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2014年08月02日

[クラ&子スコ]親子タンデム

  • 2014/08/02 22:58
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先日、大型バイクで親子タンデムしてるのを見かけました。
ほとんど直進の大きな道を往復していたようです。
小学生の女の子が制服で乗っていて、パパ(多分)の背中にぴったりくっついて掴まってるのが可愛かった……

と言う訳で、現パロで子スコをクラウドのバイクに乗せてみた。
23歳のクラウドお兄ちゃんと、小学生のスコールです。


[ある夏の日の風景 1]
[ある夏の日の風景 2]
[ある夏の日の風景 3]


気になるものしか見えてない子供って可愛い。

[クラ&子スコ]ある夏の日の風景 1

  • 2014/08/02 22:39
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二人の出会いは、クラウドが中学三年生、スコールが生後三ヶ月だった頃まで遡る。
思春期真っ只中の、所謂疾風怒濤の時期にいたクラウドは、集団行動への違和感と、孤独と温もりへの相反する飢餓感に付き纏われていて、生来多くはない口数が一層少なくなっていた。
昨今、テレビアニメの影響か、少々意味が違って聞こえる場合もあるだろうが、思い返せばあれは俗に言われる“中二病”だったのではないだろうか。
世界にありふれている“普通”の中から、自分だけは“普通”の塊に加わるまいと、他者と違う事をしようとしたり、自分と言う存在には特別な意義がある筈だと思い悩んでみたり、と、クラウドはそう言った症状に長らく支配されていた。
平和だが、だからこそ堪る鬱屈した気持ちは、かと言って何処にぶつけられる訳もなく、クラウドの思考を更に面倒な方へ、面倒な方へと押し流して行く。
テレビアニメや漫画で見るような、大きな変化が突如降って湧いて来たらなあと妄想を膨らませつつ、それが現実になってもきっと自分は主人公にはなれなくて、天変地異が起きてもきっと何も知らされないまま光の塊に飲み込まれて、自分でも気付かない内に消滅してしまうんだろうな────と。

幼少時、どちらかと言えば内向的で、友達の輪の中に進んで入って行けないタイプであった事を、知っているのは最早幼馴染のティファだけだが、その頃の名残がいつまでも残っていた所為もあるだろう。
個の頃のクラウドは、何かが変わる事を望みながら、何処までも受動的であった。
だから、降って湧いてくる、奇蹟のような“何か”が現れるのを、平和で惰性に満ちた日常の中で、延々と待ち望んでいたのである。

そして、────かくて、それは、現れた。

母親と二人暮らしのクラウドは、母が勤めている会社の社宅である賃貸マンションで生活している。
その隣室には、仲の良い夫婦が住んでいたのだが、其処の妻らしき女性の腹が、少しずつ、少しずつ大きくなって行くのを、クラウドは見ていた。
初めは夫婦に対し、特に興味を持っていなかったクラウドだったが、夫のいない間に、スーパーで大きなお腹を抱え、よろよろと腹を庇いながら買い物をしている彼女を見て、流石に此処で放って置くのは気が引ける、と買い物籠を奪うように持ったのが、交流の切っ掛けとなった。
年若い母親になろうとしている───いや、既に彼女は母親だった。腹の中に既に彼女の子供はいたのだから───彼女は、隣家のクラウドの事をよく知っていた。
彼女の夫は、クラウドの母と同僚であるし、彼女もクラウドが登校下校する姿を折々に目撃していたからだ。
初めは、自分が知らない人が、自分を知っていると言う事に些か落ち着かなかったクラウドだが、スーパーでの交流を繰り返して行く内、それも気にならなくなった。

段々と、スーパーでの彼女との交流が日常化してきた頃、彼女はスーパーに現れなくなった。
彼女の夫がアパートから出勤する所はよく見るので、引っ越した訳でもないようだが、どうしたのだろう、と思った数週間後、答えが判った。
母から、彼女が子供を産んだと聞いて、クラウドは俄かに嬉しくなった、そして同時に寂しくなった。
嬉しそうに大きなお腹を撫でる彼女を見ていたから、出産が無事に終わった事は、本当に嬉しかった。
しかし、子供が生まれたと言う事は、もうスーパーで彼女とのんびり話をする時間もないのだろうと思うと、少し淋しかった。

