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[ジタスコ]いつもの君へ

  • 2024/09/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



情けねえなあ、と零さずにいられないジタンを、スコールは黙って聞いている。
返事がないので無視をしているとも取れるが、それはそれでジタンは構わなかった。
この呟きは完全に独り言であって、誰に向けられたものでもなく、強いて言うなら己の詰めの甘さに対する戒めだ。
それに丁寧に返事をされてもジタンとて眉尻を下げてしまうから、今ばかりは黙々と歩くスコールの無反応が丁度良い。

ジタンの左足には、赤く黒ずんだ血が浮いていた。
綺麗に開いたズボンの穴、穿たれた足、其処から出て来る血は、応急処置をして間に合わせの布で止血してある。
それだけの傷を負っているのだから、歩かない方が良い、と判断したスコールの言う事は正しい。
下より帰投に向かう所であったし、さっさと帰って魔法が得意な者に治癒魔法をかけて貰おう、と言うのも、ジタン一人であっても考えたに違いない。
ただ、一人であればその状態で、仕方なく自力で歩いて帰る所だったが、今日の所は同行者がいるのだ。
スコールが「俺が背負って行く」と言ってくれたのは、有難い話だった。

傷の原因は、この世界では当たり前にある事で、戦闘によるものだ。
だが、もっと突き詰めて言うと、イミテーションとの戦闘の最中、まさかの魔物の乱入があった事が直接の要因であった。

ジタンとスコール、それぞれ自分と同じ顔をした人形を相手取っていた所へ、腹を空かせた狼───シルバオの群れが現れ、イミテーションの首に飛び掛かり噛みついたのを見た時は、ジタンもぞっとした。
シルバリオがイミテーションを餌と狙っていたかの正確な所はさて置くとして、一歩間違えば、自分がその牙に喰いつかれていたかも知れないのだ。
運良く盾になってくれた形となったイミテーションに、この時ばかりは感謝したが、石で出来た人形は流石に魔物も喰えないらしい。
粉々に砕けたイミテーションをさっさと諦め、すぐさまターゲットが此方に切り替わったので、ジタンは急ぎ離脱する為にスコールを呼んだ。
スコールの方も同様の状況になっていたようで、彼は直ぐにジタンの呼ぶ声に意図を察し、二人は即座に逃げ出した。
だが、足に自信のあるジタンも含め、二足の人間が、四足で獲物を追う獣に勝てる訳もなく、取り囲まれる事となる。
無論、大人しく餌になってやる訳にはいかないので応戦したが、その最中、スコールに噛みつこうとした一匹から、ジタンがそれを庇ったことで、隙が出来た。
僅かに足が止まったジタンに、すぐさま別の一匹が噛みついたのだ。
右足に深々と突き立てられた牙は、ジタン自身が直ぐにそのシルバリオの首を切り裂いた為、持って行かれる所まではいかなかった。
その後の奮戦により、ようやくシルバリオ達は、餌が思い通りに手に入りそうにないことを悟り、忌々し気に散っていき、生存競争は一先ずジタン達が勝ちを収めるに至った。

なんとか諦めて貰えたことは良かったが、ジタンの足の傷は塞がらない。
寧ろ動き回った所為で益々出血が酷くなり、スコールが辛うじて使う事が出来る魔法の力では、傷を塞ぐことも出来ない。
持ち合わせのポーションが応急処置とするのが精一杯で、後は負担をかけないようにするしかなかった。
まだ秩序の聖域は遠いと言うのに、なんとも厄介な状態になったと、溜息も出ようと言うものだろう。

血の匂いを振り撒く状態で一所に留まり続けるのは危険だ。
急ぎ聖域に戻るべき、と言うスコールの言葉は最もで、しかしこの足では歩も遅々とするだろう。
空の太陽は既に西側に傾き、赤みを強めているから、この状態で歩いていては夜になる。
そうなれば、諦めて行った狼の群れが再び集まってくるのも想像に易い。
早急に秩序の聖域へと帰還する為、スコールの背を借りる事は、効率として他にない手段であった。

────と、それは判っているのだが、一定間隔に揺れる背に追われて、ジタンは渋い顔をせずにはいられない。


(あーあ。格好つかねえなあ、ホント)


茂る木々の向こうで、赤と夜色が混じりつつあるのを見上げながら、ジタンは何度目かそう思った。

仲間を庇った事に後悔はない。
あの時、スコールは目の前に迫っている敵に応戦している最中だったから、どう動いても、背に飛びついて来たそれへの反応は難しかっただろう。
下手に其方に力を割けば、目の前の牙が噛みついていたから、何処かを犠牲にせざるを得なかった。
そんな所にジタンが飛び込んだのは、条件反射のようなものだ。
仲間がやられそうになっているのなら、放っておくことは出来ない───ただそれだけのこと。

惜しむらくは、その所為で自分が負傷したと言う事だ。


(もっと上手くやりようがあったとは思うんだよな。多分だけど。怪我するにしたって、こうもザックリやられるとは)


自分を守ることを疎かにしたつもりはないが、しかし、実際に負傷したことは事実である。
あの時、もう少し武器を低く構えていればとか、動ける余力の計算をしていればとか、今になって振り返る事は幾つもあった。
だが結局の所、「スコールが危ない」と思った時点で、ジタンの体は動いていたのだ。
お陰でスコールを庇うことは出来たが、代わりに自分が深手を負っていては、なんとも格好がつかない話だ。

それに、とジタンはいつもよりも随分と近い距離の濃茶色を見て、


(気にしてそうなんだよなあ。オレが庇ったことも、怪我したことも)


ジタンを背負い、黙々と歩くスコール。
長い足をさっさっと動かして、一直線に秩序の聖域へと向かう彼は、歩き出してから一言も喋っていない。
スコールの無言と言うのは常のことであるから、ジタンもそれに気まずいものを感じてはいないのだが、これでて彼が繊細な気質であることはよく知っているのだ。
プライドの高さもあるが、それ以上に、案外と仲間の事を大事にしてくれるから、自分の所為でジタンが負傷したことを気に病んでいるのは想像に難くなかった。


(オレを負ぶって行くって言ったのも、責任感じてるからっての、ありそうだし)


傷の深さからして、早く帰った方が良いことは確かだ。
その為に、ジタンが自力で歩くより、スコールが足になってくれた方が良いのも。
ただ、ジタンがそれを頼むよりも先に、スコールが有無を言わさぬ顔で「俺が背負って行く」と言ったものだから、ジタンは感じ取ったのだ。
責任を背負わせてしまっているな、と。


(有難いもんだけど。あんな顔してなくても良いのになぁ)


ジタンの脳裏に浮かぶのは、傷を見下ろしていたスコールの顔だ。
眉間に深い皺を寄せて、怒っているようにも、泣き出しそうにも見えたそれは、彼の正直な気持ちを表していたのだろう。
庇われた自分への怒り、無茶をしてまで自分を庇ったジタンへの呆れと、自分の所為でジタンに傷を負わせたと言うショック。
綯交ぜになったであろうそれを、スコールは言葉として吐き出すことはしないまま、ジタンを背負って歩き出した。
以降、スコールは一言も口を利いていない。

