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2016年08月

[ラグスコ]指先紡ぐ心の在処

  • 2016/08/08 21:50
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早目に来れたから、とエスタのエアステーションからメールが届いた時には驚いた。
自分に負けず劣らず多忙な彼の事、来るのは明日になるだろうと思ってただけに、それはもう随分と。

また仕事を前倒しに無理をして来たのではないか、と心配した。
しかし、急ぎ邸を出て迎えに赴いてみると、彼は眼の下に隈もなく、いつも通りの仏頂面だ。
眉間の皺も割増なんて事はなく、谷は一筋のみで済まされており、無理をした訳ではなかったようだ。
そうなると、いよいよ不思議なのは、前日入りの理由である。
どうして、とラグナが素直に訊ねると、聞くのか、と含みのある返事があった。
どう言う意味かと訊ねようと彼の顔を見ると、その横顔は真っ赤になっていて、蒼灰色が恥ずかしそうにじろりと睨んだ。

前に逢ったのは、何日前だったか。
声は電話で聞いているし、エスタがバラムガーデンに技術輸出した最新の通信システムを使えば、顔を見る事だって出来る。
けれども、文字通り正面から向き合って、手と手が触れられる距離で過ごしたのは、随分と前の話だった。
当然、恋人としての時間も、それ以来重ねられた事はない。

ベッドに入るまでに時間はかからなかった。
風呂に入りたい、とスコールは言ったが、ラグナは後で一緒に入るから、と言った。
抱いてみて判ったが、彼の体は汗の匂いが滲んでいて、どうやら午後に組んでいた討伐任務を終えた後、報告書を提出してそのままエスタに飛んできたらしい。
素っ気ない態度をしながら、寂しがり屋な彼が、自分を求めてくれた事が、ラグナは嬉しかった。
明日には逢える予定だったとは言え、ラグナの仕事は朝からあるし、それに警備として付き添うスコールも同様だ。
帰りもきっと遅くなるだろうし、睦言に感けられる時間が採れるかは怪しい。
ラグナは、今まで離れていた時間の分と、明日はきっと触れ合えないだろうと、その分まで彼をたっぷりと愛した。
溺れる程の愛情に包まれたスコールは、初めこそ恥ずかしそうに唇を噛んでいたが、段々とその表情は蕩けて行き、最後にはラグナに縋り付いて果てを迎えた。

そうして、久しぶりに恋人と共に迎えた朝と言うものは、どうにもベッドから離れ難く、


「あ~……仕事行きたくねえなあ」
「……まだ言うか」


ベッドの中で布団に包まり、ラグナは言った。
目を覚ましてから、彼はこの調子である。
スコールはその腕に抱き締められているので、此方も邸を出る支度は出来ていない。

スコールはベッドサイドのテーブルに置かれている時計を見て、はあ、と溜息を吐いた。
体の重みは拭い切れないが、そろそろ準備をしなければ、本当に遅刻してしまう。
自分は勿論、大統領としての職務のあるラグナを遅刻させる訳には行かないと、スコールは腰を抱くラグナの手を解かせた。


「何すんだよぅ」
「起きるに決まってるだろ」


拗ねた顔をするラグナに、スコールは呆れた顔を浮かべて言った。
じんじんと痺れを訴える腰を庇いながら起き上がると、「これ借りるぞ」とシーツを取って体に巻き付ける。
ずるずるとシーツの端を引き摺りながらベッドを出て、部屋の隅に放っていたトランクを開けに行く。


「今日は9時までに行かないと駄目なんだろ」
「まだ8時だから大丈夫だって」
「そんな事言って、前に遅刻ギリギリだったのを忘れたのか」
「……覚エテマス」
「じゃあ、あんたも早く着替えて準備しろ」
「あ、朝飯ない」
「だろうと思ったから、エアステーションで適当に買って来た」


トランクから、自分の服と一緒にビニール袋を取り出すスコール。
中身はサンドイッチとハンバーガー、サラダの惣菜とペットボトルの水が二本。
味気ない朝食ではあるが、食べないよりはマシだろう。

