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User: k_ryuto
KH2の時間軸。
ラグナとレオン(スコール)は親子で故郷を喪うまでは一緒にいた、と言う設定。
百害あって一利なし、とよく言われている代物だ。
それでも、何故か愛用する人は多くて、幼い頃はそれが不思議だった。
子供は絶対にダメだと、その近くで大人が吸うのも決して好ましく思われている物ではないのに、手放せないと言う人間は少なくない。
育て親となった男もそう言うタイプで、苛々とするととかく煙で室内を真っ白にしていた。
一時───親役を引き受けてから当分の間───は煙の代わりに飴を入れたり、棒切れを噛んだりとしていたのをよく見たが、それでも結局、彼は“それ”を手放す事は出来なかった。
一番の年上であった自分が成人した頃から、とうとう我慢できなくなったか、或いはせめてこの期間まではと区切りを作っていたのかも知れない、彼は“それ”を解禁するに至る。
それでも一応はルールを作っているようで、幼い子供がいる所では吸わないように務めていた。
ついつい手が伸びてしまうのは最早癖になった仕草で、火を点けずに噛む所までは許して欲しい、とも。
そうまでして手放し難いものとは、一体どんなに心地が良いものなのだろう。
幼い頃、育て親と同じように、ふとすると煙を吹かしていた男の顔を見ては、首を傾げていたものだ。
余りに不思議で、その疑問を解消したくて、“それ”を頂戴と言った事がある。
その時、彼は酷く驚いた顔をして、一瞬怒った顔をしたけれど、直ぐにそれは引っ込めた。
うーん、うーんと悩むように唸っていたのは、きっとどうやって流そうかと考えていたのだろう。
結局の所、返って来たのは勿論「駄目」というもので、その理由も自分は判っていたけれど、じゃあどうして吸っているんだと問い返せば、また彼は困った顔で考え込んでいた。
宥められては流されて、また時を置いて、頂戴、と何度も強請った。
半分は意地になっていた所もあったし、本当に純粋に疑問だったから試してみたかったのもある。
どちらにせよ、彼が“それ”を許してくれる事は一度もなく、終いには隠れて楽しむようになった。
見付かればせがまれると判っていて、大人としてそれは許してはいけない事で、かと言って自分が手放すには中々難しいものだったから、そんなかくれんぼが始まったのだろう。
刻は過ぎて行き、あの日、「駄目」と言ったあの人と、並べる位の歳が近付いてきた。
一つの区切りとなる年齢を迎えた時、育て親からも仲間達からも隠れて、こっそりそれを試した。
一吸いで苦しくなって咽込んで、“これ”の何が良いのか全く分からなかったのも、今となっては遠い思い出になっている。
「あ!煙草吸ってる!」
聞こえた声に、思わず肩が跳ねる。
隣で同席していたシドが、遂に来たな、と苦く笑う気配があった。
たったっと軽く弾む足音が近付いてきて、レオンは唇に挟んでいた物を手に取った。
緩く煙を立ち昇らせるそれは、まだ火をつけてから間もなく、長さもある。
勿体無いと言う気持ちはあったものの、駆け寄って来る少年の事を考えると、このまま燻らせる訳にもいかないと思った。
積み上げられた石の瓦礫の天板に赤い先端を押し付けて消している間に、少年───ソラはレオンとシドの下まで到着する。
「レオンも煙草吸うんだ。知らなかった」
「まあ、偶に、な」
興味津々と言う顔で言うソラに、レオンは歯切れ悪く返した。
火の消えた煙草を足元に落として、靴の裏で踏み潰す。
そんなレオンの隣では、シドが煙を細く吐いて、「偶に、ねぇ」と呟いた。
ソラの視線がレオンとシドの足元に落ちて、其処に点々と吸い殻が落ちている事に気付く。
真新しいレオンの足元のものも含め、今日だけではないと判るその数に、
「いつも此処で吸ってんの?二人で?」
「そーだな。見晴らしもそこそこ良いし、此処なら火事の心配もねえしよ」
街はまだまだ復興が始まったばかりとあって、いつかの風光明媚な面影もないが、高台にあるだけでも気分は変わる。
少しずつ少しずつ、遠い記憶の景色を取り戻そうと、形を整えているのも感じる事が出来るのだ。
少し視線を後ろへずらせば、谷の底で蠢く影が目に付いたが、その現実から束の間に目を背ける位は許して欲しい。
そしてここは、シドの言う通り、辺りには崩れた岩やレンガの瓦礫ばかりで、火種が燃え広がるようなものがない。
だから不始末をしても安心、と言う訳ではないが、まだ人気のないエリアである事も含めて、喫煙者が人目を離れて屯するには都合の良い場所だった。
「で、お前はなんでこんな所にいる?こっちは面白いモンは何もねえぞ」
「探検!こっち側はまだちゃんと見た事なかったなって」
「元気な奴だな。見ての通り、此処らはまだまだ瓦礫だらけだ。いきなり崩れる所もあるから、戻った方が良いぜ」
「そんな危ないとこで煙草吸ってんの?」
「お陰で人がいねえからよ」
そう言ってシドは、空に向かってふぅっと煙を吐き出した。
ぽわっと広く浮いた白い煙が、風に流されて揺らめいて消える。
ソラはじいっとその様子を見上げながら、
「そんなに煙草って吸いたい?美味いモンなの?」
「俺にとってはな」
「レオンも」
「……さて……」
問いかけられて、レオンは肩を竦めて見せた。
是とも非とも言わないレオンに、シドは煙草を持つ手で口元を隠す。
物言いたげな瞳が向けられるのをレオンも判っていたが、何も言われないのを良い事に、此方も気付かない振りをした。
彩度の高い青い瞳が、じいっとレオンとシドを見ている。
二人を交互に、見比べるように眺めた後、ソラはまじまじとした顔で言った。
「なあ、シド。それ、一個ちょうだい」
「あ?」
「それ。煙草!オレも吸ってみたい」
「バーカ。お子様にや千年早ぇよ」
思わぬソラの言葉に、一度は目を丸くしたシドであったが、爛々としたソラの台詞に、その表情は直ぐに呆れたものになった。
当然と言えば当然のシドの返事は、ソラも予想していたのだろう、諦め悪く直ぐに食い下がって来た。
「なんだよー、一本くらい良いじゃん!ケチ!」
「ガキが吸うもんじゃねえって言ってんだ。これはオトナの嗜みなんだよ」
「オレだってオトナだもん!」
「こいつと頭の高さが並んでから言いな」
こいつ、と言ってシドが指差したのは、レオンだ。
一年越しの再会で身長が伸びていたソラだが、その背はレオンのそれとはまだまだ遠い。
そもそも体格に恵まれたレオンと比べられては、元が小柄なソラでは、年齢的な伸びしろを含めても、追いつけるかどうか。
それを無理だと決めつけてのシドの台詞に、ソラがぎぎぎと歯を食いしばる。
「なんだよー、バカにして!見てろよ、直ぐに追いついて、いや追い抜いてやるからな!」
「それは、楽しみだな」
「レオンまで笑う!直ぐだからな、絶対直ぐだから!そしたら煙草もちょうだい!」
「背も歳もオトナになってたらなー」
