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[スコリノ]君に逢えたから

  • 2014/01/01 22:30
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「明けましておめでとーっ!」


鈴のような少女の声と共に、ぱぁん、と弾ける高い音。
何が起きたのか、すわ敵襲かとまで考えて咄嗟に構えようとしたスコールだったが、目の前でにこにこと楽しそうに笑う恋人の顔を見て、一気に気が抜けた。


「…これは違うんじゃないか、リノア」
「ん?そっかな?」


これ、と言ってスコールが指差したのは、リノアの手に握られているもの────パーティ御用達のクラッカー。
目出度い席や、楽しい宴の席でよく用いられるものであるが、幾ら今日が目出度い日とされるとは言え、これは些か雰囲気が違うのではないだろうか。
と、スコールは思うのだが、リノアはその辺りの事は深く気に止めていなかった。


「スコール、テープだらけだね」
「…あんたがこんなに近い距離で鳴らしたからだろ」


スコールの脳茶色の髪には、赤緑黄色と色とりどりのカラーテープと銀紙が引っ掛かっている。
クラッカーが弾けて飛び出したテープと銀紙が降り注いだのだから当然だ。

はあ、と呆れた溜め息を漏らしつつ、スコールは頭に乗ったカラーテープを払い除けた。
柔らかな髪の隙間で引っ掛かる銀紙も、リノアの手で一枚一枚回収されて行く。
身長差の所為で上手く行かないのか、ちょっと屈んで、と言われたスコールは、ベッド端に腰を下ろした。
リノアはスコールの前に立ったまま、真剣な表情でスコールの髪の中を探っている。

一分か二分か経った頃、カラーテープと銀紙は全て無事に取れたらしく、「もういいよ」とリノアが言った。
スコールが顔を上げ、リノアはスコールの隣に腰を下ろす。


「ね、ね。びっくりした?」
「……それなりに」
「そっかー。ふふ」


スコールの答えに、リノアは無邪気に喜んでいる。
何がそんなに彼女を喜ばせているのか、スコールには全く判らないのだが、彼女の機嫌が良い事だけは確かなので、まあ良いかと思う事にした。

ぽすん、とリノアの頭がスコールの肩に乗せられる。
黒くて長い髪がさらりと滑ったが、ジャケットを着たままのスコールには、その感触は判らない。


「スコール、今日は大変だったんでしょ。色んな所からスコール宛てのメッセージとかが来たって、セルフィが言ってたよ」
「……そうだな。ラグナと、大佐からも来た」
「パパから?」


カーウェイ大佐とバラムガーデン───指揮官であるスコールとは、政治的な意図を抜きにしても、太いパイプがある。
その理由の第一等であるリノアは、父の名前が出た事に、そわそわとした表情でスコールを見上げ、


「パパ、私の事とか、何か言ってた?」
「……世話をかけている、と言われた」
「他には?」
「…娘を宜しく、って」


スコールの言葉───カーウェイからのメッセージ───を聞いて、リノアの顔がぽんっと赤くなる。
それをスコールが見る前に、彼女はベッドに座ったスコールの膝に頭を乗せて俯せになった。
うーうーと甘える子供のような声を漏らすリノアに、スコールは首を傾げたが、取り敢えず彼女の機嫌が良さそうである事は判ったので、好きにさせる。

─────“娘を宜しく”と言う言葉に、どんな意味が込められているのか、スコールとて判らない程鈍くはない。
以前ならば、先ず自分がそんな言葉を向けられる事は有り得ない、と頭から否定していたが、今は違う。
リノアの事は他の何よりも、誰よりも大切に想うし、彼女をこれから先もずっと守って行きたいと思う。
カーウェイ大佐も、それを感じ取っていて、“宜しく”と言う言葉を選んだのだろう。

スコールは嵌めていた手袋を外して、膝に甘えているリノアの頭に手を置いた。
ぴくっ、とリノアが判り易く反応を示したが、彼女は顔を上げない。
そのまま、ぎこちなくリノアの頭を撫でてやると、膝に置かれていたリノアの手が、きゅう、とズボンの端を握った。


