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2013年01月07日

[レオン&子スコ]はるのななくさ

  • 2013/01/07 23:30
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レオンお兄ちゃんと子スコで春の七草。
レオンが成人しているので、設定はおそらく[サンタさんへ おねがいします]と同じです。





「せり、なずな、ごぎょう、は、は…」
「はこ?」
「はこべら、ほとけのざ、すずな、すず、す、…」
「すず、し?」
「すずしろ!」


最後の一つを元気よく発表したスコールに、レオンはくすくすと笑いながら、よくできましたと頭を撫でてやった。


「凄いな、スコール。もう全部覚えたのか」
「うん!」


膝の上に乗せた小さな弟は、嬉しそうに兄を見上げて頷いた。
ぷくぷくと丸い頬が赤らんでいるのが、なんとも可愛らしい。

そんな二人の前には、クッキングヒーターが出されており、その上には鍋が置かれている。
その中で温かな湯気を立ち上らせているのは、今日の夕飯の七草粥。
柔らかく溶けた粥の中に、所々に散らばっている緑色が鮮やかで、他にも輪切りにされた白い茎が入っている。
年末年始から色々と華やかな食卓が続いたが、今日は質素なこの一品と、薄味の味噌汁と漬物のみ。
しかし、スコールは質素な食卓をつまらなく思う事はなかったようで、そんな事よりも、兄から教えてもらった“七草”を暗記暗唱する事に夢中になっていた。

レオンは膝上のスコールを抱え直すと、半纏の垂れた袖を捲りあげて、鍋に入れていたお玉を手に取った。
ぐるぐるとかき混ぜて、もう良いかな、と呟くと、スコールが炬燵テーブルの端に置いていた大小のお椀の内、大きなお椀を取る。


「はい、お兄ちゃん」
「ああ、ありがとう」


差し出されたお椀を受け取って、レオンは鍋からお椀に粥を移す。
それから、スコール用の小さなお椀にも粥を移し、


「ほら、スコール。熱いから、ちゃんとふーふーして食べるんだぞ」
「うん。いただきます」


お椀をテーブルに置いて、きちんと手を合わせて、食前の挨拶。
レオンも一緒に手を合わせ、習うように挨拶をした。

粥は箸では少し食べにくいだろうと、レオンが用意したのはレンゲだ。
猫のマークが描かれたレンゲはスコール専用で、使う度に嬉しそうにしている。
今日もスコールは、レオンに渡された猫のレンゲを嬉しそうに見つめた後、粥を掬ってふーふーと息を吹きかける。
あーん、と大きく口を開けて、ぱくん、とスコールは一口。


「はふ」
「まだちょっと熱いか」
「ん、でもおいし」


はふはふと口の中の熱さを逃がそうとするスコールに、レオンはくすくすと笑う。
こくん、と粥を飲み込んで、スコールは二口目は念入りに冷ましてから口の中に入れた。


「梅、あるぞ。塩の方が良いか?」
「ウメがいい」
「丸ごとは大きいか。解そうな」


小さな器に入れていた梅は、ふっくらと果肉を膨らませている。
レオンは箸で梅の果肉を解して細かくし、スコールの粥の中に少量入れてやった。
少し掻き混ぜてから、スコールは粥を掬い、ふーふー、と息を吹きかけて、口の中へ。


「どうだ?」
「んぅ……ふへへ」
「そうか」


見上げるスコールの後頭部が、こつんとレオンの胸に押し当てられる。
にこにこと嬉しそうに見上げてくる弟に、レオンは笑みを浮かべて良かったと言った。
零れるぞ、と苦笑しながら言えば、うん、と素直な返事が返ってきて、スコールは食事に向き直った。

レオンも膝上のスコールに粥を零さないように気を付けながら、自分の分を口に入れる。
すっきりとした味が口内に広がって、少し塩気が足りなかったかなと思っていたのだが、これくらいなら許容範囲だろうと安堵した。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?」
「これ、なあに?せり?なずな?」
「スズシロかな」
「すずしろ。これ、すずしろ?」
「うん」
「すずしろ」


