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2012年03月14日

ホワイトデー

  • 2012/03/14 20:57
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ファイル 73-1.jpgファイル 73-2.jpg

って事でフォンダンショコラ作りました~。
見た目は上手く行ったかなーと思うんですが、中のチョコがどうなってるかは判りませんww 二枚目の画像のは、焼いてる所でチョコが沸騰して隙間から噴き出しております。やっちまったい。焦げるよりいいか!
今日はもう腹一杯だから、流石の私でも味見は無理だな……結構でかいんですよ、5センチカップって。親父が晩飯喰った後で早速二つほど攫って行ったけど。

最初はガトーショコラを作ろうと思っていたんですが、100円ショップでカップを買いに行った時、レシピ本を見付けて立ち読みしてたら、フォンダンショコラのページが目についたので、路線変更。作ってみたくなった&食べたくなったんです。
本当なら飾り付けで、焼き上がった後にシュガーパウダーを振るうと見た目にもキレイになるのですが、買い置きがなくなってたので断念。まあいいか。
菓子作りで材料が足りない時にいつも悔やまれるのが、製菓用品店が近くにない事。住んでいる地域の同市内に一つだけあるにはあるのですが、山一つ向こうと言うw 同県二番目の都市(一応)だから広いんですよ……瀬戸内海の港から山の向こうまで、同市内。しかし行くまでにかかる移動費と労力を考えたら、通販した方がずっと楽w そんなら通販するさ……と言いたいけど、こういうのって実際に店に行って自分の眼で見たいなぁ。色々あるだろうからなぁ。ちくしょー。

拍手&メッセージありがとうございます。移転&統合してから完全にFFジャンルに傾倒していますが、他もぼちぼち書いてます。大抵はネタ粒に流すくらいの短い文章ですが、見に来て下さる方がいてくれて、本当に嬉しいです!
と言う訳で、取扱い各ジャンルでホワイトデーネタ粒投下。一部ホワイトデー関係ないような雰囲気もありますが(;´Д`)うちではまあいつもの事ってことで……

[龍京]白い日の気紛れ

  • 2012/03/14 20:44
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放課後の帰り道、立ち寄ったコンビニの中。
龍麻は今日の夕飯にする予定の惣菜を選び、京一もパンコーナーで適当に物色をした後。
支払いをしようとして向かったレジの横に、綺麗にラッピングされたカップケーキが籠の中に積まれていた。
ポップには「ホワイトデー特別割引!」の文字。

龍麻は、カップケーキの中に自分の好きなもの───要するに苺味───がないかと探してみたが、残念ながら、あるのはプレーンやチョコレートと言うレギュラーなものばかりで、淡いピンク色は置いていないらしい。
残念に思いつつ、龍麻はレジ棚に並べてあったハイチュウの苺味を取って、一緒に会計を済ませた。


龍麻が一通り買い終えた後も、京一はパンコーナーの前から動かない。
龍麻以上に手持ちが少ない彼は、此処でパン二つを買うか、パン一つにして飲み物を買うか、真剣に迷っているようだ。

そんな親友をしばし見詰めた後、龍麻は提案した。




「京一、僕の家、来る?」




ぴくり。
龍麻の言葉に、京一の耳が動く。

しばしの沈黙の後、京一は徐に棚に手を伸ばし、焼き蕎麦パンと蒸しパンを取る。




「お前ん家、コーラあったよな」
「この間買った奴?うん、まだ残ってるよ」




そのコーラは、先週、京一が龍麻の家に泊まりに来た時に買って来たものだ。
200ミリリットルの小さなペットボトルだったが、京一はその日中に飲み切らず、冷蔵庫に置いて行った。
龍麻は炭酸を余り飲まないので、消費される事もなく、買い主が戻ってくるのを待っている。




