サイト更新には乗らない短いSS置き場

Entry

[セシスコ]閉じた世界で熱反射

  • 2025/08/08 22:25
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



モーグリショップで買い物を済ませたスコールが、秩序の聖域にある屋敷に戻ってから間もなく、遠出の探索に出ていた仲間たちが帰還した。

探索チームは、ウォーリア・オブ・ライトをリーダーに、クラウド、セシル、バッツと言う、年若い秩序の戦士たちの中では年上に与するメンバーだ。
長旅には慣れている面々と言って良かったが、往復の途に約一週間、目的地での探索調査に約四日───総じて十日の長丁場だったお陰で、さしもの四人も疲れた様子を隠せない。
移動手段がテレポ石で繋がっているポイントを除けば徒歩なのだから、足もすっかり棒だった。
玄関を潜って安全領域に入ったと安堵すると、あのウォーリアでさえ、重い体を壁に預けた程である。

スコールは買って来たばかりだったポーションを人数分取り出して、それぞれに配った。


「……使え。休む前に全員倒れそうだぞ、あんたたち」
「はは、流石に否定できないな。有難く貰っとくよ」


スコールが差し出したポーションを受け取って、バッツは早速その蓋を開けた。
マラソンの後にスポーツドリンクを一気飲みするように、バッツはぐびりと中身を煽る。
他の三人も同じように、疲れ切った喉を潤して、ようやくの一息を吐き出した。

それでもまだ疲労の色濃い四人を見渡して、スコールは湯殿が整っていた筈だと思い出す。


「あんた達、一回風呂に入って来い。それから寝た方がマシになる」
「風呂か……正直に言うと、それも面倒くさいんだが……」
「クラウド、少しだけ頑張ろう。昨日は雨に打たれたし、その前は泥場で戦ったんだ。洗った方が気分が良いよ、きっと」


疲れから惰性になるクラウドを、セシルが眉尻を下げて宥める。
その言葉を聞いて、どうやら帰りの旅路は相当な悪路だったらしい、とスコールは思った。

ウォーリアが重い体を壁から起こし、兜を外す。
普段から特に手入れをしている訳でもないだろうが、それでも銀糸が草臥れているように見えて、スコールは目を細める。
あのウォーリアでさえ、のべ十日の旅路は堪えたのだろう。
それでも、休むまでにこれだけは確認しておきたい、とウォーリアが此方を見て、


「スコール。此方に変わりはなかったか?他の皆はどうしている?」
「特に問題は起きていない。今日はジタンとルーネスとティナが素材を集めに行ってる。後は俺を含めて待機、フリオニールとティーダはリビングにいる筈だ」
「判った、留守をありがとう」


離れている間、聖域に残った仲間たちが無事だったことを聞いて、ウォーリアの目が微かに安堵に細められる。
そんなウォーリアの背中を押したのは、バッツだった。


「ほらほら、リーダーも早く風呂に入って休もう。一番働いてたんだからさ」
「そうだね。クラウドも行こう」
「……仕方ない。此処で寝落ちる訳にもいかないしな」


クラウドが座り込んでいた体をよいせと起こして、四人は浴場へと向かう。
スコールはその背中を見送った後、抱えた荷物を整理する為、物置倉庫へと向かった。




十日ぶりに仲間が勢揃いしたお陰か、夕食は久しぶりに賑々しかった。
夕食の当番だったフリオニールとスコールは、仲間たちの帰還の労いに、ボリュームを増やした料理を振る舞う。
長い期間の予定を組むと、詰める荷物の限界との戦いで、食糧などは嵩張る為に絞ることになる。
現地調達が可能な場所なら幾らか望みは繋げるが、今回はそう言う予定ではなく、どちらかと言えばひもじくなることを見越さねばならなかった。
帰りの足が重く、お陰で悪路が余計に堪えたのもある。
そんな旅路を終えてようやく帰ってきた仲間たちに、鱈腹食べられる食事と言うのは、何よりの喜びを齎した。

そして食事を終えて間もなく、クラウドとバッツは欠伸を堪えられなくなり、早々に部屋へと帰って行った。
ウォーリアとセシルもそれに続き、彼らにはとにもかくにも休養が必要だと、誰もがそれを快く見送る。
探索先で得たことを共有するのは、明日に回されることになった。

スコールも、リビングダイニングの大きな置時計が夜の十時を鳴らす頃に、自室に引き上げた。
待機をしていたこともあって、疲れていた訳でもないので眠気はないが、リビングでは今、ティーダとジタンがボードゲームに興じている。
その賑やかさから逃げるようにして、部屋に引き籠って本でも読もうと思ったのだ。

一階奥の書庫から持ち出してきた本を片手に、スコールは部屋のある二階に上がった。
五つ並んだ部屋の真ん中、其処がスコールの寝所になる。
手に持った三冊の本を眺め、さてどれから読んでみようかと選んでいたスコールは、自室の前まで来た所で、その扉を塞ぐように寄り掛かっている人物に気付いた。