スコールが手早く身支度を整えて行くのを見て、ラグナも溜息を吐きながらベッドを出る。
久しぶりの二人で迎える朝なのだから、もっとゆっくり甘い時間に浸っていたかった。
けれども、今日のスケジュールは前々から判っていた事だし、昨日、スコールが前入りしてくれなければ、こうして朝の一時に会話を交わす事すら出来なかったのだ。
昨夜、スコールをこの腕に抱き、そのまま朝を目覚める事が出来ただけでも、十分な贅沢。
寂しい気持ちをそう宥めながら、ラグナはパンツを穿いた。

スコールが急かした通り、時間はあっと言う間に過ぎて行き、時計を見ればそろそろ30分になる。
これはやばい、とラグナは着替えながらハンバーガーの袋を開けた。
もそもそと食べながら着替えるラグナの傍らで、スコールはSeeD服を着終えている。
水と一緒にサンドイッチを流し込むように食べ終えて、後はもうラグナの準備を待つだけだ。


「今日は、午前中は官邸内で書類の処理と、午後は取材があったな」
「そうそう。ティンバーのテレビ局からの取材。で、後は……」
「夕方からドールの市長とテレビ会談か。取材終了から一時間後の予定だ」


ラグナの予定は、頭から尻まできっちりと詰まっている。
スコールはそれに追随する形で、彼の一番近い場所での警護を依頼されていた。
基本的にスコールの護衛はラグナを守る事である為、大抵の仕事には随行する事になる。
だから朝から晩までずっと一緒にはいられるのだが、会話をする時間など殆どないのも事実で、ラグナはそれを少し淋しく思っていた。


(でも、仕方がないよなあ。仕事の依頼を断られないだけ、マシってもんか…)


ラグナ───引いてはエスタからの大統領護衛依頼を、バラムガーデンは優先的に取ってくれている。
その理由は、スコールとラグナの二人の時間を作る為だ。
ガーデン学園長であるシド、スコールの育て親であったイデアや、他にも“魔女戦争”に関わった仲間達が、二人の関係をより良いものにしようと協力してくれているお陰である。
彼等の想像する“関係”が、それよりも形の違うものとして実った事は秘密であり、スコールには些か申し訳なく思う所もあるようだったが、ラグナは彼等の厚意を素直に受け取る事にしている。
そうでもなければ、ラグナはスコールと“関係”を修復させる事も、今の間柄になる事も出来なかったのだから。

とは言え、ラグナから直々の指名になるとは言え、必ず依頼が優先されるとは限らない。
“月の涙”以降、魔物の生態系変化に伴い、各地で起こるモンスターの事件は増えており、ガルバディア軍は先の戦争責任もあって動けず、エスタもまだまだ門戸が狭い状態が続いている為、国を跨いで活躍する傭兵集団SeeDの存在は非常に重宝されている。
当然、舞い込む依頼の数も増えており、魔物の危険性によっては、指揮官職を任されている(押し付けられていると当人は言う)スコールが出る事も少なくなかった。
同時に、スコールがラグナ以外の任務を優先させると言えば、仲間達を止むを得ないと、ラグナの下へは代理に誰かが寄越される事になる。
こうした他との依頼、スケジュールの兼ね合いもあり、スコールがラグナの下に来れる確率は、良くて半々と言った所だろう。

それが今回は、依頼を引き受けてくれた上に、その前日に来てくれた。
久しぶりの逢瀬を待ち望んでいたのは、ラグナだけではなかったのだ。
その上、彼の方から遠回しとは言え誘いもあったのだから、十分恵まれた事だ。


(だけど、もうちょっとゆっくりしたかったな。書類が早く片付けば、夜は少しは空けられるかな…)


ペットボトルの水を胃に流し込みながら、ラグナは昨夜、官邸で見た書類の量を思い出す。
今日と言う日を楽しみに、それなりに頑張って来たお陰で、数はそれ程多くはない筈。
午前中に出来るだけ多くの書類に目を通せば、帰りは早くなりそうだ。

