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2025年09月08日

[ジタスコ]守り人

  • 2025/09/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



折々に仲間たちよりも背が低い事をネタにして、羨んでみせる言動をしてはいるけれど、実の所、本気でそれを妬んでいることはない。
確かに見栄えのする体格と言うものは良いものだが、では自分が自身の世界でそうも小さかったかと言われると、そうでもない、と言う感覚があった。

ジタンの世界は多種多様な種族が坩堝のように一つの国街で入り混じっていたし、種族で固まる傾向があった国でも、行商人が行き交うのでやはり多様な姿を見る事が出来た。
だからジタンより大柄な者は勿論いたし、大人であってもずっと小柄な者もいたのだ。
どちらかと言えばジタンは標準的な所であった筈、とも思っている。
加えて、「ヒトの魅力は体の大小に左右されるものではない」と知っているので、この異世界であっても、自分が小柄な類に入ることについて、然程気にはしていなかったのだ。

ただ、ルーネスもそうだが、小柄であるが故に───年齢の所も大いにあるが───、若干の子供扱いのようなものを受けることも儘ある為、其処については時折閉口することもある。

と言った個人の心中如何はともかくとして、ジタンは自分が他人を見上げることが多いことについて、深く気にしたことはない。
今直ぐどうしようもないと言う所もあるし、心が大きく持てば十分、と言う自信もあった。
何にしろ、小柄であることは、身軽を生かす盗賊であるジタンにとって良い事だったし、恥じる必要など何処にもなかったのだ。

────だが、今ばかりはもう少し、身長が欲しいと思う。
体の力を半分ほどは失った状態で、辛うじて歩を進めるのが精一杯と言う仲間に肩を貸しながら、ジタンは苦い表情を浮かべて歩いていた。


(何処かに休めそうな場所───背中が守れて、出来れば屋根があって、隠れられそうな場所が良い。何処かにないか)


鼻先を刺す鉄錆の匂いに顔を顰めながら、ジタンは目を皿のようにして辺りを見回す。
鬱蒼とした森には、湿った匂いが充満し、薄暗い天上からはゴロゴロと不穏な音が聞こえていた。
あれが泣き出す前に、せめて頭上を守れる所を見付けたいが、この辺りの地形は全くの未探索だ。
何処に何があるのか、何処に向かえば何処へ出るのかも判らないから、ジタンはとにかく真っ直ぐに歩いていた。
川でも崖でもなんでも良いから、突き当りにぶつかるまで真っ直ぐ進むようにしないと、あっと言う間に迷子になってしまう。
今の状況で、それだけは避けたかった。

遅々と進まざるを得ないジタンの肩には、スコールが寄り掛かっている。
その身体からは明らかな発熱症状があり、ジタンの耳元には、小さく痛みに呻く声が零れ届いていた。
体はジタンの肩に担ぎ抱えられる事で辛うじて姿勢を保っており、足元を引き摺りながら、ジタンの歩に倣う格好で辛うじて歩いている。

ジタンは肩の重みがずるりと落ちることに気付いて、足を止めてスコールの身体を支え直した。
肩に回していた腕を引っ張って、首の後ろにスコールの上腕が被さるように乗る。
それから背中と肩でスコールの胸元を持ち上げる形で乗せて、両の足をしっかり、真っ直ぐ、膝を伸ばして立った。
其処までやっても、スコールの長い足は半ばほど折れた形で、背中は丸まっていないとジタンの体に身を預けられない。


「スコール、もうちょっと頑張れな。なんなら、オレに乗っかってても良いから」
「……」


声をかけるジタンに、スコールからの返事はない。
項垂れる顔を横目に見遣れば、スコールは辛うじて目を開けてはいたものの、唇は蒼く半開きになっていて精気がない。
意識を保っているのが精一杯、と言う状態だった。

ぽつぽつとした雨粒が落ちて来るのを感じて、ジタンは小さく舌を打つ。
せめて本降りになる前に休める場所を、と辺りを見渡したジタンの目に、ひとつ大きな樹が映る。
樹齢を何百年と重ねた見た目をしたその根元は、土が小山のように膨らみ、其処からはみ出て剥き出しになった根が絡み合い、洞を作っていた。

