サイト更新には乗らない短いSS置き場

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2012年12月

[絆]寒い日の夜

  • 2012/12/28 00:58
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ガーデンでの授業時間が終わり、学生が解放される放課後になっても、レオンがのんびりとする時間はない。
高等部の一年生となった今年から、レオンは夕方にアルバイトを始めた為、放課後は直ぐに帰宅して夕飯の準備を済ませた後、直ぐに家を出なければならなかった。
お陰でレオンの一日のスケジュールは、徹頭徹尾埋まっており、友人と遊ぶような余裕はない。

遊ぶ余裕がないので、勉強する時間も殆どない。
だからと言って、それを言い訳にするようにして、勉学を疎かにはしたくなかった。
育て親であり、現在も後見人として生活を支えてくれるクレイマー夫妻の顔に泥を塗らない為にも、恥ずかしい成績を取る訳には行かない。
だからレオンは、アルバイトが終わって帰宅した後でも、直ぐに寝床に着く事はなく、遅くまで起きて課題に張り付いているのが常だった。
自然と起きている時間が長くなってしまう為、妹弟達とは寝室を別にしたのだが、彼らが眠ったであろう時間を過ぎても、レオンは自室に鍵をかけないようにしていた。
まだ幼い弟達は、時折怖い夢を見たとか、ティーダは父の夢を見て泣いてしまう事がある。
スコールが泣き出すとティーダも泣き出す(逆も)事は少なくないので、エルオーネ一人では手に余ってしまう事が多かった。
そんな妹弟達がいつでも頼って来れるように、レオンは自室に鍵をかけないようにしているのだ。

─────その日も、レオンはいつも通り、鍵をかけずに自室に篭っていた。
休憩時間だけでは終わらせられなかった課題の残りを片付けてしまおうと粘っていると、気付いた時には日付が変わってしまっていた。
明後日提出の分まで、慌てて片付ける必要はなかったか、と思ったレオンだったが、面倒な事は前倒しで片付けて置いて損はない。
だが、提出期限が一週間先のものまでは手を付ける気にならなかったので、今日はもう終わりにしよう、とノートを閉じた所で、


「……おにいちゃん、入ってもいい…?」


かちゃ、とドアの開く音と、同時に聞こえた幼い声。
振り返ってみれば、スコールがドアの隙間からひょこりと顔を出していた。

レオンは椅子を引いて、体ごとスコールに向き直る。


「ああ、良いぞ。おいで」
「うん。おじゃまします」


レオンの許可を貰って、スコールが部屋に入ってくる。
とてとてと兄に駆け寄ってくるスコールの腕には、お気に入りのライオンのぬいぐるみがあった。


「どうした?もうお休みなさいする時間だろう」
「うん……でも、」
「眠れない?」
「……うん」


スコールは、寝る時間を過ぎても寝られない事に、悪い事をしているような気分になっていた。
眉をハの字にして、ぬいぐるみを抱き締めて視線を彷徨わせる弟に、それ位の事で怒りはしないのにとレオンは苦笑する。

レオンは勉強用の机から離れて、立ち尽くすスコールの前に膝を折って目線の高さを合わせる。


「今日、お昼寝したか?」
「ううん」
「寝る前にティーダと遊んだ?」
「カードしてた」
「ティーダは、寝てるのか?」
「うん。お姉ちゃんも」


話を聞いて、成る程、とレオンは納得する。
最近、スコールはカードゲームにハマっている為、お小遣いを溜めてはカードパックを買っていた。
気に入ったカードが集まり、デッキを作れるようになったので、ティーダやエルオーネ、レオンに相手をして貰って、カード勝負もするようになった。
今日も寝る前にカードバトルをしていたので、興奮で眠気が晴れてしまったのだろう。

ティーダもエルオーネも、同じように過ごしていたのに、眠れないのはスコールだけ。
それが余計にスコールにばつの悪さを感じさせているようだ。

レオンはぽんぽんとスコールの髪を撫でて、抱き上げる。
小柄とは言え、やはり幼い子供の成長は早いもので、日に日に重くなって行く体重を改めて甘受しつつ、レオンは自室を出た。
スコールはぬいぐるみを持ったまま、レオンの首に抱き着くように腕を回す。

二階の寝室から、一階のリビングに降りて、電気を点け、レオンはスコールをソファに下ろした。
冷えないようにブランケットを肩にかけて、シェルフに置いていた絵本をスコールに渡す。
スコールは絵本を受け取って、きょとんとした表情でレオンを見上げる。


「お兄ちゃん…?」
「何か温かいものを作って来る。良い子で待ってるんだぞ」
「うん」


頷くスコールに、よし、と頭を撫でてやる。

キッチンに入ったレオンは、食器棚からマグカップを取り出すと、ポットの湯を入れた。
マグカップは邪魔にならない所に置いておいて、ココアパウダーと砂糖を取出し、鍋に入れて少量の水と共に火にかける。
ゴムベラでゆっくりと掻き混ぜていると、水と粉が混じってペースト状になった。
焦がさないように気を付けながら、少しずつ牛乳を混ぜ、茶色と白がゆっくりと交わり、溶け合って行くのを確かめながら温め続ける。
鍋の縁でじわじわと小さな泡が生まれ始めたのを見て、レオンは火を止めた。
冷たくなっていたマグカップが、ポットの湯で温まっているのを確かめて、湯を捨てる。
空になったマグカップに、零れないように注げば、ほこほこと温かな湯気と甘い香りが鼻腔をくすぐる。

マグカップを両手に持ってリビングに戻ると、スコールはソファの上で丸くなっていた。
裸足の足が冷えたのか、ソファの上に足を乗せている。
レオンがそれを見ると、行儀の悪い格好をしている事を怒られると思ったのか、慌てて足を下ろす。
レオンはくすりと笑って、スコールの隣に腰を下ろす。


