[16/シドクラ]煽情
R15
どうにも上手くいかないことはあるものだ。
取引先のひとつが、すっかり駄目になってしまった。
それなりに大きい案件として依頼があり、こちらも人数態勢を整えて挑んでいたのだが、それも水の泡。
原因はあちら側の内々にあって、いわゆる不祥事と言うもの。
詳しい事はシドもまだ追っていないが、締結に向けていた話がすっかり飛んだのは間違いない。
何せ、当事者である相手の会社が火の車と化したので、こちらも関係を続ける訳にはいかなかった。
損害のことを考えると、シドも早々に打ち切るしかなかったのである。
上手く言えば実入りの多い話だったのだが、こうなってしまっては仕方がない。
幸いなのは、まだ本締結まで至っていなかったことで、仕事そのものを積み上げていなかったこと。
だが、それに向けた具体的な準備はしていたから、そのコストが無駄になったのは痛かった。
気持ちとしても、懐としても。
嘆いたところでどうなる訳でもない。
この事態を受けて、シドは根回ししていた関係各所に、事情説明と詫びの行脚をすることになった。
────それが、今日一日のことである。
外回りは自分の仕事と請け負っているが、昨今の夏、延々と外を歩くのはお薦めされない。
天気予報では「危険な暑さとなっています。外出は必要最小限に留めましょう」などと言ってくれるが、それが出来れば苦労はない。
電話一本で済ませてくれるところばかりではないから、直に出向く必要がある。
車で動けるだけマシではあるが、その車内も五分も日向に置けばサウナと化す。
数時間後とにコンビニで水分を入手して、ついでにアイスで体の深部体温を下げなくては、とてもやっていられない。
お陰で今日のシドは、始業の時以外、全く自社に寄り付かなかった。
行脚が終わった時には、時刻は終業時間になっていた。
オットーに連絡して、事務所の施錠を頼み、今日のところはそのまま直帰させて貰う。
旧友はシドの疲れ具合を察したようで、「ああ、判った」のひとつ返事で許してくれた。
夜になっても気温は中々下がらない。
都会のコンクリートジャングルは、足元も建物もすっかり燻され、一向に温度を下げない。
日が暮れてようやく、日光が直接当たらなくなって、少し楽になったかも知れないな、と思う程度だ。
家に帰ると、同居人である恋人のクライヴが、夕飯を作っていた。
「お帰り。夕飯はもうすぐだけど」
「ただいま。あー……その前に風呂に入ってくる。汗で酷い有様だ」
「俺も帰った時に入った。湯は抜いてないから、すぐ入れる」
「そいつは有難い」
気の利く采配に、シドは久しぶりに口元が緩んだ。
鞄をダイニングテーブルの椅子に置いて、すぐに風呂場へと向かう。
同じ40℃でも、外気温を押し付けられるのと、温められた湯では全く違う。
汗でべたつく体をすっかり洗い流すと、気分が変わった。
リビングダイニングに戻れば、そのまま夕飯だ。
気を利かせたクライヴがビールを出してくれたので、一杯やりながら腹を満たす。
椅子にすっかり落ち着いて、のんびりと傾ける酒と、つまみになる食事。
それでようやく、今日一日の苦労から抜け出せた。
疲れはあったが、寝るには聊か惜しかった。
時間もそれなりだったから寝床に入っても構わないが、なんとなくそう言う気にならない。
リビングのソファに座って気晴らしにテレビを見ていたが、
「シド」
「ん?」
呼ぶ声に振り返れば、ソファの後ろにクライヴが立っていた。
見下ろす青に、薄らと期待の色が滲んでいる。
シドはくつりと笑って、指先で「来い」と示した。
クライヴが背凭れに寄り掛かりながら、整った顔がシドへと近付いて来る。
唇を合わせてやれば、青が嬉しそうに細められた。
テレビの電源を切って、クライヴが隣に座る。
唇を重ね合わせて、丹念に咥内をまさぐりながら、唾液を交換した。
「ん……ふ……」
クライヴが鼻にかかった声を漏らす。
その見栄えの良い体躯にシドの手が這うと、クライヴも応じるように、夜着のシャツを捲る。
