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User: k_ryuto

[ウォルスコ]素顔の貴方で

  • 2021/08/08 22:15
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


数学科準備室で、ウォーリアは明日の授業に使うプリントの作成をしていた。
教師と言う職業に就いてからかけるようになった伊達眼鏡に、打ち込まれる数字の羅列が反射して映り込んでいる。

夕暮れの色が強くなった空から降り注ぐ橙色の陽光は、随分と傾いた場所から注がれているようで、室内は少し暗い。
パソコンの画面が煌々としているので然して困る事はなかったが、ふと液晶画面から顔を挙げた時のコントラストの差に、目が疲労を訴える。
プリント作りはもう少しで終わりそうだが、このまま電気を点けないまま作業をし続けると言うのはどうか。
目の健康の為にも、電気位はつけたの方が良いか。
壁にあるスイッチ一つで電気は灯るのだから、その程度を横着するのもどうかと、ウォーリアはようやく思い至った。

ふう、と一つ息を吐いて、ウォーリアは眼鏡を外した。
視力に問題がある訳ではないので、一枚ガラスを挟んだ視界と言うのは未だに慣れないのだが、校内にいる限り、ウォーリアはそれを身に付けるようにしている。
それは今のウォーリアにとって、一つのけじめの為に用意した道具だった。

パソコンの横に置いていたケースから眼鏡拭きを取り出し、レンズを軽く拭いていると、コンコン、とノックの音が聞こえた。
眼鏡をかけ直している間に、「失礼します」と言う挨拶と共にドアが開く。
室内と同じように、オレンジ色を帯びた廊下を背景に、濃茶色の髪の少年────スコールが入って来る。


「今日期限だったアンケート、全員分回収して来ました」


スコール・レオンハートは、ウォーリアの担当するクラスのクラス委員をしている。
成績優秀で知られた優等生で、それを知っていた生徒達から、半ば祀り上げられる形で委員長へと推薦、そのまま決定した。
本人はそれを「推挙された」のではなく、「生贄にされた」と言って苦い表情を浮かべるが、根が真面目な彼は、委員長としての役割をきちんと果たしてくれる。

今日もスコールはその仕事を熟しており、両手に暮らす人数分のアンケートプリントを持っていた。
アンケートは、来年に本格化する将来への進路希望に関する調査だったのだが、まだ二年生と言うこともあってか、記入の遅い生徒はいるものであった。
まだ碌に決まってない、それを考えてもいない、中にはプリント自体なくした、なんて言う者も出て来る中で、スコールはなんとか期限内に全員分のプリント回収と言う任を果たしたようだ。
今日の今日まで記入していなかった、それ自体忘れていた者もいた中で、根気強く役割を担ってくれた少年に、ウォーリアは定型ながら心から労いを送る。


「ありがとう、スコール。ご苦労だった」
「……いえ。これ、何処に置けば良いですか」
「では、其処の棚の三番目に」


丁度スコールが立っている場所の右隣に、プリント等の紙類を収納している棚があった。
空いているスペースを指して言うと、スコールはプリント束の端を揃えて入れる。


「あと、世界史のガーランド先生から伝言です。来週月曜の課外授業に使うものが職員室に届いたので、回収を、と」
「ああ、判った」
「先生の机に置いてるそうです」
「了解した」


少年の言葉に応答を返しながら、ウォーリアはパソコンに向き直った。
電気を点けねばと思った所ではあったが、今席を立つ訳にはいかない。
密かなその自戒は、少年がこの部屋を出て行くまで続くものであった。

ドアの滑る音がして、静かに閉められる。
さて、と電気を点けるべくパソコンから顔を挙げたウォーリアだったが、閉じたドアの前に佇んでいる少年の影を見付けて、レンズの奥で微かに眉を潜めた。
カチャン、と言う金属の当たる音は、ドアの内鍵が閉められたものだ。
それが意味する所を悟って、ウォーリアが密に溜息を零す。

此方へと近付いて来る少年の気配を感じながら、ウォーリアはまたパソコンへと向き直っていた。
プリント作りを再開させれば、静かな教室の中に、キーボードを打つ音だけが木霊する。


「……先生」


呼ぶ声に、ウォーリアのキーボードを打つ手が止まった。
デスクの横に立ち尽くしている少年を見上げれば、じっと蒼の瞳が此方を見詰めて来る。
その瞳に滲む浮かぶ声に、ウォーリアは口を噤んだままを保っていたが、


「……ウォル」


二人だけの呼び名を口にしたスコールに、ウォーリアは目を伏せる。
それは、駄目だと言うことを少年に告げると同時に、自分を律する為に必要な時間でもあった。


「…学校にいる間は、“先生”と呼びなさい。そう言っただろう」
「……良いだろ、別に。どうせ誰もいないんだから」


窘めるウォーリアに対し、スコールは砕けた口調で言った。
基本的に教師に対しては、正した言葉を使うスコールでだが、“ウォーリア”に対しては別だ。
二人の関係が、密やかなながら”恋人”と言う関係であるが故に。

しかし、此処は数学科準備室で、二人きりであるとは言え、学校内である。
教師と生徒が特別な関係になっている事は、誰にも知られてはいけない。
それはスコールの立場と未来を守る為に、ウォーリアが彼を想って作った線引きだった。
スコールは賢い子供であるから、二人の関係が他者に知られればどうなるのか、判っていない訳ではないだろう。
しかし若さから来る無鉄砲、言い換えれば顧みないが故の強さか、スコールは度々これを越えようとしていた。


「誰もいなくても、だ。気を付けなさい」
「………」


教員としての距離を保って、注意と言う形で窘めるウォーリアに、スコールは判り易く唇を尖らせる。

平時は教職員を相手に、聞き分けの良い優等生然としているスコールだが、実は中々頑固で臍を曲げやすい性格であると知る者は少ない。
教員に対して反発的な態度を取っても、大した得にもならず、目を付けられて面倒が増えるから、大人しくしているだけだ。
だから気心の知れた人間の前だと、こんな表情もして見せる。
それは恋人としてスコールに信頼されている証であると、ウォーリアもそう思いはするのだが、かと言って甘い顔をしてはいけない。
この線引きは、万が一の不幸からスコールを守る為の、大切なけじめなのだから。

だが、ウォーリアはそのつもりでも、スコールはそれを良しとしていない。
徐に伸びたスコールの手が、ウォーリアの銀色の髪の端を滑る。
人差し指が甘えるようにその毛先に絡まって、目を逸らすウォーリアを咎めるようにくん、くん、と引っ張る感触があった。


「……」
「……ウォル」


甘えたがっている時の声だった。
何か嫌な事があったのか、それとも。
考えてみるウォーリアだったが、スコールはとても繊細だから、事件のような事がなくても、ふとした瞬間に不安に襲われる事があった。
そして一度巣食ってしまった感情は、まだ未熟な彼には自力で追い出す事が難しくて、縋るものを求めて恋人の温もりを欲しがる。

パソコンへと集中させようとしていた顔を挙げれば、じっと見下ろす蒼灰色とぶつかった。
ウォーリアの髪の毛で遊んでいた指が、服の端を摘まむ。
目線を合わせてしまうと、途端に消極的になってしまう少年のいじらしさが、ウォーリアには振り払えない。

ウォーリアは座っていた椅子を少しだけ引いた。
体とデスクの間に隙間が出来ると、スコールは其処に寄り掛かるようにして収まる。
膝上に乗った体重はウォーリアには軽いもので、スコールがまだまだ線の細い未熟な体をしている事がよく判った。
その背に腕を回して、落ちないようにと支えてやれば、近い位置にあるスコールの顔がウォーリアの顔を覗き込み、


「……これ、邪魔だな」


呟いたスコールの指が、ウォーリアの目元を庇うものに触れた。
する、と前髪を持ち上げるように外されて、ウォーリアの手が逃げるフレームを追う。


「返しなさい」
「嫌だ。あんたの顔がちゃんと見えない」
「スコール」
「…キスしてくれたら返す」


至近距離で大胆な事を言ってくれる、年下の恋人。
膝に乗せているだけでも、人に見られたら何を言われるかと言うのに、とウォーリアが眉根を寄せていると、スコールは少しバツの悪い表情を浮かべながら目を逸らし、


「……良いだろ、偶には。毎日あんたと顔を合わせてるのに、ずっと“生徒と先生”で我慢してる。そのご褒美くらい、寄越してくれたって」


────この線引きを言い出したのは、勿論、ウォーリアの方だ。
関係に付きまとうリスクはスコールも判っていたから、堂々と宣言できるような間柄ではない事も理解している。
だから学校にいる間は、と言うウォーリアのそれが、自分を想うが故の配慮である事も、ちゃんと受け止めているつもりだ。

けれど、スコールは本質的に寂しがり屋で不安性な所がある。
幸せを感じるほどにそれが崩壊した時の事が恐ろしくなり、その感情は自分で拭う事は難しい。
だから一層、恋人であるウォーリアの存在を確かめたくなるのだけれど、そんな時間を作るのもまた難しかった。
学校に行けば毎日顔を合わせる事が出来るのに、遣り取りはいつも淡泊なものだけで、特別な時間なんて幾らもない。
そうして募って行く不安や焦りが、時にこんな風に、無心にウォーリアを求める行動に現れるのだ。

