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2019年08月

[クラレオ]災い転じ幸を呼ぶ

  • 2019/08/11 22:00
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青天の霹靂か、鬼の霍乱か。
そんな言葉が頭に浮かんで、少々笑みが零れそうになったレオンだが、相手がクラウドとは言え不謹慎ではあるとなんとか抑えた。

平時は独り暮らしであるレオンの住むアパートで、今日は家主ではない者がベッドを占拠している。
其処でうーうーと唸り声を上げているのは、今朝何処からか帰ってきたばかりのクラウドだ。
帰って来るなり、どうにも調子が悪い、と言って倒れ込んできた彼の体は、異常な程の熱を帯びていて、彼が内包している事情を知っているレオンは、それによる影響が遂に悪い形で現れたのかと蒼くなった。
……が、よくよく確かめてみると、それは単なる風邪であると診断された。
人騒がせな、と呆れたレオンであったが、多少の無茶は闇の力で誤魔化す事も厭わないクラウドが、それも儘ならずにレオンを頼ってきた訳だから、やはりそれなりに重い状態ではあったのだ。
何処かで行き倒れにならず、故郷まで戻って来ただけでも、十分頑張ったと褒めてやって良いだろう。

そんな状態の重病人を一人残して行く訳にもいかず、レオンはシドに連絡をして、今日の予定に組んでいたものはご破算にして貰った。
幸い、急ぐ予定はなく、詰まっている事と言ったらコンピューターのプログラム周りの事ばかりで、それはシドの仕事である。
普段はレオンも出来る限りの手伝いをしているのだが、プログラム本体に関わる事となると、レオンは其処まで造詣は深くない。
精々シドが欲しいと言った資料を探して運んでくるしかないのである。
パトロールはユフィがしてくれると言うし、エアリスや、いつの間にかすっかり街に馴染んだ小さな妖精たちも協力してくれるそうだ。
だから今日のレオンの仕事は、クラウドを看病する事のみとなった。

看病とは言っても、特別にあれこれとしなければならない、と言う事はない。
いつものように二人分の食事を作り、常と違う事と言えば、起き上がる気力もなさそうなクラウドに食事の手助けをする程度だ。
クラウドは、熱は高いものの、食欲は旺盛だった。
これなら数日休めばすっかり回復するだろう、と思う位には、よく食べている。
それ位にエネルギーがある方が、レオンも余計に気を回す必要を感じなくて楽だった。

クラウドが昼食を終えた後、レオンも手早く自分の食事を済ませて、片付けをした。
一通りの家事を済ませて寝室に入ると、赤い顔をした男がベッドの中で唸っている。
哀れな幼馴染の様子に苦笑しつつ、レオンはベッド横に立ってその顔を覗き込んだ。


「気分はどうだ、クラウド。吐き気は?」
「ない……が、熱い……鬱陶しい……」
「風邪なんだから仕方がないな。薬も飲んだんだし、直に効いて来るだろうから、それまでの辛抱だ」


ぽんぽん、とレオンはクラウドの金色の頭を撫でであやす。
ガキじゃないんだぞ、と言う目が此方を睨んだが、レオンは気にしなかった。


「しかし、誕生日に風邪とは、お前も運がないな」
「……そう言えばそんな日もあったか……」
「忘れていたか。まあ、俺もユフィが言わなければ忘れてたんだが」


レオンがクラウドの誕生日の事を思い出したのは、三日前の事だ。
そろそろだよね、と言ったユフィは、クラウドの誕生日プレゼントやパーティを考えていたらしく、レオンにクラウドの予定を聞いてはいないかと尋ねてきた。
生憎レオンが知る由もなく、ユフィはパーティの準備をするかしないかを悩み続けて、今日を迎えている。
結局、帰ってきたクラウドが真面に動ける状態ではないので、パーティなど開ける訳もなく、クラウドが治ってから改めて彼を捕まえて計画するつもりのようだ。

レオンはベッド横に椅子を寄せて座り、頬杖を突いて、赤い顔をしているクラウドを見下ろしていた。
じっと眺める蒼眼に、なんだ、と碧眼が眉根を寄せて見返す。


「…何か用か。今日は何も出来ないぞ」
「判っている。病人に仕事をしろとは言わないさ」
「……じゃあ何だ?」


単に見ているだけ、と言う訳ではないだろう、とクラウドは言った。
レオンとしては、それでも別に構わないのだが、


「いや、何。ユフィからお前の誕生日プレゼントを考えておけと言われていたんだが、特に何も浮かばないし。お前が帰ってきたら訊こうかとも思ってたんだが、その有様じゃあなと。一応聞いてみるが、今何か欲しい物はあるか?」
「……水」
「じゃあプレゼントしてやる」
「ちょっと待てまさかそれカウントしないだろうな。おい、こら」


すっくと椅子から立ってキッチンに向かうレオンに、クラウドがベッドの中から手を伸ばす。

おい、と呼ぶ声を背中に聞きつつ、レオンはくすくすと笑いながら、グラスに水を注ぐ。
大きめのピッチャーも食器棚から出して、水と氷を入れた。

ベッドに戻れば、クラウドが赤い顔で起き上がっていた。
レオンが差し出したグラスを受け取り、ごくごくと一気に飲み干して行く。


「美味かったか」
「それなりに。だが、これで本当に誕生祝が終わりとか言うなよ」
「欲が深い奴だな。大して物欲もない癖に」
「それは否定しないが、別の欲ならある」


空になったグラスをサイドテーブルに置きながら言うクラウド。
何の話かとレオンが首を傾げれば、ちょいちょいとクラウドが指を振ってこっちに来いと促す。
それを見てなんとなく意図を掴みつつ、レオンが顔を近付けてやれば、ぐっと胸倉が捕まれて、ぶつけるようにキスをされた。

咥内でねっとりと唾液を塗した舌が蠢いて、レオンのそれを絡め取る。
ちゅく、ちゅぷ、とわざとらしく立てられた音が耳の奥で鳴っていた。
されるがままになっているのも癪のような気がして、レオンの方からも相手の絡め取って吸ってやる。
ひくっと舌の根が震えたかと思うと、今度はレオンの舌がまた絡め取られて、じゅるじゅると音を立てながら啜られた。

中腰の格好だったレオンの肩が震えて、バランスが前傾に傾く。
かかる重みを支える気など最初からなかったのだろう、クラウドは掴んでいたレオンの胸倉を引き倒す形で、ベッドへと転がした。
上に覆い被さって来る男の手は熱く、どっちの熱なんだか、とレオンは呆れた。


「────っは……、はあ…」


ようやく解放されて、レオンは籠った空気を吐き出して、新鮮な酸素を吸い込む。
その間に、クラウドの唇が喉元に寄せられて、ちゅう、と吸い付く感触があった。


「おい……」
「誕生日プレゼントなら、俺はあんたが欲しい」
「……お前、病人だろう」
「ああ。だから優しくしろ」
「俺に伝染ったらどうしてくれるんだ」
「その時は俺があんたを手厚く看病してやる」
「碌な事にならないから止せ」


家事一般がまるで出来ない男に看病されるなんて、想像するだけで恐ろしい。
レオンの脳裏には、いつであったか見た、彼がキッチンを大惨事にした光景が蘇っていた。
あれを片付けたのはレオンなので、あんな悲劇を二度も起こす位なら、風邪でも熱でも自分が動けるなら自分で動いた方が良い、とレオンは思う。