確かめるように繰り返して、あーん、とスコールはスズナを口の中に入れた。
むくむくと顎をしっかりと動かして、スコールは粥を飲み込んだ。


「これは?」
「うーん……ナズナかな?」
「なずな」
「多分」


蕪のスズナや、大根のスズシロは、刻んでも触感や見た目ですぐに判るが、他は混ぜてしまうと少し判り難い。
よくよく見れば、茎や葉にもそれぞれ特徴があるから判るのかも知れないが、レオンもそこまでは把握していなかった。
曖昧な返事にスコールが起こることはなく、なずな、と確かめるように呟いて、ぱくりと食べる。

普段、あまりハイペースで食べる事がないスコールだが、今日は腹が減っていたのか、薄味の粥が食べ易かったのか、あっという間にお椀を空にした。
すっきりとしたお椀を見詰めて、物足りなさそうな顔をするスコールに、レオンは遠慮しなくて良いのに、とくすりと笑う。


「お代わり、あるぞ」
「食べるっ」
「よしよし」


もしも動物のような耳や尻尾があったら、きっと耳はピンと立って、尻尾は嬉しそうに振られていたことだろう。

二杯目は一杯目よりも、心持少なめに。
粥は食べ易いものではあるが、案外と腹に溜まる。
今日のスコールはいつもよりもよく食べているが、元々スコールは小食な方だから、あまり沢山は食べられないだろうと思ったのだ。

クッキングヒーターの上で温まっていた粥。
ほこほこと湯気を立てる二杯目のそれを、スコールはレンゲで掬ってふー、ふー、と冷ました後、


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?」
「あーん」


レンゲから粥が零れ落ちてしまわないように、気を付けながら持ち上げて、スコールは言った。
ぱちり、とレオンが瞬きをすると、スコールはにこにことして、


「はい、あーん」


言葉と一緒に、どうぞ、と差し出されるレンゲ。

レオンはくすりと笑みを零し、あーん、と口を開けた。
子供用のレンゲはレオンには小さくて、掬われていた粥も一口で空になる。
もぐもぐと顎を動かすレオンを、スコールはじっと見つめていた。


「おいし?」
「ああ。おいしいよ」
「……えへへ」


粥はレオンが作ったものだけれど、夕飯の買い出しをスコールは手伝った。
ハーブや香菜が売られている棚で、七草粥に使う七草がまとめて入ったパックを探して来て、と言われたスコールは、棚の端から端まで順番に捜して、「ななくさ」と書かれたパックを見つけた。
これ?と言って持って行ったら、レオンは笑顔を浮かべて頭を撫でてくれたから、スコールは大きな使命を終えたような気持ちで嬉しくなった。

だからこの七草粥に入っている七草は、スコールの功績なのだ。
それを食べて、おいしい、と言って貰えて、嬉しくない訳がない。

レオンの膝の上、炬燵の中でスコールの足がぱたぱたと遊ぶ。
ずり落ちそうになるスコールを支えながら、レオンはスコールの手からレンゲを取る。
きょとんとして見上げるスコールの視線を感じながら、レオンは自分のお椀から粥を掬って、ふーふー、と冷まし、


「ほら、スコール。あーん」
「あーん」


促すレオンに応えるように、スコールが小さな口を大きく開ける。
ぱく、とレンゲを口いっぱいに頬張れば、丸い頬がぷくんと膨らんで、レオンはくすくすと笑った。

口端から粥が零れないように気を付けながら、スコールの口からレンゲを抜く。
むぐむぐと顎を動かすスコールの口端に、米がちょこんとくっついていた。
レオンは炬燵テーブルの上に置いていたティッシュを取って、スコールの口のまわりを優しく拭く。


「おいしいか?」
「んく……うん!」


きちんと口の中にあったものを飲み込んで、スコールはレオンを見上げて頷いた。



今年も一年、どうか元気で。
膝上で無邪気に懐いてくる弟を抱きながら、レオンは心からそう願った。




おこたでおひざ抱っこであーんし合ってるお兄ちゃんと子スコが書きたかっただけです。
あと七草を暗記しようと頑張る子スコって可愛いなと思って。

[サイスコ]ほだされていると知りつつも

  • 2013/01/07 23:10
  • Posted by



表の顔と裏の顔、と言うものがある。
人前に出ている時に見せるものが表の顔、人のいない所などで覗く本性や、本音を漏らす時の様子を指して言うのが裏の顔。
それはどんな人間にも、多かれ少なかれ潜んでいるものだろう。

