サイト更新には乗らない短いSS置き場
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2013年02月05日
[猫レオン&仔猫スコ]待って、待って
かぷ、と首の後ろを噛んで持ち上げる。
そうやって、高い塀や、幅の広い溝や、パイプの上を運んで行く。
それが一番安全なのだけれど、いつまでもそうしている訳には行かない。
生まれて半年近くが立って、幼子はやっぱり小さな体をしているけれど、伸び伸びと成長してくれた。
最近は兄の真似をする事に一所懸命で、兄が毛繕いをしたり、昼寝したりすると、一緒になって毛繕いしたり、昼寝したり。
もう幼子と言う程幼くはないけれど、兄にとってはやはり、幼子は幼子であった。
何かあると直ぐにおにいちゃん、と呼ぶし、ちょっとした段差に足を取られてころんころんと転がってしまう。
なんとも、見ていて危なっかしい。
でも、だからと言って、いつまでも過保護にしている訳には行かない。
自分自身で生きて行く力を身に付ける事が出来なければ、この世界で生き残っていく事は難しい。
例え兄がどれだけ守り続けていようとも。
お兄ちゃん、お兄ちゃん。
呼ぶ声に振り返れば、とてとて、とてとて、駆け寄ってくる幼子がいる。
すりすりと身を寄せて来る幼子に、こつん、と鼻を押し付けた。
それだけで嬉しそうに目を細める幼子は、兄を無心に慕ってくれる。
だからこそ、少し心が痛いけれど、だからこそ、心を鬼にしなければならない。
そうしないと、この子はいつまで経っても、一人前になれないから。
お腹空いたな、と言うと、幼子はうん、と頷いた。
ママ先生の所にご飯を貰いに行こう、と言うと、幼子はうん、と嬉しそうに頷いた。
今日は近道して行こう、と言うと、幼子はうん、と頷いた。
いつも通る道を途中で曲がると、後ろをついて来ていた足音が止まる。
お兄ちゃん、と呼ぶ声がして、振り返ると、見慣れない道に戸惑う様子の幼子がいた。
大丈夫、と促すと、駆け足で追い駆けて来て、ぴったり兄の後ろをくっついて歩く。
行き止まりの壁を、ジャンプで登る。
壁の上から下を見下ろせば、幼子はぐるぐると辺りを歩き回る。
待って、待って、お兄ちゃん。
幼子はきょろきょろ辺りを見回した後、見付けた室外機の上にジャンプした。
それから、小さな棚、詰み上がったプロックと点々と飛び移って、兄の下へ。
ほんの少し前まで、壁の下で兄を呼ぶしか出来なかったのに、一人で登れるようになった。
毎日、兄の真似をして、飛び跳ねる練習をしたからだ。
よく出来ました、と耳の裏を撫でてやると、ぴくぴく、と嬉しそうに耳が跳ねる。
早く行こう、お兄ちゃん。
得意げに行って、壁から降りようとする幼子を呼び止めた。
今日はこっちだ、と言って壁の上を伝って行くと、幼子は疑う事なく着いて来る。
家と家の隙間を通っていた壁を伝って行くと、川に出た。
其処には水道管や排気管のパイプが沢山あって、川の端と端を繋いでいる。
その中で特に太い一本を選んで、ひらり、壁からパイプに足場を移した。
パイプは太くてしっかりとしているけれど、平になっていないから、滑らないように気を付けながら歩く。
すると、
待って、待って。
お兄ちゃん、待って。
呼ぶ声が聞こえて、振り返ると、壁の上で佇んでいる幼子の姿。
おろおろ、きょろきょろ、辺りを見回しているけれど、追い駆けて来る様子はない。
待って、待って。
お兄ちゃん。
ミィ、ミィ、と兄を呼ぶ声。
兄を追い駆けようと、パイプに足を乗せてみる幼子だけれど、出しかけた前足が直ぐ引っ込んだ。
大丈夫、怖くないよ。
ゆっくり、ゆっくり、バランスを取って。
真ん中を通れば大丈夫。
ゆっくり、こっちに渡っておいで。
促してみるけれど、幼子は固まったように動かない。
ちゃぷん、と川面で何かが跳ねる音がした。
まって、まって。
おにいちゃん。
ミィ、ミィ、と兄を呼ぶ。
そうすれば、いつだって兄は戻って来てくれて、咥えて運んでくれたから。
