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[クラスコ]エタニティ・リング

  • 2021/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


最初に誕生日祝いだと言ってプレゼントをくれたのは、友人のザックスだ。
いつも通りに出社して、今日配達の荷物を確認している所へ、一拍遅れて会社に到着した足で、そのまま渡しに来てくれた。
ファッションの類にまるで興味のない友人を慮って、良さそうな上着を見付けたんだよ、と言っていたザックス。
クラウドはそれを有り難く受け取ると、自分のロッカーの中へと納めておいた。

それを切っ掛けにしたように、他の友人たちからも祝いの品を貰った。
多くは今日がクラウドの誕生日である事に初めて気付いたようなものだったから、手持ちに愛用している飴玉だったり、社の冷蔵庫に常備している摘まめる駄菓子だったり。
だが女性社員は前々から準備してくれていたようで、女性社員一同から、と言う形で、ペンケースをくれた。
革製の黒い光沢のあるペンケースは、使い込む程に手に馴染んで行く事だろう。
長く使えるものを用意してくれた女性社員に感謝を述べて、クラウドはそれもロッカーの中へと仕舞った。

仕事は滞りなく片付ける事が出来、気分の良さも相俟ってか、一日は案外と早く終わった。
空を多く橙色に、ぼちぼち早くなり始めた宵闇が滲む頃に、クラウドは退勤のタイムスタンプを押す。
特にいつもと変わった事がある訳ではなかったが、それでも誕生日であるし、帰りにコンビニで酒でも買って帰ろうか。
そんな事を思いつつ、プレゼントを詰めた鞄を肩に担ぎ、会社を出ようとした所で、


「クラウド。例の子、来てるってさ」


事務方に今日の報告書を提出しようとしていたザックスに言われて、クラウドの胸が弾む。
大した距離でもないのだが、進む足が早くなったのは、自然な事だ。

社員用の通用口である裏口から出ると、外は大分暗くなり、街灯が煌々と点いている。
クラウドは駐車場に置いていた大型バイクを押して、敷地の外へと出た。
其処からほんの数メートル離れた場所で、一人の少年が電柱に寄り掛かっている。


「スコール」
「……お疲れ」
「ああ」


名前を呼べば、少年───スコールが顔を上げる。
今日を労ってくれるスコールの言葉に、クラウドは小さく頷いて、彼の傍へと近付く。


「塾は終わったのか」
「ん」


スコールは高校二年生で、この近くにある進学塾に通っている。
この案外と近い距離が縁で、二人は知り合い、今では深い仲へと発展していた。

スコールは電柱に預けていた背を放すと、クラウドを向き合って少し俯いた。
街灯に照らし出された大人びた顔立ちの中、噤まれていた小さな唇が、何度か開いて閉じてと繰り返す。
何かを言おうとして言葉を探している時の様子だと察して、クラウドはスコールが音を出す準備を整えるのを待った。

しばしの沈黙の後、スコールは肩にかけていた鞄を下ろし、中から小さな箱を取り出した。
掌に乗せていられるサイズの正方形のそれには、銀色のテープが飾られている。


「……これ。あんた、今日、誕生日だから…」


そう言って箱を差し出すスコールは、判り易くクラウドから目を逸らしている。
夕暮れがまだ僅かに届く中、耳が赤くなっているのを見付けて、くすりとクラウドの唇に笑みが滲む。


「ありがとう、スコール」
「……別に」


小さなプレゼントボックスを受け取り、感謝の言葉を告げれば、スコールは益々赤くなる。
素っ気ない言葉は彼の口癖のようなもので、それすらもクラウドは愛らしく思っていた。

箱はサイズの割には重さが感じられる。
銀色のテープには薄く刻印が施されており、クラウドが愛用しているアクセサリーのブランド名が記されていた。
ロックを外して蓋を開けてみれば、きらきらと一寸の穢れもない、銀色の狼を頂いたシルバーリングが納められている。
学生が手に入れるには少々根が張るものだった筈だ。
スコールが夏休みに入る前から、懇意にしている友人の紹介を頼り、アルバイトをしていた事は聞いている。
この為に、自分の為に頑張ってくれていたのかと思うと、クラウドは面映ゆくて仕方がない。

クラウドは視線を逸らしたままのスコールの肩を優しく捕まえると、そっぽを向き続ける赤らんだ頬にキスをした。
突然の事にスコールは一瞬固まった後、益々赤くなってクラウドの方を見る。


「あんた、何して……っ!」
「お前が可愛いことをしてくれたから、その礼だ」
「ば、かじゃないのか!」


恥ずかしさからだろう、飛び退こうと体を引くスコールだったが、クラウドの腕がそれを許さなかった。
しっかりとその肩を捕まえたまま、今度は唇にキスをする。


「ん、ん……っ!」


未だにスキンシップと言うものに慣れないスコールは、手を繋ぐだけでもぎこちない。
キスともなれば尚更で、ついつい体が緊張して硬直するのが癖になっていた。
そんなスコールの唇を柔く吸いながら、反射反応で逃げを打とうとする背中に腕を回し、しっかりと檻の中に閉じ込める。
うんうんと唸る声はしばらく続いていたが、絡め取った舌を吸ってやれば、ビクッと震えるのを最後に、あとはクラウドのされるがままだ。

たっぷりと恋人の愛しい唇を堪能して、クラウドはゆっくりとスコールを解放する。
濡れた桜色の唇から、はあ……っ、と熱の籠った吐息が漏れた。
スコールはそのまま一回、二回と息を吸って、足りなくなった酸素を補った後、相変わらず赤い顔でクラウドを睨む。


