[クラレオ]貰えるのなら余さずに
自分の誕生日が来ると言う事は、ユフィが何かにつけて言っていたので、覚えていた。
それから遠からず内に、レオンの誕生日もやってくるので、どちらがとは言わないが、ついでのようなものだ。
またその理由に託けて、少々豪華な夕飯にありつきたい、と言うのが末っ子分の楽しみなのだろう。
祝われる事については特に感慨がある訳でもなかったが、美味い飯が食えるのは此方としても喜ばしい。
寝床から追い出される心配もまずないと思うので、仲間の気遣いは有り難く頂戴する事にしている。
その傍ら、誕生日プレゼントに何が良いかと聞かれた訳だが、すぐに浮かぶほどに物欲はない。
細々としたもので言えば、武器を手入れする為の磨き布だとか砥石だとか、邪魔にならないサイズの水筒でもあれば出先で楽だとか、そろそろ穴が開きそうな靴下の新調だとかはある。
あるが、わざわざそれをプレゼントにしてくれと言うと、何故か「甲斐がない!」と抗議されるのであった。
靴下はともかく、水筒くらいは許されても良いのではないかと思うが、取り敢えず消耗品の類は脇に退けておいて、思い浮かぶものを幾つか伝えておいた。
そして今日と言う誕生日当日を迎えると、再建委員会の活動の場所でもあり、憩いの場でもある魔法使いの家では、細やかながら誕生日パーティが催された。
レオンとエアリスが作った手料理に加え、ユフィはしっかりと、クラウドのプレゼントにと、リクエストに則ったものを用意して来た。
おめでとう、と無邪気な笑顔と共に渡されたのは、丈夫な革張りの鞄だ。
大きさはポーチと呼んでも良いサイズだが、革も馴染んで柔らかくなれば、良い使い心地になるだろう。
小さいからこそ、持ち歩くのに邪魔にならない、と言うのもクラウドには有り難かった。
長年使い続けてボロボロになった鞄とはおさらばし、これからは此方を使わせて貰うとしよう。
シドが「これが俺からだ」とプレゼントに出して来たのは、年季の入ったワインだ。
いつもビールの男が珍しい、と思いつつ受け取って、のんびり出来る時に開ける事にした。
今日は鱈腹食べているので、既に腹が重い。
飲む時にはレオンに摘まみもねだってやろうと勝手に決めつつ、クラウドはそれなりに心地の良い誕生日と言うものを味わったのだった。
楽しい時間は存外とあっと言う間に過ぎて行き、夜も更けた。
クラウドは故郷にいる時は気儘な日々を過ごしているが、幼馴染たちはそうではない。
明日も街の再建の為に忙しなくしている彼等は、そろそろお開きと言う空気になると、手慣れたもので誰となく片付けを始める。
ユフィはもう少し楽しんでいたい様子だったが、彼女も明日はパトロールがあるのだとか。
誕生日プレゼントは渡したし、美味い夕飯も食べれたのだから、十分満足はしている───とのこと。
そしてクラウドは、片付けの場からは一足先に抜けさせて貰った。
レオン、エアリス、ユフィがいれば、片付けの手は十分足りているし、そもそもクラウドは台所などは接近禁止令が出されている。
生活力がないのは自覚しているので、帰って良いと言うのなら、有り難くそうさせて貰う事にした。
クラウドの寝床は、今日もレオンの家である。
どうせ使うんだろうから、ちゃんと玄関から入れと放られた鍵を使って、言われた通りに正規ルートで中に入る。
膨れた腹を改めて自覚して、胃袋の張り具合を手で撫でて確かめながら、ソファに転がった。
ビールも数本、空けているので、ほろ酔い程度はあるかも知れない。
しかしシャワー位は浴びてから寝たいな、とうとうととしていた頃に、閉めずにいた玄関のドアが開く音がした。
「ふう……」
零れた吐息の声に、クラウドが首を傾ければ、家主の帰宅だ。
クラウドがのっそりと起き上がった所で、パチリと部屋の電気が点けられる。