が、そんな淋しさも、そんな自分の矮小さへの苛立ちも、秋の深まる頃には吹き飛んだ。

高校受験が直ぐ其処に控えている事もあって、この頃のクラウドは、図書館に通うようになっていた。
スーパーも家と図書館の帰り道にあるものを使うようになっていた為、彼女と交流していたスーパーからも足が遠退いていた。
そんなある日の夕方、クラウドはアパートの前で邂逅する。
母親になった彼女と、その細い腕に抱かれた、小さな小さな赤ん坊に。

赤ん坊ってこんなに可愛い生き物なのか、とクラウドは初めて知った。
母親になった彼女と距離が出来てしまう、と言う不安は、あっと言う間に忘れた。


この時から、クラウドの世界は色付いた。
緩く生温く思えていた日常の歯車が、一気に加速して、また穏やかになって行く。
その歯車を回しているのは、小さな小さな幼子だった。




クラウドがスコールの前でバイクに乗った事はなかった。

16歳になって直ぐ自動二輪の免許を、その2年後には大型自動二輪の免許を取得した。
元々バイクが好きだった事と、高校が歩いて通うには遠く、公共交通を使うよりは自転車かバイクの方が良い立地だったのだ。
流石に大型自動二輪は自分の趣味の範疇となるので、アルバイトをして、自費で教習所に通った。
とは言え、免許を持っていてもマシンは持っていない訳で、長らくペーパードライバー状態だったが、大学時代からアルバイトを貯蓄し、社会人にもなって得た収入で、ようやく念願の大型バイクを手に入れる事が出来た。
そのバイクは程無くクラウドの愛車となり、カスタムも重ね、唯一無二の相棒となっている。

そんな愛車であるが、スコールの前で乗らなかったのには、理由がある。
今年で7歳になったスコールは、大きな物音や、正体不明の音が苦手だった。
雷は勿論の事、ホラー映画の不意打ちのSEや悲鳴なんて死ぬほど嫌いだし、日常生活でも他人の大きな声や物音に敏感に反応する。
赤子の頃から、そうやって物音に対して泣きじゃくり、たすけておにいちゃん、と縋って来た子供の事を思うと、恐がらせてはなるまいと、排気音の大きなバイクを彼から遠ざけた。
サイレンサーは装着させたし、住宅街でエンジンをフルにさせる事なんて先ずないが、それでもアパートの付近では必ず押して歩くのが習慣になった位だ。

今日も今日とて、アパートまで角一つに差し掛かった所で、クラウドは愛車を降りた。
夏の真っ只中に、数十メートルとは言え、大型バイクを押して歩くのは、中々の重労働である。
それでも習慣となった行為は変わらず続けられ、帰ったら早く冷凍庫の中のアイスを食べよう、と思いながら、えっほえっほと歩いていた時、


「あら、クラウド君」
「……ああ。どうも」


呼ぶ声にクラウドが顔を上げると、スーパーの買い物袋を下げた女性が立っていた。
隣家に住んでいる件の女性───レインである。
その傍らには、小さな手で母の手を握っている、制服姿の小学生の男の子───スコールがいる。


「今、帰り?」
「はい。スコールも、帰りか?」
「………」


バイクを押しているので、いつものようには屈めない為、目線だけ下に向けて子供に訊ねる。
スコールは母の手を握って、逆の手には溶けかけのアイスキャンディーを握って、じぃ、とクラウドを見ていた。