─────だが、こいつの裏の顔は酷い、と自分のベッドで滾々と眠る少年を見て、サイファーは思った。
平時が自立を象徴するかのように確りとしているだけに、落差がより一層酷いと思う。


「……おい、スコール」


眠る少年に声をかけた所で、返事がないのは判り切っている。
これが任務中であれば、サイファーがドアを開けた時点で覚醒しているのだろうが、今は休日。

指揮官と言う立場上、忙殺されているのが常である彼にとって、ようやく得られた久々の休日である事を思えば、こうしていつまでも惰眠を貪りたがるのも無理はないと言えよう。
サイファーとて、昨日まで目の下に隈を作りながら書類だの会議だの作戦立案だのに追われていた彼を見ていたのだから、安寧の時間を邪魔するのは非常に無粋である事は判っているつもりだ。
判っているのだが、サイファーはどうしても彼を起こさなければと思っていた。

スコールが眠っている場所は、サイファーの部屋のベッドだ。
彼は部屋主の事など露程も気にしていない様子で、すやすやと健やかな寝息を立てて眠っている。
それは別に良い、彼が何処で寝ようとサイファーは気にしない、例え此処が自分のテリトリーであるとしても、其処でスコールが日向の猫宜しく寝ているのはいつもの事だ。
だから、サイファーがスコールを起床させる事に拘っているのは、彼が陣取っている場所に問題があるからではない。

すぅ、とサイファーは息を吸い込んだ。
ベッドシーツの端を握って、せーの、と勢いよく掴んで上に乗っているスコールごと力任せに引っ手繰り、


「起きろテメェ!人に朝飯作らせといて、ぐーすか寝てるたぁどういう了見だコラ!」


怒声と同時に、どたん、と人が床に落ちる音。
言わずもがな、落ちたのはスコールだ。

サイファーがスコールを起こす事に執心していた理由は、ただ一つ。
昨夜の睦から押し流されるように眠りに付き、朝を迎え、先に起きたのは珍しくもスコールの方だった。
スコールはまだ眠っていたサイファーを揺り起し、寝惚け眼で舌足らずに「おなかすいた」と言った。
寝惚けている時にだけ見られる、子供返りしたスコールの言葉に、はいはいとサイファーは彼の頭を撫でて、朝食を作る為にベッドを出て、作っている間に顔を洗って着替えて置くようにとスコールに言い付けた。
その時スコールは、「……ん」と頷いて、ぼんやりとベッドの上に座り込んでおり、遠い記憶の幼い彼を思わせるその様子に、サイファーはこっそりと和んでさえいた。
……が、朝食の準備を終えて、出来たぞと呼びに来てみれば、スコールは主のいなくなったベッドの中で、布団に包まってすやすやと眠っていたのである。

本当は、サイファーとてもう少し眠っていたかったのだ。
指揮官であるスコールが多忙であるなら、補佐官であるサイファーも同様に多忙である。
二人の休みが重なる事など尚更貴重で、だからこそ昨日は睦み合った訳で、その末に、今日の午前はゆっくり惰眠を貪り、何某かの活動を始めるのなら午後からにしようと、サイファーはひっそり考えていたのだ。
それをスコールに話した訳ではなかったから、スコールに起こされた時は、仕方がないかと言う気分で起きる気になったのだが、


「おい!お前だけ寝てんじゃねえ、起きろ!」
「…………ぐー……」
「起きろっつーの!」


このままでは、折角作った朝食が冷めてしまう。
朝はあまり重いものが食べられない、しかし昨今のハードワークで栄養失調の気もあるスコールの為、色々と気を遣って作ったと言うのに。
せめてベッドの上に座って、起きていようとする努力をしていると言うならまだしも、見事に熟睡とは。

床に転げ落ちても、枕を抱いて眠り続けるスコールに、サイファーの米神に青筋が浮かぶ。
スコールの寝顔は、眉間の皺が取れていて、リノアの言葉を借りて言うなら「かわいい」訳で、サイファーも少なからずそれを気に入っている。
しかし、今ばかりはその愛らしい寝顔も、サイファーの苛立ちを助長させるものにしかならなかった。


「起きろ、ほら!朝飯だ!」
「……んぅ……要らない……」
「おめーが腹減ったっつったんだろうが」


ぎゅ、と頬を抓って言うサイファーに、スコールは嫌がるように頭を振る。
まだ寝惚けているのだろう、仕草が酷く幼い。
それも可愛らしくはあるのだが、やはり今のサイファーには苛立ちが増すばかりだ。

