全てを溶かして行くような熱の中で、意識がふわふわと揺れる。
知らず息を詰めていたのだと自覚した直後、体が我慢の限界に至って、熱い中に己の欲を吐き出した。
震えながら伸縮して締まる感触があって、ああ、と感嘆の息が漏れる。
それからしばらくの間、クラウドは肩で息をしていた。
組み敷いた男も、ぼんやりと天井を見上げて、意識が宙に浮いているのが判る。
少しずつ呼吸が落ち着いてきた所で、クラウドはゆっくりと体を起こした。
中に埋めていたものを抜いて、流石に喉が渇いたな、と現実的な思考が過ぎる。
けれどベッドから出てしまうのは勿体なくて、どうしたものかと、特に決める気のない取り留めのない気持ちで過ごしていると、下の気配がごそりと動いた。
ベッドに沈む年上の男───レオンは、深く体を沈めたまま、目元にかかる前髪を掻き揚げた。
濃茶色の髪がシーツの波の中で無造作に散らばって、何とも扇情的な光景を作り出している。
その髪をくしゃくしゃと掻きながら、レオンの蒼の瞳がふと彷徨う。
何かを探すように、ベッドの横に向かって眼球が動いているのを見て、恐らくは彼も喉が渇いているのだろうとクラウドは思った。
クラウドの手で散々喘がされたのだから無理もない話だ。
一応、甲斐性くらいは見せるべきか、でも、とクラウドがベッドを抜け出す事に対し、ぐずぐずと過ごしていると、
「……ん、」
レオンの視線がある一点を留めて、何かに気付いた声を漏らす。
クラウドもそれには気付いていたが、別段、自分に関わるものではないだろうと気にしなかった。
ベッドの端を握っていたレオンの手が、ふらりと持ち上がって、クラウドの顔に触れる。
形の良い指先が、つう、と目元を擽ったのを感じて、くすぐったいなと思った後、
「クラウド」
「なん────」
呼ばれたので返事をしようとして、それが途中で塞がれた。
視界を埋める濃茶色のカーテンに、クラウドは何が起きたのか判らなかった。
口で呼吸が出来ない事は数瞬の後に理解して、それから直ぐ目の前に長い睫毛がある事に気付く。
蒼の瞳は瞼の裏側に隠れていて見えなかった。
それでも、自分がキスをしている───されている事は、遅蒔きに理解が追い付いて、取り敢えず鼻で呼吸をする。
唇の隙間をくすぐられる感触があったので、口を開いてみると、するりと艶めかしいものが滑り込んでくる。
舌に絡み付く弾力のある感触を、応える形で絡め返すと、下りた瞼がぴくりと震えるのが見えた。
「ん…ん……っ」
ちゅ、ちゅく、と咥内で音が聞こえる。
クラウドの口の中で唾液が絡まり合い、二人分の粘液が混じり溶けていく。
クラウドが頭の位置を下げると、口付けがより深く交わった。
頬に添えられていた手が首へと移動して、クラウドの頭を抱くように包み込む。
いつになく情熱的だと思いながら、クラウドもレオンの頬を撫で、指先で耳の裏側をくすぐりながら、レオンの味を堪能した。
いつもの事を思えば長い交わりになったキスを終え、唇が解放された時には、クラウドの咥内は唾液で溢れていた。
レオンのそれも混じっているのを飲み込むが、口端からは溢れたものがとろりと糸を引いている。
手の甲で拭って、皮膚にはりついた液を舌で舐めた。
「……どうした。随分積極的なようだが」
「不満か」
「そうは言ってない。だが、自分からしてくる事なんてないだろう。何考えてる?」
何を企んでいる?と言うニュアンスで問えば、レオンは心外だとばかりに眉尻を下げて見せた。
それはそれは、わざとらしく。
「酷い言い草だな。祝ってやったのに」
「祝い?」
何の話だとクラウドが問い直すと、レオンは目線だけで答えを寄越した。
横へと向いたその視線を負い、クラウドが首を巡らせれば、デスクがあって、其処には日付表示付きのデジタル時計がある。
時刻は日付が変わったばかりで、それから5分が経った所。
いつもの流れを思えば、2回目を終えて、そろそろ寝かせろとレオンが寝る体勢に入ろうとする頃だ。
今日もそんな感じになるだろうとクラウドは予想していたのだが、今日は少々勝手が違うらしい。