「ほら、スコール。聞かれたんだから、お返事は?」
「………」


母が促しても、スコールは答えず、動かない。
じぃ、とまん丸な蒼の瞳は、クラウドを────否、クラウドが押しているバイクに向けられている。


「おい、アイス溶けるぞ」
「………」
「スコール?」


母と隣家の兄代わりが繰り返し名を呼ぶ。
それから、また数秒の間を置いた後、スコールはアイスキャンディーを持った手でバイクを指差し、


「それ、なーに?」


ことん、と首を傾げて言った。
同時に、溶けたアイスキャンディーが、中程から折れて地面に落ちた。

アイスキャンディーが折れた事も気にせず、スコールは「なーに?」と問う。


「これか。これは、バイクだ」
「バイク?ちがうよ。バイクは、あっち」


そう言ってスコールが指差したのは、丁度角を曲がって来たスクーターだった。
まあ、あれもバイクと言えばバイクだな、とクラウドは思いつつ、


「これもバイクなんだ。色々あるんだよ」
「…ふぅん?」
「仮面ライダーが乗ってるだろう?あれもバイクだぞ」
「………?」


ことん、とまたスコールが首を傾げた。
仮面ライダーと言えば判ると思ったのだが、どうやらスコールは知らないらしい。
確か、彼の家のDVDラックには、古いものから最新のものまで、特撮ヒーロー番組のDVDが並べられていた筈なのだが……

判んない、と言う顔をする息子と、おや?と首を傾げるクラウド。
そんな二人を見て、レインがごめんねえ、と眉尻を下げて笑った。


「この子、あんまりヒーロー物とか見ないのよ。何度かラグナが見せたんだけど、怪人とか、悪者が怖いみたい」
「……成程」


DVDは父の私物、スコールが好んでそれを見る事はない。
では仮面ライダーを知らないのも無理はない、とクラウドは納得した。

スコールの視線は、またバイクへと向けられている。
スクーターに比べるとごつく、剥き出しのエンジンの銀メッキが照り返しを受けてギラギラと光る様は、幼い瞳にはどんな風に映っているのだろう。
クラウドは、幼い頃の自分なら、きっと格好良いとはしゃいだのだろうが、スコールはとても大人しい性格だ。
男の子なら喜びそうなものだが、スコールがバイクではしゃぐと言う図は、中々思い浮かばなかった。

それから数秒の後、べちゃ、と何かが地面に落ちた。
はた、と三人の視線が地面に落ちて、潰れて飛び散ったアイスキャンディーが目に飛び込んでくる。


「あ……」
「あーあ」
「……ふぇ……」
「今日は暑いから、早く食べないと溶けちゃうよって言ったでしょう?」
「えうぅうう~……」


えぐえぐと泣き出したスコールに、レインは呆れたように溜息を吐いた。

アイスキャンディーに刺さっていた棒切れ一本を握り締めて、スコールは泣きじゃくる。
そんなスコールを見ながら、悪い事をしたな、とクラウドは苦笑した。
父親がべたべたに甘い所為か、レインは優しくも厳しく、スコールにおねだりをされても簡単には許してやらない。
そんなレインに、きっと、ねだって粘って頑張って、ようやく買って貰えたアイスキャンディーだったのだ。
だと言うのに、半分も食べ切らない内に台無しになってしまったのでは、泣きたくもなるだろう。


「えっ、うぇっ、うえええええええん」
「スコール。もう、泣かないの。ほら、帰るわよ」
「あいす、あいすぅう…ひっく、えっく…わぁあああああん」


真夏のぎらぎらと痛い程の日差しの中、棒切れ一本を握り、立ち尽くしてわんわんと泣き出したスコール。
レインは「全くもう」と怒ったように呟いて、スコールを抱き上げた。
レインの手に持った買い物袋が、がさがさと邪魔そうに揺れる。


「それ、持ちます」
「ありがと。ごめんね」
「いえ。バイク置いて行くんで、先に上がってて下さい」
「うん。はいはい、スコール、泣かないの」
「ふえっ、えっ。えぇえ…えうぅ~っ」


背中をぽんぽんと叩く母に、スコールは目一杯しがみついて泣いた。
その手には小さな棒切れが握られたままだ。
恐らく、本人はそれの存在はとうに頭から抜け落ちているのだろうが、傍目に見ていると、余程アイスキャンディーに執着していたように見える───それも強ち外れてはいまい。

クラウドは駐輪場にバイクを押し入れると、のんびりとアパートの階段を上った。
隣家の家に行く前に、自分の家に入って、冷凍庫を開ける。
二組一つのアイスを取り出して、クラウドは改めて隣家にお邪魔するのだった。







