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2022年12月25日

[けものびと]ぎんいろせかいにとびだして

  • 2022/12/25 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



幼いとは言え、弱肉強食のサバンナで生きていた訳だから、レオンにしろスコールにしろ、警戒心は強い。
ふと後ろを振り向けば天敵が、空を見れば猛禽類が、水を飲もうと水場に行けば鰐がいる。
そんな場所で、腹を碌に満たせない状態とは言え、彼等は二人きりで生きて来た。
故に彼等の警戒心と言うものは、命を守る為に最低限かつ最大限に活用されなければならなかったのだ。

しかし、そうは言っても、彼等はまだまだ幼い。
それは動物としては勿論、ヒトの特徴を持った生き物としても、言えることだった。
普通の動物は、多くは一年もすれば成獣となり、群れの一員として役割を持つか、種によっては独り立ちとされる時期だが、獣人である彼等の身体的幼年期は聊か長い。
それ故に獣人の種の多くは繁栄が難しく元々の個体数の少なさも相俟って、ヒトと同等の知能の有しながらも、減少の一途を辿り続けている。
その幼年の時期は、種類によって差はありつつも、少なくとも五年前後は親の庇護が必要となると言われていた。
レオンもスコールも、ラグナに保護されてからは勿論、身体の特徴から分析しても、まだその年齢を脱していない。
外見年齢をヒトに換算すればまだ幼児と呼べる程度で、名実ともに、親元で無邪気に遊んでいて可笑しくない時期だった。

ラグナに保護され、引き取られてから、彼等はすくすくと成長している。
レオンはラグナに助けて貰ったと言う事を理解しているのか、比較的懐くのも早く、環境に馴染む適応力もあったのだが、スコールは少し時間がかかった。
しかし、練施設で世話になっている職員のバッツと、”猿”モデルの獣人であるジタンと言う友人を得たことで、徐々にラグナに対しても心を開いた。
その他にも、ラグナが契約したマンションに住んでいる、二人の“犬”モデルと暮らしている男とも知り合いになり、歳の近い友人も出来た。
栄養の高い食事と、綺麗な飲み水を与えられ、敵に襲われることのない毎日を暮らしているお陰で、彼等の毛艶も良くなった。
生まれ故郷であろうサバンナから離れた事による戸惑いは、初めの頃を除き、余り見せる事はない。
どちらかと言えば、子供らしく好奇心も強く、幼い故の怖いもの知らずもあって、初めて見るものには小さくない興味を持つことが多かった。

”ライオン”モデルが人の手で保護され、人間社会の街中で生活していた前例はない。

そもそもが獣人が希少である事に加え、その保護と言うのも必要とされる形は様々で、多くは元来の生活環境から引き離すべきではないとして、野生環境からセンターへと連れられ管理される個体は稀なのだ。
犬や猫なら、モデル原種が人間と親しい生活をしている例も多いとして、必要に応じて保護・管理される事もあるし、中には訓練を受けて文字通りパートナーとして職を持つものもいるが、何せ彼等は“ライオン”だ。
モデルの獣人は確認されてはいても、野生の彼等は原種の動物と同様の性質・生態であるから、下手に人間が近付いて無事で済む保証はない。
故にその個体が確認されても、保護機関がするべき仕事は、個体数の確認と、彼等の野生における生態調査が主な役割であった。

そんな中、レオンとスコールが保護されたのは、ラグナの全く私的な感情が発端ではあったが、結果として獣人保護機関としても有益の可能性ありと判断されたのが理由であった。
元より希少な“ライオン”モデルである事、そしてこう言った猛獣の獣人は、その生態データもあまり出揃っていない。
研究しようにも彼等を綿密に調べる事が難しく、成長による身体特徴の変化に関する情報と言うのも、少なかったのだ。
この為、機関としては、今後の獣人保護の活動にも活かせるものがあるかも知れない、と言う思惑により、二人の獣人をラグナに預けることを許可した。
無論、某か事件が起これば全ての責任はラグナが負う事、追って二人も殺処分される事が誓約された上で、ラグナは彼等の保護者となったのである。

二人との共同生活は、存外とラグナを楽しませていた。
子供を育てたことなどなかったが、ひょっとしてこう言う気持ちなんだろうか、と思う事も多い。
レオンが自分に懐き、撫でることを喜んだり、スコールがいつの間にか足元で丸まっていたり、寒い夜には二人揃ってラグナの寝床に潜り込んで来たり。
彼等の為に担う大変な事も多いけれど、温かな寝床でふくふくと丸まっている彼等を見ていると、幸せだな、と思う。
この幸せが、もっとずっと、永く続きますように────と。



