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[ティスコ]いっぱい食べる君と一緒に

  • 2025/10/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



スコールの食への興味と言うのは薄いものだ。
生きる為に必要なので行うが、それ以上に求めるものはない。

ないが、味覚は至って正常であるし、日々の生活相応に育まれているので、美味い不味いはきちんと判る。
判るので、食べるのなら不味いよりも美味い方が良い。
頬が落ちる程の美食にありつきたい訳ではなかったが、“食事をする”と言う毎日不可避とも言える営みの過程について、なるべく負荷を減らしたいとは思う。
となれば、口に入れるものはそれなりに旨いに越したことはなく、日常生活でそれを賄う為に必要となる労力=料理の手間についても、それなりに惜しまない。

ただ、スコールにとって面倒となるのは、“食べる”ことそのものを指すことも少なくない。
必要でないのなら摂らなくても構わない、だが現実は結局必要なので食べる───そんな具合だ。
これは幼い頃からの感覚で、元より体質として小食気味であったことも大きいだろう。
幼い頃は特別な時にだけ食べられるケーキであったり、微かな記憶で、生前の母が作ってくれた菓子も料理も好きだったとは思うが、成長に伴ってその感情も薄らいでいく。
母が亡くなり、多忙な父と兄だけに押し付けてはいられないと、自ら家事仕事を引き受けたのも、遠因とは言えるかも知れない。
自分が作る料理と言うのは、作っている時からつぶさに見ているので、食べる段になる頃には飽きが来ている。
毎日創作料理に打ち込む程に料理が好きな訳ではないし、食べるものも味が予想できるものが殆どだから、父の言葉を借りれば「食べる時のワクワク感」とか言うものがないのだろう。

自分で作ったものを食べることにおいて、スコールの感情は特に波立たない。
日々の生活の一部、必要なので行うことであって、スコール自身もそれで十分であった。
成長期の年頃なので、一日のエネルギーはそれなりに消費する為、補給は適宜必要だが、必要な分が摂れれば後は特に気にしない。
必要な分と言うのも、他者から見れば随分と少ない量らしく、「それで大丈夫なのか?」と聞かれる事も多い。
特に問題はないので、スコールは自分が食べるものとその量について、特に気にする事はなかった。

だが、同居している人間がいて、その人も食べると言うのであれば、その限りではない。
特に、高校生になって、幼馴染と同居生活が始まってからは、尚更。

高校入学を機に、スコールと幼馴染のティーダは、実家を出て二人暮らしをすることになった。
共に父子家庭であり、スコールと年の離れた兄も保護者替わり含め、両家の家ぐるみの付き合いが始まってから8年目のことである。
入学先は違うものの、それぞれの学校を地図で結んで丁度中央あたりに、ルームシェア前提の物件があった。
二人の父と、スコールの兄も、多感な時期の少年たちを心配する気持ちもあって、二人一緒なら少しは安心だろうと送り出してくれたことに因る。

二人の生活は、存外と上手く回っている。
時々喧嘩をすることもあるが、意地を張り勝ちなスコールに対し、素直で怒りが長続きしないティーダが詫び、それを見たスコールの方も謝ることが出来る。
時にティーダが素直さ故の落ち込みを見せれば、スコールが言葉下手なりに寄り添って、甘えるティーダを宥めることもあった。
生活サイクルについては、ティーダが専ら健康優良児で、それに引っ張られる形でスコールも規則正しい生活が送れる。
勉強は、ついつい目を反らしてしまうティーダをスコールが捕まえ、勉強机に縛り付けての指導も始まっるので、父が心配したティーダの成績も、なんとかセーフラインをキープしていた。

この生活の家事については、基本的には当番制としている。
しかし、水球部に所属するティーダは、部活として練習が多くなる他、一年生の頃からエースとして主力に抜擢されて大会に出場することも多い。
そうなると帰宅時間が遅くなったり、休日も家にいない事が増え、その時期はスコールが専ら家事を引き受ける事になっていた。
ティーダはこのことについて、「最初に二人で決めたのに、なんか、ごめん」とよく詫びるが、スコールは気にしていない。
ティーダのように芯から打ち込める類を持たないスコールにしてみれば、手が空いている者が雑事を引き受けた方が生活の効率は良いし、何より、ティーダの邪魔をしたくなかった。
水を掻き分けてボールを追い駆けるティーダの姿は、スコールの密かな憧れだ。
彼自身が目指し求める高みまで、昇り詰めていってほしいから、スコールはそれを応援するつもりでいる。