「僕、外で待ってるね」
「ああ」




レジには、買い物籠一杯に菓子やらアルコールやらを詰めた客が会計待ちをしていた。
時間がかかりそうだと見て、断りに短い返事を確認し、龍麻は一足先にコンビニを出る。


夕暮れの町を何とはなしに眺めながら、龍麻はコンビニ袋の中を漁った。
買ったばかりの苺ミルク飴の袋を取り出すと、封を切り、セロハンを剥がして一つ、口の中に放り込む。
家に帰るまでの空腹を誤魔化す為だ。

出入口の前に立っていると邪魔になるので、龍麻は店の角壁に移動した。
レンガ風の壁に寄り掛かって、ころころと口の中の飴を転がす。


五分ほど待った所で、レジで会計待ちをしていた客が出て来た。
そのすぐ後に小さなコンビニ袋を腕に引っ掛けた京一も出て来る。




「あのおっさん、小銭出すのにモタついてやがって。無駄に暇かかっちまった」
「京一も自販機でジュース買う時、モタついてるよ」
「後ろに待ってる奴がいるのが判ってりゃ、ちったぁ急ぐぜ」
「僕、急いで貰った事ないけど」
「お前は別」




なんで、と言った所で、まともな返答がない事は龍麻も判っている。
そして龍麻も、京一に対してだけ、他の仲間達には言わないような事を言う時もあるので、要するにこれはお相子なのだ。


さて、それでは帰ろうか、と。
歩き出そうとした龍麻の背中に、かかる声。




「龍麻」




親友の声に、何、と振り返ると同時に、何かが放り投げられた。
片手でそれをキャッチすると、くしゃ、と柔らかくて薄い抵抗が指先に当たる。

頭上で受け止めたそれを、目の高さまで下げてみると、ラッピングされたカップケーキで。




「泊まり賃」




─────正しく言うなら、宿泊費。
それだけ言って、京一はすたすたと歩き出し、龍麻を追い抜いて行った。

いつもそんな事は露にも気にしていないのに、一体何の気紛れなのか。
不思議ではあったが、龍麻は何も言わずに、カップケーキを自分のコンビニ袋へ入れる。



前を行く親友を、数歩後ろで追いながら、龍麻は小さく笑った。




(耳、真っ赤だよ)




本当は正面に回って、京一の顔を見たかったけれど、きっと耳よりもっと赤くなっているのが判ったから。
そんな顔を見たらきっと怒るから、龍麻はずっと、彼の後ろをついて歩いた。






いつも人から貰ってばっかりの京一ですが、たまには誰かに何か渡す事もある訳で。
なんで買ったのって聞いたら、「割引で安かったから」って言う。でもいつもは、安いからって甘いもの買う事はない。その辺まで突っ込まれたら、顔真っ赤にして木刀振います。

[絆]小さな約束、甘い未来

  • 2012/03/14 20:25
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オーブンが音を鳴らして、焼き上がりの合図。
それを聞いたレオンは、明日が提出期限の課題を解く手を止めて、腰を上げた。

キッチンからは甘くて香ばしい匂いが漂っている。
余り甘いものが得意でないレオンだが、こうした匂いは決して嫌いではなかった。


ピーッピーッと急かすように音を鳴らすオーブンの蓋を開けると、其処には丸いホールの型がある。
ミトンを手に嵌めて型を取り出したレオンは、調理台の上にそれを置いて、竹串を取り出す。
竹串は表面で軽い抵抗感を見せた後、サクリと刺さると、後はすぅ、と底の方まで落ちて行った。



「……よし」



抜いた竹串の先には、茶色の生地が少しくっついていたが、それはベトついたり、ドロリと溶けたりはしていない。
どうやら、上手く焼き上がってくれたようだ。

周りの大人達からは器用で通っているレオンだが、彼とて何事も失敗しない訳ではない。
初めて作ったものは、ちゃんとレシピ通りに作っても、オーブンの温度が足りなかったり、メレンゲの泡立てが足りなかったりと、そうした事はままあるものであった。
一つのものに集中していれば、多少の失敗も取り戻す事は出来るのだが、レオンは決して暇ではない。
今日も朝から忙しなく、朝食の用意をして、妹と弟達を起こし、洗濯物やら掃除やらを済ませたと思ったら、今度は昼食の用意をして……と言う具合に、同じ年頃の少年少女達に比べると、非常に多忙な身だ。
だから時々、パンを焦がしたり、服を一つ洗濯機の中から取り忘れていたり、と言う事が起きてしまう。
菓子作りなんて尚の事で、夕飯の準備と同時進行で作っている時などは、うっかりバニラエッセンスを入れ忘れたり、ブランデーの量を間違えたり、と言う事は少なくなかった。