それが一番、安全で、怖くないから。
けれど、兄は戻らなかった。
パイプの真ん中で止まっていた兄は、ふい、と背中を向けて歩き出した。
まって、まって。
おにいちゃん、まって。
まって、おいていかないで。
一際大きな声で兄を呼ぶ。
その声に、振り向いて戻りたくなるのを耐えながら、兄は反対岸に辿り着いた。
其処でようやく振り返り、ほら、おいで、と幼子を呼ぶ。
兄が戻って来てくれない事を感じ取ったか、幼子は泣きそうな顔でじっと兄を見つめていた。
どうして戻って来てくれないの、と見つめるキトゥン・ブルーに、兄はぐっと歯を食いしばる。
此処で戻るのは簡単だ、いつものように運んでやるのも簡単だ。
でもそれでは、あの子はいつまで経っても幼子もままで、生きて行く術が身に付かない。
甘やかすだけでは駄目なのだと、自分自身に言い聞かせて、兄はじっと幼子を待った。
やがて、兄を呼ぶ幼子の声は止んだ。
ぺたり、とその場に伏せて、耳が寝て、しょんぼり顔で、対岸で待つ兄を見る。
それから更に時間が経って、幼子はそろそろと起き上り、恐る恐る、パイプへ足を踏み出した。
きちんと足が乗る場所を探して、ぺた、ぺた、ぺた、とパイプを触る。
まって、まってね。
まっててね。
ミィ、ミィ、と兄を見て、幼子は言った。
そうして、そっと、そっと、パイプの上に体を乗せる。
一歩、一歩、また一歩。
戻りたい、と言いたげに、幼子は後ろを振り返る。
そんな幼子に、おいで、と声をかければ、泣きそうな顔で兄を見た。
ぷるぷる、小さく震えながら、幼子は兄だけを見て、真っ直ぐ歩く。
お兄ちゃん。
待ってね、待っててね。
ちゃんと行くから、待っててね、と言う幼子に、うん、待ってるよ、と頷いた。
慣れてしまえば、渡り切るまで20秒だってかからない。
けれど、初めて渡る幼子にとって、この道はとても怖くて、とても険しいものだから、ゆっくりゆっくり、落ちないように、慎重に。
足下で、ぽちゃん、と川面の跳ねる音がして、びくっと幼子の体が固まった。
こわい、こわい。
おにいちゃん、たすけて。
そんな声が聞こえそうなくらい、キトゥン・ブルーが見つめるけれど、兄は決して動かない。
じっと耐えるように、石になってしまったかのように、じっとその場で待っている。
一分、二分、ひょっとしたらもっと。
それくらい、幼子と兄にとって、長い長い時間が経って、
お兄ちゃん。
パイプを渡り切った幼子が、一目散に兄に駆け寄った。
ミィミィ鳴いて、すりすり体を寄せて来る幼子に、兄もほっと息を吐く。
よく出来ました。
額を撫でて、耳の裏をくすぐって、涙の滲んだ目元を拭ってやれば、お兄ちゃん、と甘えてくる声。
ぐるぐる兄の周りを周って、すりすり体を摺り寄せて、精一杯頑張った分を取り戻すように、沢山甘える。
兄もそんな幼子を、目一杯甘えさせてから、さあ行こう、と促した。
幼子は、ぴったり兄に寄り添ってついて来る。
けれど、歩幅の違いで、いつの間にか幼子は後ろをついて来る形になって、
待って、待って。
お兄ちゃん、待って。
一つ試練を乗り越えて、少しずつ大きくなって行く幼子。
けれど、どうやら、兄離れはまだまだずっと先らしい。
立ち止まって振り返れば、一所懸命に駆けてくる。
もう転んだりはしないかな、と思っていたら、ころんころんと転がった。
きょとんとした顔で逆さまになっている幼子に近付けば、お兄ちゃん、と嬉しそうに呼ぶ声が聞こえた。
ちょっと大きくなった仔猫スコ。
でもまだまだ甘えん坊。
[猫レオン&仔猫スコ]まって、まって
まって、まって。
おにいちゃん、まって。
ミィ、ミィ、と聞こえる声に、足を止める。
振り返れば、短い四足を一所懸命に動かして、追い駆けて来る幼子がいる。
幼子は、前ばかりを見ていて、足下を見ていない。
その所為で、ちょっとした段差に足を取られて、ころんころんと転がってしまう。
丸く小さなその幼子は、そうして毎日、ころころ、ころころと転がった。
