上で、ホテルの空き部屋に一人ずつ入れられる事になる。
テロリストたちは、男と違い、か弱い女性ならば、各個に隔離すれば抵抗され難く、パートナーとして来演した者も多い男達の人質としても使える、と判断したのだ。
リノアも同行させていたセキュリティとは引き離され、適当に空いていた部屋に入れられた。
不幸なことに、このホテルは高層となっていて部屋数も多く、明日は平日であるものだから、客室は半分近くが空いており、女性客だけをそれぞれに収容することが出来てしまった。
男性は地下のピアノホールに集められていている所までは見たが、その後のことはリノアには判らない。
誰も怪我をしていないと良いな、と祈るのが精一杯であった。


(……でも、人の心配してる場合じゃないよね)


同舟も同然の人々のことは気になるものの、リノアとて危険な状況にいるのだ。
テロリストたちは、ホテルの各フロアの前に見張りの兵士が並び、許可なく部屋から出ようとすると、持っている銃を撃つ。
実際にリノアは、ドア一枚向こうで、脱出しようとしたのであろう女性の悲鳴を聞いた。
殺す気なのか、威嚇だけなのかは判らないが、テロリストたちが人質に危害を加えることに抵抗を持っていないのは確かだ。
また、こうして客室に閉じ込められているのは女性ばかり、それも殆どが一人隔離されての事だから、どうしても嫌な想像は膨らむ。

ぞっとする思考を、リノアは何度目か振り払った。
足が竦みそうになるのを堪えて、落ち着きを取り戻そうと、膝の上に置いていた両手をぎゅうっと握って深く深呼吸する。


(軍はもう動いてるのかな。でもティンバーでもそうだったけど、ガルバディア軍って、最近凄く動き難いみたいだし……パパに連絡は行ってるのかな。なんとかしてくれると良いけど……)


なんとか、と言うのが、具体的にどういったものを指すのかは、リノアにもよく判らない。
だが、デリングシティでは軍が他国の警察機構のように治安維持を担っているのも事実で、テロリストによる一般人への襲撃は、理由が何であれ鎮圧が必要なものだろう。
問題は、現状のガルバディアでは、正当な理由があっても、以前のように軍の動きがスムーズには出せないと言うことだ。

ティンバーでレジスタンス活動に身を投じていたから、どんな理由や目的があるにせよ、こうした活動を実際に引き起こす者には、相応の覚悟と意思があるのは理解している。
だが、だからと言って、一般人に危害を加える事を躊躇わない者たちの行いは、許す訳にはいかない。
このまま事態が動かなければ、テロリストたちは自分の要求を押し通す為、どんな手段に出るか計り知れない。

リノアは自分の心臓がゆっくりと動いているのを感じながら、右手を見る。
手のひらを見つめていると、其処に本来自分にはなかったものがじんわりと滲み出てくるような気がした。


(……魔法を使えば、私一人くらい、なんとかなりそうな気もする、けど……)


己の意思とは関係なく、この身に宿し、今も内在している魔女の力。
その力を行使すれば、廊下の向こうにいる見張りくらいは、なんとかなるかも知れない。

だが、リノアは今なお、この魔女の力を十全にコントロールできないし、何より強すぎる力は恐ろしい。
リノア自身が恐れている力を、もしも誰かに見られれば、今でこそなんとか隠している、魔女と言う立場を知られてしまう。
この世界で魔女がどんなに恐ろしいと言われる存在か、嫌と言う程に判っているから、迂闊なことは出来なかった。
自分をそんな世間の恐怖から守る為、奮闘してくれている人の存在があることを知っているから、尚更。

待っていることしか出来ないのだろうか。
その現実に、苦く悔しい気持ちを噛み締めるしかない────そう感じていた時、カンカン、と甲高い音がリノアの耳に届いた。


「……?」


ドアの方からではない、窓から聞こえて来た音に、リノアは訝しんで首を傾げる。
と、もう一度、カンカン、と言う音がして、どうやら何かが窓を叩いているようだった。
此処は地上十階の高さにある客室だと言うのに。

そうっと閉じていたカーテンの端を捲ってみると、窓の向こうには、逆様になって其処に取りついている、金色の鶏冠頭があった。


「ゼ、」


思わずその名前を呼び掛けて、しぃ、と沈黙のジェスチャーを貰う。
慌てて口を塞いだリノアに、ジェスチャーの主───ゼルは窓の鍵を指差した。
意図を察して、音を立てないように注意しながら、そっと鍵を外す。

ゼルは、どうやらホテルの上からロープを垂らし、それを伝って此処まで降りて来たようだった。
窓を開けるとほっとした表情で中へ入り、


「無事みたいだな。良かったよ」


にっかりと笑って見せるゼルに、リノアはじわりと目尻に熱いものが浮かぶ。


「ゼルぅ……」
「ほら、泣くなって。俺たちが来たから、もう大丈夫だよ」


愛らしい顔をくしゃりと歪めるリノアに、ゼルは眉尻を下げながら言った。
愛用のグローブを嵌めた手が、ぽんぽんとリノアの黒髪を撫でる。

すん、とリノアは詰まった鼻を啜りながら、


「“俺たち”って……SeeDの人たち?」
「ああ。カーウェイ大佐から要請って言うか、依頼を請けてな。緊急案件だから、すぐに引き取って、ラグナロクすっ飛ばして」
「いっぱい来てるの?」
「すぐに動ける奴らを出来るだけ動員してるよ。俺みたいに、人質の安全確保の役が他のフロアにも行ってるし、敵さんの気を引く為の陽動部隊もSeeDから出してる。そっちはもう突入してるよ」