────そう言う訳なので、スコール自身が食事に然程の関心を持っていないとは言っても、幼馴染の為にはそれなりにきちんとしたものを作らなくては、と思う。
何せ食事と言うのは、選手の体作りにあって、大きな役割を占めている。
スコールは栄養学の本や、ボリュームがありつつ健康的な料理の本など、こまめに探しては目を通すようにしている。
そして幼馴染の為に作った食事を、スコールも一緒に食べるので、案外とスコールの食生活と言うのは、ボリュームも栄養バランスもしっかりと整えられたものになっていた。

ティーダもそれをよく判っている。
毎日自分が食べているものが、幼馴染の献身的な援けのお陰で賄われていることも、それを作る為に勉強が欠かされないことも。
その感謝の想いは折々に口に出してはいるものの、ティーダはそれだけでは足りない気持ちもあった。
もっとちゃんと、形にして、大好きな幼馴染に「ありがとう」を伝えたかったのだ。

ティーダも料理はそこそこ出来る。
彼の父は家事の一切に不向きなタイプであった為、彼の実家では専らティーダがそれを担うことになった。
とは言え、幼い時分は流石に難しかった為、スコールの兄が二家族分の家事を引き受けていたこともある。
それから徐々にティーダが一人で出来ることを増やし、中学生になる頃には、台所も十分に使えるようになっていた。
今現在でも、ティーダが当番の時に台所を使う機会はままある。
ただ、料理のレパートリーに関しては、スコールのように逐一調べたり本を開いたりすることはなく、大味で豪快な代物が専門と言った所であった。

今日はそんなティーダが、大会明けで久しぶりとなる、台所仕事に立っている。
曜日当番を順当にすると今日はスコールの番だったが、大会期間中はスコールが全てを担っていたので、それがようやく終わった今日は引き受けさせてくれ、と言ったのをスコールが頷いた。

お陰で、今日は久しぶりにキッチンにはノータッチのスコールだ。
朝食、昼食もティーダが準備してくれ、片付けも引き受けてくれた。
存外と暇な時間がぽっかりと出来て、スコールは落ち着かなかったが、手伝いを申し出ても断られる。
ティーダにしてみれば、今日はスコールへの恩返しの日なのだ。
仕事の類はさせてくれそうになかったので、スコールはのんびりと、テレビを見たり本を読んだり、と言う“休日”を楽しませて貰った。
そして夕飯の準備もやはりティーダがやってくれているので、食卓でその完成を待つばかりである。


「もうちょっとで出来るからな、スコール!」
「……ん」


台所でオーブンレンジを見守っていたティーダの言葉に、スコールは小さく頷いた。

オーブンからは香ばしいハーブの匂いが漂っている。
スコールが台所を見た時、其処にはオイルをたっぷりかけ、バジルを始めとした香草と野菜に囲まれた、大きな鶏肉があった。
中々手の込んだものを、と思っていたのだが、どうやらオーブンに入れっぱなしで焼けば良い、とのこと。
ティーダがインターネットで調べたその料理は、元々は大きな鶏を丸ごと使うものだったそうだが、流石にそんな食材は手に入らないし、あったとしても二人で食べるには多すぎる。
手頃なサイズ───と言っても、スコールから見ると十分大きいのだが───のもので、同じものを作ることにしたのだそうだ。

主食の米に、インスタントに少し手を加えたミネストローネのスープ、そして千切ったレタスのサラダ。
着々と食卓に並べられたそれに続いて、焼き上がりのサインを鳴らしたオーブンが開けられる。
アルミホイルを敷いたオーブントレイが、まずはそのまま、食卓の鍋敷きの上に置かれた。