「足、気にしなくて良いぞ。足、寒いだろう」
「う、ん…」


スコールはほっと安心したような表情を浮かべて、ソファにもう一度足を乗せる。
足の親指を擦り合わせるのを見て、スリッパを出せば良かったな、とレオンは思った。


「ほら、ココアだ。温まる」


レオンがマグカップを差し出すと、スコールが嬉しそうに表情を明るくする。
三角座りになったスコールは、足と体の間にぬいぐるみと絵本を挟んで、マグカップに両手を伸ばした。

マグカップは、レオンの手には小さいが、幼いスコールには少し大きい。
それを両手で包むように受け取って、スコールは指先にじんわりと広がって行く熱を感じていた。
ほこほこと揺れる湯気に、ふー、ふー、と息を吹きかけて冷まし、そっと口をつける。

温かくて甘いものが、ゆっくりとお腹の中で広がって、


「ふあ……おいし」


ふわ、とスコールの表情が緩む。
まろい頬がピンク色に温まるのを見て、レオンの唇に笑みが浮かぶ。


「お兄ちゃんのココア、すごくおいしい」
「そうか」
「ほんとだよ」
「うん」
「えへへ」


レオンがくしゃりとダークブラウンの髪を撫でれば、スコールは嬉しそうに笑う。

レオンは、ほんのりと火照ったスコールの頬に手を当てて、優しく撫でた。
スコールはくすぐったそうに目を細めて、えへへ、と猫のように自分の方からもレオンの手に頬を寄せる。
柔らかな頬を緩くつまんでやれば、ふにふにと心地良い弾力があって、赤ん坊の頃から変わらないな、とレオンは思った。

それから、十分ほど経っただろうか。
コールはココアを飲み終えると、眠そうに目を擦り始めた。
レオンは空になったマグカップをシンクに置いて、スコールを抱き上げて二階に戻り、二階の寝室のドアを開ける。
子供三人が横になって眠れる広めのベッドの上には、エルオーネとティーダが並んで眠っている。
一番端のぽっかりと空いたスペースは、スコールの居場所だったのだろう。
レオンは其処にそっとスコールを下ろして、寝かしつけた。


「……おやすみ、スコール」


くしゃ、と頭を撫でて、ベッドから離れようとする────しかし、くん、と何かに背を引っ張られて阻まれる。
何かに引っ掛かったかと思って振り返れば、小さな手がレオンのシャツの端を握っていた。


「…四人は無理だぞ」


しっかりとシャツを握っている弟を見て、レオンは困ったように笑って言った。

ティーダが来る以前、レオン・スコール・エルオーネの三人で一つのベッドで寝ていた。
けれど、あの頃よりもスコールもエルオーネも大きくなったし、15歳のレオンは言わずもがなである。
ティーダと言う新しい家族が増えた今、ベッドは既に定員オーバーだ。

と言う事を、眠る弟に言った所で、小さな手が兄を引き留めるのを止める訳もない。


(まあ、一日くらいなら大丈夫か)


レオンはスコールを包んでいたブランケットを自分の肩にかけて、ベッドの傍に腰を下ろした。
シャツを握るスコールの手を握り、やんわりと離させると、布団の中に入れてやる。
布団の中で、小さな手がきゅっと握って来るのを感じながら、レオンはスコールの柔らかな頬を指先で突いた。




すぅすぅと静かに眠る弟の向こうで、やはり静かに眠る妹と、大きな口を開けて寝ているもう一人の弟。
寝室を別々にしてから、あまり見る機会がなかった、妹弟達の健やかな寝顔。

たまにはこんな夜も良いな、と思いつつ、レオンはベッドに寄り掛かって目を閉じた。






翌日、まさかレオンが一緒に寝てると思ってなくて、早目に起きたエルがびっくり。

そしてやっぱり風邪ひいたレオンだけど、薬飲んで誤魔化して気合いで半日で治します。
妹弟達に心配かけるなんて以ての外。妹にはバレて怒られると思うけど。

[レオン&子スコ]サンタさんへ おねがいします

  • 2012/12/26 23:17
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一日遅れだけど、サラリーマンなレオン&子スコの現代パラレルでクリスマス。





クリスマスの前日、レオンはいつもよりも早めに家に帰るつもりだった。
家で待っている弟にも、今日は出来るだけ早く帰るよ、と伝えていた。

───────が。

6時を過ぎた頃、弟に非常用にと渡してある携帯電話からメールが来た────『なんじにかえるの?』と。
送り主は、今年6歳になったばかりの幼い弟だ。
それに対し、レオンは『7じごろにはかえるよ』と返信を送った。

しかし、ちょっとしたトラブルによって残業が出来てしまい、7時上がりは絶望視となった。
止むを得ず、『すまない、もうちょっとかえれない。8じごろにはかえるよ』とメールを送った。
弟からは『まってる』と返信が来た。

しかし、またもトラブルが起きて、更に残業が追加され、8時上がりも絶望視となった。
それでもレオンは出来るだけ早く帰ろうとしていたのだが、こんな時に運命の悪戯とでも言うのか、次から次へとトラブルが起こる。
もういっその事全部投げ出してしまおうかと、自暴自棄な思考にも至ったが、元来「責任感が強過ぎる」と言われるきらいのあるレオンが、そんな自由な真似が出来る筈もなく、結局、最後の最期まで会社に残る事になった。

ようやく仕事を終えたレオンは、電車を使う時間も惜しいと、仕事終わりの目処が立った時に呼んでおいたタクシーに乗り込み、家の近くのコンビニまで走らせた。
釣り銭なしできっちり支払を終えた後は、只管走ってマンションに向かう。
エレベーターでは遅いと、階段を駆け上って、自分の家がある8階に到着すると、通路を急ぎ足に歩きながらカードキーを取り出した。
そして予定を大幅にオーバーして家の前に着くと、直ぐにカードキーをドアの施錠に当てた。
ガチャリ、と音が鳴るのを確認して、ドアを開け、