じっと見詰め、求める蒼灰色の宝石の訴えに、ウォーリアは何度目かの溜息を洩らした。
それを見たスコールの眼に、また不安げな揺れが映るが、


「スコール」
「何────」


名を呼ばれて返事をしようとしたスコールの声が、中途半端に止まった。
一枚レンズから解放された、アイスブルーが真っ直ぐにスコールの眼を見詰めている。
どくん、と幼い熱を宿した心臓が跳ねて、スコールは息を詰まらせた。

ゆっくりと近付く、美術品のように整った顔に、スコールは瞬きすら忘れていた。
鼻先が掠め合ったのを感じて、あ、と小さな音が零れる。
食い入るように見つめる少年の唇は、無防備に薄く開いて、其処に触れる感触を待ち侘びていた。

───が、触れる感触があったのは、唇のほんの少し横。
ほんの一瞬、温かな感触が当たったかと思ったら、それはついと離れてしまった。


「此処までだ、スコール」
「……な……」


やはり引いた線引きは守るウォーリアの行動に、スコールの顔に一気に朱が浮かんだ。
期待していた自分が恥ずかしくて、やっぱり越えて来てはくれない恋人が腹立たしくて、……けれど触れた感触は暖かくて、彼の心の中は嵐のように騒がしい。
何を言わんとしているか、本人すらも判らない様子ではくはくと開閉する唇に、ウォーリアの指先が触れる。
その指先が名残を伝えるようにゆっくりと離れるから、スコールは結局、何も言う事が出来なくなる。

夕暮れの明りの所為だけではない、真っ赤になったスコールの顔を見詰め、ウォーリアはくすりと笑う。


「眼鏡を返して貰えないか。スコール」
「………」


嘆願するように言ったウォーリアを、スコールがじろりと睨む。
しかし、赤らんだ顔では凄みもなく、結局彼は、奪っていた眼鏡をウォーリアの手へと返してくれた。

ウォーリアが眼鏡をかけ直している間に、スコールは恋人の膝上から逃げてしまった。
離れた温もりに、こっそりと寂しさを覚えながら、しかし仕方がないとウォーリアは表情を隠す。
スコールは少しふらふらとした足取りで、廊下へと続くドアへと向かって行った。

そのまま出て行くかと思われたスコールの足は、ドアの前で一度止まる。


「……外で待ってる」
「遅くなるかも知れない」
「良い」


早く帰りなさい、とウォーリアが促す前に、スコールは言い切った。
背中越しに、一緒にいたい、と言う声が聞こえたのを、ウォーリアは聞いた。

ウォーリアがそれ以上に何かを言う前に、スコールは出て行った。
ぴしゃ、と仕舞ったドアを見詰めて、ウォーリアはひっそりと息を吐く。
それは溜息のようで、仕様がないと諦めにも受け入れにも似ていた。

ウォーリアは眼鏡を外し、パソコンの電源を切った。
プリントの作成はまだ途中だったが、やる事は自宅に戻ってからでも十分可能なのだ。
それよりも今は、本当にいつまでも待ち続けるつもりであろう少年を、早く迎えに行かなくてはいけない。
それは教員の責任として───ではなく、恋人を大切に想うが故の事であった。





『現パロのウォルスコ』のリクエストを頂きました。
設定はお任せして頂きましたので、教師×生徒でうまうましました。

伊達眼鏡かけたウォーリアが、それで意識の切り替えしてると良いなと思って。
でも案外その切り替えは緩々だったりして、なんだかんだスコールに甘いと良いなあ。でも一番の所には手を出さないから、スコールはやきもきしながらでも幸せだと良い。

[ウォルスコ]始まりの鼓動へ

  • 2021/08/08 22:10
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF
小説[黄金の色に映るもの]の前日譚





教員を目指すに当たり、その為の机上の勉強は勿論であるが、それ以上にも実際に人と向き合う事が大事だろうと、ウォーリアが大学教員である恩師から諭されたのは、昨年のこと。
人を導くことを考えるのならば、導くべき人とどう向かい合い、何を考えるべきか、それを知る事から始めるべきであると。
そう言われた時、カリキュラム上に上げられる勉学には時間を惜しまなかったが、確かに“人”と接した事はない、とウォーリアも自覚した。

ウォーリアの誠実な人柄は他者から大変好まれるもので、見目の美しさも手伝って、過去には(本人の知り得ぬ所で)ファンクラブもあった程だ。
しかし、彼自身は決して人嫌いではないものの、積極的に他者との交流を取る方でもなかった。
それに別段の理由があった訳ではなく、学生として、勉強を本分とした生活を送っている内に、そう言う風になっていただけの事。
だからこそウォーリアは中学、高校と生徒会長に推薦され、またそれも立派に勤め上げて来たし、その姿に感銘を受けてついて来る者も多かった。
そう言った場所からウォーリアの交流関係は広がって行き、一部は今も繋がり続けているのだが、それらを“ウォーリアの方から”求めたのかと言われると、其処は首を傾げるしか出来なかった。

だが、教師とになるのであれば、受け身ばかりでいる訳にもいかないだろう。
ウォーリアが向かい合うのは黒板ではなく、その黒板を見ている少年少女達なのだ。
彼等はそれぞれに違う世界と価値観を持ち、ウォーリアとは違う景色を見ながら、嘗てウォーリアが辿った道をそれぞれに歩いて行く。
その道の歩き方を彼等に教えるのが教師と言う役割なのだから、彼等に数々の道がある事を伝える為には、彼等と向き合い、並び、時に衝突しながら心を解し合う方法を知らなくてはならない。

そうして出逢ったのが、中学三年生のスコール・レオンハートなのだが、まだ教師の卵とも言えないウォーリアから見ても、彼は家庭教師など必要ないと言い切れるほどに優秀だった。
成績表を見ればそれは判り易い数字評価として並べられ、普通の高校を狙うのなら推薦入学でも十分に合格が取れるだろうと言える程。
目標としているのが難関と有名な進学校であった為、その手段は取れなかったそうだが、テストで優秀過ぎる結果を残しているのを見れば、何も心配はいらないだろうと思えた。

だが、彼に付きまとう問題は、単純な勉強への不安ではなかった。
元々が児童施設で育てられていたのが、最近になって父親が判り、迎えに来た事で彼は施設を出る事になった。
それからはぎこちないながらも父子二人の生活が始まったのだが、思春期には聊か厳しくも思える環境の変化に加え、引き取られた際に転入した学校での環境が更に良くなかった。
環境の変化の連続で、繊細ながらそれを表に出さないように寡黙に過ごしていたスコールの態度を、教員の多くが悪い意味で受け取ってしまったようで、彼と教師たちの間には強い軋轢が起きていた。
出自を理由に偏見を持つ者も多く、生徒間でも孤立し、それを出逢って間もない父親に相談する事も難しく────彼は孤独の中で過ごしていた。
父親は息子の違和感には気付いていたが、踏み込もうにも息子の方から拒否の意思が遠回しに示された事で、差し出す手を彷徨わせてしまう。
こうした環境が齎す負のスパイラルが、元々繊細であった彼の精神を更に摩耗させ、人間不信にも陥っていた。
そんな息子をなんとか助けられないかと、彼の父がウォーリアの恩師に相談したのが、二人を繋ぐ切っ掛けになった。

人と向き合う事は教師を目指す者として大事なこと───とは言え、余りにも少年の背景事情が複雑で、話を聞いた時には自分では力不足ではないかとウォーリアも思った。
一度は恩師にも伝えたが、恩師はいつもの穏やかな笑みを浮かべ、「貴方なら」と告げたのみ。
その言葉の真意は未だにウォーリアにも判らないが、少年と向き合う者として、恩師が自分を挙げた事には確かな意味があるのだろうと思う。
それを知る為と、恩師への信頼に応える為、……そして何より、初めて会った時、冷たく閃いた蒼い瞳の奥に、小さな子供が泣き出しそうな光を見付けたのが放っておけなくなって、ウォーリアは彼と向き合い続けようと決めたのだった。

────それが今から、四ヵ月ほど前のこと。
スコールが中学二年生か三年生へと上がる、春休み中に、ウォーリアは彼と初めて顔を合わせた。
その時からスコールはウォーリアに対して厳しい態度を取っており、三年生の最初の中間テストの時には、その結果をウォーリアに見せて、「あんたの指導は必要ない」とも言った。
それでもウォーリアは彼の家庭教師として、僅かに在る失点やケアレスミスなどを見付けると、その失敗の理由などを確かめ、注意すべきポイントとして指導した。

今でもコールのウォーリアへの態度は素っ気ないものである。
ただ、勉強について、ウォーリアが指導しようとすると、彼は案外と大人しくそれを聞いている。
口元は不満そうに尖ってはいるが、ウォーリアの言葉を遮る事はしなかったし、例題を作って出せば、文句を言わずにそれを解いて返してくる。
だからウォーリアは、向けられる態度がどんなに厳しいものであっても、彼はとても真面目な少年であると言うことを感じ取っていた。
実際、ウォーリアが来ると判っている日に彼がサボタージュ的な行動をとる事はないし、必ず家にいて、家庭教師の到着を待っている。
その時には勉強道具もしっかり出し並べており、前日に出した宿題のプリントも綺麗に並べて、ウォーリアが来れば直ぐに確認が出来るように整えられていた。

そんなスコールが、今日は様子が違っていた。


「スコール?」


通い慣れるものになったマンションの一室、父子二人が暮らすその部屋の奥。
一番日当たりの良い場所だからと、父親から奨められたので使う事にしたと言う、スコールの部屋。
その角隅に据えられたベッドの上に、制服姿のままで蹲っている少年がいる。