くすくすと笑うレオンと、判り易く揶揄う口調のシドに、ソラは怒ったように声を大きくする。
そのままぷりぷりと沸騰しながら背を向けて歩いて行くソラに、レオンはシドと顔を見合わせて、再三肩を竦めるのだった。
賑やかな少年が来た道を戻って行くのを、レオンはじっと見詰めていた。
所々が崩れている階段を下りて行くソラは、一度くるりと振り返ると、二人に向かってひらひらと手を振った。
レオンがそれに右手を上げて返してやると、けろりと機嫌をよくした笑顔が花開く。
踵を返して瓦礫の道を駆けて行くソラの足取りは、既に軽やかになっていた。
遠ざかる少年の背中も見えなくなった頃、じゃり、と隣で土を踏む音が鳴る。
見れば、シドが短くなった煙草を消している所だった。
「さて、俺もぼちぼち戻るか。お前はどうする?」
「俺は……」
シドにしろレオンにしろ、やる事は山積みだ。
街の復興がようやく始まったと言っても、それは本当にスタートラインに立っただけであって、物事が動くのは此処からだった。
瓦礫を撤去し、使えるものを選り分け、新しい資材を仕入れて……と仕事は絶えない。
事実を言えば、こうして微かに休息をとる時間すら惜しいのだ。
しかし、人間は常に仕事だけに邁進する事は出来ない為、僅かな時間を捻出して、呼吸を整える時間が必要になる。
シドは十分、その時間を取ったつもりのようだ。
だから戻ると言っている訳だが、レオンはまだ、胸の奥に滲む重みがあった。
「……俺は、もう少し此処にいる」
「おう。程々にしろよ」
「……ああ」
シドの差した釘の意味を、レオンは正確に理解した。
その上で曖昧に、眉尻を微かに下げて頷くレオンに、シドの手が伸びる。
加齢に伴って皺の増えた、かさついて皮膚の厚みのある手が、ぽん、とレオンの頭を撫でて離れて行った。
シドが階段を下りて行くのを見送りながら、レオンの手はジャケットの内ポケットへと伸びていた。
いつしか其処に決まって納める習慣になった箱を取り出せば、意識しなくても自然な動きで、中身を取り出し口へと運ぶ。
同じく携帯するようになったライターで、咥えたものの先端に火を点ければ、ゆらりと白い線が上った。
すう、と目一杯に息を吸い込めば、煙で肺が充満して、ずっと滲んでいた重石が消えていくのが判る。
「……ふー……」
夕色に染まり始めた空に向かって、吸い込んだ煙を吐き切った。
細めた双眸に、白煙にくすんだオレンジ色が映る。
脳裏に浮かぶ、まだ幼い少年との遣り取り。
それが遠い記憶に押し込んだ、いつかの自分の言葉と重なって、レオンの口元が笑みに歪んだ。
もう何年前になるのだろうか。
故郷を失ったその時よりも、更に昔の事だったと思うから、十年以上は経っている。
そんなに美味しいの、と訊ねた時から、あの人は困った顔をしていたから、悪戯に興味を注ぐ事を避けようとはしていたのだろう。
幼い日の自分は、大人のそんな気持ちなど知る由もなく、ただただ興味と疑問の解消の為に、この煙を試したいと強請っていた。
当然、それは叶えられる事はなかったのだが、何度目かになったその遣り取りの後に、一つ他愛もない約束をしたのを、レオンは今でも覚えている。
『大人になったら、僕も一緒に吸っても良い?』
子供は駄目だと、何度も何度も言い聞かせられた。
それなら、子供でなくなれば良いのかと、単純にそう思ったのだ。
そうしたら、あの人はまた困ったように笑いながら、言った。
『そうだなぁ。お前と一緒に味わえるなら、きっと最高の一本になるんだろうな』
くしゃくしゃと、頭を撫でながら笑ったあの人。
時が流れるに連れて、その顔に朧な靄がかかるようになって、嫌でも記憶の風化を自覚する。
それが酷く嫌で堪らなくて、薄れる記憶を色濃く直そうとしたのが、切っ掛けだったように思う。
初めて煙草を吸った時、喉はイガイガするし、肺は異物が入ったように重くなるしで、散々だった。
これの何が良いのか、教えてくれるかも知れなかった人は何処にもいなくて、息苦しさで勝手に涙が出て止まらなくなった。
あれは間違いなく、最悪の一本だったと、レオンは思う。
それをシドに言ったら、当たり前だろう、と呆れた顔で言われた。
どうして其処で踏み止まらなかったのか、戻ろうとしなかったのかと、燻らせた煙の向こうで、何処か淋しそうな瞳が見詰めていたのを覚えている。
今でも、煙草の味を美味いと思った事は、碌にない。
それでも辞める事が出来ないのだから、中毒性と言うのは恐ろしいものだ。
苦くても、不味くても、いつも口にするそれが最悪の一本だと思っても、手放す事が出来ない。
(……だってこれは、貴方の匂いだ)
置き去りにしたくても出来ない、遠い日の記憶、思い出、そのトリガー。
紐ついてしまったそれを手放す事は、煙草そのものを辞めるよりも、レオンにとっては難しい。
酷い時には一日に何本も、シドすら顔を顰める程に煙を燻らせる時もある。
もしもあの人がそんなレオンの姿を見たら、どんな顔をするだろう。
叱るだろうか、悲しむだろうか、困ったように取り上げながら「禁煙な」なんて言うかも知れない。
自分だって吸ってた癖にと言ったなら、じゃあ一緒に禁煙しよう、と言ってくれたりするのだろうか。
そんな事を考えてしまう位には、自分が酷い有様である事を、レオンも薄らと自覚していた。
それでも、今はこの匂いが手放せない。
せめてあの日の、幼い他愛もない約束が、果たせる時が来るまでは。
『ラグナが喫煙者でその匂いを追って煙草を吸い始めたレオンさん辛い』定期。
ラグナに対して、父親以上の拗らせた感情も持ってると尚良し。
フォロワーさん方とのこの妄想楽しくて仕方がない。
ソラの前では隠しているけど、実はかなりのヘビースモーカーなレオンさんとか好きです。
それだと大体匂いで気付きそうだけど、傍に堂々と吸ってるシドがいるから、その移り香だろうと思われてたら本人のだったって言う。
最初に見た時は、酷く年若い兵士だと思った。
それは単純に年齢の話と言うだけではなく、全体から醸し出される青臭い雰囲気からだ。
容姿だけで言えば大人びているし、秩序の戦士達の中でも比較的現実主義の傾向も強く、戦場のいろはを、その過酷さのなんたるかも知っているようだった。
しかし、人伝いに話を聞けば、彼はまだ学生───カインの世界で言えば、兵卒となってまだ数年と言う年齢に当たるのだと言う。
傭兵を育成すると言う期間に身を置いていたと言うから、理屈の上での戦場の過酷さという物を、彼はよく学んでいたのだろう。
反面、根本的に現場主義かつ実力主義である戦場そのものについては、未だ経験不足は否めない。
本人もそれは理解してはいるようで、だからなのか、カインやセシルのような、正規軍隊に所属し、更に一個隊の隊長と言う立場にあった者の話については、その内容が彼自身の琴線を厭な意味で震わせるものであれ、一度は黙って聞くに耐える。
そう言う時に滲み出る、不満を隠しきれない尖った唇が、彼を青臭く、未熟を脱し切らない性質であることを匂わせていたのだ。
秩序の陣営は、一体どういう偏りになったのか、年齢層が総じて低い。
