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2025年08月11日

[クラレオ]お楽しみは不憫の後で

  • 2025/08/11 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



間の悪いこともあるものだ、と両手に抱えた荷袋を見ながら思う。

今日と言う日を当人が楽しみにしていたかはともかく、ちょっとした宛くらいにはしていただろうに、よりにもよって今朝から熱を出すとは。
熱を出したら大人しく休め、と言う方針の部署であるので、無理をさせる必要がなかったのは幸いだが、同僚たちが持ち寄った品々は、残念ながら彼ら自身の手で本人に渡すことは出来なかった。
渡した時の反応を見たかった、と言う人はいるが、かと言って、体調不良の人間の下に、大人数が押しかけるのも良くない。
代表として、彼を良く知る人物としてレオンに任されることになったのは、当然と言うべきか、仕方ないと言うべきか、ともあれ自然な流れではあったのだろう。

鉄筋コンクリート製の四階建アパートの一番上の奥に、クラウドは住んでいる。
簡素な打ちっぱなしの外観をした其処は、外見は中々に年季が入っているが、中は人が出入りするごとに清掃修復され、必要であれば設備も見直されるらしく、壁の厚みもあって住人にとっては随分快適なのだとか。
唯一クラウドが愚痴を垂れる事と言えば、エレベーターが設置されていないことで、最奥に住んでいる人間にとってはそれだけが不便とのこと。
それでも周辺環境や日当たりの立地条件などが良く、要所への交通アクセスも悪くないので、物件としては人気がある。

階段を四階まで上がり切ったレオンは、成程、これは疲れている時には堪える、と思う。
幾ら若い年齢であると言っても、一日の就労を終えた後にこれは面倒だろう。
自宅のマンションにエレベーターがあることの有難みを、レオンは此処に来る度に感じている。

一番奥の扉の前で、レオンは鞄の中からシリンダー錠の鍵を取り出した。
それを鍵穴に差す前に、一応のチャイムを鳴らして置く。
半々の確率で予想していた通り、中からの応答はなく、まあ仕方ないなと思いながら、鍵を玄関の穴に差し込んでがちゃりと回した。

玄関ドアを開けると、中は薄暗い。
足元を見ると、見覚えのある靴が散らかるようにして残っていたから、家主が出掛けている訳ではなさそうだ。
レオンはドアを閉めると、知った位置にある電気のスイッチを手探りに探し、壁についているそれをパチリと押す。
辺りが明るくなると、短い廊下の横についている簡素なキッチンに、空のペットボトルが三本転がっていた。
内側に水滴が付着しているそれを見て、洗っている訳ではないことと、放置されてそれ程間がないことを読み取る。


「邪魔するぞ、クラウド」


一応の断りを入れてから、レオンは靴を脱いだ。

キッチン向こうのドアを開ければ、家主が日々を暮らす居住室がある。
其処も真っ暗になっていて、レオンはドアの傍にあるスイッチを切り替えた。
天井の電気が明々と照り、雑然とした部屋の中で、角隅にあるベッドにこんもりとした山が出来ているのを見付ける。


「クラウド」


シーツに潜り込んでいる人物の名を呼べば、唸るような声が聞こえた。
それはしばらくうごうごとベッドの上で身じろいだ後、胡乱な目をしてのっそりと起き上がった。


「……あんたか」
「返事がなかったから勝手に入ったぞ」
「……ん」


家主の断りを待たずに入った事を告げれば、クラウドは気にした風もない。
それよりも、赤い顔で顰めた顔をしている辺りに、彼の体調が中々良くないことが読み取れる。

レオンは両腕に抱えていた荷物を一旦下ろした。


「皆からの誕生日プレゼントを持って来たんだが、今日はそれ所じゃなさそうだな」
「……くそ。なんだって今日なんだ……」
「日頃の不摂生かもな。食事と薬はちゃんと摂ったのか?」
「……薬は飲んだ。飯は食ってない」
「ちゃんと食え、治すにもエネルギーが必要だろう。食欲は?」
「……腹が減った感じはあるけど、作るのが面倒だ……」


