[サイスコ]それは呼ぶ声に似た
オメガバースパロ。
αサイファー×Ωスコール。
この世には、大きく分けて、男と女が存在する。
それだけではなく、どちらにも属さない者や、どちらとも言えるもの、また曖昧な感覚の者もいるが、それらは外して考えるとしよう。
生物的に明確な線引きをした枠組みとして、男と女、その二つが存在する、と言う事だ。
そして、さらに其処からまた枝分かれする性がある。
α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)────それが男女の性以上に、この世界に置いて、大きな役割を示していた。
凡庸な性質であると言われるβは、この世界の大多数を占めており、多くの生き物はこれに当て嵌められると言って良い。
希少であり珍重されるのはαと呼ばれる性を持つ者で、あらゆる才能に置いて恵まれていると言われている。
実際に有名な会社のトップや重鎮、引く手数多のスーパースター等は、皆α性だと噂されている程、“α”と言う性の影響力は大きい。
そして更に希少とされているのがΩ性であるが、この性の大きな特徴は、男女の性に関わらず、孕む為の機関を持っていると言う事だった。
時代や宗教的背景のある時代には、子孫を増やして行く為に重用された時代もあったと言うΩ性であったが、逆にの性の特徴を理由に、子を産む為だけの存在として扱われた時代もある。
近代史ではそうした負の側面が強く、十七年前に起こっていた大国同士の戦争の時も、ガルバディアではΩ性に対して酷い差別が行われていたと言う。
現在は国際的にもΩ性の人権が認められている───とは言うが、まだまだそれは形だけのもの、とも批判されていた。
故に、Ω性の者は、多くが自身の性を隠して生きている。
スコールも同じだった。
幼年期、バラムガーデンが設立されたばかりの時は、間違いなくα性として診断された彼は、13歳の時に性の転換が起こり、Ω性になった。
こうした事例は数は少ないが確認されていた事であったが、この事をスコールは一部の人間以外には秘密にしている。
知っているのは体の変調を見逃してくれる筈もない保険医のカドワキと、スコール以上にスコールの事に敏感なサイファーの二人だけ……だったのだが、いつの間にか学園長のシドも知っていた。
シドがスコールの転換を知ったのは、カドワキに事情を話して間もなくの事だったと言うが、シドはつい最近まで知らない振りをしていたと言う。
当時のスコール自身が自分の転換を受け入れられていなかった事、思春期の少年少女にとってα性からΩ性への転換は決して軽くはない出来事だという事を、シドは理解していたのだ。
シド自身は二つ目の性に関わらず、少年少女たちに分け隔てなく繋がりを持って欲しいと願っているが、理想を現実にするのは難しい事も判っている。
だからスコールに対しても、周囲に対しても、悪戯な刺激にはならないように、せめてスコール自身が自分のΩ性の事実を受け止められるようになるまでは、素知らぬ振りをしていたらしい。
そして、17歳になった現在のスコールは、相変わらず自分がΩ性だと言う事を隠している。
今だ自分の性を受け入れられない、と言う訳ではなく───完全に受け入れたとも言い難いが───、環境の変化によって、打ち明けられなくなったと言うのが正しい。
魔女戦争での活躍によって、今やスコールは“伝説のSeeD”“魔女戦争の英雄”扱いだ。
世界各国に顔が知られ、名が売れ、まだ未成年ではあるが、公的な場に呼ばれる事も増えた。
其処で“α性である”と周知された事により、いよいよスコールは、自分の性を打ち明ける事が出来なくなったのだ。
今だΩ性について根強い負の意識が強い今、世界的に活躍したと言われる人物が“Ω性”であると知られるのは、公的なバラムガーデンの立場を崩す恐れがあった。
魔女戦争を勝利に導いたと言うスコール、それを擁するバラムガーデンの存在は、スコールやバラムガーデンと言う存在そのものを護る為にも、必要なものだ。
その為には、バラムガーデンが公の場で、自身の立場や権威的な力を保持し続ける必要がある。
今は其処に、一部の隙もあってはならない程に。
秘密は何処から漏れるのか判らない。
知る者が多いほど、その危険性は増す。
だからスコールは、信頼を置いていると仲間達───魔女戦争を共にした幼馴染やリノアも含めて、自身がΩ性であると言う事を隠している。