今日も今日とて、そんな忙しい時間の中で、レオンは合間を縫って菓子作りに精を出していた。
全ては、もう直ぐ帰って来るであろう、妹弟達の為に。


粗熱が取れるのを待って、型から中身を取り出す。
底が外れるタイプの型なので、引っ繰り返す必要がないのは助かる。

チョコレート色の生地の横側に指先を軽く当ててみる。
これも指に付着するものがなかったので、上手く行った、とレオンは口元を綻ばせた。


────ガチャガチャ、バタン。
賑やかな音が玄関から聞こえたのを耳に留めて、レオンはキッチンからリビングに顔を出した。



「レオン、ただいまー!」
「ただいま、レオン」
「お兄ちゃん、ただいま」



元気な声をあげるティーダと、持っていた買い物袋をテーブルに置くエルオーネ。
スコールは三十分振りの再会に、早速甘えるようにレオンの下に駆け寄って、ぎゅっと兄の腰に抱き着いた。

さらさらとしたダークブラウンの髪を撫でる。
すると、抱き着いたままスコールがくんくんと鼻を鳴らした。



「お兄ちゃん、いい匂いする」
「ああ。お菓子、作ってたからな」
「お菓子?」



ぱっと表情を明るくしたのはティーダだ。
わくわくとした顔で見上げて来る蒼と青に、レオンはくつくつと笑う。



「もう少しで出来るから、良い子にしてろよ?」
「うん」
「レオン、買ったもの、冷蔵庫に入れておくね」
「ああ……いや、俺がやろう。エルは二人を見ていてくれ」



そう言うと、エルオーネは「判った」と言って、買い物袋をレオンに手渡した。
レオンはキッチンに戻ると、明日以降の献立になる食材を冷蔵庫に詰めていく。

それが終わると、調理台に置いていたお菓子の表面に、茶漉しを使って粉糖を振りかける。
チョコレート色と対照的な白が鮮やかに映えた。
少し熱した包丁で綺麗に切り分けて、デザート皿に乗せ、ホイップクリームを添える。


これでよし────と思った所で、視線を感じて振り返る。
すると其処には、キッチンの入り口でひょっこり顔だけを覗かせている子供達がいて。



「出来たぞ」



くすりと笑ってそう言うと、ぱぁあ、と二人の顔が輝いた。

レオンがジュースとコーヒーを準備している間に、二人はリビングに戻り、「出来たってー!」とエルオーネに報告する。
良い子で待ってなきゃ、と言うエルオーネの声に、二人の返事が重なるが、その声さえも待ち遠しそうに聞こえるのは、気の所為ではあるまい。


レオンがリビングに入ると、三人は窓辺のテーブルに行儀よく座っていた。



「今日のおやつ、何?」
「ガトーショコラだ。チョコレート生地のケーキみたいなものかな」
「お姉ちゃんの、おっきいね」
「……うん。レオン、どうして?」



それぞれ並べられたケーキの大きさを見たスコールの言葉に、エルオーネも頷いて、首を傾げる。
いつもはティーダとスコールのケーキの方が、気持ち大き目になっているからだ。

間違えた?と不思議そうに見上げて来るエルオーネに、レオンは微笑む。



「今日はホワイトデーだろう」
「……あ。え、ちょっと待って、私、先月何も渡してないよ」
「ほわいとでー?」
「ほわいとでーって何?」



慌てるエルオーネと、そんなエルオーネにホワイトデーについて訊ねる弟達。
レオンは自分の椅子に座って、コーヒーを一口飲んでから、言った。



「ホワイトデーと言うのは、そうだな……男の人が好きな女の人に贈り物をする日、だな」



その前にバレンタインデーと言うものがあって、とはレオンは言わなかった。
この前提があろうとなかろうと、レオンは今日はガトーショコラを作るつもりだったし、エルオーネには大き目のカットを渡すと決めていた。