熱を持った手がレオンのシャツを捲り、肌の上を彷徨う。
下肢に押し付けられる固い感触の正体を察して、元気な事だ、とレオンは溜息を吐きつつ、体の力を抜いた。
その意図をクラウドも察し、またレオンの首筋にキスが落ちる。


「レオン」
「今日だけだぞ。悪化しても俺は責任は取らない」
「ああ。大丈夫だ、こう言うのは汗をかけば治ると言うだろ」
「悪化もし易いがな」
「で、治ったら後で改めてプレゼントを楽しませて貰おう」
「おい、さり気無くこれをノーカンにしようとするな」
「だがあんたはプレゼントだろう?じゃあ貰った俺のものだ。だから治ってから好きなだけ堪能したって良いだろう」
「……屁理屈にもならんな。お前、熱で頭が回ってないんじゃないか。やっぱり今日は止めた方が良いな」


レオンはクラウドの体を圧し退かせ、もう一度逃げようとするが、肩を抑える力は強い。
病人の癖に、と舌打ちしていると、背中に腕が回されて、二人の肌が密着する。
熱い、と健康的な意味ではないクラウドの体温を感じつつ、言っても無駄だと早い内に抵抗を止めた。

折角の誕生日に風邪なんてものに捕まったのだから、哀れと言えば哀れだ。
そう思うと、まあ甘やかす理由としては十分か、とレオンも思う。
それならば、とレオンの手がするりと伸びて、クラウドの下肢を撫でる。


「……レオン?」
「プレゼントだし、お前は病人だしな。俺がしてやる」
「マジか」
「ああ。お前の好きなように、俺がしてやる。こんなのは今日だけだぞ」


特別だと囁いてやれば、触れる場所が硬く張り詰める。
全く元気な事だと呆れつつ、レオンはクラウドの熱を更に煽るべく起き上がった。





クラウド誕生日おめでとう!!
風邪ひいちゃって災難かと思いきや、思わぬラッキーが転がり込んだクラウドでした。

[クラスコ]夏夢バースディ

  • 2019/08/11 21:00
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夏祭りに行かないか、とクラウドに誘われて、スコールが初めに鈍い反応を示したのは、条件反射のようなものだった。

それそのものに余り興味がない事に加えて、地域でも有名でそこそこ規模の多い夏祭りなんて、人でごった返しているに違いない。
毎年スコールはその催しをスルーしているのだが、祭り会場が家からそれ程遠くないので、その賑やかさは感じている。
日が暮れた後、街を歩く人々の明々とした声や、少し遠くから聞こえる祭り太鼓の音などは、スコールも見たし聞いた。
地域を上げてこの祭りを有名にしよう、と言う委員会とやらも発足されたらしく、そこそこ盛り上がっているらしい。
しかし、人が多い所が好きではないし、熱帯夜のような夜が続いているのに、スコールは外になんて全く出る気にならない。
子供の頃は父親に連れられて、金魚掬いや輪投げをしに行った事もあったが、既にスコールは高校生である。
喧騒よりも静寂を好む性質であるスコールが、自分からそう言った場所に赴かなくなったのは、自然的な事であった。

だが、恋人に誘われたなら、吝かと言う訳でもない。
何よりその日は、恋人であるクラウドの誕生日当日だったのだ。
良い祝いが思いつかなかったので、何か欲しい物はないかと直球で訊ねた所、クラウドはデートがしたいと言った。
夏休みに入ってから、それなりに逢う時間を作ってはいたが、今年の異常なまでの熱さもあって、デートと言うものはしていない。
それをクラウドが嘆いた事はないし、お互いの家に行って甘い時間を過ごすのも悪くはない。
けれど、折角だから夏らしい思い出の一つでも、と言うクラウドの気持ちは、スコールも決して無い訳では無かった。

そんな経緯で提案された夏祭りデート当日、スコールは浴衣姿で、祭り会場となった公園の入り口に立っていた。
すらりとした大人びた雰囲気の少年が、公園横のフェンスに寄り掛かり、ぼんやりと道行く人々を眺めていると言うのは、中々絵になる光景だ。
フェンスの向こうで照らされた祭り提灯が、スコールの背中を照らし、少し陰を作った端正な顔立ちを際立たせ、其処に納められている蒼灰色の瞳の淡い光の存在感を強調する。
祭り目当てにやって来た女性たちが、ちらちらと見ては声をかけようか悩む程に、スコールは人目を引いていた。
しかし他者の視線に敏感で、向けられる好意的な空気に酷く鈍いスコールは、早くこの状況から解放されたいと切々と願っている。

それを叶えてくれる人は、待ち合わせ時間ぴったりにやって来た。


「すまない、スコール。待たせたか」
「……別に」


ひらりと片手を上げたクラウドは、TシャツとGパンと言うラフな格好だ。
いつも通りの服装に、やっぱり自分もいつも通りで来れば良かった、とスコールは思ったが、碧眼がじっと此方を見詰め、


「浴衣か」
「……祭りに行くと言ったら、着ていけとラグナに押し付けられた」
「良いんじゃないか。よく似合ってる」


柔らかく双眸を細めたクラウドの言葉に、スコールの胸の奥がぽかぽかと温かくなる。
半ば強引に着せられたものだったし、慣れない格好なので余り良い気分ではなかったのだが、クラウドにそう言われると、じゃあ良かった、と思った。

行こうか、と言うクラウドに連れられる形で、スコールは祭り会場の公園へと入る。
敷地の真ん中に建てられた櫓から、ドン、ドン、と太鼓の音が響いていた。
櫓をぐるりと囲む人の輪が踊り、それをまた見ている輪が作られている。
其方に行く気はスコールもクラウドもなかったので、二人の足は揃って出店屋台へと向けられた。


「仕事が終わったばかりで、腹が減ってるんだ。晩飯代わりに焼きそばでも食おうかと思ってるんだが、スコールは何か食べるか?」
「……夕飯は食べた。でも早めに食べたから……少し何か欲しい」
「じゃあ一緒に食べるか」


食べて来たなら、そんなに量は要らないだろう、と言うクラウドに、スコールは小さく頷く。

あちこちから食欲をそそる匂いのする屋台群には、沢山の人が集まっていた。
鉄板の上でじゅうじゅうと良い音を立て、ソースの香ばしい匂いを振りまく焼きそばや、ケチャップとマスタードをかけたフランクフルト、この熱気に当てられた客を誘う為の氷の幟を吊るした出店も多い。
日が落ちたとは言え気温が下がる気配はなく、氷の文字に惹かれるスコールだったが、先にクラウドの腹ごしらえだ。
仕事が終わって、荷物を家に置いて、真っ直ぐに此処に来たのであろう恋人を労う目的もあって、彼の腹を満たせそうな食べ物を探す。

公園全体を祭り会場として使っているので、会場は広く、出店の数も多い。
ボリュームを重視している店もあれば、変わり種を用意している店もあり、外国料理を提供している店もあった。
クラウドはしばらく目移りしていたが、やはり祭りと言えばこれだろう、と焼きそばの店に並ぶ。
順番が回って定番のソースで味付けしたものを頼み、出来上がったそれがパック詰めにされる傍らで、スコールは財布を入れた巾着袋を袖から取り出そうとするが、ポケットから直に小銭を出したクラウドが先に払ってしまった。


「……俺が出したのに」
「ん?」
「…あんた、誕生日なんだから」


少し拗ねた顔で呟くスコールに、クラウドはくすりと笑う。


「ありがとう。気持ちだけで十分だ。これは俺の晩飯だしな」
「…じゃあ、後は全部俺が出す」
「それは────どうするかな」


くすくすと笑いながら、焼きそばの入ったパックと割りばしを受け取るクラウド。
店の前を離れ、口に挟んだ箸を割り、早速食べ始めた彼は、確かに腹が減っていたのだろう。
詰められた焼きそばはそこそこの量だが、クラウドなら直ぐに平らげてしまうに違いない。

