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2021年10月06日

[ソラレオ]どこまでも走る君へ

  • 2021/10/06 01:52
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


レオンの家に、ふらりとやってくる客は、二人いる。

一人は幼馴染であり、このレディアントガーデンを故郷としているが、何やら忙しそうにいなくなったり帰って来たりとするクラウドだ。
彼はこの街が故郷であるにも関わらず、日々の殆どを全く遠い何処か異なる場所で過ごしており、帰って来るのは気まぐれな事だった。
故にか、彼はそれなりに復興が進んだ今でも、自分自身が住まう、我が家と呼ぶような場所を持っていない。
あった所でほぼ空き家になる事を思えば、持たない事は合理的であると言えよう。
その代わり、帰って来る都度、彼はレオンの自宅を宿替わりに使っており、レオンはその代わりに彼を復興作業の貴重な人材として使っている。

そしてもう一人が、このレディアントガーデンの世界と名前を取り戻してくれた、キーブレードの勇者───ソラである。
彼の場合、グミシップに乗って、文字通り世界を跨いで旅をしている為、日々の中でレディアントガーデンを訪れるのは僅かな時のみだ。
その僅かな時間を、ソラはレオンの下で過ごしたがる。
どうやら、彼の冒険の一番最初───まだ右も左も判らなかった頃の彼に、レオンが微かな指標を示して、「行ってこい」と送り出した事が、彼の心をレオンに縫い留める切っ掛けになったらしい。
そしてレディアントガーデン(当時はホロウバスティオンの名で呼んでいたが)の闇が払われ、その後一年、彼は何処かで眠っていたそうだが、目覚めてから次の行先を考えようとして、最初に浮かんだのがレオンの顔だったそうだ。
旅の再開に向け、一年ぶりに降り立ったその地で、レオンとソラは再開した。
それから様々な事件が起き、それも一段落してからも、ソラは不定期であるが街を訪れている。
レオン達の地道な努力と、セキュリティシステムの存在もあり、この街は数多の世界に比べると平穏が保たれているようで、ソラ達が休息するには丁度良いのだろう。
彼に頼られるのはレオンとて決して悪い気はしなかったから、普段は世界を股に大変な旅をしている少年を労う気持ちで、滞在中の彼の要望に応じていた。

今回も、ソラは数日前にレディアントガーデンへとやって来て、レオンの自宅に泊まっている。
彼の仲間も、それぞれ既知の人物の下を頼り、羽を伸ばしているそうだ。
此処にいる間は、某か事件でも起きない限りは、三人それぞれにのんびりと過ごす事にしているようで、次の合流の日まで顔を合わせない事もあるらしい。

朝の日差しが差し込む窓辺で、ベッドの上で丸くなって眠るソラ。
レオンはその隣で、ベッドから落ちないように、横向きになって眠っていた。
ベッドは当然ながら大人一人用のシングルサイズで、大人のレオンと、まだ子供とは言え小さくはないソラが一緒に横になると、やはり少し窮屈だ。
だからレオンは、ソラが来ている時は、彼にベッドを譲って自分はソファを使おうと思っている───のだが、ソラは頻繁に「一緒に寝よ!」と言ってくる。
狭いだけだぞ、と言いはするものの、「二人で寝た方が暖かいじゃん」と言うソラに押され、湯たんぽ替わりにして一緒に寝るのがパターンとなっていた。

すやすやと眠るソラの傍らで、レオンはゆっくりと目を開ける。
まだ光に慣れない瞳に、カーテンの隙間から差し込む陽光が眩しい。
レオンはゆっくりと起き上がると、そっとソラの体を跨ぐようにベッドに手を突き、窓の方へと腕を伸ばした。
僅かな隙間のあるカーテンを閉め直し、古いベッドが軋む音を立てないように気を付けながら、ソラの体の上から退くと、