「ただい、ま、……」


は、は、と肩で息をしながら、帰宅の挨拶。
けれど、いつも其処に帰って来る、無邪気な声はない。

無理もないか、とレオンは暗い部屋の中を見つめて思った。
時刻は11時半を周ろうかと言う所で、小さな子供が起きていられる時間ではない。
レオンはいつもは遅くても8時前後には帰宅できるように努めており、弟もそれを覚えている為、夕飯も食べずに兄の帰りを待っているのだが、流石にこんな時間までは起きていられなかったのだろう。

レオンはリビングに入ると、壁のスイッチを押して灯りを点けた。
煌々とした蛍光灯の下、テーブルの上にラッピングされた夕飯が置いてある。
今日の夕飯は、昨日の内に作り置きしていた唐揚げやミートボールなどで、仕事から帰ったら直ぐに食べられるようにと、今朝盛り付けを済ませて冷蔵庫に入れていた。
どうやら弟は、それを自分で取り出し、温めをして兄の帰りを待っていたようだ。

弟が知らない内に随分と成長していた事と、仕事で疲れて帰るであろう兄を想ってくれた事に微かに頬を緩めたレオンだったが、


「……?」


テーブルに並べられた夕飯は、二つ。
可笑しい、と思ってレオンは眉根を寄せた。

レオンは鞄を椅子に置いて、ラッピングの上から皿に触れた。
冷たくなっているそれは、一度は温められたのだろうに、そのまま放置されて長い事が知れる。
それは良いのだが、判らないのは、皿が二つとも残されていると言う事だ。
てっきり、弟は先に夕飯を食べ、待ち切れずに寝室で眠ってしまったものと思っていたのだが、ならば何故二つ分の皿が手つかずで置いてあるのか。


「スコール?」


レオンは辺りを見回して、弟の名を呼んだ。
返事はなく、部屋の中はしんと静まり返っている。

まさか、とレオンの脳裏に厭な思考が過ぎる。
小さな子供が夜遅くまで一人で留守番をしているのは、非常に危ない。
マンションのセキュリティは上質な方だが、それも完璧なものではないし、擦り抜ける方法は幾らでもある。
そして世の中には、小さな子供を狙った犯罪が横行しており、一週間前にもそれがニュースで取沙汰されていた。
だからこそ、レオンは出来るだけ早く家に帰ろうとしていたのに、この有様。


「スコール。スコール!」


声を大きくしながら、弟の名を呼ぶ。
やはり返事はない。

どうして食事が2人分あるのだろう。
食べなかった?食べる暇がなかった?食べられなかった?
メールは9時を過ぎた頃に『まだ?』と言う短い一文だけが送られていて、それに対しレオンは『ごめんな、もうちょっとでかえるよ』と返事をした。
何かあったとしたらその後か、それともその時には既に──────

巡る思考を打ち切ったのは、かたん、と言う小さな音だった。
ともすれば聞き逃しそうなその音に釣られて、レオンは顔を上げる。
音が聞こえたのは、寝室だった。


「────……スコール?」


ドア越に呼びかけてみるが、また返事はなかった。
レオンは息を詰めて、キ、とドアを押し開ける。

ふわり、冷たい風がレオンの頬を撫でる。
開け放たれた窓から吹き込んでくる風が、ふわふわとレースのカーテンを躍らせていた。
その直ぐ下、ベッドの上で丸くなっている影が一つ。

─────ほ、とレオンは安堵の吐息を漏らした。


「いつもソファで寝てるのに。今日はちゃんとベッドに行ってたんだな」


すぅ、すぅ、と寝息を立てている小さな子供────スコール。
レオンはベッドの傍らに膝をついて、丸くなっているスコールの頬をそっと撫でた。

眠る幼い小さな手には、レオンが昨日洗って部屋干ししていたポロシャツが握られている。
スコールはそれを抱き締めるように抱えていて、シャツはすっかりしわくちゃになっていたのだが、レオンはそれを見ても口元が緩むだけ。
寂しがり屋の小さな弟は、一人での留守番に寂しさを感じると、こうして兄を求めて、兄の気配がするものを探すのだ。

すやすやと眠るスコールに、良かった、とレオンは一気に肩の力が抜けて行くのを感じた。
大袈裟だったな、と先程までの自分の取り乱しようを思い出し、ひっそりと顔を赤らめる。
けれど、空いた窓を見上げて、強ち冗談じゃ済まされない事もあるかも知れない、と思い直した。
スコールを起こさないように、音を立てないように気を付けつつ、腕を伸ばして窓を閉める。


「ん……」


ぎしり、と鳴ったスプリングの音の所為か、もぞ、とスコールが身動ぎする。


「ふぁ……おにいちゃん…?」
「……ああ。ごめんな、遅くなって」


青灰色が覗いて、レオンを映し出す。
くしゃ、と頭を撫でてやれば、スコールは嬉しそうに頬を綻ばせた。

すり、と擦り寄って来る小さな弟の体を抱き締める。


「スコール、ご飯食べてないのか?」
「うん……」
「お腹痛い?」
「んーん……おにいちゃん、いっしょ…」


お兄ちゃんと一緒に食べたい。
だから、お兄ちゃんが帰って来るまで良い子で待ってた。

ポソポソと零れる弟の言葉に、レオンはついつい口元が緩む。
可愛いな、と抱き締めてやれば、柔らかい頬がすりすりと猫のように寄せられた。


「どうする?ご飯、食べるか?」
「んぅ……」


スコールからの返事ははっきりとはしなかった。
そのまま、腕の中で再度寝息を立て始める弟に、無理はないか、とレオンは苦笑する。

眠るスコールをそっとベッドに戻して、部屋着にきがえ、レオンは寝室を出た。
すっかり冷めてしまった夕飯は、冷蔵庫に入れて置き、明日の朝食ないしは昼食にしてしまおう。
幸い、明日は仕事が休みになったので、今日の埋め合わせに、夕飯にはスコールが好きなものを用意してあげよう。

