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2013年10月31日

[レオスコ]誰も知らないスピンオフ

  • 2013/10/31 21:54
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俳優レオンと、高校生スコールの兄弟で、ハロウィンレオスコ。






舞台演劇で用意された衣装は、配役主が持ち返り────買取する事が可能な場合がある。
有名デザイナーが舞台の為に特別に誂たものや、コーディネートされたものも多く、劇の内容によっては日常生活で着られる衣装もある。
いやらしい話もするなら、誰々が使用した衣装、と言う謳い文句と共に、ファンやマニアに向けて人知れずオークションに提出される事もあった。

レオンも時折、舞台やドラマで使用した衣装を買い取って帰って来る。
それは大抵、日常生活で普通に着る事が出来るものなのだが、偶に奇抜なものを持って帰って来る事があった。

今日、学校を終え、家に帰ったスコールが見付けたのが、正にそれ。


「……なんだ、これ」


リビングのソファに綺麗に畳まれていたものを見付けて、スコールは眉根を寄せた。

手触りの良い黒い服が綺麗に畳まれており、それだけなら特に可笑しい所はないのだが、襟の作りや、裏地が目が覚める程に真っ赤である事が、スコールの目を引いた。
立て襟なんて今時流行らない形の服だが、衿には板紙でも縫い込んであるのか、立たせる事が前提となっているようだ。
合わせられた襟元には、金色の金属プレートが嵌められているのだが、どうにもプレートの光り方が安物っぽい。
その原因は、光の反射を抑えるようにコーティングされているからなのだが、素人のスコールにはそんな事は判らなかった。

今朝までは家になかった奇抜な服が、何故此処に在るのか。
スコールが思案するように立ち尽くしていると、リビングと寝室を繋ぐ扉が開く。


「お帰り、スコール」
「……ただいま。これ、レオンのか?」


帰宅の挨拶をそれぞれ交わした後、スコールはソファに置かれた布を指差して訊ねた。
レオンは示された物をちらりと見遣ると、ああ、と頷く。


「今日までやっていた舞台の衣装だ」
「…どんな衣装なんだ?」


レオンの今回の舞台公演を、スコールは一度も見に行く事が出来なかった。
平日の公演は学校があるから当然行けないし、加えて期末試験が近かったので、外に遊びに行く時間も取れなかった。
今回はいつものようにスコールがレオンの大本読みに付き合う時間も作れなかった為、スコールはレオンの舞台内容すらも知らない。

百聞は一見にしかずとでも言うのか、レオンは徐に黒布を手に取ると、広げて見せた。
表は黒一色、裏は赤一色で、縦衿と言う特徴的な形のそれは、どうやら羽織りマントとして着用するものらしい。
その色合いと形、マントと言う点から見て、スコールはひょっとして、とマントを見詰め、


「……ドラキュラ?」
「ああ。今回の舞台は、吸血鬼を主役にしたものだったんだ」
「…で、その衣装を、なんでわざわざ買取なんかして来たんだ?」


レオンの説明には納得したが、マントなんてものは、買い取っても早々着る機会には恵まれまい。
せめて、マントの下に着ていたのだろう、ブラックスーツなら────と思ったスコールだったが、広げたそれが燕尾服であり、ブラウスにもフリルがふんだんにあしらわれているのを見て、これもないな、と思う。
西欧諸国ならばともかく、少なくともこの国では、日常で着用される服ではないだろう。

洋服ダンスには空きがあるので、収納云々の問題は気にしていないが、タンスの肥やしになるのは先ず間違いない。
レオンもそれが判らない訳ではないだろうに、と胡乱な目を向けるスコールだったが、レオンはそれを気にする事なく、衣装を一つ一つ広げている。