幼子が生まれて、もう直ぐ二ヶ月。
母が幼子を生んで間もなく死んでしまった所為か、幼子はとても体が弱い。
同じ頃に生まれた子供達と比べても、幼子はとても体が小さくて、いつも皆に置いてけぼりにされてしまう。
そんな幼子を母に代わって、守り、育て、慈しむのが、兄である自分の役目。
まって、まって。
とてとて、とてて、ころんころん。
ああ、ほら、また。
いつも気を付けなさいと言っているのに。
おにいちゃん、まって。
逆さまのまま、幼子が言った。
起き上がろうと、じたばた足を動かしている。
来た道をくるりと戻って、幼子の下へ。
仰向けになってじたばたしている幼子を、上から覗き込めば、雫の滲んだキトゥン・ブルーが兄を見付ける。
鼻で幼子の体を押して、ころん、と横に半回転。
幼子はきょとん、とした顔できょろきょろと辺りを見回して、あれ?どうして?と言う顔。
そんな幼子の頬を撫でて、さあ行くぞ、と歩き出した。
歩く速度は気を付けて。
そうしないと、直ぐに幼子を置いて行ってしまう。
────と、気をつけている筈なのに、
まって、まって。
おにいちゃん、まって。
ふっと聞こえた声に隣を見れば、其処にいる筈の幼子はいなくて、後ろで駆け足。
立ち止まって待っていれば、幼子は一所懸命に駆けて来て、隣に来ると兄を見上げる。
可愛くて堪らない。
鼻先を近付けて撫でてやれば、くすぐったそうに笑う。
頭の上に土がついているのを見付けて、拭い取ってやった。
なあに?
きょとんとした顔で見上げて来る、丸い大きな瞳。
なんでもないよと撫でてやれば、幼子はそれだけで嬉しそうな顔をする。
ねえ、おにいちゃん。
きょうはどこにいくの?
今日は何処に連れて行ってくれるの、と。
問いかける幼子に、そうだな、何処に行きたい?と聞いてみると、
うーんとね。
まませんせいのところがいい。
いつもおいしいご飯をくれる人を、幼子はきちんと覚えていた。
ちょっと遠いぞ、と言うと、だいじょうぶ、と幼子は言った。
時々隣を確認しながら、時々後ろを振り返りながら、一緒に歩く。
今日はなんだか随分と人が多いから、ちょっと回り道をしよう。
ちょっと大変な道だけれど、大丈夫か、と言うと、だいじょうぶ、と幼子は言った。
いつもは真っ直ぐ通る道を、途中で曲がって、細い道へ。
後ろを幼子がちゃんとついて来ている事を確かめながら、危ないものがない事を確信しながら進む。
あっ。
声を上げた幼子の前には、壁が一つ。
後ろを振り返って、幼子の顔を見た。
どうするの?と言う顔で見詰めて来る幼子に、よく見ていろよ、と言って、体を低くする。
しっかりと距離を測って、地面を蹴って、高くジャンプ。
壁の上に降りて、残した幼子を見れば、ぱちくりとした表情で此方を見上げている。
おいで、と言うと、幼子はおろおろ、ぐるぐる。
いつものように兄について行こうと、壁に近付いてみるけれど、垂直の壁は歩けない。
おにいちゃん、おにいちゃん。
ミィ、ミィ、ミィ。
壁に前足をくっつけて、兄を呼ぶ。
かりかり、かりかり、引っ掻く音。
おにいちゃん、まって。
置いて行かれてしまうんじゃないかと、不安そうに兄を呼ぶ。
大丈夫、待っているから。
大丈夫、飛べるから。
だからおいで。
壁の上からそう呼んでみるけれど、幼子はじっと兄を見上げて呼ぶばかり。
後ろの足が、ぴょん、ぴょん、と跳ねる動きをするけれど、壁の半分も登れない。
まって、まって。
おにいちゃん。
まって、おいていかないで。
終いには、ぺたんと座り込んで。
ミィ、ミィ、ミィ、と声ばかり一所懸命に大きくなる。
置いて行かれたくなくて、一人ぼっちになりたくなくて。
仕方ない、と飛び降りる。
幼子のいる方へ。
おにいちゃん、おにいちゃん。
直ぐに幼子は駆け寄ってきて、すりすり、体を寄せて来る。
どうやら、この壁は、この幼子にはまだまだ早い道らしい。
ぷるぷる震える小さな体に、随分、怖がらせてしまったなと思った。
