サイト更新には乗らない短いSS置き場

Entry

[クラスコ]狭間の宵に約束

  • 2025/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



夢中になって熱を貪っていると、時間を忘れてしまう。
夏休みだからと、溺れるようにお互いを求めあって、日付が変わるまで───変わってもまだ交わっている。

シーツの海に埋もれた恋人は、くったりとしどけなく、淡い吐息を繰り返している。
繋がった場所はまだ熱を持っていて、クラウドを離そうとしなかった。
絡んだが足が、もっと、とねだっているのが感じ取れたが、スコールの体力はそろそろ底を着くだろう。
きちんと休ませてやらないと、明日が動けなくなってしまう。


「スコール。スコール」
「ふ……あ……?」


目元にかかる前髪を指で払いながら、努めて優しく声をかける。
スコールは夢現な表情で、ゆらゆらと揺れる蒼灰色をゆっくりと此方に向けた。


「すまない、もう日が変わっていた。疲れただろう」
「ん、ぅ……」


クラウドの言葉に、スコールの身体がきゅうと締め付けて訴える。
そんなの良いから、もっとして、と。

締め付けられた欲望がどくどくと脈を打つのが判ったが、クラウドは燻ぶる熱をなんとか堪える。
普段、理性が強くて自ら誘ってくることのない年下の恋人は、前後不覚になるまで溺れてようやくクラウドに甘えて来る。
それはとても愛らしく、希望に応えるのは決して吝かではないのだが、これ以上続けていたらクラウドはスコールを朝まで揺さぶってしまうだろうし、そうなれば支障が出るのはスコールだ。
起きるのは昼過ぎになっても構わないが、腰が痛いとか、喘ぎ過ぎて喉が痛いとか、不機嫌になってしまう様子が目に浮かぶ。

だが、慮られている当人はと言えば、そんな事はすっかり頭から抜け落ちている。
蕩けた瞳がじっとクラウドを見付け、早く続きをとねだっていた。
クラウドはそれに眉尻を下げて微笑みながら、腕を首に絡めて来るスコールの眦にキスをする。
それから中に納めていたものをゆっくりと抜くと、スコールはいやいやと頭を振ってくれた。


「クラウド、や……」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、明日に響く」
「あした……」


そんなの、と言いたげにスコールの目がクラウドを見詰める。
───と、その目が、はた、としたように理性の光を取り戻した。


「明日……」
「まあ、日付が変わってるから、今日か」
「……」


クラウドの独り言な訂正を聞き流して、スコールの視線がベッドサイドの時計に向かう。

デジタル時計の数字はしっかり0時過ぎを指していた。
時間を示す大きな数字の横には、今日の月日と、室内の温度湿度が表示されている。
冷房の効いたの温度は快適そのものを示しているが、交わり合った体で感じる空気は、汗ばんでいてじっとりと感じられた。

スコールはしばらくの間、その時計を見詰めた後、


「……クラウド」
「ん?」
「………」


名前を呼ぶので返事をすると、スコールの視線が此方へと戻る。
じ、と子猫に似たブルーグレイの瞳が、機を伺うようにクラウドを見詰めていた。


「あんた……何か、して欲しい事、とか……ないのか」
「して欲しい事?」
「……なんでも、するから……」


じわりと顔を赤くしながら言ったスコールに、とんでもないことを言い出した、とクラウドは思った。
滲む羞恥を堪えながら、精一杯に目を反らすまいと、上目遣いに言う様子も含めて、中々に質が悪い。
が、当人はそんな事はきっと知りもしないのだろう。

クラウドは現金な体が早々に期待の反応を示すのを抑える努力に意識を割きつつ、スコールの髪を柔く撫でる。


「そうだな。まあ、時間も時間だから、そろそろ休んで欲しいとは思ってる」
「……そう言うのじゃない」


スコールは眉根を寄せて、判りやすく不満げにクラウドを見て言った。
クラウドの首に絡めた腕が、身を寄せて欲しいと引っ張るので、クラウドは希望に沿ってやる。
空気の通る隙間を嫌うように、肌と肌がぴったりと密着すると、胸の奥で心臓がとくとくと逸っているのが判った。