30代半ばと思しきジェクトが最年長で、その下が───到底そうは思えないのだが───本人曰く27歳のラグナと言う順になり、後は全体を平均すると20代を下るか下らないか。
そう言う括りで考えると、まだ10代である彼は、幼い部類に入る。
少なくとも、カインにとっては。
同様の年齢の者が多い秩序の陣営にあって、その身空で戦士としての理を解している彼の存在は、見方を変えれば頼もしいものではあったが、ふとした瞬間に現れる未成熟さがアキレス健にもなり得た。
カインが彼を気にしていたのは、そう言う所が始まりだったと思う。
何故か周囲に人が集まると言う星の下にありながら、彼自身は寡黙な性質で、気安く声をかけて来る仲間達に対しても言葉が少なかった。
それはどうやら、彼自身が"言葉"と言うものに対して、大なり小なりの苦手意識があるからで、故に彼は軽々しく口を開く事を躊躇うのだ。
そんな彼を見て、セシルがカインに、「少しお前と似ているかもな」と言ったのが、切っ掛けになったのかも知れない。
彼は言葉を苦手としてるが、代わりに蒼の瞳が随分とよく喋り、不満や不服、戦場に置いては高揚の様子を具に表す。
鎧のように頑なに自心を隠そうとする皮を一枚一枚剥ぎ取れば、益々その瞳は素直になり、その心の内を見る者に全て曝け出した。
きっと、彼自身は、自分のそんな一面には気付いていないのだろう。
だから青いのだと、だからこんなにも庇護欲をそそるのだと、カインはそう考えている。
ベッドに押さえ付けるように縫い留めた手を握れば、ゆるりと握り返す力がこもる。
それがカインには何とも言い難い衝動を誘い、その心の赴くままに、白い筈の火照った肌に唇を当てた。
喉元を一つ強く吸えば、細身の身体がビクリと震えて、赤い花が咲く。
そこに残るであろう痕の感触を宥めるように、カインがゆっくりと舌を這わせると、スコールは唇を強く噤んで肩を縮めていた。
繋がった場所の奥に熱を吐き出してから、どれ程の時間が経っただろう。
ほんの数分前の話であると思うのだが、熱に溺れて体内時計が狂ったようで、正確な時間経過が全く読み取れない。
かと言って時計を見るのも情緒がないようで、カインはその内、時間について考えるのを辞めた。
窓の外が暗い内は、急くような時間ではない、それさえ判っていれば十分だ。
「ん……んぅ……っ」
何度も首筋に、鎖骨にキスを落とすカインに、スコールは身を捩った。
もうやだ、と言いたげなその仕種を、カインはその背中に腕を回して抑え込む。
「カ、イン……っ」
「……なんだ」
堪らない様子で名前を呼んだスコールに、流石にこれには返事をしない訳にはいかないのだろうと、顔を上げる。
いつも兜で隠れている金色の髪が流れるように滑り、スコールを閉じ込めるように、金糸のカーテンがスコールを包む。
眩しい、と余りこの男に対して思う事のない感想を抱きながら、スコールは熱の滲む吐息を零して、カインを見上げた。
「もう……疲れた」
「……ああ」
組み敷かれる側であるスコールの疲労は、カインには想像するしかない。
だが、まだ若く、カインとこう言う関係になるまで、そう言う刺激と無縁であったスコールにとって、自身を翻弄する熱の激しさはいつまでも慣れるものではなかった。
だから一回、二回とその晩の内に数を重ねれば重ねるほど、スコールの疲労は純粋な重みになってその体を襲う。
明日の予定に響かせたくないスコールにとっては、そろそろ離して欲しい、と思うのも無理はないだろう。
カインがゆっくりと体を起こし、スコールの中を支配していたものを抜いて行く。
擦れる感触にスコールが背を撓らせれば、首元にカインが咲かせたばかりの花が鮮やかに浮きあがった。
これが明日まで残っていたら、スコールは喧しい仲間二人に、自分は恐らく親友に突かれるのだろう。
その度、カインは黙して親友の揶揄を流すのだが、スコールはまだまだ過敏な頃であるようで、仲間達にその手の事を突かれることを厭う。
───ラグナやジェクトに言わせれば、「丁度そう言う年頃なんだよ」とのことだが、カインにはよく分からなかった。
何せ、カインの世界では、17歳と言えばその手の話ももう済む所まで行っている者も多く、寧ろそれを済ませれば晴れて一人前、と言われるようなことだった。
どうやらこの辺りは、各々の世界事情によって、倫理的なルールに差異がある事による、価値観や感覚のズレらしい。
そうでなくともスコールは、こうした熱の共有というものに初心な所があるようだから、悪戯に彼の動揺を誘うような事は避けるが吉、ではあるのだろう。
それでもカインは、頻繁にスコールの躰に己の痕を残す。
時に隠れて、時に覗かせるように、時には見せつけるように。
今夜、首元に残したこの赤い花も、このまま残り続ければ、早々に仲間達に見付かるに違いない。
(また拗ねるな)
噛み付いて来るスコールの顔を思い浮かべながら、カインは微かに口角を緩めた。
毛を逆立てた猫のように、真っ赤になって抗議するスコールの顔は、中々可愛らしいものである。
そう言ったら、スコールは益々拗ねてしまうのだろうが。
中に入っていたものがようやく出て行って、スコールがベッドシーツを噛んで身を捩る。
溢れ出してくるものが与える感触を嫌がるように、細い腰が右へ左へと揺れた。
「う、ん……」
「痛みはあるか」
「……んん……」
体の具合について訊ねるカインに、スコールは眉根を寄せつつも、小さく首を横に振った。
「だるいけど……多分、平気だ」
「風呂は入るか?」
「……疲れてるから良い」
面倒臭い、と言って、スコールはごろりと寝返りを打った。
カインの下から逃げた彼は、ベッドの端に放られていた枕を掴んで、それを抱えて丸くなる。
火照った躰にリネンの枕カバーのひんやりと感触が心地良いのだろう、そのままスコールは熱の胎動が収まるのを待っていた。
そうしてベッドの上で丸くなるスコールの姿は、昼間の大人びた立ち姿と違って、随分と幼い。
カインはベッド横のチェストに置いていたピッチャーとグラスを取った。
グラスに水を注ぎ、自身の口へと含んで、丸くなっているスコールの肩を掴んで引き寄せる。
何だよ、と聊か面倒臭そうな顔が此方へ向いて、カインはその薄い唇へと自分のそれを重ね合わせた。
無防備に開いていた唇の隙間から、冷たい水を流し込んでやれば、スコールは心地良さそうに目を細めて受け止める。
「ん……んく……、ふ……っ」
こく、こく、とスコールの喉が小さく音を鳴らす。
咥内に移してやったものがなくなったのを確認して、カインは唇を放した。
「ふぁ……」
零れるスコールの声には、名残惜しさが滲んでいる。
まだ意識が行為の最中のものから戻り切っていない所為か、蒼の瞳が物欲しげにカインを見上げた。
カインは水をもう一口含んで、またスコールにキスをする。
今度はスコールの方からも口付けを深め、自ら水を迎えに行った。
スコールはゆっくりと水を飲みほして行き、飲むものを飲み終わった後は、舌をカインの咥内へと入れて来た。