スコールの腕から枕を強引に奪って、強引に引っ張り起こす。
無理やり起こされたスコールは、取り上げられた枕を取り戻そうとするかのように、ふらふらと腕を彷徨わせた。


「起きろっつーの。顔洗って来いっ」
「うあ…」


立ち上がらせて背中を押すと、スコールはふらふらと歩き出した。
ごちん、と壁に体をぶつけながら洗面所に向かうスコールに、サイファーは深々と溜息を吐く。

スコールが寝汚い事は、幼馴染の間ではよく知られている事だ。
傭兵らしく、作戦中やガーデン生などの人目に着く所では、気配に敏感で、小さな物音でさえ睡眠を阻害されてしまう事があるスコールだが、気心の知れた者だけと一緒にいる時や、何事も警戒しなくて良いと安心しきっている時は、誰かに起こされない限り、中々自分で起きようとしない。
人一倍人目を気にする性格の所為か、限られた者にしか見せない無防備な姿は、見ていて微笑ましく思える事も多い。

だが、それも見る側が心穏やかでいる時の事。


「ったく……ンっとに手のかかる奴だぜ」


呟いた直後、がたーん!と言う物騒な音が洗面所から響いた。

いつもなら、その程度の物音を気にするサイファーではないのだが、こういう時はそうも行かない。
何をやらかした、と思いつつ、洗面所を除いて、サイファーはがっくりと項垂れた。


「何処をどうすりゃ、そうなるんだよ……」


スコールは、洗濯物の山に埋もれていた。
洗面台の横に設置している洗濯機の上に置いていた籠に入れていた洗濯物が、丸ごと引っ繰り返っているのである。
空っぽになった洗濯物が横倒しに転がっている様が、無性に虚しいものに見えた。

洗濯物に埋もれたスコールは、床に座り込んだまま動かない。
何処かぶつけたかとサイファーが覗き込んでみれば、またうとうとと舟を漕いでいた。


「オイ」
「………う、」


ぴしゃん、とサイファーがスコールの頭を叩く。
かくん、とスコールの頭が一度落ちたが、衝撃は覚醒を促す事には成功したらしい。
ぼんやりと霞む光を宿した青灰色が、サイファーを見上げる。


「サイファー……」
「顔洗ったのか」
「……ん」
「ちったぁ目ぇ覚めたか」
「……ん」


たどたどしい返事ばかりが繰り返されるのを聞いて、サイファーは溜息を吐く。
全然起きてねえ、と思ったが、何度怒鳴っても無駄であるのは判り切っているので、これ以上怒っても自分が疲れるだけだと言い聞かせ、スコールの手を引いて立ち上がらせる。


「リビング行って、先に食ってろ。腹減ってんだろ」
「洗濯物……」
「俺が片付ける」
「……ん」


こんな奴に片付けなんて任せたら、いつ終わるか。
寧ろ状況が悪化する、と決めつけて、サイファーはスコールを洗面所から追い出した。

まとめて片付ける方が良いと溜めていた洗濯物が、まさかこんなトラップになるとは思わなかった。
サイファーは床に散らばっていた洗濯物を掻き集めると、籠ではなく、洗濯機の中に投げ入れる。
ゆっくり休めるのはどうせ今日だけなのだから、洗濯物は今日の内に洗って干してしまおう。
幸い、外は晴れているし、天気予報でもバラム島は全域に渡って快晴となっている。
この機を逃せば、またいつ洗濯できるか判らないので、今日の内にやるべき事は全て済ませてしまうに限る。

洗濯機に洗剤を入れて、スタートボタンを押す。
回り出した洗濯機の音を聞きながら、すっきりとした洗面所を見て、これでよし、と一区切り。
やっと朝飯だとリビングに戻ったサイファーは、食卓の席についているスコールを見て、ぱちりと瞬きを一つ。