食べながら、少し回ってみるか、とクラウドに促されて、スコールはその隣をついて歩く。
ドン、ドン、と響く太鼓の音と、祭り囃子の音を聞きながら、賑々しい出店を眺めて通り過ぎる。
途中、それぞれの知り合いが射的やボール掬いを楽しんでいる所を見付けたが、どちらも声をかける事はしなかった。
何処にいても賑やかで判り易い友人達の声を遠巻きに見るのみで、二人は二人の時間を守るように、敢えて知らない振りを通す。

クラウドの買った焼きそばは、スコールが二口三口を分けて貰った後、あっという間になくなった。
それだけでは彼の腹は満たされないので、進んだ先で見つけた出店に立ち寄り、フランクフルトやフライドポテトと言った定番も押さえ、焼き鳥もしっかりと食べ、焼きトウモロコシも忘れない。
そんな恋人を見ていてスコールが思うのは、よく食べるな、と言う事であったが、それ以上にスコールは気に入らない事があった。


「……なんで全部自分で出してるんだ」


判り易く唇を尖らせ、拗ねた表情で睨むスコール。

言っているのは、支払いの話だ。
最初に焼きそばを買った時から、クラウドは全ての支払いを自分で済ませている。
財布を出すスコールより、Gパンのポケットに小銭を直に入れているクラウドの方が出すのが早い、と言うのもあるが、「俺が出す」と言ってもクラウドが聞かないのだ。
段々とスコールは、クラウドよりも早く小銭の用意をするレースを一人でやるようになったが、間に合ったと思って出そうとすると、クラウドがやんわりと遮るのだ。

食後のデザート代わりと買ったかき氷も、クラウドが支払いを済ませてしまった。
それも二人分だ。
お前の分だと差し出されたかき氷の片割れを睨むスコールに、クラウドは眉尻を下げる。


「いや、まあ。つい、と言うか」
「……」
「溶けるぞ。暑いんだろう?」
「……」
「いらないか?」
「……いる」


睨み続けるスコールに、かき氷を進めるクラウド。
スコールはそれを納得のいかない表情のまま受け取って、八つ当たりするように、スプーンストローでざくざく氷の山を崩して行く。

不機嫌な表情で氷を苛めるスコールを横目に見て、クラウドは苦笑するしかない。
基本的に出不精であり、祭りと言う大勢の人が集まる環境をスコールが好んでいない事は、クラウドも重々判っている。
それでも誕生日だからと、自分の誘いを受けてくれただけで、クラウドは十分嬉しかった。
支払いの事は、自分の方が年上であるし、社会人であるからと言う甲斐性でもある。
が、そう言った事を理由に遠慮なく甘えられる程、甘え上手ではない恋人は、クラウドにきちんとした誕生日祝いが出来ない、と言う気持ちで一杯になるようだ。

祭りに来てからそこそこの時間が経つと、慣れない格好のスコールはそろそろ歩き疲れたようだった。
座るか、と祭り提灯の明かりから外れた所にあったベンチを指差すと、スコールが頷く。
暗がりになっているからか、其処は人気も遠退いて、熱気も消えて気持ち程度に涼やかであった。
クラウドはかき氷シロップを飲み干した後、途中からすっかり拗ねた顔が定着してしまったスコールを見て、


「スコール」
「……ん」
「ありがとう。俺の我儘に付き合ってくれて」
「……別に……」


クラウドの言葉に、さくさくと氷を溶かし崩していたスコールの手が止まる。
暗がりの中でスコールの白い頬が赤くなっているのが見えて、クラウドは唇を緩めた。

そっと伸ばしたクラウドの手が、スコールの襟から覗く首筋に触れる。
髪の毛の生え際をなぞって行く指が、スコールの項を辿って、スコールがくすぐったさに首を竦めた。
微かに逃げを打つスコールだったが、体が遠退く事はなく、クラウドの手を受け入れている。
クラウドの指先が項の生え際を何度も撫で、ゆるりと降りて首と背中の堺に触れると、ピクッ、とスコールの体が震えた。


「……クラウド」
「ん?」
「…なんか……、」


いやらしい、と言う言葉をスコールは飲み込んだ。
それを言う事で、そう感じてしまう自分を晒す事が、きっと恥ずかしかったのだろう。
だが、クラウドがそんなスコールを見て、我慢できる筈もなく────もとより、その意図を含んで触れていた事を、クラウドは否定しない。

クラウドの腕がスコールの体を捉えて抱き寄せ、悪戯な動きで胸元を探る。
バカ、とスコールはクラウドを叱ったが、間近にある碧眼に見詰められ、言葉を失くして顔を赤らめる。
唇を重ねて、奥まで味わうように深く深く交わる。
堪能してようやく離せば、熱に浮かされた瞳がクラウドを見上げていた。


「……良いよな?」


こんな場所でするなんて、普段なら絶対に恥ずかしがって嫌がるだろう。
しかし今日のスコールは、あんたの誕生日だから、と小さく頷く。



熔けた氷が地面に落ちて、染み込んで行く。
二人は直ぐにその存在を忘れて、二人きりの熱に溶けて行った。





クラウド誕生日おめでとう!と言う事でお祭りデート。そして浴衣えっちをするようです。

終わった後に着付けが上手くいかなくて焦ったり、誰かに見られなかったよな…?と不安になるスコールです。
クラウドはスコールをおんぶして自分の家に帰って、ラグナに連絡してお泊り許可を貰います。

[フリスコ]道連れアップサイド・ダウン

  • 2019/08/08 22:40
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大学生になった年に、フリオニールはシェアハウスを始めた。
日々の生活の利便性であったり、通学手段の都合であったりと理由は色々あるが、最も大きいのは家賃と生活費だ。
少々古いアンティーク調のその家は、その古さ故と、シェアハウスと言う環境もあって、金銭的に余裕のないフリオニールにはお宝物件のようなものだった。
心配があると言えば住民との折り合いだったが、フリオニールは他者と交流を持つ事に否やはなかった。
寧ろ、田舎から突然都会の真ん中に引っ越す事になったフリオニールにとって、色々と訊ねる事が出来るかも知れない、と言う環境は渡りに船だったのだ。

優しい女性オーナーの案内を受け、訪れたその家は、とても良い雰囲気に包まれていた。
住んでいる者は社会人から学生まで幅広く、一番若い者でまだ中学生だと言う少年もいた。
女性は一人だけ住んでいて、男性陣がそれぞれに気を遣い、女性の方も自分で皆に迷惑をかけないようにと工夫しており、円満な人間関係が出来ていた。
時折、冷蔵庫の中のデザートを誰が食べただとか、隣の話し声が煩いなどと言った事件は起きるけれど、住人は皆仲が良い。
其処にフリオニールも加わらせて貰って、新しい生活をスタートした。

初日は先住の人々に代わる代わる家を案内して貰い、この家での規則を教えて貰った。
キッチンや洗面所と言った場所に使用に関わる細かな制限はないが、冷蔵庫の中身や、洗面所のタオル等は、きちんと名前を書いておくこと。
そうでなければ誰が使っても良いものとして扱うと言う事。
風呂は五人程度は余裕で入れる広さがあるが、節水の為に入浴時間は決められており、それ以外の時間に入るのであればシャワーのみにする事。
女性が入っている時にうっかり事故を起こさない為に、脱衣所には誰が風呂を使っているか判るように名札を下げ、きちんと確認してから入る事。
共同生活をするに辺り、基本となる事を規則として、後は各人の良識を信じる、というものだった。
幸い、常識外れの行いをする者はおらず、時折起こる価値観の違いや感覚の違いから来る摩擦がある位で、日々は平和に過ぎている。

