[犬59&猫8]いっしょにあそぼ! 2
ジタンとバッツはしばらくの間、スコールの名前を呼びながら、ぐるぐると櫓の周りを歩き回っていた。
遊ぼうぜ、寝てるだけなんてつまんないぞ、ボール遊びしよう、綱引きしよう、とキャンキャンと小型犬らしい鳴き声が響く。
スコールの三角の耳がぴくぴくと反応したが、起きてやるもんか、と意地になったようにスコールは動かない。
ジタンとバッツは、櫓の一段目の低い台に前足を乗せて、スコール、スコール、と猫を呼ぶ。
頑として反応しないスコールの様子に、しばらくするとジタンとバッツも諦めた。
再び遊び始めた二匹は、キャンキャンと声を上げて、押し合ったり転がったりと賑やかだ。
バッツがボールを咥えて走り、ジタンがそれを追い駆けて、後ろから飛び付くと、驚いたバッツの口からボールが転げ落ちる。
直ぐにジタンがボールに飛び付こうとすると、押し退けるようにバッツがボールを咥えて逃げた。
「オレにも遊ばせろよ!」
「へっへっへ。欲しかったら盗んでみろよ」
「言ったな。絶対に取ってやるから、死ぬ気で逃げろよ!」
ぶんぶんと尻尾を振ったジタンが、強く地面を蹴って、逃げるバッツを猛追する。
迫るジタンを見返りながら走っていたバッツが、前方不注意でクッションの山に突っ込んだ。
詰まれていたクッションがどどどっと落ちて来て、二匹はすっかり埋もれてしまう。
もぞもぞとクッションの山の一角が動いて、ぴょこり、と二匹が頭を出した。
「何やってんだよ、バッツ」
「あっはっは。失敗失敗」
クッションの上に身体を持ち上げた二匹は、ぶるぶると大きく体を震わせる
「あー、ボール何処行ったかな」
「落としたのか?」
「多分。埋まっちまったかなー」
「おいおい。貰ったばっかりなのに、もう失くすなよ。んーと……」
ジタンがくんくんと鼻を鳴らしながら、クッションの下に埋もれているであろうボールを探し始める。
バッツも一緒にクッションの上を歩き回り、何処かにある筈のボールを探す。
ボールは真新しいので、まだこの部屋のものではない匂いがする。
だから見付けるのはそれ程難しくはない筈だ、と二人はクッションの山に頭を突っ込んで、根気良く探していた。
────が、二匹の努力の傍らで、ボールはクッションの山裾からころころと転げ出していた。
クッション山を掘り返す事に夢中になっている二匹は、その事に気付いていない。
こっちか?こっちか?と二匹でクッション下に潜り込んで動き回る様子を、スコールが櫓の上から見下ろしていた。
(……何やってるんだ?)
睡魔の妨げとなっていた賑やかさが落ち付いて、これで眠れる、と思っていたのは、ほんの少しの間だけ。
打って変わって静かになった室内に、俄かに落ち着かなくなってきて、スコールは寝るのを止めた。
さて静かになった二匹は何をしているのか、と思って見下ろすと、ご覧の様。
櫓の上にいるスコールからは、部屋の様子や、ジタンとバッツの動きがよく見える。
二匹がボールを探してクッションに顔を突っ込んでいるのも判ったし、クッション山の傍できらきらしたボールが転がっているのも見えた。
ボール探しと言う名目でクッション遊びをしているのだろうか、とも思ったが、二匹は真剣にボールを探しているらしい。
やれやれ、とスコールは嘆息して、ひょい、と櫓から飛び降りた。
「あんた達、いつまでそうしてるんだ」
「おっ、スコール」
「ボールが見付からないんだよ。スコールも一緒に探してくれよ」
下りて来たスコールを見付けて、ジタンの尻尾がぱたぱたと振れる。
その傍らで、バッツがクッションに頭を突っ込みながら言った。
スコールは足下に転がって来たきらきらのボールを、前足で捉まえる。
「あんた達が探してるボールって、これじゃないのか」
「へっ」
「えっ」
二匹がぱっと振り返る。
空色と褐色がスコールを見て、その足下を見て、
「おお!流石スコール!」
「スコールすげー!」
「あんた達が鈍いだけだろう……」
前足でちょんちょんとボールを突いて、スコールは溜息交じりに言った。