「んん~……」


ごろん、とソラが寝返りを打った。
壁側に寄って腕を投げ出したものだから、その腕がこつんと壁に当たる。
が、ソラの寝息は規則正しく変わらず、彼がまだ深い眠りの中にいる事を教えてくれた。

ぱかりと口を開け、かーかーと気持ちの良く眠るソラの姿に、見下ろすレオンの口元が緩む。
口の中が渇くぞ、と小さく呟いて、レオンはソラの顎を軽く指で押し上げてやった。
むぐ、と閉じた所で指を離すと、どうも引き結ぶ力が弱いのだろう、またソラの顎が落ちて口がぱかりと空いてしまった。
子供らしい無邪気で無防備な寝顔に、レオンはくすりと笑みを漏らし、茶色のツンツン頭をくしゃりと撫でる。

レオンは、ベッドを降りて軽く肩を回しながら、小さなキッチンへと向かう。
普段ならトースト一枚とコーヒー一杯で済ませる朝食であるが、ソラがいるならそうはいかない。
育ち盛りで食べ盛りの少年は、朝から胃袋も元気なのだ。

昨日の夕飯にも食べたチキンの残りを冷蔵庫から取り出し、作り置きして置いたソースと絡めながら、じっくりと焼き蒸しを始める。
ソラが来た時には必ず買う、コーンポタージュをマグカップに注ぎ、電子レンジに入れて温めボタンを押した。
温まるのを待つ間に、パンにバターを塗ってトースターにセットし、サラダは昨日の作り置きを取り出して皿に盛る。
チキンもあるしこれ位で良いか、と思ったレオンだが、やはりもう一品と思って卵を取り出した。
手早くスクランブルエッグを作り、サラダの横に盛り付けて、良い色合いに焼き目のついたチキンも並べる。
電子レンジに入れていたコーンポタージュも温まり、あとはパンの焼き上がりを待つだけ。
それも直に終わることなので、レオンは寝室へと戻った。


「ソラ」
「……んぷぅ~…」
「ソラ、飯だぞ。起きろ」


まだまだ寝汚い様子のソラであったが、レオンはベッドの傍に寄ると、少年の肩を緩く揺すった。
ソラは駄々を捏ねるように顔をくしゃくしゃにするが、すん、と一つ鼻を鳴らすと、


「……朝ご飯?」


睡眠欲より食欲が勝つのがソラである。
夏の高い空を思わせる、青い目がぱちりと開いて、眠たそうにレオンを見た。
レオンがソラの言葉に頷くと、ソラは眩しそうに目を細めながら起き上がる。


「んん~……なんか良い匂いする……」
「昨日の晩飯にローストチキンを食べただろう。あのソースが残っていたから、それでまた鶏を焼いたんだ」
「あれ美味しかった」
「なら良かった。ほら、早く顔を洗って来い。熱い内の方が旨いぞ」


そう言ってレオンがベッドを離れると、ソラものろのろと起きる準備を始めた。
ふああぁぁ、と大きな欠伸をしながら体を延ばし、ベッドを降りて、洗面所へと向かう。

朝の水は冷たいもので、それで顔を洗うとよく目が覚める。
洗面所からダイニングへと戻って来たソラも、瞼がしっかりと上がっていた。
その大きな目がテーブルに並べられた朝食を見て、嬉しそうに爛々と輝く。


「美味そう~!って言うか、絶対美味い!昨日も美味しかったもん!」


食べる前から言い切るソラに、レオンは擽ったい気分になる。

ソラは、先に椅子についていたレオンと向かい合う席に座った。
きちんと両手を合わせ、「いただきまーす!」と軽快に言って、フォークを掴むと真っ先にチキンに飛び付く。
パリッと香ばしく焼けた薄皮を破り、ソースの味が染み込んだ肉を、ソラの綺麗に生えそろった歯が噛み千切る。
頬を膨らませてもぐもぐと食べるソラの様子は、見ているレオンにも気持ち良い位の食べっぷりだった。