あいすぅう~!って泣きじゃくる子スコかわいい。

[クラ&子スコ]ある夏の日の風景 2

  • 2014/08/02 22:35
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世間で言われるような“バイク野郎”程ではないが、バイクのカスタムやメンテナンス作業はクラウドも好きだった。
友人のザックスが大型バイクのカスタムショップに勤めているので、知識も技術も道具もそれなりに揃えられた。
とは言え、素人仕事なので、大事な所や内部メンテナンスの際には、よく頼らせて貰っている。

夏の暑い日、クラウドは契約者の無い駐車場の1スペースを借りて、バイク洗車とオイル周りの点検をしていた。
アパートの駐車場には殆ど日影がないのが辛いが、水場は近いし、遠い洗車場まで乗って帰る気力はない。
そもそも、大型バイクが置ける駐輪場が備えられている時点で、このアパートはバイク乗りにかなり優遇していると言って良いのだ、これ以上の贅沢は言うまい。
水を使っていれば、その内心なしか涼しくもなるだろう(湿気がべとつくのは鬱陶しいが)。

目立つ汚れを水で落とし、ザックスから友人価格で売って貰った専用ワックスを使って、車体を磨く。
毎日の細かい砂埃でくすんでいた表面が、新品のように輝きを取り戻して行く様は、何度見ても嬉しいものだ。

────其処に、とてとてとて、と近付いて来る、軽い足音。


「クラウドお兄ちゃん」


呼ぶ声にクラウドが振り返ると、Tシャツと長袖のフード付きパーカー、ショートパンツ姿で、麦わら帽子を被った子供がいる。
アパートで隣室に住んでいる、スコールだった。

スコールは離れた所で、もじもじとしている。
クラウドはバイクに向けていた身体を反転させて、スコールと向き合った。


「どうした、スコール」
「……そっち、行っても、いい?」
「ああ」


クラウドが頷くと、スコールはぱあと表情を明るくさせ、クラウドの元まで走る。
ぽすん、と抱き着いて来たスコールに、クラウドはまだまだ小さいな、とこっそり笑った。
いつものように撫でようとした手は、オイル塗れだった事に気付いて、寸での所で止める。

スコールはクラウドに抱き着いたまま、しゃがんでいても尚高い位置にあるクラウドを見上げる。


「クラウドお兄ちゃん、何してたの?」
「バイクを洗っていたんだ。綺麗にしてたんだよ」
「ふぅん」


スコールはクラウドの肩に顎を乗せて、バイクを見る。
じぃ、と見詰める蒼の瞳に、バイクの光がきらきらと映り込んでいた。


「ぴかぴかしてる」
「ああ」
「もっとキレイにする?」
「うーん……そうだな、もう少し…」


今の状態でも不満はないのだが、やはりもう一手間かけたい。
最後に使う仕上げ用のマット用のワックスがけもしなければ。
しかし、こんな暑い時間帯に、基本的に外遊びが好きではないスコールが出てきたと言う事は……と考えていると、つんつん、と服の端が引っ張られた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?」
「僕、お兄ちゃんのお手伝い、したい。だめ?」


それは、“遊んでほしい”と中々言えないスコールの、精一杯の“構って”の言葉。
クラウドは小さく笑みを漏らして、頷いた。

やった、と小さな声ではしゃぐスコールに、クラウドは乾拭き用の布を渡した。
まだ幼いスコールの手は、ぷにぷにと柔らかく、きめ細かい。
その手に、刺激のあるワックス類が沁み込んだ布を使わせるのは、少し抵抗があったからだ。
クラウドはバイクが倒れないように改めてスタンドの固定を確認し、ワックスがけも終わっていたカウル部分を拭いて貰う事にする。


「ん、しょ…んしょ」
「上手いな」
「ほんと?」


嬉しそうに問うスコールに頷いてやれば、スコールは頬を赤らめて笑う。
そのままスコールはカウルを拭く作業に戻った。


「お兄ちゃんのバイク、大きいね」
「大型バイクだからな」
「僕よりおっきい」


スコールの言葉に、クラウドが彼とバイクを見比べれば、確かに、ハンドルの高さまで含めれば、バイクの方が高さがあった。
シートはスコールの方が頭一つ抜いているが、それでもスコールには大きく見える事は変わりない。