スコールの早足で、背負われたジタンには規則的な揺れが伝わる。
急いで帰ろうとしているのは良いのだが、この歩き方は大丈夫なんだろうか、とジタンは思っていた。
常は冷静沈着に見えて、実は頭の中で忙しくしていて、意外と視野が狭くなりがちなのがスコールだ。
後頭部から滲む固い空気と言い、今もきっと彼の頭の中はぐるぐるとしている事だろう。

どうにか、とジタンは思っていた。
この硬質的なスコールの醸し出す空気を、どうにかしてやりたい、と。


(まあ、こうしちまったのは、オレっちゃオレなんだけど)


自分の行動───スコールを庇い、負傷したこと───が原因であることは判っている。
もう少し自分が上手く立ち回っていれば、とも思う。
とは言え、やってしまった事は巻き戻しの効かないことだから、ジタンは既に気持ちを切り替えていた。

今は、目の前にいる仲間の顔を、いつものただの顰め面に戻してやりたい。
その為にはさてどうしたものかと、揺られる背でぼんやりと考えていると、


(……そういや、こういう距離感は初めてだな)


ふと、スコールを頭の後ろから見る、と言うこの構図が、稀有な体験である事に気付いた。
二人の身長差も当然、普段はジタンがスコールを見上げるのが専らで、彼の後頭部をジタンが見ると言うのはまず出来ないことだ。
秩序の聖域にいれば、スコールが座っていて、ジタンが立っていれば見る事は出来るだろうが、それでもスコールの真後ろと言うのはあまり立ったことがない。
少なくとも、ジタンが意識してそう言う位置を取ったことはない筈だ。

そう思うと、俄かに物珍しい気分が湧いて来る。
折々にバッツが急な年上風を吹かせて撫でくる濃茶の髪は、いつもきちんとセットされているが、間近で見るとふわふわと猫っ毛のように見えた。
その一束を指で摘まんでみると、頭皮が引っ張られる感触が伝わったか、ぴくっと軽く頭が揺れたのが判った。

悪戯を警戒しているのか、じわりと警戒的な空気が滲むのを感じつつ、ジタンは指に絡めた毛先を遊ぶ。
毛先がふわふわと指の隙間から零れ落ちるのを見ながら、ちゃんと手入れされているな、と思う。
そう言えば、植物系の魔物の体液なんて頭から浴びた日には、念入りにシャンプーで洗っているのを見た事があった。

それから、次にジタンの目についたのは、スコールの耳に光る石だ。
ジタンの世界では、宝石と言うのは魔力を帯びているものも多く、何某かのお守りや願いを込めて身に着けられるものも多かった。
しかし、スコールの世界では、願掛けこそ物によってはあるものの、大抵は単なる宝石───或いはそれを模したもの───であるらしい。
スコールの耳に常に取り付けられているそれは、彼の首飾りの獅子と違って特別な名はないようだが、毎日見に着けていることからしても、彼お気に入りのマストアイテムなのだろう。


(シンプルな石ひとつ。小洒落てるって程でもないのが、こいつらしいな。あー、でも首飾りは凝ってるし、刺さる趣味は割と両極端なのかね)


思いながらジタンは、ふとした悪戯心が湧くのを自覚していた。
こんな時にとは思いつつ、こんな時でもないと、ジタンがこの位置からスコールをのんびりと眺めることもないだろう。

おもむろに伸ばしたジタンの手が、あと少しでスコールの耳に触れる。
と言う所で、気配に敏感な青年が、じとりとこちらを振り返り睨んだ。


「ありゃ。バレた?」
「………」


歯を見せて笑ってやれば、蒼灰色が胡乱に睨む。
髪をつついていた時から、背後がうごうごとしている事は感じ取っていたのだろう。
いよいよ悪戯が始まりそうな空気を、背中で察したのかも知れない。

ジタンは「まだ何もしてません」と両手をパーにして見せた。
ひらひらと空の手のひらを揺らすジタンに、スコールは眉間に皺を寄せつつ、


「……元気そうだな。聖域も近いし、あとは自力で良いか」
「いやいや。痛いです。もうちょっとお願いします」


足を止めたスコールの言葉に、ジタンはしかっと彼の首にしがみついて言った。
まだ下ろさないで下さい、と言うジタンに、スコールはやれやれと溜息を吐く。

スコールは物言いたげな表情をしていたが、結局は口を噤んで前へと向き直った。
歩を再開させるスコールの後頭部からは、呆れたような空気が滲んでいたが、つい少し前までジタンが感じていた、硬質的な雰囲気は散っている。
ジタンは、そんなスコールの頭をわしっと捕まえて、わっしゃわっしゃと掻き回した。


「!?」
「よーしよし。優しいなー、スコールは」
「なっ……なんだ、いきなり!動物みたいに」


掻き撫ぜるジタンの手を、スコールは頭を振るって追い払う。
何故唐突にこんなことをと振り返るスコールに、ジタンはにかりと笑って、


「いや、ちょっと嬉しかったから。あと可愛いもんだなって思って」
「は?」
「お前が優しい奴で感動してるってこと」
「……意味不明だ」


訳が判らない、と顔を顰めるスコールに、ジタンはくつくつと笑う。
馬鹿にされているのかと蒼灰色が不機嫌な空気を滲ませるが、ジタンは濃茶の髪をぽんぽんと叩いて宥めた。
そう言うつもりではないと、ジタンの言外の主張を感じ取ったのか、或いはまた呆れたのか、スコールはまた溜息ひとつを吐いて前を向く。

ずっと早足で進んでいたスコールの歩調は、僅かに緩やかなものになっていた。
ジタンの足に巻かれた布は、もう随分と赤で染まっており、出血も止まり切った訳ではないだろう。
早く帰投することをスコールは相変わらず目指しているようだが、切羽詰まった空気はなくなっていた。
ジタンはそんなスコールの肩に捕まりつつ、


「なー、スコール」
「……なんだ」
「オレ、お前の優しいとこ好きだぜ」
「……そうか」


ごくごく短いスコールの返しは、他にどう返せば良いのか判らなかった結果だろう。
そう言う不器用な所も含めて、ジタンは彼と言う人間を気に入っていた。





9月8日と言う事で。
ジタンにスコールの頭をわっしゃわしゃして欲しいなと思ったので。

スコールが自分の油断に責任を感じているのを、ジタンは気にしないでくれれば良いと思ったし、スコールはジタンがいつもの空気で接するので、無自覚だけどほっとしたんです。

お返事(8月14日)

たたんでおります。
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[クラレオ]パスカード:オリジナル

  • 2024/08/11 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



誕生日なんてものは特別意識している訳でもなかったが、とは言え、祝われるとなればやはり気持ちの良いことだ。
偶然に帰ってきたタイミングを「丁度良かった!」とユフィに捕まり、引き摺られるようにして魔法使いの家に連れて来られたと思ったら、思いもがけない歓待に見舞われた。
豪華な食事に、祝いの言葉に、長旅に有用だろうと色々なグッズの入った箱をプレゼントされる。
今日がその日だと気付いたのは、エアリスが「今日は何の日、かな?」と言って、カレンダーを見せてくれたから。
ついこの間まで、街には寒風が吹いていたような気がするのに、そう言えば今日は暑い、と今更に夏の盛りになっていた事に、クラウドはようやく気付いたのであった。