「……ね、スコール」
「……なんだ?」


呼ぶ声に、撫でる手を止めて返事をすると、リノアが首を巡らせて、寝転んだままでスコールを見上げる。


「あのね。私、魔女になっちゃったでしょ」
「……ああ」
「他にもさ、色々、あったでしょ」
「……ああ」


リノアの言う通り、今年は色々な出来事があった。

スコールはSeeDとなり、一年目の新米の筈が指揮官などに祀り上げられ、今では“伝説のSeeD”等と言う異名がついてしまった。
リノアはレジスタンスの一員から始まったのが、終わってみれば今代唯一の魔女となった。
思えば、たった一年────いや、一年にすら満たない時間の出来事だっただが、まるで何年間にも渡る長い出来事だったようにも思う。
その間に得たものもあり、失ったものもあった。
巻き込まれてしまった事を、巻き込んでしまった事を、人知れず悔やむ事もあった。


「ね、あのね。色々あって。あったけど。ううん、だからかな。うーん、上手く言えないんだけど」


しばらく言葉を探していたリノアだったが、結局、上手く当て嵌まる言葉は見付からなかった。
そもそも、自分は何をどう言おうとしていたのか、それも上手くまとまらない。

スコールは何も言わなかった。
彼は、自分の気持ちを完全に把握する事は勿論、その断片ですら口に出す事を苦手としている。
ただ、リノアの言葉の続きをじっと待つ。


「色々あったけど。私、今、凄く幸せだよ」


澄んだ青灰色の瞳を真っ直ぐに見上げて、リノアは言った。
スコールは、「……ああ」とだけ頷いて、もう一度リノアの頭を撫でる。

一年の間に、スコールは失われていた過去の出来事を思い出し、リノアは戦い続ける事で耐えなければならない恐怖と、それに立ち向かう勇気を知った。
そして何より、誰かを大切に想う事、失う恐怖を持っても手放せないものを知って、今に至る。
一年にも満たない出来事に思いを馳せ、今こうして、愛する人と穏やかに過ごす事の出来る幸せを、噛み締める。


「明日、セルフィが皆で新年会やるって言ってたよ」
「明日……」
「スコール、忙しい?」
「…夕方からなら、多少は時間が取れる」
「じゃあ皆で晩ご飯は食べれるね。皆もいる?」
「多分。ゼルとアーヴァインが昼には帰るから、それで全員だ」


一年間を共に過ごした仲間達と迎える、新たな一年の始まり。
セルフィはそれを肴に、仲間達と揃って賑々しく過ごしたいだけなのだろうが、其処まで突く必要はあるまい。
傭兵業をやっている以上、明日がどうなるかも判らないのだから、共に過ごせる時間は大事にしたいと言うセルフィの気持ちも、今のスコールにならよく判る。
もう以前のように、失った時の喪失感だけに怯える必要は、なくなった。

そうした感情をスコールに教えてくれたのは、他でもないリノアだ。
ほんの半年前に彼女と出逢うまでは、こんな風に誰かの温もりに安らぎを覚える自分がいる事なんて、気付きもしていなかった。


「……リノア」
「なーに?」


スコールが呼ぶと、リノアは心なしか嬉しそうに返事をした。

スコールの膝に頭を乗せ、嬉しそうに頬を赤らめて、此方を見上げて来る恋人。
瑪瑙の瞳が真っ直ぐに自分を映している事に、ほんの少し鼓動が逸っている事を隠して、スコールは彼女の赤らんだ頬に手を添えた。


「……これからも、宜しく」
「スコール様の仰せの通りに」


そう言って、リノアは照れ臭そうに笑って、小さな声で「よろしくね」と言った。



ゆっくりと顔を近付けて、唇を重ねる。
ぎゅ、と細い腕が首に回って、甘えるように抱き着かれた。

抱き締めて、抱き返してくれる温もりを、これからもずっと守り続けて行く事を誓う。





新年スコリノヾ(*´∀`*)ノ
相変わらず甘え甘やかしてのスコリノが好きです。

スコリノもスコ受けもひっくるめまして、今年もどうぞ宜しくお願い致します。

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