そんな事を考えながら、レオンは食卓を片付けると、寝室へ戻る前に、一度キッチンに向かう。
吊り棚の扉を開けて、手前に並んでいる食器を退かし、奥に隠していたのものを取り出す。


「喜んでくれると良いんだが」


赤と緑のクリスマスカラーでラッピングされた、人の頭程の大きさの袋。
それは今晩、クリスマス・イブに良い子の下へやって来る、サンタクロースからのプレゼント。
吊り棚は、小さなスコールでは椅子に乗っても届かないので、此処に隠していたのだ。

寝室に戻って、すやすやと眠るスコールの枕元に、そっとプレゼントを置いておく。
これでよし、と自分も床に就く為、スコールの隣に潜り込んで、


「……ん?」


レオンは、見上げた窓辺に、何かが挟まっているのを見付けた。
腕を伸ばして取ると、それは一週間前にスコールがレオンに珍しくおねだりした、便箋だった。

携帯電話を灯りにして、『サンタさんへ』と書かれたそれを開いてみる。
其処に綴られた、幼い弟の文章を見たレオンの目尻は、何処までも優しく柔らかく。


『サンタさんへ

プレゼントを もってきてくれて ありがとうございます
でも きょう ぼくは プレゼントは いりません
ぼくのプレゼントは おにいちゃんに あげてください
おにいちゃんは まいにち おしごと がんばってます
ぼくは おにいちゃんに なんにもあげられません
だから ぼくは がまんするから
サンタさんが ぼくのかわりに おにいちゃんに プレゼントを あげてください

スコールより』


便箋をおねだりされた日、スコールは「サンタさんにお手紙書くの」と言った。
レオンはてっきり、自分の欲しい物を書いておねだりしたのだとばかり思っていた。
だから、何度も手紙を見せて欲しいとさり気無くお願いしてみたのだが、スコールは恥ずかしがってばかりだった。

─────その理由がこれ。
成る程、レオンに見せたがらない筈だ。



すやすやと眠る、幼い弟を抱き締める。

小さな小さな、自分だけのサンタクロース。
ぎゅ、と抱き着いて来るその温もりが、何よりのクリスマスプレゼントだと思った。





[おねがい、とどいた?]



社会人レオンと子スコでメリークリスマス。
一日遅れたけど。書きたかったので!

[レオン&子スコ]おねがい、とどいた?

  • 2012/12/26 23:06
  • Posted by

[サンタさんへ おねがいします]の続きです。





レオンが目を覚ますと、小さな弟はまだ腕の中ですやすやと眠っていた。

スコールを起こさないように、ゆっくりと起き上る。
カーテンの隙間から滑り込んでくる陽光は、眩しく、暖かい。
しかし、ベッドから一歩降りると、ひんやりとした冷気が足下から上って来て、レオンは顔を顰めた。
床暖房のあるマンションに引っ越した方が良いかな、と思いつつ、寝癖のついた頭を掻く。

ころん、とベッドの上でスコールが寝返りを打った。
小さな手が何かを探すように彷徨うのを見て、レオンは小さく笑みを零す。
スコールの手は、ベッドシーツを手繰るように握り締めたけれど、それだけでは不満なのだろう、スコールの眉間にシワが寄っている。
寂しげに握り開きを繰り返している小さな手に、レオンは自分の手を重ねた。
すると、きゅ、と小さな手が柔らかい力でそれを握り、


「んぅ……」


レオンの手を握ったまま、スコールはもそもそと身動ぎした。
目元にかかった前髪をそっと払ってやると、ふる、と長い睫が震えて、瞼が開く。


「……ふぁ……」
「おはよう、スコール」
「…おにいちゃ…おはよ…」


眠そうに目を擦りながら、スコールが起き上がる。
レオンと同じ、ふわふわとした猫っ毛の髪が、あちこちに跳ねていた。

それを優しく撫で梳いていると、スコールはぼんやりとした目できょろきょろと部屋を見回す。
何かを探している様子の弟に、レオンはくすりと笑みを漏らし、


「ほら、スコール。其処、見てみろ」
「……あ!」


レオンが指差した先を見て、スコールの目がきらきらと輝いた。
赤と緑のクリスマスカラーでラッピングされたそれには、サクタクロースの柄のリボンが結ばれている。
リボンにはメッセージカードが添えられており、『スコールくんへ』と宛名が書かれていた。

スコールは自分の頭ほどの大きさのそれを手に取って、じっと見つめる。
そして宛名に書かれた名前を見付けると、へにゃ、と眉をハの字にした。


「どうした?サンタさんからのプレゼントだろう?」
「うん……」
「一年間、良い子にしてたからな」


ぽんぽんとスコールの頭を撫でるレオンだったが、スコールの表情は以前として晴れない。
おや、とレオンがその様子を見守っていると、スコールはまたきょろきょろと部屋の中を見回した後、


「お兄ちゃんのは?」
「俺?」


鸚鵡返しのレオンに、うん、とスコールは頷いた。


「僕、サンタさんにお願いしたの。僕、今年はクリスマスプレゼント我慢するから、代わりにお兄ちゃんにプレゼントあげてって。お兄ちゃん、いっつもお仕事頑張ってるから」


それを聞いて、ああ、とレオンは昨晩見たものを思い出す。

可愛らしい便箋に書かれた、スコールからサンタクロースへ宛てられた手紙。
その手紙には、自分のプレゼントはいらないから、お兄ちゃんにプレゼントをあげて、と書かれていた。
まだ幼くて、兄の為に何も用意できない自分の代わりに、自分の分を我慢するから、と。