それでも、魔女戦争を経験する前よりも、スコールの心理的負担は減っていた。
秘密を共にする人物が、絶対にこの事実を他者の前で口にする事はないと信用している。
そしてその人物が、自分にとって唯一無二の“番”であると知っているから。
スコールが不機嫌な顔で過ごしているのはいつもの事だ。
補佐官を務めるキスティスやシュウ、更生期間中でありながら副指揮官と言う立場を任されたサイファーにとっても、見慣れたものであった。
報告書を提出しに来るSeeD達も、滲み出るオーラに気後れはすれども、眉間の皺そのものは特に珍しいものでもない。
大人しく出すものを出し、早々に立ち去れば、特に何事もなく無事に終わるものだ。
元々表情豊かではないスコールだが、不機嫌な顔には幾つかの種類がある事が確認されている。
先ずは眉間に皺一本と、真一文字に口を噤み、少し冷たい印象のあるもの。
これは初見の者こそ機嫌が悪いのかと慄くが、実際にはスコールの標準的な表情であり、眉間の皺は放って置くと勝手に寄せられる癖のようなものだ。
そして次によく見られるのが、眉間に皺を寄せつつ、目を僅かに窄め、眼前にあるものを睨んでいるような表情。
これは標準よりも少し機嫌が悪くなっている時のものだが、大体は書類仕事に飽きているのだったり、面倒ではあるが捌くには然して問題のない案件を見ている時のものである。
それから、眉間に皺が三本寄せられ、明らかに不穏なオーラを振りまいている時の表情。
これは明らかに不機嫌になっている時で、更に眉間の皺が深まって来ると、怒りすら抱いている時になる。
今のスコールは、三番目の顔をしている。
撒き散らされる怒りのオーラに、SeeD達はすっかり萎縮し、出すものを出したら逃げるように部屋を出て行く。
ちょっと可哀想ね、とキスティスは思うのだが、此処まで不機嫌が撒き散らされていると、キスティスも容易には注意できなかった。
下手に苦言を呈すると、スコールは益々機嫌を損ねた顔をする。
キスティス自身はそれに幾ら充てられようと大して気にしないのだが、巻き込まれる後輩達が可哀想だ。
「だから早くなんとかしてね、サイファー」
スコールが昼食の為に指揮官室から離れている隙を狙って、キスティスはサイファーに言った。
サイファーは判り易く顔を顰め、面倒は御免だと手を振る。
「なんで俺がそんな事」
「恋人、でしょう、貴方。スコールの」
「だからってあいつの世話全部が俺の役目かよ」
「どうせ貴方の言う事位しか聞かないもの」
そう言って、じゃあお願いね、と念押しして、キスティスは自分のデスクに戻る。
俺は良いとは言ってねえ、とサイファーの抗議があったが、気にしなかった。
黙々と書類確認を再開させるキスティスに、サイファーは聞えよがしに舌打ちしてやった。
当然これもキスティスに効果のあるものではなく、虚しい音だけが指揮官室に少しだけ反響して消える。
大して残らない余韻も消えた所で、指揮官室のドアが開き、スコールが戻って来た。
「あら、早かったわね。ちゃんと食事は採ったの?」
「……採った」
それにしては早すぎる、とキスティスもサイファーも思った。
何せスコールが食事をして来ると言って此処を出たのは、今から五分前の事なのだ。
どう考えても、食堂に行って戻った程度の時間としか思えない。
どうせ食堂に設置されている自動販売機で、缶コーヒーでも飲んで済ませた、その程度に違いない。
はあ、とキスティスは溜息を吐いたが、指揮官室からもう一度追い出す事はしなかった。
代わりにちらりとサイファーに視線が寄越されて、早く行きなさい、と言わんばかり。
サイファーがそれを無視するのは難しい事ではなかったが、デスクに戻ったスコールが苦々しい顔で唇を噤んでいるのを見て、腰を上げる。
「おい、スコール」
「……なんだよ」
声をかけただけのサイファーに対し、スコールは露骨な喧嘩腰だった。
今にも噛み付かんばかりの表情に、判り易いな、とサイファーの口端がにんまりと笑う。
「訓練所に行くぞ。紙の相手ばっかりじゃ体が鈍る」
「……一人で行ってろ。俺は忙しい」
「良いから来い」
無視して書類を手に取ろうとするスコールに、サイファーはその手を掴んでデスクから引きずり出した。
おい、と強い語気で抗議するスコールだったが、サイファーは構わずに部屋を出て行く。