レオンの言葉を聞いたスコールが、すきなひと、と小さく反芻して、



「お兄ちゃん、お姉ちゃんのこと、好き?」
「ああ」
「僕もお姉ちゃん、好き」
「オレもー!」
「あ、ありがとう」



突然の告白ラッシュに、エルオーネは顔を赤くする。
その傍ら、困ったように眉尻を下げている彼女を見て、レオンはくすりと笑った。



「エル、来年は少し期待していても良いか?」



何を、とはレオンは言わなかったが、利発な妹はきちんと察してくれたらしく。
待っててね、と笑ってくれた妹を見て、レオンは来年の冬が今から待ち遠しくなるのを感じた。





こんな事言ってるレオンですが、バレンタインはバレンタインで、何か用意してるんですね。
ってかバレンタインでもホワイトデーでもクリスマスでも、何もなくてもレオンはこんな調子です。イベントに感けて妹弟を可愛がりたいだけです。このお兄ちゃんは。

お菓子作りは分量を間違えると、中々修正が効かないので大変です……

[バツスコ]スウィート・ナイト

  • 2012/03/14 20:20
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バレンタインの[スウィート・モーニング]と同じ設定。
現代パラレルでバツスコ同棲。




世話になった先輩方への追い出しコンパを終えて、夜の道を帰路についたのは、今から三十分前の事。
会場にした居酒屋から、酔い覚ましも兼ねて徒歩・電車で帰宅したバッツは、マンションの自分の部屋に明かりが点いているのを見て、おや、と首を傾げた。

バッツの同棲相手(同居だろうと彼は言うが、バッツは意地でも同棲と言いたい)であるスコールは、高校二年生、来月には三年生になる。
真面目で勤勉な彼は、夜遅くまで机に向かって勉強をしている事が多いのだが、此処数日は月頭に行われた学年末テスト終了による燃え尽き症候群に見舞われていた。
彼にしては珍しく、今は怠けたい気分であるらしく、午後10時にはさっさと風呂に入り、何をするでもなくベッドの上でごろごろ転がり、そのまま寝落ちると言うパターンが多くなっていた。


携帯電話で時刻を確認すると、午後11時。
起きているのは珍しくないが、最近のパターンだと、電気は消えている筈だ。
消し忘れか、そろそろ以前の調子に戻って、また勉強をしているのか。

バッツはコンパの後の二次会でカラオケに参加し、酒量もそこそこ入ったので、気分的にはとても良いものだった。
なので、頭はついつい浮付いた事を考える。



(起きてるんなら、ちょっとイチャついたっていいよな)



学年末テストの一週間前から、バッツはお預けを喰らっている。
スコールが進学クラスを希望しており、その為には学年末テストを落とす訳には行かなかったので、その間、バッツはなくなくスコールに構い付けるのを我慢した。

そして学年末テストが無事に終了し、結果も帰って来て、スコールの進学クラス進級も決定し、これでようやく────とバッツは思ったのだが、現実はそう甘くはなかった。

燃え尽き症候群に見舞われたスコールは、前述の通り、彼にしては珍しい惰性な生活を送っている。
朝は登校ギリギリまで起きないし、バッツが大学での授業を終えて戻ってきた時には、既にベッドに住人だ。
バッツも何度か突撃し、スキンシップを図ろうとしたが、怠けたい彼には邪魔にしかならなかったようで、「鬱陶しい」と言う冷たい言葉と共に蹴り落とされる結果となっていた。


元々スコールは、他人とのスキンシップが好きではない。
特に疲れ切っている時など、尚の事、人の熱を疎ましく思うようだった。

それを判っているから、バッツもスコールが落ち着くまで待つつもりだったのだが、そろそろ限界だ。
酒も入っているお陰で、余計にストッパーが甘くなっている。
ちょっとぐらい良いよな、と考えている今のバッツは、自分の“ちょっと”がスコールの許容範囲を大きなズレがある事を完全に失念していた。


