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2021年08月11日

[クラレオ]緩やかな刻に熱を注ぐ

  • 2021/08/11 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


誕生日と言うこともあって、何か欲しいものでもあるか、と聞いてみた。

この年になってと呟く当人の気持ちには全く同意するが、それはともかく、幼馴染の面々は祝う気満々になっている。
レオンもそれに促される形で、折角ではあるし、と彼女たちに便乗ついでに応えておこうかと思ったのだ。
とは言え、祝う方法について具体的なものが浮かぶ訳もなく、サプライズを狙うような相手でもないしと、手っ取り早く本人に聞く方法を取った。

その結果、返って来たのは、


「……何もしなくて済むのが良いな」


と言った。

平時のクラウドは、闇の力を使って外の世界を彷徨っている事が多く、レディアントガーデンに帰って来るのは気まぐれなものだった。
何を切っ掛けに帰郷して来るのか、理由についてレオンは知らないし、聞く事もしない。
だが、基本的には休むつもりで故郷に戻って来ているつもりのようで、レオンの家で何をするでもなく過ごしている事が多い。
結局は、其処にいるなら手を貸せとレオンや再建委員の面々が貴重な人材として駆り出すので、彼が望む程に休みを満喫しているかは微妙だが。

恐らく、そう言う所があるから、誕生日位はパトロールに駆り出される事なく過ごしたい、と思ったのだろう。
レオンもトラヴァーズタウンにいた頃は、自分の誕生日くらいはと暇を渡されたし、エアリスやユフィが誕生日の時にも、彼女たちがその日を思うように過ごせるよう計らった事がある。
今のレオン達にとって、ハートレスと戦う力を持ち、力仕事と言った他諸々の雑事に呼べるクラウドは、使わない手はないと言える程に重宝しているのだが、


(まあ……誕生日だしな)


普段、クラウドを駆り出す際、レオンは彼の都合をほぼ無視している。
都合と言うものの多くが、寝たいとか休みたいとか言うものである事、済ませる事を済ませれば解放している事、更に彼が故郷で過ごしている間はレオンの自宅に居候をしており、その面倒を見ている分の返礼くらいは働け、と言う理由もあっての事だ。

正直に言えば、レオンとしては今日明日でハートレスを片付けておきたいエリアがあり、其処にクラウドの手を借りようと思っていたのだが、誕生日プレゼントを聞いたのは自分の方であるし、それを跳ね付けるのも聊か気が引ける。
何より、焦っての事かと言われればそうではなく、早い内に済ませる事が出来れば、と言う程度の事だ。
予定のエリアのハートレスも、昨日確認した限りでは、それ程多くはいなかった。
自分一人でもなんとかなるか、とクラウドの希望に応じようとしたレオンであったが、


「あと、あんたも付けてくれると有り難い」


笑みを浮かべたクラウドに、レオンは僅かに眉根を寄せたが、まあ良いか、と思う事にした。



昼の内にクラウドを拠点に連れて行き、再建委員会メンバーと揃って、彼の誕生祝を兼ねた昼食を採った。
キーブレードの勇者のような年齢ならともかく、もう二十歳も過ぎて、祝われる事に特別な感慨がある訳でもないが、それでも祝ってくれる仲間達がいる事は有り難いものだ。
クラウドもそれは判っているのか、シド特製の唐揚げを山積みにして「クラウドの分ね!」と目の前に置いたユフィにも、呆れつつもそれを平らげて見せた。
他にも祝いなんだからと昼間から酒を持ってきたシドであったり、黄色い小鳥の飾りを乗せたケーキを用意したエアリスにも、シンプルな礼を述べて、どちらもしっかり手を付けた。
流石に酒もケーキも全て食べ切る訳にもいかなかったので、これらはクラウドが満足する程度で済ませている。
それでも、ボリュームのあった昼食も含め、クラウドの腹は十分に満たされた。