支え支えられ、時に衝突をしながら、フリオニールは共に過ごす人々と交流を深めて行った。
その中で最も親しくなったのは、スコールと言う高校生の少年だ。
始めこそ出会い頭の事件により、スコールに相当の悪印象を与えてしまったフリオニールだったのだが、その後の交流で誤解と蟠りは少しずつ溶けて行った。
今では一緒に休日に出掛ける事もあるし、お互いの部屋に寝泊まりする事もある程だ。
フリオニールはそうして一緒に過ごす相手は彼だけではなかったが、スコールはパーソナルスペースが広く、他者に自分の領域に踏み込まれる事を良しとしていないので、フリオニール程距離の近い者は少ない。
況してや彼の部屋で眠ったり、彼が他人の部屋で眠るなど、付き合いの長いメンバーでも有り得ない事だと言う。
それ程に彼と親しくなれた事に、フリオニールはこっそりと喜びを感じていた。

今日もフリオニールは、同じ気持ちで過ごしている。
小さな鎌を片手に、庭の小さな菜園で土いじりをしているフリオニールの傍らには、ホースを持って水を撒いているスコールがいる。
スコールは先日までテスト期間に向けた勉強をしていて、碌に外に出ていなかったのだが、ようやくテストが終わって一息吐けるようになった。
しかし遠くに出掛ける性質ではないスコールが暇を持て余している所に、フリオニールから声をかけて、一緒に菜園の手入れをする事になったのだ。
この菜園にはスコールがフリオニールと一緒に植えた種もあったから、スコールも気になっていたのだろう。

此処しばらく炎天が続いていた菜園に、冷たい水の雨が降る。
乾きかけていた土に水が染み込んで行き、濡れた植物の葉がきらきらと陽光を反射させていた。


「うん、もうそろそろ水遣りは十分かな」
「……ん」


フリオニールの言葉に、スコールはホースの水を停めた。
スコールは伸ばしていたホースを巻き直し、フリオニールは抜いた雑草をゴミ袋代わりのビニールに詰める。


「久しぶりに外に出たんだろ。ちょっと暑かったと思うけど、どうだった?」
「……中にいた方が良かった」
「はは……」


スコールの返事に、フリオニールは眉尻を下げて笑う。
元々インドア派なスコールには、陽光を見る健全さより、快適な屋内で本を読んでいる方が良かったのだろう。
しかし、滲む汗を手の甲で拭うスコールの表情は、決して悪くはないものだった。

と、スコールが何度も顔を手で拭うのを見て、フリオニールは自分の肩にかけていたタオルを取る。


「スコール、タオルを使った方が良い。俺が使ったもので悪いけど…」
「…ん。ありがとう」
「あ、ああ。うん」


差し出したタオルを受け取って、スコールは小さな声で礼を言った。
余り面と向かってそういった言葉を使わないスコールに、不意打ちを食らったような気がして、フリオニールはくすぐったさにほんのりと顔を赤らめる。


「ええと……うん。そろそろ中に入ろうか、冷たい飲み物も欲しいし」
「ん……タオル、助かった。洗って返す」
「良いよ、そんなに気を遣わなくて。自分で洗うさ」
「……ん」


返して貰えるようにとフリオニールが手を出すと、スコールは少し困ったように間を置きつつも、タオルをフリオニールに差し出した。
それを受け取り、じゃあ中に入ろう、とフリオニールが歩き出した時だった。

スコールが巻き直し、きちんと片付けた筈のホースが不自然にふるふると震える。
既に片付けたものと認識しているフリオニールとスコールは、それに気付く事無くホースの横を通り過ぎようとした。
その瞬間、ぱんっ、と言う少々嫌な音が響いて、水飛沫が噴き出した。


「ぶ……っ!」
「スコール!」


突然の噴射水の直撃を食らったのは、スコールだった。
ホースの口が上に向かっていた所為で、顔面から食らう羽目になり、スコールの脚元がよろよろと蹈鞴を踏む。
フリオニールが慌ててその背を支えると、スコールは濡れた頭を猫のようにぶんぶんと振って、


「なんだ、いきなり…!」
「大丈夫か?目とか……」
「ちょっと入ったけど、大丈夫だ。……水、ちゃんと止めた筈なのに」


ごしごしと手の甲で顔を拭きながら、スコールは苦い表情で呟く。
今だ水を吐き出しているホースからスコールを離して、フリオニールは横から腕を伸ばして水栓を締める。

しかし、水を停める為の栓はそれ以上締まる方向へは回らず、スコールの言った通り、きちんと元栓は占められている筈である事が判った。
それなのに水がいつまでも噴き出すと言う事は、この水栓の留め栓自体が上手く嵌っていないと言う事になる。


「…壊れてるみたいだ。コスモスに連絡しないと」
「……はあ……」
「これは、仕方がないからこのままだな…」


じゃばじゃばと溢れ出る水に、勿体ない、と二人は思う。
思うが、止めようにも止められないのだから仕方ない、と諦める他なかった。

それよりもスコールをなんとかしないと、とフリオニールはびしょ濡れになっているスコールを見る。
見てから、其処にあるものを見付けてしまって、思わず息が止まった。
フリオニールのその様子に気付いて、スコールがことんと首を傾げる。


「フリオ?」
「あ……ちょ、あの……ちょっと」
「……なんだよ?」
「……ごめん、ちょっと……」


赤い顔をしたフリオニールの歯切れの悪さに、スコールが眉根を寄せた。
何かあるならはっきり言え、と言わんばかりの表情だが、それが出来ればフリオニールとて苦労しない。

フリオニールは手に持っていたタオルをスコールに差し出した。
拭けと言う事か、とスコールが頭を拭き始めるが、


「あの、スコール。頭もなんだけど、服を……」
「服?」
「……濡れて、その……透けてる……」


まだいまいち切れの悪いフリオニールの言葉に、スコールは眉間の皺を深めつつ、自分の服を見下ろした。
今スコールが着ている服は、柄も何もない、真っ白なTシャツだった。
夏仕様のものなので厚みもない為重みがなく、風通しが良いので、スコールはリラックスしたい時には大抵この手のシャツを着ている。
同じタイプで紺や黒も持っているが、今日はたまたま白であった。

水に濡れた、薄手の白いTシャツ。
それはスコールの細身の肌にぴったりと張り付いて、薄い胸板のラインも浮き上がらせていた。
其処にある小さな蕾も一緒に。


「……っっ!」


男なら大して気にしなくても、と言われるかも知れないが、これはそう言う訳にも行かない。
水着であるとか風呂であるとか、そう言う時なら気にしなくても、今は昼まで外で服を着ている。
見えない筈のものが、そのつもりもないのに誇張されるように晒されてしまっている事に気付いて、スコールは真っ赤になってそれを腕で覆い隠した。


「……」
「………ス、スコール……」
「……」


俯いたスコールをフリオニールが恐る恐る呼ぶと、きっ、ときつい目がフリオニールを睨む。
ぎくっと固まったフリオニールを、蒼灰色はじっと睨み、睨んだ後で、緩んだ。
はあ、と言う大きな溜息と共に。


