[ティスコ]甘やかし愛
ティーダは甘えたがりだ。
スコールからすると、そう見える。
彼のパーソナルスペースはとても狭く、まるで当たり前の事のように距離を近付けてくる。
子犬のように手を振って駆け寄って来たと思ったら、其処で立ち止まれば良いものをと言う距離で、地面を強く蹴って飛びついて来るのだ。
不意打ちを食らって、何度無様に尻餅をついたか判らない。
それだけでは終わらず、じゃれつくように抱き着いて来たり、頬を摺り寄せて来たり、────キスしたり。
やめろ、と何度言っても、「良いじゃん、たまには」と言って、また抱き着いて来る。
ティーダは人と触れ合う事が好きなのだろう。
人と接して、手を繋いで、温もりを重ね合わせると、それだけでティーダはとても嬉しそうに笑う。
誰かと触れ合う事で安心しているのだろう、彼に触れられるとそんな気持ちが伝わって来る気がする。
けれど時々、彼はとても寂しそうな顔も見せる。
それはほんの一瞬で、誰にも気付かれる事もないけれど、あれも確かに、彼の心を零した貌だった。
大好きだよ、と言ってキスした直後、見間違いにも思える刹那に零れるその貌が、無性に胸の奥を抉る。
スコールは甘えたがりだ。
ティーダがすると、そう見える。
彼のパーソナルスペースはとても広く、数メートル手前まで近付くだけで、毛を逆立てた猫のように身構える。
背中からこっそり近付いても同様で、後頭部に目がついているのではないかと思う程、気配に敏感だ。
それならいっその事、と正面から近付いていくと、眉間の皺が警戒レベルを判り易く示してくれるのが見えて、気弱な人間ならそれを見ただけで足踏みするだろう。
その割に、強引に接触して来る人間に対しては無防備で、お陰で勢いよく飛び付いてやると、意外と振り払われない。
捕まえた、とばかりに腕の中に閉じ込めて、柔らかい髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜると、スコールはやめろ、と怒鳴る。
怒鳴る割には、やっぱり振り払おうとしないから、それに甘えてキスをする。
スコールは、本当は人と触れ合いたいのだろう。
ただ、それ以上に触れ合う事を怖がっているから、触れるだけで彼はとても寂しそうな顔をする。
誰かと触れ合う事で、安心して、それ以上に不安になるから、決して自ら触れようとはしない。
でも、甘えたがり屋だから、誰かの温もりを求めずにはいられない。
彼は時々、泣き出す手前の子供のような貌もする。
それはほんの一瞬で、決して誰かにその瞬間を見せようとはしないけれど、それは確かに、彼の一番深い部分を零した貌だった。
その貌を見ているのが辛くて、安心して欲しくて、温もりは怖いものじゃないんだと伝えたくて、キスをする。
身体を重ね合わせた後の気怠さは、決して不快なものではなかった。
多分、眠い所為だな、とスコールは思っている。
そのまま眠ってしまえたら一番楽なのだが、傍らにいる存在がそれを赦してくれない。
「……ティーダ……眠い……」
「うん。いいよ、先に寝て」
「……じゃあ止めろ……」
「やだ」
そう言ったティーダの唇が、スコールの頬に触れる。
行為の後、ティーダは決まって、スコールにキスの雨を与える。
彼の唇が肌に触れる度、温かくてむず痒い感覚が生まれて、その所為でスコールは眠る事が出来なかった。
他にも、首下や胸をくすぐる指先や、彼の金糸が肌を掠めるのが、スコールには耐え難い。
このキスの雨は、スコールが眠るまで延々と続けられる。
行為の負担はスコールの方が大きいとは言え、ティーダも疲れていない訳ではないだろうに、彼は必ず、スコールが眠るまで、こうしてキスをし続けていた。