ジタンが其方へ近付いてみると、洞はぽっかりとした空洞になっており、獣の気配もない。
土の湿った匂いばかりが漂う其処を覗き込んで、魔物の類がいないことを確認すると、ジタンは其処にスコールを座らせてやった。


「う……」


体を動かすと痛みがあるのだろう、呻く声が漏れる。
ジタンは脂汗を滲ませたスコールの額に軽く拭って、自分のベストを脱ぎ、スコールの体の前側に被せてやった。
袖のないベストは、スコールの着ているジャケットよりも大した防寒具にはならないが、ともあれないよりはマシだろう。
今は彼の体温が、汗と湿気の冷気で奪われないよう、保ってやることが大事だ。

今、スコールの体には、スピアー種の魔物が総じて持ち得る毒が回っている。
歪の中で遭遇した魔物と戦っている最中、最後の足掻きにうち放たれた毒針が皮膚を掠めた。
獲物を捕らえ、生きたまま捕食する趣向を持つ魔物の毒は、時間と共にスコールの体を蝕み、体を動かしただけで全身に激痛を起こす。
受けた直後に治療できれば深刻化することもないのだが、今日の探索はジタンとスコールの二人で行っていた。
ポイゾナやエスナと言った、浄化系の魔法を使えるバッツが、今日に限っては不在だったのだ。

歪を脱出した頃からスコールは自力で動くことが困難になっていた。
毒消し薬は念の為に持ってはいたものの、それだけでは浄化しきれずに、じわじわとスコールにダメージを与え続けている。
こうなっては、直ぐに帰投する、と言うのも難しく、ジタンは安全に休める場所で症状が落ち着くのを待つしかない、と判断した。

そしてようやく、この洞穴に辿り着いたのだ。


(雨が降り始めたし、これなら魔物もあまりウロウロしないだろうな。止むまでは休んでいられるか)


ジタンは、壁に寄り掛からせたスコールの傍に座って、外を見ながらそう考えた。
雨粒は少しずつ大きくなっており、本格的な雨になろうとしている。
発熱と痛みを抱えたスコールを、この中に歩き回らせなくて済んだ事に、ほっとした。

なんとか腰を落ち着けることが出来たのだから、あとはスコールの容態が悪化しないようにしなければ。
ジタンは荷物袋の中から水筒を取り出して、スコールに差し出した。


「スコール。水、飲んどけよ」
「……」
「腕動かせるか?」


薄く目を開けたスコールが、重い腕を持ち上げる。
痛みを堪えて眉根を寄せる様子と、手指を動かすのもやっとと言うスコールの表情に、ジタンは水筒の口を自分の方へと寄せた。
一口分、水を咥内に含んで、スコールの頭を上向けさせる。
唇を重ね、薄く開いた隙間に液体を注ぎ込むと、スコールは微かに呻く声を漏らしながら、ごくりと喉を動かした。

口を離すと、はあっ……とスコールの唇から呼気が漏れる。
ジタンは、もう一口、と水を含んで、同じように唇を重ねた。


「ん……、う……っ」
「……っふぅ……」


ごく、こくん、とスコールの喉が鳴って、ジタンは顔を離した。
呼吸が出来るようになると、スコールは大きく息を吸い、吐いて、と数回繰り返す。
その都度に痛みを堪える表情はあるものの、彼の呼吸は随分とスムーズに送り出されるようになった。

水分を摂取し、また浮き始める額の汗を、ジタンは手袋を外した手で拭う。
そのまま手の甲でスコールの首筋に触れると、とくとくとした鼓動の感触があった。
それはジタンが普段知っているものよりも微かに早く、毒によって体内臓器の稼働がまだ過剰な働きをしていることを教えてくれる。
だが、歪を脱出したばかりの時に比べれば、そのリズムの早さは幾らか収まっていた。


「このままじっとしてれば、もうちょっと楽になるかもな」
「……ああ……」
「悪いな、魔法が使えなくて。エスナが使えりゃ、もっと早く治せるのに」
「……それは、あんたの所為じゃ、ないだろ……」


詫びるジタンに、スコールは眉根を寄せながら言った。
気にしてくれるな、と言うスコールの言葉に、ジタンも慰められて頷く。
ないものねだりはどうしようもないのだから、と。