「特に理由はないんだがな。強いて言うなら────ほら、今日はハロウィンだろう?」
「……ああ」


ソファに座ったスコールの前で、徐に着替えを始めながら言ったレオンに、そう言えばそんな日もあったか、とスコールは気もそぞろに頷いた。

ハロウィンと言えば、真っ先に浮かぶモチーフは南瓜だ。
しかし、ハロウィン用の飾り付けには、南瓜の周りを飛び交う幽霊や、蝙蝠の姿も見られる。


「ハロウィン…だから、吸血鬼の衣装を持って帰ったのか?」
「そんな所だな」


弟の言葉に頷いて、レオンはシャツを脱いでブラウスに袖を通した。
その上に黒のマントを羽織れば、フィクションによくよく見られる、如何にも“吸血鬼”と言った様相が出来上がる。


「どうだ?」
「…うん」
「うん?」
「……吸血鬼、っぽい」
「そうか」


ハロウィンなんてものではしゃぐような性格でもないだろうに。
レオンが脱いだシャツを拾い、畳みながら、スコールは呆れたように小さく吐息を漏らす。
公演が無事に終わって、傍目には判り難いが、以外とテンションが上がっているのかも知れない。
なんだか妙に楽しそうに見える兄に、今日ばかりは水を差す事もあるまいと、スコールはこれ以上気にする事は止めた────が。

衣擦れの音がして、スコールの顎を形の良い指が捉えた。
くん、と顎が上向いて、蒼と濃茶色がスコールの視界を埋める。


「スコール、─────Trick or Treat?」
「………え?」


囁くように聞こえた声に、スコールはぱちり、と瞬きを一つ。
常の感情を殺した大人びた表情は何処へやら、きょとんとした顔で見上げて来る弟に、レオンの唇が緩く弧を描く。

柔らかなものが、スコールの頬に触れた。
一瞬だけのそれが離れると、今度は温かな手が同じ場所を撫でて、横髪を透いて耳元を指先が辿る。
レオンの唇が、スコールの耳に近付いた。


「悪戯か、お菓子か。どっちだ?スコール」
「……っ!」


吐息がかかる程の距離で、よく通る低い声が囁く。
途端、ぞくん、としたもの背中を奔るのを感じて、スコールは咄嗟に目の前の男を押し退けようとした。

が、押した身体はびくともせず、逆にスコールを腕の中へと閉じ込める。


「レオっ……!」
「どっちだ?」


繰り返し囁きながら、レオンの唇がスコールの耳に触れる。
かふ、と柔らかく耳朶を噛まれて、スコールは息を飲んだ。

身を固くしたままのスコールの耳を、ゆっくりと、生暖かいものがなぞる。
レオンの舌だ。
ぴちゃ、と小さな音が耳元で鳴って、スコールの躯がふるりと震えた。


「れ、おん……やっ……!」
「お菓子は────持ってない、か」


レオンの手がスコールの首筋を撫で、背筋を下りて、腰を抱く。
更に手は下りて行き、スラックスの尻ポケットを探るように臀部を彷徨った。

カッターシャツの裾が持ち上げられて、レオンの手が滑り込み、スコールの柔肌をくすぐる。
唇を噛んで肩を震わせるスコールを眺めながら、レオンは耳朶を食んでいた歯を離し、スコールの輪郭を辿って、首筋へ。
薄く開いたスコールの視界に、濃茶色の髪と、赤い裏地の襟が見えて、────一瞬だけ、レオンの耳が尖ったような錯覚を抱く。

スコールの首に、柔らかく、優しく、歯が立てられる。


「あっ…あぁっ……」


ちゅ、ちゅぅ、と吸い付かれて、スコールの肩がビクビクと跳ねる。
微かに皮膚に食い込むように喉を噛まれて、スコールは喉を反らして唇を震わせた。

つ……と濡れた舌先がスコールの喉仏を這って、離れる。
震えていたスコールの躯から力が抜けて、レオンの腕に抱き寄せられた。
スコールがぼんやりと瞼を持ち上げると、間近で真っ直ぐに見下ろしてくる、青灰色の瞳がある。


「レ、オ、ン……」


至近距離で見詰める蒼灰色の瞳の中で、蕩けた表情をしている自分がいる。
歯を立てられた喉が、耳が、異常な程の熱を持って、じくじくとした感覚を生み出している。
心なしか尖ったように見える瞳孔に見つめられていると、まるで誘惑か幻惑の魔法でも施されたかのように、思考が麻痺して行く。