「……スコール」
「……ん」
「先食ってろっつったろ」
「……うん」


スコールは、食卓の席にはついているものの、食事を始めてはいなかった。
両腕でサイファーの枕を抱えて、うとうとと舟を漕いでいたばかりで、スプーンすら握っていない。

スコールは猫手で目を擦りながら、傍らに立って見下ろすサイファーを見上げ、


「朝ご飯、サイファーと食べようと思って」
「……」
「早く座れ。冷めるぞ」


いや、それはこっちの台詞だったのであって。
ついさっきまで、自分がスコールに言っていた言葉であって。
何を自分が待ってやっていたみたいな台詞をいけしゃあしゃあと。

─────と、思わないでもないのだが、


「う」


サイファーがぐしゃぐしゃと髪を掻き撫ぜてやれば、スコールは猫のように目を細める。
髪質の所為か、寝癖であちこちぴんぴんと跳ねた髪が、更にあちこちへ跳ねる。


「なんだ」
「なんでもねーよ」
「……意味不明だ…」


拗ねたように唇を尖らせるスコールに、サイファーはくつくつと喉で笑う。
それを見たスコールが、益々意味不明と首を傾げていたが、サイファーは何も教えるつもりはなかった。



なんだか、無性に気分が良い。
先程までの苛立ちは、さっさと忘れて、思い出さない事に決めた。
人間、気分の良い方にいるのが気持ちが良いものだ。

食事が終わったら、洗濯物を干して、スコールをバラムの街へ連れて行こう。
ジャンクショップにでも行けば、スコールの気を引く物が見つかるかも知れない。


卵焼きが甘くない、と言うスコールに、晩飯で作り直してやると約束して、サイファーはパンを齧った。





スコールの世話を焼いてるお兄ちゃん気質なサイファーが好きです。
色んな意味でサイファーには自分のことを隠さないスコールとか。

そんなまったりサイスコが書きたかった。
結果、何故かスコールが緩い子になってしまったw

[8親子]世界で一番幸せ者

  • 2013/01/07 22:38
  • Posted by

遅刻しましたがラグナパパ誕生日おめでとー!
息子娘がお祝いです。





誕生日と言うものを、いつまでも指折り数えていられると言うのは、きっととても幸福な事なのだろう。
20代、30代、40代、そして50代になった今でも、もういくつ寝ると誕生日、と年の瀬の歌に合わせて歌い出す父を見て、レオンとエルオーネはくすくすと笑いながら、そんな事を思った。
「プレゼント、楽しみにしてるぜ!」と満面の笑顔で言って、一つも卑しさが感じられないのが、父の良い所だ。

そして迎えた1月3日────何よりも今日を楽しみにしていたラグナは、うきうきとした気分で帰路を辿り、家の玄関を開けた。
「たっだいまー!」と元気よく響いた声の直後、弾けた音に、何事かと目を丸くして、


「ハッピーバースディ、父さん」
「おじさん、誕生日おめでとう!」
「…おめでと、」


赤、黄、青のクラッカーをそれぞれ手に、祝福の言葉を投げかける子供達。
それを見ただけで、ラグナは目頭が一気に熱くなるのを感じた。


「うぉおおお!レオン~、エル~、スコールぅうう~!!」
「きゃっ」
「!!」


3人を一度に抱き締めるラグナに、今度は娘と末息子が目を丸くする。
長男は父の行動に予想がついていたので、特に驚く事も抵抗する事もなく、父の温もりに身を預けた。

ぎゅうぎゅうと抱き締める父に、スコールが顔を顰める。
思春期真っ盛りで気難しい年齢のスコールにとって、父の過剰なスキンシップは受け入れ難いものなのだ。
しかし、今日は姉や兄から“父の誕生日だから”と言い含められている為、逃げ出そうとまではしない。
エルオーネは昔からラグナのスキンシップが好きだし、レオンも良い歳をしてと少し恥ずかしくは思うものの、昔からの事だから慣れたものだ。


「あー、俺生きてて良かったあ」
「なんだ、大袈裟だな。と言うより、まだ早いぞ、その台詞は」
「そうよ、おじさん。ほら、こんな所に立ってないで、リビングに行こう?」
「……息、出来ないから…そろそろ離してくれ」


エルオーネとスコールの言葉に、ラグナは渋々、子供達を抱き締めていた腕を解く。
ちぇ、と拗ねたように唇を尖らせるラグナに、エルオーネがその手を取ってこっちこっちと引っ張る。
スキンシップから解放されて、ほっと息を吐いているスコールを、レオンが手を引いてリビングへと促した。

