[ラグレオ]ひずみの面翳
レオン in FF8
エスタの国民としての住民登録の類もなく、外国からの訪問者として入国記録もない。
そんな人間が確認された。
エスタが長年監視し続けていた魔女アデル、そして遠い未来からやって来た魔女アルティミシアとの戦いを終えて後、エスタは閉ざしていた国の門戸を解放した。
エスタが抱えざるを得ず、長年の電波障害の原因であったアデルと言う存在が遂に取り除かれた事、バラムガーデンと言う“英雄”を擁する独立機関との連携協力の締結により、鎖国と言う手段を維持する意味も随分と薄れた。
そもそもエスタの鎖国と言うのは、大陸の地形の問題と、前大統領であった魔女アデルの排斥的な国際体制の下地があった上に、宇宙に打ち上げたアデルの膨大な魔力が要因と見做される電波障害によって、諸外国との通信手段が一切断たれたことによる、結果的な鎖国政策と言う一面が大きい。
自国内で自給自足も含めた生活様式が成り立ち、突出した科学技術によるインフラ設備も自前で賄うことが出来ているが、鎖国と言う体制であったが故に、自国にそもそもないものはどうにもならない、と言う所も否めなかった。
ラグナによって十七年の独裁政治でありながら、比較的善政であると評価される程度には安定した国ではあるものの、閉鎖された世界と言うのは、いずれ頭打ちし、以降は緩やかに衰退していくものだ。
内側の懸念として最も大きかった魔女アデルと言う存在が消却された今、其処に生きる人間の営みを守る方法として、十七年ぶりの国際社会への復帰と言う選択肢は、避けられるものではなかった。
こうした方針により、現在のエスタ・エアステーションは相当の忙しさに見舞われている。
現状として、一般外国人のエスタへの入国手段は飛空艇に限られており、開国後に運航を始めたそれからは、毎日幾らかの外国人がやって来る。
その目的は観光であることが多いが、中にはビジネスであったり、国際的な働きかけの為にやって来る要人もいる。
それらを迎えると同時に、エスタ国民の中にも、若い世代を始めとして外国に興味を持つものはあり此方の出国手続きや、また様々な輸入・輸出物の出入りを含めた保安検査も必要だった。
ラグナ政権=鎖国となって十七年、それ以前でもアデルの強硬的な国際社会体制により、孤立していたエスタである。
世代が一回りどころか、二つ三つは回る程の時間を、国際社会から弾かれた環境で過ごしていたのだ。
他国との付き合い方は勿論、それが付随するにつれ必要となる管理体制諸々も、ノウハウが足りない。
大統領官邸では毎日執政官が駆けまわり、彼らの決めた方針をエスタ・エアステーションへと通達し、現場環境が大急ぎで整えられ、其処に立つ人間も選出される。
だが、形だけ整えれば後は上手く行く、なんてこともなく、現場は常に『初めてのこと』が起こり、職員は目を回す日々である。
そんな中に、エアステーションのロビーの一画───他国からの来訪者がセキュリティゲートを抜け、『Welcome!』の電飾掲示板が客人を迎える其処に、その人物は立っていた。
いつから其処にいたのか、何処をどうやって通り抜けて来たのか。
監視カメラに映り込み、其処で呆然と立ち尽くしていた青年は、監視員の目からは特段怪しい所はなかった。
いつまでも其処に立ち尽くして動かない人間と言うのは、最近のエアステーション内ではよく見る光景だ。
外国人は大抵、エスタ国の独自に発展した景色を見て、目を丸くして口を半開きにさせる。
だからカメラに映り込んだ青年を、誰も怪しいとは思わなかったのだ。
ほぼ外国人向けにと設置された案内所もすぐ近くにあったが、其処にいる職員も含めて、そんなものだと思っていた。
結局は、青年の方から、エスタに向けて動いて来た。
当該人物は、自らの足で傍にあった案内所にやって来ると、少し思案する仕草をした後、「此処は、何と言う場所なんですか」と尋ねた。
問われた職員は、最初は“エアステーション”と言う場所の役割について質問されたのだと思った。
エアステーションと言う施設がエスタにしかないことは勿論、それが国の玄関として機能しているのは、他に例がない。
また、国民にとってエアステーションと言うのは、どう利用される場所なのか、と取材感覚に訊ねて来る者は少なくなかったのだ。