「かめんらいだーのバイクより、大きい?」
「どうかな。仮面ライダー、見たのか?」
「見た」


お父さんと一緒に見た、とスコールは言った。
怪人や悪役は相変わらず怖かったが、バイクに跨って颯爽と走るヒーローの姿は格好良かった、と。


「お兄ちゃんも、バイク、乗る?」
「ああ」


持っているんだから乗るだろう、とは思ったが、クラウドは言わなかった。
スコールの前でバイクに乗ってる所を見せた事もないし、世の中には持っているだけで満足と言うコレクター気質の人間もいる。
第一、子供の質問と言うものには、基本的に前後も脈絡もないのだ。
一々目くじらを立てずに、聞かれた事に応えてやれば良い。

スコールは背伸びをしながら、カウルのフロント上部を拭いている。
幅のある大型バイクは、小柄で身長が足りないスコールの手では届かない場所が多いようだ。


「届かない所は、無理にしなくて良いぞ」
「う、んっ」


小さなスコールには、手順だの効率だのと言う考え方は、まだまだ足りない。
見付けた汚れ、目についた場所を拭こうと一所懸命になっている。

背伸びをして、首を伸ばしてバイクの上部を拭いているスコールの頭から、麦わら帽子が滑り落ちる。
ぎらぎらと熱い太陽がスコールの額に当たって、直ぐにじわりと珠の汗が浮いた。
クラウドはエンジン回りを拭く手を止めて、麦わら帽子を拾い、スコールの頭に乗せてやる。
すると、スコールは背伸びをしたまま、頭だけを後ろに反らせてクラウドを見上げた。
転ぶぞ、とクラウドが膝で背中を押してやりつつ、蒼の瞳を見下ろしていると、


「クラウドお兄ちゃん」
「ん?」
「……んと……」


もじ、と視線を逸らしたスコールに、クラウドは首を傾げた。

頭を反らせ、背伸びをするのを止めたスコール。
クラウドは膝を折って、スコールと目線の高さを合わせてやった。
スコールは、乾拭き布を背中に隠すように持って、俯き気味になってもじもじとしている。


「どうした」


ちらちらとクラウドの顔を見ながら、両肩を前後に揺らすスコールの仕草を、クラウドは見慣れている。
これは恥ずかしがり屋で消極的なスコールが、「おねがい」をする時のものだ。

スコールの頭から僅かに浮いている麦わら帽子を、軽く上から押さえて、きちんと被らせる。
解けていた首紐を結んでやろうと手を伸ばした所で、スコールが顔を上げた。


「あの、ね。僕ね」
「うん」
「ばいく……」
「うん」
「………ちょっと、…のって、みたい」


……だめ?と。
首を傾げてお願いする子供の仕草に、勝てる人間がいるなら、見てみたい。

くすりと笑って、クラウドは頷いた。


「いいぞ」
「ほんと?」
「どうせだから、走ってるのに乗るか?」


ちょっと怖いかな、と思いながら提案してみると、スコールの表情が輝いた。
これは決定、だろう。

だが、そうなると、今のバイクの状態では少し厳しいものがある。


「今日は夕方から俺の仕事があるから、ちょっと時間がないな。そうだな……明後日になるけど、それでもいいか?」
「うん!」
「それと、この事は後でお母さんに話すぞ。いいな?」


大型バイクと、まだ7歳になって間もない小さな子供と言う組み合わせだ。
事前の準備は必要だし、バイクは決して安全なだけの乗り物ではないから、両親にもきちんと説明をしておいた方が良い。
勿論、怪我をさせないつもりではあるが、万が一の時の為、反対される可能性も含め、ちゃんと話は通して置くべきだろう。

それでも良い、ともう一度スコールが頷いたので、クラウドは良い子だ、と言った。
スコールは嬉しそうに頬を赤らめ、いそいそとカウルを拭く作業に戻る。

それから十分程でクラウドがワックスがけを終えると、スコールもカウルの乾拭きを終わらせた。
スコールが細かな隙間───クラウドでは指が入らない程の隙間だ───まで丁寧に拭いてくれたお陰で、バイクは隅から隅まで綺麗になった。
クラウドはそれをぐるりと周りながら眺め、スコールはそんなクラウドをやや緊張した面持ちで見上げ、