降りしきる雨は真っ直ぐに地面に落ちて、柔らかな草土の地面に沁み込んでいく。
風は感じられなかったが、空を覆う雲の動きは早かった。
この分なら、思うよりも早く雨は止んでくれるかも知れない───とジタンが思っていると、


「……ん?」


雨のカーテンの向こうに、茫洋と近付いて来る人影がある。
生き物ならば避けるであろう雨の中を、ゆっくりと幽鬼のように進む人影と言うのは、如何にも不気味で不穏だった。

目尻を尖らせて影を睨むジタンの想像に違わず、それはイミテーションだった。
視覚よりも気配を追ってくるタイプか、イミテーションは右へ左へふらふらと蛇行するように歩きながら、徐々にジタンたちが身を休めている洞穴に近付いている。
その不規則に歩く一体に追従するように、大きさの違う人影がひとつ、ふたつと増えて来るのを見て、ジタンは眉根を寄せる。


(こんな時に、面倒なのが来ちまったな)


体温を奪われれば凍えてしまう生き物と違い、人形たちに生物的概念は通じない。
雨だろうが雪だろうが、滾るマグマがすぐ傍にあろうが、環境の不利を感じることなく、襲い掛かって来るのだ。
加えて、疲労感と言ったものに堪えるものでもないので、幾らでも歩き回るし、戦い続けることが出来る。

このままジタン達が洞穴でじっとしていれば、程なく見つかることだろう。
ジタンは、傍らでじっと呼吸を整えることに終始しているスコールを見た。
時間の経過とともに、毒による神経痛の類は多少収まっているようだが、体はまだ発熱している。
激しい戦闘が出来るような状態ではないことは、傍目に明らかであった。

ジタンはスコールの額に手を伸ばして、傷の走る眉間の辺りに指をあてる。
薄らと浮かぶ汗の感触を感じていると、蒼灰色が薄く開いて、ジタンを映した。
蒼に剣呑とした色が滲んでいるのを見て、彼もまた、ジタンと同じく近付く存在に気付いていることが判る。


「……ジタン……」
「ああ。大丈夫だよ」
「………」
「気にすんなって。こういうのは、お互い様なんだ」


スコールは、自身がまだ戦える状態まで回復していないことを理解していた。
忌々し気に眉根を寄せるスコールに、ジタンは浮いた眉間の皺を指先でぐりぐりと押しながら笑って見せる。
立場が逆なら、きっとスコールも同じことをしているのだから、と。


「お前はしっかり休んでな。もし体が動けるようになったら、手伝ってくれれば良いさ」
「………」


ウィンクをしたジタンの言葉に、スコールは目を閉じて溜息をひとつ。
それが必要な程に苦戦はしないだろう、と言葉なく信頼した気配を感じて、ジタンは金色の尻尾を揺らした。

武器を手に洞穴を出ると、雨はまだ降っていたが、視界は然程暗くはない。
雨粒が目元を叩くのが鬱陶しかったが、けぶる程の大雨になっていないのは幸いだった。
イミテーションの姿ははっきりと形が判る程に近くなり、あちらもジタンの姿を遂に確かめたか、蛇行した動きがなくなり、三体が真っ直ぐ此方に向かって近付いて来る。

イミテーションのどれか───恐らくは先行していた一体───は、秩序の戦士が此処に二人いることを感じ取っているだろう。
ジタンは、洞で休まざるを得ないスコールを背に庇う位置に立って、二本のダガーを構えた。


「ようやく休憩できる場所があったんだ。もうちょいゆっくり休ませてくれよ」


言った所で、イミテーションが容赦などする筈もない。
槍に杖にと構えるイミテーションよりも先に、ジタンは強く地を蹴って走った。





9月8日と言うことでジタスコ。
怪我したスコールを抱えてるジタンが浮かんで、身長足りないよなぁ……とか思いつつ。
体が動かないスコールに、ジタンが躊躇なく口移ししてるのが見たいなとなったので。

大事な人とか仲間を守るために、ちょっとした軽口や雰囲気を出しながら、当たり前に戦うモードに入るジタンは格好良いよなと夢を詰めた。
スコールの方も、ジタンがこうなら大丈夫、と信頼していると良いなあ。

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