起き上っているのも体が重いのだろう、クラウドはベッドに大の字で転がる。
その顔が、普段の色白さとは正反対に紅潮しているのを見て、レオンはやれやれと近付いた。
赤いクラウドの額に手を当て、自分の体温と比べてみると、中々の発熱をしていることが判る。


「高いな。薬を飲んだのはいつだ?」
「……忘れた」
「朝か昼か。夕方か?」
「あー……多分昼……?」
「それならもう五時間以上は経ってるな。飯を食っていないなら作ってやる。それから薬だ」


レオンは上着を脱ぐと、ハンガーにそれをかけて、部屋を出た。

キッチンにある冷蔵庫を開けてみると、大方の予想通り、中身は殆ど入っていない。
料理の類に全く才能がないクラウドは、専らコンビニ弁当とインスタント食品、そして外食暮らしである。
電子レンジで温めて食べられる米を見付け、鍋にそれと水を入れてしばらく煮込む。
その間に、他に何かないかと探っていると、インスタントのスープ各種が入った箱を見付けた。
顆粒で入っているそれを鍋に入れ、軽くかき混ぜながら、塩と胡椒で味を調える。
卵でもあれば入れる所だったが、冷蔵庫にそれらしきものは見付からなかった。

出来上がったコンソメ入りの粥を丼皿に移し、部屋へと戻ると、クラウドが起き上がっている。
体は怠くても、寝転がっていることに飽きたのか、彼はレオンが持って来た紙袋───同僚たちからの誕生日プレゼントを覗き込んでいた。


「クラウド、飯だ。一日何も食べてないんだろう、これ位は入れておけ」
「……どうも」


自分で準備をするのは億劫だったが、食欲がない訳ではないのだろう。
レオンがテーブルに置いた粥に、クラウドは直ぐに手を付けた。

今日一日、クラウドはとにかく、寝て過ごしていたと言う。
熱のピークは朝が最も高かったそうで、会社に休む旨を連絡した後は、薬を飲む以外の活動はほとんどしていない。
昼を過ぎた頃には空っぽの胃が主張してきたが、熱が下がっていなかった事もあり、食事の準備の為に起き上がる気になれなかった。
水分だけは欠かさず摂るように心掛けていたが、胃に入れたのはそれだけだ。

そんなクラウドにとって、レオンが作った粥は、丸一日ぶりのまともな食事である。
クラウドは丼一杯に注がれた粥を、綺麗さっぱりに平らげた。


「ふう……」
「それだけ食えるなら大丈夫そうだな。ほら、薬だ」


常備薬を差し出したレオンに、クラウドは水と一緒にそれを受け取った。
一息にそれを飲み干したクラドは、心なしかすっきりとした表情で、ベッドの端に寄り掛かる。

レオンは空になった食器を洗う為、一旦席を立った。
部屋とキッチンの間のドアは開けたまま、キッチン周りの片付けを始める。
水の流れる音の傍ら、クラウドが深々と溜息を吐いていた。


「全く、散々だ。今日は色々得が出来た筈なのに」
「まあ、そうだな。皆の事だから、プレゼントだけじゃなくて、飯に行って驕るくらいは予定にあっただろうし」
「振替は効くのか?」
「さあな。治ったら自分で聞いてみろ」


言いながらレオンは、まあ応じてくれるだろうな、と思っていた。
誕生日に熱を出して、一番うんざりとしているのはクラウドだろうし、職場の仲間たちも、クラウドの誕生日を口実にしつつ皆で飲みに行くのを楽しみにしていたのだ。
今日の所はこうした結果になってしまったが、楽しみを取り戻すことに厭を唱える者はいないだろう。
都合の擦り合わせさえ出来れば、多くはまた集まってくれる筈だ。

洗い物を終えたレオンは、部屋に戻ると、床に置いていた自分の荷物を取った。


「じゃあ、俺は帰る。もう寝飽きただろうが、熱が下がるまでは大人しくしていろよ」
「ちょっと待て」


そのまま返す踵で出て行こうとするレオンの服を、クラウドの手がしっかと捕まえる。
なんだ、とレオンが眉根を寄せながら振り返れば、判りやすく不満そうな顔が此方を見ていた。