キスティスも咎める事はせず、「行ってらっしゃい」と手を振る始末だ。
ずんずんと歩くサイファーに、スコールは引き摺られるように歩く。
引っ張る手から逃げようと、スコールが賢明に腕に力を込めていたが、サイファーは決して離さない。
「おい、サイファー!俺は忙しいんだ」
「あーあー、知ってる。よーく知ってるよ」
「あんたと遊んでる暇はない!」
「判ってる判ってる」
スコールの抗議に適当な返事を投げながら、サイファーはエレベーターのボタンを押した。
程なく上って来た小さな箱にスコールを押し入れ、サイファーも乗り込む。
開閉ボタンを押して、扉が閉まった事を確認すると、サイファーはスコールを壁に押し付けた。
「ほら、静かにしろ。あんまり騒ぐと、反って不自然だぜ」
「……っ!」
ずい、と触れそうな程に顔を近付けるサイファーに、スコールは息を飲んだ。
至近距離で、蒼灰色の瞳が、ゆらゆらと揺れている。
不機嫌を振りまいていた表情は何処へやら、頬を赤らめ、必死で口を噤んでいるスコールに、サイファーの喉がくつりと笑った。
その気配を感じ取って、スコールがじろりと睨むものの、サイファーには何の効果もない。
何もかもを知り、何もかもを理解しているサイファーには。
「お前、本当に判り易いよな」
「な……ん……っ!」
囁きながら、サイファーはスコールの首筋に顔を近付けた。
慌てて逃げようとするスコールの腰を捕まえ、逃げ場を塞いで、首にキスをする。
ひくん、と震えたスコールの体から、甘く香しい匂いがして、サイファーは俄かに体が熱を帯びるのを感じ取った。
「“ヒート”の度に機嫌が悪いフリしやがる。Ωなのを隠してるんだから、もうちょっと自然に出来ねえのか?センセーに気付かれるぞ」
「あ…う……っ、」
スコールはΩ性である事を、周囲に対して隠している。
しかし、どんなに隠そうとしていても、数ヵ月に一度訪れる“ヒート”の症状からは逃げられなかった。
薬を飲めばある程度の抑制が効く、とされてはいるが、αからΩへと転換した影響なのか、スコールは一般的なフェロモン抑制剤が効き難い。
だが“ヒート”を他者に気付かれれば、自分がαではない事が知られてしまう。
だから“ヒート”が始まった時のスコールは、常以上の不機嫌を振りまいて、人を寄せ付けまいとするのだ。
今の所、それは意図通りの効果を見せているのだが、それもいつまで続くか。
「薬、ちゃんと飲んでんのか?朝晩飲めって言われてるだろ」
「…の、…んだ……っ」
「あんまり効かねえ体質ってのは、厄介なもんだな」
スコールの息が徐々に上がり、体が火照って、白い肌が色を帯びて行く。
狭いエレベーターの中で、スコールが醸し出す匂いは一杯に広がり、サイファーの雄としての本能を刺激する。
此処で脱がして貫いて、揺さぶってやりたい衝動に駆られながら、サイファーの理性はまだ早いと言う。
震えるスコールの手が、サイファーの白いコートを握った。
見上げる蒼の瞳に熱が籠り、サイファー、と呼ぶ声が明らかに求めているのが判る。
「サイ、ファー……」
「我慢しろ、バレるだろ。ちょっと暴れりゃ少しは気が紛れる」
今日はまだ部屋に引き籠る訳にはいかない。
だから訓練所に行って、魔物を相手にガンブレードを振るえば、少しはすっきりするだろう。
こういう時、運動をする、と言うのは気を紛らわすには有効なのだ。
「夜まで待ってろ。良い子で我慢できたら、好きなだけ抱いてやる」
耳元で囁いたサイファーの言葉に、、スコールの鼓動が早くなる。
じわじわとした熱が燻っていたのが、一層燃え上がるのを感じて、スコールの膝が震えた。
だが崩れ落ちる訳には行かないと、コートを握る手に力が籠り、辛うじて自分の足を立たせている。
一層匂い立つ甘い香りに、宥め方を間違えたな、とサイファーも気付いた。
それでも言われた通りに自然を装おうと努めるスコールに、健気なものだと、悪い気はしなかった。
本能に抗う振りをして、求めているのは解放の瞬間。
耐えた分だけそれが激しく熱くなる事を、サイファーはよく知っていた。
『サイスコでオメガバースもの』のリクを頂きました。
去年はくっつく前の二人で書いたので、今回は番になってる二人で。
ヒートの度に、自分がΩだと気付かれないように、不機嫌になるスコール。
でもサイファーからすると、スコールがヒートを迎えた合図のようなもの。