その理由を、どうして、と考えてから、先のレオンの“祝い”の意味を知る。
「ああ。俺の誕生日か」
「そう言う事だ」
やっと思い出したクラウドに、レオンはやれやれと肩を竦める。
祝い損になる所だったと宣い、
「俺からのプレゼントだ。嬉しいだろう?」
「随分安上がりのプレゼントだ」
「金に余裕なんてないからな。貰えるだけ有り難いと思え」
はっきりと言い返してくれるレオンに、そいつはどうも、と今度はクラウドが肩を竦めた。
ぎしりとベッドが軋む音がして、レオンが身動ぎをする。
覆い被さっていたクラウドが体を起こすと、よっこらせ、と重怠さを隠さずにレオンも起き上がる。
レオンは腰を庇いながら座る姿勢になって、ベッドヘッドに寄り掛かった。
「今日はユフィが張り切ってたからな。何か仕掛けて来るだろうから、それもちゃんと有り難く受け取れ」
「イタズラの類じゃないなら、貰っても良いがな」
「其処は───まあ、大丈夫だろう。一応、お前の誕生日だし」
仕掛けて来ないだろうとは言わないレオンに、クラウドは今日は心構えをして過ごした方が良いと知る。
そして、それはそれとして、恐らくはちゃんとそれなりの準備もしてくれているのだろう年下の幼馴染に、気の良い奴だと笑みも零れる。
恐らくは、こういった行事的な事を理由に、皆で賑やかにしたいと言うのが本音なのだろうが、それでも目的はクラウドの祝いなのだ。
今日は何処にも出掛けずに、街をパトロールして、夜まで暇を潰すとしよう。
今日の予定が大雑把に決まった所で、クラウドはベッド上で休むレオンへと視線を戻す。
寒さを嫌って手繰り寄せたシーツを腰に巻き、まだ滲む汗を鬱陶しそうに拭っているレオン。
均整の取れた体が、窓から滑り込む月明かりに照らし出されているのを見て、クラウドはまだ残っている身体の熱が蘇るのを自覚した。
「おい、レオン」
「なんだ」
「続き」
「……まだするのか」
疲れたんだが、と言うレオンに、クラウドは猛った自分を見せてやる。
判り易く昂っているその姿に、レオンは呆れたように溜息を吐いた。
クラウドがレオンの肩を掴むと、蒼の瞳が此方へと向けられる。
疲れていると言う気持ちはありありと映し出されていたが、クラウドは構わずに唇を重ねた。
判り切っていたのだろう、レオンは叱る事も振り払う事もせず、クラウドのさせたいように任せる。
唇を割って舌を侵入させれば、応じる形でレオンの舌が差し出されたので、遠慮なく絡め取って啜った。
「ん、ふ……」
「んん、」
「ふ……ん、む…あ……っ」
キスをしながら、レオンの首筋から鎖骨へ、指を滑らせてやる。
唇と唇の隙間から、甘い音が零れたのを聞いて、彼の体もまだ熱を残しているのだと言う事が判った。
先のキスのお返しに、たっぷりと彼の唇を味わって、クラウドはレオンを開放した。
はあ、とレオンが天井を仰いで、肺の酸素を入れ替える。
その体を引き倒す形でベッドにまた横たえて、クラウドはその上に覆い被さった。
「俺が貰ったプレゼントだ。俺の好きにして良いな?」
「……加減くらいは考えろ」
にやりと笑みを浮かべた男の顔に、レオンは溜息を吐きながら言った。
飴をやり過ぎたなと呟く声があったが、もう遅い。
貰ったものを今更逃がす気のないクラウドは、落ちてきた果実を遠慮なく食らう事に集中するのだった。
クラウド誕生日おめでとう!と言う事でいつもの流れです。
明け方くらいまで張り切って、後で怒られるけど特に反省はしないのもいつも通り。
モーグリショップに変わった商品が入荷したと聞いて、バッツが見に行こうと言い出した。
賑やか組はそれに勿論の如く便乗し、次いで丁度モーグリショップに用があり、向かおうとしていたクラウドが捕まった。
スコールは時間を持て余して読書をしていた所を見付かり、連行宜しく引きずり出される羽目になった。
モーグリが何を入荷したなど、スコールにとっては大して興味のない話だ。
闘争に当たって有効に使える物ならともかく、しかし大抵はそう言うものとは全く関係のない代物である事が多いから、スコールにとっては“どうでも良い”で済まされる。