「熱を出している恋人を置いて、そうもさっさと帰るのか、あんたは」
「伝染されたくはないからな。お前も俺がいない方が大人しく寝るだろう」
「病人だぞ。誕生日だぞ。もう少し構え、優しくしろ」
「おいこら、まとわりつくな」


服端だけでは物足りないと言わんばかりに、クラウドの腕がレオンの腰に回って来る。
厄介な甘え癖を発揮して来たな、と胡乱に目を細めるレオンだが、見下ろした男の額は赤い。
それだけでなく、捕まって寄り掛かって来る全身が火照った熱を持っているのが感じ取れた。

今日がクラウドの誕生日で、その当人が不運にも熱を出してしまっているのは事実だ。
そう考えると、如何にレオンとて、あまり素っ気なくも出来ない。
はあ、と溜息を吐いて、レオンは持っていた荷物を再び床へ下ろした。


「全く……判ったから離せ、ベッドに戻れ。ぶり返したら俺の責任になるだろう」
「そうしたら、あんたは責任を取ってくれるだろうから、それもありだな」
「……確信犯に付き合ってやる義理はない」


図太いことを言ってくれる男に、レオンは力づくで張り付く腕を剥がした。
肩を押してベッドへと押し戻すと、クラウドは渋々と布団へ戻る。

レオンも諦めに似た気分を抱きつつ、クラウドが寝転んだベッドの端へと腰を下ろす。
動いた所為で体の熱感が上がったのか、クラウドは唸るようにして枕に顔を埋めている。
そうも具合が悪いのなら、駄々を捏ねずに大人しくしていれば良いものを、と思うレオンであったが、


(……病気になると弱気になる、とは言うな。こいつにそんな柔な神経があるとも思ってないが……)


普段のことを思えば、クラウドがそうも繊細な気質であるかと言えば、少なくともレオンから見る限りは否である。
だがそれも、それを感じさせない程に普段が健康そのものであるから、と言われればそうだ。
滅多に体調を崩さない人間程、稀に熱のひとつも出ようものなら、精神的な所から参ることもある。
慣れない体調不良と言うものに、ともすれば過剰なほどに不安が募る───と言うのは、理解できない話でもなかった。

そう考えると、やはり、このまま放っておくのも聊か気が引けて来る。
また、普段は図々しいほどに抜け抜けとしてくる様子を見ている所為か、判りやすく弱っていると、此方も少々調子が狂う。

レオンは、ベッドに突っ伏しているクラウドの金色の髪に手を置いて、ぽんぽんと撫でてやった。
クラウドはしばらくそれを享受した後、首だけ動かしてレオンの方を見る。


「……優しいな。誕生日だからか?」
「お前が優しくしろと言ったんだろう。……まあ、そんな日にこんな熱を出している奴に、多少の同情はしているかもな」


そう言ってレオンが手を引こうとすると、その手をクラウドが掴んだ。
もう少し、と言わんばかりに、レオンの手は彼の頭へと戻される。
仕方なくレオンは、何処となくヒヨコを連想させるクラウドの金色の鶏冠頭をくしゃくしゃと撫でる。
クラウドはその心地良さに目を細めながら、ベッドの横に置いたプレゼントの紙袋を見た。


「あれ、あんたからのも入ってるのか」
「いや。良いものが見付からなかったから、俺から渡す物はない」


問いにレオンが答えると、碧の瞳がじとりと湿気を持って此方を見た。
拗ねたと判る表情に、存外と自分が期待されていたらしいことを知る。


「恋人の誕生日なのに……俺だってあんたに用意してるんだぞ」


後に控えるレオンの誕生日を引き合いに出して唇を尖らせるクラウドに、やれやれ、とレオンは息をひとつ。


「それは殊勝な事だが……適当なものを渡されても嬉しくないだろう、お前は」
「物に因る。別にネタ物でも面白ければ構わないし」
「そう言うのはザックスやユフィを宛にしてくれ。俺にそんな引き出しはない」
「まあ、確かにあんたがそう言うものを用意したら、誰の入れ知恵かと思うだろうな」