帰り際、次はレオンの番だからね、と言うユフィにレオンは苦笑する。
すっかり忘れていたが、確かに十日もすれば自分の誕生日が回って来る。
クラウド同様、何もなくとも気にしない、寧ろこうして思い出してもまた忘れてしまいそうなレオンの事など気にせず、ユフィやエアリスは何か計画しているのだろう。
当日を密かに楽しみに思う位には、自分も今の生活に余裕を感じているのだろうか。
そんな事を考えている間に、レオンとクラウドは自宅───クラウドにとっては間借り先───に着いていた。

中に入れば、クラウドは腹を撫でながら、定位置のソファに寝転ぶ。
手を乗せた腹がいつもより僅かに膨らんでいるように見えて、レオンはくつりと笑った。


「随分食っていたな」
「流石に腹が重い」
「その分じゃ、晩飯は無くて良いか?」
「それとこれとは別だ」


数時間もすれば消化は終わる、と言って、クラウドはちゃっかり夕飯を所望する。
判り切った事なので、レオンは肩を竦めながら、冷蔵庫の中身を確認しに向かった。

馳走は昼に十分味わったから、夕飯は質素でも良いだろう。
とは言え誕生日ではあるのだし、クラウドが好みそうな厚みのある肉を一品添えても良い。
そう考えると、結局質素ではなくなるな、と思ったが、折角なのだから良いだろう。

夕飯に使えるものは一通り揃っていたので、今日は買い出しに行く必要もない。
クラウドからの希望があるので、レオンがパトロールやデータの確認に行く予定もなくなったし、レオンは手持無沙汰な気分だった。
意図せぬ休日を得たと言えばそうだが、レオンとしては勿体ない気がして仕方ない。
ソラが集めてくれているアンセムレポートの確認でもしようか───と思っていると、


「レオン」
「なんだ?」
「こっち」


促す声にレオンは首を傾げつつ、呼ぶ人間の下へと向かう。
相変わらずソファに寝転がったまま動かないクラウドの傍に来ると、床を指してしゃがむように示された。
膝を折ってソファの前に座ると、伸びて来た腕がレオンの頬を撫で、ピアスの光る耳へと触れる。


「やっとあんたを堪能できる」
「そんな事の為に俺を付けたのか」
「大事なことだろう。あんたは俺をほったらかしにするから」
「殆どここにいないのはお前だろう」


ほったらかしも何も、いない人間を気にするような暇はレオンにはない。
きっぱりと言ってやれば、クラウドは如何にもわざとらしく、傷付いた顔をして見せる。
露骨な表情に乗ってやるのもバカバカしくて、レオンは頬を撫で遊んでいたクラウドの手を払う。

と、その手が今度はレオンの肩を掴んで、ぐっと引き寄せた。
前に傾いたレオンの首にしっかりとした腕が絡まって、逃げ場を塞いでキスをされる。
無防備に薄く開いていた唇の隙間から舌が入り込んで来て、レオンのそれを絡め取り、水音を立てながら咥内を弄る。


「ん、…ふ……っ」


遠慮をしない侵入者に、柔く歯を当てて噛んでやると、舌は益々調子に乗った。
じゅる、じゅぷ、と昼日中から聞くには聊か不適切さを匂わせる音がして、ぞくりとしたものがレオンの首筋を走る。

たっぷりとレオンの咥内を味わって、ようやくクラウドは離れた。
はあ、と息苦しさに喘ぐ灰に酸素を送って宥めつつ、レオンはソファに寄り掛かる。
首を固定していたクラウドの手が緩んで、背中にかかる濃茶色の髪の毛先に指を絡めて遊んでいた。


「はぁ……全く、お前はいつも唐突だ」
「それは否定しないが、今日はあんたが先に聞いて来たんだろう。何が欲しいって」


それはそうだが、と呆れつつ、レオンは体の向きを反転させた。

床に座ってソファに凭れかかるレオン。
十分な供給を見たした肺が落ち着いて、レオンは天井を見上げながら、ふう、と一息。
それでレオンが落ち着いた事を察して、クラウドがソファから起き上がった。