リビングに入ったラグナは、おお、と目を見開いて感歎の声を漏らした。
リビングのテーブルには、いつも遅い帰宅を余儀なくされる父の為に夕食が用意してあるのだが、今日は並べられた全ての料理がラグナの好物になっていた。
メイン料理からサラダやスープまで、彩も盛り付けも綺麗で、食べてしまうのが勿体ない位だ。

きらきらと目を輝かせる父に、レオンとエルオーネが顔を見合わせて笑い合う。
それから、良かったな、と音なく兄が呟けば、弟が赤い顔でふいっと目を逸らした。


「どうする、父さん。風呂も沸いてるけど」
「先にお風呂に入る?スコールが背中流してくれるって」
「えっ、マジ?」
「エル!しないからな、そんなの!」
「え~」


判り易く残念がるラグナに、スコールはふんっとそっぽを向いてしまう。
スコールが冷たいよう、と父に抱き着かれたレオンは、慰めるように父の頭を撫でてやる。


「よしよし」
「レオン~」
「それで、風呂と夕飯、どっちにするんだ?」
「ん?うーん」


ぎゅうぎゅうと抱き締める父を好きにさせて問えば、ラグナは首を傾げて考えた。
うーんうーんと唸る父に、其処まで悩む事だろうか、と眉根を寄せたのはスコールだ。


「スコールと一緒にお風呂も捨て難いけど、」
「入らない!」
「皆はもう晩飯食べちゃったのか?」
「いいや」
「おじさんが帰って来てから、皆で食べようと思って」


威嚇するように目尻を吊り上げるスコールを宥めながら、レオンとエルオーネが答える。
二人の言葉に、またラグナの目頭が熱くなった。
ラグナはじわじわと浮かんで来る涙をそれをごしごしと拭い、


「よし、じゃあ先に飯にしよう!3人ともお腹ぺこぺこだろ、こんな遅くまでありがとな~!」
「大袈裟だな」
「でもお腹減ったよ~」
「だろだろ。さ、食べようぜ!スコールも座って座って」
「判ったから押すな!」


ラグナがスコールの背を押して、定位置の椅子に座らせる。
その隣にラグナが座ったのを見て、スコールの前にエルオーネを座るように促し、自身はラグナと向かい合って座る。

拗ねた表情をしているスコールに、エルオーネが笑いかけた。
ちら、とそれを見た青灰色が、仕方ないから、と言いたげな空気を滲ませて伏せられる。
くすくすと笑うレオンとエルオーネ、拗ねた表情のスコールを見渡して、ラグナは嬉しそうににこにこと頬を緩ませ、


「はいっ、手を合わせて!頂きまーす!」
「頂きます」


ラグナの号令に合わせて、レオン、エルオーネ、スコールも言葉を繰り返す。

4人揃って食事をするのは、随分と久しぶりの事だった。
高校生のスコールと、大学生のエルオーネは規則正しい生活をしている為、午後6時か、遅くても7時には夕飯を食べる。
レオンは日によって仕事が終わる時間が違うが、早く帰れる日には、必ず妹弟と一緒に食事をするようにしている。
しかし、ラグナだけは遅くなってしまう為、息子達がそろそろ眠ろうかと言う時間にならなければ帰る事すら出来ていなかった。
酒を飲むレオンと語らいながら遅い夕食をする事はあるけれど、娘や末息子と過ごす時間が減っている事は────仕方のない事ではあるけれど────、ラグナにとってとても寂しい事だった。

それを思うだけで、無性に涙が出そうになるのを堪えながら、ラグナはスプーンを手に取った。
どれから食べよう、と目移りしたラグナだが、先ずは手前にあるものから、と自分の下に置かれたオムライスを見て、ぱちりと瞬きを一つ。


「あ、それね、私が書いたの」
「オムライスを作ったのは、スコールだな」
「言わなくて良い…!」


鮮やかな黄色のオムライスには、ケチャップで『おめでとう』の文字。
ラグナが隣に座る末息子を見れば、彼は明後日の方向を向いていた。
しかし、母譲りのダークブラウンの髪から覗く丸い耳は、これでもかと言う程真っ赤になっていて、