「……あんたに見られるのは、今更か……」
「う……いや、でも、それは…その……」
「あんた、一番最初に全部見てるし……」
「……あ…それは…事故で……」
「………普段も色々見られてる気がするし」
「……うう……それも…わざとじゃ、なくて……」
「………もう、今更と言えば、今更だし……」


スコールの呟きに、フリオニールはしどろもどろになっていく。
そして最後の言葉は消え入りそうなものだったが、その中に滲む意味が判らない程、フリオニールも鈍感ではなかった。

フリオニールは、家に住む事になった初日に、失敗をした。
規則の中にある、風呂を使う時に先客がいないか確認してから入る事、と言う点を忘れていたのだ。
引っ越し作業や周辺確認で疲れており、住民の殆どが休んだ時間になってからようやく風呂に入ろうとしたフリオニールは、名札を見ないで脱衣所のドアを開けた。
すると其処には、風呂上がりの程好く火照った濡れた肢体があって、フリオニールは思わず固まった。
固まって、白く細いその体に釘付けになったまま、真っ赤になって卒倒してしまったのである。
その上フリオニールは、細身のスコールを女だと思ってしまった為、翌朝事故について詫びに来た時にも、「女性の入浴を覗こうとした訳ではなかった」と言う旨の発言をしてしまい、これが原因でスコールからのフリオニールの印象は最悪のものになってしまったのだ。

その事件については、一緒に暮らすメンバーのお陰で、誤解が誤解を呼んだのだとスコールも宥められ、フリオニールも改めて謝罪した事で解決した。
しかし同様の事件は一度だけではなく、その後も何度か起きている。
スコールの入浴中にフリオニールが入って来たり、食事を用意したフリオニールが朝に弱いスコールを起こしに行ったら着替えている最中だったり、服を脱ぎかけているスコールをフリオニールが押し倒した形になった事もあった。
時折、逆にスコールがフリオニールの着換えシーンに遭遇したりして、何とも言えない奇妙な空気に捕まった事もある。
男同士なのだから気にする程の事ではないだろう、と言う者もいるだろうが、スコールにとってはそうではないのだ。
フリオニールも、最初の出会いのインパクトの尾を引き摺っており、どうもスコールの裸と言うものに過敏に反応してしまう所があった。

こう言った事件を何度も繰り返している内に、主には謝り倒すフリオニールと、それを事故だから仕方ないと赦すスコールの図が増えて行った。
そして、嫌な思いをさせた詫びにと、フリオニールがあれこれとスコールの世話を焼くようになり、スコールもそんなフリオニールに甘えるようになった。
基本的にシェアハウス内でも一人での生活を好んでいたスコールにとって、これは初めての事だったと言う。
理由が何であれ、時間を共有する機会が増えて、段々と距離が縮んで行き、────部屋の電球を変えようと、踏み台の上で足を滑らせたスコールをフリオニールが助けた拍子に、キスをしてしまって。
その日を切っ掛けに、自覚のない間に膨らんでいた相手への想いが堰を切って、走り出した。
そして、何もかもをお互いに曝け出して、恋人と言う関係となった今へとつながる。

────これまでの事を、その度に見てしまっていたスコールの肌を思い出して、フリオニールの顔が赤くなる。
どくんどくんと心臓が速くなって、言葉を失っていると、スコールがくるりと背を向けて、


「……っくしゅ!」
「あ、」


小さく響いたくしゃみの声に、ぼんやりしている場合ではなかったのだとフリオニールが我に返る。
早く中に入って着替えさせなきゃ、でもその前に、とフリオニールは羽織っていたワイシャツを脱ぐ。

取り敢えずはこれで、とワイシャツを羽織らせると、スコールは素直にそれを借りた。
スコールは一回り大きなシャツの前を手繰り合わせて、急ぎ足で玄関に向かう。
その背を追いながら、フリオニールは気温の所為ではなく、体の温度が上昇するのを感じていた。





『現パロでラッキースケベ頻発して、意識してすったもんだの末にお付き合いを始めるフリスコ』のリクを頂きました。

ダイジェストですが色んなことが起きてます、きっと。
階段の上で足を滑らせてスコールの胸にダイブしたり、ごちゃっとなって起き上がろうとして尻を掴んでしまったり。
そもそもお互いに近付かなければ、きっと起きなかっただろう事件もあったのです。でも世話を焼いたり焼かれたりで、今日はどんどん縮まって、どんどん事件も起きて行ったのです。全て起こるべくして起こった事件だったのです。

[セシスコ]泡沫の奇跡に

  • 2019/08/08 22:35
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クリスタルを手に入れた戦士達の前で、秩序の女神は業火に焼かれた。
自分達を召喚した主とも言える女神の消失により、秩序の戦士達も闇の底へと溶け行く運命だった。
だがクリスタルの加護により、戦士達は決して長くはない猶予を手に入れる。

残された僅かな時間を使って、戦士達は決戦へと向かう。
それぞれの宿命に決着を着け、全てを破壊せんとする混沌の神との闘いに挑む。
世界の命運をかけて、それぞれの大切なものの為に。

────そんな旅路でも、歩く足は賑やかだった。
そうであろうとする仲間達の声が、少ない時間と言う事実を霞ませるように、明るく響く。
他愛のない会話を交わし、思い出した記憶を語り、この世界での思い出を綴る。
何処か作り物めいた、明るいふりをした空気でも、それすらもう長く味わえないものと思えば、誰も悪い気はしなかった。
誰も負けるつもりなどないけれど、それでも結果はまだ判らない。
この世界の神ですら、結果を予知できるようなレールからは、既に外れているのだ。
だからどんな結末になろうとも、後悔する事のないように、この世界で出会った仲間の事を誇れるように、前を向いて戦士達は進む。

テレポストーンの力さえも失われつつあるのか、戦士達の進む道はその足に託されていた。
進み、休み、また進む日々は、短いようで長い。
歩くの疲れたよ、と言う愚痴も時折聞こえるが、誰もその足を止める事はしなかった。
少しだけ休んで、また明日進もう、と言えば、そうしようと皆が野営の準備を始める。
こうして自然的に役割分担をしながら野営をするのも、後何回あるだろう。
そう思うと、一つ一つの作業さえも何処か感慨深いものがあって、けれど湿っぽいのは嫌だとはっきり言う者もいたから、皆こみ上げるものは飲み込んだ。

全員での旅が始まって、何度目かの夜、その日は月が明るかった。
混沌の力が増して以来、空が快活とした色に覆われる事は少なく、重く暗い曇り空が続いた。
そんな中で久々に見た美しい月を、ひょっとしたらこれが最後かも知れないと、誰もが口にせずとも感じていた。
だから本当は早く休まなければいけないのだけれど、もう少しこの月を、皆で見る綺麗な月を見ていたいと、皆が珍しく宵っ張りの夜を過ごした。
それでもやはり休まねばと、一人二人と寝床に着き、いつものローテーションの見張り役だけが火の番をする。
スコールも同じで、自分の見張り当番が早々に終わった事を幸いに、明日に備えて眠ろうとしたが、


(………)


小さな寝息が複数重なるテントの中で、スコールは起きていた。
今日は鼾が煩いジタンやティーダとは別になったから、さっさと眠れると思っていたのに、まるで睡魔は訪れない。
それでも長い間、じっと目を閉じていたのだが、そろそろ退屈が過ぎて、耐え切れずに起き上がった。