ある朝、目を覚ますと、外が随分と静かだった。
毎日毎秒のように走る車の音も聞こえず、まだ夜中なのかと思う位にしんとしている。
部屋の空気のキンと冷えた空気もあって、布団から出るのを渋っていると、ふと、昨晩一緒に寝た筈の温もりが足りない事に気付く。
暑くて抜け出したかなあ、と思いつつ、その行方を捜して半身を起こすと、彼等は直ぐに見つかった。

レオンとスコールは、ベッドの横のサイドチェストに上っていた。
傍には窓があり、カーテンも引いたままなのだが、二人はそこに頭を突っ込んでいる。
下半身だけカーテンの下から伸びている二人の尻尾が、ぷん、ぷん、と興奮したように揺れているのを見て、ラグナはのそりと起き上がった。


「レオン、スコール。どした?」


名前を呼びながらカーテンを捲ると、呼ぶ声が聞こえたからだろう、レオンが此方を見ていた。
ふんふんと鼻を鳴らすその頭を撫でてやり、隣を見れば、スコールがじいっと窓の向こうを見詰めている。
蒼灰色の瞳が心なしかきらきらと輝いているように見えて、何か変わったものでもあるかと外を見て、知る。


「おお、積もったもんだなぁ」


其処には、一面の銀世界が広がっていた。

昨日は丸一日が冷え込み、雪もちらちらと降っていたのは見たが、どうやら夜の間に本格的に降ったらしい。
窓の前を横切る木の枝には白い小山が乗り、その向こうの塀や家屋の屋根も白いものが層を作っていた。
これだけ積もっているなら、地面も覆われているだろうし、成程、車の音もしない筈だ。
都心で暮らす人の足である車は勿論、恐らくは電車のダイヤも見合わせが発生しているだろう。
どうしても仕事に向かわなくてはならない人以外は、大人しく家の中で、時が過ぎるのを待つしかない訳だ。

ラグナはどうりで寒い筈だとしみじみ呟きながら、カーテンを大きく開けた。
取り敢えずは朝食を用意しなくてはとベッドを離れると、レオンがそれを追って来る。
一拍遅れて、スコールも兄について来る形で、サイドチェストを降りた。

二人の食事を用意してから、ラグナは電子レンジでインスタントの味噌汁を作る。
簡単に拵えた朝食で腹を温めながらテレビをつけると、都心のほぼ全体が雪に覆われたと言っていた。
それに加えて、「ホワイトクリスマスですね」なんて言う文句も出て来たのを見て、ああ、とラグナは思い出す。


(そうか、今日クリスマスだっけ。どうりで街が賑やかだった筈だなぁ)


昨晩、帰り道に立ち寄ったスーパーは、随分と華やかだった。
きらきらとした飾りは勿論、並ぶ食材も、日々見慣れたものよりも豪華なものが並んでいた。
その理由をラグナは深く考えず、美味そうなものあるな、と軽い気持ちで幾つか頂戴したのだが、そう言う意図があったとは。
最近、保護機関への報告用の書類作りなり何なりと忙しく、季節感と言うものをすっかり失念していたようだ。

食後のコーヒーを傾けながら、ラグナは足元で毛繕いをしている仔ライオンたちを見る。
顔を洗っているスコールの背中を、レオンが念入りに丁寧に舐めていた。


(クリスマスツリーでも準備したら、それっぽくはなりそうだけど。今はまだ、オモチャになっちまうだろうなあ)


季節の風物詩となるものがあれば、いつもと変わり映えのないこの部屋でも、少しはクリスマスらしくなるだろう。
しかし、レオンもスコールもまだまだ幼く、本能に忠実な年頃だ。
見慣れないものは警戒しつつも興味を持つだろうが、色々と事故も考えられるし、思い付きで準備するのは少々危ない気がする。
来年の今頃には、彼等ももう少し落ち着くだろうかと、まだまだ読めないその成長を思いつつ、ふとラグナは今朝の二人の様子を思い出した。


「そういやお前達、雪見たのって初めてだよなぁ」
「ぐぅ?」
「となりゃあ、そうだな。一回くらいは、ナマで体験してみっか」


ラグナが言うと、レオンが顔を上げ、ことんと首を傾げる。
それを毛繕いの終わりと思ったか、今度はスコールがレオンの首元に顔を寄せ、ぺろぺろと喉を舐め始めた。
心地が良いのか嬉しいのか、レオンは目を細め、ごろごろと喉を鳴らす。