「……よし。綺麗になったな。ありがとう、スコール」
「…!」


クラウドの言葉に、今日何度目になるか、ぱあああ、とスコールの表情が明るくなる。
嬉しそうに頬を赤らめるスコールに、クラウドも自然と頬が緩んだ。

いつものようにスコールの頭を撫でようとして、ああ、とクラウドは思い出して手を止める。
オイルやらワックスやら、そうでなくともクラウドの手はすっかり汚れている。
汗拭き用に使っていたタオルで手を拭いて、クラウドは改めてスコールの頭を撫でようとし、


「スコール。鼻、ついてるぞ」
「ふぇ」


きゅっ、と小さな鼻を摘まんでやる。
そこには、乾拭きに夢中になっている内にいつの間にかついたのだろう、黒ずんだ汚れがあった。

クラウドが摘んだ指を離すと、スコールは腕でごしごしと鼻頭を擦った。
が、腕が離れてみると、汚れは伸びただけで取れていない。
くつくつと笑うクラウドに、スコールは眉尻を下げる。


「とれた?だめ?」
「くく……」
「んぅ…んゆ、んっ、んっ」


ごしごし、ごしごしとスコールは何度も顔を擦った。
指で引っ掻いて拭おうともしたが、指先も汚れていたので、また汚れが酷くなる。
やれやれ、とクラウドは眉尻を下げて笑いながら、タオルでスコールの顔を拭いてやった。
このタオルも汗やらオイルやらで汚れているが、手で拭うよりは良いだろうし、後できちんと綺麗な水で洗ってやれば良いだろう。

タオルが離れると、スコールは顔の汚れを確かめたかったのだろう、また手で鼻に触ろうとする。
それをクラウドの大きな手がやんわりと捕まえて、


「手、汚れてるんだ。家に帰って、ちゃんと石鹸で洗おう」
「バイクのおせんたく、終わり?」
「ああ。バイクを戻してから行くから、先に行けるな?」
「お兄ちゃんち?」
「ああ」
「行けるよ」
「これ、カギな。開けておいていいから」


クラウドがポケットから差し出した鍵を、スコールは大事そうにぎゅっと握りしめる。
小さなコンパスで玄関まで駆けて行く背を見送って、クラウドは子供用のヘルメットって売ってたかな、と友人に訪ねるべく携帯電話を取り出した。




 


麦わら帽子を被った子スコはかわいい。

[クラ&子スコ]ある夏の日の風景 3

  • 2014/08/02 22:30
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先ずは、いつものようにザックスが働いているカスタムショップに行き、バイクをタンデム仕様にカスタマイズ。
普通のタンデムではなく、親子タンデムとなる事を説明し、出来るだけ子供の安全を配慮した仕様に出来るようにと依頼した。
作業は店に任せ、その間に子供用のバイクヘルメットを購入。
安全性と快適性のどちらかを重要視するかで悩んだが、一先ずは快適性を優先し、ハーフジェットタイプのヘルメットに決まった。
サイズは調整が可能で、着脱はワンタッチで出来るし、重量も軽い───これはこれで強度に不安があったのだが、子供用だ。重くては子供の方が辛いので仕方がない───。
ついでに、「ステッカーとかつけると、自分専用だって思うから、大事にしてくれるぜ」と言うザックスのアドバイスを受けて、ライオンをモチーフにしたステッカーも購入した。
他にも、タンデム用のセーフティベルト、ヘルメットに仕込む無線通信機、キッズサイズの上着とズボンの一式を揃えておいた。

レインには、スコールをバイクに乗せてやると約束した後、直ぐに説明した。
やはり母親としては心配は尽きないようだが、クラウドを信じてる、と言って、彼女からは許可が下りた。
父ラグナの方も、案の定心配していたが、クラウドの事は彼もよく知っているし、スコールが赤子の頃から面倒を見ていた事も知っている。
無闇に怪我をさせるような事はしないだろう、と信じて、彼もスコールのバイクデビューを許してくれた。