眠る仲間達を起こさないように、足音を殺してテントを出る。
見張り当番だったバッツが顔を上げ、よう、と手を上げた。


「寝れない?」
「……少し歩いて来る」
「判った。気を付けてな」


問いかけには応えなかったスコールを、バッツは咎めなかった。
テントを出た足でそのまま何処へともなく歩き出したスコールを、ひらひらと手を振って見送る。

岩場に囲まれていた野営地を離れると、小高い丘があった。
ゆっくりとそれを上って行けば、少し目線の高さが上がって、周辺の低地をぐるりと見渡せる。
遠くに古い遺跡群があって、昨日はあの辺りで野営した、と新しい記憶を呼び起こす。
余り進んでいないように見える距離だが、実際には山道をずっと迂回しているので、結構な距離を歩いていた。

遠くを見ていた視線を、上へと傾ける。
其処には満点の星空と、細い三日月が淡い光を放ち、世界を優しく照らしていた。
もう直に訪れるであろう世界の終焉に向けて、この世界そのものを柔らかな眠りで包もうとしているかのようだ。
だが、スコール達はその眠りの誘いを振り払う為に、明日も進んで行く。


(戦いを、終わらせる為に)


この世界で連綿と続く、神々の闘い。
それに召喚され、駒として戦い続けた自分達。
その終焉を作る事で、世界が救われたのならば、自分達もようやく元の世界へと戻る事が出来る。

そう思った瞬間、胸の奥が冷たく痛むのを感じて、スコールは唇を噛んだ。
まるで嫌だと叫んでいるようで、そう感じている事が事実であると、スコール自身にも判ってしまう。
だが、それはきっと声に出してはいけない事だと思うから、歯を噛んで必死に飲み込んだ。

────草息を踏む音がしたのは、その時だ。
さくり、と柔らかなその音が聞こえたのは、月の夜が静かすぎた所為だろう。


「スコール」


呼ぶ声に振り返れば、淡い銀色の髪が、よく似た月の光を受けてひらひらと揺れている。
何処かの世界の“月の民”だと言うその男───セシルに、降り注ぐ銀の光はよく似合っていた。


「君も眠れなかったのかい?」
「……あんたも?」
「少しね。なんだか落ち着かなくて」


何事にも動じない冷静さを持っているような男でも、そんな日がある事に、スコールは少し安堵した。

かしゃ、とグリーブの鳴る音がして、セシルがスコールの隣に並ぶ。
次に交代で来る筈の見張りに備えてか、セシルはしっかりと鎧を着込んでいた。
スコールにしてみれば華美な装飾が多く見える鎧は、きちんと実用的に造られていて、着ているだけで相当な重さがある。
それを着て激しい戦闘を行うセシルは、虫も殺さないような優しい顔に反して、苛烈な内面と肉体を持っていた。
……その肉体に包まれる事に安心感を覚えるようになったのは、いつからだろう。
そんな事を考えて、スコールは胸の奥がつきんと痛んだ。

俯いたスコールの横顔を、セシルはじっと見詰めている。
視線に敏感な筈のスコールだが、思考の海に浸っている時、彼は酷く無防備だった。
そんなスコールの頬にそっと手を当てると、スコールはビクッと肩を震わせて、驚いた顔でセシルを見上げる。


「セ……」
「ん?」
「………」


名前を呼びかけて止めたスコールに、セシルはことんと首を傾げて「何?」と促す。
しかしスコールは、中途半端に口を開閉させた後、また俯いて沈黙した。

────この旅路は、終わりへの旅路だ。
終わってそれぞれの帰るべき場所へと帰る為の、最後の旅だ。
それなのに余計な事を言ってはいけない、皆そうしているのだからと、スコールはぎゅうっと口を噤む。

だが、柔らかく頬を撫でる手は、そんなスコールを酷く優しく慈しむ。


「スコール。思う事があるのなら言ってごらん」
「……別に…」
「今なら僕しか聞いていないから」


セシルのその言葉は、免罪符のようで、誘惑のようだった。
スコールがゆっくりと顔を上げると、藤色の瞳がじっと此方を見詰めている。
その瞳を見ていると、柔らかな真綿で包まれるようで、スコールは自分が必死に纏い身に着けているものが、するすると滑り落ちて行くような気がした。

何度も心を裸にされて、弱くちっぽけな自分を晒して、その度に酷い醜態を晒したと思う。
けれど、そんな自分を受け入れてくれるセシルの優しさに、スコールは縋らずにはいられない。


「……もう直ぐ、この世界は終わるだろう。俺達が勝っても負けても、きっと」
「ああ。そうだね」


この世界を作り出していた柱の一つは、既に失われた。
在るのはその残滓とも言えるクリスタルと、その恩恵を受けている10人の戦士だけ。
そしてクリスタルが力を失い、自分達が加護を喪えば、秩序の力は全て失われ、力の均衡を崩したこの世界は混沌の闇に飲み込まれて消える。

混沌の力を停める為、自分達が混沌の軍勢に勝利を収めても、恐らく結末自体は変わらない。
秩序の力も、混沌の力も失えば、いよいよこの世界は維持する力を失って、消滅していくのだろう。
違いがあるとすれば、その消滅がこの世界のみで留まるか、他の異世界まで拡がるか、それだけだ。


「…勝っても負けても、この世界は消える。勝ったとすれば、俺達は自分の世界に帰る事が出来る」
「ああ。そう言う事、なんだろうね」
「……そうなったらもう、逢えないんだろう、俺達は」


“俺達”と言ったスコールの言葉が、此処で出会った仲間達の事を全てを指しながら、違うニュアンスを含んでいる事を、セシルは感じ取っていた。

この世界で出逢った戦士達は、皆違う世界から召喚されている。
それは本来なら交わる筈のなかった邂逅で、互いの存在すらも知らないままに終わる命だった。
それが神々の悪戯、力によって運命の糸が手繰られ絡み合い、出逢う事になる。

神々の力で作られた出会いなら、その神々が消えたなら、繋がる糸も消えるだろう。
元より出会う事のなかった運命へ、それぞれの道へと帰り、二度と道が交わる事はない。


「……あんたともう、逢えなくなるって。そう思ったら、……嫌になった」


何が、とはスコールは言わなかった。
それを口にしたら、本当に何もかもが溢れ出しそうで、それはしたくないとスコール自身も思っている。
クリスタルを手に入れて、女神を失った時から、日に日に記憶が蘇る。
忘れていた思い出の中にあった沢山の顔を、声を、手を、スコールは捨てる事が出来ない。
だから帰らなければ、と言う想いも確かにあった。

けれど帰れば、この世界で繋いだ手を、二度と繋ぐ事は出来なくなる。
あと幾つかの夜を重ねたら、こんな風に月夜の下で、二人並ぶ事もない。
頬に触れるセシルの手も、其処から伝わる熱の香りも、感じる事はなくなるのだ。


「……セシル」
「うん」
「……あんたに逢わなければ良かった」


目の前の人に向けて冷たい言葉を選んだのは、本心も其処にあったからだ。
出逢わなければこんな思いもしなかったのに、こんな痛みを知る事もなかったのに。
恨むような台詞を吐きながら、そんな言葉を使ってしまう自分の幼稚さを突き付けられた気がして、スコールは悔しくて堪らなかった。

唇を噛むスコールを、セシルの手があやすようにゆっくりと撫でて、目尻に滲む雫を拭う。
柔らかな月明かりに照らされたスコールの貌は、我儘を言う幼い子供のそれと同じで、セシルは困ったように笑う事しか出来ない。
肩を抱き寄せれば抵抗はなく、細身の体がすっぽりとセシルの腕の中に収まった。