ラグナは手早く食器の片付けを済ませると、クローゼットを開けた。
其処には主にはラグナの衣服が納められているが、一角を占拠している小さな組み立て式チェストには、レオンとスコールの為の服が入っている。
獣人である彼等には滅多に無用のものではあるのだが、真冬の寒い時期など、もし外に連れて行くならあった方が良い、という助言を貰ってから、折々に買い揃えていたのだ。
服に慣れる為の訓練と言うのもして来たし、その際には中々苦労もしたが、その甲斐あって、今では外出する時に上着を羽織るくらいはしてくれるようになった。

今日は昨日にも増して寒いだろうから、二人に着せる服は厚手のものを選んだ。
名前を呼ぶとレオンが直ぐにやってきて、その後をいつものようにスコールが追ってくる。


「ぐぁう」
「よしよし、良い子だな。じゃ、今からこの服着て、ちょっと外行ってみようぜ」
「ぎゃうぅ」
「今日はすっげぇ寒いからな。ほい、ばんざーい」


ラグナが促すと、レオンがすっくと後ろ足で立った。
尻尾で体勢のバランスを取りながら、前足を頭の上に伸ばすレオンに、ラグナは上から被せるようにシャツを着せる。
頭を出したレオンがぶるぶると鬣を震わせている間に、ラグナはスコールにも服を着せた。

シャツに上着に、帽子に襟巻。
頭の上にある耳を圧迫しないようにと、バッツが手ずから編んでくれた耳カバーつき帽子のシルエットが可愛らしい。
そうやって着込んでいる上半身だけを見ると、ヒトの子供と同じだなあ、と思いつつ、ラグナは二人を抱き上げた。

ラグナが暮らしているマンションの下には、小さな公園がある。
家の中だけでは運動量が足りないであろうレオンとスコールの為、ラグナは人のいない時間を選んで、よく此処で彼等を遊ばせていた。
その見慣れた筈の公園も、今日は一面の雪景色だ。
普段と違う景色である事に驚いているのか、ラグナの腕の中で、二人の仔ライオンはそわそわと落ち着くなく辺りを見回している。

ラグナは恐らく此処なら大丈夫だろうと、敷地の堺であるフェンスを背にして、その場にしゃがんだ。


「ほら、これが雪だぞ~」


二人の足が地面につくように、ゆっくりと降ろしてやる。
と、ちょんっと足先が付いた瞬間、スコールがぶわっと毛を逆立たせてラグナの腕にしがみ付いた。


「おっとと。びっくりしちまったか?」
「ぎゃぅう!」
「大丈夫、大丈夫。お、レオンは行くか?」


レオンは脚を地面に下ろしたまま、動かない。
上半身を掬い支えていた腕をラグナがそうっと放すと、レオンはすとんと雪の上に立った。

ふんふん、ふんふんと鼻を鳴らしながら、レオンは足元の匂いを嗅いでいる。
雪って何か匂いがするんだろうか、とラグナがその様子を見詰めていると、レオンはずぽっと鼻先を雪の中に突っ込んだ。
顔面を雪に押し付けたかと思うと、レオンは直ぐに頭を上げ、ぶるぶると頭を振って鼻先に着いた雪を払う。


「がう!」
「どうだ?冷たい?」
「がうぅ!」
「そっか、面白いか」


ラグナの声に反応しているのか、初めての感触に興奮しているのか、レオンは高い鳴き声を上げながら、四つ足で雪の上を飛び跳ねる。
たしっ、たしっ、と踏む度に真っ新な雪の上に、レオンの足跡がついている。
その内に興奮が更に増したか、レオンは雪山に全身で襲い掛かると、ブルドーザーのように小さな体でざくざくと掘りながら進み始めた。

そんな兄の様子を、スコールはラグナに抱えられてじっと見詰めている。
ひくひくと鼻の頭が震え、ラグナの足に揺れる尻尾が当たって、彼も段々とこの真っ白な世界に興味が沸いて来たらしい。


「お前も行くか?スコール」


そう言ってラグナがもう一度、そうっとスコールの足を地面に下ろしてやると、スコールは冷たい感触にかピクッと足を引っ込める仕草を見せるが、今度は着地に成功した。
足元の冷たい感触と、まとわりつく雪の感触が不思議なのか、スコールはしきりに自分の足元を気にしている。
鼻先についた雪に、ぷしゅっ、とくしゃみを漏らすのが、ラグナの笑いを誘った。