夜には大変お楽しみだと思います。ええ。
αサイファー×Ωスコール。
この世には、大きく分けて、男と女が存在する。
それだけではなく、どちらにも属さない者や、どちらとも言えるもの、また曖昧な感覚の者もいるが、それらは外して考えるとしよう。
生物的に明確な線引きをした枠組みとして、男と女、その二つが存在する、と言う事だ。
そして、さらに其処からまた枝分かれする性がある。
α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)────それが男女の性以上に、この世界に置いて、大きな役割を示していた。
凡庸な性質であると言われるβは、この世界の大多数を占めており、多くの生き物はこれに当て嵌められると言って良い。
希少であり珍重されるのはαと呼ばれる性を持つ者で、あらゆる才能に置いて恵まれていると言われている。
実際に有名な会社のトップや重鎮、引く手数多のスーパースター等は、皆α性だと噂されている程、“α”と言う性の影響力は大きい。
そして更に希少とされているのがΩ性であるが、この性の大きな特徴は、男女の性に関わらず、孕む為の機関を持っていると言う事だった。
時代や宗教的背景のある時代には、子孫を増やして行く為に重用された時代もあったと言うΩ性であったが、逆にの性の特徴を理由に、子を産む為だけの存在として扱われた時代もある。
近代史ではそうした負の側面が強く、十七年前に起こっていた大国同士の戦争の時も、ガルバディアではΩ性に対して酷い差別が行われていたと言う。
現在は国際的にもΩ性の人権が認められている───とは言うが、まだまだそれは形だけのもの、とも批判されていた。
故に、Ω性の者は、多くが自身の性を隠して生きている。
スコールも同じだった。
幼年期、バラムガーデンが設立されたばかりの時は、間違いなくα性として診断された彼は、13歳の時に性の転換が起こり、Ω性になった。
こうした事例は数は少ないが確認されていた事であったが、この事をスコールは一部の人間以外には秘密にしている。
知っているのは体の変調を見逃してくれる筈もない保険医のカドワキと、スコール以上にスコールの事に敏感なサイファーの二人だけ……だったのだが、いつの間にか学園長のシドも知っていた。
シドがスコールの転換を知ったのは、カドワキに事情を話して間もなくの事だったと言うが、シドはつい最近まで知らない振りをしていたと言う。
当時のスコール自身が自分の転換を受け入れられていなかった事、思春期の少年少女にとってα性からΩ性への転換は決して軽くはない出来事だという事を、シドは理解していたのだ。
シド自身は二つ目の性に関わらず、少年少女たちに分け隔てなく繋がりを持って欲しいと願っているが、理想を現実にするのは難しい事も判っている。
だからスコールに対しても、周囲に対しても、悪戯な刺激にはならないように、せめてスコール自身が自分のΩ性の事実を受け止められるようになるまでは、素知らぬ振りをしていたらしい。
そして、17歳になった現在のスコールは、相変わらず自分がΩ性だと言う事を隠している。
今だ自分の性を受け入れられない、と言う訳ではなく───完全に受け入れたとも言い難いが───、環境の変化によって、打ち明けられなくなったと言うのが正しい。
魔女戦争での活躍によって、今やスコールは“伝説のSeeD”“魔女戦争の英雄”扱いだ。
世界各国に顔が知られ、名が売れ、まだ未成年ではあるが、公的な場に呼ばれる事も増えた。
其処で“α性である”と周知された事により、いよいよスコールは、自分の性を打ち明ける事が出来なくなったのだ。
今だΩ性について根強い負の意識が強い今、世界的に活躍したと言われる人物が“Ω性”であると知られるのは、公的なバラムガーデンの立場を崩す恐れがあった。
魔女戦争を勝利に導いたと言うスコール、それを擁するバラムガーデンの存在は、スコールやバラムガーデンと言う存在そのものを護る為にも、必要なものだ。
その為には、バラムガーデンが公の場で、自身の立場や権威的な力を保持し続ける必要がある。
今は其処に、一部の隙もあってはならない程に。
秘密は何処から漏れるのか判らない。
知る者が多いほど、その危険性は増す。
だからスコールは、信頼を置いていると仲間達───魔女戦争を共にした幼馴染やリノアも含めて、自身がΩ性であると言う事を隠している。