「俺は休みで、あんたも休み。今日一日は自由に過ごせる」
「アラートでも鳴らなければな」
「無視すれば良いだろう」
「お前じゃないんだ、そう言う訳にはいかない」


無責任な事を言うな、と咎めれば、クラウドは素知らぬ顔だ。
故郷がまだまだ大変だと判っているのだろうか───と思うレオンであったが、彼も一応、この地に郷愁がない訳ではないらしい。
だから本当にアラートなり緊急事態なりと起これば、レオンが家を出て行くのを止めはしないだろうし、必要であればその腕を振るうだろう。
気分屋な所はあるが、律儀な所は律儀なのだ、とレオンは幼馴染の男をよく知っている。

ソファに座ってレオンの旋毛を見ていたクラウドであったが、なんとなく其処から流れる髪の毛先を追って手櫛を滑らせていると、後髪の隙間から覗く項に辿り着く。
いつからか伸ばした髪が隠すようになった其処に指先を宛がって、生え際の後れ毛をくるりとくすぐった。
むず痒い感触にレオンがその手を払うが、クラウドは構わず首の形をゆっくりと辿り、耳の裏をなぞる。


「クラウド」
「感じるか?」


レオンの咎める色を含んだ声に、クラウドがにやりと笑う。
調子に乗ってるな、とレオンは眉根を寄せたが、クラウドの腕に抱えられるように持ち上げられて、ソファの上に転がされ、その上にクラウドが跨って来る。


「……昼間からする気か」
「良いだろう。今日は俺の誕生日なんだから」


好きにさせて貰う、と言いながら、クラウドの手はレオンの腹を、胸を撫でていく。
首元に整った顔が近付いて、ぬるり、と舌がレオンの喉を這う。

シャツが捲り上げられ、引き締まった躰が露わになると、クラウドの瞳に熱が宿る。
全くお盛んな奴だと呆れたレオンであったが、久しぶりであるのはレオンも同じで、まあ良いかと思う事にした。
妙な趣味を疑うような事を要求されなければ、今日はクラウドのしたいようにさせるのも悪くない。

クラウドが手袋を外したので、レオンも自分のそれを外す。
ソファの端に置いたそれが、際過ぎたのかぽとりと落ちたが、伸し掛かる男が邪魔で直す事は諦める。
クラウドはと言うと、手袋はぽいと適当に放り投げて、ベストを脱いだ。
昼日中とあって外は明るく、部屋の電気をつけなくても、鍛え抜かれた躰がはっきりと見る事が出来る。
それはクラウドからも同様で、均整の取れたレオンの躰を余す所なく眺めては、今日はこれを独占できるのだと言うことに良いようのない興奮が浮かんだ。


「お前、溜まってるのか」
「あんたが構ってくれないからな」


呆れながら言うレオンに、クラウドはきっぱりと責任転嫁してくれた。
しかし、確かに当分してはいなかったな、とも思い出して、レオンは体の力を抜いた。
好きにしろ、と言う意思表示を示すレオンに、クラウドの口元に笑みが深まって、胸元に頭が下りて来る。

窓から差し込む太陽の眩しさと、躰を這い上って来る熱が、レオンに背徳感のようなものを感じさせた。
時計を見れば三つ時で、この時間から始めたとして終わるのは────と凡その計算をしようとするが、下肢に押し付けられるものの感触に気付いて諦めた。
どうせ自分が思うような時間に解放される事はないだろうし、夕飯ももう簡単に昨日の残り物で片付けてしまえば良い。
誕生日だから、と少し位の贅沢はさせてやろうと思ってはいたが、絡み合う躰以上にこの男に贅沢を感じさせるものはないらしい。
安上がりで良いか、と思う事にして、レオンはクラウドの頬に手を伸ばす。