誕生日パーティなんて、今日と言う日にクラウドがホロウバスティオンに戻っていなければ、主役不在の状態になったのだろうが、恐らくそれでも誰も気にはしないのだ。
言い出しっぺはきっとユフィだろうし、彼女に幼馴染の誕生日を祝う気持ちがない訳ではないだろうが、毎日街にいる訳でもないクラウドである。
ちょっと食事を豪勢にして、パーティよろしく楽しい夕食を計画するのに、人の祝いの日とは存外と都合が良いものなのだ。
其処に当座の主役となる人間が捕まえられれば、丁度良い、位のものに違いない。

それでも、本人のいるいないに関わらず、誕生日プレゼントについてはきちんと用意されていたようだ。
シドから渡された箱の中には、ポーション類を始めとして、野宿の火起こしに使えるようなサバイバルキットや、保存期間の長い缶詰の食料が入っていた。
どうせ街に居つく時間など知れている、何処に行ってもそこそこ有効に使えるものを、と揃えてくれたに違いない。
箱の中には、クラウドに似せて作られたと思しき編み物のぬいぐるみが添えられていて、きっとこれを作ったのはエアリス───だと思うのだが、一応、全員分が針を通す事はしたらしい。
千人針よろしく、皆で作ったお守りだよ、と良い笑顔で言われたので、むず痒さを殺して受け取っておく事にした。
恐らくこのぬいぐるみは、荷物袋の底の方に沈むだろうが、そう言う扱いになることも、きっと彼らは判っているだろう。

夕飯が豪勢であることは有難い。
ホロウバスティオンは、まだまだ人の気配も少なく、新鮮な食材と言うものが限られる環境にある。
賢者が住んでいた城に残されていた資料や、機械の力も借りて、生活はなんとか成り立っているが、贅沢が出来るとは言えない。
そんな中で、肉をふんだんに使った料理群が並ぶタイミングと言うのは限られている。
クラウド自身は闇の力を使って他の世界を渡り歩き、食料の多くは現地調達しているが、場所によっては動物性たんぱく質の調達はおろか、草木一本生えない場所で過ごすことも少なくない。
美味い料理をたらふくに食べられる機会と言うのは、存外と限られているから、理由が何であれ、そう言うものにありつけるタイミングに帰って来られた事は、何よりの幸運であった。

そうして、誕生日の主役と言うこともあって、今日の胃袋は思う存分に充たすことが出来た。
少しばかり膨らんだような気がする腹を宥めながら、クラウドは「これも祝いだ」と言ってシドが持ってきた酒を、養父と一緒に明かしているが、


「そろそろ終いだな」


時計と酒瓶の中身を見て、シドがそう言った。
確かに、時刻は直に日付の境界線を越えるし、瓶の中身も底をついている。
最後にグラスに注いだ一杯を飲み切れば、宴はお開きだ。

そんなクラウドとシドを後目に、食卓の場も片付けが進んでいる。
皆で楽しく食べ明かした食器は、とうにすっかり下げられて、レオンとエアリスが洗い物をしていた。
ユフィはちゃっかり飲んだ酒に楽しくなって、洗い場にいる年上二人にきゃっきゃと絡んでいる。
あの状態で「これ片付けておいてね」と渡される食器は、ひとつも落とさず元あった場所に戻しているのだから、彼女のバランス感覚は本当に大したものだ。

クラウドがグラスの最後に残った液体をぐいっと煽って、残る後味と胎内に残る火照りを感じつつ、


「美味かった。良い酒だったな」
「ああ。またあり付けりゃいいんだがな」
「期待していよう。来年の今日にでも」
「どうだかねえ、まあ、美味けりゃ別に何でもな」
「まあな」


この街の物資が限られていることは、クラウドもよく知っている。
期待しよう、と言うのは、来年の今頃には、この街がもう少し人の気配で栄えていると良いな、と言う、故郷の復興に勤しむ幼馴染たちへの労いでもあった。
その為にも人手が必要なのは判っているから、偶に帰った時位は、またハートレス退治くらいは引き受けようとは思っている。

クラウドとシドが使っていたグラスをユフィが浚い、エアリスの下へと持って行く。
ありがと、とグラスを受け取ったエアリスは、隣にいるレオンを見て言った。


「じゃあ、後はやっておくよ。レオン、家に帰るでしょ?」
「そのつもりだ。悪いな、任せる」


郊外に一人で家を持っているレオンは、夜の街を歩いて其処まで帰らなくてはならない。
夜となると、街に戻ってきた人々の不安が未だに募り易いようで、心の揺らぎに誘われたハートレスが湧いて来るのだ。
レオンは夜のパトロールとして、それらを退治しながら家路を行くのである。

じゃあね、とレオンが皆に見送られる傍らには、クラウドの姿もあった。
魔法使いの家の奥には、幾つか寝床は用意されているが、クラウドは其処を使ったことがない。
クラウドがホロウバスティオンに戻ってきた時、寝所として使うのは、専らレオンの家であった。
その方が色々と気兼ねをする事もないので、今夜も常と変わらず、彼の家に邪魔をする。
レオンにその許可を直接取った訳ではないが、レオンもクラウドも、それが最早当たり前のこととして定着していた。

美味い飯と良い酒にありつけたクラウドは、ここ最近で一番に機嫌が良かった。


「良い日だった。偶には帰ってみるものだな」
「調子の良い奴だ。明日からは、今日の分も含めて働いて貰うぞ」


やれやれと言った様子で、レオンが言うので、


「判っている。また此処いらも、ハートレスが増えているようだしな」


クラウドはそう返して、周囲を軽く見まわした。

夜の闇の中、うごうごと蠢いている心無い気配がある。
この辺りは、城で発見したセキュリティシステムを利用して、街人の防護に使う事が出来ているが、湧いて来る影の数そのものが減る訳ではない。
根本の原因を叩く事が難しいのは仕方がないとして、せめて目の前のその数だけでも減らさねば、いつか街ごと覆い尽くされかねないのだ。
クラウドは故郷に帰る度、幼馴染の家を寝床にさせて貰う代わりに、それを対価の仕事にしていた。
自分が出来ることとしては易い仕事であると、クラウドは捉えていた。

だから仕事に関しては全く不満はないのだが、それはそれとして、とクラウドは隣を歩く男を見る。


「所で、あんたから俺に何かくれるものはないのか?」
「……清々しい程図々しい奴だな。飯を鱈腹食っただろう。半分は俺からのプレゼントだ」


もう半分は、エアリスが準備しているが、とレオンは呟く。
クラウドもそれは判っている、とまた頷いて、


「そのエアリスからは、飯の他に、皿を貰った」
「皿?」
「木製で軽くて丈夫。野宿にも使えるだろう、ってな」
「……それは良かったな」
「ああ。で、ユフィからは革の小袋だな、まあ小物入れに使えるだろう。シドからは酒」
「良かったじゃないか、色々と貰えて。十分だろう」