これは一体、とウォーリアが後ろを見遣れば、其処には眉尻を下げたスコールの父親───ラグナが立っている。
ラグナはがりがりと頭を掻いて、息子には聞こえないようにと、部屋を出てから小さな声で話し始めた。


「今日、期末試験の答案が戻って来たんだけどさ」
「はい」
「その結果が、なんて言うか……良くなかったんだよ。言っちゃうと、ボロボロって言うか。無理もなかったんだけど」


ラグナの言葉に、ふむ、とウォーリアは考える。

春の中間テスト、そして先日の期末テストに限らず、スコールはテストや試験と名の付くものに敏感な傾向があった。
特に期末試験の時には、苦手な科目に苦手な範囲の問題が多量にあったようで、終わってからも自己採点を繰り返しては暗い表情をしていたように思う。
中学三年生になった今、一つ一つの成績評価が、本番の受験にも影響し得るから、強く意識せざるを得ないのは理解できる。
そんなスコールにとって、テスト結果が悪かったと言うのは、確かに落ち込む事にもなるのだろうが、


「無理もなかった、と言うのは?」


ウォーリアが訊ねると、ラグナは苦い表情を浮かべ、


「当日って言うか、本番直前になって、高熱が出たんだ。学校に行ってからの事だったもんだから、帰る訳にはいかないって、そのまま受けたみたいなんだけど……」
「突然の発熱であったと」
「うん。なんか、昔からそう言う所はあったみたいなんだ。本番になると緊張とか不安とか、そう言うのでぐるぐるなっちまって、失敗しちまうって言うの」


ラグナの言葉に、成程、とウォーリアも納得した。
苦手科目、苦手範囲、更に言えばその教科の際、監督するのがスコールを目の仇にしていた教員でもあったとか。
どうやらスコールは、心因的な負荷にかなり弱い所があるようで、それを処理し切れずに臨んだテストで、体が拒否反応を起こしたのではないだろうか。
それでも無理を押して頑張ったのに、テスト結果が報われなかったと言うのは、スコールにとっては踏んだり蹴ったりと言うものだろう。

ラグナは更に続ける。


「本番でやっちまう事があるって言うのは、本人も気にしてるから、気を付けてはいたみたいなんだけど、そう言うのって、ほら、なんともないようにしようって思う程、余計に意識しちまってガチガチになっちゃうだろ?多分、熱が出たのもその所為だったんだと思う」
「……そのようですね」
「俺は、結果がどんなだったって、頑張ったんだから十分だと思うんだけど、スコール自身はそれで済ませられないもんだからさ。励ましてやりたいけど、俺、煩いって言われちゃってさ。あんまりそう言う事は言わない子だから、ああこりゃ堪えてるんだなあって」
「……」


参った、と言う表情を浮かべるラグナ。
ウォーリアは閉じたドアの向こうを見て、其処で蹲っている少年の姿を思い出していた。

あの様子では、今日のウォーリアとの授業に身を入れるのは無理だろう。
丸くなった背中は、周りの干渉の一切を拒否し、自分の世界を守ろうと閉じ篭っているように見えた。
となれば、今日のウォーリアがこの場で出来ることはない────のだが、このまま帰ってしまう訳にもいかないだろうと思う。
まだ教員の卵にすらなっていない、アルバイトで此処に通わせて貰っている身とは言え、ウォーリアにとって、スコールは初めての生徒である。
落ち込んでいる生徒の姿を見て、放っておく訳にはいくまい。


「……少し話をしても?」
「ああ、うん。多分、それは大丈夫……だと思う。でも、嫌がったら、早めに下がっては欲しい、かな」


ピリピリしちゃってっからさ、と眉尻を下げるラグナに、ウォーリアは勿論、と頷いた。

先に一度開けたものではあったが、ウォーリアは改めて部屋のドアをノックした。
予想通り、返事はなかったが、構わずに開けて中へと入る。
スコールは先と全く変わらない格好で、ベッドの上で丸くなっていた。

部屋の前にいたラグナの気配が静かに遠退いて行くのを待って、ウォーリアはベッドの傍へと近付く。
僅かにスコールの頭が動いて、彼が眠っている訳ではない事だけは察せられた。
しかしスコールが起き上がる事はなく、顔を埋める枕を抱える手に力が籠る。
絶対に起きない、と言う意思が滲んでいるのを感じながら、ウォーリアはスコールの頭に近い位置で、フローリングの床に座った。


(さて……何と言えば良いのだろう)


放っておく事を良しと出来ず、こうやって部屋まで入って来たが、特段、ウォーリアの頭に言葉が浮かんでいた訳ではなかった。
余り人と積極的に交流してこなかった所為か、誰かを慰める言葉と言うものを、ウォーリアはよく知らない。
そう言った事は、誰かを励ましたり、鼓舞したり、そう言うものが得意な人が担ってくれていた。
しかし、此処にいるのは、ウォーリアのみ。
自分の言葉で、目の前の少年が、顔を挙げられるようにしなくてはならない。

スコールは、ウォーリアの気配は敏感に感じ取っているようで、ごろりと寝返りを打って背を向けてしまった。
壁に向かって極力近付いて、益々縮こまるように背中も肩も丸めている。
ウォーリアは、しばらくその背中をじっと見つめていたが、やがてゆっくりと手を伸ばし、チョコレートブラウンの柔らかな髪をそっと撫でた。


「っ!」


ぱしん、とスコールの腕がウォーリアの手を振り払った。
その動きに引っ張られてか、起き上がったスコールの眼がウォーリアを睨む。


「馬鹿にしてるのか」


苛立ちと怒りを露わにした蒼が、凄むようにウォーリアを貫いた。
出逢ってから何度となく、ウォーリアを拒否する目を見て来たが、こうも感情を露骨にしているのは初めて見る。
それだけ、今回のテスト結果が振るわなかった事が、スコールを追い詰めていると言うことか。

ウォーリアは払われた手を下げて、少年の言葉に緩く頭を振った。


「馬鹿にしているつもりはない」
「だったらなんだ、今の。俺は子供じゃない」
「……そうか。これは、子供を慰めるものだったか。すまなかった」


己の行動が稚拙であった事を理解して、ウォーリアは詫びる。
すると、スコールはぱちりと瞬きをして、訝しむ表情を浮かべた。


「……なんなんだ、あんた……本当、変な奴だな」


混乱した様子で、スコールはベッド端に座って壁に寄り掛かる。
枕を腕に抱えている様子が、普段の大人びた様子とは裏腹に、幼い子供を彷彿とさせていた。

ともかく、起き上がってくれたのなら、ウォーリアにとっては幸いであった。
また彼が貝になってしまう前に、ウォーリアは口火を切る。


「テストの結果が良くなかったと聞いた。見せて貰っても良いか?」
「……勝手にしろよ」


悪い結果を他者に見せるのを嫌がるのは、ウォーリアの若い頃にも、周囲でよく見られた光景だった。
一応の許可を求めて訊ねると、スコールはつっけんどんに言って、視線を横へと流す。
視線が向いた先にはスコールの勉強机があり、放り投げたのであろう鞄が置いてあった。

ウォーリアが鞄を取って中を探ると、ファイルブックに返却されたテスト結果が入っていた。
結果の殆どは良好なものであったが、最終日にあると聞いていた苦手科目を筆頭に、その日の科目分だけが点数が低い。
数字だけを見れば、平均点には十分に届くもので、“ボロボロ”と言う程のこともないのだが、平時のスコールの成績を基準にすれば、確かに悪い結果と言えるかも知れない。

テストを見詰めるウォーリアから、スコールは目を逸らしていた。
その表情には苦いものが浮かび、唇を噛んで、泣き出したいのを堪えているように見える。


「…試験時間の際に、熱を出していたと」
「……言い訳だと思ってるんだろ」
「言い訳?何故そんなことを」
「病院にも行ってないし。終わって帰って寝てたら直ぐ治った。診断書もないし。……証明になるものがない」
「わざわざ証明を出さなくてはならない程のものではないだろう。君が仮病を使うような人間でない事は、知っているつもりだ」
「………」


ウォーリアの言葉に、ゆっくりと蒼が此方へと向けられる。
じい、と見つめるその瞳は、ウォーリアの胸中を探ろうとするかのように、深い疑念と戸惑いが浮かんでいた。
そんなスコールに、ウォーリアは聞き返してみる。


「誰かが、君が熱があったと言った事を、嘘だとでも言ったのか?」
「………」


スコールは答えなかったが、逸らされる瞳が如実に事実を語っていた。

スコールは学校の教員たちの多くと、折り合いが良くない。
それでも成績優秀で通っている事から、一部の教員からの露骨な贔屓はあるらしい。
問題児扱いをする傍ら、成績の数字にだけはニコニコと良い顔をする大人ばかりに囲まれている事が、スコールの大人に対する不信感を強くしていた。
そう言う大人は、スコールの成績が僅かでも翳りを見せると、途端に掌を返すのだ。
もっと出来る筈だ、何をしていたんだ、等───ひょっとしたら彼方は発破をかけているだけのつもりかも知れないが、スコールにとっては口煩い説教でしかない。
ストレスを含め、スコールが体調を崩している時でも、それを『スコールが手を抜く為の言い訳』だと言って信じようとしない。
特に苦手にしている教員は、その傾向が強いようで、スコールは辟易していた。

───酷い教員がいるものだと、ウォーリアはスコールの話を聞く度に思う。
これもまたスコールからの伝聞のみであるから、教員側にも言い分はあるのかも知れないが、少なくとも、彼等の態度がスコールにとって一切の信頼に値しないものとなっているのは間違いない。