我慢すると決めていたスコールだけれど、サンタクロースからのプレゼントは、一年間を良い子に過ごしていたスコールへのご褒美だから、貰えるとやっぱり嬉しい。
でも、お願いした筈の兄へのプレゼントは、何処にも見当たらない。
それが自分へのプレゼントの喜び以上に悲しく思えて、スコールはしゅんと落ち込んでしまっていた。

レオンは、しょんぼりとした表情で自分へのプレゼントを見つめるスコールを抱き上げて、膝上に乗せる。


「大丈夫だよ、スコール。実はな、昨日の夜、サンタさんに会ったんだ」
「ほんと?」
「ああ。それで、スコールからの手紙、きちんと読んだって言ってたよ。でも、サンタさん、ちょっと困ってたんだ」
「困ってた…?」


どうして?と首を傾げるスコールに、レオンは努めて優しい声で言った。


「スコールは、クリスマスプレゼントは我慢するって言ったけど、サンタさんは凄く感動してて。こんな良い子には、とびっきりのプレゼントをあげたいって思ったらしいんだ。でも、スコールの手紙には、自分は良いからお兄ちゃんにって書いてある。どうしようかな、と思ってた所で、俺の目が覚めてしまってな」


びっくりしたぞ、起きたらサンタさんがいたんだから。
そう言うレオンに、スコールはきらきらと目を輝かせた後、ぷく、と頬を膨れさせる。
起こして欲しかった、と言わんばかりの表情に、レオンは誤魔化すように苦笑した。


「それと、サンタさん、プレゼントは今年配る子の分しか用意できていなかったらしいんだ。俺はもう大人だから、数に入ってなかった。だから、俺にプレゼントをあげたら、今年良い子にしていた誰かの分がなくなってしまう。それじゃあ、貰えなかった子が可哀想だろう?」
「うん」
「だから、俺からサンタさんにお願いしたんだ。俺の分のプレゼントを、スコールにあげて下さいって」


レオンの言葉に、スコールはむぅ、と口をへの字にした。


「それじゃ、お兄ちゃんのプレゼント、なくなっちゃう」


スコールは、どうしてもレオンにプレゼントを贈りたいらしい。
不満そうなスコールに、レオンはくすくすと笑って言った。


「俺には、スコールのその気持ちだけでも、凄く嬉しいよ。それに、サンタさんとは約束したからな。来年は、スコールの分と、今年の俺の分を用意してくれるそうだ」
「……ほんと?」
「ああ。本当だ」


ぱああ、とスコールの表情が明るくなって行く。
それを見て、よしよし、とレオンは満足げにスコールの頭を撫でる。

其処へ、きゅうぅ、と可愛らしくもいじらしい音が鳴り、スコールの顔がぽわっと赤くなる。
レオンはくすくすと笑って、スコールを抱いて寝室を出た。


「お腹が空いたな、スコール。昨日は夕飯、食べないで待っててくれたんだな」
「だって、お兄ちゃんと食べたかったんだもん」
「うん。遅くなっちゃってごめんな。直ぐに朝ご飯の用意するから、その間にプレゼント、開けてみたらどうだ?」


リビングのソファにスコールを下ろし、レオンはキッチンへ向かう。
朝から唐揚げはちょっと重いかな、と思いつつ、一晩の空腹を思えば、大丈夫かも知れないと思い直す。

リビングからはがさがさと袋を開ける音。
それから、わあ、と嬉しそうな声がした。
はしゃぐ声で兄を呼ぶスコールに、レオンはほっと安堵に胸を撫で下ろす。



─────さて、来年は何を用意しよう。

二人でお揃いのものがいいかな、と思いつつ、相変わらず弟が喜びそうなものからリストアップするレオンであった。






どうしてもお兄ちゃんにクリスマスプレゼントがしたい子スコが書きたかった。
でも、お兄ちゃんもどうしても子スコにクリスマスプレゼントがしたかった。

スコールへのサンタさんからのプレゼントは、ライオンのぬいぐるみだったそうです。

[ちび京一]ヒー・イズ・アワーズ・リトルサンタ

  • 2012/12/26 22:52
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一日遅れたけど、メリークリスマス!





手渡されたのは、パーティグッズとしてよく使用される、子供用のサンタ服だった。


京一は自分が、可愛い性格をしていない事を自覚している。
斜に構えていて、なんでも疑ってかかるし、生意気な性質だ。
だから、幾ら相手が世話になっている『女優』の面々とは言え、渡されたサンタ服を見て「サンタクロースになれる!」などと喜んで見せる事は、土台無理な話であった。
大体、5歳6歳のまだ夢見がちな子供であるならともかく、それなりに自我も育ってプライドも持ち始める10歳を越えた少年に対して、サンタ服を渡すのもどうかと思う。

とは言え、それを渡して来たのは、『女優』のメンバーである。
にこにこと笑顔を浮かべたアンジーの向こうで、目をきらきらと輝かせているサユリとキャメロンがいる。
明らかに“何か”を期待しているその眼差しを邪険に出来る程、京一は空気が読めなくはなかった。

此処は、アレだ。
日頃世話になっている恩返しだと思って、腹を括ろう。

程なく、そんな結論に行き付いて、京一は渋々顔でサンタ服を包んでいるビニールを破り捨てた。


もこもことした赤い腹には、ふわふわとした白が縫い付けてある。
シャツの上に着れる上着と、ズボンと、天辺にポンポンのついた三角帽子。
それから大き目の麻布袋があって、「プレゼントを入れてね!」と言う用途説明の紙があった。

赤い服に白い大きな袋と来て、最後にもう一つ────サンタクロースの白ヒゲがあるのかと思ったら、見当たらない。
子供用のパーティグッズだから入っていないのだろうか。
京一としては、口周りがもさもさと鬱陶しい事になりそうなので、なくて幸いだったが。

赤白の衣装で、一ヵ所だけ黒いベルトは、布生地で最初から上着に縫い付けられていた。
開けられてある穴の位置を直しながら、バックルを通して固定する。
帽子は縁のふわふわの中にゴムが仕込んであるようで、深く被れば頭を振ってもずり落ちない。
最後に空っぽの袋を肩に担いで、準備完了。