そう言ってレオンは、自宅にしているアパートの二階へ向かうべく、階段を上って行く。
一階に住んでいる人間は誰もいないのに、どうして二階を使っているのかと言えば、眺めが良いから、だそうだ。
実際の所は、地上をうろうろしているハートレスにいきなり飛び込まれないように、と言う点が大きいのだろうが、復興を目指す街を少し高い視点で眺めないというのも、嘘ではないのだろう。

クラウドはレオンに続いて階段を上がりながら、


「皆から貰った物は、それはそれだ」
「……全く図々しいな、お前は」


はあ、とレオンは溜息を吐いて、自宅の鍵を開ける。
と、鍵穴から抜いた銀色のそれを、そのままぽいっとクラウドへと投げた。

目の前に飛んできたものをクラウドが反射的にキャッチする。
握ったものを開いて見れば、飾り気も何もない、凡庸な銀色のディスクシリンダーの鍵。

クラウドがそれを見ている間に、レオンはさっさと部屋に入って行った。
ドアがばたんと閉まる音を立てたので、クラウドは内側から鍵が閉められる前に、いそいそと後に続く。
灯りをつけたばかりのレオンの部屋の中は、相変わらず物が少ないながらも、雑多にならない程度の生活感が滲んでいた。

既に時間が遅い事もあってか、レオンは風呂場で湯の用意をしている。
湯が貯められる音を聞きながら、クラウドはレオンに声をかけた。


「おい。これは貰って良いのか、本当に」
「お前がしつこいからな。それがあればちゃんと玄関から入れるんだから、窓から不法侵入するのは辞めろよ」


平時、ふらりと帰ってくる気儘な生活をしているクラウドである。
いつ帰ってくるから判らないのだから、レオンとてそんなクラウドの為に出入口を不用心にする筈もなく、自分がいない時にはしっかりと戸締りをかけている。
家にいる時には窓を開けている事もあるが、其処から度々クラウドが無断で進入して来る事には辟易していた。
レオンが家にいなければ、帰ってくるのを近くの屋根上で待機して、帰ってきたら窓をノックするのだ。
闇の力で生やした羽根のお陰で出来る所業とは言え、礼儀作法のない来訪客は、レオンとて当然歓迎はしない。
まだ玄関からやってきたなら可愛げがあるのに、とはよくよく思っていることだった。

リビングに戻ってきたレオンは、冷蔵庫を開けて、明日の朝食用に使えるものを確認している。
普段はパンひとつでもあれば十分だが、クラウドがいるなら、もう少し何かあった方が良かった。
ハムやチーズが残っていたので、これでとうにかするとしよう。

クラウドはと言うと、勝手知ったる空間なので、ソファに座ってレオンが寄越してきた鍵をしげしげと眺めていた。


「これがあんたからの誕生日プレゼント、と」
「十分だろう。スペアは一組しかないから、なくしても次はないぞ」


そう言ってレオンは、ベッド横のチェストの引き出しを開ける。
取り出したのは、今クラウドの手の中にある鍵と、そっくり全く同じもの。
レオンはスペアとして作られた方をこれから持つから、クラウドが渡されたものを紛失しても、取り換えや新調は利かない、と言う事だ。

実質、一点ものの代物。
そんなものをプレゼントに寄越されて、クラウドはにんまりと笑う。


「成程。これを持っている限り、此処には自由に入って良いという訳だな?」
「……節度を保てよ。図に乗ると放り出すからな」
「ああ。だが、あんたから“家に上がって良い”って言う許可が下りたのは、中々気分が良いな」


クラウドの言葉に、レオンの傷のある眉間に深い谷が浮かぶ。
許可した覚えはない、と言わんばかりの目が冷たく此方を見ているが、クラウドは気にしなかった。


「関係を持っている男に、自分の部屋の鍵を寄越すなんて、意味深だろう」
「勝手に深みを作るな。あまり調子に乗ると、返して貰うぞ」
「それは断る。もう貰った。雨の日に外で待ち惚けしなくて良い」


有難く受け取る、と言ってクラウドは、ユフィが用意した革の小袋に鍵を入れる。
小袋を何処に身に着けるのが一番良いのかは、明日に身嗜みを整える時に改めて考えれば良いだろう。

判り易く機嫌を良くした顔で、鍵の入った小袋を眺めるクラウドに、レオンは溜息をひとつ。


「……早まったな」


ねだるのがしつこいからと、手っ取り早く済ませたつもりだったが、反って面倒が増えた気がする。
そう思ったレオンであったが、先のやり取りの通り、クラウドはもう鍵を手放しはするまい。
渡してしまったものは仕方がないと、レオンも気を取り直して、一日の疲労を流す為に風呂へと向かったのであった。





クラウド誕生日と言う事で。
雑に渡したプレゼント、思いの外クラウドが気に入って複雑な心地のレオンでした。

鍵を持っているけど、手っ取り早いからと言う理由で、窓から入って来るのも辞めない気がする。
何回かに一回はちゃんと玄関から入るようにはなると思います。多分。

[クラスコ]ひとつひとつをその手で全て

  • 2024/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



紅い顔をしている恋人を前に、クラウドは高揚する自分を隠せなかった。
普段、この手の事に疎いこともあり、主導は専らクラウドが与っているものだったが、今回に限ってはそれを敢えてスコールに渡した。
手綱を渡された方は、酷く困惑している様子があるが、とは言え、何も知らない程、初心でも真っ新ではない───そうしたのはクラウドだから、何をどうすれば良いのかも、クラウドが教えた通りに彼は覚えている筈だ。

ごくりと唾を飲む音が聞こえた。
緊張した面持ちのまま、スコールは自身の手をジャケットにかけて、ゆっくりとそれを脱ぐ。
ひと思いに脱ぎ捨てた方が、恐らくは彼の心理的負担としては軽いのだろうが、それでは楽しい時間があっという間に終わってしまうので面白くない。
クラウドは出来るだけ、この一時の味わいを引き延ばしたいと考えていた。
スコールがそんな恋人の思考を読み取っているかは判らないが、ゆっくりやってくれ、と言う指示はちゃんと効いているらしい。

傭兵育成の環境下に幼い頃からいたと言うから、指示だとか命令だとかに従うことについて、彼自身の抵抗感は薄いのだろう。
寧ろ、言われたのだから仕方がない、と言う思考も働いているかも知れない。
そう思うと、同じ命令を他人がやったら、彼はまたそれにも従うのだろうかと思うと、少しばかり其処には待ったをかけたくなる。
が、素直に従っているように見えて、内心は色々と愚痴が渦巻いている事も想像は出来るので、この手の命令が仮に他の人間からあった時には、ちゃんと抵抗してくれるだろう……と思いたい。