大喜利には向いてない、と言うクラウドに、レオンは肩を竦める。
───それで、と話を元に戻した。


「物は用意できそうになかったから、代わりに、偶には色々応じてやろうかと思っていたんだ」
「……色々って?」
「言葉の通りだな」


見上げる碧が判り易い期待で見上げるのを、レオンは否定しなかった。
事ばかりは曖昧に、好きに想像すれば良い、と言う態度は、暗に“なんでも”と示しているに等しい。

爛々とした碧が興奮したように起き上ってきたが、レオンはその後頭部を押さえてベッドへ潰し戻した。


「だが、この有様じゃあな」
「なんでもしてくれるなら、今からでも」
「今からか。それだと、病人の世話ならしてやるが、それで消費しても良いのか?」
「……そいつは勿体ない」


レオンにとって、今日のクラウドは病人なのだ。
熱も下がり切っていない、朝から調子の悪い人間を相手に、レオンはその身体を酷使させるつもりもない。
看病してくれと希望するなら応じても良いが、それを今日と言う日の特別特権に使って良いものか。
その特権の希少価値と言うものを、クラウドもよくよく知っているから、迂闊に消費する気にはならなかった。

クラウドはベッドに伏せた格好で、ふう、と諦めの一区切りに息を吐いた。
体がごろりと転がって、ベッド端に座ったレオンに密着して来る。
腰に腕が絡みついて、しっかりと捕まえて来るのを、レオンは好きにさせていた。


「今日の所は、このまま面倒を看てやる。病人だからな」
「……嬉しいことだな。で、今日貰える筈だったあんたからのプレゼントは、後でまた貰えるのか」
「そうだな。ちゃんと風邪が治ったら」
「いつでも良いのか」
「仕事に支障が出ない範囲にしろよ」


それなら好きな時にすれば良い、と言うレオンの背中に、ぐりぐりとクラウドの頭が押し付けられる。
いつになく甘えたな仕草を繰り返すのもやはり体調不良の所為だろう。
その様子に自分が絆されている所があるのも否定は出来ないな、とレオンは思う。

しばらくの静寂の内に、クラウドはうつらうつらとし始めていた。
空っぽだった胃袋にもエネルギー源が入り、薬も効いてきて、熱の感覚も多少は収まったのか、頬は相変わらず赤みが強いものの、唸るような様子はない。
その癖、レオンにしがみついたままの腕は解かれる気配がなかった。
今日はこのまま此処で寝るしかないか、とレオンは今夜の寝床に諦めを持ちつつ、


(……俺も飯を食って置けば良かったな。このままだと動けない)


そもそもレオンは、クラウドに最低限の世話をしたら帰るつもりだったのだ。
だから自分の腹が空っぽの状態なのも気にしていなかったのだが、このままだと、それを宥めることも出来ない。
しかし、腰に絡む腕はしっかりとした力でレオンを捕まえていて、当分は離れそうになかった。
無理に解かせようとすると、駄々を捏ねる子供のように、より強い力がかかって来る。

はあ、とレオンは何度目かの溜息を吐いて、くっつき虫の頭をぽんぽんと撫でてやった。
それだけで何処か満足そうに眦が和らぐ恋人に、まあ良いか、と思う事にしたのだった。





クラウドの誕生日と言うことで、クラレオ。

うちのレオンは基本的にクラウドに対してドライですが、なんだかんだ優しくしてしまう所もあるので、そう言うのが見たいなぁとか思いまして。
現パロならKH世界よりも優しくし易いかな、とか思ったんですが、やっぱりドライ。でも甘いと言う感じに。
そして誕生日に風邪っぴきな不運なクラウドですが、後日にしっかり貰えるもの貰って堪能するので結果オーライで。