スコールはこう言った事に置いて受動的であるが、偶に何のスイッチが入るのか、少しだけ積極性を見せる時がある。
その時はカインは有り難く受け止めさせて貰って、彼のしたいようにさせていた。
「ん…ん……はふ……ふぁ……」
ちゅぷ、ちゅぷ、と猫がミルクを欲しがるように、スコールは何度もカインの唇を吸う。
そうして夢中になっている内に、また疲れて来たのだろう、スコールの唇はゆっくり離れて行った。
くたりと寄り掛かって来た体を受け止めて、カインはベッドへと横になる。
連れ去られるようにスコールも一緒にベッドに倒れ、はあ、とあわい吐息を零した。
「…あんたとすると、疲れる……」
「それは、悪かったな」
「……あんた、意外と激しいんだよな」
「意外と、か。お前は俺を欲の薄い男だとでも思っていたのか?」
「まあ、割と」
スコールの答えに、カインは苦笑する。
「俺も嘗てはそのつもりでいたな。そうであろうとしていた、か」
「……今は違うのか?」
「お前のお陰で」
スコールの問いに返しながら、カインは嘗ての自分を思い出す。
親友と相思相愛の中となった女性を、カインは愛していた。
だが、親友と彼女の中を引き裂きたかった訳でもないし、カインは友のことも信頼している。
彼は暗黒騎士としての自分自身に思い悩み、彼女に己は相応しくないのではとすら考えていたが、カインにしてみれば愚中の愚とも言えるような話だった。
寧ろ、なんとも贅沢な話だと、そんな事すら思っていたかも知れない。
カインにとっては、親友とその恋人が恙なく遂げてくれたならば、それ以上に望むものなどなかったし、それ以外の道を一瞬でも奪い取ろうとする事もなかったのだから。
だからカインの心は暗い深淵へと傾いて、堕ちて行ったのだろう。
それはカイン自身の未熟な心故のものでもあったし、同時に、恐らく目を逸らす事の出来ない現実であったのだ。
自分の欲しいものを全て持っているにも関わらず、己はそれに相応しい人間ではないと、自ら手を放そうとする親友に、怒りとも嫉みとも言えない感情があった。
欲しくて欲しくて溜まらないそれが、取り零されようとしているのなら、それを自分が拾っても良いだろうと。
カインは存外と、己が思っている以上に、欲深で独占欲が強いのだ。
スコールに触れていると、カインはそういった自分の性質と言うものを再認識する。
そして同時に、焦がれて焦がれて仕方のないものが、こうして時分の腕の中にいると言う心地良さを、初めて知った。
「……カイン?」
動かなくなったカインに、寝たのか、とスコールが声をかける。
まだ眠ってはいなかったので、カインはスコールと目を合わせてやった。
生まれたばかりの猫に似た、透明度の高い蒼灰色の瞳が、近い距離でじぃっとカインを見詰めている。
カインはスコールの肩を抱き寄せて、熱花の名残を残す目尻に唇を当てた。
なんだよ、と訝しむ声があったが、構わずにキスを繰り返していると、スコールはくすぐったそうに身を捩る。
逃げを打つような仕草を、カインが腕の檻に閉じ込めてやると、少年は大人しくその中に納まった。
「……もう眠い」
「ああ」
カインがじゃれたいだけなら、自分はこのまま眠りたい。
そう言うスコールに、構わないとカインが返してやれば、スコールはとろとろと目を閉じた。
程無く規則正しい寝息を立て始めたスコール。
カインはその顔に手を伸ばし、目元にかかる濃茶色の髪を退けると、露わになった額の傷にキスをした。
4月8日と言うことで、今年はカイン×スコールにしてみた。
カイスコを書くと、どっちも余り触れ合いの類をしない二人ばっかりだった気がして、する事させていちゃいちゃさせてみました。
012なのかNTなのか時間軸は謎ですが、012だとこれだけラブラブしといてカインがスコールを殴りに行くことになるので、そりゃキューソネコカミもしてくると言うもんだ。
「ほらよ」
そう言って、放るように差し出されたものを、スコールはよく見ないで受け取った。
受け取ってしまってから、それが思っていたもの───書類の類の感触ではない事に気付いて、顔を上げる。
そうして手の中にあるものが、可愛らしくラッピングされた、小さな長方形のプレゼントボックスであると知った。
スコールはしばし手の中のものを見詰めた後、デスク越しに自分を見下ろしている男を見た。
これはなんだ、と目で問うスコールに、男───サイファーはいつもと同じ顔で答える。
「ホワイトデーだからな」
「ああ……は?」
サイファーの言葉に、成程と思った後で、スコールは我に返った。
カレンダーを見れば、確かに今日は3月14日のホワイトデーである。
しかし、この一年の締め括りのこの時期、年度末に押し寄せるあれこれで忙殺されていたスコールにとって、今日と言う日はただ多忙なだけの一日でしかなかった。
ついでに言うと、先月の今日も全く同じ話で、スコールはガーデンや街がどんなに色鮮やかに飾られても、全く知る由はなかった。
一日を殆ど執務室で缶詰になっていれば、さもありなんと言う話である。
其処に突き出されたこのプレゼントボックスは、今日と言う日を理解すればその由来は判ったが、しかしスコールにはもう一つ眉根を寄せねばならない事がある。
「……なんであんたが俺に渡すんだ」
「恋人だからな。可愛い恋人に贈り物するのは、別に今日じゃなくたって良いが、理由もあるんだし、贈らない手はないだろ?」
「そうじゃなくて。俺、あんたに何も渡してないだろ」
ホワイトデーと言えば、一般的にはその前哨にバレンタインデーがあって、その日に何かを貰った者が、お返しを用意する日ではなかったか。
自分が知らない間にその要項に変化でもあったか、何かと流行に疎いので置いてけぼりにされているのかと思ったスコールだったが、それなら流行に聡い女性陣から何か聞けそうなものだが、何もない。
恐らく、多分、例年通りのことなのだろうと思うのだが、それなら尚更、スコールはサイファーにこれを渡される意味が判らなかった。
先月も今と同じく仕事三昧だったスコールだ。
今日と言う日の前哨でもある、バレンタインデーも変わらず、その日が"そう"だとすら気付かないまま過ごしていた。
それは指揮官補佐を務める立場となったサイファーも同様なのだが、根からロマンチストな彼は、もう少し周りが見えている。
色気づく周囲の様相は勿論、自分でも暦をしっかり確認して、準備根回しは忘れない。
そして当日、サイファーはしっかりと、スコールにバレンタインのプレゼントと言うものを贈ってくれた。
と言う前日譚を踏まえると、ホワイトデーに贈り物を用意すべきはスコールの方だ。
サイファーはそれを待つ側であると言うのに、どうして彼がスコールへの贈り物を用意しているのか。
納得のいかない顔で見上げるスコールに、サイファーは肩を竦める。
「お前が年中行事をちゃんと覚えてるかなんて、ハナから期待してねえよ」
「……」