「ありがとう、スコール」
「……」
「そんなに僕の事を好きになってくれて、ありがとう」


セシルの言葉に、スコールが息を飲んだ。
ぎゅう、と噛んだ唇が震えて、スコールの手がセシルの背中に回される。

離れたくないと一所懸命に訴える少年を抱き締めて、セシルは唇を重ね合わせた。



スコールが近しくなった者との別れを極端に忌避している事を、セシルは知っている。
仲間であればその旅立ちを見送る事は出来るけれど、傍にいて欲しい人との別れは、スコールにとって何よりも恐ろしいものだった。
だと言うのに、いつかは必ず終わるこの世界で、その場所を許された自分の罪を、セシルはただ受け入れる。

それがスコールにとって、最も優しくて残酷な呪いになると知っていながら。





『月夜の切ないセシスコ』のリクを頂きました。

別れが決まっていると言うだけでも、スコールにとっては切ないものだなあ、と。
セシスコはスコールがセシルに依存して、その危険性を判っていて依存させるセシルが好きです。

[セフィレオ]非日常的空間の日常

  • 2019/08/08 22:30
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[平日、とあるアンティークカフェにて]の続き






蒼く澄んだ光に包まれて、二人で歩く。
何処か非現実的な雰囲気は、きっと周囲の環境が齎す、一つの副次効果なのだろう。
その空気はとても心地良く、ゆるゆるとセフィロスの心を潤い流すように過ぎて行く。

隣を歩く男───レオンは、物珍しいものを見る目で、きょろきょろと辺りを見回している。
こう言った場所自体にあまり足を運ぶ機会がないようだから、と言うのもあるが、こんな場所がこんな所にあるなんて、と言う驚きもあるのだろう。
セフィロスもそれは同じで、話に聞いてはいたが、まさかこんなにも大規模で本格的だとは思わなかった。
ビル自体が大きく広く、複数のコンテンツが混在する大型商業施設なので、期待値もなくはなかったが、しかし普通はこんな場所にこんな物を作るものじゃない、と言う常識的な発想が浮かぶ。
それを打ち壊した代物なのだから、入場料が少々高いのも、致し方ないのかも知れない。

都心の中心に聳える巨大なビルの中に作られた水族館は、中々凝った趣向を凝らしていた。
平時から客足が絶えないその水族館は、夏休み真っ最中の今でも人で溢れているのだろうと思っていたのだが、案外と空いているように見える。
噂程に流行っていないのか、ピークが過ぎているのか、偶々なのか。
理由は色々とあるのかも知れないが、セフィロスにとってはどうでも良い事だ。
気まぐれに入ってみたら思いの外空いていたと言うのは、余り人混みが得意ではない二人の男にとって、幸運だった。
どうせもう一度来る機会があるかも怪しいのだし、のんびりと見れる内に回ってみよう、と言う話になり、二人で順路通りに展示を楽しんでいる。

大きな水槽の前で足を停めた二人の前を、悠然と泳いでいく生き物は、体長1メートル程のアザラシだ。。
透き通った水の中で獲物を探す為、大きく発達した瞳に、水面から透き通る光の波がゆらゆらと反射している。
時間になればショーにも使われると言う広めの水槽を、数頭のアザラシ達が楽しそうに泳いでいた。


「気持ち良さそうだな」


水槽の前で立ち尽くして、レオンが言った。
独り言のようにも聞こえたが、ああ、とセフィロスが返事をすると、レオンは少し嬉しそうに頬を緩ませる。


「…3時からショーがあるようだが、見るか?」
「さて……どうするかな」


セフィロスの言葉に、レオンは肩を竦める。

広いホールとなっている其処の出入口には、動物たちのショーのスケジュールが書かれていた。
時刻はまだ1時を過ぎた所で、ショーが始まるには随分と間がある。
時間を思えば、今は昼食と休憩で、客が飲食スペースに集まっているのかも知れない。
しかし他の所を周ってから戻ってきたら、見栄えの良い場所は他の客に奪われていそうだし、何よりその時の人の多さを想像すると、レオンは余り気乗りしなかった。


「止めておくか?俺はどちらでも構わない」
「俺もそうなんだ。見た事がないから興味はなくもないが……割と今日は空いているようだけど、ショーとか時間が決まっているものがあるなら、その時だけ集まる人も多そうだし。子供も増えるだろうしな」


折角来たのだから見て行けば良いのに、と此処にいない友人達の声を聴いた気がしたが、それとこれとは別なのだとセフィロスもレオンも思う。
どうしても見たいと言う訳ではなかったし、それなら客が此処に集中している間に、比例して人が少なくなるであろう通路展示をゆっくり見ても良い。

行くか、と言ったセフィロスに、レオンは頷いた。
のんびりとアザラシを眺めているのも悪くはないが、他の展示も気になっているのだろう。
歩き出したセフィロスの後を、レオンは素直について来た。

立地条件の所為もあるのだろう、海岸沿いにあるような有名な水族館に比べると、巨大な水槽と言うものは少ない。
代わりに展示方法に趣向が凝らされており、動物の生態に合わせて、客が目を引くような行動を取るようにと工夫がしてある。
しかし、セフィロスとレオンが最も興味を示したのは、特集として特別展示されている、深海生物を主とした変わった生態を持つ生き物群だった。
見た目も変わった物が多いその展示水槽を眺めて、レオンが呟く。


「深海生物か……一時、随分と流行っていた気がするな」
「ああ。特には、こいつか。俺もニュースで見た事がある」


そう言ってセフィロスが指したのは、真っ白なダンゴムシのような生き物だ。
しかし海の中にダンゴムシがいるなんて聞いた事もないし、第一これはダンゴムシではない。
形状だけはよく似ていて、だが比べものにならない程大きく、顔の詳細まではっきり見えるのを見て、レオンは首を傾げる。


「俺も見た覚えがある。うちの班の女性が可愛いと言っていたような気がするんだが……可愛いか?」
「さて、俺には判らん。一応、可愛くしたものもあそこにいるぞ」


そう言ってセフィロスが指差したのは、物販コーナーに詰まれたぬいぐるみ。
フォルムをよく再現しているが、デフォルメも施されており、何よりもふもふとした布綿の雰囲気もあってか、可愛いと言えば可愛い……かも知れない、とレオンは眉尻を下げた。


「……流行と言うのはよく判らないな」
「同感だ。まあ、そう言うものはザックスやクラウドに任せておけ。あいつらの方がこう言う話は向いている」


同僚であり後輩である、仲の良いコンビの名前に、そうだな、とレオンは頷いた。
元々流行に興味がない上、流れの速いそれに乗って情報を追うのを、レオンもセフィロスも得意とはしていない。
仕事に必要となれば色々と調べはするものの、平時からそれを終始追う癖はついていなかった。

展示をルートに沿って一通り見終わった時には、時刻は3時を周っていた。
アザラシのショーが始まるな、とセフィロスは言ったが、レオンは困ったように苦笑するだけだ。
入った時には静けさもあった館内だったが、客足が戻って来たのか、ショー目当てなのか、子供の声がよく聞こえる。
ショーを見に行く気もない二人は、静けさを求めて退館する事にした。

エレベーターでビルの中層まで降りて、少し座れる場所を探す。
客入りのピークを過ぎたフードコートがあったので、コーヒーと軽食を頼み、一服する為に席を取った。


「こう言う所も、偶に来るのは良いかも知れないな」
「同感だ。次に来る事があるかは判らんが」


セフィロスの言葉に、確かに、とレオンはくすくすと笑う。
今日は本当に、何も予定がなかった事や、偶々この場所を訪れたから、行ってみようかと言う話になっただけだ。
そもそも二人とも出不精な性質があるから、こうやって二人で街を散策する事も滅多にない。
そんな奇跡のような事が二度も三度もあるとも思えず、また意図的に起こす気もないので、今日と言う日がまた訪れると言う予感は全くしないのだった。