[クラスコ]狭間の宵に約束

  • 2025/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



夢中になって熱を貪っていると、時間を忘れてしまう。
夏休みだからと、溺れるようにお互いを求めあって、日付が変わるまで───変わってもまだ交わっている。

シーツの海に埋もれた恋人は、くったりとしどけなく、淡い吐息を繰り返している。
繋がった場所はまだ熱を持っていて、クラウドを離そうとしなかった。
絡んだが足が、もっと、とねだっているのが感じ取れたが、スコールの体力はそろそろ底を着くだろう。
きちんと休ませてやらないと、明日が動けなくなってしまう。


「スコール。スコール」
「ふ……あ……?」


目元にかかる前髪を指で払いながら、努めて優しく声をかける。
スコールは夢現な表情で、ゆらゆらと揺れる蒼灰色をゆっくりと此方に向けた。


「すまない、もう日が変わっていた。疲れただろう」
「ん、ぅ……」


クラウドの言葉に、スコールの身体がきゅうと締め付けて訴える。
そんなの良いから、もっとして、と。

締め付けられた欲望がどくどくと脈を打つのが判ったが、クラウドは燻ぶる熱をなんとか堪える。
普段、理性が強くて自ら誘ってくることのない年下の恋人は、前後不覚になるまで溺れてようやくクラウドに甘えて来る。
それはとても愛らしく、希望に応えるのは決して吝かではないのだが、これ以上続けていたらクラウドはスコールを朝まで揺さぶってしまうだろうし、そうなれば支障が出るのはスコールだ。
起きるのは昼過ぎになっても構わないが、腰が痛いとか、喘ぎ過ぎて喉が痛いとか、不機嫌になってしまう様子が目に浮かぶ。

だが、慮られている当人はと言えば、そんな事はすっかり頭から抜け落ちている。
蕩けた瞳がじっとクラウドを見付け、早く続きをとねだっていた。
クラウドはそれに眉尻を下げて微笑みながら、腕を首に絡めて来るスコールの眦にキスをする。
それから中に納めていたものをゆっくりと抜くと、スコールはいやいやと頭を振ってくれた。


「クラウド、や……」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、明日に響く」
「あした……」


そんなの、と言いたげにスコールの目がクラウドを見詰める。
───と、その目が、はた、としたように理性の光を取り戻した。


「明日……」
「まあ、日付が変わってるから、今日か」
「……」


クラウドの独り言な訂正を聞き流して、スコールの視線がベッドサイドの時計に向かう。

デジタル時計の数字はしっかり0時過ぎを指していた。
時間を示す大きな数字の横には、今日の月日と、室内の温度湿度が表示されている。
冷房の効いたの温度は快適そのものを示しているが、交わり合った体で感じる空気は、汗ばんでいてじっとりと感じられた。

スコールはしばらくの間、その時計を見詰めた後、


「……クラウド」
「ん?」
「………」


名前を呼ぶので返事をすると、スコールの視線が此方へと戻る。
じ、と子猫に似たブルーグレイの瞳が、機を伺うようにクラウドを見詰めていた。


「あんた……何か、して欲しい事、とか……ないのか」
「して欲しい事?」
「……なんでも、するから……」


じわりと顔を赤くしながら言ったスコールに、とんでもないことを言い出した、とクラウドは思った。
滲む羞恥を堪えながら、精一杯に目を反らすまいと、上目遣いに言う様子も含めて、中々に質が悪い。
が、当人はそんな事はきっと知りもしないのだろう。

クラウドは現金な体が早々に期待の反応を示すのを抑える努力に意識を割きつつ、スコールの髪を柔く撫でる。


「そうだな。まあ、時間も時間だから、そろそろ休んで欲しいとは思ってる」
「……そう言うのじゃない」


スコールは眉根を寄せて、判りやすく不満げにクラウドを見て言った。
クラウドの首に絡めた腕が、身を寄せて欲しいと引っ張るので、クラウドは希望に沿ってやる。
空気の通る隙間を嫌うように、肌と肌がぴったりと密着すると、胸の奥で心臓がとくとくと逸っているのが判った。