「うん、ほら!すっごく美味い!」
「ああ、上手く出来たようだ。ソラ、肉ばかりじゃなくて、野菜もちゃんと食べるんだぞ」
「判ってるって。でもこのチキン、すっごい美味いんだよ~」


大きく口を開け、はぐはぐとチキンを頬張るソラ。
口の周りにソースがついて、なんとも豪快で元気な食べ方だ。

チキンを殆ど食べ切ってから、ソラはパンに手を付けた。
バターが染み込んだパンを齧るソラに、レオンが出しておいたリンゴジャムを差し出すと、嬉しそうにそれを受け取る。
甘味の強いリンゴジャムが最近ソラのブームのようで、此処数日、朝には必ずパンに塗って食べていた。

それからソラはスクランブルエッグを食べ、サラダを食べて、コーンポタージュも飲み干す。
レオンよりも多めに盛っていたソラの皿は、レオンよりも先に空っぽになった。
ちゃんと噛んでるんだろうな、とレオンが言うと、ソラはポタージュを飲みながら頷く。
取り敢えず頷いた、と言うのがありありとした反応であったが、まあ良いか、とレオンは苦笑する。


「はぁ~、腹一杯。ご馳走様でした!」
「お粗末様」
「片付け手伝うよ」
「良いか?助かる」


ソラに一拍遅れてレオンも食事を終え、片付ける為に席を立つと、ソラもついて来た。

キッチンは小さなものだが、二人並べる位のスペースはある。
レオンは食器を洗うとソラに渡し、ソラはそれを落とさないように気を付けながら、布巾で丁寧に拭いて行った。

レオンは、チキンを焼くのに使っていたフライパンの焦げ目をスポンジで擦りながら、仕事を待っているソラを見て、


「今日は、もう出発するんだったな」
「あ、うん。そうそう。そうだった」
「忘れていたのか?ドナルド達に怒られるぞ」
「えへへ、忘れてない忘れてない。うん。思い出した」


愛想笑いを浮かべるソラの言葉に、やっぱり忘れていたんじゃないか、とレオンは眉尻を下げて苦笑を浮かべる。
まあこれは言いふらしはすまい、と思いつつ、ようやく焦げつきの落ちたフライパンをソラに渡す。


「今度はさ、ちょっと遠くに行く感じになってるんだ」
「遠く、か」


フライパンを拭きながらのソラの台詞に、レオンは小さく呟く。

遠い昔にこの世界を喪い、追い出されるように通り過ぎた、暗く広い星の海。
辿り着いた常夜の街で、故郷がとてもとても遠くにある事を思う度に、レオンの心は軋んで行った。
その遠い道程を逆に辿り、ようやく故郷に帰って来たレオンにとって、もう“この世界の外”と言うのは、以前よりも遥かに遠いものになっていた。
それは、十数年ぶりに戻った故郷の地に、彼の両足がしっかりと根付いている証でもあった。

その反面、何処までも遠く、何処までも自由に走って行ける傍らの少年を、少し羨ましくも思う。
小さな肩に乗せられる重い命運、其処にはレオンが嘗て抱いていた、失った故郷を取り戻したいと言う期待もあった事は判っているつもりだ。
それでも羨望を抱く事を辞められないものだから、その罪滅ぼしのように、レオンはソラを甘やかしてしまう。


「休みたくなったら、またいつでも戻って来い。お前が来てくれると、ユフィ達も嬉しそうだからな」


彼の旅の終着点が何処にあるのかなど、レオンの知る由もない。
ただ、其処に行くまでに、ソラには沢山の出来事が降りかかるだろう。
それに翻弄されて、疲れて立ち止まりたくなったら、いつでも此処に帰って来て、束の間の休息に浸れば良い。
そんな気持ちで、レオンはソラの髪をくしゃりと撫でた。

ソラは手元のフライパンを綺麗に拭くと、今朝の役目を終えたコンロにそれを置いて、ちらりとレオンを見上げる。
低い位置にあるソラの眼と、見下ろすレオンの瞳とが交わると、ソラはレオンを真っ直ぐに見ながら言った。