クラウドがそんなことを考えている間に、スコールはシャツを脱いでいた。
白いシャツを脱ぐと、鍛えられてはいるがまだまだ細身のシルエットを作る上肢が露わになる。
まだクラウドが触れてもいないのに、その肌がほんのりと色付いているように見えるのは、きっと彼自身の胸中にある、誤魔化しようのない羞恥心が齎すものだ。
時折、蒼灰色の瞳が、さっさと手を出してくれと言わんばかりにクラウドを見つめる。
それはクラウドにとって、スコールからの無自覚の誘惑であったが、今日の所はそれに応えることはぐっと堪えた。
今日と言う日の特別を、たっぷりと堪能する為に。


「………」
「……」


見つめ続けていても、クラウドが動いてくれない事を悟ると、スコールは溜息を吐いた。
しょうがない、仕方ない、と自分に言い聞かせるようにして、今度は腰のベルトに手を遣る。

指先が少し緊張した動きをしながら、バックルを外し、ベルトの合せを解いた。
革ベルトの締め付けがなくなると、元々タイトな造りである筈のズボンのウエストが緩み、隙間が出来る。
其処に両手の親指を左右に入れて、スコールはぎゅっと唇を噛むように噤んでから、そろりとズボンを下ろし始めた。
シンプルな黒のボクサーパンツが顔を出し、よくよく見ると、その中心部が少し膨らみつつある。
スコール自身もその自覚があるのか、顔を赤くして、己のその有様を目にしないように両目を頑なに噤んでいる。

ズボンを脱いだら、次は靴下だ。
踝までしかないそれを、スコールは指に引っ掛けて脱ぎ、ぽいと捨てる。
両の足が裸足になって、最後に残ったボクサーパンツにも手をかけた。
其処からしばし、硬直して動かなくなったスコールに、クラウドは言った。


「スコール。ゆっくり、な」
「………」


念押ししたクラウドに、スコールの目がじろりと睨む。
しかし、笑みを浮かべて此処から先を楽しむつもり満々のクラウドに効く訳もなく、何より、言い出しっぺはスコールの方だった。
今頃は頭の中に、クラウドへの恨みと、軽率なことを言った自分への小言が繰り返されているのだろうが、一応、それを口にしないつもりではあるらしい。
精々、うぅ、と唸る声が零れるくらいだった。

はあ、とスコールは何度目かの息を吐いて、心を決めた。
クラウドの指示の通り、ゆっくりと、殊更にゆっくりと、パンツを下ろしていく。
膨らみかけていた中心部がフロント部分を引っかけるのが判るのだろう、スコールはふるふると腰を震わせていた。
太腿下までパンツがずらされると、遂にシンボルが露わになり、それは半分ほど頭を起こしていた。
差し出すように晒された恋人の下半身事情に、クラウドがにんまりと笑みを浮かべると、スコールは益々顔を赤くする。
きっと縮こまって全部を隠してしまいたいのだろうが、止めた所で解放される訳でもない事は分かっているのか、スコールは最後に左足を抜くまで、きちんとストリップショーをやり遂げた。


「っは……これで、良いか……?」
「ああ。良い光景だった」
「……変態め……」


忌々し気に言うスコールに、クラウドは満足げな表情を隠さない。

一人ストリップショーをなんとか終えたスコールだったが、今日の夜はまだ始まっていなかった。


「スコール。次はこっちだ」
「……判ってる」


促すクラウドに、スコールは不承不承の顔をして近付いた。

いつも通りの格好をしているクラウドの体に、スコールが触れる。
平時から身軽な服装をしているスコールは、鎧を始めとした防御装備と言うものにあまり馴染みがないらしい。
ぺたぺたとクラウドの服を触りまわしているスコールは、何処からどうすれば、と眉根を寄せて悩んでいた。
そんなスコールに、クラウドは先ずはこれからだろうと、ガントレットを装備した左手を差し出した。


「この辺りのネジを緩めるだけで良いぞ」


クラウドが指差した部分に嵌められたネジ。
防御の為に身に着けるものだから、体格に合わせた調整が出来るのは当然で、クラウドはいつもそれをしっかりと締めている。
だが、此処さえ緩めてしまえば着脱は簡単なのだと言うと、スコールは「……面倒くさい装備だな」と呟きながら、ネジを回した。

左手のガントレットを外した後は、右手だ。
此方は武器を扱う手だから、手首周りがもっと自由に動かせるように、グローブを嵌めているだけ。
サイズの微調整に使う手首のベルトを緩めれば、簡単に外すことが出来た。


「……次、は……」
「肩の留め具は此処」
「……もっと造りの判り易い格好しろよ、あんた」
「知ってればそう難しいものでもないぞ。まあ、他人の手で脱ぎ着させるのを想定した造りじゃないのは確かだが」


ぶつぶつと文句を言いながら、スコールはクラウドの装備を外していく。
肩当と、それを固定する為のベルトを外すと、クラウドの衣装もシンプルなものが残った。
スリーブ生地の服にスコールの手がかかり、持ち上げられるのに合わせて、クラウドは腕を頭上へ。
頭を潜って服が脱がされると、そのままインナーシャツも脱がされた。

顔回りを布が擦った違和感に頭を振りつつ、ふう、とクラウドが息を吐いている間、スコールはじっとその様子を見詰めている。
正確には、裸になって露わにされた、クラウドの筋骨の浮き上がった上肢を。


「………」


徐に伸ばされたスコールの手が、ひた、とクラウドの胸に触れる。
ぺた、ぺた、と体の具合を確かめるように、胸、腹、脇腹と、触れては離れる白い手に、クラウドは擽ったいものを感じていた。

クラウドの体をしげしげと眺めるスコールの内心は、どうしてこんなに筋肉がついているんだ、と言う事。
身長は自分と大差ないし、どうやら元の世界の文明レベルも近しいと思えるのに、身体の造りはクラウドの方が判り易く逞しい。
仕様武器が身の丈程もあるバスターソードであることから、それを振り回すだけで相当な筋力が鍛えられる事は想像に易いが、体全体で言っても、クラウドはスコールよりも一回り程の厚み幅がある。
スコールの場合、ジャンクションと言う方法があるので、純粋な体格だけで足りない部分を補う技術があるのは確かだが、それにしても身一つで戦うからとこうまで体型に差が出るものなのか。

羨ましさと、妬ましさも混じった目で、スコールはぺたぺたとクラウドの体を触り続けていた。
自分がすっかり裸であることも忘れた様子で、恋人の体に見入るスコールの様子は、クラウドにしてみると子供らしくて可愛い所もあったが、


「スコール」
「……!」


名前を呼ばれて、はっとスコールは我に返った。


「悪い。え、と……次は……」
「下だな」
「………」


詫びながら作業に戻ろうとしたスコールだったが、残る箇所を見て動きを止める。
そろりと視線が下へと下りて、まだ崩されていないボトムに行き付いた。

忘れていた羞恥心が戻って来たか、スコールは赤い顔になって、ゆっくりとクラウドの下肢へと手を伸ばす。
腰のベルトを外して引き抜き、僅かに緩んだズボンのフロント部分のボタンを外す。
ファスナーを下へと下ろしていく指先が、緊張しているように見えるのは、クラウドの気の所為ではなかった。