レオンの手がスコールの後頭部を撫でて、指先で柔らかな髪の毛先を弄ぶ。
くすくす、くすくす、と笑う男の気配に、スコールも何処か楽しい気分になって来て、逆らう意志も融解して行く。

吸血鬼に噛まれた者は、どうなるのだったか。
不老不死になるとか、同じように吸血鬼になるとか、隷属するとか、フィクションでは色々と設定があった気がするが、目の前の吸血鬼の場合はどうだろう。
男の指が肌を滑る度、彼の唇が掠めるように触れる度、ぞくぞくとしたものが背中を奔るのは、これも彼に噛まれた所為なのか。
だとしたら、酷く性質の悪い吸血鬼だ────と思いながらも、ふわふわとした心地の良さは拒めない。

スコール、と呼ぶ声がして、蒼の瞳が交じり合う。


「お菓子がないなら、悪戯するぞ?」


良いな、と問い掛けと言うよりは、決定事項のように告げられて、スコールの唇が震える。
レオンのマントを掴んでいた手が、知らず知らずの内に震えていた。

唇が重ねられて、呼吸が出来なくなる。
咥内をゆっくりとまさぐられる感覚に、スコールの肩が小さく跳ねて、マントを握り締めていた手から力が抜けた。
傾いた躯をソファが受け止めて、カッターシャツの前が開かれる。




もう一度、首に歯が当てられる。

同じ場所からじん…としたものが沸き上がるのを感じて、スコールは目を閉じた。





正統派で演技派な売れっ子俳優レオンのハロウィンでした。
スコールはレオンの演技と雰囲気とオーラにすっかり飲み込まれてしまえば良い。

[589]Trick and treat!

  • 2013/10/31 21:37
  • Posted by


「Trick!」
「「And!」」
「Treatーーーー!」


帰還するなり、二つの声が重なって突進してきた。

悪意や敵意を一切感じさせないそれが誰の物なのか、最早考えなくても判る。
この声の持主達に対して、特に警戒する必要がない事も判っているが、それ以上に、彼等が何を考えて、何を意図しているのかは、未だに理解できずにいる。
その所為か、認識から理解、理解から把握、把握から行動と言う理屈に則った行動を取ろうとする体は、認識から理解・把握の段階で手順を頓挫させてしまい、行動するに至らないのが常だ。
早い話が、飛び掛かる影に対する反応が遅れ、硬直している間に、襲撃完了に至ると言う事だ。

どたんばたんと賑やかな音が玄関に響き、なんだどうした、とフリオニールとティーダがリビングから顔を出す。
が、玄関口に倒れている面々を見付けると、ああいつもの事か、とまたリビングに戻って行く。
頼むからこいつらを回収してから引っ込んでくれ、とスコールは思うのだが、そんな彼の胸中に気付いてくれる人物は、今の所、いない。


「おーい、スコールー」
「Trick and treat!」
「……取り敢えず、其処を退け」


腹の上に乗っている二人────ジタンとバッツを睨んでやれば、二人はいそいそと退いた。
起き上がったスコールは、じんじんと痛む背中に顔を顰める。
無傷で帰還した筈なのに、自陣の拠点で負傷すると言うのは、一体どういう事なのだろう。
いつもの事と言われればそれまでだが。

スコールは溜息を吐いて、目の前に座る二人を胡乱な目で見る。


「なんだ、Trick and treatって」
「ん?スコールの世界には、ハロウィンはないのか?」
「…それは、ある」


質問に質問で返された事に眉根を寄せつつ、スコールは端的に答える。

ハロウィンと言うものは、スコールの世界では余り一般的ではなかったが、賑やかし事好きのバラムガーデンでは、何かと理由をつけては行事を行っているので、これも食い付いていた気がする。
スコールは余りその光景を明確に覚えていないが、菓子を配り歩く者がいたり、菓子を貰えないと悪戯を仕掛けられたり、と言う生徒の姿が其処此処にあった。
菓子を渡せなければ悪戯をされる────恐らく、そう言う祭りなのだろう。
その時、よく飛び交っていた言葉も、スコールは覚えていた。

その覚えていた言葉が、スコールの記憶にあるものと、二人が口走っているものとで、微妙に違う。


「…“Trick or treat”じゃないのか?」
「ああ、そうとも言うな」
「ティーダがそれでクラウド達にねだってたな」


けろりとした表情で二人に返されて、スコールは眉根を寄せる。


(こいつらの世界では、そう言うのか?)