でも人の沢山いる道に戻るのは危ないから、やっぱりこの道を通るしかない。
かぷ、と幼子の首の後ろを噛んで持ち上げる。
ぷらん、と幼子が宙ぶらりんになって、あれ?お兄ちゃん?と呼ぶ声がしたけれど、今返事をしてやる事は出来ない。
そのまま地面を蹴って飛び上がり、室外機を階段代わりにして、もう一度ジャンプ。
壁の上に着地した。
すごい、おにいちゃん。
そう言った幼子は、まだ兄に咥えられたまま。
壁の反対側を除けば、上った時と同じ高さがあって、幼子ががち、と固まったのが判った。
着地地点をよく探して、よく選ぶ。
一人で降りる訳ではないから、うっかり幼子に怪我をさせてしまわないように気を付けて、ジャンプ。
一段、二段、三段と着地して、四段目で地面に降りる。
幼子を地面にそっと下ろすと、幼子はぷるぷると体を震わせた後、きらきらとした目で兄を見上げた。
すごい、おにいちゃん。
すごい。
ぴょんぴょんと兄の周りを飛び回りながら、幼子は言った。
無邪気なその姿が微笑ましくて、兄はくすりと苦笑する。
はしゃぐ幼子の頭に、こつん、と額を押し上げた。
大丈夫だと言っていたのに、全く仕様のない子だ。
でも、そんな幼子が可愛く思えてしまうから、自分も仕様のない兄だ。
鼻の頭で幼子の頭を撫でて、さあ、行くぞ、と踵を返す。
まって、おにいちゃん。
直ぐに後を追う気配。
ちらりと後ろを振り返れば、短い足で一所懸命ついて来る幼子。
ほら、足下を見ないと転ぶぞ、と言った傍から、幼子はころんころんと転がった。
完全に猫なレオンと子スコに萌えた。
「おにいちゃん、まって」が仔猫スコの口癖です。
FFオンリーお疲れ様でした!
2月3日東京FFオンリーお疲れ様でした!スペースに来て下さった方々、本当にありがとうございます!
毎度毎度やたら分厚い本しか置いてないサークルですみません(;´Д`) 薄い本ってなんだっけ。
ツイッターでお世話になっている方々も沢山来て下さって、本当に嬉しかったです。差し入れ沢山ありがとうございました!!大事に食べます!でもって私もお土産持って行ってたんですが、テンパり過ぎて何名かお渡しするのを忘れていました。すいません。本当にすいません…!
今回の新刊は、昨年12月に広島コミケで発刊したバツスコ(♀)本「僕を呼ぶ君の声が聞こえる」の後編でした。なんとか無事に発刊で来てホッとしていたのですが、家に帰って自分で読み返してたら時系列やら年齢の計算ミスがいっぱーい(゚Д゚) あれだけ確認したのになんでだ俺。いつになったらこういうトコ直るのか。
あと、出来れば今回、「絆」の三巻が書ければと目論んでいたのですが(実際前回のペーパーにもそう書いていたのですが…)、年明けのパソコンの緊急修理やら何やらで間に合わず、結局お流れとなってしまいました。次回6月の東京FFオンリーには出したいと思っております。待っていて下さった方々、すみませんでした。
余力があったら漫画も描きたいなーとか思ってたとか言わないぜ。余力もないし時間もなかったんだぜ。そんでペーパー作って行くの忘れたんだぜ……
今回、土曜日出発の夜行バス~当日着イベント~日曜出発の夜行バスでとんぼ帰りしたのですが、流石に体にキますね。ちょっと前まで此処まで疲れはしなかった筈なんだけどなぁ。イベント後に新宿池袋の同人ショップ行って三空本とか浄八本(姉貴の土産)とか、気になるジャンルごそごそ漁って行く位の気力はあったのにな。これが年か(ヽ'ω`)
色んな人に逢えて楽しかったです。隣近所にご迷惑かけてなかったか凄く不安。こんな不審者が隣に陣取ってて申し訳なかったです。でも楽しかったです、本当に。ありがとうございました。
今回の個人的なハイライトは、レオンさんとはぐはぐした事です。天に召されるかと思った!!!ありがとうございましたあああああああああ(こっそり尻触ろうとしてすいませんでした)
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