口の中が空になって、ラグナがふう、と一息吐いていると、


「先に出てるぞ」
「うえっ、早いんじゃ」
「40分」
「マジ!?うわっ、本当だ!」


そんなにのんびりしていた覚えはないのに、とラグナは慌ててクローゼットを開けた。
ラグナがスーツを選んでいる間に、スコールはガンブレードを腰に差して部屋を出て行く。
待ってくれよ~、と情けない声を出すラグナに、スコールはやれやれと肩を落として、廊下で彼を待つ事にした。

どたばたと騒がしい扉向こうの音に、もう少し早く起きるべきだった、とスコールは後悔する。
ベッドの中で彼に抱き締められていた時、背中越しに聞こえる心音が心地良くて、ついつい長居をしてしまった。
前の遅刻も、これと全く同じ理由だったと言うのに、何故か学習できない自分がいる。
更に言うと、こうなってしまう事は大体予想が出来ていたのに、それでも前日入りを強行した自分が酷く恥ずかしい。
仲間達が組んだスケジュールの通りにしていれば、ガーデンで早く起きなければいけない面倒はあっても、ラグナまで巻き込んで遅刻ギリギリに慌てて準備をする事はなかっただろうに、と。

自身の昨夜の行動を振り返り、その浮き足振りに赤くなっていたスコールの顔は、ドアの開閉音で直ぐに消えた。
いつも通りの表情を作って、準備疲れで早速へろへろとしているラグナと共に、玄関へ向かう。


「なんで朝ってこんなに時間が経つの早いんだろうな~。もっとゆっくりしたいのに」
「…早く起きて早く準備をすれば、空き時間が出来る。そうすれば少しはのんびり出来るだろ」
「そう言うゆっくりじゃなくってさ。のーんびり起きて、のーんびり準備するのが良いんだよ」


締めの時間がもっと遅ければ良いのに、と呟くラグナ。
だがスコールは、そうなったらきっと、起きる時間が今より遅くなるだけだな、と思った。
結局ギリギリまでベッドでグズグズして、今日のように慌てて準備をするのだろう、と。
そうすると、必ず後で忘れ物が発覚したり、身嗜みが不十分だったりと言う事が起きてしまう。

今日は大丈夫だろうな、とスコールが横目でラグナの佇まいを確認すると、彼の眉間に盛大に皺が寄った。


「ラグナ、ちょっと待て」
「ん?」


呼ばれて立ち止まったラグナに、スコールの手が伸びる。
素手の手が胸元に伸ばされるのを見て、ラグナが目を丸くした。


「お、お?」
「動くな。ネクタイが曲がってる。直すからじっとしてろ」
「えっ、あ、はいっ」


スコールの言葉に、ラグナはびしっと手足を真っ直ぐに伸ばして固まった。
其処までしなくて良いんだが、と思いつつ、スコールはラグナのネクタイに手をかける。

夢───エルオーネのジャンクション能力でラグナを見ていた時は、時折鏡やガラスに映る彼の姿を見ては、堅苦しさの似合わない顔だと思っていた。
ガルバディアの軍服、旅をしている時の服装、映画“魔女の騎士”の衣装など、案外と井出達のバリエーションは豊富であったが、スーツを着ている所は見た事がなかった。
エスタで初めて彼と邂逅した時には、シャツにチノパン、サンダルと言う、大統領とは思えない格好だったが、あれが一番ラグナらしかった、と今でも思う。
しかし、こうして何度も逢瀬を繰り返し、彼の警護をしている内に、いつの間にかスーツ姿も見慣れたものになっていた。
初めこそ違和感が強かったラグナのスーツ姿だが、夢よりも落ち着いた雰囲気もあってか、それ程可笑しくは見えない。