「……これでいいのか?」



頭の帽子の位置を直しながら問うた京一。

ふわふわもこもこの赤い衣装を着た子供に、『女優』の面々は常以上にきらきらと目を輝かせ、



「いやぁああん!京ちゃんカワイイ~!」
「ぐぇっ!」
「京ちゃんカワイイ!世界一カワイイわァ!」
「こんなサンタさんがうちに来てくれたら、もう絶対返さないわよォ!」
「いででで!いで!マジ痛ェ!」



アンジー、サユリ、キャメロンからぎゅうぎゅうと抱き締められて、京一は悲鳴を上げた。
興奮している所為か、彼女達の腕の力には容赦がない。
やばい潰れる、死ぬ、と京一は本気で思った。

暴れる事すらままならない京一が、ぐったりし始めた所で、アンジー達はようやく我に返った。
酸欠で蒼い顔をした京一に、あらあら、と眉尻を下げて詫びる。



「ごめんねェ、京ちゃん。すンごく可愛かったから、つい興奮しちゃって」
「うえっぷ……」
「大丈夫?ハイ、お水」



香水と(彼女達には申し訳ないが)汗臭さと、ちょっとした(これもまた申し訳ないが)男性特有の濃い匂いに揉まれ、吐きそうな仕草をした京一に、サユリがグラスを差し出した。
京一はソファに座って、受け取った水をこくこくと飲み干す。

グラスが空になって、京一はほっと息を吐いた。



「うえ~、死ぬかと思った」
「ごめんね」
「んー……」
「あんた達はもうちょっと落ち着きな。京ちゃん、こっちにおいで」



何度も謝るアンジー達に、もういいよ、と頷いた京一を、カウンター向こうからビッグママが呼んだ。

京一はグラスをサユリに返して、ソファを降りる。
ととっと駆け足でカウンターに向かうと、背の高い椅子に登った。



「なんだ?」
「ほら」
「ん?」



ことん、とカウンターに置かれたもの。
それは緑色の包装紙に、赤いリボンでラッピングされた、正方形の箱。
この時期、誰が見ても判る、クリスマスの為のプレゼント。

おお、と京一の目が輝いた。
自分が捻くれた性格をしているとか、素直ではないと言う自覚がある京一だが、こういう行事の時のプレゼントと言うものは、やはり子供心を喜ばせるものである。
特にビッグママやアンジーは、京一の好みを熟知してくれているので、必ず京一が喜ぶものを用意してくれる。
京一は先のアンジー達に負けず劣らず、きらきらとした目でプレゼントを手に取った。



「これ、オレの?」
「ああ」
「開けて良いか?」
「どうぞ」



頷いたビッグママに、京一はよーし、と意気込んで、ラッピングの端に手をかけた。
テープで密封された端の隙間に指を入れて、力任せに破って切る。
ビリビリと勢いよく包装紙を破いて行く京一を、ビッグママは煙管を吹かしながら、柔らかい面持ちで眺めていた。

包装紙の一角がなくなると、中に入っていた箱に描かれた文字が見えた。
それを見た京一の目が見開かれ、破る手が興奮するように早くなり、



「おー!!」



喜びと感歎の入り交じった少年の声が響く。
京一の手には、先日発売されたばかりの新しいポータブルゲームの本体と三本のソフトがあった。



「マジで?マジでこれいいのか?」
「ああ。その代わり、勉強もきちんとやるんだよ」
「やるやる!へへー、やっりー!」



元気の良い返事が、いつまで守られるのやら。
ビッグママは思ったが、無邪気に喜ぶ子供を前に、いつまでも堅苦しい事は言うものではない。

どれからやろうかな、とソフトを選んでいる京一に、アンジー達が声をかけた。



「京ちゃん、アタシ達からもクリスマスプレゼント、あるわよォ」
「マジ?何何?」
「うふふ。内緒」
「ンだよー、勿体ぶるなよ」
「まぁまぁ。ほら、アタシ達のはサンタさんの袋に入れておいたから。後でゆっくり開けてね」
「おう」
「京サマからの分も入ってるのよ」
「……それ考えたらなんか怖ェな、その袋……」



アンジー、サユリ、キャメロンからのクリスマスプレゼントは純粋に嬉しいが、師の名を聞いた瞬間、京一の顔が引き攣った。
何せ師は酷く古風な人間であったから、こんな浮かれた行事とは縁もゆかりもなさそうだった。
そんな師からクリスマスプレゼントとは、到底想像がつかない。

何が入っているのか、師からの分だけでも確かめたかったが、きっとアンジー達は教えてくれないだろう。
─────師の事だ、何も悪いものが入っている訳ではあるまい。
京一は理解が出来ない、奇妙な物は入っているかも知れないが(奇妙な紋様が書かれた札とか、棒切れとか、あまり見ない色をした石だとか)。



「それからね、お店のお客さんからも色々預かってたのよ」
「ふーん」
「ほォら、京ちゃん、これ全部京ちゃんのよォ」



カウンターの裏に入っていたキャメロンが、両手一杯のプレゼントを抱えて出てきた。
どさ、とテーブルに置かれたその山を見て、京一はあんぐりと口を開ける。



「すげー……」
「人気者ねェ、京ちゃん」
「皆、京ちゃんの事が大好きなのよォ」
「当然よ。京ちゃんはこんなに可愛いんだもの」
「別に可愛かねえけど…」



べたべたに褒めるアンジー達に、京一はぼそぼそと反論するが、その顔はすっかり赤くなっている。
その表情がまた、アンジー達には可愛くて堪らない。

サユリがソファに置いたままにしていた、サンタの袋を持って来た。
がさがさと中から音がするのは、彼女達が入れてくれたプレゼントだろう。



「お客さんからのプレゼントも、この中に入れちゃいましょう」
「入りきるかしらねェ」
「それより、あんまり入れたら重たくなっちゃうんじゃない?重いと京ちゃんが大変よォ」
「別にいいよ、それぐれェ。バラバラになってるより、持ち易い方がいい」
「じゃ、特に重い物は別にして、軽いもの一通り詰めちゃいましょ」