「……セシル?」
「やあ」


どうして此処に、と首を傾げるスコールに、セシルはにこりと笑う。

セシルは夜着に身を包んでいて、一度は自分の部屋に戻ったのであろうことが伺えた。
よくよく見ると、目元には僅かに隈のようなものが浮いていて、まだ随分と疲れているのが見て取れる。
さっさと眠って休めば良いのに、とスコールは少し呆れた気持ちでセシルを見た。


「あんた、こんな所で何してるんだ。寝るんじゃなかったのか?」
「うん。そのつもりではあったんだけどね」


セシルは眉尻を下げて言いながら、体ごとまっすぐにスコールと向き合う。

顔だけを見ていると、中性的で、ともすれば女性とも見紛う程に整っているセシルだが、その体躯はしっかりとしている。
パラディンの白銀の鎧は勿論のこと、暗黒騎士の力を操る時には、全身を重鎧で包んで動く程だ。
近くで向き合うと、意外と圧力を感じる厚みがあることを、スコールはよく知っていた。

その身体がすいと近付いて来たと思ったら、本を抱えていたスコールの腕が掴まれる。
かと思ったら中々に強い力で引っ張られて、スコールは目を丸くしている内に、踏鞴を踏みながら自室の中へと連れて行かれた。


「セシル、」


掴まれた腕に伝わる力は、強い。
その理由が判らなくて戸惑っている内に、スコールの身体はしっかりとした両腕に閉じ込められていた。

ジャンクションと言う方法で身体能力を底上げしているスコールと違い、セシルの腕力は純粋なものだ。
しかし、それが直接スコールに向けられた事は、まずない。
いつだって彼は、その嫋やかにも思える見た目に違わず、スコールの身を柔く慮りながら触れてくれた。
だからスコールは、彼に身を預けて良いも良いのだと、思えるようになったのだ。

だが、今スコールの背中に回された腕は、そんな配慮を忘れたように強引だ。
その事にようやくスコールが気付いて、一体何が起きているのかと、益々の混乱に、この事態を引き起こした当人の顔を見て、


「おい、あんた────」


触れそうな程に近い距離で閃く瞳に、スコールは射貫かれた。
白銀色の睫毛に飾られた紺色の眼が、重く苦しいほどの熱を宿して、此方を見ている。
いつも夜の褥の中で、柔く細められた眼差しの中に見付けていたものが、その陽炎を一切の隠し立てなく晒しているのだ。

まるで魅了されたように動けなくなったスコールの唇が、深く深く塞がれる。
咥内に侵入して来る艶めかしい感触に、びくりとスコールの肩が跳ねたが、背中に回された腕の力は揺るがなかった。
しっかりと檻の中にスコールを捉えて、セシルは微かに端の切れた唇で、少年の柔い咥内を舐るように弄る。


「ん、う、んん……!」


ぬるりとしたものが咥内をしゃぶる感覚に、スコールの背中にぞくぞくとしたものが迸る。
それは実に十日ぶりに感じたもので、若い体に忘れかけていた熱を呼び起こすのに十分だった。
望まざることではあったが、熱と遠退いた十日間は、性に疎い身体からその感覚を遠ざけさせ、期せずして初心な反応を取り戻させていた。

舌を吸われ、絡め取られ、唾液を塗す。
その都度に咥内で鳴る音が、鼓膜の奥から響いて来る。
じくんじくんとした熱が胎の内側から染み出してくるのが判って、スコールはようやく抵抗すると言うことを思い出した。
密着し合った体の間に手を入れて、精一杯に腕を突っ張ろうと試みる────が。


「ん、ふ……ふぅ、んん……っ!」
「ん……ちゅ、んぢゅ……っふ、ん……」
「んむ、うぅ……ん、んぁ……っ!」


口付けは性急だった。
いつもなら、たっぷり愛され、とろとろに蕩けて、それから与えられるものだ。
まだベッドにも入っていないのに、背後に部屋の戸口がある位置で、こんなにも濃くて熱烈な情愛を向けられたことはなかった。

舌の先に柔く歯を当てられて、喉奥と繋がる舌の根が痺れるように震える。
んん、と喉からせり上がったスコールの声には、明らかに甘露の兆しがあった。
床を踏む両足は、徐々に膝から力を失って、スコールはいつしかセシルの身体に寄り掛かり、彼の腕に抱き締められることで姿勢を保っていた。

飲み込み切れなくなった唾液が、スコールの口端から零れる頃に、ようやく呼吸が解放される。
元より急な始まりだったこともあって、呼吸が止まっていたスコールは、すっかり酸素不足になっていた。
くらくらとした意識の中、は、は、とあえかに酸素を求めて呼吸する。
そんなスコールを、セシルは強く抱きしめたまま、ベッドへと倒れ込んだ。