それぞれ違う世界から召喚された仲間達から聞く各世界の話は、全く違うかと思えば、そうではない。
重なる所、似て非なる所と様々で、似ているし同じ物を指すけれど、微妙にそれを指す言葉が違うと言う事も少なくなかった。
今回も、それに当て嵌まるのだろうか。

やれやれ、と溜息吐きながら、スコールはジャケットの内ポケットに手を入れた。
ごそごそとポケットを探るスコールを見て、おお?おおお?とバッツとジタンの目が意外そうに、且つ期待を込めてきらきらと輝く。


「……これしかない」


そう言ってスコールが取り出したのは、二つの小さな飴玉。
非常食と息抜きにと携帯していたものだった。

まさかスコールが菓子類を持ち歩いているとは思っていなかったのだろう、バッツとジタンは丸くした目で、スコールの手の中の飴をまじまじと見詰める。


「飴だ」
「スコールが飴持ってた」
「…悪いか」


如何にも驚いたと言う表情をする二人に、スコールは眉間の皺を深くする。

いつまでも眺めているだけで、飴を受け取ろうとしない二人に焦れて、スコールは飴を持った手を引っ込めようとした。
が、一足早くそれに気付いた二人が、がしっ!とスコールの手を掴み、それぞれの飴を浚う。


「スコールから飴ゲット!」
「ゲット!」


二人揃って飴を高らかに頭上に掲げ、まるでレアアイテムでも手に入れたかのように、弾んだ声で宣言する。
飴一つでよくもはしゃげるものだ、と思いつつ、スコールは溜息を吐いて、腰を上げた。

今日は一人でイミテーション退治をしていたので、怪我こそないものの、疲れているのは事実。
単独行動していた事をウォーリア・オブ・ライトに気付かれる前に、部屋に帰って寝てしまおうと思っていた。
ジタンとバッツの襲撃は、ある意味、単独行動からの帰還後にはお決まりのものなので、文句を言いたい気持ちはあるものの、キリのない事なので全て諦める。
それより早く休みたい、と思いながら廊下を進もうとすると、


「おりゃっ!」
「うりゃっ!」
「っ…!」


二人分の人間の重みが、順番に重なって来る。
油断していた事、疲労していた事で、がくっとスコールの膝が折れて、床に突っ伏す羽目になった。

背中の重石をじろりと睨みつけてやる。


「なんなんだ、あんた達。菓子ならもうやっただろう」
「うん、貰った」
「だったら、さっさと退け」


邪魔だ、と言わんばかりの表情を浮かべるスコール。
しかし、そんなスコールを見ても、ジタンとバッツはにやにやと楽しそうな笑みを止めない。

─────嫌な予感がした。
逃げなければ、と背中の二人を振り落としてでも立ち上がろうとして、それよりも僅かに早く、がしっ!!と二人が全身で以てスコールの背中にしがみ付く。


「俺達、言っただろ?スコール」
「Trick and treat、ってな」


“Trick and treat”────“悪戯とお菓子を”。
接続詞が一つ変わるだけで、言葉は全く意味を変える。




その日の夕食、猫耳を生やした獅子の姿が、見られたとか見られなかったとか。






ジタンとバッツに言わせたかっただけ。ハメられたスコールが書きたかっただけw
皆から可愛い可愛いって言われまくったそうです。屈辱。でも可愛いと思う。
ティナに嬉しそうに「かわいい」って言われて、怒るに怒れなくて固まったりしてるに違いない。

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