そして当日、クラウドはスコールを連れて、バイクを手押ししながら、近所の河川敷に赴いた。
その河川敷には真っ直ぐに伸びた舗装道路が備えられており、朝夕にはランニングに励む人の姿が見られる。
其処なら街の道路のように行き交う人や車を気にしなくて良いし、直進ストレートなので、カーブなど重心が変わる時にスコールが振り落とされる事もない。

今日も今日とて暑い日だが、河川敷は川からの風のお陰で涼しかった。
バイクを舗装道路の傍まで運び、スタンドを立てていると、スコールは草葉の陰から覗く花に意識を浚われていた。
広い河川敷の中、ちょこんと蹲ってじっと花を見詰める麦わら帽子の後ろ姿に、可愛いな、と思いつつ、クラウドは彼を呼んだ。


「スコール、おいで」
「!」


呼ばれた事で、なんの為に此処に来たのか思い出したのだろう。
スコールはやや上気した顔で、駆け足でクラウドの下に急ぐ。

クラウドはトップケースの蓋を開けて、昨日購入したばかりの上着を取り出す。


「先ずはきちんと準備しないとな。バイクは肌を出していると危ないから、これを着るんだ」
「あつそ……」
「まぁな。でも、スピードを出すと寒くもなるから、着ておいた方が良いぞ」
「うん」


ぎらぎらと照り付ける太陽の下で、長袖の上着。
嫌がれるかもな、と思ったが、スコールは素直に袖を通した。
普段から日焼けを嫌って(黒くなる前に真っ赤になって痛くなるらしい)長袖でいる事が多いお陰だろうか。

ズボンは事前説明をしたお陰か、レインがきちんとジーンズの長ズボンを履かせている。
これで服装の問題は、一応のクリアだ。

クラウドはスコールに水を飲ませてから、トップケースからヘルメットを取り出す。
大人のクラウドでは到底入るまい大きさのヘルメットに、スコールの瞳が俄かに輝いた。


「ほら、スコール。これがお前のヘルメットだ」
「ふあ……!」


サイドに貼ったステッカーが見えるように渡してやれば、益々スコールの瞳が輝く。
らいおんさん、と呟いて、小さな手が伸ばされる。

ヘルメットは全体が黒塗りで、表面にマット加工が施されている。
どちらかと言えば地味で固い印象のあるチョイスに、ザックスからは「もっと可愛いのあるぞ?」と言われたが、ライオンのステッカーが映えるのはこれだと思ったのだ。
実際、スコールは、黒の中で雄々しく吼えるプラチナカラーのライオンに夢中になっている。

クラウドはスコールの頭から麦わら帽子を取り、トップケースの中に入れた。
自分のヘルメットとセーフティベルトは、ハンドルに引っ掛けておく。


「ヘルメット、被れるか?」
「ん、ん……」
「サイズがちゃんと合うと良いんだけどな…」


もぞもぞと格闘するスコールに手を貸し、小さな頭をヘルメットの中に入れる。
幸いサイズを調整する事はなく、締め付けられる程苦しい事もないと言う。

クラウドはスコールの小さな体を抱き上げて、バイクのシート後部シートに乗せた。
目線の高さがいつもと全く違う事に驚いているのだろう、スコールはきょろきょろと不思議そうに周りを見回している。
クラウドはそんなスコールのヘルメットを、コンコン、と叩いて振り向かせる。

碧と蒼が真っ直ぐに交差して、クラウドはふう、と一つ息を吐き、昨日も言い聞かせた言葉を反芻させた。


「いいか、スコール。バイクは早い乗り物だ。車と同じ位の、それよりもっと早く走る事もある。車だと判らないスピード感とか、そう言うものが全部ぶつかって来る。判るか?」
「うん」
「それでもって、今回は俺が前に乗って運転してる。だから、お前は前が見えない。これは、結構怖い事なんだ。それでも大丈夫か?」
「うん」