クッション山を乗り越えて来る二匹に向かって、スコールはボールを転がした。
が、二匹はボールを飛び越えて、スコールへと突進する。
「スコール!」
「ボール遊びしようぜ!」
「!!」
フギャッ!?とスコールの驚いた声が漏れた後、どたんばたんと賑やかな音。
引っ繰り返ったスコールを、ジタンとバッツが上から覆い被さるように重なって、二匹はハッハッと嬉しそうに尻尾を振ってスコールの顔を舐める。
「また、あんた達っ……!」
「遊ぼうぜー」
「昼寝ばっかりすんなよ、構えよー」
二匹に顔を余すところなく舐められて、スコールの眉間に皺が寄る。
フギャアッ!とスコールの威嚇の声。
びくっとジタンとバッツが固まった瞬間に、スコールは素早く二匹の下から逃げて、櫓へ飛び乗る。
我に返った二匹は直ぐにスコールを追おうとしたが、櫓の三段目に逃げたスコールの下へは、犬であるジタンとバッツが頑張っても先ず届かない。
スコール、スコール、と二匹の呼ぶ声。
スコールはむすっと眉間に皺を浮かべて、足下にいる二匹を見下ろした。
「悪かったって。怒るなよ」
「怒ってない」
「じゃあ遊ぼうぜ」
「遊ばない」
「なんでだよー」
「なんでもだ。遊びたいなら、あんた達だけで遊んでれば良いだろ」
俺は遊ばない、ときっぱりと言い切るスコールに、二匹は心なしか寂しそうな表情を浮かべる。
「それじゃスコールが仲間外れになっちゃうじゃんか」
「そんなの寂しいだろ。だから一緒に遊ぼうぜ」
────仲間外れも何も、スコールは猫で、ジタンとバッツは犬だから、最初から仲間ではない。
同じ人間に拾われて、同じ場所で生活してはいるけれど、それだけだ。
猫は犬になれないし、犬は猫になれないから、仲間になんてなれない。
ぷい、とスコールはそっぽを向いた。
そんなスコールに、ジタンとバッツは顔を見合わせ、仕方ないかぁ……とスコールを呼ぶのを止める。
ころころと転がったボールが、ジタンと足にこつんと当たった。
かぷっとジタンがボールを咥えて持ち上げると、よし、遊ぼう、とバッツが言った。
二匹の尻尾が楽しそうに振られ、ぱたぱたと駆け回る二匹の足音が聞こえる。
櫓の上でそれを聞いていたスコールは、徐に視線を落としてみた。
転がるボールを前足で突き合って遊び、楽しそうに尻尾を振る二匹の姿が見える。
「………」
スコールはゆっくりと櫓を下りた。
すとり、すとり、としなやかな動きで下りて行くスコールは、決して足音を立てない。
床まで降りると、スコールはその場に伏せた。
キトゥン・ブルーの視線の先には、ぱたぱたと左右に触れるバッツの尻尾がある。
その向こうには遠目にジタンの尻尾もあり、バッツとシンクロするように尻尾を左右に振っている。
そぉっと前足を伸ばす。
ぱたぱたと振れる尻尾を追うように、スコールの前足がぴょこぴょこと手招きするように動いた。
丸めた爪先が、ふさふさとした尻尾に触れては離れ、また追い駆けるようにスコールは手招きする。
うずうず、うずうずとした表情で、スコールは静かにバッツの尻尾と戯れる。
────ぴたっ、とバッツの尻尾の動きが止まる。
むっ、とスコールが不満げに眉間に皺を浮かせると、尻尾が遠退いて、バッツの貌が間近にあった。
「…………」
文字通り、目を丸くして固まるスコール。
爛々と輝く褐色の向こうで、空色が楽しそうに笑っている。
「スコールー!」
「遊ぼうぜー!」
二匹が一緒に飛び掛かって来て、スコールの尻尾が爆発した。
飛び退いてクッションの山に逃げたスコールは、勢い余ってバランスを崩し、クッションの中に埋もれる。
其処へジタンとバッツも飛び込んだ。
かちゃり、とドアの開く音がする。
入って来た銀髪の青年────フリオニールは、クッションの隙間から覗く三本の尻尾を見て、くすりと笑った。
今日も我が家の猫と犬達は、仲良くやっているようだ。
ペットショップでポメラニアンとビーグルとスコティッシュフォールドが仲良く遊んでいたので。
大体こんな感じで、わんこ二匹がじゃれあい続け、にゃんこが時々加わっては逃げての繰り返しでした。
猫
かわええ。