「スコールぅうう!」
「うわっ!」
「あ」
「危ない!」


顔を背けていたが為に、無防備になっていたスコールは、抱き着いて来た父に押されて、椅子から転がり落ちた。
レオンとエルオーネが思わず声を上げたが、遅い。

どたたた、と穏やかではない音がする。
兄姉が慌てて椅子を立ってテーブルの反対側に回り込むと、カーペットの上に座り込んだ弟と、弟に抱き着いて離れない父の姿。


「ありがとな、ありがとな!」
「べ、別に…!夕飯くらい、いつも作ってるから、今更…」
「うん、そうだけど。いっつも美味いもの作ってくれるもんな。でもやっぱり嬉しいんだよ~!」
「……う、な、泣くな!判ったから、頼むから夕飯ぐらいで泣くな!」


顔をくしゃくしゃにして喜ぶ父に、スコールは顔を真っ赤にして叫んだ。

取り敢えず、二人とも怪我はないらしい。
それなら良かったと、レオンはラグナを抱え起こして、スコールから離させた。


「ほら、父さん。早く食べないと、スコールが作ったご飯が冷めるぞ」
「え。ひょっとしてこれ、全部スコールが作ってくれたのか?」
「……エルも作った」
「でも、殆どスコールがやってくれたんだよ。プレゼント用意できなかったから、ご飯は作ってあげたいって言って」
「エル!」


なんで言うんだ、と慌てて姉の口を塞ぐスコールだったが、既に遅い。
ちら、と父を伺い見れば、エメラルドグリーンにじわじわと大粒の涙が浮かんでいて、スコールはぎょっとした。


「だ、だから、泣くなって……」
「だってよぉおおお~!」
「よしよし。ほら、父さん、ちゃんと席に着いて」
「スコールも座って。おじさんの隣ね」


おいおいと泣くラグナの隣に座らせたスコールが、変わって欲しい、と言う目でエルオーネを見詰めたが、エルオーネは素知らぬ振りで自分の席に戻った。
その隣にレオンも座ったので、スコールは眉根を寄せて俯く。
眉尻が吊り上がっている所為で、怒っているようにも見える表情だったが、恥ずかしがっているだけだと言う事は、赤くなった頬や耳を見れば直ぐに判る事だ。


「全部!全部食べるからな、スコール!」
「……腹壊さないようにしてくれ」
「平気平気。おっ、ポテトサラダ美味い!スープも!」
「あ、このナゲットはね、私が作ったの」
「うん、美味い美味い!」
「父さん、さっきからそれしか言ってないぞ」
「だって本当に美味いんだよ~」


今日は息子達が、自分の為に夕飯を作ってくれたのだ。
それも、ラグナの好きな物ばかりを。
そんな息子達の気持ちだけでも、ラグナには食卓に並んだ全ての料理が美味しくて堪らなく思えてくる。
実際に食べてみれば、これまた頬が落ちそうな程に美味しくて、いつもは薄味に作られている料理も、今日ばかりはラグナの味覚好みに味付けがされている。

涙を浮かべながら、家族と囲んで食べる夕飯の美味しさを、ラグナはひしひしと噛み締めていた。
仕様がないなと見詰める長男、くすくすと楽しそうに笑う娘、恥ずかしがり屋だけれど優しい末息子、────そして窓辺には、優しく笑う妻の写真。


「ご飯食べ終わったら、プレゼントもあるからね」
「おおっ、なんだなんだ?」
「まだ内緒ー」
「え~、なんだよぅ、教えてくれよぉ」
「開けるまでのお楽しみだ」
「…………」
「スコールからのプレゼントは、ご飯と、ケーキね」
「スコール、ケーキも作ったのか?」
「……暇だったから」
「ティーダ達から遊ぼうってメールを断ってたな」
「…レオン…!」


だからなんで言うんだ、と睨む弟に、兄も姉も微笑んで見せるだけ。
隣からひしひしと伝わる熱い視線に、スコールは知らない振りを決め込んだ。

ずぴっ、と鼻を啜るラグナに、レオンとエルオーネが耐え切れずに笑い出した。
酷い顔、と言う二人に、だってよぅ、とラグナは言う。
そんな父の顔を、スコールはこっそりと伺い見て、こっそりと笑みを漏らすのだった。





皆でパパのお祝いです。
遅刻したけど、ラグナ誕生日おめでとう!

うちのラグナは感動屋らしい。子供たち皆可愛いくて仕方ない。

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