「レオンはどう?」
「ん?」
「オレが来るの、どう?嬉しい?」


じっと見つめる澄んだ青の瞳。
ころころと変わる表情を含め、言葉以上にお喋りなソラの眼は、いつでもありのままにその心を映し出す。
自分がこの街にきて、レオンはどう思っているのか、どう感じているのか知りたい───そんな声がレオンの耳には聞こえた気がした。

────大人と言うのは面倒なもので、中々自分の思う気持ちをそのまま口にする事が出来ない。
しかし今はきちんと口にしなくてはと、レオンは気恥ずかしさを隠しながら、ソラの問いに答えた。


「ああ、嬉しいよ。良い気分転換になるしな」
「そう?そっか。じゃあ良かった!」


レオンの答えに、ソラは太陽のようにきらきらと笑う。
その明るい笑顔が、レオンにはとても眩しくて、ついつい双眸を細めてしまう。


「ほら、そろそろ出ないと、皆を待たせるんじゃないか?朝9時に集合だって聞いた気がするぞ」
「え~、もうちょっと。やっぱりレオンと一緒にいたいよー」


そう言って抱き着いて来るソラに、レオンはやれやれと眉尻を下げる。
子犬か子猫が甘えるように、レオンの胸にすりすりと頬を寄せて甘えるソラに、レオンはされるがままだ。


「遅刻と言うのは、中々罪が深いものだぞ」
「遅刻はしないようにするよ。でも良いじゃん、もうちょっとだけ」
「そう言ってる間に、時間は直ぐに過ぎるものだ。ほら、ちゃんと服も着替えて来い」
「うー、判ったよぉ」


促すレオンに、ソラは渋々顔でようやく離れた。
ベッドの横に昨日脱ぎ散らかし、寝る前にレオンが畳んでソファに置いておいた服を取り、忙しなく着換えを済ませる。
忘れ物はないかと指差し確認して、ソラはようやく玄関へ向かった。

行くのなら見送り位はしてやろうと、レオンは靴を履いているソラの後ろに立つ。
ソラは靴の爪先や踵をこつこつと床に当てて、具合を確認してから、くるんとレオンの方へと向き直った。


「レオン、ちょっと屈んで」
「なんだ?」
「また帰って来るからさ。その為におまじないしようと思って」


おまじない───随分と可愛い単語が出て来たな、とレオンは思いつつ、要望に応えて少し背中を丸めて屈む。
と、レオンの頬に、ちゅっと柔らかいものが押し当てられた。
それは触れたと思ったら直ぐに離れ、ぽかんとするレオンを、にっかりと無邪気な笑顔が見上げる。


「へへっ、これでオッケー!じゃあ行ってきまーす!」
「あ───ああ、」


元気も元気に、手を振りながら、ソラはレオンの家を後にした。
彼が開け放ち、潜り抜けて、ゆっくりと締まり行く扉の向こうでは、燦々とした太陽の光が降り注いでいる。
その光に誘われるように、レオンが締まる手前のドアを押せば、もうソラは石畳の向こうを走っていた。

まだ傷の残る、立ち並ぶ建物群の向こうから、ゆっくりと太陽が昇って来る。
光の向こうへ躊躇いなく、真っ直ぐ駆けていく少年の背中に、レオンはまた目を細め、


「……行ってらっしゃい、ソラ」


その足が、一体何処まで行く事が出来るのか、レオンには判らない。
今はただ、彼が行ける所まで行ける事を願って、レオンは遠くなって行く背中を見送るのだった。





ソラがスマブラSPに参戦と言う快挙の記念に。放送での発表見てから勢いで書いてます。
当方、スマブラシリーズは一切触った事がないのですが、それでもタイトルだけは知ってまして。
沢山の枠を越えてこのゲームに参戦する事が出来たのは、本当にすごい事だと思います。

そんな訳で、これから『遠く』で頑張るソラを、レオンさんに見送って貰いました。

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