「……こんなとこで…やめろって言ってるのに」
「ああ、そうだったな。嬉しかったから我慢できなかった」


クラウドの言葉に、スコールは「やっぱりバカだ」と呟く。

クラウドはシルバーリングの入った箱を鞄の中に入れた。
家に帰ったら真っ先に取り出して、もっとじっくり見てみよう。
薄暗くなり始めた空の下でも、白銀の瞬きが美しかったのだから、明るい場所で見たらどんなにか。
その精巧さと、スコールが選んでくれたと言うことも含めて、きっとお気に入りの一つになるに違いない。

スコールが大通りの方に向かって歩き始めたので、クラウドもバイクを押して後を追う。


「高かったんじゃないか、あの指輪」
「……別に」
「アルバイトをしてたって」
「…もうやってない」
「楽しかったか?」
「……それなりに」


クラウドが投げかける言葉に、スコールの返す言葉は短い。
元々お互いに無口な方であるし、沈黙は苦ではない方だが、クラウドはスコールを構いたかった。


「よく買えたな」
「……足りて良かった」
「大事にするよ」
「……大袈裟だな」
「お前から貰った“指輪”だぞ?大事にしないと罰が当たる」
「だから、大袈裟だって言ってる。……ただの指輪だろ」


スコールの言葉は何処までも素っ気ない。
歩く足は心なしか速くなっていて、バイクを押すクラウドを置いて行こうとしているかのようだった。
それが彼の照れ隠しであると、クラウドは知っている。


「婚約指輪にしようか。あれ」
「……は?」


クラウドの台詞に、スコールは思わずと立ち止まり、振り返る。
ぽかんと丸くなった蒼い瞳が此方を見たので、クラウドが口角を上げて笑んでやると、またスコールの顔は沸騰して行く。


「た……ただの指輪だって、言ってるだろ!」
「俺にとっては特別だ。ああ、結婚指輪の方が良かったか。お前はまだ17歳だし、配慮したつもりだったんだが、野暮だったな」
「誰もそんな話してない!そんな馬鹿な事言ってるなら返せ!」
「それは断る。婚約破棄になるだろう」
「だから婚約じゃないって……!」


思わず声を大きくしていくスコールに、クラウドは笑みを浮かべた表情のまま、人差し指を立てて口元に当てる。
一応、この辺りには住宅もあるので、人の生活の気配もあるのだ。
あまり大きな声を出すと聞かれるぞ、と促してやれば、賢くて恥ずかしがり屋の少年は、赤い顔で唇をはくはくとさせるしか出来ない。

路地を抜けて通りが広くなると、ライトをつけた車が絶え間なく行き交っていた。


「さて……乗れ、スコール。家まで送るぞ」
「……」
「バイクの方が楽だろう?」


先の会話を引き摺ってか、恥ずかしそうに睨んで来るスコールに、クラウドはバイクの後部座席をぽんと叩いて促す。

スコールの家は、此処からは電車に乗る必要がある。
もう通い慣れたものではあるのだが、塾の終業時間が多くの会社の退勤時間と重なる事もあって、電車はいつも満員だ。
人混み嫌いのスコールはそれを嫌っており、クラウドはそれを理由にスコールをバイクに乗せて家まで送り届けていた。

座席を開けてスコールのヘルメットを取り出すと、代わりに二人の鞄が収納される。
クラウドがバイクのエンジンをかけて、良いぞ、と視線を投げると、スコールも慣れた様子でバイクを跨いだ。


「何処か寄りたい所はあるか?」
「……特にない」


買い物でもあるなら、と訊ねたクラウドだったが、スコールの返事はシンプルだった。
じゃあ直帰か、とエンジンを回す。

バイクが走り出し、スピードに乗るに連れて、クラウドに捕まるスコールの腕に力が籠って行く。
スコールは人と近付く事を、物理的にも精神的にも苦手としているが、クラウドのバイクに乗る事には随分と慣れてくれた。
背中に触れる温もりが、緊張していない事に気付いたのは、いつだっただろう。
カーブでバイクを傾ける時も、しっかりとタイミングを合わせてくれるようになって、クラウドはバイクに乗っている間、スコールと呼吸が一つになっているように思う。
その感覚がクラウドは心地良くて、一分一秒でも長く、この時間を味わっていたかった。

スコールは父子二人暮らしをしていて、そう言った環境故か、父は少々過保護気味だ。
クラウドもそれを知っているから、早い内に家に送り届けた方が良い、と言うことは判っている。
それでも今日は、今日だけはと、わざと遠回りの道を選んでも、背中の少年は何も言わなかった。


(そう言えば、スコールの誕生日も、もう直ぐだな)


あと十日と少し後で、スコールも18歳の誕生日を迎える。
今日のお返しも含めて何か用意しなくては───と考えて、直ぐにクラウドの頭に浮かんだのは、


(やっぱり、指輪かな)


スコールがクラウドにしてくれたように、彼が好きなブランドの中から、似合いそうな指輪を贈ろう。
指輪の交換だと言えば、またスコールは赤くなるのだろうか。
遠くはない日の事を想像しながら、背中の少年が少しでも喜んでくれるものを選ばねばと思った。





クラウド誕生日おめでとう!なクラスコ。

スコールとしては似合いそうだし、喜んでくれるだろうと思って選んだのが、偶々指輪だった。のだけど、クラウドがこんな事を言い出したから、自分の誕生日に指輪を渡されたら完全に意識してしまうんだと思います。

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