それなのに、どうして自分まで同行しなければいけないのかと、漏れる溜息は隠さない。
隠さないが、バッツは勿論、ジタンもティーダもそれを気にする事はなく、暇潰しだと思ってさ、と宣ってくれる。
秩序の戦士達の拠点である地点から、程近い位置にショップを構えたモーグリは、お得意様向けにと言って、一風変わった商品を仕入れて来る事がある。
その多くは、一帯何処から迷い込んだのか、誰かの世界の貴重品であったりする。
凶暴な魔物が番をする秘境に眠るお宝だとか、何十トンと言う土を掘り返してほんの数グラムしか採取できない鉱石だとか、ロットナンバー0000の遊園地の景品だとか言う具合だ。
お宝はその内容により、鉱石は上手く加工する事が出来れば有用な魔力ブースターになるのでまだ良いが、フィギュアだとかゲームソフトだとかは、この世界では文字通り無用の長物である。
しかし、元の世界でレア品だと言われていると、収集欲が沸く者もいるようで、それなりにモーグリの儲けにはなっているようだ。
今回もどうせそう言う類なのだろうと、スコールは予想を立てていた。
かくしてそれは遠からず正解しており、バッツに急かされて商品を持ってきたモーグリを見て、やっぱりな、と思う。
「今日の日付と、時間が判って、お知らせ機能もついてる、便利なハイテク時計クポ!」
「へえ~、日付も判る時計なんて凄いな!」
「凄いっスか?」
モーグリが持ってきたのは、デジタル表示の電子時計だった。
時間の横に日付が表示され、上面と側面に小さなボタンが幾つもあり、恐らく色々な補助機能が付属しているのだろうと想像できる。
食い付くバッツの隣で、ティーダが判り易くがっかりした顔をしている。
技術の進んだ世界から来たティーダには、この程度の事は大して驚くような機能でもないのだ。
スコールとクラウドも同様であったが、バッツとジタンは違った。
「日付が判るものなんて、おれの世界にはなかったよ。ティーダは違うのか?」
「これ位の機械だったら、割と何処にでもあったっスね」
「ジタンは?」
「オレは初めて見たな。絡繰り仕掛けの時計はあるけど、これはそう言うのじゃなさそうだし」
電子機器が当たり前に流通している世界と言うのは限られている。
ジタンの世界では、絡繰り仕掛けが組み込まれた大型駆動の機械は存在しているが、それを使える国は限られており、一般市民が気楽に使えるものでもなかったそうだ。
バッツは機械と言うものが古くに失われた代物で、ごく一部の国がその技術を太古より継承していたそうだが、これもまた一般的な話ではない。
どちらにせよ、彼等にとっての機械と言うのは、歯車やバネが組み合わさって大きな力を生むもので、電気エネルギーを元とした精密機器とは全くの別物だ。
バッツが時計を手に取り、側面のボタンをカチカチを押して遊んでいる。
ボタンが押される度に、前面のパネルの表示形式が変わり、カレンダー表示からメモ機能まで使う事が出来る。
メモ機能がついているとあって、文字も短いながら打ち込めるようだ。
文字を打つには少々使い勝手は悪そうだが、アイコン表示と併用すれば、上手く扱えるかも知れない。
電子端末が比較的広く普及されていた世界から来たスコールにとっては、この程度はハイテクと言う程のものでもない。
とは言え、決して大きくはない、掌大より少し大きい程度の胴体に、これだけの機能を詰め込めていると言うのは、滅多にない代物のようにも思えた。
あれば便利かもな、とスコールが思っている間に、バッツはこの時計を買うかどうかを悩み始める。
「うーん、どうするかな。時計は一応、あるしなあ」
「色々メモを記録できるって言うのは、便利そうだし、使えそうだけどな。場所も取らないし」
「バッツの部屋に置いたらどうっスか?これ、目覚ましもついてるみたいだから、寝坊防止に良いっスよ」
「おれそんなに寝坊してないぞ!寝坊ならクラウドの方だろ」
「確かに。クラウド、お前はどうだ?」
「………ん?」
わいわいと賑やかな一角から離れ、他の棚の商品を見ていたクラウドに声がかかる。