「実際、バカみたいに忙しいしな。缶詰になってるお前が、こう言う事を準備できるとも思ってねえし。先ず忘れてるだろうしよ」
「……」
やれやれと、両腕を上げる仕草をするサイファーに、スコールはぐうの音も出ない。
忙しいから仕方がないだろう、と言えなくもなかったが、きっと暇でもスコールは今日の事を忘れている。
バレンタインのように、ガーデンの売店や食堂にもそれを意識させる飾りつけがあれば、まだ思い出せる可能性はあるが、ホワイトデーは一ヵ月前と違って案外地味なものだ。
サイファーが何か突いて来なければ、きっと思い出す事もないだろう。
かくして今日はお陰で思い出した訳だが、しかしスコールは、じゃあ有り難く貰おうと言う気分にもなれなかった。
何せ、先月もスコールはサイファーからプレゼントを貰っているのだ。
本来、返しをする筈の今日に、また新たなものを貰っていると言うのは、どうなのだろう。
「……サイファー、これ」
「いらないってのは聞かないからな」
受け取れない、とスコールがプレゼントボックスを返そうとして、サイファーは先にそれを遮った。
中途半端に浮かせたスコールの腕が行き場を失くして彷徨い、蒼の瞳が所在無さげにプレゼントボックスを見る。
サイファーはそんなスコールの頭を見下ろしながら言った。
「俺が勝手に用意して、勝手にお前に渡してるだけだ。一々気にすんな」
「……でも」
「先月のだって、別にお返しなんて期待してねえしな。お前がガーデンにいない事だってあり得た訳だし」
「まあ……」
「直で渡せただけ十分だ」
そう告げるサイファーの声は、確かに満足そうだった。
スコールの頭を、くしゃり、と大きな手が撫でる。
辞めろとスコールが頭を振ると、手のひらは直ぐに逃げた。
────サイファーの言うことは確かで、先月にしろ今日にしろ、スコールがガーデンにいたのは幸運な事だった。
任務があれば優先されるは当然それだし、スコールがガーデンにいても、サイファーが出ていると言うことも少なくない。
二人揃って色気のない戦場に駆り出され、泥まみれになっている事もあると思えば、本当に今日は運が良い。
でも、それでも、とスコールは思うのだ。
スコール自身が年中行事に疎い性格とは言え、一応、サイファーとは紆余曲折の末、恋人同士と言う間柄に収まった。
サイファーがロマンチストである事はスコールもよく知っているし、それならクリスマスにしろバレンタインにしろ、サイファーにとっては特別なものにしたいのではないかと思う。
思ってはいるが、意識も行動もそれについて行かないので、こうして何も準備できない事も多い。
それでも、一応ホワイトデーの前にはバレンタインと言う日があったし、その時にプレゼントを渡されているのだから、返すもの位は準備しているべきでは、と考えずにはいられない。
複雑な胸中のまま、乱れた髪をスコールが手櫛で直していると、サイファーが「まあ、そうだな」と付け足すように口を開く。
「どうしても気が引けるってんなら、キスの一つでもしてくれよ」
「……はあ?」
「良いだろ、偶にはお前からして貰っても」
それで貸し借りなしだと言うサイファーに、スコールの眉間の皺が深くなる。
スコールのその反応も、サイファーには予想通りのもので、冗談だとまた付け足そうとした時だった。
「……良いんだな、それで」
呟くなり、スコールは椅子から腰を上げて、デスクを周り込んでサイファーの隣へ。
僅かに足りない身長差を背伸びで埋めて、サイファーの頬へと引き結んだ唇を押し付けた。
それはほんの一瞬、一秒にも満たない時間の事だったが、触れた感触をサイファーに伝えるには十分。
思いも寄らなかった恋人の行動に、サイファーが呆けた顔で立ち尽くすのを、スコールは見ていなかった。
背伸びを終えると、元来たルートを早回しのように回り込んで、デスクに着く。
プレゼントボックスを渡されるまで睨んでいた書類に、ペンでサインを書き込んで行く。
再起動が終わったサイファーがデスクを見れば、紙を睨んでいるスコールの小さな頭頂部があるのみ。
決して顔を上げるまいと言う堅い意思が感じられる傍ら、濃茶色の髪の隙間から、先端まで赤くなった耳が覗いている。
その耳を見ている内に、この素直でない、恥ずかしがり屋の恋人が、何をしたのかようやく理解して、口端が勝手に緩む。
スコールが顔を上げればきっと真っ赤になって怒るであろう顔をしている自覚があって、サイファーは右手で口元を隠した。
顔を見られる前に退散しようと、サイファーは踵を返す。
カリカリとペンの走る音を背中に聞きながら、自分用のデスクにサイファーが腰を下ろそうとした所で、食堂に出ていたキスティスが帰って来た。
執務室のドアが開く音を聞いて、スコールが慌てた様子でデスク上に置いたままにしていたプレゼントボックスを掴み、デスクの引き出しへと隠す。
そんな事をしても、赤くなった耳が元に戻らない限りは、目敏いキスティスに間違いなく突っ込まれるのだが。
案の定、赤い顔を見付かったスコールは、キスティスから「良い事でもあったの?」と訊かれていた。
スコールの返答は「何も」であったが、キスティスの眼は補佐官の片割れへと向いている。
無論サイファーは沈黙を守ったが、キャッツアイの向こうで緑の眼が何もかも───サイファーの頬に残った感触を除いて───見抜いている事を、サイファーは判っていた。
行事ごとを欠かさないサイファーと、そう言うものにてんで鈍くて遅れて思い出すスコール。
そんなサイファーに影響されて、段々とスコールも忘れないようになって来て、ちゃんと用意し始めるんだと思います。
罰ゲームだと思っていた、と言われた時には少々ショックはあったが、無理もない事だとも思う。
若しも立場が逆だったとしたら、自分だってきっと何かの冗談だと思ったし、そうでなければ、事情と言うのか、某かの詮無い理由があっての行動と思うに違いない。
同性同士の恋愛が可笑しいだなんて、今時そんな考え方はナンセンスだとは思うが、生物学的本能だとか、自身の性的趣向がどちらに向いているかとか、一般的に言われている恋愛が異性愛を基本として指している事だとか───ともかく、まだまだ余り普通ではない、と言うのが正直な印象であった。
そう言う所にまさか自分が踏み込む事になるなんて、思ってもみなかった、と言うのも無理はあるまい。
ルーネス自身もそうだったのだから。
ルーネスがエスカレーター式の学園に入ったのは、6歳の時。
親がいないルーネスは養護施設で育てられており、次の春には小学校に入ると言う時期に、職員がその話を持ってきた。
その学園の学園長は、元々ルーネスのような孤児を育てていた人で、そう言った子供たちにもっと学びの機会が得られるようにと、学園を立ち上げる事にしたと言う。
学園は中々評判が良いようで、在籍者は年々増えているのだが、その生徒の半分ほどはルーネスと同じ孤児だと言う。
養護施設にも色々とあって、きちんと中が正しく整えられている所もあれば、行政から出る補助金だけが目当てで中身は最悪、と言う悪質な所もあるのが現状。