急ぎもあって、手癖から一気に締めたのだろうネクタイ。
歪んでいるとは言え、それ程不恰好な歪みではなかったが、見付けてしまうとスコールは気になって仕方がなかった。
……きちんと着て、引き締まった表情をしている時、格好良いと思う事は、一生言わないつもりだ。


「……出来たぞ」


すっきりと綺麗な形に結ばれたネクタイに、スコールは満足して手を離す。
余計な時間を過ごしてしまった、とスコールが歩き出して、一拍遅れてからラグナも硬直から解かれた。

玄関の扉を開けると、運転席にキロスが座った車があった。
キロスはラグナとスコールを見ると、運転席の時計を確認し、


「今日は遅刻をしないで済みそうだね」
「間に合いますか」
「十分だ」


ほ、とスコールは小さく息を吐いた。

スコールが後部座席のドアを開け、ラグナが乗り込む。
それから、スコールも車へと乗り込み、キロスが車を発進させてから数分後、


「今日は随分と気合が入っているようだね、ラグナ」
「え?そ、そうか?」
「ああ。ネクタイが綺麗に結べているからかな。────ああ、」



結んで貰った、と言うのが正しいのか。

そう言って、バックミラー越しに双眸を細める男の眼には、真っ赤になった少年の横顔が映っていた。





ラグナのネクタイを直すスコールが浮かんだのでやらせてみた。
なんかこの行動って、夫婦感がする。

スーツをぴしっと着こなしているラグナが格好良くて好きなスコールとか可愛い。でも絶対に言わない。
ラグナも、スコールにネクタイを結んで貰える、直して貰えると思ってなかったので驚いた。
そんで全部見抜いているキロスでした。多分、後で見たウォードも気付いてる。

[レオスコ]合わせ鏡の夜が明ける

  • 2016/08/08 21:43
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兄弟でもないのに、よく似ていると評判の男。
鏡を見た後、彼の顔を見ると、パーツに共通部分が多いからか、確かに似ている、と自分でも思う程。
それでも“兄弟ではない”とはっきりと言い切れるのは、自分にそう言う血の繋がりによる縁はなかった、と頭の中で答えが出るからだ。
元の世界の記憶もないのに、其処だけが明確な理由は、結局の所判らないのだが。
だが、相手もどうやら同じ感覚らしく、年下の面倒はよく見ていたが、自分に血を分け合った兄弟はいなかった、と言う。
あちらも記憶の回復は余り進んでおらず、虫食いが多いので、確信がある訳ではないようだったが、これもスコールと共通した事で、経験が感覚として沁み付いているのだろう。
ついでに、彼が操る魔法の性質が、自身の操る“疑似魔法”とは異なる性質であったので、スコールの中ではこれで決定打となった。
自分と同じ世界から召喚されているのなら、操れる魔法は───魔女でなければ───“疑似魔法”留まりだろうと思うからだ。

それなら、パラレルワールドの同一人物なのかもな、と言ったのはクラウドだ。
パラレルワールド、並行世界、決して交わる事のない別の時間軸に存在する世界。
そういった垣根を越えて、戦士達が神々の闘争の世界へ召喚された事を思うと、クラウドの発想も一理はあるのかも知れない。
が、この世界のあらましについて、スコールは特に知るつもりはないので、正否は謎のままである。

だが、そうであるならば。
この男が、並行世界の自分であるならば、この交わりは禁忌になるのだろうか。
血の繋がりを持つ親兄弟よりも、もしかしたらもっともっと近しい存在と、こうして褥を共にするのは、赦されない事なのだろうか。
世界と言う枠組みを無視して、沢山の歪な世界が入り交じって出来ているこの世界に自分達を召喚し、決して繋がらない筈の道を交わらせたのは、世界の理を握る神々だと言うのに。
だから、いつかこの世界の闘争が終わったら、別れと言う形で罰を与えようとしているのだろうか。

────スコールは、熱の余韻を残す腕の中で、そんな事を考えていた。
それを感じ取ったのか、スコールの耳元に吐息が触れ、


「……何を考えているんだ?」


低く心地の良い声に鼓膜を震わされて、スコールの胸の奥で、どきりと心臓が跳ねた。
密着した体でそれを相手───レオンに隠せる筈もなく、レオンは正直な少年の反応にくすりと笑い、耳朶に柔らかくキスをする。