自分の用事で此処に来たクラウドは、目当ての品を探すことに集中していたようで、賑やか組の会話は聞こえていなかった。
何の話だ、訊ねるクラウドに、バッツは時計を見せる。
「これこれ。色々お知らせ機能ついてるみたいだし、便利そうだから、どうかなって思ってさ」
「たま~に寝坊する事あるし、遅刻防止にどうだ?」
バッツに便乗して薦めるジタンの表情には、にやにやと揶揄う含みがある。
クラウドの寝坊、遅刻の理由を匂わせているその表情に、クラウドは肩を竦めて見せるのみとした。
時計などクラウドにとってはあっても無くても良いものだが、まあ取り敢えず見てみるか、とバッツ達の輪へ近付く。
バッツの手から時計を受け取り、ボタンを押して機能を確かめる。
やはりクラウドにとっては、ハイテクと言う程のものではないが、だが便利そうである事は判った。
カチ、カチ、とボタンを押している内に、パネルに表示されるものが一周して元に戻る。
シンプルに時計と日付だけが掲示されたのを見て、ん、とクラウドは其処に映った数字に気付いた。
「8月11日……」
「ん?何かあるんスか?」
「いや。俺の誕生日だなと思って」
それだけだと言うクラウドは、本当にそれを言っただけだった。
忘れていた事をふっと思い出した、と言うだけのもの。
だが、それを聞いて黙っていないのが、商魂逞しいモーグリである。
「クポポ!お客さん、お誕生日クポ?じゃあ特別にお安くしてあげるクポよ!」
「ほう?それはこの時計だけじゃなく、店の商品全てと見て良いのか?」
「クポッ!?ぜ、全部はちょっと……あっ、でもでも、一杯お買い物してくれれば、その分お得にするクポ~!」
このチャンスを逃すまいと、モーグリはすぐさま客の要望に呼応した。
売りたい商品があるとは言え、それを選ぶかどうかは客の自由。
それに固執するよりも、客の求めるものに応じて臨機応変に、客にお得感を与えつつ自身もしっかり利益を出すのが最も良い流れである。
と、クラウドとモーグリのそんな遣り取りを見ていた仲間達も、その流れへと参加した。
「クラウド、誕生日だったのか」
「この日付が正しいならな」
「なんでも良いじゃん、正しいって事で。誕生日って事で!」
「じゃあクラウドのプレゼント買わなきゃな!」
ティーダの言葉に、いいねえ、とジタンとバッツも頷く。
それを見れば、更なる商売のチャンスだとモーグリが判り易く跳ねて喜んだ。
わいわいとクラウドへの誕生日プレゼントを物色するバッツ、ジタン、ティーダ。
スコールは少し離れた場所でそれを眺め、まだしばらく帰れそうにないな、と溜息を吐く。
引き摺って来られた身としては、早く用を済ませて帰りたい、と言うのが本音であるのだが、それはそれとして、頭の片隅に引っ掛かるものはあった。
(誕生日……)
スコールとクラウドは、恋人と言う関係にある。
恋人の誕生日と言うのなら、某か祝うことを考えた方が良いのだろうか。
しかし、元来人づきあいが苦手であり、それに基く行事的な物事に対して、スコールは経験も思い入れもさっぱりであった。
バッツ、ジタン、ティーダの三人は、あれはどうだ、これはどうかと楽しそうにクラウドへのプレゼントを探している。
その間にクラウドは自分の買い物を───ちゃっかり誕生日割引を使って───済ませ、壁の花と化しているスコールの元へと向かう。
「……必要なものは揃ったのか」
「ああ。お前は、ずっとそうしてるが、何か必要なものはないのか?今なら俺の割引が使えるぞ」
「…特に何も。あいつらに無理やり連れて来られただけだ」
来ようと思って来た訳ではないから、どちらかと言えばさっさと帰って解放されたい。
それが本音であったが、勝手に帰るのは流石に角が立つ気がして、バッツ達の気が済むのを待つしかないだろう。
クラウドはスコールの隣に立って、壁に寄り掛かった。
めいめい楽し気な仲間達を見守る碧眼は、何処か上機嫌に見える。
不意に気付いた誕生日が嬉しい───と言うよりは、自分の為にあれこれと頭を捻る仲間達の様子が面白いのかも知れない。