早く眠れば良いのに、と思いつつ、スコールは溜息を吐いて目を閉じる。
「痕、つけて良い?」
「却下」
ティーダの言葉をきっぱりと返すと、えー、と不満そうな声が漏れた。
その声を聞きながら、スコールは冗談じゃない、と口の中で苦く呟く。
今でもジタンやバッツにティーダとの仲を揶揄われているのに、痕なんか見付かったりしたら、彼等に余計に突っ込まれるに決まっている。
ただでさえ揶揄われては否応なく真っ赤になる自分に嫌気が差しているのに、これ以上何か言われるのは御免だ。
────と、思っていると、ちう、と鎖骨に吸い付かれて、スコールは跳ね起きる。
「あ、まだ薄い。もう一回」
「止めろ!」
「だーめ。ほら、大人しくしろって」
「このっ……!」
じたばたとベッドの上で縺れ合う。
二人の身長はそれ程差はないのに、ウェイトに差がある所為か、力でスコールが敵う事はない。
かと言ってスコールが大人しくする訳もなく、スコールは膝や肘でティーダの体を押し戻そうと奮闘する。
「いいじゃないっスか、ちょっと位」
「嫌だ!それも、こんな目立つ所……」
「じゃあ背中。背中だったら見えないし、気にならないだろ?」
ティーダはスコールが、見える所、バッツやジタンに見付かる所だから嫌がっているのだと思ったらしい。
それもあるが、そう言う問題じゃない、とスコールが顔を顰めていると、体を引っ繰り返される。
背中に重みが乗ったのを感じて、スコールは諦めた。
肩甲骨や背筋をティーダの手が撫でて、ぞくん、としたものが奔ったけれど、スコールはベッドシーツに顔を埋めて、気付かない振りをした。
ティーダの髪の毛先が肌をちくちくとくすぐっている。
その隙間に、ティーダの唇が降って来て、時折吸い付くようにピリッとした小さな痛みが感じられた。
しばらくティーダの好きにさせていたスコールだが、そのまま一分、二分と時間が経つに連れ、無性に気恥ずかしさが感じられて来た。
ちらり、と肩越しに背中を見遣れば、ティーダの赤い舌が背筋を這っている事に気付いて、顔から火を噴く。
「────っ」
「あいたっ」
スコールは、ティーダの頭を打つ事も気にせず、寝返りを打った。
シーツを手繰り寄せて巻き付き、ティーダから背を逃がすようにして横になる。
「もう終わり?」
「終わりも何もあるか。お前もいい加減に寝ろ」
「良いじゃん、もうちょっと」
「捲るな!」
シーツの端を捲って、スコールから布地を奪おうとするティーダ。
スコールはシーツの裾を掴んで全力で抵抗する。
スコールが断固として譲らない事を察したティーダは、むぅ、と不満げに唇を尖らせると、
「良いじゃん。もうちょっとだけ」
そう言って、ティーダはシーツごとスコールを抱き締める。
スコールは判り易く眉根を寄せてティーダを睨んだが、直ぐに溜息を漏らして眉間の皺を解いた。
暴れないスコールを見て、ティーダが嬉しそうに笑う。
硬いブリッツボールを投げて受けてと練習している所為か、皮の厚い手がスコールの頬に触れる。
ティーダはスコールの頬にかかる髪を避けて、そっと額の傷に口付けた。
「……もう寝ろよ……」
「うん。もうちょっとしたら、寝る」
「………」
「だからそれまで、もうちょっと、良いだろ?」
青が蒼を真っ直ぐに捉えたまま、言った。
スコールは睨むように青を睨んでいたが、逸らされない瞳に根負けしたように、また溜息を一つ。
温もりを分け合うように、キスが繰り返される。
ティーダはスコールに触れ続け、スコールはそんなティーダを好きにさせる。
────甘えているのは、果たしてどちらの方だろう。
多分どっちも、甘えたがり。
ティーダは甘やかしたがりもありそう。
ティスコははぐはぐラブラブしてると可愛い。