よって、この質問に対し、職員は「エスタ・エアステーション。この国の空の玄関口みたいなものですよ」と答えている。
しかし青年は困った顔をして、「そう言うことではなく……」と自分の質問意図について説明した。
どうやら彼は、この場所が何という街なのかを聞きたかったらしい。
それを聞いた職員は、普通の国は、必ずしも国土ひとつに対して街ひとつと言う訳ではないのだということを思い出した。
つまり青年は、“エスタ国の何と言う街なのか”───例とすれば“ガルバディア国のデリングシティ”と言った風な回答が欲しかったのだと読み取る。
だがエスタ国にはエスタと言う巨大な街がひとつあるだけだ。
これは、インフラ設備の整った場所でなければ人々の生活が難しい為、一極集中した状態で、中央側から次第に外側へ広がるようにして街が拡大していった為である。
だからエスタ大陸には、街らしい街と言うのはエスタ市街のみで、国民のほぼ十割が其処で沢山の区画の中で過ごしているのだと説明した。
だが、これもまた、青年の質問意図とは違う回答であったらしい。
青年は、止むに止まれない顔をして、形式的な謝辞を述べた後、溜息を吐いてその場を離れた。
それから彼はロビーの片隅のベンチに座り、随分と長い時間、其処で過ごした。
その時になって、案内所の職員は、外国からの旅行者にしては随分と荷物がない、と言うことにようやく気付いたのである。
職員の連絡を受け、監視員が出向してきたのは、それから何時間も後の話だ。
なんとも暢気、とも言えるが、何せ昨今のエアステーション内は、沢山の人で溢れている。
異国からの来訪者や、外に行った人が帰ってくるのを迎え待つ人の姿も多く、ロビーで一時間や二時間程度の人待ちは珍しくなかった。
とは言え、身なりがエスタ国民のそれとは異なることと、その割には手荷物らしきものがない、と言うのが、不審と言えば不審に見えたのだ。
青年はただただ座って何かを考えこむように黙している様子だったが、その傍らで何を仕掛けようとしているのかは判らない。
外国からの訪問者を迎えると言うことは、時として、スパイや危険禁止物の密輸を始めとした危険因子も迎え入れることになるのだと言うことは、職員たちも十分に理解していた。
それでも動き出すまでに随分と悠長な時間が要ったことは、やはり、こうした事態に対する職員のノウハウや経験値が未だ浅いことが原因と言えるだろう。
そして、保安検査の為に声をかけられた青年は、特に抵抗することもなく、その手順に応じた。
と言うよりも、彼自身、それ以外にやれることがなかった、と言うのが正しいのだろう。
何せこの青年は、この現代ならば凡その国で発行されるであろう身分証の類を持っていないだけではなく、自分自身のことも、碌に知り得ていなかったのだから。
────こうした経緯の末、扱い兼ねたエアステーション職員から、なんとかしてください、と泣きまじりのヘルプ要請が大統領官邸へと飛んできたのであった。
ラグナを後部座席に乗せて、大統領専用車は走る。
官邸からエアステーションまでは、三十分と少しと言った程度で到着する。
その間にラグナは、エアステーションから寄越された報告について、印刷紙面から改めて再確認をしていた。
「エスタの国民住基に登録された顔、指紋からのマッチングはなし。医療機関等に記録されてる可能性のあるDNA鑑定については、本人了承の上で採取済み、結果はまあ……早くても明日まではかかるかなあ」
「住基リストと医療機関のカルテデータは連携させてはいるが、その住基リストに当たらないとなるとな」
ラグナの呟きに、助手席に乗っていたキロスが言った。
其処さえあれば話は早かったのだが、とキロスは言うが、そうであれば、そもそもエアステーションが泣きついては来ないだろう。
「となりゃあ外国人……旅行者ってとこなんだろうけど、セキュリティゲートを通過した記録もないって?」
「そうらしい。今、保安職員が今日一日の記録を総ざらいしているそうだが、───監視員によれば、彼はある時間から突然、ロビーの中に現れたように見える、とか」
「なんだそりゃ。瞬間移動でもして来たのか?えーと、魔法であるよな、そう言うの」