「あんたのしたいこと。その、舐め、るとか、う、後ろから、とか」
「無理するな、スコール。顔が真っ赤だぞ」
「う、るさい……」


灯りを点けていない、暗がりの部屋の中でも判る程、スコールの顔は赤くなっていた。
“クラウドがしたいこと”を具体的に挙げて見せながら、彼自身の精神は中々に限界を迎えているのだろう。
クラウドはそれをあやすように、火照ったスコールの首筋にキスをした。


「今夜はもう十分、付き合って貰った。だから、今日はもう休んで欲しい、かな」
「………」


クラウドの言葉に、スコールは唇を尖らせる。
それでも、何度も肌にキスをして、ゆっくりと髪を撫でて宥めていると、段々とスコールの身体から力が抜けて来る。
しがみつくように首に絡んでいた腕も、次第に添えられている程度になって行った。

恋人がくれる緩やかな愛撫に、心地良さからか目を細めているスコール。
これなら、このまま寝付いてくれるだろう、とクラウドが思っていると、


「……じゃあ……明日───じゃなくて、今日の、夜……」


スコールは言って、赤らんだ目でクラウドを見詰める。
その瞳が、おねだりと言うよりは、懇願のようにも見えて、今夜はどうにも頑固だな、と感じた。

その理由は、スコールの方から教えてくれた。


「……今日……あんたの、誕生日……」


スコールの声は消え入るように小さかったが、唇が耳元近くにあったお陰で、きちんと聞こえた。
それを聞いてからクラウドが時計を見ると、月日の数字は8月11日を指しており、そう言えばそんな日だった、と遅蒔きに気付く。

自分がらしくもないことを言い出した理由を、クラウドが理解したと察したか、スコールの喉から絞るように唸り声が漏れる。
甘えにクラウドの首に絡んでいた腕も引っ込んで、スコールは枕を手繰り寄せて、それにしがみついて丸まってしまった。
真っ赤になった耳や首が、濃茶色の髪の隙間から覗いている。

クラウドはいじらしい恋人の姿に、くつりと笑みを零しながら、スコールの耳朶に触れる。
柔い耳朶に指が滑る感触に、敏感な体がびくりと反応した。


「成程。お前からのプレゼントだった訳だ」
「……別に……そんのじゃ、ない……」
「断って悪かった」
「……うるさい」


詫びれば益々、羞恥心と引っ込みがつかなくなって行くのだろう、スコールは貝のように丸くなった。
耳朶に触れるクラウドの指も嫌がって、枕に埋もれさせた頭を左右に振って払おうとしている。
クラウドはそんなスコールを、枕ごと包み込むように抱き締めて、ピアス穴の開いた耳にキスをする。


「そうだな。今はもう休んだ方が良いから、このプレゼントは、また改めて貰って良いか?」


恥ずかしがり屋の恋人が、勇気を振り絞って差し出してくれたプレゼントだ。
ついさっきまで、今日と言う日をすっかり忘れていたクラウドであるが、折角のバースディプレゼントを断る理由は何処にもない。

改めて、プレゼントを受け取りたいと言うクラウドを、蒼灰色が覗き込むように肩越しに見る。
お喋りな瞳はすっかりヘソを曲げていることがありありと浮かんでいたが、さりとて、自身も沸騰しそうな程の恥ずかしさを堪えて言ったことを、すっかりなかった事にするのも嫌だったのか。
スコールはしばらく沈黙した後、枕を手放し、もぞもぞと体の向きを変えた。
クラウドと向き合う形になると、クラウドを抱き枕にして、腕の中に納まってくれる。


「……なんでも、する……」
「ああ。だが、無理はしなくて良いぞ」
「……ん」


すり、とスコールの頬がクラウドの首筋に寄せられる。
甘える猫のようなその仕草に、クラウドはくすぐったさに口元を緩めた。

なんでもする、とスコールは意気込んでくれているが、彼はとても初心な質だ。
元々、他人の体温と言うものを苦手としている節があるスコールだから、こうして肌を重ね合うことに抵抗感が薄れるまでにも、時間はかかった。
性行為については年相応に知識と好奇心はあるようだが、実際にそれをする段になると、まだまだデリケートな所がある。
手でする事も、時にはしゃぶって貰うのも、クラウドが手解きするように教えたばかりと言う段階だ。
だから普段のセックスと言うのは、クラウドがリードをしながらも、スコールを怯えさせないように特定の段取りを踏むのが恒例となっていた。