それでも、魔女戦争を経験する前よりも、スコールの心理的負担は減っていた。
秘密を共にする人物が、絶対にこの事実を他者の前で口にする事はないと信用している。
そしてその人物が、自分にとって唯一無二の“番”であると知っているから。
スコールが不機嫌な顔で過ごしているのはいつもの事だ。
補佐官を務めるキスティスやシュウ、更生期間中でありながら副指揮官と言う立場を任されたサイファーにとっても、見慣れたものであった。
報告書を提出しに来るSeeD達も、滲み出るオーラに気後れはすれども、眉間の皺そのものは特に珍しいものでもない。
大人しく出すものを出し、早々に立ち去れば、特に何事もなく無事に終わるものだ。
元々表情豊かではないスコールだが、不機嫌な顔には幾つかの種類がある事が確認されている。
先ずは眉間に皺一本と、真一文字に口を噤み、少し冷たい印象のあるもの。
これは初見の者こそ機嫌が悪いのかと慄くが、実際にはスコールの標準的な表情であり、眉間の皺は放って置くと勝手に寄せられる癖のようなものだ。
そして次によく見られるのが、眉間に皺を寄せつつ、目を僅かに窄め、眼前にあるものを睨んでいるような表情。
これは標準よりも少し機嫌が悪くなっている時のものだが、大体は書類仕事に飽きているのだったり、面倒ではあるが捌くには然して問題のない案件を見ている時のものである。
それから、眉間に皺が三本寄せられ、明らかに不穏なオーラを振りまいている時の表情。
これは明らかに不機嫌になっている時で、更に眉間の皺が深まって来ると、怒りすら抱いている時になる。
今のスコールは、三番目の顔をしている。
撒き散らされる怒りのオーラに、SeeD達はすっかり萎縮し、出すものを出したら逃げるように部屋を出て行く。
ちょっと可哀想ね、とキスティスは思うのだが、此処まで不機嫌が撒き散らされていると、キスティスも容易には注意できなかった。
下手に苦言を呈すると、スコールは益々機嫌を損ねた顔をする。
キスティス自身はそれに幾ら充てられようと大して気にしないのだが、巻き込まれる後輩達が可哀想だ。
「だから早くなんとかしてね、サイファー」
スコールが昼食の為に指揮官室から離れている隙を狙って、キスティスはサイファーに言った。
サイファーは判り易く顔を顰め、面倒は御免だと手を振る。
「なんで俺がそんな事」
「恋人、でしょう、貴方。スコールの」
「だからってあいつの世話全部が俺の役目かよ」
「どうせ貴方の言う事位しか聞かないもの」
そう言って、じゃあお願いね、と念押しして、キスティスは自分のデスクに戻る。
俺は良いとは言ってねえ、とサイファーの抗議があったが、気にしなかった。
黙々と書類確認を再開させるキスティスに、サイファーは聞えよがしに舌打ちしてやった。
当然これもキスティスに効果のあるものではなく、虚しい音だけが指揮官室に少しだけ反響して消える。
大して残らない余韻も消えた所で、指揮官室のドアが開き、スコールが戻って来た。
「あら、早かったわね。ちゃんと食事は採ったの?」
「……採った」
それにしては早すぎる、とキスティスもサイファーも思った。
何せスコールが食事をして来ると言って此処を出たのは、今から五分前の事なのだ。
どう考えても、食堂に行って戻った程度の時間としか思えない。
どうせ食堂に設置されている自動販売機で、缶コーヒーでも飲んで済ませた、その程度に違いない。
はあ、とキスティスは溜息を吐いたが、指揮官室からもう一度追い出す事はしなかった。
代わりにちらりとサイファーに視線が寄越されて、早く行きなさい、と言わんばかり。
サイファーがそれを無視するのは難しい事ではなかったが、デスクに戻ったスコールが苦々しい顔で唇を噤んでいるのを見て、腰を上げる。
「おい、スコール」
「……なんだよ」
声をかけただけのサイファーに対し、スコールは露骨な喧嘩腰だった。
今にも噛み付かんばかりの表情に、判り易いな、とサイファーの口端がにんまりと笑う。
「訓練所に行くぞ。紙の相手ばっかりじゃ体が鈍る」
「……一人で行ってろ。俺は忙しい」
「良いから来い」
無視して書類を手に取ろうとするスコールに、サイファーはその手を掴んでデスクから引きずり出した。
おい、と強い語気で抗議するスコールだったが、サイファーは構わずに部屋を出て行く。