「テレポだな。だが、魔力探知システムは作動しなかった。テレポによる転移の後には、時空の歪みが視覚的にも残るから、それで移動してきたのなら、監視カメラにはその様子が映るとは思うのだが……」
「っつったってカメラも死角がゼロって訳じゃないだろ?」
「ああ、残念ながらね。だが、彼はカメラで映る画角の真ん中に立っていたそうだ。有り得るとすれば、監視室の録画の記録マークが切り替わったその瞬間に現れた、と言うことになる」
「んん~……」
エアステーションの監視カメラは、開国の方針を決めた時から、増設させてある。
安全管理の為にそれは必要な措置であり、国からも補助を出して、諸々の設備も含めて整えた。
監視記録はファイル保存され、一定期間は保存が義務付けられている。
この映像記録を保存する際、一瞬だけカメラはブラックアウトしてしまう───この問題は現在解決に向けて技術者が苦心している───のだが、保存動作が始まる時間の長さはランダムに設定されている為、その瞬間を狙うと言うのはあまり現実的ではない。
加えて、ブラックアウトもほんの僅かな瞬間である為、転移魔法の残滓が消え切るほどの暇はない。
そして、保存動作が始まるカメラがあっても、別の角度から同様のポイントを撮影記録しているカメラがある為、どのカメラでも記録がない、全くの空白の時間と言うのはほぼ作られないのだ。
他にも監視の穴が全くないとは言えないが、可能な限り、それは潰している筈だ。
車の中で首を捻ってみるラグナであるが、キロスと、運転席にいるウォードも含め、何もかもが判然としない。
官邸で話を聞いた際にも同様で、故にこそわざわざ大統領自らが当該人物の確認を取ってみよう、となった訳だが、其処に不安や危険があるのもまた事実。
ラグナ自身もそれは判っていることだったが、改めて、キロスは其処に釘を差しておくことにした。
「どうも記憶喪失か何かのようで、自分が何処から来たのかも判らないと、本人は証言している。だが、これが本当かどうかは怪しい所だ。ラグナ、十分用心してくれよ」
「判ってる、判ってる。だから先ずはお前らから逢うんだろ?」
「ああ。その上で、面会するのは、件の人物に危険性がないと判断した場合のみ、だ」
キロスの言葉に、了解、とラグナは短く言った。
エアステーションのVIP用のルートを通り、専用駐車スペースへと車を止めると、すぐに保安職員がやって来た。
連絡役を任されて走って来たのであろう若い職員は、助かった、と言う表情を浮かべていた。
「ご足労ありがとうございます、大統領閣下」
「うん。例の奴は、今は何処にいるんだ?」
「検査室に監視員付で待機させています」
「本人の様子は?」
「現在の所では、此方の要請に抵抗することなく応じています。身体検査を行いましたが、武器類の所持はありません。と言うか、その、本当に何も持っていないものですから……」
「ああ、うんうん。財布とかカードとか、そう言うのもないんだってな」
ラグナが確認も兼ねて言えば、そうなんです、と職員は項垂れた。
身体検査は、服を脱いで調べることまで行ったそうだが、本当に何ひとつ出て来なかったと言う。
あとに可能性があるとすれば、体内に何かを隠して持ち込むと言うパターンだが、X線等にも何も映っていなかった。
何かが見付かるなら、これだ、と言えるものが浮かぶものだが、何もないので途方に暮れるばかりだ。
此方です、と案内されたのは、職員のみが入ることが出来るバックヤードの、更に奥。
行き詰った場所にある、不審者を一時隔離する為の小さな部屋に、件の人物はいると言う。
「では、大統領閣下は一旦此処でお待ちを。私が見て来ます」
公人として、ラグナの部下と言う振る舞いで、キロスが言った。
ウォードはラグナの近衛として残る。
キロスが部屋に入った後、職員はラグナたちを隣室へと案内した。
其処は隔離部屋と隣接し、マジックミラーが備えられ、隔離された人物の様子を密かに確認することが出来る。
ミラーの反射率の為に薄暗い状態の其処から、ラグナは隣室を覗いた。
ミラー越しの部屋には、一脚の椅子に座っている青年がいる。
その横顔を見て、ラグナは目を瞠った。
(……スコール?)