すり、と指先が白い肌に触れて、クラウドが顔を挙げた。
雄の気配を宿した碧の瞳を、細めた双眸で見詰めると、何に誘われたのかその顔が近付いて来る。
重ねた唇を甘く吸ってやると、貪るように食い付かれて、その判り易さにレオンはくつりと笑った。





誕生日と言うことでクラレオ!
甘やかされの許しが出たので、此処ぞとばかりに調子に乗るクラウドと、誕生日だからまあ良いかのレオンでした。

[クラスコ]エタニティ・リング

  • 2021/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


最初に誕生日祝いだと言ってプレゼントをくれたのは、友人のザックスだ。
いつも通りに出社して、今日配達の荷物を確認している所へ、一拍遅れて会社に到着した足で、そのまま渡しに来てくれた。
ファッションの類にまるで興味のない友人を慮って、良さそうな上着を見付けたんだよ、と言っていたザックス。
クラウドはそれを有り難く受け取ると、自分のロッカーの中へと納めておいた。

それを切っ掛けにしたように、他の友人たちからも祝いの品を貰った。
多くは今日がクラウドの誕生日である事に初めて気付いたようなものだったから、手持ちに愛用している飴玉だったり、社の冷蔵庫に常備している摘まめる駄菓子だったり。
だが女性社員は前々から準備してくれていたようで、女性社員一同から、と言う形で、ペンケースをくれた。
革製の黒い光沢のあるペンケースは、使い込む程に手に馴染んで行く事だろう。
長く使えるものを用意してくれた女性社員に感謝を述べて、クラウドはそれもロッカーの中へと仕舞った。

仕事は滞りなく片付ける事が出来、気分の良さも相俟ってか、一日は案外と早く終わった。
空を多く橙色に、ぼちぼち早くなり始めた宵闇が滲む頃に、クラウドは退勤のタイムスタンプを押す。
特にいつもと変わった事がある訳ではなかったが、それでも誕生日であるし、帰りにコンビニで酒でも買って帰ろうか。
そんな事を思いつつ、プレゼントを詰めた鞄を肩に担ぎ、会社を出ようとした所で、


「クラウド。例の子、来てるってさ」


事務方に今日の報告書を提出しようとしていたザックスに言われて、クラウドの胸が弾む。
大した距離でもないのだが、進む足が早くなったのは、自然な事だ。

社員用の通用口である裏口から出ると、外は大分暗くなり、街灯が煌々と点いている。
クラウドは駐車場に置いていた大型バイクを押して、敷地の外へと出た。
其処からほんの数メートル離れた場所で、一人の少年が電柱に寄り掛かっている。


「スコール」
「……お疲れ」
「ああ」


名前を呼べば、少年───スコールが顔を上げる。
今日を労ってくれるスコールの言葉に、クラウドは小さく頷いて、彼の傍へと近付く。


「塾は終わったのか」
「ん」


スコールは高校二年生で、この近くにある進学塾に通っている。
この案外と近い距離が縁で、二人は知り合い、今では深い仲へと発展していた。

スコールは電柱に預けていた背を放すと、クラウドを向き合って少し俯いた。
街灯に照らし出された大人びた顔立ちの中、噤まれていた小さな唇が、何度か開いて閉じてと繰り返す。
何かを言おうとして言葉を探している時の様子だと察して、クラウドはスコールが音を出す準備を整えるのを待った。

しばしの沈黙の後、スコールは肩にかけていた鞄を下ろし、中から小さな箱を取り出した。
掌に乗せていられるサイズの正方形のそれには、銀色のテープが飾られている。


「……これ。あんた、今日、誕生日だから…」


そう言って箱を差し出すスコールは、判り易くクラウドから目を逸らしている。
夕暮れがまだ僅かに届く中、耳が赤くなっているのを見付けて、くすりとクラウドの唇に笑みが滲む。