電気の付いた部屋に帰るのは、久しぶりの事だった。
バッツは───酒の効果も相俟って───ウキウキとした気持ちで、ドアロックに鍵を差して回す。



「スコール、たっだいまー!」



玄関から一番遠い寝室にいるであろう恋人に届くように、大きな声で帰宅を告げる。
すると、思った以上に近い場所から、彼の声が聞こえてきた。



「煩い、バッツ!夜中だろ!」
「おっ?」



咎める声がしたのは、玄関に近い位置にある、キッチンだった。

思わぬ所から聞こえた声に、バッツはきょとんと目を丸くする。
それからキッチンから漂ってくる甘い香りに首を傾げ、恋人の名を呼びながらキッチンを覗き込んだ。



「スコール、何してんだ?」
「あ……バカ、見るな!」
「ぶっ」



べしっ!とスコールの掌底がバッツの顔面に当たる。
蹴飛ばされるよりは痛くないが、鼻頭がヒリヒリする。


細い指の隙間から、スコールの顔が見えた。
綺麗な顔をしているのに、いつも眉間に深い皺を寄せている恋人は、常の三割増しで皺を寄せている。

が、バッツにはそれよりも、顔に当てられたスコールの手から甘い香りがするのが気になる。



「スコール、この匂いなんだ?」
「嗅ぐなっ!」



手首を捉まえて、すんすんと鼻を鳴らしてみると、スコールは真っ赤になってバッツの手を振り払った。
ケチ、と唇を尖らせると、スコールは赤らんだ顔のまま、じろりとバッツを睨む。



「……あんた、酔ってるだろ」
「んー、まあ、ちょっとな。結構飲んじゃったからなぁ」
「おい、近付くな。酒臭い」
「いいじゃん、久しぶりだしさ」
「何が」
「スコールとこんな風に話するの」



バッツの言葉に、スコールが眉根を寄せて、口を噤む。
青灰色にバツが悪そうな雰囲気が滲んだが、バッツはそれに気付かない振りをして、へらりと笑った。



「所で、何してるんだ?なんか良い匂いするけど、夕飯、これからなのか?」
「……こんなもの夕飯にする訳ないだろ」



こんなもの、と言うスコールの示した物が何であるのか、バッツには判らなかった。

何を作っていたのか、じっとスコールの顔を見詰めて無言で問い掛けてみると、すい、とスコールの視線が逃げる。
追い駆けて顔を覗き込むと、すい、と反対方向へと逸らされた。
全く目を合わせてくれない(いつもの事ではあるのだが)恋人に、バッツはむーと拗ねた顔を作って見せる。

─────けれど、ダークブラウンの髪から覗く彼の耳が、酷く赤らんでいるのを見付けて、ぱちりと瞬きを一つ。



「スコール?」
「………」



名前を呼ぶと、ふい、とスコールはバッツに背を向けた。
スコールは壁のフックにかけていたミトンを取って、オーブンの蓋を開ける。
キッチン全体に香っていた甘い匂いが一層強くなった。

オーブンから取り出されたのは、小さなカップに入った、合計六個のチョコレート色のケーキ。
スコールはそれを調理台に置いて、竹串でそれぞれ焼き具合を確認した後、その中から一つを手に取って、



「……ほら」



カップケーキを差し出したスコールの頬は、赤い。
青灰色は、バッツを見ているようで微妙に逸らされていて、褐色とは交わってくれなかった。

バッツは、ぽかんとしたまま、差し出されたカップケーキを見詰めていた。
そのままいつまでも受け取ろうとしないバッツに焦れて、スコールが顔を顰めてバッツを睨む。



「……いらないなら、捨てる」
「いやいやいや!いる!貰う!」



それだけは勘弁して、とバッツは慌ててカップケーキを掴んだ────スコールの手ごと。
離せ、と怒られたが、バッツはスコールの手ごと包んだまま、カップケーキをしげしげと見詰め、