前が緩むと、グレーのトランクスが覗き、中心部が判り易く興奮を表している。
それを見たスコールが、益々顔を赤くして、じろりとクラウドを睨んだ。


「何興奮してるんだ、あんた」
「するなって言う方が無理だろう。お前は裸だし」
「あんたが脱がせたんだろ」
「自分で脱いだだろ?」
「あんたが自分で脱げって言ったからだろ」


好きで裸になった訳じゃない、とスコールは怒った顔で言う。
目の前でストリップショーを開く羽目になったのも、今も裸で恋人に献身するような事をしているのも、決して自分の本位ではないのだ、と。

しかし、そんな顔をして見せても、本気で怒ってはこないのだから、クラウドはついつい調子に乗りたくなる。

ズボンを脱がせにかかったスコールへ、クラウドの手が伸びる。
首の後ろにするりと指を滑らせると、すっかり油断していたのだろう、「ひぅっ!」と言う声が上がった。


「あんた、何してるっ」
「触ってみた」
「余計なことするな!」


怒って噛みついてきそうなスコールに、クラウドはくつりと笑って、その体をぐっと引っ張り寄せた。
無防備にしていたスコールの身体は、簡単に力に従って、クラウドの下へと引き寄せられる。
密着した身体の背中に両腕を回し、閉じ込めながら手指を滑らせれば、


「っクラウド!」
「良いだろう、今日は俺の好きにして良いと言ったのはお前だ」
「言……ったけど!服だってまだ」
「ああ、そうだな。だからほら、このまま脱がしてくれ」


スコールの細身の腰骨を摩りながら、クラウドはスコールに指示を出す。
抱き締められた状態で、碌な身動きが出来ないスコールは、「邪魔するな」と怒ったが、クラウドはくつくつと笑うばかり。
律儀に言われた事は果たそうとする恋人を、クラウドは敢えて妨害しながら、赤らんだスコールの肌の感触を楽しんでいる。


「変な所を触るな」
「可愛がってるだけだ。気にしなくて良い」
「気になるんだ!だから、やらしい触り方をするなって……!」


小ぶりな臀部を撫で下り、足の付け根の皺を辿る指先に、スコールは必死に抗議する。
そうも懸命に振り払おうとするのは、触れられている場所から、ぞくぞくとした官能の種が芽吹いて行く所為だ。
彼の中心部は、此処に至るまでに既に半分は起き上がっている。
これ以上、意図的な触れられ方をしたら、決定的な熱を貰っている訳でもないのに、内側にため込んだ熱が溢れ出してしまいそうだった。
幼い矜持がそれだけはと抵抗するが、そんな拙い抵抗の様子こそが、目の前の不埒な男を煽っているとは知らない。

クラウドの指が、双丘の谷間に近付いて、スコールの身体がビクッと強張る。
やだ、と小さな声がクラウドの耳元で零れたが、それが恐怖や嫌悪を伴っていない事は、何度も肌を重ねた経験から判っていた。
クラウドは直ぐ其処にあるスコールの耳に、舌先を這わせながら囁く。


「スコール。ほら、ちゃんと脱がせてくれ」
「っあ……!」
「俺の好きにしてくれるんだろう」


クラウドの言葉に、スコールが唇を噛んで小さく呻く。
渡せるものが思いつかないからと言って、軽率なことをするんじゃななかった。
彼の呻きの声の中には、きっとそんな言葉が渦巻いているに違いない。

はあ、とクラウドの耳元で熱の籠った吐息が零れ、スコールの震える指がもう一度下へと下りて行く。
半端に脱がせていたクラウドのズボンを、一所懸命に引き下ろそうとする気配があって、クラウドも手助けに腰を浮かせて足も曲げる。
後はトランクスが残っているが、その中心の膨らみはもう明らかで、クラウドに寄り掛かるスコールの手は、最後の一枚を脱がすよりも先に、その中へと侵入していたのだった。




クラウド誕生日おめでとう、と言う事で。

誕生日なんだから何かした方が、でも何をすれば、と判らなくて本人に聞いた末、「今日は全部お前がやってくれ」とか言われたスコールです。
普段はイチから後始末までクラウドがするのですが、誕生日だし、スコールからもして欲しい事を聞かれたし、じゃあスコールにして貰って見よう、となった訳です。
主導権を渡されたのが初めてのスコールなので、どうして良いか判らないのでクラウドの指示に従う形をしてたんですが、えっちい触られ方をしてスイッチが入ってきたんだと思います。

[バツスコ←サイ]さかしまの糸

  • 2024/08/08 22:25
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

オメガーバースパロ




運命なんて陳腐な言葉を信じていた訳ではないけれど、そうだったら良いな、と思っていた自分がいたのも、確かだった。

元々、スコールはβだった。
それが12歳の頃、突然の性の転換が起こって、Ω性だと診断された。
特に得意なものがある訳でもなく、凡夫だと、自分への自信のなさからそれ以下であるとすら思っていたスコールにとって、この転換は大きなショックを与える。
ただでさえ他人と上手く意見交換も出来ず、縮こまって時間が過ぎるのを待つしかなかったと言うのに───いや、それで待っていれば事もなく世は回ってくれたのだから、それでも良かったのだ。
自分自身の不出来さに、膝を抱えて俯いて、それでも誰かの邪魔をすることなく過ごしていれば、何事もなかった。
それなのに、Ωと言う性まで持ってしまって、他人にしてみれば、余計に手がかかる存在になってしまった。

引き取られたばかりだった父親に伝えるにも随分と時間がかかり、結局彼に知られたのは、“発情期”───ヒートによって昏倒した時のこと。
以降は父親の伝手もあり、ヒートを抑制する薬は欠かさず常備されるようになったが、それもあまり効かない傾向がある。
薬で辛うじて正常な意識を保ちながら、ヒートの期間が終わるまでは、とにかく待って過ごすしかなかった。
その間は学校に行くことは勿論、誰かと会う事も満足に出来ない。
面倒な奴を引き取ったって思ってる、と言う父親に対するスコールの思いは、当人曰くは杞憂で済んだようだけれど、本当はまだ、心の何処かでそう思っているんじゃないかと考えている。
それは、マイナスなことを自分から考えることで、捨てられた時の心の準備をしているからだ。
せめて少しでも早く、そんな不安から逃れられるように、スコールは一秒でも早く自立できる日を目指しているけれど、やはりΩ性故の特性は、そんな少年の思いの足を引っ張っていた。