他にも、所謂“毒親”に縛られて何処にも行けない子供たちのシェルターにもなれるように、可能な限り間口を広げているのだそうだ。
ルーネスが籍を置いていた施設は、特段悪い所がある訳ではなかったが、経営が辛い状態であった事もあって、その時分から近々閉鎖されるかも知れない、と言う噂が子供たちの間ですら流れていた。
職員がルーネスに学園への入学を促したのは、施設を失えば行き場も失くしてしまう子供たちに、次の居場所を提案する為だったのかも知れない。
かくしてルーネスは学園へと入り、其処で存分に勉学に励んだ。
頭の中に知識を詰め込むのは嫌いではなかったし、学園の図書室には沢山の書籍があり、どれでも手に取る事が出来たのが嬉しかった。
朝から晩まで本を読み漁っている内に、対象年齢が高校生になるものも普通に読めるようになったし、成績も常に上位トップが取れるようになった。
お陰で逆に日々の授業に退屈を感じるようになって来たが、それでも、悪くはない日々であった。
初等部の頃、ルーネスは本の虫で、あまり人とのコミュニケーションを取らなかった。
教師は始めこそそんなルーネスに色々とコミュニケーションの大切さを説いていたが、ルーネスとて将来的なことも含め、それをないがしろにしているつもりはない。
ただ、人と話すよりも、沢山の文献と向き合っている方が、ルーネスにとって楽しかっただけだ。
その内に教師もルーネスのそう言った気質が浸透したようで、ルーネスが本を読んでいると、形式的に声をかけて来るだけになった。
他の生徒も同じようなもので、元々外遊びに積極的ではないルーネスを遊びに誘う者は減って行く。
ルーネスがそれを気にした事はない。
本を読む以上に楽しい事もなかったし、同級生とはどうにも会話の調子が合わない気がして、長々と話をする気になれなかった。
中等部に入ると、ルーネスは生徒会に入った。
この学園の生徒会は中々活動的で、中等部と高等部が混合で成り立っている。
ルーネスが生徒会に入ったばかりの時は、中等部の三年生がいたのだが、一年経って彼等が高等部への編入となると、ジタンと言う名の生徒を除き、脱会してしまった。
元々高等部生の人数が多く、これ以上は必要ないのではと言う話もあったので、それは仕方がない事だ。
だが、お陰で現生徒会の中等部生はルーネス一人になってしまった。
中々に濃い面子が揃っていると噂されている所為なのか、年中行事が多い学園にあって教員から色々と頼まれごとが回って来るのを嫌ってか、中等部生はあまり生徒会活動に積極的ではない。
教員からの評価だとか、まだまだそれを具体的に考えるには早いと思う生徒も少なくはなく、その結果、新たに生徒会に入る中等部生が出て来ないと言う環境になっている。
お陰でルーネスは一人ぼっちの中等部の生徒会員なのだが、それに不自由や虚しさを感じる事はない。
一年目はともかく、二年目となった今、ルーネスはこの生徒会を気に入っていた。
来年になったら、現生徒会の三年生が学園を卒業する為、否応なく編成が替わるのが少し寂しく感じる位には、今の環境が心地良い。
それでも、今年を含めてあと二年は、ルーネスが生徒会を離れる事はないだろう。
誰より好きな愛しい人と、一時の甘い時間を過ごす為に。
今日の生徒会会議を終えて、ルーネスはホワイトボードに書き綴られたメモを、その横に落書きされた鳥の絵ごと綺麗に消した。
そのルーネスの後ろで、会議机に座って厚みのある紙束を黙々と捲っているのはスコールだ。
数分前まではその隣に現生徒会長のウォーリアと、副会長のバッツが座っていたのだが、彼等は教員に呼ばれて職員室へ行った。
その時、スコールが「あとは俺がやっておく」と言い、二人に鞄を持って行くように促していたので、彼らが今日の生徒会室に戻って来る事はないだろう。
他の生徒会役員も、アルバイトの予定だったり、部活だったりと忙しくしていて、皆ルーネス達よりも先に部屋を後にした。
お陰で空間は静かなもので、窓の向こうからはグラウンドで部活に励む生徒達の声だけが聞こえている。
ホワイトボードを綺麗に掃除した後、ルーネスは教室の端に置いていた生徒会日誌を取りに行った。
パラパラとページを捲りながら会議机の一角を借り、会議中内容をメモ書きしていたノートを参考に、今日の会議記録を綴る。
最後に総括を書いて、これで終わり、とルーネスが日誌を閉じると同時に、
「……ふう」
静かな教室に零れた吐息は、スコールのものだ。
ルーネスが顔を上げると、凝った首を解すように項を摩っているスコールの姿がある。
「終わったの?」
「ああ」
「お疲れ様」
労うルーネスに、蒼の瞳が此方を見る。
言葉jはなかったが、柔らかな光が「お前も」と言っているのをルーネスは聞いた。
カアン、とグラウンドの方から高い音が響く。
野球部だろうか、と思った所で、今度はホイッスルの音が鳴った。
外部活は随分と活気があるな、と思いつつ、ルーネスがなんとなく窓の向こうを見ていると、スコールも同じように外へと目を遣る。
この学園は高台に建っており、お陰で校舎の上部からの眺めが良い。
広いグラウンドの向こうに、遠くまで広がる街を見下ろすことが出来るので、昼休憩になると屋上で弁当を食べる生徒も多かった。
多少賑やかにした所で気にする隣近所と言うものものないから、吹奏楽部の生徒がグラウンドや中庭で個人練習している景色も儘見られる。
ちなみに、学園の生徒が使っている寮は、同じこの高台の中腹にあった。
お陰で登校ルートは須らく坂道だし、スーパー等の日常生活の買い物は下山して街に行かなければいけないので、その点は少々不便なのだが、本数は少ないもののルートバスも走るようになったので、福利厚生は充実している方ではないだろうか。
ルーネスとスコールは、何をするでもなく、しばらくの間じっとしていた。
窓の向こうに何か変わったものが見える訳でもなかったが、なんとなく、そうしていたのだ。
先にそれを辞めたのはルーネスで、帰らなくちゃ、と視線を戻す。
そうして、窓の向こうをじっと見つめる青年の、きれいな横顔に心を奪われた。
(……やっぱり、綺麗だなあ)
少し憂いの色を帯びた蒼の瞳が、夕焼けの光を受けて、仄明るく揺れている。
その瞬間を見る度に、ルーネスの心は掻き乱され、筆舌に尽くし難い衝動に駆られるのだ。
───それが恋だと知った時、自分が何を思ったのか、ルーネスはあまり覚えていない。
ルーネスが席を立ち、その足が何かに操られるように、するすると歩く。
行き付いたのは、まだ席に座ったままのスコールの傍らだった。
立ち尽くす少年の気配に気付いて、スコールが窓を見ていた頭を巡らせれば、じっと見下ろす緑色が其処にあった。
「どうした、ルーネス」
名前を呼ぶ薄い唇を、ルーネスはじっと見つめた。
ルーネスの右手が、体の横に垂れたまま、握って開いてを繰り返す。
体の奥から湧き上がって来る衝動に、身を任せれば良いのかどうか、ルーネスにはまだ判らない。