「じゃーん!ハーブローストチキン!」
「……でかいな」


どどんと豪快に出現したチキンを見て、スコールは呟いた。
如何にも豪快で、健啖家なティーダらしい料理に、こっそりを笑みが浮かぶ。

スコールの反応は、ティーダも概ね予想していたのだろう。
すぐにナイフを持ってきて、鶏肉の真ん中に刃を入れた。


「でっかいから良いんスよ。っつっても、このままじゃ食べにくいから、切り分けるよ」
「ああ」
「焼き加減は……うん、大丈夫、良い感じ!」


真ん中からぱっかりと割った肉の色をまじまじと確認して、タィーダは安心したように笑った。

切り分けられたチキンは、まずはスコールの皿へ。
胸肉一枚の半分サイズがそのままやってきて、スコールは呆れた溜息を吐きつつ、


「ナイフ、もう一つ持ってくる」
「まだ大きかった?」
「食べ易くする」


食器棚からテーブルナイフを持って来て、スコールはチキンを切った。
半分サイズであったそれを更に四等分にする。
その間に、ティーダも自分のチキンを半分に切って、そのまま自分の皿へと移した。

チキンは皮に程好い焦げ目が付いており、熱の入ったオリーブオイルが沁み込んで、きつね色に輝いている。
其処に肉と一緒に火の通った野菜を飾るように乗せて、食卓は整った。
台所仕事を終えたティーダがエプロンを解き、スコールと向かい合う席に座って、両手を合わせる。


「いただきまーす!」
「いただきます」


兄にしっかりと躾けて貰ったお陰で、食前の挨拶は忘れられない習慣だ。
元気なティーダの声に合わせる形で、スコールも言った。

スコールは切り分けたチキンにフォークを刺して、口へと運ぶ。
半分の更に半分、と言う大きさでも、塊としては十分に大きく、スコールは一口では頬張れない。
端に歯を立てて、ぐっと顎に力を入れて噛み千切り、口の中でよく噛んでいくと、歯切れの良い感触と共に脂の味わいがじゅわりと染み出してきた。


「ん、」
「うまい?」
「……ん」


スコールの反応を見ていたティーダが、頷くその様子を見て、「へへっ」と嬉しそうに鼻頭を赤らめる。
そしてティーダも、手製の大きなローストチキンに被り付いた。


「あっちち、んぐ、ふーっ、ふーっ」
「火傷するぞ」
「大丈夫、大丈夫。はぐっ、んぐ、ん、」
「……喉に詰まらせるなよ」


焼き立てのチキンの熱さに負けず、ティーダはもう一度齧りつく。
白い歯が肉を噛み千切り、皮がパリパリと良い音を立てて裂かれて行った。

肉と一緒に野菜も食べれば、肉汁の甘味が玉葱やナス、パプリカとよく馴染む。
ミネストローネが少し塩気が強かったのは、ティーダの舌の好みで合わせたからだろう。
スコールは自身が薄味の方が好みであるし、カロリー計算するうちに塩分量も控えめに意識するのが癖になったから、今夜の味はティーダの料理ならではだ。
普段が節制気味であるとスコールは自覚している。
それは幼馴染の健康を気にしているが故だが、今日は大会も終わり、ティーダが久しぶりに料理を作ってくれたのだ。
偶にはこう言うのも良い、と思いながら、スコールは今夜の食事を味わっていた。

スコールが皿の上にあるものを半分食べる頃には、ティーダの皿はもう空になっている。
テーブルの中心に置いたオーブントレイに残った二枚のうち、自分用の残りをティーダは持って行った。
此方も豪快に齧りつくその様子に、スコールは相変わらずのことながら、


(……よく食べるよな、ティーダは。昔からだ)


スコールが覚えている限り、ティーダは昔からよく食べた。

お互いの家が知り合ったばかりの頃は、食事を用意してくれる隣家への遠慮があったようだが、「ごちそうさま」と言いながら腹を鳴らすティーダを見て、兄が察した。
気にせず食べて良い、と信頼関係を築くと共に、遠慮の壁も徐々に取り除かれ、いつしかティーダはすっかりよく食べるようになった。
ずっと小食で、兄も父もそれほど多くは食べないのが普通だったスコールから見れば、何処に食べ物が吸い込まれて消えるんだろうと、不思議に思ったくらいだ。