そんなスコールにとって、何があっても一緒にいるよ、と言ってくれたバッツの存在は、数少ない心の救いだった。
バッツは、スコールが父ラグナに引き取られ、その家に来てから逢った青年だ。
三つ年上の彼は、気難しい年頃だったスコールに何くれと構い、スコールがΩ性へと転換したと最初に気付いた。
それはバッツがα性であったからで、Ω性に見られる、他者を引き付けるフェロモンの発露を肌で感じ取ったからだ。
当時、既にスコールの性格を大まかに把握していたバッツは、言葉を慎重に選びながら、スコールを知り合いで信頼できると言う医者の下へ連れて行った。
だから、スコールがΩ性となった時から、彼はスコールの面倒を見ているのだ。
スコールがΩになった事について、混乱で不安定になっている間も、彼は言葉の通り、ずっと傍にいてくれた。
それが当時のスコールにとって、変え難い経験であった事は、間違いない。

そう言う経緯があるから、スコールにとってバッツが特別信頼できる人間となるのも、自然なことだ。
バッツ以外に何もかもを曝け出し、それを受け止め包み込んでくれる人はいない。
バッツの方も、何くれとスコールを優先し、不安に泣けば抱き締めてくれたし、落ち着くまでずっと傍にいてくれた。
ラグナが家にいない日、ヒートで倒れたスコールの僅かなメッセージを聞いて、駆け付けてくれた。
そうして二人が、お互いの熱に浮かされるようにして交わったのは、二人にとっては当たり前の結果だったと言って良い。

それ以来、逢瀬を重ねては、隠れるように肌を合わせた。
スコールはそれが一番安心したし、バッツはスコールが安心する為に世話を焼くのを惜しまない。
Ωが一人のαの唯一となる為の、“番”になることも考えた。
だが、スコールは今年でまだ十七歳で、父親の庇護下で暮らしているし、“番”は一度その関係を作ったら、離れることが出来ない。
αがΩを捨てると言う出来事は稀に聞く話ではあったが、それはΩに多大なストレスを齎し、収まった筈のヒートも再発するが、二度と“番”を作ることも出来なくなる。
Ωにとって、“番”となったαは唯一無二の存在となり、その存在なくして生きていくことは出来ないのだ。
“番”になることは、Ωの今後の人生の選択を決めるも同然。
だからバッツは、“番”になりたがるスコールを敢えて宥めて、「成人まで待とう」と言ったのだ。
戻れない選択をするのだから、それまでに選べる筈の未来を早くに切り捨ててしまわないで、色んな未来の形を考える為に────と。

バッツに宥められてからも、スコールは彼と“番”になる日を今か今かと待っている。
彼との交わりをする度、項を差し出して見せると、バッツは窘めながら其処にキスをしてくれた。
ぞくぞくと感じる高揚と安堵に、やっぱり此処を噛んでくれるのは彼なのだと思った。
バッツが自分の“運命の番”なのだと、スコールは肌身で感じていたのだ。

だから、バッツの言う通り、二十歳になる日を待とうと思った。
そうすれば、その日になれば、バッツは噛んでくれるから、彼の為だけのΩになれるのだから。

─────そう、信じていたのに。


「おい。お前、スコールか?」


眩い程の金色、ペリドット色の瞳、幼い頃に自分と揃いでつけてしまった逆向きの顔の傷。
五年ぶりに逢ったその顔を見た瞬間、何かの底が抜けるような感覚がした。




後ろを追う足音から、逃げるように歩く。
走っても良かったが、それだと露骨すぎて、きっと火に油を注ぐ。
そも、こうやって逃げている事に気付かれている時点で、全てが油にしかならないのだろうけれど、燃え上がる事は避けたいと思っていた。

待て、と言う声が近付いて来る。
やっぱり走ろうか、でもこの距離まできて走った所で、逃げ切れるとも思えなかった。
彼の事は子供の頃からよく知っている、一緒に走るとスコールはいつも置いて行かれていた。
あの頃よりもスコールは運動が出来るようになったけれど、染み付いた感覚はやはり拭う事は出来なくて、いつだって三つも四つも先を行っていた幼馴染には、今でも勝てる気がしなかった。

そうやって頭の中で考えている内に、追い付かれていたらしい。
ぐいっ、と腕を後ろに引っ張られて、彼────サイファーがすぐ後ろに着ていた事にようやく気付く。


「待てって言ってんだろうが、バカスコール!」
「……バカじゃない」


苛立ち混じりのサイファーに、スコールも眉根を寄せて睨み返した。
当然ながらサイファーがそれに臆する訳もなく、寧ろより苛立った表情で、ずいと顔を近付けてくる。


「毎度毎度、無視してんじゃねえ。少しは話を聞きやがれ」
「話なんて、する事なんかないだろう。離せ」


スコールは、腕を掴むサイファーの手を振り払おうと試みた。
しかし、手首の骨が軋むほどに痛い力で握り締められ、スコールが何度腕を振ってもびくともしない。
それが幼年の頃から培われて根を張った、スコールの劣等感を刺激する。

逃がすまいと掴む腕をそのままに、サイファーはスコールを向き直らせる。
自分とちゃんと相対しろと言うサイファーに、スコールは苦々しい顔を浮かべていた。


「スコール。判ってねえとは言わせねえぞ。だから俺から逃げてるんだろ」
「……逃げてない」
「だったら避ける必要もないだろ?」
「あんたが煩いから嫌なんだ」
「お前が俺の話を聞かないからだろうが」


荒げてこそいないものの、サイファーの声には明らかに怒気が混じっている。
子供の頃なら、スコールはそれに当てられるだけで、縮こまって泣き出していただろう。
その頃よりは成長してるんだ、と拙い反論をする自分に言い聞かせながら、スコールは早くこの場を離れたくて仕方がなかった。
だが、相変わらず腕を掴んだままのサイファーの手があって、どうやってもこの場に縫い留められてしまう。


(離れないと。離れないといけないのに)


学校でサイファーの姿を見る度に、スコールはそう思っている。
学年が違うから、毎日必ず顔を合わせる訳ではないけれど、それでも彼が近くを通れば、本能的に体がその気配を感じ取る。
気を抜くと目がその存在を探しそうになるのを、スコールはいつも歯を噛んで堪えていた。
……“堪えなければならない”ことが、またスコールを自己嫌悪に貶める。

サイファーもそれを判っているのだ。
元々、サイファーは不思議とスコールのことには本人以上に敏感で、スコールの身に異変があると、誰よりも先に気付いていた。
思えばあれは、幼い時代に既に無意識にあった、本能が齎していた行動だったのかも知れない。
けれどそう考えてしまうと、“運命”はあの頃から既に根付いていたことになって、それはつまり────と嫌な結論に行き付いてしまう。
それが嫌だから、スコールは再会してから意図的にこの幼馴染を避けているのだけれど、


「ラグナさんから聞いたぞ。Ωになったって」
「……勘違いだ。俺はβだ」
「だったらお前のこの匂いはなんだよ」
「……香水」
「お前にそんなもんつける甲斐性があるか。ガキの頃、消臭剤にだって鼻曲げてた奴が」


どうでも良いことばかり覚えているな、とスコールは独り言ちた。
けれど、子供の頃、良い匂いだから嗅いでごらん、と差し出されたフローラルな匂いを放つ消臭剤に、一人鼻を摘まんでいたのは事実だ。
今でも匂いの多くには不快感が先立つものだから、サイファーの言う通り、スコールが香水なんてものをつける筈がない。