直接、と求める無言の訴えに応える形で、シドの手が体温の高い肌に濡れた。
愛撫を与えている間に、クライヴはボトムも緩めていく。
盛んな年齢であるから、彼の中心部は既に反応していた。
そこも軽く触れてやれば、ビクッ、と腰が震える。
「は……っ、シド……」
「ああ……」
求める声に、シドもじわりと熱が浮かぶ───筈だったが、
「……」
「シド?」
「いや……」
ふと動きを鈍らせたシドに、敏いクライヴも気付いた。
どうかしたか、と問う視線に、シドは答えを濁らせる。
───もう一度、とシドは気を取り直した。
クライヴの首筋に唇を当てて吸い、彼の体に触れる。
意外と他人に触れられることに慣れていない体は、シドの触れ方をよく覚えて、素直に反応を示した。
その様子を見ているだけで、いつもシドは興奮を煽られて行く。
今日もそうだ。
もどかしげに体を捩るクライヴの姿に、シドは確かに興奮を抱いている。
……の、だが。
「……クライヴ。悪い」
「え?」
唐突に詫びたシドに、クライヴは夢見心地の名残の中で首を傾げる。
何かあったか、と問う瞳に、シドは苦い表情を浮かべて、
「……駄目だな。勃たない」
「は?」
今まさにと言うところまで寄せていた体を放し、そう言ったシドに、クライヴは困惑の表情を浮かべている。
シドはソファに座り直して、背凭れに寄り掛かって天井を仰ぐ。
気分は確かにその気であるのに、体がそれについて行っていない。
クライヴもその様子を服越しに察したようで、途端に不安そうな表情になった。
「シド、」
「お前の所為じゃないよ。ただの疲れだ」
自己卑下が早いクライヴが、いたずらに自分を貶めないように、シドは先に言った。
でも、とクライヴは言いたげな表情をするが、シドはその目尻に軽く指を擦り付ける。
「一日、外を動き回ったからな。その所為だろう」
「そう、か……」
「気分は乗ってるんだがな」
あくまでしたくない訳ではないのだと、シドは念を押す形でそう言った。
シドは自身の下肢に手を遣って、下着の中に手を入れた。
自分のものを握って見ると、すっかり草臥れていて、まるでその気がない。
刺激でもすれば少しは反応するかと揉んでみるが、あまり効果はなさそうだった。
───はあ、とシドは溜息を漏らす。
こういうものは、無理に反応させようとした所で、反って心理的プレッシャーで余計に鈍くなる。
心配そうにこちらを見ている男にとっては物足りないかも知れないが、今日の所は、他の方法で応じるしかないだろう。
そう思っていると、
「シド、ちょっと」
「ん?」
横合いから伸びてきた手が、シドの下肢に触れる。
クライヴは少し緊張した面持ちで、下着の中へと手を入れた。
先に侵入していたシドの手を辿って、クライヴは中心部へと辿り着く。
節のある大きな手が、そこを包み込むように柔らかく握った。
感触からして、萎えた状態であることはクライヴにも伝わったらしく、彼の眉根が僅かに潜められる。
「なる、ほど……」
「したい気持ちは、山々だが。これじゃお前を満足させられやしないだろう」
「……」
肩を竦めるシドに、クライヴはなんとも言えない表情を浮かべていた。
ちら、と青色が上司兼恋人の顔を見て、少しの逡巡の後、ゆっくりと近付く。
その意図を読み取ってシドがじっと待っていれば、髭のある頬にキスをされた。
触れては離れる口付けが繰り返され、それと同時に、中心部を握る手がゆっくりと動き出す。
クライヴは指で輪を作って、シドの中心部を扱いている。
不慣れな動きではあるが、同じ性を持つ者同士だから、どう触れれば刺激になるのかは判っていた。
「シド……」
「いじらしいことしてくれるな」
「……俺もしたい、からな」
ささやかなボディタッチだけで、クライヴは満足できない。
出来ることなら、ちゃんと中で感じたい。
クライヴの愛撫は、初めこそ恐る恐るとしたものだったが、次第に大胆になって行く。
甘えるように身を寄せてくる男を、シドも抱き寄せてやった。