ほんの一年前に生まれて初めて飼うことになったそれは、まだ人生経験の少ないルーネスにとって、いつも持て余してしまうものだった。
じっと見つめ見下ろすルーネスに焦れて、スコールがことんと頭を傾けた。
スコールは背が高くて、成績も優秀で、教師陣から是非次期の生徒会長に、と言われている程の人だ。
生徒達からもそれは同じ事でであったが、あまり言葉数がなく、常に眉間に皺を寄せて不機嫌に見える所為か、取っ付きにくい印象を与える事が多かった。
けれど、懐に入る事を赦した人物の前では、こんな風に幼い仕草も見せてくれる。
ルーネスは、それを自分が赦されている事が嬉しかった。
「……あのさ、スコール」
「なんだ」
「……キスしても良い?」
問うルーネスに、スコールの瞳が僅かに見開かれる。
虚を突かれた、と言う表情の後で、白い頬が微かに赤く染まるのをルーネスは見逃さない。
スコールは見上げていた視線を逸らして、
「……好きにして良い」
素っ気なくも聞こえる言葉で、それでもそう返してくれた。
それがルーネスはまた嬉しくて、ドキドキと跳ねる心臓を精一杯に隠しながら、ほんの少し身を屈めて、赤らんだ頬にキスをする。
一回、二回とルーネスはキスをした。
スコールは少し逃げるように肩を竦め、頭を逃がすように首を傾けたが、席を立つ事はしない。
立ってしまえば、身長差のあるルーネスでは、どうしたって自分の顔にキスが出来ないと判っていて、じっと座っていてくれるのだ。
最後にルーネスは、目を閉じて、そうっとスコールの唇に、自分のそれを重ね合わせた。
触れ合うだけのキスでも、ルーネスにとっては毎回心臓が破裂しそうな程に緊張する。
スコールがそれをどんな気持ちで受け止めてくれているのかは、まだ目を開けてキスが出来ないルーネスには判らない。
いつか確認出来たら良い、それまでどうかこの関係が消えてしまわないようにと願っている。
唇を離して、ほう、と言う吐息がルーネスの唇を擽った。
ルーネスがそろそろと目を開けると、柔らかく優しい熱を帯びた蒼の瞳が直ぐそこにあった。
「……スコール」
「……なんだ」
「…好きだよ」
「………知ってる」
何度も聞いた、と言うスコールに、何度だって言いたい、とルーネスは言う。
それはルーネスがこの関係を続けていく事への自信がまだ足りないからでもあったし、ルーネスが本気でスコールの事が好きである事を、スコール自身が当初信じてくれていなかったと言う経緯の所為もあった。
だが、スコールがルーネスの気持ちを信じていなかったと言うのは、もう昔の話だ。
「……お前が冗談で俺にこんな事をするなんて、もう思ってない」
「告白だって冗談なんかでしないよ」
「それは───仕方がないだろう。誰にバカなことを焚きつけられたのかと思う位は」
ばつが悪そうに目を逸らすスコールの言葉に、まあね、とルーネスも苦笑する。
ルーネスは少しの間、視線を逃がすスコールの横顔を見詰めていた。
綺麗なその顔を、ルーネスは幾らでも見ていて飽きない自信があったが、そろそろこの教室は閉めないといけない時間帯だ。
「……帰ろっか」
「ああ」
「一緒に帰って良いよね?」
「……ああ」
もう少し一緒にいたくて、甘えるようにねだって見れば、優しい年上の恋人は静かに頷いたのだった。
3月8日と言うことで。
毎度のことながら実にキラキラしい生徒会である。眩しい。
この二人は皆に自分達の関係を明かしてはいないけど、目敏い面々には悟られてるんじゃないかと思う。本人達が打ち明けない限りはそっと見守っておこう、のスタンス。
皇帝の居城であるパンデモニウム城は、迷路のような作りになっている。
その上、あちこちにトラップが仕掛けられているのが常であった。
生き物のような壁が突然消えたり現れたり、床や天井が針のように突き出して来たりと言った物理的なものは勿論、不可視の魔力を施した魔法トラップもある。
魔法トラップに関しては、魔力探知に優れた者がいれば、ある程度の回避は可能だが、それも全てではない。
いやらしい策謀を巡らせる皇帝らしくとでも言うのか、二重に三重にと張り巡らされたトラップは、其処で戦い慣れた者であっても中々に面倒な代物であった。
パンデモニウム城の複雑さは、混沌の大陸に近いほど、その深度を増す。
やはり、混沌の力が強く作用する事で、中の精密性も高くなるのだろうか。
秩序の戦士達は、タイミングを見ては誰かが混沌の大陸に渡り、大陸内部の探索調査を行っている。
混沌の大陸は相手側の陣地の真っ只中であったが、大陸の調査は不可欠だった。
一人で行くのは流石にリスクが高い為、出来る限り、二人以上の班を組んで調査に向かう方針が立てられている。
今回はフリオニールとスコールがその役目を担うことになった。
魔力の探知に長けた者が一人欲しい所ではあったが、ティナもルーネスも昨日の戦闘で魔力を多く消費しており、その回復が追い付いていない。
その為、今回の調査は深くは踏み込まず、既に調査済みの所の確認を主として、また異常があれば直ぐに報告に戻れる場所まで、と決まった。
そんな道中で見つけた赤い歪に入った二人を、パンデモニウム城が迎え入れる。
見通しが悪く、一所に留まって様子を見るにも不向きな場所に、スコールが舌打ちをしたが、愚痴を言っていても空間の様相は変わらない。
まだ此方に気付かず、二人は彷徨うように歩き回っているイミテーションに奇襲をかけた。
幸いにも練度の高いイミテーションの姿はなく、程無く全ての人形を片付ける事が出来たのだが────
「フリオニール!」
「!」
出口へ向かおうと踵を返したフリオニールの背を、スコールが強く押した。
前へ数歩、蹈鞴を踏んだフリオニールが振り返ると、青い靄に覆われたスコールの姿がある。
「スコール!」
「……っ」
助けに走ろうとするフリオニールを、スコールの蒼が睨む。
来るな、と制するスコールの声を読み取って、フリオニールは二の足を止めた。
スコールはまとわりつく靄を、腕と頭を振って払い除けた。
靄が完全になくなるのを確かめてから、フリオニールが駆け寄る。
目元に手を当て、ふらりと足元をよろめかせたスコールを、フリオニールの腕が支えた。
「スコール、大丈夫か?」
「ああ……」
「すまない、トラップがあったんだな。毒…ではなさそうだけど」
「……コンフュかスリプルだと思う。少し眩暈がするような…」
そう言ってスコールは、戦闘が終わった後で良かった、と呟く。
どうやらスコールは精神感応系の魔力耐性が低いらしく、かかってしまうと進行が早く、抜けも遅い。
もし戦闘中にこのトラップを食らっていたら、意識が揺らいで応戦どころではなかっただろう。
とは言え、戦闘後でも決して安心できない環境である事は変わらない。
庇われた形となったフリオニールは、自分の代わりにトラップを食らったスコールに、すまなかったな、と詫びてエスナを唱えた。
「俺の魔法じゃ大して効果はないかも知れないけど」
「……十分だ」
フリオニールの手から魔法の光が消えると、スコールはしっかりと両の足で立つ。