だから俺は此処に来たんだ、と言うゼル。

既にSeeDによるテロリスト鎮圧と、人質奪還の作戦は始まっているのだ。
ホテルの上層にいるリノアにその喧噪は聞こえないが、テロリストの籠城の防衛線である、一階フロアは戦闘が行われているらしい。
その戦闘にテロリストたちが気を取られている隙に、ホテル各フロアに別動隊のSeeDが潜入し、各個でフロアの安全確保を取るのだと。

ゼルは足音を立てずに───けれど歩く速度はいつも通りだ───部屋のドアへと近付き、其処に耳を押し当てる。
人の気配が近くにないことを確認すると、慎重にドアノブを回して、廊下の様子を覗き見た。
ゼルは廊下の向こうに見張りが立っていることを確認すると、ドアを閉めてリノアへと向き直る。


「見張りの奴は、すぐに倒すよ。安全を確保したらまた来るから、それまでもうちょっと待っててくれるか?」
「うん、大丈夫。ありがとう、ゼル」


良く知る仲間がこうして助けに来てくれたなんて、リノアにとって、何よりも勝る安心感だ。
頼りになるゼルの言葉に、リノアはもう焦ってはいなかった。
彼が来るまで何も出来ずにいた事に、拭い切れない悔しさは否めないが、強引なことをして、ゼルや他の人質の危険を煽ることをしてはいけない、と気持ちを切り替える。

と、ゼルは手元のグローブを嵌め直しながら言った。


「悪かったな、リノア。スコールが此処に来れたら、もっと安心させてやれたんだろうけど」
「え、そんな───そんなこと。ゼルが来てくれたのだって嬉しいよ」
「うん、ありがと。でもさ、やっぱスコールの方が頼りになるだろ」
「そんなことないってば。……来てくれたら、それは、その、……うん」


ゼルの言葉に、奥底の本音として否定できない自分を自覚して、リノアは気まずさに口籠る。
そんなリノアに、ゼルは眉尻を下げて笑いかけつつ、


「仕方ねえよ、そう言うもんさ。俺たちもそう思ったから、スコールにもそう言ったし。でもあいつ、梃子でも作戦変えなかったもんだから。その代わりに、俺がリノアの安全確保を任されたんだけどな」


────ゼル曰く。
今回のテロリスト鎮圧と人質の安全確保は、同時に行うものとして、スコールが作戦を立てたと言う。
その際、スコールは真っ先に自分を鎮圧班へと回した。
魔女戦争の英雄として名の知られた自分が、正面突破の班に回った方が、テロリストの注意を引き付けられると踏んだからだ。
その傍ら、リノアを含めた人質の安全確保班のリーダーを任されたのが、ゼルであった。

リノアが今回の事件の渦中に巻き込まれた事は、カーウェイからの依頼が個人的な形で寄せられたお陰で、事前に判っていた。
だからゼルは、スコールがリノアの無事を一番に願っていることを悟り、スコールこそが人質確保の班に回るべきでは、と言った。
しかしスコールは、「確実に助けるからこそ」この役割なのだと言い切った。
魔女心棒に傾倒するテロリストたちにとって、魔女を討ち取ったスコールの存在は無視できない。
同時に、ゼルのように慎重で周りをよく見ている者なら、人質の───其処にいる筈のリノアのことを、確実に助けられる筈だと信じて。


「で、リノアのいる部屋を、アーヴァインに探して貰って。だから俺がこのフロア担当になった。此処の窓の向かいのビルあるだろ、今もあそこからアーヴァインがスコープで見てる筈だ。今頃は、俺がこの部屋にいるってこと、スコールに連絡が行ってるんじゃねえかな」
「……そう、なの。そうなんだ」
「ああ。だから今頃、派手にやってるんじゃねえかな、スコールの奴。リノアが人質の中にいるって聞いた時から、すげえ顔してたから」


見せてやりたかった、と笑いながら言うゼルに、リノアはぱちりと瞬きをひとつ。
状況は緊迫していることに変わりはないが、よく知る仲間の笑顔と言うのは、やはり安心を呼ぶらしい。
増してや、自分がいない所での、好きな人の一面を聞くことが出来たものだから、場違いと知っていつつも余計に。

だからさ、とゼルは続けて言った。


「全部終わったら、スコールに顔見せてやってくれよ。あいつを安心させてやってくれ」
「うん。そうする」


ゼルの言葉に、リノアは間を置かずに頷いた。




それから一時間の後、テロリストはSeeDによる鎮圧で全員が捕縛され、ホテルに閉じ込められていた人質は全て解放された。
傷を負ったものは病院へ、受け答えの可能なものは、ガルバディア軍から事情聴取を受けている。
リノアもまた、他の者と同様に聴取をした後、まだこの現場にいるであろう彼の姿を探して、


「────リノア!」


響いた呼ぶ声に、リノアは振り返った。
安堵と、泣き出しそうな蒼灰色を見付けて、リノアは真っ直ぐにその人に向かって走り出した。





何が何でもリノアを助ける為に、一番確実な方法を取るスコールと、やっぱりスコールの存在が一番安心するリノアが書きたくて。
公衆の前だけど、リノアに安心感と助けに来てくれた喜びではぐはぐぎゅーされて、スコールの方も感極まって一回抱き締めたりしてると良い。
後で思い出して渋面になるスコールと、リノアはにこにこしながらそれを見てる。

鎮圧班スコール、ゼルがリノアの安全を確保した瞬間から、枷が外れて大暴れしてるんじゃないかと思います。
冷静な顔して中身は熱血と言うか、感情の歯止めが効かないタイプなので、安全確保まで堪えていた分、容赦がなくなると思う。

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