セフィロスはコーヒーを傾けて一口飲むと、薄いな、と呟いた。
昼にカフェで飲んだものと比べれば、仕方のない事だとレオンが宥める。
セフィロスはさっさとコーヒーを空にして、のんびりと軽食を楽しむレオンを眺めながら言った。


「気まぐれに入ったようなものだったが、知らない物を知るには良い機会だったな」
「ああ。あの動物があんなに大きいとは思っていなかった。皆が可愛いと言っているから、もっと小さいものなのかと」
「深海生物と言うのは、総じて大物が多いそうだ。体が大きい方が体温を逃がさずに済むと言う考えもある」
「だが、体が大きいと言う事は、その体を維持する為にのエネルギーも増えるだろう。餌が少ない深海で、それは非効率な進化に思えるな…」
「水圧に耐える為に巨躯になった、と言う考えもあるらしい」
「それなら……理屈としては判るか」
「後は、餌が少ない故に巨大化した、とも。生物は体が大きい程、新陳代謝の効率は下がる。そうなれば、大きくなるほど、エネルギーの消費量が抑えられると言う事だ」
「その上で餌を自ら能動的に探さない、流れて来るのを待つ習性を持つ生き物なら、食料が少なくとも長く生きる事は可能になる、と。熱の放出や、新陳代謝の効率を求めた進化の形は、陸上の動物とそれ程違いはないんだな」


成程、と納得した顔をするレオンに、セフィロスは例外も少なくはないがな、と付け加えた。


「…深海は宇宙よりも未解明の部分が多いと言われているそうだ。研究している学者でも判らない事が多いと言うし、俺も別にそれ程興味がある訳でもないから、実際の所は何も知らない」
「その割には詳しい方に思えるが。そう言えば、生物科学科にいたんだったか?」
「ザックスにでも聞いたか?生物科にいたのは初年度だけだ。教授が気に入らなくて辞めた」
「そんな事があったのか」


セフィロスの告白に、意外だ、と言いながら、レオンはくすくすと笑った。
何事も完璧に、まるで天啓でも持っているかのように卒なく物事をこなしている男でも、若気の勢いと感情で行動する日があったのか。
見た目の美丈夫ぶりもあり、何処か人形めいて見えるセフィロスの、時折見せる人間臭さが、レオンには面白い。
其処には、滅多に自分の事を語らないセフィロスが、過去を細やかながら教えてくれたと言う喜びもあった。

コーヒーと軽食を済ませて、さて次はどうする、と二人は顔を見合わせた。
そろそろビルを出て他に行こうかとも思ったが、真夏の現在、外は陽炎が上る程に暑い。
窓の向こうでぎらぎらと光る太陽を見て、せめてあれが沈むまでは外には出るまいと思う。


「……少し店を見て回ってみるか。何か気になるものはあったか?」
「そうだな……ああ、確か下のフロアに水族館のグッズや土産物を並べた店があったな。館内の物販は人が多くて見れそうになかったし、そっちで見てみるか」
「弟への土産か。今度来るんだったか?」
「友達と一緒にプチ旅行、らしい。うちに泊まって行くんだ。少し付き合わせるが、良いか?」
「構わない」


席を立つセフィロスに、ありがとうと礼を言って、レオンも椅子を引いた。
空のトレイをフードコートの指定の位置に返して、二人はエレベーターへと向かった。




ザックスとクラウドがそのビルに足を運ぶ機会は多い。
食事の為だったり、季節物の新しい服を買う為だったり、単純に暇なので行こう、と言う事もある。
スタイリッシュな外観を売りにしている所為か、中の店舗施設も選ばれているのだろう、余りアングラな雰囲気の店は入っていなかった。
メジャーで名のあるブランド店は、こぞって出店しているから、主にはそれを目当てしている。
上層にある水族館は、家族連れや若いカップルの憩いの場所になっているそうで、ザックスも恋人と来る時には其処に向かう事もあった。
しかし今日の連れ合いはクラウドなので、エレベーターは中層止まりである。

今日の二人のお目当ては、贔屓にしているアクセサリーブランドの限定商品の回収だった。
受注生産とされるそれは、受付が始まった時に予約も支払いも済ませているので、受け取る日を間違えさえしなければ、誰と喧嘩をする事もなく悠々と手に入れる事が出来る。
個々で注文した二人が今日を受け取りにしたのは全くの偶然だったのだが、それなら気の合う者同士、ついでに遊んで帰ろうと言う話になり、連れたって来たのである。

目当てのフロアに到着した二人は、早速と意気揚々とした足で店に向かおうとした。
が、その前にエレベーターホールの直ぐ傍にあった店で、クラウドが足を止める。


「どした?クラウド」
「あそこに珍しいのがセットでいる」


店を指差すクラウドに、ザックスがその先を見ると、可愛らしいフォルムの水族館グッズが並べられた土産コーナーがある。
上層にある水族館は、物販コーナーが客で溢れる事もある為、客足を散らす為、館外にも店が出ているのだ。
大抵、其処にいるのは水族館帰りの家族連れか、海洋生物が好きな者なのだが、そのどちらにも当て嵌まらない背中が並んでいた。

背の高い濃茶色の髪と、それよりも頭半分程高い位置から始まる、腰まで伸びた長い銀髪。
まず間違いなく職場の同僚二人と判る後ろ姿だが、こんな場所で先ず見る事のないものを見付けて、ザックスは今年一番驚いた。
二人はザックス達の視線には気付かず、真面目な顔でぬいぐるみを触っている。
社内でも顔も頭も良いと評判でトップ成績を持つ二人が、ダンゴムシのぬいぐるみを抱えて顔を埋めたりする図は、なんともシュールであった。


「……おお。なんだあれ」
「何って、デートだろう。多分」


驚きが過ぎて思わず呟いたザックスに、クラウドは言った。
あの二人が一緒にいるのだから、そうだろう、と。
それを聞いて、そうか、デートか、とザックスも納得した。

どちらが言い出したのか知らないが、彼等にこんな所にデートに来る発想があるとは意外だった。
普段、仕事で共にしている事は多いが、余り甘い空気もなく過ごしている二人を知っているだけに、こんな所でどんな会話をしているのだろうと、ちょっとした興味も沸いて来る。

しかし、アザラシのぬいぐるみを抱えたレオンは、くすぐったくも楽しそうだ。
良くも悪くも真面目過ぎると言われるレオンが素直に笑みを零している場面は、とても珍しい。
セフィロスも冷たく見られ勝ちな頬が緩んでいるし、これは割って入るのは野暮と言うものだろう。
ザックスはクラウドを促して、彼らに見付かってしまう前に、その場を離れる事にした。


───明日、お前達を見かけたぞと言ったら、彼らはどんな反応をするだろう。
一人は赤くなって、もう一人は涼しい顔で流すのであろう場面が想像できて、ごちそーさま、とザックスは一人笑うのだった。





『セフィレオ』のリクを頂きました。
去年のセフィレオを気に入って頂けたようでしたので、続いてみた。と言うか書きたかった。

傍目に見ると楽しいのか?と思うような雰囲気や会話でも、本人達は楽しんでます。
そんなに甘い雰囲気もなく、真面目な顔で真面目な話をしてるけど、楽しんでます。
本人たちはデートだと意識してないけど、どう見てもデートです。
そんなセフィレオです。

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