濃茶色の髪に、蒼灰色の瞳。
そして、額に走る斜めの傷。
これらの特徴は、ラグナが『愛と友情、勇気の大作戦』を契機に出会った、“彼”が持つものだ。
髪と瞳の色は、ラグナが遠い日に失った大切な忘れ形見を思い起こさせる───それと、全く同じ色をしていた。
それが存外と稀有であることをラグナは知る由もないが、しかし、額の傷に関しては確かに滅多に見るものではないだろう。
鏡の向こうにいるのは、確かに“彼”を連想させた。
しかし。
(いや、でも、なんか……随分、大人なカンジ……?)
“彼”は確かに大人びているが、年齢で言えばまだ少年の域を脱出してはいない筈。
髪は短く、すっきりと切りそろえられていた筈で、背中にかかる程の長さはなかった。
短いジャケットの袖から覗く腕は、鍛錬を重ねた日々の長さを表すように、しっかりとした筋肉がある。
頤は既に幼さから離れ、十分に“大人”と言って良いラインを作っている。
戸惑いにラグナが傍らの友人を見上げると、ウォードも首を捻っていた。
そんなウォードに、ラグナは小声で確認してみる。
「スコールがなんか変装してうちに来る、なんて話あったか?」
「……」
ウォードは首を横に振った。
外に漏らせない任務でもあれば判らないが───とウォードの目が呟くが、そうであったとしても、あの細身の少年が、ほんの数週間見ない内にこうも立派な体躯になるのは無理だろう。
鏡の向こうでは、キロスと青年が会話をしている。
キロスの視線はじっと青年に向けられており、彼も当惑している様子が感じ取れた。
キロスもまた、ラグナやウォードと同じ気持ちなのだろう。
いくつかの会話の後、キロスは熟考する仕草をして、部屋を出た。
直ぐにラグナたちの部屋のドアが開き、眉根を寄せたキロスと目が合う。
「どうよ」
「……事前報告の通り、としか言いようがないな。安全とも危険とも判断がつかない」
「……スコールにしちゃ、アレだよな」
「君の言わんとしていることは判る。此方としてもそれは同感だ。その点に関しては、後でそれとなくバラムガーデンに連絡を取ってみるとしよう。すげなくされなければ良いが」
潜めた声で話し合いながら、ラグナたちは改めて鏡の向こうを見る。
再び監視員と二人きりになった青年は、なんとも言い難い表情で其処に座っていた。
何処となく、当てが外れた、と言った残念そうな表情で、青年は溜息を吐いている。
考え込むように傷のある額に手を当てて俯く様子は、時折“彼”が見せるものとよく似ていた。
まるで、“彼”の数年後の姿を見ているかのようだ。
そんな風にも感じる程、鏡の向こうにいる青年のパーツは、“彼”を彷彿とさせる。
しかし、纏う雰囲気は───少々草臥れた様子もあってか───幾らか柔らかいと言うべきか、少なくとも、“彼”が持つ特有の刺々しさは感じられない。
“彼”もラグナに対し、最近は幾らか丸い所を見せてくれるようになったが、あの青年はもっと、言葉を選ばずに言えば、人間的に丸くなっている、と評するのが良いか。
“彼”が此処に辿り着くには、まだまだ時間と経験が必要と言えるだろう、そんな年季すらも感じさせる。
───青年の印象についてはともかくも、直面の問題は彼をどうするか、だ。
ラグナはふぅむと腕を組んで考えた後、
「……取り合えず、一回直で逢ってみっか」
「………」
ラグナがそう言うと、左右隣からじぃっと視線が突き刺さる。
旧友たちが言わんとしていることを、ラグナも理解していた。
「判ってるよ、危ないかも知れないってんだろ?」
「理解してくれていて良かった。何せ出自不明、入国経路不明だからな。安全上の問題として、直の接触は歓迎は出来ないよ」
「でもよう、どんな人間なのかは話してみないと判らないだろ」
「私が先程、話をしたよ」
「俺はまだ話してねえぞ」
暗に側近として、反対表明を掲げるキロスと、それに同調して頷くウォード。
ラグナもそんな反応が返ってくるのは、予想していたことである。