元よりスコールを怯えさせるのも、嫌がることをさせるのも本意ではない。
だからクラウドはそれで十分だったし、自分が教えた事をスコールが精一杯に反芻しながら応じようとしている姿が見れれば愛しかった。
───が、スコールはスコールで、思う所もあったのかも知れない。
余りにも大胆な誕生日プレゼントを差し出してきたのは、それが所以なのだろう、恐らくではあるが。

ともあれ、今夜は一先ず此処までだ。
十数時間後に熱を再び共有する約束をした事に、クラウドの身体が今から勝手に興奮を覚えているが、それは隠しておく。


「なんでもして貰うなら、また長くなりそうだからな。今日はやっぱり此処までだ」
「……あんた、何させる気なんだ……」
「お前が怖がることはしない」
「……怖がってない」


胡乱な目で見上げるスコールに、クラウドが宥めて言えば、年下の恋人は判りやすく拗ねた。
それきり、スコールはクラウドの肩口に額を押し付けて動かなくなる。
このまま寝てやる、と言外の主張に、クラウドはその背中をぽんぽんと撫でてやった。

スコールはしばらく落ち着く姿勢を探していたが、やがて収まる所に収まると、そのまま動かなくなった。
熱の昂ぶりは随分と温くなり、あとは触れ合った体温がゆるゆると伝染し合うばかり。
クラウド自身、このまま寝入りそうだな、と思っていると、


「……クラウド」
「ん?」
「……誕生日……おめでと……」


スコールはクラウドの身体に顔を押し付けたまま、ぼそぼそとくぐもった声でそう言った。


「……寝たら、言い忘れそう、だから……」
「ああ。ありがとう、スコール」


そう言えば、確かにまだ言われていなかった、とクラウドは小さく笑う。
中々の思い切ったプレゼントが差し出されたものだから、すっかりそれに意識が持って行かれていた。
そのまま言われずに過ぎても何も問題はなかっただろうが、律儀な恋人の祝いの言葉に、クラウドも改めて感謝の言葉を返す。

クラウドの腕の中で、しばらくの間、スコールは唸るような声を小さく零していた。
時間が経つにつれ、自分の言動を振り返って再認識したのか、己の大胆さに羞恥心が再燃したのだろう。
しかしクラウドはそれを受け取ることを先に約束したばかりだから、やっぱりなしだ、とも言えまい。
寝て忘れるような性格でもないから、きっと一眠りして起きた後でも、この会話は彼の頭の中に残っているのだ。

そんなスコールを、クラウドは小さな子供をあやすように、何も言わずに頭を撫で続ける。
それがどれ程の効果を齎したのかは判らないが、次第にスコールの呼吸は落ち着いて、いつしか寝息が聞こえてくるようになった。
クラウドは耳元にその吐息を聞きながら、


(さて────今夜、どうするかな)


そんな事を考えつつも、まあ突飛な事はするまいな、と思う。
幾ら本人から“なんでもする”と言って貰っているとは言え、スコール自身にその具体的な所は浮かんでいないに違いない。
彼がそれ位には存外と真っ新であることを、クラウドは良く知っている。

やはり先ずは、いつも通りにゆっくりと。
丁寧に包装されたプレゼントは、ゆっくりと丁寧に、紐解いていく方が良いだろう。





クラウド誕生日おめでとう!のクラスコです。

無自覚に大胆過ぎるスコールに、色々欲を浮かばせつつも、いやいや落ち着けとなるクラウドです。
でもスコールに色々教えて覚えさせてるのもクラウドなので、何かひとつ位は初めてやることを教えたり、ちょっとだけ自分のしたいようにする事はあるかも知れない。

Pagination

Utility

Calendar

10 2025.11 12
S M T W T F S
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

Entry Search

Archive

Feed