そうして家主───レオンはソファを陣取っているクラウドを見て、やっぱりいたなと言う表情を浮かべた。
特段、気にするものでもないので、見ただけで彼は何も言わない。
レオンはキッチンに向かうと、グラスを一つ取り出して、水を注いだ。
乾いた喉を潤して、濡れた口元を手の甲で拭う。
クラウドがなんとなくそれを見ていると、
「クラウド」
「ん」
呼ばれると思っていなかったので少々驚いたが、返事をした。
レオンは口をつけたグラスを簡単に水洗いしながら、
「何か欲しいものでもあるか」
「……なんだ。あんたも何かくれるのか」
今日はクラウドの誕生日だし、問うてくると言うことはそうなのだろう、とクラウドは思いつつ、糠喜びの可能性も否めないので、確認に訊ね返してみた。
レオンはそれに対して、まあな、と言いつつ、グラスを水切り台に伏せる。
それからソファへと近付いて来たレオンは、いつも着ているジャケットのポケットを探る。
其処から小さな紙袋を取り出すと、クラウドの顔の前へと差し出した。
「これは?」
「エアリスからだ」
「つまり彼女からのプレゼント、と」
「そうだな」
肯定を受けて、クラウドはそれを受け取った。
袋は可愛らしい柄が描かれているが、店のロゴのようなものは見当たらない。
封は色付きのマスキングテープで閉じられ、緑色のマジックで四葉のマークが手描きされていた。
口を開けて、左手を皿にして袋を逆様にしてみると、小さなシルバーのピンブローチがころりと現れる。
先端に象られたモチーフは、狼のようであったが、もう少しまろやかな犬にも見える。
多分手作りだな、と思いつつ、器用なものだとクラウドは感心した。
これがエアリスからの、クラウドへの誕生日プレゼント。
恐らくは先に帰ったクラウドに渡るようにと、エアリスが共に片付けに残っていたレオンに預けたのだ。
そして、恐らくはこれを手渡されたから、レオンは思い出したのだろう───自分はこれと言って、プレゼントを用意していないことを。
「自分だけ何も用意してないのが気が引けたのか?」
「まあ……多少はな。エアリスは夕飯も作ったのに、それも用意しているし」
「別に強制のものでもないだろう。何かくれる気があるなら、遠慮なく貰うが」
基本的にクラウドに対しては、他の面々に比べると、聊か雑にもしてくれるレオンである。
誕生日プレゼントなんて自分が用意しなくても良いだろう、と思っていたのも想像できるが、仲間が皆一様に用意しているのを見て、聊か気が咎めたのかも知れない。
それなら、その気が失われない内に、多少の我儘を聞いて貰うのも悪くない。
とは言え、ユフィに質問された時と同様に、欲しいものなど直ぐには浮かばないものであった。
況してや今日は、鞄に酒にアクセサリーにと、他の仲間達からも良いものを貰っている。
ただでさえ物欲らしい物欲と言うのも少ないから、両手に溢れそうなこの状態で、改めて欲しいものを言えと言われても、少々手に余る所があった。
腕を組んで考え始めたクラウドに、レオンは一つ息を吐いて、
「まあ、ゆっくり考えろ。別に今日じゃなくても良い」
レオンとて、今から言われた所で、今日中に用意できるものもない。
要望に応える気があるとだけ伝えておけば、今夜の所は十分であると考えていた。
風呂を入れて来る、とバスルームへと向かうレオン。
それにおざなりな返事をしながら、クラウドはじっくりと熟考に入ってみた。
(消耗品の類を言うのは、確かに勿体無い。レオンから俺にこう言う事をしてやるって言うのは、貴重な機会だからな)
言えばレオンは「安上がりだな」と言って用意してくれるのだろう。
気軽に済むのでそれも悪くはないのだが、やはり聊か勿体無いとは思う。
来年、同じ事をレオンが言ってくれるのかは判らないことを思えば、少々欲の強いことを此処で言っておいた方がお得な気がした。
となれば、やはり、普段はまず叶えられないであろう事が良い。