「一人で逢わせろとは言わないって。皆で行けば良いだろ?」
「人数の問題ではないが……まあ、どうせ逢わないと納得しないだろうな」
「……」
「じゃあ決まり!」
やれやれ、とキロスが溜息を吐きつつ、まあ大方の予想通りだ、と言って保安職員に声をかける。
大統領と側近の遣り取りを見ていた若者は、当然に戸惑っていたが、キロスがどうにか宥めた。
大統領からの直の要請として、上の上まで急ぎ話を通し、更に専用に書類まで残すように手続きも踏んだ上で、ラグナの要望は通ることとなる。
其処までしないと、万が一があった時、全ての責任がこの現場にいる保安職員の若者一人に振り被ってしまう。
それはきちんと配慮しておかなくてはいけない。
お陰で今日のエアステーションは、例にないことばかりが立て続けに起こって、職員は失神寸前に違いない。
必要なことを整えている内に、時間は過ぎていった。
ラグナがようやく隔離用の部屋に入る算段が取れた時には、来訪してから一時間半が経っている。
その間、件の中心人物は、文句の表情もひとつと零さず、ただただ椅子に座り過ごしていた。
今はそうしているしか出来ないのだと、理屈からして重々に理解している、と言う態度であった。
「それでは、行こうか。ウォード、頼んだぞ」
「……」
キロスに促され、ウォードが頷いて扉のノブを握る。
体躯の大きなウォードなら、その身一つで、唯一の出入口であるドアを塞ぐことが出来るのだ。
もしもこの中にいる人物が爆弾の類を持っていたとしても、彼が肉の盾となって、大統領であるラグナを守ることが出来る。
ギ、と重い音を鳴らして、ドアが開かれた。
椅子に座っていた青年が顔を上げ、見上げる程に大きな体躯の男を見て、微かに眉根を寄せる。
僅かに警戒の気配があったが、彼はそれでも、堪えるように椅子に座して動かない。
理性的な人間だ、とラグナは思った。
そしてウォードの影からラグナが顔を出した、その瞬間。
「……え……?」
蒼灰色の瞳が零れんばかりに見開かれ、じっとラグナの顔を見つめる。
まるで幽霊でも見たかのような表情に、ラグナがことんと首を傾げていると、蒼の眦にじわりと大粒の雫が浮かぶ。
「え?おい?」
「……あ……?」
そのまま、はらはらと雫を幾つも零し始めた青年に、今度はラグナが目を丸くする番だった。
それまで、ただ静かに陶然と過ごしていた青年の目尻から溢れ出す雫。
自らのそれに気付いていなかった青年は、ラグナの焦る様子を見て、ようやく自分の頬に伝うものに指をやった。
「……あれ?」と落ち着きのある風貌とは裏腹に、途端に幼い表情が零れ出る。
これには流石にラグナだけでなく、ウォードも、先に青年と話したキロスも戸惑い、言葉を失うしかなかった。
現場に居合わせてしまった保安職員の若者と、部屋の隅で青年の監視に従事していた監視員から見ても、何が起きたのか判らない。
青年は何度か目元を拭って、それでも止まらない雫をそのままに、顔を上げる。
ブルーグレイが今一度ラグナを見て、それがきっと、青年の限界だった。
「……あ……あ……!」
崩れ落ちるように膝を追った青年は、押し殺すように呻くように、泣いていた。
その胸の奥で、古い古い傷が悲鳴のように疼いていた事を悟る者は、いない。
KHのレオンをFF8のラグナに会わせてみたいな、と思いまして。
そもそもKHでラグナがどうなっているのか、登場もないので何もかも私の捏造でしかありませんが、当サイトではレオン(スコール)を闇の侵食から逃がす為に身を犠牲にした、と言う設定になってる節があります。
そんなレオンが、別れた当時よりも年齢を重ねているか、もしかしたらその頃の年齢のラグナと逢ったら、色んな感情の引き金が理性を無視して雪崩を起こしそう。
拙宅のレオンは、ラグナに対して拗らせたファザコンからかなり執着心が強くなっているので、元気に歳重ねてるラグナを見たら大変なことになりそうで。とても見たい。