「あんたのしたいこと。その、舐め、るとか、う、後ろから、とか」
「無理するな、スコール。顔が真っ赤だぞ」
「う、るさい……」


灯りを点けていない、暗がりの部屋の中でも判る程、スコールの顔は赤くなっていた。
“クラウドがしたいこと”を具体的に挙げて見せながら、彼自身の精神は中々に限界を迎えているのだろう。
クラウドはそれをあやすように、火照ったスコールの首筋にキスをした。


「今夜はもう十分、付き合って貰った。だから、今日はもう休んで欲しい、かな」
「………」


クラウドの言葉に、スコールは唇を尖らせる。
それでも、何度も肌にキスをして、ゆっくりと髪を撫でて宥めていると、段々とスコールの身体から力が抜けて来る。
しがみつくように首に絡んでいた腕も、次第に添えられている程度になって行った。

恋人がくれる緩やかな愛撫に、心地良さからか目を細めているスコール。
これなら、このまま寝付いてくれるだろう、とクラウドが思っていると、


「……じゃあ……明日───じゃなくて、今日の、夜……」


スコールは言って、赤らんだ目でクラウドを見詰める。
その瞳が、おねだりと言うよりは、懇願のようにも見えて、今夜はどうにも頑固だな、と感じた。

その理由は、スコールの方から教えてくれた。


「……今日……あんたの、誕生日……」


スコールの声は消え入るように小さかったが、唇が耳元近くにあったお陰で、きちんと聞こえた。
それを聞いてからクラウドが時計を見ると、月日の数字は8月11日を指しており、そう言えばそんな日だった、と遅蒔きに気付く。

自分がらしくもないことを言い出した理由を、クラウドが理解したと察したか、スコールの喉から絞るように唸り声が漏れる。
甘えにクラウドの首に絡んでいた腕も引っ込んで、スコールは枕を手繰り寄せて、それにしがみついて丸まってしまった。
真っ赤になった耳や首が、濃茶色の髪の隙間から覗いている。

クラウドはいじらしい恋人の姿に、くつりと笑みを零しながら、スコールの耳朶に触れる。
柔い耳朶に指が滑る感触に、敏感な体がびくりと反応した。


「成程。お前からのプレゼントだった訳だ」
「……別に……そんのじゃ、ない……」
「断って悪かった」
「……うるさい」


詫びれば益々、羞恥心と引っ込みがつかなくなって行くのだろう、スコールは貝のように丸くなった。
耳朶に触れるクラウドの指も嫌がって、枕に埋もれさせた頭を左右に振って払おうとしている。
クラウドはそんなスコールを、枕ごと包み込むように抱き締めて、ピアス穴の開いた耳にキスをする。


「そうだな。今はもう休んだ方が良いから、このプレゼントは、また改めて貰って良いか?」


恥ずかしがり屋の恋人が、勇気を振り絞って差し出してくれたプレゼントだ。
ついさっきまで、今日と言う日をすっかり忘れていたクラウドであるが、折角のバースディプレゼントを断る理由は何処にもない。

改めて、プレゼントを受け取りたいと言うクラウドを、蒼灰色が覗き込むように肩越しに見る。
お喋りな瞳はすっかりヘソを曲げていることがありありと浮かんでいたが、さりとて、自身も沸騰しそうな程の恥ずかしさを堪えて言ったことを、すっかりなかった事にするのも嫌だったのか。
スコールはしばらく沈黙した後、枕を手放し、もぞもぞと体の向きを変えた。
クラウドと向き合う形になると、クラウドを抱き枕にして、腕の中に納まってくれる。


「……なんでも、する……」
「ああ。だが、無理はしなくて良いぞ」
「……ん」


すり、とスコールの頬がクラウドの首筋に寄せられる。
甘える猫のようなその仕草に、クラウドはくすぐったさに口元を緩めた。

なんでもする、とスコールは意気込んでくれているが、彼はとても初心な質だ。
元々、他人の体温と言うものを苦手としている節があるスコールだから、こうして肌を重ね合うことに抵抗感が薄れるまでにも、時間はかかった。
性行為については年相応に知識と好奇心はあるようだが、実際にそれをする段になると、まだまだデリケートな所がある。
手でする事も、時にはしゃぶって貰うのも、クラウドが手解きするように教えたばかりと言う段階だ。
だから普段のセックスと言うのは、クラウドがリードをしながらも、スコールを怯えさせないように特定の段取りを踏むのが恒例となっていた。