スコールは枕を抱えて、またベッドに転がった。
俯せで縮こまって行く姿に、スコールが本当に落ち込んでいた本当の理由を悟る。
彼はテスト結果が散々であった事に加え、その原因となった当日の発熱と、それを押してまで努力した事を大人達に信じて貰えなかった事にショックを受けていたのだ。

ウォーリアはベッドに伏せるスコールに、出来る限り、静かに語りかけた。


「……スコール」
「……」
「君は、とてもよく頑張っている。このテストの日も、君は精一杯、努力をしたのだろう」


ウォーリアの言葉に、スコールがゆっくりと首を傾ける。
顔半分を枕に埋めたまま、片方の蒼の瞳がウォーリアを伺うように見上げていた。
薄らと眦に雫が浮かんでいるようにも見えて、ウォーリアはその揺らめく目元にそっと指を当てて囁く。


「だが、残念な事だが、その努力が報われない事もある。このテストの結果がそうだったのだろう。しかし私は、君が精一杯に頑張った事を否定する事はしたくない」
「……」
「君は十分過ぎる程によくやった。期末試験があったのは、一週間前だったか。あれから他に体調を崩したりはしていないか?」
「……別に。ない」
「そうか。ならば良かった。君は努力を怠らないが、時々、勉強の為に無理を押す事があるようだ。それは少しだけ、直した方が良い事かも知れないな」


努めて静かな声で言うウォーリアを、蒼の瞳はじっと見つめていた。


「今日は授業は休みにしよう。君はゆっくりと休むと良い」
「……良いのか?」


スコールは意外そうに言った。
蒼の瞳が戸惑うように彷徨い、本心を伺おうとするように、ウォーリアへと戻る。


「……そんな事言う大人、初めて見た……」
「そうなのか」
「……学校の先生達は、次に取り返せって言うし、その為にも勉強しろって。狙ってる高校に推薦して欲しかったら努力しろって。別に推薦はいらないけど……、皆そればっかりだ」
「次に取り返す為の準備は確かに必要だろう。しかし、今の君に必要なのはそれではない。君が次にベストを尽くす為にも、私はそう考えている」


スコールに今必要なのは、心身ともに含めた休息だ。
無理を押して報われなかったテスト結果の現実と、学校の教員からの安易なプレッシャーに追い詰められる少年を、これ以上苦しめてはいけない。

ウォーリアは、スコールの白い頬に手を当てた。
大人びた雰囲気とは裏腹に、まだ幼さを残した丸みのある輪郭をしている。
其処にゆったりと指を滑らせて、ウォーリアは眦を緩めて言った。


「今はきちんと休みなさい。自分を大切にする為に」


じっと見つめる深い深い蒼の瞳に、ウォーリアの顔が映り込んでいる。
スコールはぎこちない笑みを浮かべるそのかんばせを見詰めながら、頬に宛がわれた大きな手に、自分の手を重ねた。
ウォーリアがその手を取って緩く握ってやれば、ほんの僅かに握り返す力があった。

それからしばらく、ウォーリアはじっと動かなかった。
スコールもベッドに横になったまま、重ね合わせた互いの手を見ていたが、次第にその瞳はとろとろと瞼の裏に隠されていく。
やがて聞こえて来たのは規則正しい寝息で、存外と幼い寝顔を前に、ウォーリアの口元は知らず緩むのだった。





『[黄金の色に映るもの]のウォルスコ(時系列は自由)』のリクエストを頂きました。

まだ信頼関係がそこまでしっかり出来ていなかった頃の二人です。
WoLは教員を目指す過程の予行演習、スコールは父親が勝手に連れて来たのと必要ないけど何故か辞めないので仕方なくと言う感じだったけど、こういう出来事がぽつぽつと出て来るに連れ、放っておけないとか信じて良いかも知れないとか思うようになって行ったようです。

[ラグスコ]その瞳に染められて

  • 2021/08/08 22:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


案外と判り易い所があるのは、まだ青いが故、だろうか。
それとも、本質的に爪の甘い所があるのか。
何れにせよ、そう言った所が愛らしいと思ってしまう位に、密かに嵌っている自覚はある。




「お前がいてくれると安心するよ」


そう言ったラグナの手の中で、ロックアイスの揺れるグラスが小さな音を鳴らしている。
炭酸水で割られた薄い琥珀色の液体は、今日のドール市長との会談で、今年は特に出来が良いからと贈られたものだった。
てっきり気心の知れた友人たちと楽しむとばかり思っていたが、今日のラグナは手酌酒で嗜んでいる。
この賑やか好きな男でも、静かに飲みたいと思う事でもあるのか、と少し意外に思っていた。

会談に合わせた大統領警護の依頼にスコールが派遣されるのは、最早決まった事になりつつあった。
エスタから警護の依頼が寄せられると、スコールのスケジュールは強制的に空きが作られ、其処に警護任務が入れられる。
報酬額が群を抜いて良い事もあって、ガーデン側はエスタからの依頼は上客物として扱っている。
指揮官であり、現在のガーデンにとって最主力とも言えるスコールを惜しげもなく派遣するのは、得意先をこれからも捕まえ続ける為、と言う意味もあった。

今日の予定が一段落しているので、ラグナはすっかり休憩モードになっている。
だからこその晩酌である訳だが、其処にスコールも添えられているのはどういう訳だか。
終日警護がスコールの仕事であるから、傍に控えている事は好都合だが、一人で飲みたいのなら、自分も部屋の外に出せば良いだろうに、ラグナはそうしない。
追い出す所か、ラグナはちらりとスコールの顔を見ては酒を傾け、まるでスコールを肴に楽しんでいるかのようにも見える────自惚れだとスコールも判っているが。

それより、先のラグナの台詞だ。
スコールがいると安心する、と言う言葉は、額面通りに受け取れば、警護任務の為にこの場にいる者としては、有り難く受け取るべきものだろう。
スコールはそう考えた。


「……ご贔屓にどうも」
「あっ、本気にしてないな?」
「別に」


そう言うつもりはなかったが、聊か反応に困ったのはある。
ラグナのこの手の台詞は初めての事ではないのだが、その都度、スコールはどう返事をして良いか考えてしまう。
これがラグナ以外の依頼主から向けられたものなら、スコールもいつも通りの無表情で、社交辞令を返せば済む話なのだが、それだとラグナは今の通り「信じてねえだろ~?」と言って食い下がって来る。
そうじゃないけど、と返すと、じゃあもっと嬉しい顔してくれよ、なんて言われるので、スコールは益々窮する羽目になってしまう。

恐らくは、大した意味などないのだろうな、とスコールは思う。
一人酒を楽しんでいる割に、お喋り好きのラグナだから、アルコールが気分よく回って来た事も加えて、話し相手が欲しくなったのだ。
それなら自分じゃなくて友人二人を呼べば良いだろうに、何故かラグナはそうしない。


(……別に、良いけど)


ラグナがどうしてか友人たちを呼び寄せない事に、スコールは密に喜びを感じている。
彼等が此処に戻ってくれば、スコールはのんびりとソファに座ってなどいられない。
好みの酒の味にしようと、こうしてこうして、と酒に炭酸を入れたり氷を加えたりと遊んでいるラグナを観察している暇も奪われる。
警護中とは思えないような気の抜き方だと自覚はしていたが、こんな時でもなければ、スコールはラグナの顔をじっと見ている暇はないのだ。

マドラーで液体をくるくると混ぜているラグナ。
それをスコールがじっと見ていると、視線に気づいたラグナが顔を上げ、


「お前も飲む?」
「……勤務中だ」
「そっか。でも、酒じゃなくても、何か飲む位は良いだろ」


ラグナは席を立つと、細長いグラスを一つと、冷蔵庫に入っていたペットボトルを持ってきた。
ドールの街でよく見るラベルのついたそれの中身は、炭酸入りの果汁ジュースだ。
ピッカーで砕いた氷をグラスに入れ、ジュースを注いで、ラグナはそれをスコールの前に置く。


「どーぞ」
「……どうも」


付き返す訳にもいかなくて、スコールはグラスを手に取った。
一口、舐める程度にその味を貰って、テーブルにグラスを戻す。
その間にラグナは、自分のグラスを空にしていた。


「はー、確かに美味いなあ。明日、何本か買って帰ろうかな。皆へのお土産に」
「税関に引っ掛からない程度にしておけよ」
「判ってる、判ってる。スコールも何かお土産とか買っていくか?」
「観光に来てるんじゃないんだ。俺は良い」
「そう言うなよ。いつもお仕事頑張って貰ってるし、お前のお陰で今回も無事に会談は終わったし。そのお礼って事で何か買わせてくれよ」


そんな事は、報酬額に少々色でもつけてくれれば良い、とスコールは思うのだが、それとこれはラグナにとって別らしい。
報酬額の事は吝かではないようで、本当に色をつけて寄越してくれる事もあるが、其方はSeeDの胴元的存在である“バラムガーデンへ”渡されるものなので、ラグナの狙いとは違うとか。
ラグナは“スコールへ”感謝の気持ちを贈りたいのだと、以前にも言っていた。


「明日、何か欲しいものが見付かったら、なんでも遠慮なく言えよ」
「……見付かったらな」


素っ気なく返してやれば、ラグナはよしよし、と満足気にスコールの髪を撫でる。
その手を振り払う事をしなくなったのは、いつからだろうか。
余りに何度も撫でられて、振り払っても懲りないものだから、面倒になって好きにさせている内に、すっかり慣れてしまった。
絆されているような気もしていたが、今ではその手が酷く心地良い。