ずい、と近付けられる顔は、幼い頃と同じで、勝ち気で自信に満ち溢れている。
幼い頃、その光に魅せられるようにして、密かな憧れを抱いていたことを、スコールは思い出していた。
最早幼い日の郷愁でしかなかった筈のその感覚に、今になってまた襲われるなんて。
近付いて来る碧眼に、心臓が馬鹿になったように早鐘を打っている事を、認めたくなかった。


「スコール」
「……!」


向き合え、と名前を呼ぶ声に、鼓膜の奥でぞくりとしたものが奔る。
それが嫌悪感なら良かったのに、言いようのない高揚があるのが判ってしまった。


(やだ。いやだ。いやじゃない。いやじゃないのがいやだ)


直ぐ其処にある碧眼から、俯いて逃げる。
手首を掴む手が益々苛立ちを表すように力を増したけれど、スコールは顔を挙げなかった。
挙げられなかった、と言うのが正しい。

そんなスコールに、サイファーは露骨な舌打ちをして、


「そんなに俺が嫌いかよ」


サイファーの言葉に、今度はぞくりと背中が冷たくなる。

何もかもが自分の想いとは裏腹の反応が起きて、更にはスコールの身体から力が抜ける。
ずるりと座り込んでいくスコールを、サイファーは睨むように見下ろしていた。
唯一、掴まれたままのスコールの腕が、微かに震えながら精一杯に緩い拳を握り、


「……あんたじゃない」


吐き出すように零した言葉は、確かにサイファーの耳にも届いていた。
爛々としていた碧眼が、じわりと重い感情を浮かび上がらせる。


「……なんだと」
「……あんたじゃない……あんたじゃない!」
「お前、」
「あんたじゃないんだ……!」


絞り出すスコールに、サイファーも並々ならぬものを感じたのだろう。
スコールの腕を掴んでいた手から微かに力が抜け、俯くスコールの旋毛を見つめる目が細められる。

スコールは顔を上げないままで、言った。


「好きな奴が、いる」
「……!」
「俺がΩになった時から、一緒にいる。俺を大事にしてくれて、これからもずっと一緒にいるって約束してくれた。番になろうって、俺がちゃんと大人になったら、その時に、ちゃんと」


そう約束したのだ。
あれは一時のものではないし、彼に抱かれていると安心できる。
この腕の中が自分の“巣”だと、スコールはそう信じていた。

だが、そう思えば思う程、その言葉を吐き出せば吐き出す程、どうしようもなく息が出来なくなる。
頭の中の奥隅、深層意識とでも言うような場所から、もう一つの声がする────『判っている癖に』と。

サイファーがスコールのことを良く知っているように、スコールも彼をよく知っている。
父に引き取られて孤児院を離れ、数年間を別々に過ごしていたとは言え、昔は何かと同じ時間を共有していたのだ。
良い所も悪い所も知っていて、幼い日、彼に頻繁に泣かされたのは事実だが、反面、サイファーに慰められたことも多かった。
不器用な子供は、存外と根が真っ直ぐで世話焼きで、いつも一人でいるスコールを放っておけず、また他の子供がスコールにちょっかいを出すと、「俺のスコールに触るな」とばかりに割り込んできた。

幼い頃のサイファーが、どういうつもりでスコールに執着していたのか、正確な所は判らない。
だが、昔からロマンチストな気質だった彼が、αとΩの間にある“運命の番”と言うものに憧れていたことは知っている。
幾千幾億と存在する人間の中で、唯一無二の存在に出会えると言うことは、それこそ得難い幸福だと思っていることも。
若しもその相手に逢えたなら、全力で守ってやるんだと、幼心に誓いを立てていたことも、目の前で見ていたから知っている。

それでも、自分が約束したのは彼なのだと、スコールは見下ろす幼馴染を睨んで言った。


「あんたじゃない。俺の“運命”は、あんたじゃない」
「……」
「あんたじゃ、ないんだ……!」


碧眼に映り込む蒼灰色は、涙と悲しみと悔しさで歪んでいる。
瞬きせずとも溢れ出したその雫に、サイファーの手が伸びて、それは触れる前に止まった。
押し留めるようにゆっくりと握り締められた手が退いて、スコールの腕を掴んでいた手も離れる。

ようやく自由になった、とスコールの覚束ない足が立ち上がり、ふらふらと歩き出す。
走る事も出来ずに遠ざかって行くスコールの背を、サイファーはただ見送っていた。

いつも何気なく歩いている道が、酷く長くて、足が重い。
家までがやけに遠くて、座り込んでしまいたかったけれど、早く愛しい人に逢いたかった。
その一心だけで歩いていたから、名前を呼ぶ声があった事にも気付かず歩く。


「───ール。…スコール。スコール!」


何度目の呼ぶ声だったのかは判らないが、それが辛うじて聞こえてようやく、スコールは顔を上げる。
褐色の瞳がすぐ其処まで駆け寄ってきて、青白い顔をしたスコールの両肩を掴んだ。
どうしたんだよ、と心配そうに覗き込んでくる愛しい人───バッツの顔を見た瞬間、スコールは堪え続けていたものが溢れ出すのが判った。


(どうしよう、バッツ。俺の運命、あんたじゃなかった)


運命なんてバカバカしいと言っていた。
それでも、運命と言うものがあるなら、これが良いと思っていた。


(今はもう、どう思えば良いのかも判らない)


嗚咽を零して泣き出したスコールを、バッツは戸惑った表情を浮かべながら抱き締める。
大丈夫だよと頭を撫でられて、いつもの匂いを嗅ぎながら、スコールはどうしようもない遣る瀬無さに打ちひしがれていた。






『オメガバース設定で、最愛の恋人と運命の相手が違う三角関係』のリクを頂きました。
CPをお任せで頂きましたので、バツスコ前提サイ→スコになりました。

スコールはβだったけど、元々性質としてΩの資質も持っていて、αのサイファーは本能的に子供の頃からそれを感じ取っていたんだと思います。診断上はスコールがβなので、そうと思っていなかっただけで。
二人が離れ離れになってからスコールがΩになり、その時一緒にいたのがバッツで、何かと面倒を見てくれたし、スコールも信頼してるし、バッツもスコールが好きになった。αとΩだし、きっと運命だなって二人で納得してた訳です。番になる約束もしたし。
でもスコールとサイファーが再会してしまい、αとΩとして“運命の相手はこいつだ”と感じ取ってしまったと言う話でした。

サイファーは運命を信じていて、子供の頃からの無自覚の独占欲や恋慕(当時は未満)があって、再会後は自分がスコールと番になりたいことはもう自覚しているけど、スコールの気持ちを無視したくはない。
追い駆けてたのは、お互い明らかに感じ取ってる節があるのに、スコールが逃げてばかりで話も出来てなかったからです。
やっと話せたと思ったら、スコールの方が追い詰められた状態にあると悟って、スコールの気持ちを汲んで追い駆けなかった(追い駆けられなかった)……と言う状態でした。

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