「心此処に在らずだったな」
「……悪い……」


恋人との、決して多くはない、甘い睦言の時間。
そんな時に気持ちを飛ばしていた事を自覚して、スコールは俯いた。
言い訳もせず、直ぐに謝るスコールに、レオンは眉尻を下げて唇を緩める。


「別に良いさ。お前は此処にいるんだから」


スコールが心を何処かへ浮遊させていても、彼の体はレオンの腕の中に在る。
それさえ違えられる事がなければ、スコールが何を考えても良いとレオンは言う。
スコールの心の自由まで奪う事は出来ないのだから、と。

そう言ってから、レオンはスコールの髪を撫でながら、くつりと自嘲気味に笑う。


「まあ……出来れば、こっちを見ていて欲しいとは思うが」
「……」
「冗談───とは言えないのが、俺も大人げない所だな」


ばつの悪い表情で沈黙するスコールに、レオンはやれやれ、と自分に呆れながら言った。

しかし、スコールは今の彼の言葉が嬉しかった。
よく似ていると皆に言われるのに、自分と違い、レオンは“大人”である。
故に仲間達からよく頼られ、それを無碍に断る事なく快く引き受け、彼自身も他者への気配りを忘れない。
人の面倒を見るのに長けているだと、傍目に見ても判る。
そんな彼が、恋人の自由や奔放を許しきれない、独占欲と言うものを、自分に向けている事が、スコールの心に満ち足りたものを抱かせる。

項をくすぐるレオンの指を感じながら、スコールはレオンの胸に顔を寄せる。
すり、と猫のように甘える少年に、レオンの表情が嬉しそうにはにかんだ。


「どうした?今日は随分甘えたがりだな」
「……駄目なのか」
「いいや。いつもこれ位甘えてくれても良い位だ」


レオンの言葉に、じゃあもっと、とスコールは逞しい背中に腕を回す。
薄い肉がつくばかりの自分と違って、レオンの躯は無理なく盛り上がった肉がついていて、スコールは頗る羨ましい。

────彼と自分が似ていると言うのなら、いつか自分もこうなれるのだろうか。
そう思った事は何度となくあるが、それを口にすると、レオンはいつも微妙な反応をする。
無理だろう、と言われた事はなかったが、何処かそうなる事を望んでいないように見えた。
どうやら、スコールのコンプレックスは理解できるものの、今のスコールの、抱き締めると自分の腕の中に納まるサイズが彼には好ましいらしく、余り逞しくなって欲しくないのが本音のようだった。

レオンと同じ位になったら、彼に抱き締めて貰えなくなるのだろうか。
それは寂しい、と今日は妙に素直な心が、自分の本音を認める。


「……眠いか?」


胸に摺り寄せてぼんやりと思考に耽っているスコールに、レオンが訊ねる。
眠くはない、とスコールは思ったが、背中をぽんぽんと叩く手が心地良くて、黙っていた。

耳を寄せた胸の奥から、とくん、とくん、と規則正しい鼓動の音がする。
彼と体を重ね合せるようになってから、その音がとても安心を得るものだと言う事を初めて知った。
そのリズムに合わさり、溶け合うように、自分の鼓動も緩やかになって行く。
最近のスコールは、その音を聞かなければ眠れなくなる位に、レオンに依存しつつあった。


(……良く無い傾向だ)


誰かに寄り掛かる事、誰かに依存する事、される事。
それはスコールにとって避けるべきものだった。
自分一人で生きて行く力を得る為に、スコールはそう言うものに背を向け続けていた。

それなのに、いつか終わるであろう異世界で、それを得て喜んでいる自分がいる。
闘争が終われば別れなければならないのに、そうなれば二度と逢えない相手に、心を預けている。
なんて事だ、と嘆くように項垂れる自分を自覚する傍ら、ではこの温もりを手放せるのかと言う声には、答えられない。


