[ウォルスコ]抱き締めて眠る
ウォーリアは、仰向けで眠る。
自分でそうと判っている訳ではないが、セシルから「寝ている時も姿勢が良いんだね」と言われ、ティーダも「ウォルって寝返り打たないんスか?」と言われた。
誰かと共に探索や斥候に向かった時、不寝番をしていたメンバーからは、「寝てから起きるまで殆ど同じ格好」であるらしい。
ティーダが疑問に思っていたように、寝返りを全く打っていないと言う訳ではなかったが、姿勢の変化も概ね数パターンで行われているらしく、豪快に布団を蹴飛ばすようなティーダやジタン、大の字で眠るバッツのようにはならないそうだ。
スコールは、そんなウォーリアと正反対だった。
スコールは、丸くなって眠る癖がある。
ウォーリア・オブ・ライトがその事に気付いたのは、彼と褥を共にするようになってから、暫くの事だった。
まるで、寒さに耐えて蹲る猫のように、彼は丸くなって眠る。
枕があるとそれを抱き締めている事もあり、其処に顔を埋めて、寝返りも打たずに眠っている。
時折、もぞもぞと動いて身動ぎする事もあるが、そう言う時は、大抵、眉間に深い皺を刻んでおり、安らかな夢を見ているとは到底考え難い。
寒いのだろうかと思い、布団を肩まで引き上げてやるウォーリアであったが、スコールはそれでも丸まっていた。
枕に顔を埋めたり、世界から隠れようとするかのように縮こまる彼を見る度、寝苦しくはないのだろうかとウォーリアは思う。
その姿勢が一番楽で、その姿勢で眠っているのだろうから、ウォーリアのこの思考は杞憂であるとは思うのだが、眉間に皺を刻んで眠る彼を見ていると、やはり何か辛いのではないかと思ってしまう。
―――――と言った事を、ウォーリアは、セシルとクラウドとの酒宴の席で打ち明けた。
心なしか、寂しげに目元を伏せて語るウォーリアに、セシルとクラウドはじっと黙って耳を傾けた後、
『丸くなって眠るとか、何かに抱き着いて寝るとか。甘えたがっているという意味があったような気がするな』
とクラウドが言い、
『僕らはそういうスコールを見たことがないけど。ウォルと一緒に寝ている時にだけ、枕に抱き着いて寝たりしてるのなら、その時にだけ甘えられる何かを探しているのかも知れないね』
とセシルが言った。
甘えられる“何か”とは“何”なのか、ウォーリアは尋ねてみたが、彼らは教えてはくれなかった。
ただ、微かな笑みを浮かべてじっと此方を見ていただけで、その意味もウォーリアにはよく判らなかった。
結局、はっきりとした解決の糸口がないまま、その日の酒宴はお開きとなり、ウォーリアも眠りについた。
……それが、今から一週間前の夜のこと。
ウォーリアは、スコールと夜を共に過ごした。
いつものようにウォーリアは斥候と探索へ、スコールはバッツとジタンに引き摺られてイミテーション退治とお宝探しへ行った日の事で、特別に変わった事はない。
部屋はウォーリアの自室で、日付が変わる頃に、スコールの方がやって来た。
と言っても、彼はじっと部屋の前で佇んでいていて、気配だけが室内のウォーリアにひしひしと伝わってくるばかりで、来ていると判っているのに入ってこないスコールに焦れ、ウォーリアの方がドアを開けて、彼を部屋に招き入れた。
顔を赤らめ、疲れているのに悪い、と言うスコールの言葉を聞いて、彼の気遣いを感じたウォーリアは、一日の疲れの癒しを求めてスコールを抱き締めた。
それからしばらくは、何をするでもなくただ抱き締めあっていたのだが、スコールの「……しない、のか?」と言う言葉に応える形で、ウォーリアは彼を抱いた。
何度抱いても、スコールの反応は初々しさが抜けない。
真っ赤になって「嫌だ」と首を横に振るが、ウォーリアが離れようとすると、嫌がって引き留める。
声にならない求める言葉を、一体何度聞いただろうか。
そうして存分に熱を共有した後、充足感と気だるさに流されるように、スコールは意識を手放し、ウォーリアも眠りについた。
――――――が。
ふっとウォーリアの意識が浮上した。
寝起きとは思えないほどにクリアな思考と視界の中で、ウォーリアは隣で蹲っているスコールを見付けた。
(……震えている?)
ベッドシーツを掻き抱くようにして、丸くなっているスコール。
ウォーリアは、その細い肩が微かに震えているのを見付けて、微かに眉根を寄せた。
(寒いのか)
裸身で眠れば、布団を被っていても、寒いかも知れない。
ウォーリアは特に肌寒さは感じなかったが、スコールは全体的に脂肪も筋肉もない方なので、ウォーリアよりも寒さには弱いようだった。
布団をかけ直してやると、ぴく、とスコールの体が小さく跳ねた。
気配に敏感なスコールの気質を思い出し、起こしてしまったかと思ったウォーリアだったが、青灰色は瞼の裏に隠れたままだ。
目覚める様子がない事にウォーリアがホッとしていると、スコールはもぞもぞと身動ぎし、頭の下にあった枕を掴むと、引き寄せて抱き締め、顔を埋めて丸くなった。
(……甘えられる、何かを)
一週間前に聞いた、セシルの言葉を思い出した。
(……私では、駄目なのだろうか)
ぎゅう、としがみつくように抱き締められている、スコールの枕。
それは本来ならウォーリアが使う筈だったものなのだが、スコールがこの部屋で眠る時は、いつも彼が使っている。
だからその枕には、ウォーリアの気配が強く残っていた。
ウォーリアは、スコールの腕に抱き締められた枕を、そっと取り上げた。
想像していたような抵抗のようなものはなく、あっさりと腕から抜けたそれを、自分の後ろに隠す。
「……う、ん……」
もぞ、とスコールが寝返りを打った。
俯せにになったスコールの顔を覗き込めば、何かに耐えるように、眉間に皺が刻まれている。
ウォーリアは徐に腕を伸ばして、スコールの細い肢体を抱き寄せた。
「……んっ……」
固く引き結ばれた唇に、己のそれを押し付ける。
意識のないスコールが、ウォーリアからのキスに応えてくれる事はなかった。
しかし、心なしか、縮こまって強張っていたスコールの体から、ゆっくりと力が抜けて行くような気がする。
噤まれていた唇も、ウォーリアの熱を受け取るように、薄らと開かれた。
「ふ…ぅ……?」
ふる、と長い睫が震えて、瞼が持ち上がる。
ぼんやりとした青灰色が、ウォーリアを間近で捉え、
「……うぉる……?」
「………」
「………ん……」
舌足らずに名を呼ぶスコールを抱き寄せ、濃茶色の髪を撫でれば、微かにスコールの目元が緩んだ。
細い腕がウォーリアの首に回されて、ぎゅ、と身を寄せられる。
甘えているようだな、と思って、ウォーリアは小さく笑みを浮かべた。
「うぉる……」
ほっと、安堵したような声。
まるで安心できるものを見付けたような。
すぅ、すぅ、と小さな寝息が聞こえてくる。
その音に、良かった、と小さく笑みを漏らして、ウォーリアは目を閉じた。
1月8日でウォルスコ!
甘えたいけど、プライドと、そんな事して嫌われないか飽きられないかって思って、寝てる時まで甘えられないスコールでした。