迷わず、スコールは頷いた。
昨日と同じ反応だ。

何事にも恐がりで消極的なスコールが、これだけ脅し染みた事を言っても引かないのだ。
これはもう、スコールの中で覚悟が決まっていることなのだろう。

クラウドは小さく笑って、スタンドを倒し、バイクに跨った。
ハンドルに引っ掛けていたセーフティベルトを腰に回し、後ろに乗っているスコールにもそれを差し出す。


「スコール、これを腰につけろ。落ちなくなるから」
「うん」
「でも、ちゃんと俺に掴まれよ。放すんじゃないぞ」
「うん」


かちん、と後ろで装着完了の音がする。
念の為、クラウドは自分の手でベルトを引っ張り、きちんとスコールが其処に繋がれている事を確認した。

クラウドもヘルメットを被り、仕込んでおいた無線機をONにする。
ジジ、ジジ、と言う雑音が聞こえた後、「…ふわ」「…わぁ」「あはっ」と小さな声が聞こえてきた。
興奮を隠せない子供の声に、クラウドはくすりと笑い、


「スコール」
「!」


名を呼ぶと、びくん、と背中で跳ねる気配がした。
ヘルメットを被ってから、聞こえていない訳ではないが遠くなっていたクラウドの声が、突然耳元が聞こえたものだから、きっと驚いたに違いない。

脇の下から其処にいる子供を見れば、ガード越しに見上げて来る蒼の瞳とぶつかる。


「ちゃんと聞こえるな?」


こくこく、とスコールが頷く。
よし、とクラウドも頷いて、前に向き直る。


「最初はゆっくり走る。少しずつ速度を上げるから、怖くなったら遠慮なく言え」
「ん、うんっ」
「じゃあエンジンをかけるぞ。しっかり掴まっていろ」
「うんっ」


ぎゅっ、と背中にしがみつく温もりを感じながら、クラウドはバイクのキーを差した。
クラッチレバーとスタートボタンを押すと、一拍の間を置いてから、低い音が響いてエンジンがかかる。
大きな音に、ビクッ、と背中で小さな身体が強張るのが判った。

ドッ、ドッ、ドッ、と言う低温と、シートから伝わる振動に、スコールのしがみ付く力が強くなる。


「怖いか」


無線越しにクラウドは言った。

恐くなった、止めたくなったと思うのなら、それでも構わなかった。
小さな子供に怖い思いをさせてまで乗せたい訳ではないし、今の状況が怖いのなら、速度が出ればもっと怖いかも知れない。
自分で運転するのと違って、同乗者と言うのは、自分の意思と関係なく身体が進むのだ────それもかなりのスピードで。
クラウドも何度かタンデムを経験した事があるが、自分が運転している経験があっても、運転手が信頼している人間でも、やはり慣れるまでは顔が引き攣る事があった。
小さな子供で、バイクに跨るのも初体験で、それが特に車体の大きな大型バイクともなれば、尚更だろう。

しかし、背中にくっついた小さな子供は、


「……こわくない」


隙間なく密着して、スコールは言った。
無線越しに聞こえた声に、クラウドがもう一度後ろを見れば、蒼の瞳が見上げている。


「運転するの、クラウドおにいちゃんだもん。こわくない」


真っ直ぐに見上げて告げた言葉に、クラウドは目を瞠る。
そんなに信じてくれているのか、と。

我慢している様子も、強がっている様子もない。
背中を握り締める小さな手には、不安に震える様子もなく、ただクラウドに言われた通りにしっかり掴まっているいるだけ。
信じている人に、そうしていろと言われたから、その通りにしているだけだ。

なんだか無性にくすぐったい。
そんな事を考えながら、クラウドはハンドルを握った。



初めはゆっくり、そして少しずつ。
スピードが上がって行くにつれ、背中に縋る力も強くなる。
はしゃぐような高い声も聞こえず、かと言って泣き出している様子もなく。
やっぱり少し怖かったか、と思ってブレーキを踏んで、振り返る。

恐かったかと聞けば、怖くなかったと言う。
どうだったと聞けば、すごかったと言う。

また乗ってみるか、と聞けば、子供は嬉しそうに笑った。





大型バイクに子供がちょこんと乗ってるの可愛い。
と思いながら書いたら、子スコにメロメロなクラウド(多分CC仕様)になってしまった。

こんな子スコですが、遊園地の絶叫マシーンとかは大嫌い。
大好きなクラウドお兄ちゃんが運転してるから、安心して乗ってたんです。

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