ラグナは次の酒を造りながら、あーあ、と残念そうな声を漏らした。


「明日にはお前とお別れかあ」
「……大袈裟だな。三週間後の予定でまた大統領警護の任務が入っていたと思うんだが」
「ああ、うん。それはそうなんだけどさ。三週間後じゃん、結構長いこと寂しいなーって思っちゃって」


寂しい、と言うラグナの言葉に、微かにスコールの肩が揺れる。
ラグナがそんな風に感じる事に、密かな喜びを感じている自分に、スコールはグラスを口に運んでその表情を誤魔化した。


「もういっその事さ、お前をうちの専属とかに出来ないかなって話してるんだよ」
「……ヘッドハンティングでもする気か?」
「出来るんならしちゃいたいかな。それが出来れば、お前はずっと一緒にいれくれる訳だし」
「…ガーデンと交渉するんだな」
「やっぱりそうだよな。うーん、お前、指揮官だもんなぁ。指揮官権限で辞めます!宣言とか出来たら、フリーになれる?」
「……さぁ。どうだか」


それが出来ればスコールはさっさと指揮官職を放り出してやりたい所なのだが、生憎、現状のガーデンの状況がそれを許してくれない。
少なくとも後釜に出来る者が現れるか、スコールがガーデンにいられる正式期間である卒業が目に見えて来るまでは、このまま指揮官職を手放す事は出来そうにない。
学園長が隠居みたいな格好をしていないで、表に出てくれればスコールは自由になれるのではないかと思うが、サイファー曰く“狸ジジィ”はそのつもりがないらしい。
もう若い人の時代ですよ、なんて行燈な顔で言ったのを思い出して、スコールの表情は苦いものを噛んだ。

ラグナは酒の味見をして、うーん、と唸る。
炭酸水を少しずつ足してはマドラーで掻き回しながら、スコールの方を見て言った。


「じゃあ、卒業した後はどうだ?ガーデンに籍を置いていられるのは、えーと」
「二十歳まで」
「ふむふむ。じゃあ二十歳になったら、お前はガーデンを出れるのか?」
「……多分。ガーデンに残って教師になる奴もいるけど、でも……」


卒業後の例を出しながら、スコールは自分がそれに当て嵌まる気はしなかった。
指揮官職をしている間に、多少なり人とのコミュニケーションには慣れて来たが、やはりスコールはその手の事は相変わらず苦手にしている。
キスティスのように生徒達と上手く接する自信もないし、大体、自分が人に物を教えて指導できるような気がしない。
それよりは、よくいる卒業生(偶に放校生もいる)のように、フリーランスか何処かの軍、自警団の類に所属する方が現実味のある話に思えた。

それを言葉少なに話してやると、ラグナはふんふんと興味津々の顔で聞いて、


「やっぱり、お前が卒業する時がチャンスな訳だ」
「チャンス?」
「ああ。お前をエスタで正式に、専属契約的なものでも出来たら良いなって」
「それは、……光栄だな」
「だろ~?契約金とかは弾むからさ、先約しといてくれる?」
「他に良い話がなければ」
「じゃあ、卒業した時には宜しくな」
「まだあんたの所に行くって決まった訳じゃない」
「判ってる判ってる。でも、絶対良い契約持って行くからさ。俺が声かけるまで待っててくれよ」


朗らかに言って、ラグナはスコールの髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。
止めろ、とスコールがその手を払うも、ラグナはにっかりと笑って、益々楽しそうに笑うばかりだ。
ラグナのお陰で跳ねてしまった髪を手櫛で直しながら、スコールは呆れた溜息を零して見せる。

卒業後の話なんて、スコールにはまだまだ先の事に思えた。
何せスコールは今年で十七歳、何事もなければあと三年はバラムガーデンで過ごす事になるだろう。
短いようで長い三年の間に、世界情勢的なものが大きく変わらず、傭兵の類への需要が続いているならば、ラグナの誘いは中々魅力的なものだった。
だから卒業のタイミングで良い契約を寄越してくれれば、スコールにとっても十分に美味しい話になるだろう。

───でも、とスコールはこっそりと思う。


(……そんなのなくても、行きそう、だけど)


ラグナの誘い文句に対し、素気のない返事をしておきながら、スコールはそんな事を考えていた。



ほんの少し、丸い耳に赤みを上らせながら、グラスを口元に運ぶ少年を眺めて、ラグナの唇は笑みを浮かべる。
無表情でいるつもりの少年の様子が愛らしくて、ラグナはついつい揶揄ってみたくなる。
今はアルコールも入っているので、スコールもそのつもりで相手をしているのだろう、ラグナの話もあまり本気で受け取っている風でもない。

……本当は、卒業後なんて待たないで、今すぐにお前が欲しいのだと言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
やはり先ずは驚いて、次に揶揄っていると怒り出すか、素っ気なく社交辞令を返してくれるか。
指揮官と言う役職を任されているとは言え、まだまだ経験不足も多い十七歳の若人は、狡さに慣れた大人が考える謀略にはまだまだ鈍い。
謀略などと言う言葉は聊か大袈裟ではあったが、絡め取られる本人に覚らせずに外堀を埋める事をそう言うのなら、少年は確かに、策謀の中に取り込まれていた。


(お前自身は隠してるつもりって言うのが、本当、可愛いよ)


いつの頃からか、蒼の瞳に滲み始めた、恋情の色。
ラグナがふと気紛れに触れる度、驚いたように目を瞠ってから、緊張するように唇が引き結ばれる。
零れ落ちそうになる心を精一杯に堪えて隠そうとする初々しさが、ラグナには酷く可愛らしい。
本心を知られるまいと一所懸命に隠しながら、お喋りな瞳から何もかもが透けて見えてしまっているのも、全て。

ラグナの言葉一つ一つに、スコールの感情は判り易く動きを見せる。
褒めたり喜んだりしてみせれば、まるで愛情に飢えた子供が、スポンジに水を吸収するかのように、ラグナの言葉を受け止めて染まっていく。
その度、自分が満更でもない表情を浮かべていると、彼は気付いていないだろう。
気付かせてはいけない。
自覚していないからこそ、彼はラグナの言葉で、真っ白だったその心を染めていくのだ。

ラグナは徐に手を伸ばして、スコールの手櫛で整えられたばかりの髪に触れた。
酔っ払いの戯れと思ってか、スコールは少しだけ睨むようにラグナを見たが、それだけだ。
ピアスを嵌めた耳朶に指先を掠めさせて、その後ろにある髪の生え際に触れると、


「……何してる」
「いや、綺麗なピアスしてんなーって思ってさ」


何処のブランドかと訊ねれば、スコールは忘れたと言う。
本当か嘘かは判らなかったが、ラグナの指が触れる感覚を、スコールが強く意識しているのは明らかだ。
ピアスの為に、柔らかい耳朶を指で挟んで顔を近付けると、スコールの白い首が判り易く紅潮していた。

このままこの少年を押し倒して、青い花を貪る事は、可能だろう。
雇い主と言う立場もあって、スコールがラグナに対して強く拒否の態度を取る事は難しい。
そして何より、スコール自身、ラグナに自分が求められる事を強く欲しがっているから、ラグナが寄越せと言えばきっと彼は差し出すだろう。


(でも、それは勿体ないからな)


今此処で、ラグナがスコールの求めているものを与える事は容易い。
しかし、欲しいものが簡単に手に入ってしまうと言うのは、逆に手放す事へのハードルも下げてしまう。
こんなものか、こんな程度のことか、と夢から醒めてしまうような行為をするのは、余りにも勿体無い話ではないか。
どうせなら焦らして焦らして、ゆっくりと染め上げながら、もっとスコールが欲しがるようにしたい。
そうしてスコールが、もう我慢できないと、ラグナの前に自分からその身と心を捧げる事で、ラグナは彼に応えるのだ。
自らがはっきりと“欲しい”と言わなければ、求めるものは手に入らないのだと学習させた時こそが、この青い果実が一番美味しく熟す瞬間なのだから。


(だからスコール。お前も早くこっちにおいで)


愛しくて可哀想な少年の、耳朶の形を指先でそっとなぞる。
流石に触れ方が意図的すぎたようで、スコールは顔を真っ赤にして体を引いた。
あんた、と肩を戦慄かせる少年に、少し首を傾げて見せれば、またスコールは呆れたように溜息を吐く。
寄っている相手の行動に目くじらを立てても仕方がないと思ったのだろう。
其処でラグナが狙った通りに折れてくれるから、ラグナの笑みは深くなる。

ラグナが整えた見えない籠の中で、スコールは心地良さに慣れていく。
離れ難いと彼が強く願う程、ラグナは染まり行くその姿に悦びを感じていた。





『スコールから向けられている気持ちに気付いているラグナが、それに気付かないふりをしながら、少しずつ自分への感情が深まるようにスコールの感情をコントロールしていく』のリクエストを頂きました。

狡いラグナは大好きです。
自分への自信のなさだったり、トラウマ的に温もりを求めながら怖くなってしまう為に自分から踏み出せないスコールを、ゆっくりゆっくり囲って行こうとするのは良いですね。
その為にスコールが自分の下へやって来る選択肢も掲示しつつ、それをスコール自身が選ぶように誘導したり、着々と外堀を埋めてたりとか。
スコールも隠しているつもりで駄々洩れなのが良い。周りから見るときちんと隠せていても、ラグナを前にするとどうしてもとか。自覚してないから余計に。