キスティスも咎める事はせず、「行ってらっしゃい」と手を振る始末だ。
ずんずんと歩くサイファーに、スコールは引き摺られるように歩く。
引っ張る手から逃げようと、スコールが賢明に腕に力を込めていたが、サイファーは決して離さない。
「おい、サイファー!俺は忙しいんだ」
「あーあー、知ってる。よーく知ってるよ」
「あんたと遊んでる暇はない!」
「判ってる判ってる」
スコールの抗議に適当な返事を投げながら、サイファーはエレベーターのボタンを押した。
程なく上って来た小さな箱にスコールを押し入れ、サイファーも乗り込む。
開閉ボタンを押して、扉が閉まった事を確認すると、サイファーはスコールを壁に押し付けた。
「ほら、静かにしろ。あんまり騒ぐと、反って不自然だぜ」
「……っ!」
ずい、と触れそうな程に顔を近付けるサイファーに、スコールは息を飲んだ。
至近距離で、蒼灰色の瞳が、ゆらゆらと揺れている。
不機嫌を振りまいていた表情は何処へやら、頬を赤らめ、必死で口を噤んでいるスコールに、サイファーの喉がくつりと笑った。
その気配を感じ取って、スコールがじろりと睨むものの、サイファーには何の効果もない。
何もかもを知り、何もかもを理解しているサイファーには。
「お前、本当に判り易いよな」
「な……ん……っ!」
囁きながら、サイファーはスコールの首筋に顔を近付けた。
慌てて逃げようとするスコールの腰を捕まえ、逃げ場を塞いで、首にキスをする。
ひくん、と震えたスコールの体から、甘く香しい匂いがして、サイファーは俄かに体が熱を帯びるのを感じ取った。
「“ヒート”の度に機嫌が悪いフリしやがる。Ωなのを隠してるんだから、もうちょっと自然に出来ねえのか?センセーに気付かれるぞ」
「あ…う……っ、」
スコールはΩ性である事を、周囲に対して隠している。
しかし、どんなに隠そうとしていても、数ヵ月に一度訪れる“ヒート”の症状からは逃げられなかった。
薬を飲めばある程度の抑制が効く、とされてはいるが、αからΩへと転換した影響なのか、スコールは一般的なフェロモン抑制剤が効き難い。
だが“ヒート”を他者に気付かれれば、自分がαではない事が知られてしまう。
だから“ヒート”が始まった時のスコールは、常以上の不機嫌を振りまいて、人を寄せ付けまいとするのだ。
今の所、それは意図通りの効果を見せているのだが、それもいつまで続くか。
「薬、ちゃんと飲んでんのか?朝晩飲めって言われてるだろ」
「…の、…んだ……っ」
「あんまり効かねえ体質ってのは、厄介なもんだな」
スコールの息が徐々に上がり、体が火照って、白い肌が色を帯びて行く。
狭いエレベーターの中で、スコールが醸し出す匂いは一杯に広がり、サイファーの雄としての本能を刺激する。
此処で脱がして貫いて、揺さぶってやりたい衝動に駆られながら、サイファーの理性はまだ早いと言う。
震えるスコールの手が、サイファーの白いコートを握った。
見上げる蒼の瞳に熱が籠り、サイファー、と呼ぶ声が明らかに求めているのが判る。
「サイ、ファー……」
「我慢しろ、バレるだろ。ちょっと暴れりゃ少しは気が紛れる」
今日はまだ部屋に引き籠る訳にはいかない。
だから訓練所に行って、魔物を相手にガンブレードを振るえば、少しはすっきりするだろう。
こういう時、運動をする、と言うのは気を紛らわすには有効なのだ。
「夜まで待ってろ。良い子で我慢できたら、好きなだけ抱いてやる」
耳元で囁いたサイファーの言葉に、、スコールの鼓動が早くなる。
じわじわとした熱が燻っていたのが、一層燃え上がるのを感じて、スコールの膝が震えた。
だが崩れ落ちる訳には行かないと、コートを握る手に力が籠り、辛うじて自分の足を立たせている。
一層匂い立つ甘い香りに、宥め方を間違えたな、とサイファーも気付いた。
それでも言われた通りに自然を装おうと努めるスコールに、健気なものだと、悪い気はしなかった。
本能に抗う振りをして、求めているのは解放の瞬間。
耐えた分だけそれが激しく熱くなる事を、サイファーはよく知っていた。
『サイスコでオメガバースもの』のリクを頂きました。
去年はくっつく前の二人で書いたので、今回は番になってる二人で。
ヒートの度に、自分がΩだと気付かれないように、不機嫌になるスコール。
でもサイファーからすると、スコールがヒートを迎えた合図のようなもの。
夜には大変お楽しみだと思います。ええ。