密着すれば羞恥が反って薄れるのか、クライヴはシドの額や目尻に口付けながら、雄の覚醒を促している。
恋人の奮闘のお陰で、じわじわと熱が集まってくる。
しかし、それでもしっかりと頭を起こすにはまだ足りず、
「……シド」
「ん」
「口は、あんた……嫌いではない、よな」
確かめる形で聞くクライヴに、シドは一瞬、目を丸くした。
「大丈夫か?お前、苦手だって言ってただろう」
「うまく出来てるか分からないから。でも、このままだとあまり……効果もなさそうだし」
シドは自分の胎内で起きている変化が判るが、傍目にはまだそれは出ていない。
この程度では駄目なのかも、とクライヴが思うのは無理もなかった。
クライヴはソファを下りて、シドの下肢を緩めさせた。
取り出した雄に顔を寄せて、恐る恐る顔を近付ける。
小さな口が開かれて、ゆっくりとシドの中心部を咥え込んだ。
「ん、ん……っ」
萎えているとは言っても、それなりの質量があるものだ。
咥え込んだクライヴは、俄かの息苦しさに眉根を寄せていたが、離れようとはしなかった。
縋るようにして足の間に体を割り入れ、懸命な奉仕を行うクライヴに、シドの口端が歪む。
性欲は年相応にあるとは言っても、クライヴ自身は清廉な性格だ。
自ら積極的に性に及ぼうと言うことは珍しく、初めばかりは誘っても、後はシドに任せていることが多い。
そんな男が、珍しく積極的に、かつ自発的にことを進めようとしている様子は、いじらしく、同時に形容しがたい背徳性を漂わせる。
生暖かく濡れた咥内で、雄がじわじわと熱に染まっていく。
それをクライヴが感じ取ったかは定かでないが、彼の奉仕もまた、熱の入りを増して行った。
「ふ、ん、ん……っ!」
「は……クライヴ……っ」
下肢に縋る男の癖っ毛をくしゃりと撫でる。
熱の塊を咥え込んだまま、クライヴの視線だけがこちらを見た。
上目に様子を伺う瞳に、シドが薄く笑みを据えて見せれば、彼は安心したように奉仕を再開させる。
一心不乱に頭を動かすクライヴ。
その耳元や項にシドが指を滑らせると、ひくっ、ぴくっ、と些細な反応が見られた。
クライヴの首の後ろが、じっとりと赤らんで汗を掻いている。
咥内では質量が確かな形になりつつあった。
次第に口に咥えているのは辛くなったか、クライヴは喉奥で小さく咳込みながら、唾液を引きつつ雄を解放する。
「っは……は……、どう、だ……?」
口端の唾液を拭いながら確かめるクライヴ。
その眼には、すっかり頭を起こしたシドの象徴があった。
クライヴの小さな唇から、ほう、と熱のこもった吐息が漏れる。
「これなら……」
クライヴの手が伸びて、自己主張するそれに触れる。
神経が高ぶったお陰で、それだけでぞくりとしたものがシドの背中を奔った。
「シド。これなら、問題……ないよな?」
「見た通りだよ」
シドはそう答えると、もう一度クライヴの頭をくしゃりと撫でた。
頑張ってくれた恋人に、ご褒美の感覚で撫でてやると、クライヴはいつも嬉しそうに眦を緩める。
シドを昂らせている間に、彼自身も熱が増したのだろう。
クライヴは急くようにして衣服を脱ぐと、ソファに膝立ちになって、シドの膝に跨った。
体躯の良い重みが乗って、丁度良い位置を探して身動ぎする。
それをシドからも適度になる場所へ誘導した。
シド、と急く声に併せて、ゆっくりと彼の中へと侵入する。
ようやくの感触に甘い声が漏れるのを聞いて、この声が一番効くかも知れない、とシドは思った。
『シドクラでの現パロで、ちょっとシオシオなシドを元気出させるシチュエーション』のリクエストを頂きました。
可能であれば雰囲気R指定で、とのことでしたので、喜んで書いていた私です。
お仕事大変ですねのシドでした。
いつもはシドの手管が上手いので、任せきりにして安心してるクライヴ。
でもクライヴの方も何かしたいとか、シドを気持ち良くしたいとかはあるので、スイッチが入ると結構積極的だと思う。
たまに見られるその様子に、またシドも興奮してると言いなあって。