そんな弟の下に、レオンが駆け寄って来た。
被せた筈の耳つき帽子が取れ、濃茶色の鬣が露わになった上、すっかり雪塗れになっている。


「レオン、帽子どこやったんだ?」
「がう?」
「えーと……あ、あったあった」
「ぐぅ、がうぅ。ぎゃぅう」
「ぐるぅ……」


ラグナが雪の上に忘れられた帽子を回収している間に、レオンはスコールにじゃれ始めている。
緊張している様子の弟を宥めるように、レオンはスコールの頬をしきりに舐めていた。
スコールはその感触に目を細めつつ、尻尾をゆらゆらと揺らす。

レオンに改めて帽子を被せると、レオンは弟を促す仕草をしながら、再び雪の中へ。
スコールもそれを追って、レオンが作った雪道に入り、きょろきょろと辺りを見回しながら兄の後ろをついて行く。
そしてラグナも、楽しそうに雪遊びを始めた子供たちを追いながら、


「は~、さっみぃ!」


白い息を吐きながら出て来た台詞は、この乾いた寒空によく響いた。
けれども、その赤らんだ顔は誰が見ても楽しそうで、彼の心は、まるで雪解けの春のように温かい。

サバンナ生まれの仔ライオンが、都会の真ん中で、雪遊びをしている。
サバンナでも稀に雪が降る事はあると言うが、こんなにも積雪になる事は、そう滅多にあることではないだろう。
彼等を保護する事がなればまず見る事のなかったであろう光景は、無邪気な二人の様子もあって、なんとも不思議で愛らしいものだ。

一つ大きな小山になっている雪の上に、レオンが駆け上って行く。
追ってスコールもその天辺に着くと、二人揃ってきょろきょろと辺りを見回して、二対の蒼がラグナを捉えた。
強い後ろ足が山の頂点を蹴って、ラグナへと跳びかかる。


「うぉおっ」


小さいとはいえ、体の造りはそれなりに頑丈な“ライオン”である。
その二人分の体重が一緒に覆い被さって来て、ラグナは全身でそれを受け止めながら、雪の上に倒れ込んだ。
パウダースノーとまではいかずとも、乾燥した空気のお陰か、雪が柔らかかったのが幸いだった。

二人の仔ライオンを腹に乗せ、ラグナは重い雲に覆われた空を見て笑う。
そんなラグナの顔を、レオンとスコールがぺろぺろと舐めて、ざらついた舌の感触にラグナは眉尻を上げながら起き上がった。


「ふう。あーあ、二人ともすっかり雪まみれだな」
「がう」
「ぐぅー」
「楽しかったか、そっかそっか」


二人の喉元を擽ってやれば、ぐるぐると嬉しそうな音が鳴る。

このままいつまでも遊ばせてやりたい気持ちもあったが、二人の足を触ってみると、肉球が冷たくなっている。
靴の訓練はまだしていない筈だが、こう言う事もあると思えば、準備はしても良いのだろうか。
夏だって地面は熱くなるもんなと思いつつ、ラグナは二人を抱いて立ち上がる。


「一杯遊んだし、今日は此処までにすっか。あんまり寒いとこにいると、風邪ひいちゃうかも知れないしな」
「がぁう」
「クリスマスに風邪ひいちゃ大変だ。うちに帰って、温かいミルク飲もうぜ」
「ぐぅ、がうぅ」
「そんで、今日の晩飯は豪華だからな、楽しみにしてろよ~」


両腕で包み込むように二人の体を抱いて、公園を後にする。

公園のあちこちに残った遊びの跡は、またちらつき始めた雪によって、きっと覆われてしまうのだろう。
それでも、初めての雪で遊んだ経験が、子ども達の忘れられない思い出になれば良いと思った。
そして来年には、きらきらと輝く木の下で、笑う兄弟が見れたら良いなと願いながら。




メリークリスマス!で久しぶりにけものびとが書きたくなったので。
あまりクリスマスと関係ない中身のような気がするけど。

サバンナにも雪が降ることはあるし、10年に1度あるかないかの積雪もあるんだそうで。
でもレオンとスコールは雪を見た事はなかったし、勿論触った事もなかったから、朝から「ナニアレ?」って言う感じ。
雪の中で遊ぶ動物の動画を色々見回りましたが、取り敢えず、かわいい。

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