微笑ましささえ感じさせるその瞳に、なんだかスコールは居た堪れない気分になった。
(…やっぱり、何か……)
仲間達がクラウドへの誕生祝を選んでいるのに、曲りなりにも“恋人”である自分が、此処で何もしていないと言うのはどうなのだろう。
なんとなくそんな、罪悪感のような意識がじわじわと芽生えて来て、スコールは落ち着かなくなった。
コツ、コツ、とスコールの足元が小さく床を鳴らす。
傍目には、中々帰れない苛立ちのように見える仕草だが、スコールの気持ちは全く違う所にある。
隣に佇む男をちらりと見遣って、喉の奥が詰まるものを感じながら、どうにか口を開いて、
「……クラウド」
「ん?」
「……あんた、何か…欲しいものは」
言葉が尻に行くほどに、スコールの声は小さくなった。
「え?」と此方を振り向いたクラウドに、スコールはさっと目を逸らす。
やっぱり余計な事をした、と苦い表情で、スコールはポーションが並ぶ棚を睨む。
背けられたスコールの顔を、クラウドはじっと見つめる。
思わぬ言葉についつい目を丸くしてしまったクラウドだったが、スコールの言った事はちゃんと聞こえていた。
偶然思い出しただけの、それも正しいか判らない自分の誕生日なんて、わざわざ気にして貰えるとは思っていなかったのだ。
プレゼント探しを始めた仲間達に触発された所もありそうだが、理由は何であるにせよ、恥ずかしがり屋の恋人がきっと精一杯の勇気で踏み込んでくれた事に、クラウドは自然と唇が緩む。
そっぽを向いたまま戻って来ないスコールの、赤くなった耳を見詰めながらクラウドは言った。
「……そうだな。もし良ければで良いんだが」
「……」
クラウドの声に、ぴく、とスコールの頭が揺れる。
それから、ゆっくりと蒼の瞳が此方へと戻されて、クラウドはそれをじっと見つめながら、彼だけに聞こえる声で言った。
「お前が欲しいな」
「………!!」
仲間達に聞こえないように、潜めた声で囁かれた願い。
その言葉の意味を、スコールは正確に理解して、沸騰よろしく顔が熱くなる。
何を言ってるんだ、あんたは馬鹿か、と声を上げようとして、ティーダの「これこれ!どうっスかね」と駆け寄ってくる声がスコールを制止した。
商品棚に陳列された中にあった、獣をモチーフにしたシルバーアクセサリーを見せるティーダ。
クラウドは差し出されたそれを手に取って、しげしげと眺めてみて、
「ああ。中々良いな」
「よし!俺、これに決まり!」
クラウドも気に入ったと笑みを向けてやれば、ティーダはガッツポーズをして、会計へと向かう。
バッツとジタンも悩みつつ、この辺が良いかなあ、と目星をつけ始めていた。
商魂逞しいモーグリに、これもどうか、あれもどうかと薦められているティーダ。
それはまたの機会にと流しつつ、財布を取り出すティーダを見ていたクラウドだったが、さて此方はどうなったと隣を見遣る。
其処には、声をあげるタイミングを逸し、相変わらず赤い顔で俯いているスコールがいる。
付き合うようになってから、平時の大人びた雰囲気とは違い、存外初心なスコールの姿に、クラウドはくつりと笑みを漏らす。
割と本気ではあったが、それでも大人の余裕と寛容として、「冗談だ」と逃げ道を差し出そうとした所で、スコールが顔をあげる。
「……」
「ん?」
「………」
蒼がじっとクラウドを見詰めていた。
鼻の頭まで赤くなっているスコールに、どうした、とクラウドが首を傾げると、
「……別に」
「?」
「……好きにしたら、良い」
ぽつり、ぽつりと、零すように紡がれた言葉。
その意味が、先の自分の願いに対する返事であると、数秒の時間を要してからクラウドは気付いた。
スコールは直ぐにまたそっぽを向いて、クラウドからは、赤くなった耳と首しか見えない。
きっと今頃、彼の頭の中では、羞恥心と後悔と、他にも色々な感情がごちゃ混ぜになっているのだろう。
そんな恋人の姿に、何よりのプレゼントだ、とクラウドは声に出さずに感謝を告げた。
クラウド誕生日おめでとう!
今夜はきっとスコールの方からクラウドの部屋に来てくれるんだと思います。