行こう、と促すフリオニールにスコールは頷いて、今度こそ二人は歪の出口へと向かった。
パンデモニウム城の歪を出てからは、其処を中心にして調査を続けた。
赤い魔紋の歪は件の一つだけ、後はまだ清浄な青を灯している。
鬱蒼とした森を抜け、広大な砂漠が広がる場所まで来た所で、空は夜闇に覆われていた。
砂漠には視界を遮るものが少なく、イミテーションに見付かり易い上、風除けもないし、冷えも酷い。
砂漠に出るのは明日にしよう、と言ったフリオニールに、スコールも同意した。
スコールが焚火を作っている間に、フリオニールは一度森に戻って、夕飯にする魔獣を仕留めた。
野営地に戻ると、焚火の傍でスコールがうつらうつらとしている。
今日は歪内の戦闘は一度だけだったが、聖域を出立してから此処まで、丸一日歩き通しだ。
疲れているのも無理はないと、フリオニールはスコールを休ませて、魔獣を捌いて簡単な肉のスープを作った。
それが食事の形になる頃には、スコールも揺らせていた頭をしゃんと戻していた───ように見えたのだが、
「………」
半分になったスープの入った器を持って、スコールはぼんやりとしている。
焚火を挟んで向かい合う位置にいたフリオニールは、空になった器を持って、茫洋と揺れる蒼を見詰めていた。
「……スコール?」
「……」
呼ぶとスコールは顔を上げた。
一拍を置いて、ゆっくりと。
青の瞳がフリオニールを捉えるが、どうにもその光が弱い気がして、フリオニールはええと、と少し迷った後、
「…大丈夫か?これ、口に合わなかったかな」
「……問題ない」
答えて、スコールはようやく食事の続きを始めた。
食べ進めると言うことは不味かったと言う訳ではないのだろう、多分。
フリオニールは、黙々と口を動かしているスコールの貌を注意深く観察して、半ば希望混じりにそう思うことにした。
スコールはフリオニールやティーダ程に健啖家ではない。
元々食に対しての執着もそれ程強くはないようで、必要なエネルギーが確保できれば十分、と言った風だった。
それでも食事のスピードは遅くはなく、会話に参加せずに黙々と食べ進めている事もあってか、メンバーの中で一番に席を立つ事も少なくない。
……が、今日のスコールの食事は、随分とゆっくりだ。
いつもの倍の時間はかかって、スコールは食事を終えた。
食器類を片付けた後は、賑やか組でもいれば他愛のない会話が始まるのだが、今日は二人きりである。
静かな夜は久しぶりだな、と思いながら、フリオニールは焚火の向こうの少年を眺めていたのだが、
「………」
(……なんだか、眠そうだな……)
スコールの長い睫毛が、半分ほど降りている。
焚火が揺れると、眩しそうにゆっくりと瞬きをして、次に持ち上げられるまでに間が空いた。
時折頭が落ちて行き、それに気付いたかごそごそと身動ぎして姿勢を戻すが、まだゆっくりと落ちて行くのを繰り返していた。
「……スコール?」
「……なんだ」
名前を呼ぶと、一拍置いて返事があった。
ブルーグレイの瞳には今こそ光が灯っているが、数秒の間を置くと、またほわりと柔らかくなる。
「ええと……その。眠いのなら先に寝ていていいぞ。見張りは俺がするから」
「……別に、眠くはない」
「そう、か……?」
否定するスコールの言葉に、フリオニールは眉根を寄せる。
焚火越しにまじまじと顔を見るフリオニールだが、その印象はやはり眠そう、と言うもの。
誰がどう見ても、今のスコールは、眠気を我慢しているようにしか映らないだろう。
フリオニールからの疑惑の視線を誤魔化すように、スコールは傍らに置いていた薪を焚火に放った。
からん、と薪が転がって、火がゆらると揺れると、猫のようにスコールの双眸が細められる。
そのまま目を閉じ続けていたら、程無くて寝てしまいそうな、それ位にフリオニールから見た今のスコールの様子は無防備なものだった。
フリオニールの脳裏に、数時間前の歪で起きた事が蘇る。
(スリプルのトラップだった、とか?)
あの時は、スコールの意識が飛ぶ程の効能はなかったようなので、フリオニールのエスナでも十分治療が出来たように思えた。
しかし、遅効性とでも言うのか、エスナで一時的に効果が軽減されていたのか、どちらにせよ時間が経って再びトラップの効能がスコールに効き始めた可能性は否定し切れない。
フリオニールはぐるりと周囲を見回して、安全を確認した後、スコールに言った。
「スコール。見張りは俺がやるから、今日はもう休んだらどうだ?」
「……」
休息を促すフリオニールを、蒼の瞳がまたゆっくりと向き合った。
相変わらず遅い瞬きを繰り返しながら、スコールはしばしの間の後、ふるふると首を横に振る。
「…まだ良い」
「無理しなくて良いんだぞ」
「…別に無理はしていない」
「そうは見えないんだが」
「……あんたの方こそ、先に寝れば良い。見張りは俺がする」
言い返すようなスコールの口調であったが、フリオニールは眉尻を下げるしかない。
何せ、口ではそう言っていても、スコールの顔が眠そうなのだ。
意地を張っているのか、それとも自分が眠いことまで認識できない程に眠いのか。
自己への状態の認識がズレていると言うのは、まあまあ良くないよな、と思いつつ、フリオニールは腰を上げた。
フリオニールはスコールの隣へ移動すると、すとん、と腰を下ろす。
スコールはその様子を、猫が飼い主の動きを観察するように、じっと目で追っていた。
そして隣に落ち着いたフリオニールを見て、不思議そうな顔をしている。
「……フリオニール?」
どうした、と訊ねるスコールに、フリオニールはマントを拡げると、スコールの背中を覆って、その肩に腕を回した。
「何……」
「ちょっと寒いなと思って。俺が寝るまで、暖になってくれると有り難いな」
「……」
へら、と笑って言ったフリオニールを、蒼瞳が丸くなって見詰めている。
眉間の皺が減って幼く見えるその顔を、フリオニールがじっと見詰め返していると、
「……」
スコールは俯いて、すり、とフリオニールの肩に頭を摺り寄せた。
鎧の感触の所為だろう、「……かたい」と小さく呟いたのが聞こえる。
こればっかりはとフリオニールが苦笑していると、スコールはより熱を求めるように、体ごとフリオニールに寄り掛かって来た。
フリオニールは何を言う事もなくそれを受け止め、より体温を感じやすいようにと、スコールの肩を抱き寄せる。
ぱち、ぱち、と焚火が小さな音を鳴らす。
それがこの静寂の中で仄かに耳に心地良くて、スコールの瞼がゆっくりと下りて行く。
程無く、すぅ、すぅ、と寝息が聞こえてくるようになって、フリオニールはマントの中で眠る少年を見て、小さく唇を緩ませたのだった。
2月8日と言うことでフリスコ!
ねむねむしてるスコールを寝かしつけるフリオニールが見たいなって。
このままスコールが一頻り寝て起きるまで、フリオニールはスコールとくっついたまま過ごしてると思います。
スコールは寝惚けてたようなもんだったから、目が覚めた時にぴったり密着してる状態に驚くんだと思う。