(だって、こんなに、居心地が良い)


まるで失っていた半身を取り戻したように、彼の傍は収まりが良くて、居心地が良い。
神々の悪戯でこれを与えられたと言うならば、余りのそれは酷ではないか。
彼等の気まぐれで得た幸福を、彼等の気まぐれで取り上げられるなんて、スコールには堪えられない。

レオンの形の良い指が、スコールの髪を梳く。
猫になった気分で、スコールはレオンからの毛繕いを甘受していた。
そうしている内に、意識がまたふわふわと宙を浮こうとしているのを感じ取る。
眠くはない筈なのに、と思いつつ、スコールはうとうとと夢路の扉を潜ろうとしていた。


「疲れたか?」
「………」
「眠っていいぞ。まだ時間はある」
「……」
「明日は待機だしな」
「……」


言いながら、レオンの手はスコールの形の良い頭を撫でている。
その手付きは慣れていて、やはり子供をあやす事に慣れているのだろうとスコールは思った。
そう言う点は、子供を苦手としている自分とは、似つかない所だ。

────それとも、レオンと同じ位の年齢になったら、自分も彼と同じ撫で方を誰かにするのだろうか。
そう思ってから、いや、とスコールは自己否定する。
レオンは幼い頃から人の面倒を見る立場であったようで、スコールはそれとは真逆であった気がする。
根本的に、子供に対する意識が違うのだから、今の彼と年齢を並べた所で、スコールはレオンと同じようにはなれないだろう。

……そう考えてから、では体格もそうなのか、と思考が戻って来た。
羨ましさと同時に妬ましい気持ちが芽生えて、レオンの胸に顔を埋めたまま、スコールは唇を尖らせる。


「スコール?」


他人の───特にスコールの機微に聡い男は、すぐにスコールの様子に気付いた。
どうした、と心配そうに訊ねる声に、スコールは答えないまま、抱き付く腕に力を籠める。
ぎゅう、と遠慮なく抱き締めても、レオンは苦しがる様子もなく、寧ろ「やっぱり今日は甘えたがりだな」と嬉しそうに言った。


「ほら、眠いんだろう。そろそろ寝てしまえ」
「……」
「お前が眠るまで、こうしていてやるから」


レオンの手に撫でられて、スコールの濃茶色の髪がさらりと流れる。

今日は久しぶりにまぐわったものだから、ついつい燃え上がって、長い時間を交わし合っていた。
そんな事だから、自覚はなくともスコールの体は疲れており、休息を求めて睡魔を誘う。
レオンも判っているようで、彼はスコールを無理に起こそうとはせず、うつらうつらと舟を漕ぐ恋人を甘やかす。

その傍ら、窓のカーテンの隙間から、外界の薄ぼんやりとした光が零れて来るのを見て、レオンは呟いた。


「……このまま、朝が来なくても良いのにな」


いつか来る終わりなんて、なくても良いのにな。
レオンの言葉が、スコールにはそんな風に聞こえた。

ぎゅ、と抱き締めるレオンの腕に力が籠められて、スコールは少し身動ぎしたが、直ぐにこのままで良いか、と落ち付く。
とくとくとリズムを刻むレオンの心音を聞きながら、先のレオンの言葉に、思う。


(……俺も、このままがいい)


朝なんて来なくて良い。
離れてしまう未来なんてなくて良い。
それが闘争の牢獄に閉じ込められる事だとしても、構わなかった。

ずっとずっと、この温もりの傍にいたい。
例えこれが、決して許される筈のなかった禁忌の関係であるとしても。





異説でレオスコ。
普通にいちゃいちゃしてるのも好きですが、いつか終わる事に怯えているレオンとスコールも好きです。
いつか二人で闘争から逃げるかも知れない。

ディシディアでレオスコを考える時は、兄弟パラレルにする事が多いですが、こう言うのも雰囲気が違って良いですね。

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