[バツスコ]ヒア・ベイビィ

  • 2021/08/08 22:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


スコールが通う学校は、都心の中心からは少し離れた場所にある。
場所は街中を環状型に周る電車から乗り換え、海岸方面へと少し走り、浜辺の見える駅から徒歩で十分ほど。
夏になると陽が強くならない内にと、波間でマリンスポーツに勤しむ若者達が増え、朝の通学電車は平均以上の込み具合になってしまう。
夏休みになると家族連れが遊泳やキャンプにもやって来るので、この時期の午前と夕方は乗車率が高くなる。
それを嫌ってバイク通学を希望する者や、中には家族に駅付近まで送って貰うという手段を講じる者もいたりするのだが、スコールはどちらもしなかった。
本音を言えば人が沢山いる電車は避けたいのだが、父親に頼るのは少々抵抗があったし、そもそも彼は仕事で忙しくてあまり家にいない。
バイクは免許を持っていないし、取るには父親の許可と金銭的援助が必要だし、過保護に定評のある父親とその交渉をするのも面倒だった。
そんな訳で、スコールは暑い日も寒い日も、電車で通う事にしている。

世間が夏休みになっても、スコールは週に三度、学校に通っている。
夏期講習の受講をしているからだ。
苦手科目と意識しているものからピックアップして受講する事にしたら、一週間の半分を持っていかれてしまった。
どうせ家にいても勉強以外にする事もないから、それは別に構わないつもりでいたのだが、毎日の往復の徒だけがスコールにとって辛くて仕方がない。

近年の全国的な傾向として、夏は異常な程に暑い。
猛暑どころか、酷暑と呼んだ方が適切な温度が、ほぼ毎日のように続く訳だから、もう昔のような感覚で「子供は外で元気に遊ぶもの」なんて言う常識は通じない。
スコールの通う学校は、歴史が古く、校舎は増築を繰り返して大きくなって行ったそうだが、元々の建物はやはり年代物になっているようで、建築基準にある耐久性だとか通気性だとか、そう言ったものが前時代で止まっていた。
全校舎内に空調の取り付け工事が終わったのは去年の冬のことで、今年になって生徒たちはようやっとその恩恵に与る事を許された。
今度は耐震工事が急がれるとか教員たちの間で話題になっているようだが、其処までするなら、いっそ校舎を丸ごと新しくした方が良いんじゃないか、とスコールは思う。
が、全国から入学して来る生徒がやって来る事もあり、規模の大きな高校となっている今、それだけの生徒を変わらず収容する為の校舎を新築すると言うのは、並大抵の話ではないのだろう。
その程度の事はスコールにも判るから、改築を繰り返していくしかないのも、やむを得ない事なのだ。

去年の夏、馬鹿のように暑い環境の中で過ごしたスコールは、今年に入って空調の効いた教室で過ごせる事を極楽のように感じていた。
何せ去年までは、ニュースで報じられるような、『生徒が授業中に熱中症で倒れた』と言うものが全く他人事ではなかったのだ。
だが、もうじっとしながら珠のような汗を流したり、それすら出なくなって倒れそうになる事もないし、その所為で授業内容が頭から飛ぶ事もない。
夏休み中の夏期講習でも、その恩恵は如何なく発揮され、去年までまるで人気のなかった科目も、涼しい場所で過ごせるのならと受講を希望する生徒が増えたらしい。
また、図書室やカフェテリア、更に曜日は限定されるがプールなどが生徒向けに解放されている事もあり、それらを目当てに夏休みでも学校に向かう生徒は少なくないそうだ。

───だが、校舎内がどんなに快適に整えられても、外はそうはいかない。
外は日に日に暑くなり、都会の真ん中などはヒートアイランド現象も相俟って、何処に行っても熱気が籠っている。
スコールの通う学校は海岸近くにあるから、それに比べればマシと言えるのかも知れないが、とは言え空から燦々と降り注ぐ太陽の強烈さは変わらない。
だから夏期講習を受ける生徒達の多くは、一度登校すると、日差しが一番きつくなる日中の帰宅は避け、陽が傾き影が多くなる時間帯まで、校舎内で暇を潰している事が多い。

スコールがそれをしなかったのは、校内に苦手としている教員がいるのを見付けたからだ。
何故かスコールに執心らしいその教員は、スコールを見付けると妙に馴れ馴れしく接触して来るので、そうなる前に逃亡して来たのである。
お陰でうだる暑さの中をのろのろと最寄り駅に向かって歩いているのだが、スコールは早々にそれを悔いていた。


(暑い……)


あのまま校内にいて教員に絡まれるのは嫌だったが、このフライパンの上のような暑さも辟易する。
今朝、家を出る時に持ってきた水筒の中身は、既に殆ど空になってしまっている。
最寄り駅には自動販売機があるから、其処で補給が出来れば良いのだが、こうも暑い日々の中では、そう言った給水ポイントは早々に売り切れになっている事が多かった。
この辺りは遊泳に来る家族連れも多いから、水から茶からジュースから、とにかく冷たいものはどれでも需要が高く、補給されてもあっと言う間になくなってしまうのだ。


(……駅からもう少し行けば、コンビニがある……)


早く電車に乗りたい気持ちはあるが、それより飲料水の補給を優先したい。
進む道を延ばすのは億劫であったが、街中に戻るまでに暑さで意識を飛ばすよりはマシか。

だが、飲料水の補給よりも、本音としては、


(……冷たいもの…欲しい……)


もうただの氷でも良いから欲しい。
体の芯まで暑さに侵食されて、スコールはそんな気持ちになっていた。
水と一緒にアイスも買おう、と普段はあまり見ていないコンビニアイスの何を買うか考えていると、


「ありゃ、スコール?」
「……?」


後ろから聞こえた呼ぶ声に、スコールはのろりと振り返った。

今スコールが歩いて来た道を背景に、Tシャツにハーフパンツ、サンダルと言う井出達の茶髪の青年───バッツが立っている。
手にはよく売っているカップアイスを持ち、肘には水滴を浮かせた白いビニール袋。
元々が元気印のような血色の良い肌をしているのが、こんがりと良い色に焼けていて、夏の風貌が一層似合う雰囲気になっていた。

バッツは嬉しそうにスコールの下へと駆け寄って来る。


「こんな所で逢うなんて偶然だな!制服って事は……あ、夏期講習だっけ?」
「……ああ」


猛暑酷暑の中でも、バッツの声は相変わらず快活だ。
元気な奴だな、と羨ましいような呆れるような気持ちで、スコールはバッツの台詞に頷いた。


「大変だなあ、学生は」
「……あんたも学生だろう」
「そうだけど、受験とかはもう終わってるからさぁ。高校の時も、おれはそう言うのあんまりやらなかったし。お陰で三年の時に焦ったけど」


あはは、と笑いながら言うバッツに、スコールは暢気で良いなと思う。
それだけ気楽に構えられたら、自分もこんな暑さの中、学校に通わなくて済んだのだろうか。
そんな事を考えるが、バッツのこの磊落さはどうやってもスコールには真似の出来ないものだ。
ないものを羨み妬んでも仕様のない話で、スコールは溜息だけを吐いて思考を振り払って訊ね返す。


「あんたの方は、なんで此処に?」
「おれはバイト。知り合いがこの近くに海の家出してるから、手伝いでさ。いつもは昼から夕方までやってるんだけど、今日は朝から。で、さっき終わったとこなんだ」
「……ふうん」
「いつもは仕事の後に海で遊んでから帰るんだけど。朝からずっといたし、今日は帰ろうと思ってさ」


経緯を話すバッツに、成程、よく日焼けしている訳だとスコールは思った。
元々アクティビティの類には目がないバッツだが、彼はこの夏をよくよく楽しんでいるようだ。
お陰で結構焼けちゃって、と言うバッツが服の袖を捲れば、袖の部分がくっきりと残っている。

そう言えばゼルやティーダも良く焼けている、とスコールは同級生を思い出して考える。
彼等の場合、海で過ごすからと言うよりも、部活に精を出しているからだろうが、そんなにも焼ける程炎天下で過ごしていられるのがスコールには信じられない。

そんなスコールの様子を、バッツはじいっと覗き込むように見つめ、


「大丈夫か?スコール」
「……何が」
「顔が真っ赤だし、汗だくだからさ。水とかちゃんと飲んでるか?」


スコールが極端な暑さにも寒さにも弱い事を、バッツはよく知っている。
だと言うのに、太陽に焼かれる海岸をのろのろと歩いているのは、堪える筈だと彼も解るのだ。


「……水は飲んでる。もうなくなりそうだけど」
「まあこの暑さだもんなー。おれも家から持ってきた水は飲み切っちゃってさ。帰る前に近くのコンビニ寄ってアイス買っちゃった」


水も買ったんだけど、とバッツは言うが、やはり体はもっと内部から冷やしてくれるものを求めていたのだろう。
冷凍庫の中でおれを呼んだんだよ、と言うバッツの幻聴話も、今ばかりはスコールも笑う気にはならない。

それよりも。
スコールの視線は、バッツが自分を呼んだと言うカップアイスに釘付けになっていた。
よく見る円形のカップアイスは、ティーダやヴァン、ゼルが学校帰りによく買っている商品だ。
定期的に期間限定と言って新フレーバーを出すので、彼等が味見だと言っては購入し、美味いだの微妙だのと好きに品評しているのを、スコールはよく見ていた。
見ているばかりで、普段は特に欲しいと思う事はないのだが、今だけは違う。