「ありがとう、スコール」
「……別に」


小さなプレゼントボックスを受け取り、感謝の言葉を告げれば、スコールは益々赤くなる。
素っ気ない言葉は彼の口癖のようなもので、それすらもクラウドは愛らしく思っていた。

箱はサイズの割には重さが感じられる。
銀色のテープには薄く刻印が施されており、クラウドが愛用しているアクセサリーのブランド名が記されていた。
ロックを外して蓋を開けてみれば、きらきらと一寸の穢れもない、銀色の狼を頂いたシルバーリングが納められている。
学生が手に入れるには少々根が張るものだった筈だ。
スコールが夏休みに入る前から、懇意にしている友人の紹介を頼り、アルバイトをしていた事は聞いている。
この為に、自分の為に頑張ってくれていたのかと思うと、クラウドは面映ゆくて仕方がない。

クラウドは視線を逸らしたままのスコールの肩を優しく捕まえると、そっぽを向き続ける赤らんだ頬にキスをした。
突然の事にスコールは一瞬固まった後、益々赤くなってクラウドの方を見る。


「あんた、何して……っ!」
「お前が可愛いことをしてくれたから、その礼だ」
「ば、かじゃないのか!」


恥ずかしさからだろう、飛び退こうと体を引くスコールだったが、クラウドの腕がそれを許さなかった。
しっかりとその肩を捕まえたまま、今度は唇にキスをする。


「ん、ん……っ!」


未だにスキンシップと言うものに慣れないスコールは、手を繋ぐだけでもぎこちない。
キスともなれば尚更で、ついつい体が緊張して硬直するのが癖になっていた。
そんなスコールの唇を柔く吸いながら、反射反応で逃げを打とうとする背中に腕を回し、しっかりと檻の中に閉じ込める。
うんうんと唸る声はしばらく続いていたが、絡め取った舌を吸ってやれば、ビクッと震えるのを最後に、あとはクラウドのされるがままだ。

たっぷりと恋人の愛しい唇を堪能して、クラウドはゆっくりとスコールを解放する。
濡れた桜色の唇から、はあ……っ、と熱の籠った吐息が漏れた。
スコールはそのまま一回、二回と息を吸って、足りなくなった酸素を補った後、相変わらず赤い顔でクラウドを睨む。


「……こんなとこで…やめろって言ってるのに」
「ああ、そうだったな。嬉しかったから我慢できなかった」


クラウドの言葉に、スコールは「やっぱりバカだ」と呟く。

クラウドはシルバーリングの入った箱を鞄の中に入れた。
家に帰ったら真っ先に取り出して、もっとじっくり見てみよう。
薄暗くなり始めた空の下でも、白銀の瞬きが美しかったのだから、明るい場所で見たらどんなにか。
その精巧さと、スコールが選んでくれたと言うことも含めて、きっとお気に入りの一つになるに違いない。

スコールが大通りの方に向かって歩き始めたので、クラウドもバイクを押して後を追う。


「高かったんじゃないか、あの指輪」
「……別に」
「アルバイトをしてたって」
「…もうやってない」
「楽しかったか?」
「……それなりに」


クラウドが投げかける言葉に、スコールの返す言葉は短い。
元々お互いに無口な方であるし、沈黙は苦ではない方だが、クラウドはスコールを構いたかった。


「よく買えたな」
「……足りて良かった」
「大事にするよ」
「……大袈裟だな」
「お前から貰った“指輪”だぞ?大事にしないと罰が当たる」
「だから、大袈裟だって言ってる。……ただの指輪だろ」


スコールの言葉は何処までも素っ気ない。
歩く足は心なしか速くなっていて、バイクを押すクラウドを置いて行こうとしているかのようだった。
それが彼の照れ隠しであると、クラウドは知っている。