言えばレオンは顔を顰める事も多いだろうが、今日はクラウドの誕生日だと言う免罪符がある。
バスルームから戻って来たレオンが、風呂に入る準備をしようとジャケットを脱いだ。
その背中に近付いて、じとりと密着してやると、鬱陶しそうな内心を隠さない顔が振り返る。
ぐり、と腰を押し付けてやれば、既に昂っている気配が伝わり、益々レオンの眉根に皺が寄った。
「それがお前の欲しいものか?」
レオンの言葉に、クラウドの口角がにんまりと上がる。
「察しが良くて助かる」
「……はあ……」
余りに露骨で即物的にねだられるプレゼント内容に、レオンは判り易く呆れの溜息を洩らした。
そんな相手に構わず、クラウドの手はシャツ一枚になったレオンの上肢を這い回る。
胡乱な目で此方を見ている蒼を見つめ返しながら、顔を近付ける。
唇を重ねれば、舐るクラウドの愛撫にレオンはされるがままになって、その内に噤んでいた唇も解放した。
隙間から舌を捻じ込み、レオンのそれと絡めてやれば、ちゅぷ、と唾液が混じり合う音が鳴る。
「ん……、ふ、ぅ……」
少し息苦しそうな吐息を零しながら、ブルーグレイの双眸は緩やかに細められた。
呆れの中に、これで済むなら安上がりだ、と言う声が聞こえて来る。
安上がりで終わるかどうかは、クラウドの気分次第だろうが、ともあれ何も準備しなくて良いと言うのは、レオンにとっては楽な話だ。
シャツの下に手を入れて、しっかりと割れた腹を弄る。
臍の当たりを指の腹で少し押してやると、んん、と喉奥でくぐもった声が聞こえた。
丹念に咥内の味を堪能して、ゆっくりと唇を離す。
「……っは……」
熱の燈った蒼灰色の中に、獣の欲を隠さない碧眼が映り込んでいる。
それを具に見た上で、レオンは面倒臭そうに、
「風呂」
「後で良い」
入れている最中なのだから、それを済ませるまで待て、と。
レオンはそう言ったが、クラウドは既に火が付いている。
確かに水や発電にかかる電気は勿体無いものだが、此処からのんびりと入浴が終わるまで待っていられる訳もない。
レオンは物言いたげな表情を浮かべていたが、結局は諦めたように体の力を抜いた。
仕方がない、誕生日だし、と言う胸中を読み取りながら、クラウドはレオンの服を脱がせていく。
「立ったままは面倒なんだが」
「じゃあ、ソファで」
ベッドよりもソファの方が近いから、其方を指定した。
立位にされるよりはマシだと思ってか、レオンはそれで良いと頷く。
レオンがソファへと横たわり、クラウドが覆い被さる。
既に胸の上までたくしあげていたレオンのシャツを、すっかり脱がせて、適当に放った。
それなりに逞しく育っている胸に顔を寄せれば、じっとりとした汗の匂いがする。
舌を這わせると、ぴくりとレオンの肩が震えて、ソファーの端を握る手に微かに力が籠ったのが判った。
クラウドのしたいようにさせてやろう、と言う気持ちの表れか、レオンからは特に抵抗らしいものはない。
部屋の電気も点いたままで、煌々とした視界の中、委ねながらも捨てきれない羞恥で、レオンの顔が赤らんでいるのがよく見えた。
(さて────どんな風にして行こうか)
する事がはっきりとしているからか、レオンはすっかり油断している。
しかし、クラウドが欲しいプレゼントの真髄は、此処から先にあった。
普段は到底許されないか、意識を半分失くした頃でなければ応じてくれない事を、今から頼んでみるのも良い。
その時、レオンがどんな顔を見せてくれるのか、クラウドは期待と興奮に熱を膨らませるのだった。
クラウド誕生日おめでとう!のクラレオ。
誕生日だから何をお願いしても良いらしいよ?と言う事で。
色々頼んで、冗談じゃないって言われるけど、誕生日だから結局は応えてくれるであろうレオンです。
でもあまりに調子に乗ると、しばらく肉体労働でコキ使われるんじゃないかと思います。