「これ、スコールが作ったのか?」
「………」
「なんで?」



無言は肯定と受け取って、バッツはスコールを見て問うた。

スコールは、バッツから顔を背け、青灰色が右へ左へ宙を彷徨う。
赤い頬を恋人へと向けたまま、スコールはぼそぼそと呟く。



「……先月。あんたに、貰った。だから」



お返し、と消え入りそうな小さな声で紡がれたのが、辛うじてバッツの耳に届く。
アルコールの酔いが、全部一気に吹き飛んだ。



「スコール!愛してる!」



突然の声を大にした告白に、スコールが真っ赤な顔で目尻を吊り上がらせた。
それに構わず、バッツは細い身体を抱き寄せて、淡色の唇を己のそれで塞ぐ。




ぽと、と床に落ちたカップケーキを見て、後でスコールの怒りを買う事を、バッツは知らない。






なんでこんな夜中に作ってるのかと言うと、作った方が良いのか、やっぱり要らないのか、大体酒飲んでるだろうしコンパで色々食べてるだろうし……って感じで悶々考えてたら、こんな時間になっちゃってた訳でして。ベッドの上でごろごろ考え込んでたんでしょうね。
バツスコはツン全開だけどデレなスコールが書けるので楽しい。

[三空]包み込んだ声は、音にはならない

  • 2012/03/14 20:16
  • Posted by


ぽい、と投げるように寄越されたそれを受け取って、悟空はぱちりと瞬きを二つ。
まだ幼い、丸みを帯びた掌には、小さな小さな洋菓子が一つ。




「三蔵、これ」
「やる」




これ何、と問おうとする言葉を遮って、短い二文字。
またぱちりと瞬きをして、悟空はもう一度、手の中の洋菓子に視線を落とす。

英字の描かれた包み紙の中身を、悟空は一月前にも見た事がある。
今日と同じように、名前を呼ばれて振り返ったら途端に投げつけられたものと、全く同じ物だった。
大切そうに包み込まれているのは、甘い甘いチョコレート────目の前の男とは到底結びつかないような、甘味。


なんで、と問おうとして、悟空は止めた。
開け放った窓辺で煙草を吹かす保護者の背中から、不機嫌なオーラを感じ取る。
下手な事を喋って取り上げられるのは御免だった。


経緯はよく判らないものだったが、悟空は余り気にしない事にした。
やる、と言ってくれているのだから、遠慮なく貰う事にする。

包み紙を開くと、茶色のパウダーで化粧をした、真ん丸のチョコレートが出て来る。
ぽいっと口の中に放り込んで、ころころと転がせば、口一杯に幸せな味が広がった。




「ん~っ」




ウマい。
甘い。

どっちも悟空の大好物だ。


ころころと口の中で転がしている内に、チョコレートはどんどん小さくなって行った。
後ちょっとでなくなってしまう────それが勿体なく思えたけれど、かと言って消える早さが遅くなる訳もなく、チョコレートは一分も経つと溶けてなくなってしまった。
後に残ったのは、口の中の甘い味だけ。




「うー……なくなっちゃった」




食べ物なのだから、それで当たり前なのだけれど、悟空は惜しくて仕方がない。
もっとあれば良いのに、と思いながら唇を尖らせていると、




「……悟空」
「何?」




呼ばれて振り返ると、ひゅん、と視界に落ちて来る何か。
反射でそれを両手で捕まえるようにキャッチする。

包んだ手を開いてみると、其処には先刻と同じ、包み紙に包まれたチョコレート。




「やる」
「う?……うん」




あるなら、さっき一緒に渡してくれれば良かったのに。
この出し惜しみは何だろう、と思いつつ、悟空はまた包み紙を解いて、パウダーコーティングされたチョコレートを口の中に入れた。




……それからしばらく、同じやり取りが続き。

遂に悟空は「なんで?」と聞いたのだが、三蔵は何も答えてはくれなかった。






もうちょっと素直に甘やかせないのか、うちの三蔵は。

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