「うあ……っ」
「っは……スコール……」


視界の横転にスコールが絶え絶えになっていると、耳元で名前を呼ぶ声がする。
重みのある体が覆い被さって来て、スコールの腹に堅い感触が当たった。


「セ、シル……っ?」


キスもそうだが、こんな流れは初めてだ。
いつもの夜と何もかもが違い過ぎて、スコールは戸惑いばかりが深まっていく。


「あんた、何……なんか、変……っ」
「……ああ、すまない……怖がらせたかな」


もがくようにベッドシーツを蹴りながら言ったスコールに、セシルはようやく真面な反応をくれた。
会話が出来なくなった訳じゃないらしい、とスコールは僅かに安堵する。

ぎしりとベッドが軋む音を立て、セシルはスコールの顔の横に両手をついて体を起こす。
セシルは、スコールの上に馬乗りになった格好で、体全体でスコールを小さな空間に閉じ込めていた。

紺色の瞳が、もう一度真正面からスコールを捉える。
その瞳は、いつも優しく、恥ずかしがり屋で拙い恋人をあやすように優しかった筈だ。
だが、今それは燃えるように強い情を宿し、今すぐ獲物に食らいつかんとする、獰猛さを見せている。
それはスコールにとって、初めて見るセシルの顔だったが、では普段見ている彼と何が違うのかと言えば、それは全く違わない。
ただ、いつも押し隠すように抑えていたものが、堰を失くして剥き出しになっているだけだった。

いつにない恋人の醸し出す匂いから、息を飲んで硬直しているスコールの頬に、白く無骨な手が触れる。


「こうやって君に触れるのは久しぶりだ」
「……あ、あ……」
「君の顔を見たのも、十日ぶり……」
「ん……」
「……だからだろうな。どうにも、ね……」


スコールを見つめ、すぅと細められる双眸。
指先はスコールの頬からゆっくりと滑って、唾液に濡れた唇を擽り、顎を伝って首筋へ。
微かに汗ばんだスコールの皮膚の感触を確かめるように、セシルは何度もスコールの首筋を撫でた。

こつり、とスコールの額にセシルの額が押し付けられる。
二人の高い鼻先が触れそうな程に近くなり、スコールはついさっきまでこの距離で彼に口付けられていたことを思い出した。


「セシル、あんた……、絶対、疲れてる……」
「ああ。そうなんだろうな」
「ちゃんと、休まない、と……」
「ああ」


スコールの言わんとしていることは、セシルもよく判っている。
だから夕食の後に直ぐに部屋に引き上げたし、恐らく、一度はベッドにも入った。
十日間の遠出の後となれば、どれだけ寝過ごした所で仲間たちが苦言を呈することはないだろうが、敵の襲撃はいつ起こるとも判らない。
休める時にきちんと体を休めておかなければ、何かあった時、自分だけではなく仲間たちまで危険に晒すことになる。

だが、どんなに頭でそれを理解していても、その身体に蓄積された熱の余剰は抑えられない。


「スコール……すまない。やっぱり、我慢できそうにないんだ」
「セシル、待て。こっちの、準備、が」


セシルの指がスコールの頤を捉え、紺と蒼灰が真っ直ぐに交じり合う。
ゆっくりと近付いてくるそれを、スコールは瞬きを忘れて見つめている。
やがて視界は紺と白銀の二色に埋め尽くされて、スコールはまた呼吸を忘れていた。

今度の口付けは触れるだけのものだったが、スコールは先の口吸いよりもずっと長く触れ合っていたような気がした。
心臓の鼓動が走り出し、体が目の前の男を受け入れる準備を始めている。
覆い被さる体の重みに、とっくに逃げ場は塞がれていたのだと、今更に悟った。


「抱くよ、スコール」


耳元に告げられた言の葉は、優しさよりも、有無を言わさぬ合図だった。
もう此処からは止まらないのだと───元より止まるつもりはないのだと、肌を滑る手が示す。



ああ、食われる。
そう思った瞬間、スコールはどうしようもない歓びを感じていた。





『長期間の哨戒・探索から帰って来ていつもより余裕なく迫るセシルと、普段と違い強引で雄らしい振る舞いにドキドキしまくるスコール』のリクエストを頂きました。

普段は気遣い優先で触れてくれるセシルが、手順をすっ飛ばしてきたら、スコールはまずびっくりするんだろうなと思います。
しばらく困惑するけど、セシルが自分を求めてくれていると理解したら、強く拒否はしないだろうなぁ、と言う妄想です。
いつもは宥めたり慰めたり、あやす為に話しかけてくれるセシルが、一言「抱くよ」って言ったら結構クるんじゃないだろうかと。

Pagination

Utility

Calendar

10 2025.11 12
S M T W T F S
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

Entry Search

Archive

Feed