元よりスコールを怯えさせるのも、嫌がることをさせるのも本意ではない。
だからクラウドはそれで十分だったし、自分が教えた事をスコールが精一杯に反芻しながら応じようとしている姿が見れれば愛しかった。
───が、スコールはスコールで、思う所もあったのかも知れない。
余りにも大胆な誕生日プレゼントを差し出してきたのは、それが所以なのだろう、恐らくではあるが。

ともあれ、今夜は一先ず此処までだ。
十数時間後に熱を再び共有する約束をした事に、クラウドの身体が今から勝手に興奮を覚えているが、それは隠しておく。


「なんでもして貰うなら、また長くなりそうだからな。今日はやっぱり此処までだ」
「……あんた、何させる気なんだ……」
「お前が怖がることはしない」
「……怖がってない」


胡乱な目で見上げるスコールに、クラウドが宥めて言えば、年下の恋人は判りやすく拗ねた。
それきり、スコールはクラウドの肩口に額を押し付けて動かなくなる。
このまま寝てやる、と言外の主張に、クラウドはその背中をぽんぽんと撫でてやった。

スコールはしばらく落ち着く姿勢を探していたが、やがて収まる所に収まると、そのまま動かなくなった。
熱の昂ぶりは随分と温くなり、あとは触れ合った体温がゆるゆると伝染し合うばかり。
クラウド自身、このまま寝入りそうだな、と思っていると、


「……クラウド」
「ん?」
「……誕生日……おめでと……」


スコールはクラウドの身体に顔を押し付けたまま、ぼそぼそとくぐもった声でそう言った。


「……寝たら、言い忘れそう、だから……」
「ああ。ありがとう、スコール」


そう言えば、確かにまだ言われていなかった、とクラウドは小さく笑う。
中々の思い切ったプレゼントが差し出されたものだから、すっかりそれに意識が持って行かれていた。
そのまま言われずに過ぎても何も問題はなかっただろうが、律儀な恋人の祝いの言葉に、クラウドも改めて感謝の言葉を返す。

クラウドの腕の中で、しばらくの間、スコールは唸るような声を小さく零していた。
時間が経つにつれ、自分の言動を振り返って再認識したのか、己の大胆さに羞恥心が再燃したのだろう。
しかしクラウドはそれを受け取ることを先に約束したばかりだから、やっぱりなしだ、とも言えまい。
寝て忘れるような性格でもないから、きっと一眠りして起きた後でも、この会話は彼の頭の中に残っているのだ。

そんなスコールを、クラウドは小さな子供をあやすように、何も言わずに頭を撫で続ける。
それがどれ程の効果を齎したのかは判らないが、次第にスコールの呼吸は落ち着いて、いつしか寝息が聞こえてくるようになった。
クラウドは耳元にその吐息を聞きながら、


(さて────今夜、どうするかな)


そんな事を考えつつも、まあ突飛な事はするまいな、と思う。
幾ら本人から“なんでもする”と言って貰っているとは言え、スコール自身にその具体的な所は浮かんでいないに違いない。
彼がそれ位には存外と真っ新であることを、クラウドは良く知っている。

やはり先ずは、いつも通りにゆっくりと。
丁寧に包装されたプレゼントは、ゆっくりと丁寧に、紐解いていく方が良いだろう。





クラウド誕生日おめでとう!のクラスコです。

無自覚に大胆過ぎるスコールに、色々欲を浮かばせつつも、いやいや落ち着けとなるクラウドです。
でもスコールに色々教えて覚えさせてるのもクラウドなので、何かひとつ位は初めてやることを教えたり、ちょっとだけ自分のしたいようにする事はあるかも知れない。

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