客からのプレゼントだと言う山が、どんどん削れて、袋の中へ。
入るだけ入れ終わった頃には、袋はすっかり大きく膨らんで、正にサンタクロースの袋のようになっていた。



「ちょっと重いかしら…」
「ヘーキだよ。ちょっと貸してくれよ」



京一はカウンター椅子から飛び降りると、アンジーが持っていた袋に手を伸ばした。

譲られた袋の口を引き絞ってしっかりと閉じ、よっ、と軽く勢いをつけて持ち上げる。
大きくなった袋を体の前で抱えるのは邪魔だったので、くるっと方向転換して、肩に担ぐ。
軽く肩に後ろへ引っ張る重みが乗ったが、持っていられない程ではない。

よし、へーきへーき、と京一が確かめていると、



「いや~ん、京ちゃん、ホントにサンタさんみたい!」



サンタクロース象徴である赤い服、ポンポンつきの三角帽子、そしてプレゼントを詰めた大きな袋。
白いヒゲこそないものの、その姿は、正しく小さなサンタクロース。




都会の片隅に現れた、小さな小さなサンタクロース。

大きな袋の中身は、サンタクロースへのプレゼントで一杯になっていた。






うちのちび京は行事の度に何かコスプレしてる気がする。
だって着せたいんだ!絶対可愛いから!!

[寺院all+?]I will your wish.

  • 2012/12/26 22:42
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一日遅れましたが、クリスマス話。


 



別に、特別な事を期待していた訳ではなかったのだ。
今日がクリスマスであるからと言って。


仏教である寺院にクリスマスなど、まるで関係のない事だと言わんばかりに、寺院の中は常と変わりない。
いや、いつもよりも慌ただしい、と言う違いがあった。
しかし、それは所謂年末進行と言う奴の所為で、クリスマス云々とはやはり関係のないものである。

悟空にも、クリスマス云々と言うものは、特に関わりのない話だった。
そもそもクリスマスを知った事自体がつい最近の事で、去年までの今日は、そんな行事があるなど露知らず、冬の寒さに暖を求めて包まっているばかりであった。


だが、知ってしまった以上、やはりその単語はふとした折に脳裏を過ぎる。




「…でも、やっぱり関係ないよなー」




一人きりの部屋の中で、悟空はベッドに倒れた格好で呟いた。


三蔵は朝早くから(と言っても重役出勤なので、他の修行僧に比べると遅いのだが)仕事に出ており、恐らく夜まで帰って来ない。
此処の所、三蔵は忙殺されるかのように忙しくしており、悟空と一日顔を合わせない事もあった。
面倒臭がり屋だが、真面目な性質でもある三蔵は、やれる仕事は一通りこなすようにしている(出来はともかくとして)。
その結果、年末特有の仕事量に埋もれかけた状態になっていた。

悟空は特にやらなければならないような義務がないので、只管暇を持て余している。
裏山に遊びに行っても良いのだが、冬山は動物達が皆巣篭りしているので、何処か心寂しく、いつまでも其処で遊んでいる気にはなれなかった。
何より、寒い。
三蔵や悟浄は、悟空の熱量が高い事を理由に、寒さなんて感じないのだろうと言うが、そんな訳がない。
動き回っているから体が温まり易いだけで、じっとしていれば寒さに蝕まれるし、北風に晒されてすやすやと眠れる程に気温の低下に鈍い訳でもないのだ。

だから悟空は、此処数日、部屋の中でごろごろと転がってばかりと言う不精な生活を続けていた。


本当は外で遊びたい気持ちがない訳ではないのだ。

真冬に入り、降り積もる雪に対する恐怖は、既に消えているから、寒さ以外で悟空を外界から可惜に遠ざけるものはない。
だから外に出る事に抵抗はないのだが、遊び相手────動物達────のいない冬山で、一人駆け回って過ごすのは、流石の悟空とて無理があった。
最終的に冷え切って暖を求めて下山するのであれば、最初から外に出ない方が良い気がする。


けれど、悟空は元々、外遊びを好む性質だ。
いつまでもゴロゴロと過ごしてばかりでは、エネルギーが有り余って仕方がない。

せめて何か、暇潰しが出来るものでもあれば良いのに─────と、思っていると、




「なんだ、随分辛気臭ぇ面してるじゃねえか」




聞き慣れない声と共に、突然視界を埋め尽くした、見慣れない顔。
悟空はぱちぱち、と金瞳を瞬かせ、目の前の“それ”を見つめ続けた。

そうしてたっぷり、数十秒。




「うわっわっ!!誰だよ、あんた!!」




一気にベッドの端へ逃げた悟空の反応に、“それ”はからからと快活に笑った。




「なんだ、元気じゃねえか。そーそー、お子様はそんだけ元気にしてる方がいいぜ」
「ガキじゃない!っつか、誰だって聞いてんの!」




前触れもなく現れた“それ”は、悟空の視界に入ってくるその瞬間まで、僅かもその気配を感じさせていなかった。
正に降って沸いたように、“それ”は悟空の前に現れたのである。


じりじりと軽快するように後退しながら睨む悟空に、“それ”は随分とのんびりした口調で言った。




「俺が誰かなんてのは、どうでも良い話なんだよ」
「良くねーよ……」
「別に俺が悪い奴には見えないだろ?」
「…うー……それは、まあ、うん…」




両手を腰に当てて、泰然とした態度で言う“それ”からは、確かに悪意や敵意は感じられない。
じっと見ていて、ただ佇んでいるだけなのに、一部の隙も見当たらない事や、音も気配もなく突然現れた事が悟空には引っ掛かるが、それだけだ。
今直ぐ“それ”が襲い掛かってくるような気配はないし、何故か、根拠はないが『大丈夫』な気がする。