「バッツ、それ……」
「ん?ああ」


隣の芝はなんとやら、人が食べているとなんとなくそれが欲しくなって来る。
そんな気持ちでスコールは、バッツにアイスの商品名を訪ねようとしたのだが、バッツはその前にプラスチックのスプーンでさくりとアイスを掬い、


「食べるか?」
「いや、」
「ほら、あーん」


そう言うつもりじゃない、とスコールが言うよりも早く、バッツは朗らかな笑みを浮かべてアイスを差し出す。
思いも寄らなかった事にスコールは固まりながら、蒼の瞳は差し出された乳白色に釘付けになった。

冷凍庫の中でよく冷やされていた筈のそれは、今は持ち主の体温と、環境が齎す熱の所為で、うっすらと溶けている。
カップの中では縁に蕩けた液体が浮いており、もたもたとしている間にもっと溶けてしまうだろう。
しかし溶けてはいてもそれはまだまだ冷たくて、スコールが持っている水筒の中身より、遥かに低い温度を保っている。
給水ポイントとなるコンビニまでが遠く感じていたスコールにとって、朗らかな恋人が差し出したその涼は、何よりも強い誘惑を持っていた。

とは言え、こう言った行為────恋人同士の戯れにある『あーん』とか言うものは、スコールの苦手分野である。
そんな事をするなら手っ取り早くスプーンごと貸せ、と言うのがスコールの応答であった。
だからバッツもそれは予想していて、


「なーんちゃっ」


て、とバッツが最後の一文字を言うよりも、僅かに早く。
ぱく、と首を僅かに落とすように伸ばして、スコールはアイスに食い付いた。

これに驚いたのはバッツである。
何せ、恋人となってからこの方、スコールがこの手の戯れに応じてくれた事はなかったのだ。
元々が人とのコミュニケーションと言うものに不慣れで、恋人同士のじゃれ合いなど、慣れる以前の問題だったスコールは、バッツが仕掛けるスキンシップをいつも恥ずかしがって嫌がる。
それでも大分慣れてはくれたのだが、狙ったようなアクションを取ると、彼自身も互いの関係性を強く意識してしまうようで、反って動揺してしまうのであった。

そんな年下の恋人の、思いも寄らなかった行動に固まるバッツを他所に、スコールは咥内にひんやりと染みる感触を堪能する。
生温くなった水で誤魔化していた喉の渇きが、冷たい乳液で潤っていく。


「……つめたい」
「……お。おう。うん」
「もっと」
「ああ、うん」


言葉少なに言ったスコールに、バッツは従うようにアイスをスプーンで掬った。
匙を差し出してやれば、またスコールがぱくりとスプーンの先を食む。
小さなスプーンで掬った一口は、簡単に口の中で溶けて消えて行き、スコールはまた「もっと」と強請る。

まるで雛が餌を貰うように、スコールはバッツの手からアイスを食べる。
もっと、もっと、と何度も強請るものだから、バッツもいつの間にか、無心でそれに応じていた。
バッツの褐色の瞳には、アイスを一口、一口と味わって食べるスコールの顔が映っている。
アイスを食べようと小さな唇を開けば、赤い舌がちろりと覗き、其処に乳白色が乗って蕩けていく様子が見えて、バッツは思わず唾を飲む。
さく、さく、とアイスを掬ってスコールの口元に運ぶ動作を繰り返していると、気付いた時には中身は半分まで減っていた。


「……ふぅ」


満足したようにスコールが息を吐く。
その額には、相変わらず粒になった汗が滲んでいるが、随分とすっきりした顔つきで、瞳にも生気が戻っている。


「……助かった」
「そか?じゃあ、良かった」


スコールの一言に、バッツはへらりと笑った。
手に持ったままのスプーンをひらひらとさせているバッツを見て、スコールははたりと我に返る。


「……すまない。アイス……」
「んぁ?」
「……あんたの、なのに」


彼の手にあるアイスは、買ったのは勿論、食べていたのもバッツである。
それを夢中になって半分まで食べてしまった事に今更ながら気付いて、スコールはばつの悪い顔で俯いた。
バッツはそんなスコールに、「良いよ良いよ」と笑う。


「ただの安いコンビニアイスなんだし、そんなに気にするなって」
「……ん」
「それよりさ、スコール。駅の向こうのコンビニ、行ける?」
「…行こうと思ってた」
「じゃあ丁度良いや。アイス買いに行こう。まだ食べたいだろ?おれが奢るからさ」
「アイスは買いに行く。奢りは別に……と言うより、俺があんたに返さないと」
「まあそう言うなって」


バッツのアイスを半分とは言え食べてしまった罪悪感で、返す代わりに何か新しいアイスを、と思ったスコールだったが、バッツはけろりと笑っている。
行こう行こうと早速歩き出すバッツに、スコールもつられる形で並んで歩き出した。

バッツは手元に残ったアイスにスプーンを差し入れ、スコールの顔の前へと持って行く。
もう良いと言おうとしたスコールだったが、バッツの手は引っ込まない。
これは食べないといけない流れだ、と悟って、スコールはバッツの意に付き合う気分で足を止め、スプーンに口をつける。
もう十分だと思ったつもりでも、やはり甘くて冷たい感触は心地良い。
やっぱりこのアイスを買おう、と密かにスコールは決定した。

炎天下をいつまでも歩くのは嫌だが、かと言って急げ走れと言う気にもならないから、二人はのんびりと歩いている。
バッツがまたアイスを一掬いし、自分の口へと運べば、褐色の瞳が満足そうに細められた。
そしてスプーンを食んだ格好のまま、バッツがちらりと此方を見るので、スコールは視線だけで「何だ」と返す。
するとバッツはにぃーっと笑い、


「間接キッス」
「……!!」
「なんちゃって」
「バッツ!」


判り易く揶揄ってきた表情をして見せるバッツに、スコールは声を荒げた。
堪らず手に持っていたスクールバッグを振り上げるスコールに、バッツは笑いながら逃げていく。
この暑い中でも元気な青年に、スコールが追う気にもならずに鞄を下ろせば、直ぐに彼は戻って来た。

防波堤の向こうに広がる海岸から、寄せては返す波の音が響いていた。
夏によく似合うBGMを聞きながら、二人は長いようで短い、コンビニへの道を進むのだった。





『真夏のアイス二人分けバツスコ』のリクエストを頂きました。

夏の青春真っ盛りなバツスコはとても楽しい。
まだ付き合い始めてからあんまり経ってないんでしょうね、この二人は。バッツにしてみると、ようやくスコールがデレてくれ始めた頃。
だから冗談交じりの「あーん」だったんだけど、まさかのスコールがしてくれちゃったものだから、一回めちゃくちゃ動揺したバッツでした。

タイトル意:「はい、あーん」

[セフィレオ]銀色と戯れ

  • 2021/08/08 21:55
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


熱の交わりの後は、心地良い気怠さの中で意識を手放す。
本当は眠る前にシャワーを浴びるなり、寝床を整え直すなりとした方が良いのだろうが、重い体はどうしてもそれを面倒臭がってしまう。
絡む腕がお互いに離れる事を嫌がっていることを言い訳にして、ゆるゆるとした疲労感の中で眠る惰性は、どうにも気持ちが良くて癖になる。
そんな事を思うようになったのは、愛しい男と肌を重ね合わせる幸福感を知ってからの事だ。

そのまま朝まで目覚めない事も多いのだが、偶に夢から目覚める事もある。
迸りを開放して、そのまま眠ってしまった訳だから、体にまとわりつく汗の不快感を遅蒔きに思い出したからであったり、喉の渇きであったり、夏であれば触れる体温の熱さだったりと、理由はそんなものだ。

今夜のレオンもそうだった。
休日とあって少し羽目を外すように、恋人である男───セフィロスと酒盛りをして、そのままベッドに雪崩れ込んだ。
どうにも理性的な部分が強い二人であるが、偶にはこんな日もあって良いだろうと、今日は少しばかり激しくなった気がする。
いつもながら、酒の力とは怖いものだと、遠くに投げた理性が呟いていたが、盛り上がっている間はそんな事は露ほども意識しなかった。
代わりに、目覚めた時に襲ってくる腰の鈍痛に、レオンはやれやれと溜息を漏らす。


(喉が渇いたな……)


腰を抱くように絡んでいる男の腕を解いて、のそのそとベッドを抜け出す。
じんじんとした痛みを訴える腰を庇いながら、レオンは寝室を出た。

都会の只中にあるアパートマンションの一室は、街灯や近隣のビルの明りで、真夜中でも電気を点けなくても良い位には明るい。
カーテンもこだわりがなかったものだから、斜光はそれ程強くはなく、それらの光を遮断できる程の能力も持っていなかった。
目覚めたばかりで、夜目に慣れた目は、煌々した電灯の光を嫌うから、これ位の明るさで丁度良いとレオンは思っている。
明るいとは言え、生活するには勿論足りない照度なのだが、お陰で裸の格好で歩き回っても抵抗が沸き難いのもあった。

冷蔵庫を開けると、庫内照明が点いて、レオンの眼をチカチカと刺激する。
開封済みだったミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、口に運びながら、キッチンを見る。
其処には、夕餉後の酒盛りの為、摘まみを作った時の調理道具がそのまま置かれていた。
酒で良い気分になって、そのまま交わりに興じてしまったものだから、フライパンの油から何までほったらかしだ。
暗がりの中で見つけたそれを、今から綺麗に洗う気にはなれなくて、とは言えこのままは朝に面倒が増えるだけだと、レオンは電気ケトルに水を入れた。
一分と少しを待って沸いた湯を、流し台に移したフライパンに注いで、取り敢えずはこれで良しとする。
湯気を立ち昇らせるフライパンに、菜箸とフライ返しも一緒にして、レオンはようやくキッチンを出た。