育ち盛りの二次性徴の時期を迎え、運動部に入ったこともあり、ティーダの食欲は益々旺盛している。
そんなティーダの腹を満足させつつ、栄養過多にならないバランスを探るのは、中々に大変ではあるのだが、スコールはその手間を存外と厭ってはいなかった。

スコールの皿には、切り分けた肉が残りひとつ。
そろそろ腹が膨らんできて、オーブントレイに鎮座しているもう半分の肉の塊には、手を付けられそうにない。
けれども、これだけは食べておこう、とスコールは小分けの肉にフォークを刺した。

スコールのその様子を見たティーダが、嬉しそうに頬を赤らめて笑う。


「スコールも今日はいっぱい食べてるな。ちょっと多かったかもって思ってたんだけど」
「多いは多いが……まあ、もう少しなら。でも、そっちはもう入らない」


オーブントレイのチキンを指差すスコールに、ティーダは頷いて、


「良いよ。無理に食べると腹壊しちゃうしさ」
「そいつは明日の晩飯にする。ミネストローネも残ってるだろ」
「うん」
「一緒に煮込めば明日の一品にはなる」
「良いなあ、美味そう。明日の晩飯、楽しみ!」


今から明日の夕飯を想像して、ティーダは嬉しそうに言った。
今だって食べているのに、よく明日の食事ではしゃげるな、とスコールは思う。
それだけティーダにとって、“食べる”と言うのは楽しみとして大きいのだろう。


(……だから、ティーダと食べるのは、好きなんだ)


一枚分のローストチキンをすっかり平らげつつあるティーダを見ながら、スコールはそんな事を思う。

幼馴染が嬉しそうに食べている姿を見る内に、スコールもなんだか胃袋が刺激されるような気がして、もうちょっと食べよう、と思う。
いつもより多い一口、二口と、何故か口に運ぶことが出来るから、不思議だった。
ティーダがそんなに美味しいと言うのなら、同じものなら自分も美味しく食べられるような気がして。

その様子を見ている内に、嘗て兄が、隣家の父子に手料理を振る舞う手間を惜しまなかった理由が判る気がした。
失敗して焦げた料理も、ひっくり返し損なって崩れたハンバーグも、ティーダはいつも嬉しそうに食べてくれる。

自分で作ったローストチキンを、ティーダはしっかり食べきった。
オーブントレイに残っていた肉は、別の皿に移して、ラップをして冷蔵庫へと仕舞われる。
あとは食器の片付け、とスコールが流し台の前に立った所で、


「あ!俺がやるっスよ、スコール」
「今日は全部あんたがやっただろ。片付けくらいはやらせろ」


握ったスポンジを攫おうとするティーダを、スコールは腕を引いて避ける。
ティーダは最後までやる気だったのだろう、唇を尖らせてくれるが、じっと見つめるスコールの目を見て、譲られないと察すると、


「うん、判った。じゃ、あと頼むな」
「ああ」


何もかもを相手にして貰っては、反って落ち着かなくなると言うのは、二人ともにある事だ。
ティーダはしょうがないな、と言う顔をしながら、スコールの気持ちを汲んだ。

これだけやらせて、と言う台拭きをティーダに任せ、スコールは食器を洗う。
その傍ら、コンロに残っている鍋を見て、


(……明日)


当番の順で言えば、正しくは明日がティーダが夕飯当番だ。
だが、明日の料理はもう決まったし、それを作るのはスコールである。

失敗しないようにしないとな───と頭の中で明日のメニュー表を作りながら、スコールはスポンジに洗剤を足した。





10月8日と言う事で、ティスコ。
ティーダの食べっぷりに感化されてるスコールが浮かんだ。
ティーダがすっかりスコールに胃袋を掴まれていますが、スコールは別の意味でティーダに胃袋を掴まれていると良いなって。

スコールも男子高校生だし、Ⅷ原作は傭兵としての体作りとしてそこそこ食べそうな気もしつつ、ティーダはそれ以上によく食べる健康優良児と言うイメージがある。
水泳ってエネルギー使うよね。筋肉だけでは重い、体が冷える(スフィアプールが普通の水かは置いといて)ので、それなりに脂肪もついてると良いなと思っているので、その辺がスコールのシルエットと差があったら良いな……と思っています。

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