そして何より、──────




(なんだろ。なんか、懐かしい匂い、する。ような気がする)




懐かしい匂い。
懐かしい。

何がどう『懐かしい』のかは判らない。
どうしてそのように感じるのかも。


違和感のような、それ程でもないような、奇妙な感覚に囚われて首を傾げていた悟空だったが、ずい、と触れそうな程に近付いた顔に気付いて、目を丸くする。




「な、何だよ?」
「いや、な。随分退屈そうにしてんなぁと思ってよ」




退屈─────していたのは、確かだ。

特にやるべき事も、する事もなく、寒いので外に出る気もせず。
ごろごろとベッドの上で虫になって、早く三蔵帰って来ないかなあ、悟浄と八戒遊びに来ないかなあ、とぼんやり考えていたばかり。
これにもそろそ飽きていて、いっそのこと寝ようかな、でも今寝たら夜が寝れないな、と言う思考にシフトしつつあった所だった。


退屈そうと言う言葉に、うん、と頷いた悟空に、“それ”はにやりと笑って見せた。
人を食ったような、楽しそうな、それでいて何処か優しさが滲むその瞳に、悟空はあれ?と首を傾げた。
何処かで見たのかな、と考えてみるが、記憶は薄靄がかかっていて、いまいち判然としない。

ぐしゃぐしゃと、大きな手が悟空の大地色の髪を掻き撫ぜる。
突然の事に驚いて固まる悟空に、“それ”は頭に置いた手をそのままに、再び悟空に顔を近付けて言った。




「今日はクリスマスってぇ日だからな。良い子でご主人様を待ってるお前に、プレゼントだ」




ぱちん、と指の鳴る音が響く。
まるで何かに合図を送ったかのよう。

それからしばしの沈黙があって、悟空は何が起きたのだろうときょろきょろと辺りを見回した。
しかし、特に変わった所は見当たらない。
今の何?と問おうとして前に向き直ると、其処にいた筈の人の姿は何処にもない。




「……?」




窓は閉じている、ドアも開いていない。
人が出入りしたような気配は、何処にも残っていなかった。

音も気配もなく突然現れて、音も気配もなく、消えて行った。
ひょっとして起きたまま夢でもみていたのではないかと思う程、部屋の中には、悟空以外がいた形跡がない。
一体何がどうなったのか、どうにも釈然とせず、狐に化かされたような気分で、悟空は眉根を寄せた。


しばらく、今し方自分に起きた出来事について考えていた悟空だったが、元より頭を使うのは苦手な方だ。
十分もしない内に考える事に飽きて、慣れない考え事をした所為か、いつの間にか悟空は夢の世界に落ちていた。



……それから、約一時間後。

荒々しい音とともにドアが開かれる。
ばたん、と壊すのかと思う程の勢いで開かれたドアに、悟空は思わず目を覚ました。




「ったく、なんだってんだ」
「……さんぞ?」




苛々とした口調で愚痴を吐きながら部屋に入って来たのは、金糸の僧侶─────玄奘三蔵。

もう仕事が終わったのか、と思って窓の外を見れば、まだ外は明るく、彼の仕事終わりの予定時間としては早過ぎる。
おや、と悟空が首を傾げている横に、三蔵が腰を下ろし、懐から取り出した煙草に火を点けた。
ふ、と煙が空気を燻らせているのを見つめながら、悟空は疑問を口にした。




「三蔵、仕事は?もう終わったの?」
「いいや。だが、今日はもう仕事にならん」
「なんで」
「向こうの都合だ」




何を指しての“向こう”なのか、悟空には判らない。
三蔵は其処まで説明をするつもりはないようで、悟空の方も特に確かめようとは思わなかった。
三蔵が今日はもう仕事に行くつもりない、と言う事だけが判れば十分だ。


ばす、と窓の方で何かが崩れる音が聞こえた。
何かと思って窓を見ると、何か白いものが窓ガラスに当たってバラバラになって行くのが見えた。

ベッドを降りて窓辺に駆け寄れば、いつから降っていたのか、一面の白い雪景色の向こうに立つ、二つの影。
冬の最中だからか、全体的に抑え目の配色の中、赤色だけが酷く映えて見える。
──────悟浄と八戒だった。


悟空は窓を開けて、二人に届くように声を大きくする。




「二人とも、何やってんのー!」




窓から顔を出し悟空を見て、悟浄は手に持っていた雪玉をぽんぽんと投げて遊ぶ。
その傍らで、寒そうにマフラーに口元を埋めていた八戒が顔を上げ、




「お鍋、これからやろうと思いまして。悟空と三蔵もどうですか?」
「来るよなぁ?折角俺達が誘いに来てやってんだからよ」
「クリスマスケーキもありますよー」
「お前らが来ねえなら、犬のエサになるけどな」




二人の言葉に、悟空は「だめー!!」と反射的に叫んだ。
しんと静かであった雪景色が、俄かに賑々しさに包まれる。

くつくつと笑う二人の、冗談なのに、と言う言葉など知る由もなく、悟空は踵を返してベッドに寝転んでいる三蔵に駆け寄った。





保護者の手を引き、早く早くと急かしながら、寺院を出て行く子供。
水面に映るそれを見つめて、気紛れな神は小さく微笑んだ。







神様からのクリスマスプレゼント。
うちの菩薩様はかなりの悟空びいき。

三蔵の面倒臭い仕事とか、色々神様権限でドタキャンさせたようです。
後で三蔵の仕事が大変な事になるんだけどw、チビが嬉しそうなので、これで良し。
一応、その所為でまた悟空が寂しい思いしない程度には、配慮はしてくれると思います。多分。

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