「婚約指輪にしようか。あれ」
「……は?」


クラウドの台詞に、スコールは思わずと立ち止まり、振り返る。
ぽかんと丸くなった蒼い瞳が此方を見たので、クラウドが口角を上げて笑んでやると、またスコールの顔は沸騰して行く。


「た……ただの指輪だって、言ってるだろ!」
「俺にとっては特別だ。ああ、結婚指輪の方が良かったか。お前はまだ17歳だし、配慮したつもりだったんだが、野暮だったな」
「誰もそんな話してない!そんな馬鹿な事言ってるなら返せ!」
「それは断る。婚約破棄になるだろう」
「だから婚約じゃないって……!」


思わず声を大きくしていくスコールに、クラウドは笑みを浮かべた表情のまま、人差し指を立てて口元に当てる。
一応、この辺りには住宅もあるので、人の生活の気配もあるのだ。
あまり大きな声を出すと聞かれるぞ、と促してやれば、賢くて恥ずかしがり屋の少年は、赤い顔で唇をはくはくとさせるしか出来ない。

路地を抜けて通りが広くなると、ライトをつけた車が絶え間なく行き交っていた。


「さて……乗れ、スコール。家まで送るぞ」
「……」
「バイクの方が楽だろう?」


先の会話を引き摺ってか、恥ずかしそうに睨んで来るスコールに、クラウドはバイクの後部座席をぽんと叩いて促す。

スコールの家は、此処からは電車に乗る必要がある。
もう通い慣れたものではあるのだが、塾の終業時間が多くの会社の退勤時間と重なる事もあって、電車はいつも満員だ。
人混み嫌いのスコールはそれを嫌っており、クラウドはそれを理由にスコールをバイクに乗せて家まで送り届けていた。

座席を開けてスコールのヘルメットを取り出すと、代わりに二人の鞄が収納される。
クラウドがバイクのエンジンをかけて、良いぞ、と視線を投げると、スコールも慣れた様子でバイクを跨いだ。


「何処か寄りたい所はあるか?」
「……特にない」


買い物でもあるなら、と訊ねたクラウドだったが、スコールの返事はシンプルだった。
じゃあ直帰か、とエンジンを回す。

バイクが走り出し、スピードに乗るに連れて、クラウドに捕まるスコールの腕に力が籠って行く。
スコールは人と近付く事を、物理的にも精神的にも苦手としているが、クラウドのバイクに乗る事には随分と慣れてくれた。
背中に触れる温もりが、緊張していない事に気付いたのは、いつだっただろう。
カーブでバイクを傾ける時も、しっかりとタイミングを合わせてくれるようになって、クラウドはバイクに乗っている間、スコールと呼吸が一つになっているように思う。
その感覚がクラウドは心地良くて、一分一秒でも長く、この時間を味わっていたかった。

スコールは父子二人暮らしをしていて、そう言った環境故か、父は少々過保護気味だ。
クラウドもそれを知っているから、早い内に家に送り届けた方が良い、と言うことは判っている。
それでも今日は、今日だけはと、わざと遠回りの道を選んでも、背中の少年は何も言わなかった。


(そう言えば、スコールの誕生日も、もう直ぐだな)


あと十日と少し後で、スコールも18歳の誕生日を迎える。
今日のお返しも含めて何か用意しなくては───と考えて、直ぐにクラウドの頭に浮かんだのは、


(やっぱり、指輪かな)


スコールがクラウドにしてくれたように、彼が好きなブランドの中から、似合いそうな指輪を贈ろう。
指輪の交換だと言えば、またスコールは赤くなるのだろうか。
遠くはない日の事を想像しながら、背中の少年が少しでも喜んでくれるものを選ばねばと思った。





クラウド誕生日おめでとう!なクラスコ。

スコールとしては似合いそうだし、喜んでくれるだろうと思って選んだのが、偶々指輪だった。のだけど、クラウドがこんな事を言い出したから、自分の誕生日に指輪を渡されたら完全に意識してしまうんだと思います。

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