冷蔵庫の中と違って、少し熱帯夜の温度をまとう外気の所為で、ペットボトルにはもう汗が浮いている。
それを手拭きのタオルで少し拭って、水を飲みながら寝室へ向かう。
すっきりと冷たい液体が喉を通り、まだ残っていた熱の燻りを緩やかに鎮静化させていくのを感じながら、レオンは寝室のドアを開けた。


「ん、」


リビングよりも明るさの足りない寝室で、それでも暗闇に慣れた目は、ベッドの上で起き上がっている人物のシルエットを的確に捕らえた。

闇の中でも映えるように閃く長い銀色を、重怠そうに垂らして、シーツの上で片膝を立てているセフィロス。
何処を見ているのかと言う具合だったその瞳が、ドアの開閉音を聞いてか、ゆっくりと此方へと向けられ、レオンを捉えると、


「……逃げたかと思ったぞ」


薄い笑みを浮かべてそんな事を宣う男に、レオンもくつりと笑う。


「今更そんな面倒な事はしない」
「さて、どうだかな。お前は時々、突飛な事を仕出かしてくれる」
「あんたに言われたくはないな」


社内で考えが読めないと言われる代表者に、そんな事を言われるとは。
中々の不本意だと言ってやると、セフィロスからは「お前の自覚が足りんだけだ」と返される。
この場に共通の友人たちがいれば、口を揃えて「どっちもどっち」と言ったのだろうが、当人たちにはやはりそんな自覚はないのであった。

レオンがペットボトルを手にベッド前まで戻ると、セフィロスの腕がレオンの腕を捕まえた。
引き寄せる力に逆らわらずにレオンが倒れ込めば、しっかりとした胸板に飛び込む形で拾われる。


「最初にセックスをした時、夜中に逃げ出したのはお前だっただろう?」
「酔った勢いでやったんだぞ。逃げたくもなるだろう」
「それは不誠実と言うものじゃないか」
「相手が女ならそうだっただろうな。流石にそれなら俺も責任を考えるさ、逃げはしない。でも、あんただぞ?責任云々より、恐怖が勝とうってものだろう」


触れそうな程に近い距離で交わされる会話は、戯れだ。

どういう経緯だったか、酒の所為であった事だけは確かで、未だにレオンは詳細をはっきりと思い出せはしないのだが、二日酔いの気配と一緒に腰の鈍痛で目覚めた時の混乱と言ったら。
更には横に寝ているのが、異性の同僚や上司と言うならまだしも、同性の同僚だなんて、何の事故かと思うだろう。
確かに悪しからず思っている相手ではあったが、そんな関係になるなんて微塵も想像していなかった訳で、悪戯好きの友人たちが連盟を組んでドッキリを仕掛けたのではないかと思った程だ。
しかし、変に冷静さを取り戻したレオンは、二人揃って裸であること、自分の躰に残る違和感、更には中に残っていたものを自分で確認してしまって、現実から逃げられなくなった。
その末に、相手役となってしまったであろうセフィロスが寝ている間に、いてもたってもいられなくなって、夜半の内から事の場となったのであろう彼の自宅から逃亡すると言う行動に至っている。

アルコールの作用で前後の記憶が曖昧になっていたレオンに対し、セフィロスの方はしっかりと理性を残した上で事に至ったようであった為、目覚めた時にレオンが逃亡していた事は、聊かショックだったらしい。
とは言え、酒の力を借りた事への策略的な後ろめたさは皆無ではなかったようで、後からそれに関しての弁明は貰っている。
その弁明をするまでの間に、レオンとセフィロス───と言うよりはレオンの方が───当分ぎくしゃくとしていたのだが、結局は後輩たち曰く「収まる所に収まった」と言う事になる。

今となっては笑い話になってしまったが、ようやく手に入れられたと思った青年に逃げられてしまったものだから、セフィロスも狼狽はしたと言う。
以来、折々でセフィロスはその出来事を持ち出して、レオンを揶揄ってくる。
初めの頃はそんなセフィロスにレオンも詫びたものであったが、何度も繰り返されるのと、どうやら口で言う程セフィロスが尾を引いていない事も解ったので、言い返す事も辞さないようになった。
それがレオンの遠慮を取り払ったように思えて、セフィロスはまた気に入っている。


「大体、酔った勢いを利用してって言う方が、不誠実じゃないか?」
「話はお前が酔い潰れる前からしていたぞ」
「覚えていないな。証拠を出してくれ」
「録音でもしていれば良かったか。ああ、確かにそれはあるかも知れんな。あの時、お前から誘ったのだと証明にもなる」
「人が覚えてないのを良い事に、デタラメを言うなよ」
「さて、デタラメと言う証拠もあるまい?」
「そう言う事を言うから、あんたの言う事に信用が置けないんだ」


呆れたように言うレオンに、セフィロスはにんまりと口角を上げて見せる。
やれやれとレオンが溜息を吐いてやれば、銀糸の男は満足そうに笑いながら、蒼の眦に唇を当てた。


「お前が逃げたかと肝が冷えたものだから、体も冷えたな。暖になれ」
「よく言う。おい、くすぐったいぞ」


眦から頬へ、首筋へと降りていく、セフィロスの唇。
柔らかく振れたかと思えば、軽く吸い付いたり、悪戯に舌を這わせたりと、むず痒い感触にレオンは身を捩る。
逃げを打つその腰にセフィロスの腕が回されて捕まえた。


「シャワーは……まだか」
「水を取りに行っただけだ。浴びたいなら行ってこい」
「お前も行くなら行こう」
「断る。あんた、シャワーだけで終わらせる気ないだろう」


レオンの言葉に、その胸元に押し付けられていたセフィロスの唇が、判り易く弧を作る。
やっぱり、とレオンが呆れてやれば、ちゅう、と胸の蕾に吸い付かれた。


「っん……!」
「シャワー如きで洗い落とすのは勿体ないだろう」
「うわ、」


腰を抱いていたセフィロスの腕に引っ張られて、レオンの躰が回転される。
どさ、と背中がベッドに落ちて、直ぐにその上へとセフィロスが覆い被さった。


「おい、明日も仕事だぞ」
「判っている」
「さっきもそう言って」
「ああ」
「疲れてるんだが」
「お前はいつもそう言う」


言いながら、セフィロスの手はレオンの肌を滑って行く。
恋人の言う事を全く意に介さない様子のセフィロスに、レオンは何度目かの溜息を吐く。
いつもの事と言えばそうで、それに対抗するようにあれこれ言う自分も懲りないもので、序にそうした遣り取りの末にどうなるかも最早パターンと化している。
結局の所、本気で抵抗すればセフィロスが退く事を判っていながら、別に構わないと思っているのがレオンの敗因であった。

腰を抱いていたセフィロスの手が、レオンの下肢へと降りていく。
引き締まった臀部を撫でた後、指が秘部に近付くのが判って、レオンは意識して息を吐いた。
どうせ、水を多少飲んだ程度で、この体の熱が収まり切ってくれる筈もないのだ。
迎える為に緩く脚を開いてやれば、銀糸の美丈夫が満足そうに笑う。


「日が昇る前には寝たい」
「お前次第だ」


セフィロスの言葉に、なんでそうなる、とレオンは思うが、問うても大した返事はないだろう。


「明日は会議があるんだぞ」
「午後の話だろう。影響はないさ」
「あんたが無茶してくれなければな」
「俺は最大限労わっているつもりだが?」
「俺の体の痛みがなくなってから言ってくれ」
「柔軟でもすれば良いんじゃないか」
「適当な事を」


レオンの不満げな一言に、セフィロスも自分の応答が適当であった自覚はあったようで、くつくつと笑う気配がする。
それがまたレオンにとっては、付き合う以前からある彼の余裕振りを体現するようで、聊か不満な所ではあった。

だが、そんな一時の不満は、唇に触れる指先の感触で溶ける。
顎を捉えられて固定され、下りて来る唇を静かに受け止めれば、視界に映るのは整った顔とさらさらと流れ落ちる銀糸だけ。
熱に浮かされてみる夢よりも、この光景が一番の夢のような景色かも知れない、と思う。
緩く開いた瞳が、その光景をじいと見詰めていれば、自然と碧の虹彩を宿した瞳とも交わって、


「……なんだ?」
「……いや」


何か思う事でもあるかと、問いかけたセフィロスに、レオンは緩く笑みを浮かべるのみ。
ただ幸福感を噛み締めていたなどと、どうにも恥ずかしくて言う気にならない。
しかし、無駄な事まで察しの良い男は、存外とお喋りな瞳に滲む感情に気付いて、此方も緩く笑みを浮かべた。





『セフィレオ』のリクエストを頂きました。

どっちも悪しからず思っていたのは確かだけど、恋心は自覚してなかったレオンと、自覚していたセフィロスの初々しい(?)擦れ違い事件があったらしい。
拙宅のレオンさんはパニックになるとよく逃げる(恐らくその前にしばらく硬直している)。セフィロスが先に起きてればもうちょっとスムーズにいったかも知れなかった件。
今ではそんな事は笑い話にしてからかい合う位になってるようです。

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